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経皮的補助循環装置の心機能に及ぼす影響

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Academic year: 2021

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(1)

学 位 論 文 題 名

博 士 ( 医 学 ) 大 場 淳 一

経皮的補助循環装置の心機能に及ぼす影響

特 に 左 室滅 圧の 意義 に つい て

学位論文審査の要旨

I.はじめに

  近年,わが国でも食習慣や生活様式の欧米化に伴って,虚血性心疾患が増加している。虚血性 心疾患に伴う急性 の循環不全に対しては,薬物療法やintra ‑ aort ic balloon pump―ing (IABP),ventricular assist devi・ce(VAD)などの循環補助手段が用いられてきている。

  経 皮 的補 助循 環装 置(percutaneous cardiopulmonary support,PCPS)は,経皮的に送 血・脱血カニュラを大腿動静脈に留置することによって,迅速に体外循環を開始できる人工心肺 装置であるが,その特徴からおもに緊急時の補助循環装置として用いられ始めている。これまで の研究によってPCPSが心肺機能の一部または全部を一時的に代行し,全身の循環を保ち得る ことはすでに知ら れている。しかし,PCPSが心肺機能そのものに及ばす影響にっいては不明 の点が多い。本研 究ではまず,PCPSが左室の機能,特に負荷状態と収縮機能に及ぼす影響の 検討を行った。

  さらにPCPS施行 中に積極的に左室を滅圧すれば,左室の負荷を軽減し,心臓の酸素需要を 抑制できると考え られる。したがって,本研究ではPCPS中に左室の減圧を行い,左室減圧が 左 室 の 機 能 に 及 ぼ す 影 響 を 検 索 し , 不 全 心 の 回 復 に 有 効 か 否 か を 検 討 し た 。

II.対象と方法

  実験には雑種成犬11頭を用い,無作為に2群に分けた。1群(非減圧群)は5頭で,左室を減 圧 し な か っ た 群 , 2群 ( 滅 圧 群 ) は 6頭 で , 左 室 を 滅 圧 し た 群 で あ る 。   実験動物をハ口セン麻酔下に背臥位とし,右外頚静脈からポリエチレンチューブを冠状静脈洞 に留置し,冠静脈血を採取した。また,左外頚静脈からSwan ‑ Ganzカテーテルを肺動脈に留 置し,熱希釈法により心拍出量を測定した。左大腿動脈には動脈圧測定用兼動脈血採血用のポIJ 工チレンチューブを留置した。

(2)

  次いで胸骨正中切開にて心臓を露出し,左室心尖部から微小圧トランスデューサ一付きのカ テ―テルを左室腔内に留置し,左室内圧を測定した。減圧群では,さらに左室ベントチュ―ブを 左室心尖部から左 室腔内に留置した。ベントチューブの反対側はPCPSの静脈側回路すなわち 脱血側回路に連結 し,左室内の血液が左室内圧とPCPSの静脈側回路内圧の差によって誘導さ れるようにした。3 mg/kgのヘパリンを静脈投 与した後,PCPS付属の送血,脱血カニュラを それぞれ右大腿動 脈,静脈に留置し,PCPSの送 血側,脱血側回路に連結した。PCPSはBard 社製のCardio―pulmonary Support System (CPS)を用いた。

  PCPSを開始する 前のoff PCPSの状態で,心電 図,動脈圧デ一夕および左室圧データを記 録し , これ を対 照値 とし た 。続いてPCPSを開始 した。PCPSの流量は,off PCPSの状態で 測定した心拍出量 と同じとした。PCPSを30分間 維持したのち,on PCPSの状態で再度データ を記録した。

  測定したパラメ 一夕ーは以下の通りである。 左室の前負荷の指標として左室拡張末期圧 (LVEDP)を測 定 した 。左 室の 後負 荷 の指 標と して は左 室圧の最高値(peak LVP)を測定し た。左室圧をソフ トウェア上で一次微分し(LV dp/dt),その最高値(peak L丶rdp/dt)を もって左室の収縮状態を表す指標とした。また,心電図から得られた心拍数(HR)とpeakLVP からratepressureproduct(RPP)を算出し,こ れを酸素消費量を推定する指標とした。す なわち,

