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北海道稲作地帯における地域農業の異質化と農協の販売事業方式

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 山 内 哲 人

学 位 論 文 題 名

     北 海 道 稲 作 地 帯 に お け る 地域農業の異質化と農協の販売事業方式

一「食管事業方式」からの転換―

学位論文内容の要旨

  近年、北海道の稲作農業は新食糧法施行以降の米価下落のもとで、構造転換が必然化し ている。そうした中で、地域農業においては農家の高齢化や担い手不足が進行するととも に、稲作部門を省力化しつつ野菜や花卉を導入して所得確保を図るという複合化路線がみ られる。他方で、一部では土地集積による大規模農家も出現し、生産資材の購入や農産物 の販売において農協を利用しない「農協離れ」が進んでいる。こうした地域農業の担い手 である農家の変化により、そこに存立するする農協に関しても従来の「食管事業方式」か らの転換が求められている。

  そこで本論文では、地域農業における担い手の高齢化と複合化、ならびに「農協離れ」

という動きを「地域農業の異質化」と定義し、この異質化に対応した先進的な農協を事例 として、地域農業振興とそれをもとにした経済事業の収益化の視点から今後の稲作地帯に お け る 農 協 の 事 業 方 式 の あ り 方 を 解 明 す る こ と を 課 題 と し て い る 。   第1章と 第2章では、 事例分析 の前提として北海道稲作地帯における農協の事業・経営 的特質、ならびに稲作地帯内部の地域問格差を背景とした販売対応の相違を明らかにして しヽる。

  第1章では、北海道稲作地帯における農協の特質を都府県や北海道内の経営形態の異な る地帯との比較から検討している。1970年代においては農協の収益が信用事業に依存する という全国的傾向を示すとともに、販売事業が黒字であるという北海道的特徴が明らかに されている。1980年代においては、信用事業における預金依存が一層強化されるが、減反 政策の定着・強化により、地域農業振興とそれにともなう販売事業の強化があらわれるこ とを示している。しかし、1990年代においては信用事業における預金依存の事業構造が経 営悪化の要因となっており、販売事業が自主流通米や新食糧法ぺの対応のなかでさらに重 要視されてきている。この結果、地域農業振興による経済事業の強化が農協経営にとって も焦眉の課題となっていることを示している。

       I

  第2章では、北海道稲作地帯は水稲単作化の歴史的条件から地帯内部に大きな地域的特 性を有しており、それが転作対応にも影響を与えていることを明らかにしている。こうし た格差は農協の販売対応にも影響を及ぼし、1970年代末から地域農業の複合化を進展させ ていた上川中部では農協の販売事業が強化され野菜の取扱高が高く、北空知ではやや遅れ て1980年代に複合経営化の動きを示している。これに対して南空知では小麦転作を中心と した土地利用であり、複合化対応は1990年代にまで持ち越されることを明らかにしている。

ここから、地域農業の複合化がより早期であった上川中部と北空知の中から東川町農協、

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東 神 楽 農 協 、 妹 背 牛 町 農 協 を 事 例 と し て 選 定 し 、 そ の 位 置 づ け を 行 っ て い る 。   第3章から 第5章 では、 地域農業 の異質化に対応した農協の「食管事業方式」に代わる 新しい事業方式を事例的に提示している。

  第3章では 東川町農協を事例とし、米の「買取集荷」と野菜の「直販十市場買付」方式 に注目し、良質米・野菜複合産地における農協の販売事業方式を明らかにしている。特に 米の「買取集荷」は大規模農家による「農協離れ」を抑止するとともに、販売事業の収益 に大きく貢献していることを指摘している。野菜部門においては担い手が脆弱化している ため、稲作部門の収益を財源として積極的に野菜振興に取り組んでいることを示し、地域 農 業 振 興 を 複 合 産 地 化 と し て 捉 え る 販 売 事 業 方 式 と し て 評 価 し て い る 。   第4章では 、独自の販路開拓や加工事業の導入により野菜生産を振興し、良質米・野菜 複合産地を形成している東神楽農協を事例として、野菜産地確立に至るまでの販売事業の 取り組みが果たしてきた役割を検証している。また、販売事業の収益構造の考察により、

