博 士 ( 生 命 科 学 ) 橋 口 太 志
Chondroitin sulfate from porcine fetal membranes, which exhibits neurite outgrowth promoting activity, and novel chondroitin sulfotransferase activity of the HNK‑1 0ligosaccharide‑synthesizing sulfotransferase
(ブ夕胎膜由来の神経突起伸長促進活性を有するコンドロイチン硫酸および HNK ―1 オリゴ糖 鎖合成酵素 の新規コン ドロイチン 硫酸基転移 酵素活性)
学 位論文 内容の要旨
プ ロテ オグ リカ ン(PG)は 、コ アタ ンパ ク質 にグ リコ サ ミノグリカン(GAG)と呼ぱれる直 鎖 状の 多糖 鎖が 共有 結合 した 生体 高分 子で あり 、細 胞表 面 や細胞外マトリ ックス(ECM)に普 遍 的に 存在 して いる 。GAGの 一 種で ある コン ドロ イチ ン硫 酸/ デルマタン硫酸(CS/DS)鎖は D− グ ル ク ロ ン 酸(GlcA)ま た はL― イ ズ ロ ン 酸(IdoA)と 〃 − ア セ チ ル‑D‑ガ ラ ク ト サ ミン (GalNAc)の 二糖 単位 の繰 り返 し構 造か ら構 成さ れて いる 。CS/DS鎖はコアタンパク質上の特 定のセリン残基に、糖|タン パク質結合領域と呼ばれる四糖構造GlcA‑Gal‑Gal‑Xyl (GalとXyl は それ ぞれガラクト ースとキシロースを表す)に続いて合成される。CS/DS鎖の二糖繰返し領 域 の 糖 鎖 骨 格 は 、 結 合 領 域 のGlcAにGaINAcが 転 移 き れ 、そ の後 一群 のCS合成 酵素 に より GlcAお よびGalNAcが 交互 に転 移、 重合 され るこ とで 形成 さ れる 。そ して 、様 々な 硫酸 基転 移 酵 素 やGlcAをIdoAに 異 性 化す るエ ピメ ラー ゼに より 修 飾さ れ、CS/DSは 多様 な構 造 をと る。硫酸基転移酵素は、3 ‑phosphoadenosine5 ーphosphosulfate (PAPS)を硫酸基供与体として、
C S/DS鎖 の ウ ロ ン 酸 の2位 やGalNAcの4位 ま た は6位 に 硫 酸 基 を 転 移 す る 。 硫 酸 化 修 飾は 不 均一 に生 じる ため 、CS/DS鎖 は多 様栓 二糖 単位 を生 成す る。 これらの二糖単位の組み合わ せ に よ り 複 雑 な 硫 酸 化 配 列 パ タ ー ン か ら 成 る 機 能 ド メ イン が形 成さ れ、 それ らを 介 して C S/DS鎖 は 様 々 橙 シ グ ナ ル 分 子 と 相 互 作 用 し 、 対 応 す る 生 理 活 性 を 発 揮 す る 。 組織 再生 は、 分化 能を もっ た細 胞、 その 細胞 の適 切な 足 場となるECM、および細胞増殖因 子 の 三 つ の 組 み 合 せ に よ り 可 能 に な る 。PGはECMの 構 築 に 関 与 す る 分 子 で あ り 、GAGは 極 めて 多く の増 殖因 子と 相互 作用 する こと が報 告さ れて い る。 この よう にPGは、 組織 再生 の 三要 素の うち のニ っと 密接 に関 係し てい るた め、PGの 組 織再 生へ の応 用が 注目 され てい る 。組 織再 生に おけ る細 胞の 足場 とし て現 在用 いら れて い るものの1っとして、羊膜が挙げ ら れる 。羊 膜は 絨毛 膜、 脱落 膜と ともに胎膜を 形成している膜であり、組織再生医療におい て は 角 膜 、 鼓 膜 、 皮 膚 な ど の再 生に 応用 され てい る。 ま た、 ヒト 羊膜ECM成分 がヒ ト 胚性 幹 細 胞 を 神 経 前 駆 細 胞 な ど に誘 導す る活 性が 証明 され て いる 。し かし 、羊 膜ECM中 の どの 成 分 が こ の 活 性 を 発 揮 し て い る の か は 未 解 明 で あ る 。 羊膜 のECM成分 の主 要な もの の1つ と し てPGが あ り 、 そ のCS/DS側鎖 が上 述し た角 膜再 生や 神経 前駆 細胞 の分 化誘 導活 性 に関 与 して いる 可能 性が ある 。そ こで 、羊膜を含む ブタ胎膜のC S/DS鎖の構造と各種増殖因子と