  RPPニ二二HRXpeakLVP

  動脈血の酸素含有量(CaO )と冠状静脈血の酸素含有量(CcsO゜)を次の式によって求めた。

  Ca02ー1.38XHgb十O.003XPa02   Ccs02―1.38XHgb十O.003XPcs02

  (Hgbは動脈血の ヘモグ口ビン濃度,Pa0゜は動脈血酸素分圧,PcsO゜は冠状静脈血酸素分 圧である。)

  さ ら にそ れら の値 から 動 脈血と冠状静脈血の 酸素含有量の差を算出した 。すなわち,

  ACs0゜D‐Ca02―Ccs0

  得られた結果は 実験群毎に平均値土標準誤差 で表され,baseline値とonPCPSでの値の有 意差,左室減圧群と非減圧群との有意差の検定にはStudentのt・testを用い,危険率0.05以下 をもって有意とした。

m. 結   果

(3)

  PCPS前 の 体 重 , 心 拍 数 , 平 均 大 動 脈 圧 ,LVEDP,peak LVP,peak LVdp/dt,RPP, ACsOL'D, 心 拍 出 量 係 数 の そ れ ぞ れ に っ い て , 両 群 間 で 有 意 の 差 は な か っ た 。   PCPS中 の 心 拍 数 は 非 減 圧 群 で153土13bpm, 減 圧 群 で162土7bpmと 両 群 間 で 有 意 差 は な か っ た が, 減 圧 群 で は 対照 値 より有 意に多 かった 。平 均大動 脈圧は 非減圧 群で108.5土9.3mmH g, 減 圧 群 で88.4土8.OmmHgと 差 は な か っ た 。 し か しLVEDPは 非 減 圧 群7.O土3.OmmHg, 減 圧 群3.2土2.1 mmHg,peak LVPは 非 減 圧 群108.1土11.9 mmHg, 減 圧 群60.O土3.4 mmHg peak LVdp/dtは 非 減 圧 群1208土247mmHg, 減 圧 群794.6土254mmHg,RPPは 非 減圧 群16332土1960,減圧 群9749土854と ,いず れも減 圧群 で有意に低値であった。また,ACs0゜D は非 減圧 群5. 76土1.36vol%,滅圧群3.73土0.86vol%と,滅圧群で低い傾向があったが統計学 的に は差 がナょ かった 。on PCPSでの 各パラメーターの値をそれぞれの群での対照f直と比べると,

非 減 圧 群 で はHR,mean AOP,LVEDP,peak LVP,peak LVdp/dt,RPP,ACs02Dの す べ ての パ ラ メ ー ター でPCPS前 後 で 有 意な 変 化 が な か った 。 一 方 , 減圧 群 で はHRは 対 照123 土5 bpmか らonPCPS162土7bpmへ と 増 加 し た 以 外 , 他 の パ ラ メ 一 夕 ー は す べ て 有 意 の低 下 を示 した 。

lV. 考  察

  PCPS中 の平 均 大 動 脈 圧 とPC,PS流 量 か ら 判 断す る 限 り , 左室 ベ ン テ ィ ング の 有 無 に 関 わら ず ,全身 の循環 は保 たれて いた。 すなわ ち,左 室減 圧は全 身の循 環を損 なわ ない。しかし,心機 能 とくに 左室の 負荷 状態に は左室 減圧は 大きな 影響 がある とみら れる。 心拍 数は非減圧群では変 化 がなか ったが ,滅 圧群に おいて 増加し た。こ の理 由は不 明であ る。左 室滅 圧群では左室の前負 荷 ,後負 荷が軽 減さ れた。 この効 果によ って, 左室 減圧が 左室の 酸素消 費量 を減じることが期待 で きる。

