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脳腫瘍におけるシグナル伝達アダプター分子

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 王    磊

学 位 論 文 題 名

脳腫瘍におけるシグナル伝達アダプター分子 Crk の      役 割 の 解 析 と 新 規 シ グ ナ ル 阻 害 剤      ス ク リ ー ニ ン グ シ ス テ ム の 開 発

学位論文内容の要旨

【背 景と目 的】シグ ナル伝 達アダプ ター分子Crkは1988年にニ ワトりの 肉腫誘導 レトロ ウイルスCT10 (chicken tumor 10)から分離された癌遺伝子であり,癌化した細胞において はチ口シンキナーゼ活性が上昇していることから,Crk (CT10 regulator of kinase)と命名 され た , Crkは ,代 表 的 なチ 口シン キナー ゼであるSrcの酵 素活性 調節領域 であるSrc homology domain,SH2およびSH3領域 からな るシグナ ル伝達 アダプタ ー分子 であり, チ 口シンキナーゼと低分子址G蛋自をりンクする.

  グリオ ーマ(神経膠腫)は悪性度の高い腫瘍で、現在効果的な治療法が見いだされてい ない 。特に 最も悪性 度の高 いグリオ ブラスト ーマ( 神経膠芽 腫;WHO分類Grade‑IV)の5 年 生 存 率 は 極 め て 低 く 、 新 規 治 療 薬 の 早 急 な 開 発 が 求 め ら れ て い る 。   Crkと ヒト腫瘍 との関 連につい ては,これまでの研究で免疫染色法にて様々なヒトの腫 瘍組織が検討され,多くの癌および肉腫で過剰発現が認められている.しかしながら脳腫瘍 とCrkの関連については,Crk‑Iの悪性脳腫瘍での過剰発現が報告されているものの不明な 点が多い,本研究では,まずCrkが脳腫瘍におしゝても,その悪性化に必須な分子であるのか 否かを検討し、さらに,Crkが悪性化能に必須の分子であることをI明らかにした後には.Crk シ グ ナ ル 阻 害 剤 を 得 る た め の 新 規 薬 剤 ス ク リ ー ニ ン グ 法 の 開 発 を 目 指 し た .   新規治療薬をスクリーニングで同定する際には,(1)分子標的が的確であること,(2)標的 の分子構造または標的分子を介するシグナル伝達経路が明らかになっていること,(3)ハイ スループット・スクリーニングを可能にする評価系を有すること,が重要であると考えられ る. 申 請 者ら は , 正 常ヒ ト アス ト口サイ トに,hTERTSV40T抗原を 導入する ことで 不死 化させ た細胞株 を用いて ,そこ に1つ の遺伝子をさらに加えることで悪性化能を獲得させ た糸10胞株と比較することで,効率的に1つの遺伝子発現の有無に基づく増殖抑制効果を示 す,シグナル阻害薬スクリーニング系の開発を目指した.

  本研究 は,グリ オブラ ストーマ 細胞株を用いて,シグナル伝達アダプター分子Crkが脳 腫瘍の 悪性化に必須であるか否かを検討しCrkシグナル阻害薬を得る前段階として,1つの 分子に 起因する増殖シグナルのみを抑制する新規薬剤スクリーニング法の開発を目指した ものである,

【研究材料と方法】

l.Crk Knockdown細J胞 の樹 立 :3pg pSUPER‑Crkiと0.6 pg pBabe‑puroのplasmidを 同時に 細胞に導 入し,2 pg/ml puromycinを 含むmediumで2‑3週間培養し,コロニーを単 離した. Crkの発現皿はウェスタンブロットにて解析した.

2.In vivoに おける造 腫瘍能の測定:6遡齢のBALB/cA Jcl‑nu (nu/nu),CLEAくJpan INC) のヌードマウスを用いて,細胞を0.5〜1xl07個/0.3 mlマト1」ゲル/匹を皮下注射し3週間

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後, 腫瘍を摘 出しサ イズ,重 さを測定し MIBl  (Ki‑67)に対する免疫染色を施行した.

3.阻害剤スクリーニングシステム: SCADS inhibitor kit(標準阻害剤キット)は文部科学 省がん特定・統合がん(化学療法基盤情報支援班,代表癌研究所・矢守博士)から提供されたも のを使用した.

