博 士 ( 農 学 ) 松 沢 幸 一
学 位 論 文 題 名
ビ ー ル の 泡 と 清 澄 安 定 性 改 善 に 関 す る 研 究
― 新 し い シ リ カ ゲ ル 系 濾 過 助 剤 の 開 発 と 応 用 一
学 位 論 文 内 容の 要 旨
現 在日本 および 世界 各国で 飲用さ れてい るビー ルの ほとん ど憾ラ ガービ ールを初めとする下面 発 酵の淡 色ビー ルであ る。淡 色ビ ールは ,爽快 でバラ ンス のとれ た香味 とともに,きめ細かくク リ ー ミ ー で長 持 ち す る 泡と琥 珀色で 輝きの ある 透明な 外観が 重要な 商品特 性の ーっに なって い る 。真つ 白いき め細か な泡は 外観 ,品質 上決定 的な要 素で あり, また空 気を遮断してビールの酸 化 を防ぎ ,ビー ルに爽 快感を もた らす炭 酸ガス を逃が さぬ 役目も してい る。ビールを長期間保存 し たり過 度に冷 やした 時に, しば しば濁 りが出 現する 。従 って, 出来る だけ長く透明な外観を保 持 で き る 清 澄 安 定 性 の よ い ビ ール を 作 る こ と は, 品 質 上 に おい て も き わ めて 重 要 で あ る。
日 本では1983年ま で法的 な制約 もあ り,一 般的に パパイ ンが ビール の安定性をあげるために用 い られて きた。 しかし ,パパ イン はその 蛋白分 解作用 が非 選択的 である ために,混濁の原因とな る 蛋白質 だけで なく, 泡持ち に必 要な蛋 白質を も分解 し, ビール の泡を 損なう欠点がある。この た め,本 来その ビール がもつ 泡の 良さが 製品ビ ールに は十 分反映 されず ,ややもすると外国ビー ル 等に較 べて泡 が貧弱 である とい う指摘 がされ てきた 。ま た,清 澄安定 性も特に寒冷地の流通に お いて, 改善が 要望さ れてい た。
本 研究は ,ビー ルの 泡と清 澄安定 性の改 善とい うニ っの課 題を同 時に達 成させ,しかも既存の 製 造ライ ンに容 易に導 入可能 な方 法の開 発を意 図して なさ れたも のであ る。研究の結果は以下の よ うに要 約され る。
1.ビ ールの 醸造条 件が 泡持ち と清澄 安定性 にどの よう に影響 するか を,パ イ口 ットプ ラント で のテ スト を行な い次の 結果を 得た 。
(1) 仕込・発酵工程で泡持ち及び清澄安定性を改善するには,大巾な条件変更が必要であるが,
そ れに付 随し てビー ルの色 ,窒素 成分, 苦味 質をは じめと する諸 成分 や香味が変化し,泡持 ち が 向 上 す る と 清 澄安 定 性 が 悪 くな る な ど 両 特 性に 対 す る 効 果が 相 反 す る 例が 多 い 。
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(2)貯 蔵・濾 過工 程では ,濾過 条件や 貯蔵 条件を 変えただけでは顕著な改善効果は認められな い 。
2.日 本でも シリ カゲル が濾過 助剤と して ビール 製造に 使用可 能とな った が,既 存の外 国製ビ ー ル安 定化用 シリ カゲル (キセ 口ゲル および ヒド ロゲル )は, 工場で 使う には清澄安定化能や濾過 性等 の点で 十分 満足で きる性 能を持 ってい なか った。
既存 のビ ール清 澄安定 化用シ リカ ゲルの 構造と 物性お よび蛋 白質 吸着能 を規定している要因を 検討 した結 果, キセロ ゲルは その細 孔容積 と比 表面積 が負の 相関関 係に あるために,蛋白質吸着 に適 した構 造を とりに くく, ヒド口 ゲルは 細孔 容積と 比表面 積の関 係が 見掛上蛋白質吸着に適し て い る よう に 見 え る が, 表面 の結合 水が 障害と なって ,蛋白 質吸着 が緩 慢にな ると推 定した 。 3.混 濁の原 因と なる蛋 白質に 対し特 異的 な吸着 能を持 ち短時 間かつ 少量 の使用 量で十 分な安 定 化処 理がで きる ,実用 性に優 れた高 性能な シリ カゲル 系濾過 助剤の 開発 を試みた。ヒド口ゲルを 中 性pH,70〜 80℃の 条件で 水熱反 応を制 御し て熟成 させ, 更に粉 砕後に 速や かな気 流乾燥 を行 うこ とで, 収縮 による 表面積 ,細孔容積の減少を最小限に抑え,ヒド口ゲルの三次構造を保持し,
上記 の欠点 を排 除した 構造を 持つ新 しいメ ソ孔 夕イプ のシリ カゲル を開 発することに成功した。
この 含水率 約10% のシリ カゲル は, 蛋白質 吸着に あずか るシラ ノー ル基が 表面に露出しており,
また 細孔径 分布 や比表 面積が 蛋白質吸着に適した範囲にあり,清澄安定化に適した特性を示した。