  非 減 圧 群 で はpeak LVdp/dtが 変 化 しな か っ た が ,減 圧 群 で は 減少 し た 。 し か しな か ら , LVdp/dtは前 負 荷 に 大 きく 依 存 す る た め, こ の 減 少 は左 室 減 圧 に よる 直 接 的 な 減少 と 言 う よ り も , 前 負 荷 の 低 下 に よ っ て も た ら さ れ た 二 次 的 ナ ょ 変 化 と 考 え ら れ る 。   非 減 圧 群 で はPCPS下 で もRPPに 変化 は ナ ょ か った 。 一 方 , 減 圧群 で は 心 拍 数の 増 加 に も 拘 ら ず ,RPPは 有 意 に 低 下 し た 。ACs0゜Dは 非 減 圧 群 で はon PCPSでも 変 化 し な か った が , 滅 圧 群 で は 約42% 減 少 し た 。RPPとACs0゜Dの ニっ の 指 標 は ,減 圧 群 に お いて 心 筋 酸 素 消 費量 が 低下し ている こと を強く 示唆し ている 。

(4)

V

.結  語

  

比較的簡便に応用できる経皮的補助循環装置(PCPS)にっいて,急性心不全における効果を 検討するため,PCPSが負荷状態と収縮機能に及ぼす影響,左室滅圧による不全心の回復に及 ぼす影響の面から基礎的検討を行い,以下の結論を得た。

  

@PCPSは正常左室の負荷状態に影響を及ぼさない。

  

◎左室減圧によって左室の前負荷,後負荷が軽減された。

  

◎ そ の 結 果 ,

Rate ‑ pressure product

と 心 筋 酸 素 摂 取 率 が 滅 少 し た 。

  

@ 左 室 減 圧 に よ っ て 不 全 心 の 回 復 を 促 進 す る こ と が 期 待 で き る 。

学位論文審査の要旨

  

虚血性心疾患に合併する急性循環不全に対しては従来から,薬物療法,intraaortic balloon

pumping (IABP)

,ventricular assist device (VAD)が用いられている。経皮的補助循環 装置(PCPS)は迅速に体外循環を開始し得る心肺補助装置であり,近年急性循環不全に対する 循環補助手段として急速な普及を見ている。PCPSが全身の循環を保ち得ることはすでに示さ れ ている が,PCPSが 心機能そのものに及ばす影響には不明の点が多い。本研究では,PCPS が 心機能 に及ば す影響 を明確 にするた め,犬 を用い てPCPS中 の心機能 を測定した。また

PCPS

中に左室をべントチューブで滅圧し,左室の負荷状態,収縮機能,全身循環の変化を観 察し,左室滅圧が不全心の機能回復に有効か否かを考察した。

  

実験方法は,雑種成犬(体重25−35kg)を用い,気管内挿管,陽圧呼吸下に大腿動静脈に留置 したカニューレを通じてPCPSを開始した。実験犬11頭は左室減圧の有無により,非減圧群5 頭 を 減 圧 群6頭に 分 け た 。PCPSはBard社製 のCardiopulmonary Support System(

CPS

) を用い,流量はPCPS開始直前の心拍出量と等しくした。左室滅圧は胸骨正中切開から左室心 尖部を通して左室内腔に留置したべントチュ―ブを通じて行い,左室内の血液がPCPSの静脈 側回路に誘導されるようにした。別に左室内に留置した微小先端圧トランスデューサー付きカ

三 修

邊 物

田 劔

授 授

教 教

査 査

主 副

(5)

テ ー テ ル で 左 室 圧 を 測 定 し た。 全身 循 環はPCPS中 の平 均大 動 脈圧 とPCPS流量 から 判 断し た。

  測 定 項 目 は @ 左 室 の 前 負 荷 の 指 標 と し て 左 室 拡 張 末 期圧(LVEDP)@ 左 室後 負荷 の 指標 とし て 最 高 左 室 圧(peak LVP) , ◎ 左 室 収 縮 カ の 指 標 と し てpeak LVdp/dt, @ 心 筋 酸 素 消 費 量 を 推 定す る 指標 とし てrate ‑ pressure productと 心筋 酸素 抽 出量 であ り ,そ れぞ れ の項 目を PCPS開始前とPCPS開始30分後に測 定または算出した。