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の 相 互 作 用 を 調 べ た 。 さ ら に 、 胎 膜 のCS/DS鎖 の 神 経 突 起 伸 長 促 進 活 性 を 測 定 し た 。 ま ず、 ブタ 胎 膜か ら定 法に従いCS/DS鎖(FM‑CS/DS)を抽出・精製し、二糖組成を分析した。
FM‑CS/DSは、GlcA‑GalNAc、GlcAーGalNAc(4―〇―sulfate)、GlcA―GalNAc(6ーO‑sulfate)の二二糖単 位を 主成 分と し てお り、 高硫 酸化 二糖 単位 も微 量で はあるが含んでいた。また、イズロン酸 を含 む二 糖単 位 であ るIdoA‑GaINAc(4‑O‑sulfate)単 位が連続した糖鎖配列が存在しているこ と が 明 ら か に なっ た。FM‑CS/DS鎖 を固 定し た基 質上 でマ ウス 胎仔 由来 の海 馬細 胞を 培 養し たと ころ 、神 経 突起 の伸 長が 促進 され 、FMーCS/DS鎖 が神 経突 起伸 長促 進活 性を有すること を初 めて 明ら か にし た。 また 、神 経細 胞の 突起 伸長 を促進させる可能性のある複数の増殖因 子に 対す る抗 体 を、 神経 細胞 培養 系に 添加 した とこ ろ、神経突起伸長促進活性は抗ミッドカ イン 抗体 によ っ て阻 害さ れた 。さ らに 、分 子間 相互 作用解析装置を用いて複数の増殖因子と FM‑CS/DS鎖 と の直 接の 相互 作 用を 解析 した とこ ろ、 ミッ ドカ イン と高 い親 和性 を示 し た。
こ の 相 互 作 用 は、CS/DS鎖中 のイ ズロ ン酸 部分 のみ を分 解 する コン ドロ イチ ナー ゼBに よる 消化 で消 失し 、 結合 には イズ ロン 酸を 含む 二糖 単位 の連続した糖鎖配列が必須であると予想 さ れ た 。 今 後 、 神 経 を は じ め と す る 再 生 医 療 へ のFM‑CS/DS鎖 の 応 用 が 期 待 さ れ る 。 神 経 突 起 伸 長 促 進 活 性 は 多 硫 酸 化CSに もみ られ 、そ の1っ にカ ブト ガニ 軟骨 由来 のCS‑K がある。CS‑Kは、GlcA(3ーO‑sulfate) ‑ GalNAc(4‑O‑sulfate)二糖構造を豊富に含んでいるが、GlcA の3位 に硫 酸基 を転 移し 、生物活性を賦与する酵 素は未報告である。我カはその候補として、
HNK‑1 (human natural killer‑l)糖 鎖の 形 成に 関わる硫酸基転移酵素、HNK‑1STを考えた。
HNK‑1糖 鎖 は 主 に 神 経 系 で 特 徴 的 に 発 現 す る糖 鎖で ある 。糖 タン パク 質や 糖脂 質上 のN‑ア セチルラクトサミン構造(Gal‑GlcNAc(〃‐アセチルグルコサミン))の非還元末端のGal残基に GlcAが転移された後、HNK‑1STによってGlcAの3位に硫酸基が転移され
(GlcA(3―〇−sulfate)ーGal‑GlcNAc)、HNK‑1糖鎖が合成される 。HNK‑1糖鎖の生合成に必須 の GlcA転 移 酵 素 は ほ ば 脳 特 異 的 に 発 現 し て おり 、HNK‑1糖 鎖の 発現 とよ く対 応し てい る 。こ れ に 対 し て 、HNK―1STはHNK‑1糖 鎖 の 分 布 と相 関せ ず広 汎に 発現 して おり 、脳 以外 の 臓器 で の 機 能 は 明 ら か に な っ て い な い 。 前 述 し た よ う にCSも 普 遍 的 に 存 在す る分 子で あ り、