こ の 新 しい シ リ カ ゲ ルは ,そ の表面 で2っの隣 り合 ったシ ラノー ル基が ,1っの水 分子と 水素 結 合 して いる状 態にあ ると推 定さ れるこ とから ,ビシ ナルヒ ドロ ゲル(vicinal hydrated gel,略 してVHゲル )と名 付けた 。
4. VHゲ ル の 蛋白 質 吸 着 に 関す る 物 性 に っい て , 飽 和 硫 安沈 澱 法 を 応用し た試 験を行 った結 果 , 表 面積550〜 700ボ/g, 細孔容 積1.0〜1. 4mE7g,平均 細孔径10nm程度 の物性 を持っ ゲル が最 も高い 蛋白 質吸着 能を示 し,既存のヒド口ゲルおよびキセ口ゲルより蛋白質吸着速度が速く,
そ の 蛋 白質 吸 着 量 が 最大 で, 他のゲ ルの1/2以下 の量で 同程 度の効 果が期 待でき ること を確 認 した 。
5. パイ 口 ッ ト プ ラ ント お よ び 現 場の 設 備 を 使 い,VHゲ ルの ビール 品質へ の影響 を検討 した 結 果 ,VHゲ ル が , 他の シ リ カゲル より はるか に優れ た清澄 安定 化能を 示した 。パパ イン処 理に 比 べて も,清 澄安 定性の みなら ず泡持 ちも著 しく 改善出 来るこ とを確 認し た。VHゲル処理により,
ビー ル中の 窒素 成分お よびポ リフェ ノ―ル 量は 僅かに 減少し たが, その 他は香味を含めて品質上 ほと んど影 響が ないこ とを認 めた。
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6. VHゲルは,濾過性,作業性,保存性,安全性等実用面でも次のような極めて優れた特性を 持っビール清澄安定化剤であることを確認した。(1)水またはビールヘの分散性が良くスラリー をっくりやすい。(2)熱アルカリ液に容易に溶けるため,フィルターエレメン卜ヘ残留せず目 詰まりを起こさない。(3)長期間保存しても,構造の変化が少なくビール安定化能が低下しな い。(4)水分含量が低いため,ゲル上に微生物が増殖せず長期間常温で保管でき,濾過時の無 用な 微生物汚染を起こさない。(5)非晶質であるため,人体に無害である。(6)Si0:の純 度 が 高 く , そ の 他 の 不 純 物 や 水 可 溶 物 が 少 な い た めビ ール の純 粋性 を 確保 出来 る。
7. VHゲルをビールの安定化処理に使う時の効果的な使用法にっいて,パイ口ットプラントお よび現場試験を行い,次のことが確認できた。(1)主発酵工程以降どの工程でも使用可能であ るが,作業性の面からは濾過工程で使用するのが最も適当である。(2)酵母を含んだ状態のビー ルに直接添加するより,一旦珪藻土で処理したビールに添加する方がより効果が大きい。(3) ビー ルとの接触時間は4〜5分で十分である。(4)タンニン酸,L〜アスコルビン酸,パパイ ン等,他のビール清澄安定化剤と併用できる。
8.従来のパパインによる清澄安定化処理にかえ,この新たに開発した高性能シリカゲルを容易 に工場に導入出来たため,製品ビールの泡と清澄安定性が大幅に改善され,その有用性が工業的 規模で実証された。
学位論文審査の要旨 主 査 教 授 千 葉 誠 哉 副 査 教 授 水 谷 純 也 副 査 教 授 大 野 哮 司
本論文は,和文132頁 ,図33,表28,6章からなり,ほかに参考論文9篇が付されている。
現在日本および世界各国で飲用されているビールのほとんどはラガービールを初めとする下面 発酵の淡色ビールである。ビールの泡は,炭酸ガスの気泡を界面活性剤的性質をもつ蛋白質溶液 が包んだものである。ビール中に含まれる蛋白質の大部分は原料の大麦に由来しているが,ビー ルを長期間保存したり過度に冷やした時に,しばしば濁りが出現する。このため,透明な外観を 長 期 間 保 持 で き る 清 澄 安 定 性 の よ い ビ ー ル を 作 る こ と が 望 ま れ て き た 。
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日 本では1983年ま で法的 な制約 もあ り,一 般的に ビール の清澄 安定 性をあげるためにパパイン が用 いら れてき た。し かしパ パイ ンはそ の蛋白 質分解 作用が 非選 択的で あるために,混濁の原因 とな る蛋 白質だ けでナ ょく, 泡持ちに必要な蛋白質をも分解し,ビールの泡を損なう欠点がある。
本 研究は ,ビー ルの泡 と清 澄安定 性の改 善とい うニ っの課 題を同 時に達成させ,しかも既存の 製造 ライ ンに容 易に導 入可能 な方 法の開 発を意 図して なされ たも のであ る。研究の結果は以下の よう に要 約され る。