  実 験 結 果 は , 非 減 圧 群 に お い て は 心 拍 数 , 平 均 大 動 脈圧 ,LVEDP,peak LVP,peak LVdp/

dt,rate―pressure product, 心 筋 酸 素 抽 出 量 の い ず れ に お い て もPCPS前 とPCPS中の 値に 有 意 な 変 化 は な く ,PCPSの 流 量 がPCPS前 の 心 拍 出 量 と 等 し い こ と か ら ,PCPSに よ っ て 全 身 の 循 環 が 保 た れ る こ と が 確認 され た 。ま た正 常 左室 の前 負 荷, 後負 荷 ,収 縮カ に はPCPSは 影響 を 及ば さず , 心筋 酸素 消 費量を 変化させないこと が推測された。減 圧群においても,平 均大 動 脈 圧 はPCPS前 値 と も , 非 減 圧 群 と も 差 は な く , 左 室 滅 圧 がPCPSの 全 身 循 環を 妨 げる こと は な い と 判 断 さ れ た 。 し か し 滅 圧 群 で は 心 拍 数 が 増 加 する もの の ,LVEDP,peak LVP,peak LVdp/dtがPCPS中 に 有 意 に 滅 少 し ,rate亠pressure productも 有 意 に 低 下 し た 。 こ れ ら の パ ラ メ 一 夕 ー は 非 減 圧 群 と 比べ ても 有 意に 低値 で あっ た。PCPS中 の心 筋 酸素 抽出 量 は非 減圧 群 よ り 低 い 傾 向 に あ り ,PCPS前 値よ り も有 意に 低 値で あっ た 。し たが っ て左 室滅 圧 によ って 左室の前負荷, 後負荷が軽減され ,その結果心筋酸素 消費量が低下する と推測された。各パラメ一 夕 一 のPCPS前 値 か ら の % 変 化率 は以 下 の通 りで あ った 。LVEDP ‑̲240,0',pesk LVP―4700, peak LVdp/dt―41% ,rate←pressure product−32% ,心 筋 酸素 抽出 量 ―42%。 不 全心 にお いて は 負荷 を軽 減 し, 酸素 消 費量を 抑制する事が回復 の要件であるので ,左室滅圧の効果は 不全 心でより顕著で あると推測される 。

  本 実 験 に よ り 次 の 結 諭 が 得 ら れ た 。 @PCPSに よ り 全 身 の 循 環 が 保 た れ る 。◎ 正 常心 では PCPSは 左 室 の 負 荷 状 態 , 収 縮機 能に 変 化は ない 。 ◎左 室減 圧 によ り, 左 室の 前負 荷 ,後 負荷 が軽 減 され ,ratepressure product, 心 筋酸 素抽 出 率が 低下 し た。 @左 室 減圧により,不 全心 での回復が促進 されることが期待 できる。.

  口 頭 発表 にお い て, 劔物 教 授より ,至適な減圧の程 度,冠血流量,不 全心における効果, ピッ グテ ー ルカ テー テ ルに よる 減 圧の効 果にっいて,古館 教授より左室圧の 測定方法,拡張能に 及ば す影 響 ,虚 血心 で の効 果に っ いて、 さらに北畠教授よ り静脈還流量と心 拍出量の変化にっい ての 質問があったが ,申請者はおおむ ね妥当な回答をなし た。また副査の劔 物,北畠両教授には個別に 審査 を 頂き 合格 と 判定 され た 。本 研究 はPCPSの有 用 性を 心機 能 の面 から 追 求し,簡便な方 法で 不全心の回復を 促進する可能性を 示したもので,臨床的意義は大きく,学位授与に値すると考える。

参照

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