HNK‑1STがCSの 硫 酸 基 転 移 酵 素 群 と 相 同 性 を有 して いる こと を考 え合 わせ ると 、HNK―1ST がCSに も 硫 酸 基 を 転 移 す る 可 能 性 が あ る 。 そ こ で 、 リ コ ン ビ ナ ン ト のHNK‑1STがCSに 硫 酸基 を転 移す る かを 検討 した 。[35S]PAPSを 硫酸 基供 与体 、硫 酸化 構造 の異 なる様々なCSバ リ ア ン ト を 硫 酸基 受容 体と し て酵 素反 応を 行っ たと ころ 、硫 酸化 され てい ないCSバ リ アン トで ある コン ド ロイ チン にの み硫 酸基 を転 移し た。 次に、コンドロイチンのどの部位に硫酸 基 を 転 移 し て いる かを 解明 す るた めに 、酵 素反 応生 成物 の構 造を 陰イ オン 交換HPLCと 質量 分 析 で 解 析 し た 。 そ の 結 果 、 非 還 元 末 端 のGlcAの3位に 硫酸 基を 転移 する こと が明 ら かに な っ た 。CSの 生 合 成 酵 素 は 基 質 のGlcAの3位 が 硫 酸 化 さ れ て い る とGalNAc残 基 を 転 移 で き な い こ と が 証 明 さ れ て い る の で 、HNK‑1STは 、CS鎖の 伸長 反応 の停 止の シグ ナル と なる 3‑0― 硫 酸 基 を 転 移 す る こ と に よ っ て 、CS鎖 の 長 さ を 制 御 し て い る の か も し れ な い 。 HNK‑1ST反 応 産物 と類 似し た構 造を もつ 生体 成分 とし て 、尿 中に 分泌 され てい るaー トロ ンボモジュリン(a‑TM)上のオリゴ糖 鎖(GlcA(3―O‑sulfate)−Gal・Gal‑Xly)が知られている。TM に は 、CSが 共 有 結 合 し て い るPG型 のl3‑TMと 、CSを 結 合 し て い な い 非PG型 のa‑TMの2 種 の 分 子 型 が 存 在 し 、 パ ー ト タ イ ムPGの1つで ある 。し かし 、a‑TMの オリ ゴ糖 側鎖 の 硫酸 化を 担う 硫酸 基 転移 酵素 は同 定さ れて いな い。 そこ で、 CS/DS鎖とコアタンパク質の結合領 域の 四糖(GlcA―Gal‑Gal・Xyl)を硫酸基受容体として、HNK‑1STによる酵素反応を行ったとこ ろ 、 硫 酸 の 取 り 込 み が 見 ら れ た 。 し た が っ て 、a‑TMのGlcA残 基 の 硫 酸 化 はHNK‑1STに よ っ て 触 媒 さ れ てい ると 考え ら れる 。TMのCS鎖の 形成 過程 にお いて 、非 還元 末端 に存 在 する GlcAの3位 が 硫 酸 化 さ れ る と 、GalNAc転 移 酵 素 に よ るCS鎖 の 伸 長 反 応 が 阻 害 さ れ 、CS鎖
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が 付 加 し て い な い 非PG型 のa‑TMと な る と 予 想 さ れ る 。 し た が っ て 、HNK‑1STに よ る GlcA(3ー 〇 ーsulfate)構 造 の 形 成 が 、TMをPG型 のp‑TMに する か非PG型 のa‑TMに する かを 仕分ける鍵になっているかもしれない。
こ れま でに 、GlcA(3‑0―sulfate)構造を含むCSは、脊椎動物において報告がなぃ 。通常CS の 二 糖 組 成 を 分 析 す る際 には 、CS分解 酵素 であ るコ ンド ロイ チナ ーゼABCを 用い て多 糖鎖 を 二 糖 単 位 に ま で 分 解 す る 。 し か し 、 最 近 、 コ ン ド ロ イ チ ナ ー ゼABCで の 消化 によ って GlcA(3―O‑sulfate)‑GalNAc二糖構造がGaINAc単糖へと分解、変換されることが報告 された。
この ため、これまでに脊椎動物においてGlcA(3‑O‑sulfate)構造を含むCSの報告がな かったの は、 コン ドロ イチ ナー ゼABCでの消化によりGlcA(3‑O‑sulfate)構造が喪失されたた めである 可能性がある。今後、脊椎動物の生体内で、HNK‑1STがfれvivoでもGlcA(3ー〇―sulfate)構造を 含むCSを合成しうるのか、また実際に脊椎動物の組織に おいてGlcA(3‑O‑sulfate)構 造を含む CSが存在するのかを明らかにする必要がある。