1. 日 本 でも シ リ カゲル が濾 過助剤 として ビール 製造 に使用 可能と なった が,既 存の 外国製 ビー ル 清澄安 定化用 シリ カゲル (キセ 口ゲル およ びヒド 口ゲル )漣, 清澄安 定化 能や濾 過性等の点で 十 分満足 できる 性能 を持っ ていな かった 。既 存のビ ール清 澄安定 化用シ リカ ゲルの 構造と物性お よ び蛋白 質吸着 能を 決めて いる要 因を検 討し た結果 ,キセ ロゲル はその 細孔 容積と 比表面積が負 の 相関関 係にあ るた めに, 蛋白質 吸着に 適し た構造 をとり にくく ,ヒド 口ゲ ルは見 かけ上細孔容 積 と比表 面積の 関係 が蛋白 質吸着 に適し てい るよう に見え るが, 表面の 結合 水が障 害となって,
蛋 白質吸 着速度 が緩 慢にな ると推 定した 。
2. 混 濁 の原 因 と なる蛋 白質 に対し 特異的 な吸着 能を 持ち, 短時間 かつ少 量の使 用量 で十分 な清 澄 安定化 処理が 可能 な,実 用性に 優れた シリ カゲル 系濾過 助剤の 開発を 試み た。ヒ ド口ゲルを中 性pH,70〜 80℃ の条 件で水 熱反 応を制 御して 熟成さ せ, 更に粉 砕後に 速やか な気流 乾燥 を行う こ とで, 収縮に よる 表面積 ,細孔 容積の 減少 を最小 限に抑 え,ヒ ド口ゲ ルの 三次構 造を保持し,
上 記の欠 点を排 除し た構造 を持つ 新しい メソ 孔タイ プのシ リカゲ ルを開 発す ること に成功した。
こ の新し いシリ カゲ ルは, 含水率 約10% であり ,蛋白 質吸着 にあ ずかる シラノ ール基 が表面に露 出 し,細 孔径分 布や 比表面 積が蛋 白質吸 着に 適した 範囲に あり, 清澄安 定化 に適し た特性を示し た 。 そ の 表 面で2っ の 隣 りあ っ た シ ラ ノール 基が,1っ の水分 子と水 素結 合して いる状 態にあ る と 推 定 さ れ る こ と か ら ,ビ シ ナ ル ヒ ドロ ゲ ル(vicinal hydrated gel, 略し てVHゲ ル) と 名 付 けた。
3. VHゲ ル の 蛋 白 質吸 着 に 関 す る物 性 に っ い て, 検 討 し た 結果 ,表面 積550〜700ボ/g,細 孔 容 積1. 0〜1. 4mE/g, 平均細 孔径10nm程度の 物性を 持っ ゲルが 最も高 い蛋白 質吸 着能を 示し,
既 存のヒ ドロゲ ルお よびキ セ口ゲ ルと比 べて 混濁の 原因と なる蛋 白質吸 着速 度が速 く,その蛋白 質 吸 着 量 が 最 大 で , 他 の ゲ ル の1/2以 下 の 量 で同 程 度 の 効 果が 期 待 で き るこ と を 示 し た 。 4. パ イ ロッ ト プ ラ ン ト およ び 現 場 の 設備 を 使 い ,VHゲ ル の ビール の品 質への 影響を 検討し た 結 果 ,VHゲ ル が 他 の シリ カ ゲ ル よ り はるか に優 れた清 澄安定 化能を 示し ,パパ イン処 理に比 べ
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ても清澄安定性のみならず泡持ちも著しく改善でき,ビールの品質にはほとんど影響がないこと を認めた。
5. VHゲルは,濾過性,作業性,保存性,安全性等実用面でも次のような極めて優れた特性を 持っビール清澄安定化剤であることを確認した。
(1)主発酵以降のいずれの工程でも使用可能であるが,濾過工程で使用するのが最も適当であ る 。(2)ビールとの接触時間 は4〜5分で十分である。(3)長期間保存しても,構造の 変化 が少なくビール清澄安定化能が低下しない。(4)水分含量が低いため,ゲルに微生物が増殖せ ず 長期間常温で保管できる。(5)非晶質であるため:人体 に無害である。(6) Siozの 純度 が高く,その他の不純物や水可溶物が少ない。
6.従来のパパインによる清澄安定化処理にかえ,この新たに開発した高性能シリカゲルを容易 に工場に導入出来たため,ビールの泡と清澄安定性が大幅に改善され,その有用性が工業的規模 で実証された。
以上のように本研究は,ビールの泡と清澄安定性の改善を意図して,混濁の原因となる蛋白質 の吸着能の高い新しいタイプのシリカゲルを開発したものである。その成果は,学術的のみなら ず産業面において寄与するところ大きいと評価される。
よって審査員一同は,別に行なった学力確認試験の結果と合わせて,本論文の提出者松沢幸一 は 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る に 十 分 な 資 格 が あ る も の と 認 定 し た 。
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