    【研究結果】

脳腫瘍悪性化におけるCrkの役割の分子生物学的解析

    脳腫瘍悪 性化にお けるCrkの役割 を検証 するために、Crkb10ckdo、珊1くMG4細胞と、

野 生 型 のKMG4細胞を 用いて、 細胞運 動能・細 胞接着 能・細胞 増殖能、 めvfv〇におけ る 腫瘍形成能などの比較解析を行った。(i)様々な細胞外マトリックスに対する接着能を、

マ トリッ クス・コ ーテイ ング・デ ィッシュ を用い た培養により比較した結果、Crkの発現 低 下によ って、ラ ミニンに対する接着性が減弱することが明らかになった。(ii冫運動能 の 検討は 、Wbund−healingaSsりによ り行し 〕CrkknockdownKMG4細胞では運動能が低下す ることが判明した。(iii冫通常の増殖アッセイおよびSOR.agarcoloりfonnationアッセイを 行 った結 果、Crkは、足 場依存性 ・非依存 性、双 方の増殖に重要であることが判明した。

  (iv)ヌードマウスでのxenogra丑モデルを用いて、mvfvDにおける腫瘍形成能を比較した 結 果 、CrkknockdownKMG4細 胞に お け る、 腫瘍 形成能 の低下が 認めら れた。以 上より 、 Cr1くが脳腫瘍の悪性化に重要な役割を担うことが明らかとなった。

シグナル系路特異的薬剤スクリーニングシステムの確立

    有 用 な ハ イス ル ー プッ ト ・ スク リ ー ニング・ システ ムを樹立 する目 的で、先 ず、

AKT‐pa血wりをターゲットとしたproof.of‐conceptstudyを行った。不死化したアスト口サ イトに活性型心くTとflrenリ1uciferaseを遺伝子導入したNHA‐AKT(十)‐FF細胞と、不死化 したアスト口サイトにrenilla−1uciferaseを導入したコントロール細胞NHAIAKT(.)‐RL細胞 を樹立した。AKT(+).FL細胞および心口(−)‐RL細胞の「細胞数の変化」は、それぞれの

「1uciferase活性の変化」にmき換えられることを証明した後に 、混合培養に化合物ライ プラリーを作用させることでスクリーニングを行レゝ、F・umitoremoginCというABCトラン ス ポータ ーの阻害 剤にAKT.pathway特異的 阻害剤と しての 効果があ ることを同定した。

  以上から、樹立したiSogeniccell‐basedsystemは通常のDual‐Luciferase‐Assりを用いて簡 便 に増殖 アッセイ が可能で、ハイスループット・スクルーニング・システムとして応用可 能であることが示された。

  【考察と結論】

  脳臓瘍研究に限らず癌治療研究全般において、分子標的治療の有用性が認識されており、

特 に、特 定の分子 ・シグナル伝達経路を標的とする阻害剤を、スクリーニングによって同 定 する試 みが広く 行われている。スクリーニングの初期段階では、腫瘍細胞株などの培養 細胞が広く用いられているが、数穐の細胞株を用意して行う従来型のスクリーニングでは、

「 適切な 」対照( 正常細胞など)を用意することが困難であり、単なる細胞毒性の強い化 合物のみを同定してしまう傾向があった。

    本研究では、脳肺瘍細胞株と、それにCrlくのbockdownとしュう単一の遺伝子変化を生 じさせたネ|1|胞の2穐を1組にしたスクリーニングを行うことで、上述のI閉題点を解決して いる点が独創的である。このような、isogenicce11_basedsystemは最近、増加する傾向にあり、

用 いる2種の細 胞を異な る螢光 蛋白質で 標識す ることによって区別するなどの工夫が施さ れ て い る。 本 研 究では螢 光蛋白質 の代わ りに2種類の1uciferaseを用い ることに より、

Duむ‐Luciferase‐Assりによるスクリーニングを可能にしているが、これは世界初のシステム である。

    システム の有用性 が証明され、今後のこの分野における薬剤スクリーニングシステム の 技術向 上に直結 する効 果が望ま れること に加え て、Crk阻害剤と脳腫瘍幹細胞の関辿が 証明されれば、最近重要性が提唱されている「脳腫瘍幹細胞を標的とする新規治療法ロII発」

に も関与 すること が期待 され、今 後高い学 術的イ ンパクト を有す る成果が 期待される。

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学位論文審査の要旨 主査    教授    秋田弘俊 副査    教授    石田    晋 副査    教授    佐邊壽孝 副査    教授    田中伸哉 副査   准教授   濱田淳一

学 位 論 文 題 名

脳腫瘍におけるシグナル伝達アダプター分子 Crk の      役 割 の 解 析 と 新 規 シ グ ナ ル 阻 害 剤      ス ク 1J ー ニ ン グ シ ス テ ム の 開 発