学位論 文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 准教授
菅原 幸田 小布施 山田
一 ヨ畠 敏明 力史 修平
Chondroitin sulfate from porcine fetal membranes, which exhibits neurite outgrowth promoting activity, and novel chondroitin sulfotransferase activity of the HNK‑1 0ligosaccharide‑synthesizing sulfotransferase
( ブ 夕 胎 膜 由 来 の 神 経 突 起 伸 長 促 進 活 性 を 有 す る コ ン ド ロ イ チ ン 硫 酸 お よ び HNKー1オ リ ゴ 糖 鎖 合 成 酵 素 の 新 規 コ ン ド ロ イ チ ン 硫 酸 基 転 移 酵 素 活 性 )
グリ コ サ ミノグ リカン(GAG)は、 芯タンパ ク質に結 合した プロテオ グリカ ンの形で 動物 細胞 の 表 面や 細胞 外マト リックス に普遍 的に存在 する直鎖 状の多 糖鎖であ る。近 年、GAG鎖 が様々な 生理機 能の発現 に関与 するため に注目さ れ、盛んに研究されている。本論文は、GAG 鎖のうち 、特に コンドロ イチン硫酸/デルマタン硫酸(CS/DS)に着目し、その構造と機能の相 関を明らかにすることを目的として行われたものである。
本 論 文第 二 章では 、羊膜 を含むブ タ胎膜 からCS/DS鎖を抽 出・精製 し、そ の構造と 機能の 相 関 の 研 究 結 果 を 報 告 し た 。 羊 膜 を 含 む ブ タ 胎 膜 に 存 在 す るC S/DS鎖 が 連 続 し た IdoA‑GalNAc(4‑O‑sulfate)(IdoAとGalNAcはそれぞれイズロン酸とJ乢アセチ′レガラクトサミ ンを表す )を含 む糖鎖配 列を介してミッドカインと相互作用し、海馬神経細胞の神経突起を伸 長させる ことを 明らかに した。 審査員か らの主要 な質問 として、 これま でに報告されている 他の 臓 器 由来 のCS/DS鎖の 構 造 と 比べ て プタ胎膜 に存在 するCS/DS鎖 の構造 上の特徴 を問 うも の が あっ た 。 これ に 対 し発 表 者 は 、他の 臓器ではCS鎖およ びDS鎖がそ れぞれ 単独の形 で存在し ている 場合が多 いのに 対して、 ブタ胎膜 ではCS/DS鎖のハ イブリッ ド鎖の形で存在 して い る こと 、 さ らに ブ タ 胎膜 のCS/DS鎖中にIdoAを 含む二 糖構造が 密集し て存在い るこ とを特徴として回答した。
本 論 文第 三 章では 、HNKー1硫 酸基転 移酵素が 、コンド ロイチ ンおよびGAG− 芯タンパ ク質 結合領域の四糖構造(グルクロン酸‐ガラクトース‐ガラクトース‐キシロース)の、各グルクロ ン酸 の3位に 硫 酸基を 転移する 酵素であ ること を明らか にした という内 容であ った。審 査員 から の 主 要な 質問 として 、HNKー1硫酸 基転移 酵素のコ ンドロ イチンお よびGAG_芯タ ンパク 質結 合 領 域の 四 糖 構造 に 対 する 活 性 とHNK_1糖鎖 前駆構 造に対す る活性と の比較 を問うも のがあっ た。こ れに対し 発表者 は、HNK−1硫 酸基転 移酵素の 活性は 、従来考 えられてきた基
質であるHNK‑1糖鎖前駆体構造よりもGAGー芯タンパク質結合領域の四糖構造に対する方が より高いことを回答した。
この論文は、羊膜を含むブタ胎膜のCS/DS鎖の構造と機能を明らかにし、HNK‑1硫酸基 転移酵素がコンドロイチンとGAG‑芯タンパク質結合領域の四糖にも作用することを新たに 発見した。よって審査員一同は、これらの成果を高く評価し、申請者が博士(生命科学)の学 位を授与されるのに十分な資格を有すると判定した。
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