複合産地形成への努カが農協経営面においても重要な意味をもっていることを明らかにし ている。特に加工事業の収益性が高く、原料農産物を市場価格よりも高く買取集荷し、利 益 の 一 部 を 農 家 ヘ 還 元 す る あ り 方 を 新た な 販 売事 業 方 式の 中 に 位置 づ け てい る 。   第5章では 、良質米・花卉複合産地を形成している妹背牛町農協を事例として、地域の 基幹作物であり農協の販売取扱高の大部分を占める米の安定的な販売や、小規模農家を担 い手とした花卉生産の振興に対する販売事業の取り組みを検証している。妹背牛町農協に おける販売事業方式は、米の産地指定の取り付けや花卉の広域連利用などに特徴があり、

米の販売収益により花卉部門の赤字を補填し、地域農業を良質米・花卉複合産地へと転換 させてきた。また、花卉生産の導入にともなう生産資材利用の増加が購買事業への波及効 果をもたらすなど、営農部門の拡大が農協経営に大きく寄与している。経済連利用による りスク回避と広域農協連利用によるコスト削減という連合会の補完機能を生かした販売事 業方式を評価している。

  終章では、以上の実態分析の中から、今後の農協の「食管事業方式」からの転換のため の条件を明らかにしている。

  第1の条件 は、まさに「食管事業方式」からの転換のための販売事業のあり方であり、

米の市場流通化への対応として、良質米生産を背景とした自主ブランド形成と独自の販売 ルートを開拓することである。政府代行機関として単なる米の集荷業務を行うのではなく、

より有利な販売先・販売方法を独自の戦略に基づいて選択することが、米の販売収益の増 大や安定化を通じて農協経営の安定に貢献することとなる。

  第2の条件 は、多様な担い手を内包した地域農業全体を事業範囲として捉え、良質米複 合産地として地域農業を振興する役割を果たすことである。具体的には、地域農業の異質 化による大規模農家を中心とした「農協離れ」に対しては、有機栽培米などを自主ブラン ドとして農協の販売事業に組み込むことである。これにより農協管内で生産された米の流 通をコン卜ロールして安定的な米の集荷・販売が実現される。また、高齢化と複合化の動 きに対しては、農協販売事業としては赤字部門である複合部門を米の収益を財源として積 極的に振興することである。これは、複合部門が高齢・小規模農家の所得確保として重要 な位置づけをもっているためであり、担い手の育成により地域農業の衰退に歯止めをかけ ることが期待できる。

  第3の条件 は、信用事業収益の低下による農協経営の悪化に対し、販売事業の強化が一 定の収益を生み、農産物価格が下落するなかで農協経営の悪化を最低限に抑えることであ る。同時に、購買事業における生産資材利用を評価するとともに、信用事業においては営 農資金の金利を低く設定し、農家負担の軽減や農業生産を振興することにより、信用事業

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協事業の中に取り込み、農協が独自の戦略に基づぃて、異質化した地域農業との共存を目 指すと同時に、販売事業を農協事業の軸に据えることである。さらに、複合産地の維持・

形成にあたっては、連合会の補完機能を積極的に利用することの有効性を示唆するものと なっている。

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学位 論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 教授 助教授

太田原 黒河 三島 坂下

学 位 論 文 題 名

高昭     功 徳三 明彦

     北 海 道 稲 作 地 帯 に お け る 地 域農業 の異質化 と農協 の販売事業方式      ー 「 食 管 事 業 方 式 」 か ら の転 換 一

  本 論 文 は 、 序 章 、 終 章 を 合 わ せ7章 か ら な る 総 頁 数129ぺ ー ジ の 和 文 論 文 で あ る 。図 20、 表56、 和 文64の 引 用 ・ 参 考 文 献 を 含 み 、 他 に 参 考 論 文6編 が 添 え ら れ て い る 。   近 年 、 北 海道 の 稲 作農 業 は 新食 糧 法 施行 以 降 の米 価 下 落の もとで 、構造転 換を必 然化さ せ てい る 。 そ うし た 中 で、 地 域 農業 に お いて は 農 家の 高 齢 化や担 い手不足 が進行 するとと も に、 稲 作 部 門を 省 力 化し つ つ 野菜 や 花 卉を 導 入 して 所 得 確保を 図るとい う複合 経営化路 線 がみ ら れ る 。他 方 で 、土 地 集 積に よ る 大規 模 農 家も 出 現 し、生 産資材の 購入や 農産物の 販 売に お い て 農協 を 利 用し な ぃ 「農 協 離 れ」 が 進 んで い る 。こう した地域 農業の 担い手で あ る農 家 の 変 化に よ り 、そ こ に 存立 す る する 農 協 に関 し て も従来 の「食管 事業方 式」から の 転換 が 求 め られ て い る。