  グリオーマ(神経膠腫)は最も頻度の高い脳腫瘍であり、中でも最も悪性度の高いグリオブラ スト ーマ (神 経膠 芽腫;WHO分類Grade lV)の5年生存率は極めて低く、新規治療薬の早急な開 発が求められている。本研究は、グリオブラストーマ細胞株を用いて、シグナル伝達アダプター 分子Crkが脳腫 瘍の悪性化に必須であるか否かを検討し、Crkシグナル阻害薬を得る前段階とし て、1つの分子 に起因する増殖シグナルのみを抑制する新規薬剤スクリーニング法の開発を目指 したものである。

  脳腫瘍悪性化におけるCrkの役割の分子生物学的解析

  脳 腫瘍 悪性 化に おけるCrkの役割を 検証するために、Crk knockdown KMG4細胞と、野生型の 1くMG4細胞を用いて、細胞運動能・細胞接 着能・細胞増殖能、in vivoにおける腫瘍形成能など の比較解析を行し〕以下4つの知見を得た。(i冫様々な細胞外マトリックスに対する接着能を、マ トリックス・コーテイング・ディッシュを 用いた培養により比較した結果、Crkの発現低下によ っ て 、 ラミ ニン に対 する 接着 性が 減弱 する とと が明 らか にな っ た。(ii)運動 能の 検討 は、

Wound‑healing assayにより行い、Crk knockdown KMG4細胞では運動能が低下することが判明し た。(iii)通常の増殖アッセイおよびsofi‑agar colony formation assayを行った結果、Crkは、足場 依存性・非依存性、双方の増殖に重要であ ることが判明した。(iv)ヌードマウスでのxenograft モデルを用いて、めvivoにおける腫瘍形成 能を比較した結果、Crk knockdown KMG4細胞におい て、腫瘍形成能の低下が認められた。以上 より、Crkが脳腫瘍の悪性化に重要な役割を担うこと が明らかとなった。

  シグナル系路特異的薬剤スクリーニングシステムの確立

  有 用な ハイ スル ープット・スクリーニング・システムを樹立す る目的で、先ずAKT‑pathway     ー471―

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を タ ー ゲ ッ ト と し た モ デ ル 実 験 を 行 っ た 。 不 死 化 し た ア ス ト 口 サ イ ト に 活 性 型AKTと Firefly‑luciferaseを遺 伝 子 導入 したNHA‑AKT(+)‑FF細胞 と、不 死化した アスト 口サイト に Renilla‑luciferaseを導 入した コント口 ール細胞NHA‑AKT(‑)‑RL細胞を樹立した。AKT(+)‑FL細 胞およ びAKT(‑)‑RL細胞の「 細胞数 の変化」 は、そ れぞれの 「luciferase活性の変化」に置き 換えら れるこ とを証明 した後に 、混合 培養に化合物ライブラリーを作用させ、スクリーニング を 行い 、FumitoremoginCとい うABCト ラ ンス ポ ー ター 阻 害 剤にAKT‑pathway特異 的阻害 剤と しての効果があることを同定した。

  以上から、樹立した阻害剤スクリーニング系は通常のDual‑Luciferase‑Assayを用しゝて簡便に増 殖アッセイが可能で、ハイスループット・スクリーニング・システムとして応用可能であること が示された。本システムの有用性が証明され、今後薬剤スクリーニングの分野における技術向上 に直結 する効 果が望まれることに加えて、Crk阻害剤と脳腫瘍幹細胞の関連が証明されれば、最 近重要性が提唱されている「脳腫瘍幹細胞を標的とする新規治療法開発」にも貢献することが期 待され、今後高い学術的インバクトを有する成果が期待された。

  審査会での発表における質疑応答では、石田晋教授より、一般に腫瘍治療の標的分子を決定す るため の戦略 についての質問があった。次に佐邊壽孝教授からは、正常脳でもCrkの発現が見ら れたが 、Crkは分子標 的治療薬の標的となるかどうかついての質問があった。濱田淳一准教授か らCrk‑IとCrk‑IIの機 能の違 いについ ての質問 があっ た。秋田 弘俊教 授から他の腫瘍において Crkの 変異や 過剰発現 の有無に ついて の質問が あった 。最後に 田中伸 哉教授からFumitremorgm C (FTC)の標的 分子であ るトラン スポー ターBCRPとAKTの関 与の有無 につい て、また 細胞内 で のFTC作用メ カニズム についての質問があった。いずれの質問に対しても申請者は自ら行った研 究 や そ の 過 程 で 得 ら れ た 知 見 、 参 考 と し た 文 献 の 引 用 を も と に 的 確 に 回 答 し た 。   審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども併せ申 請 者 が 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。

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参照

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