  そ こ で 本 論文 で は 、地 域 農 業に お け る高 齢 化 と複 合 経 営化 、なら びに「農 協離れ 」とい う 動き を 「 地 域農 業 の 異質 化 」 と定 義 し 、こ の 異 質化 に 対 応した 先進的な 農協を 事例とし て 、地 域 農 業 振興 と そ れを 基 に した 経 済 事業 の 収 益化 の 視 点から 今後の稲 作地帯 における 農 協の 事 業 方 式の あ り 方を 解 明 する こ と を課 題 と して い る 。

  第1章 と 第2章 で は 、 事 例 分 析の 前 提 とし て 北 海道 稲 作 地 帯に お け る農 協 の 事業 ・ 経 営 的 特質 、 な ら びに 稲 作 地帯 内 部 の地 域 間 格差 を 背 景と し た 販売対 応の相違 を明ら かにして い る。

  第1章 で は、 北 海 道稲 作 地 帯に お け る農 協 の 事業 展 開 の特 質 を 都 府県 や 北 海道 内 の 経営

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なしてきた信用事業収益が悪化し、経済事業の強化が農協経営にとって重要な課題となっ ていることを示している。

  第2章では、北海道の稲作はその展開過程の相違により地域差を有しており、中核地帯 である石狩川流域においては、上流部の上川中部が最も早期に地域農業の複合化を進めて きたことを明かにし、事例の選定を行っている。

  第3章から第5章では、 地域農業 の異質化に対応した農協の「食管事業方式」に代わる 新しい事業方式を事例的に提示している。

  第3章では東川町農協を対象に、米・野菜複合産地における農協の販売事業方式を明ら かにしている。特に米の「買取集荷」は大規模農家による「農協離れ」を抑止するととも に、販売事業の収益に大きく貢献していることを示している。担い手の脆弱な野菜部門に おいては、稲作部門の収益を財源として積極的な振興を図っていることを示し、地域農業 振 興 を 複 合 産 地 化 と し て 捉 え る 販 売 事 業 方 式 と し て 評 価 し て い る 。   第4章では、独自の販路開拓や加工事業の導入により野菜生産を振興し、良質米・野菜 複合産地を形成している東神楽農協を事例とし、販売事業の果たす役割を検証している。

また、販売事業の収益構造の考察により、複合産地形成への努カが農協経営面にも貢献し ていることを示している。

  第5章では、米・花卉複合産地を形成している妹背牛町農協を対象に、地域の基幹作物 である米の販売や小規模農家を担い手とした花卉振興に対する取り組みを検証している。

その特徴は米の産地指定の取り付けや花卉の広域連利用などにあり、米の販売収益により 花卉部門の赤字を補填し、地域農業を米・花卉複合産地へと転換させてきた過程を明らか にしている。

  終章では、以上の実態分析の中から、今後の農協の「食管事業方式」からの転換のため の 条件を明らかにしている。第1は、積極的な販路の開拓であり、より有利な販売先・販 売方法を独自の戦略に基づぃて選択することが、米の販売収益の増大や安定化を通じて農 協 経営の安定に貢献するとしている。第2は、多様な担い手を内包した地域農業全体を事 業範囲として捉えることであり、良質米複合産地としての振興を図る意義を示している。

第3には、信用事業収益の低下による農協経営の悪化を販売事業方式の転換により打開す ることであり、さらに、連合会の補完機能を積極的に利用することの有効性も示している。

  以上、本論文は農協経営が悪化している現段階において、農協事業のあり方を地域農業 振興をべースとした経済事業の収益化という視点から明らかにし、今後の農協の事業方式 の方向性を提示した実証的研究であると評価することができる。よって審査員一同は、山 内 哲 人 が 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 認 め た 。

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