( 21 ) 2 4 1 1. は じ め に 防振・制振に関しては,従来から日本ゴム協会誌に多く の記事が掲載されてきた1 - 22).特に防振に関しては防振 ゴムの動的性質,形状設計,材料設計・設計法,配合等多 岐にわたる記事が,特集号や解説記事としても適時掲載さ れている.古くは論文(報文)として掲載されたものもあ る4).また,防振ゴムの専門書や制振に関する書籍も少な くない23 - 30).その中でも,Nashif 等の書29)は防振・制振 にかかわる専門家にとっては,座右に置くべき代表的な書 籍である. 1980 年代中ごろから 2000 年初頭にかけて,自動車メー カーでは車室内騒音対策,家電メーカーでは洗濯機等の騒 音対策の一環として,各メーカー及び日本機械学会におい て盛んに防振・制振に関する研究が行なわれた.また,建 築関係では居住性が評価の対象になり,中でも高層ビルの 横風による振動や交通振動,生活騒音,固体伝搬音等々の 問題に対する対策が課題となって,振動・騒音に関する研 究が行なわれた.1995 年には兵庫県南部地震による大災 害が発生したが,免震構造の建屋が倒壊・損傷を免れたこ とで,免震構造の有効性が実証され,一気に免震工法と免 震積層ゴム・材料の研究が加速した.また,同時期材料メ ーカーでは,それを受けて対応する材料開発が盛んにおこ なわれた. しかしながら,その後技術者達の世代交代が行なわれて いく中で,それらの成果がうまく受け継がれてはいないよ うに思われる.防振と制振の違いも正しく認識されていな い材料関係者もいると聞く.単に tanδが大きければよい という風潮が一部にはあるようである.末尾に示された参 考文献を参照すれば,防振・制振に関する多くの知見が得 られるが,防振と制振の違いを直接力学モデルを用いて明 らかにし,材料設計への指針を記述した記事は少ない.そ こで本報は,この点に焦点を当ててみたい. ここでは,防振支持系の伝達率を低減するために防振ゴ ムに要求される特性と実在の防振ゴムの動的性質につい 佐藤 美洋;上智大学理工学部(〒 102-8554 東京都千代田区紀尾井町 7-1)共同研究員. 1970 年,工学院大学機械工学科卒業.同年, 上智大学理工学部機械工学科助手.1999 年, 専任講師.2008 年,上智大学理工学部機能創 造理工学科准教授.2013 年,定年退職.2013 ~ 2015 年,上智大学理工学部非常勤講師・共 同研究員.専門は,振動工学,制振工学,応 用力学.
Indicator to Mechanical Design of Vibration Isolation and Damping by
Mechanical Models
Yoshihiro SATOH (Collaborative Researcher of the Faculty of Science and Technology, Sophia University, 7-1 Ki-oi-cho, Chiyoda-ku, Tokyo 102-8554, Japan)
Vibration isolation and vibration damping are explained using the dynamic models, and it is clearly shown that they are based on an essentially different principle. In the result, the each indicator to the design of isolation materials and damping materials is described from a dynamic viewpoint.
(Received on May 16, 2016)
Key Words: Indicator, Dynamic Behavior, Vibration Isolation, Vibration Damping, Materials
力学モデルを用いた防振・制振材料設計の指針
佐 藤 美 洋
て,力学モデルを用いて概説する.一方,制振に関して は,単純な力学モデルを用いて制振処理による減衰のメカ ニズムを示し,制振材の損失係数のみを高くとっても制振 処理による損失係数が上がらない原因を明らかにする.そ して,実在ゴムによる鋼板の制振処理による損失係数のデ モンストレーションを示す. 2. 防振支持系のモデル 防振支持には,エンジンなどの機械類が発生する励振力 が,その基礎に伝達しないように支持する場合(a)と, 基礎の変位振動が精密機器などに伝達しないように支持す る場合(b)がある.機器の質量を m,防振ゴムの複素動 剛性を K* とすると,それぞれの力学モデルは図 1(a), (b)のように表され,それぞれ力の伝達率,変位の伝達 率が定義できる.両モデルは表1に示すように定常振動を 表す方程式,定常解,複素振幅,及び伝達率の定義はそれ ぞれ異なるが,各モデルの伝達率は全て同一の式で与えら れる.防振の効果は通常この伝達率で評価される. 表中の記号K*は複素剛性と呼ばれ,K*=βE*で,E*= E′+iE″複素弾性率,E′は貯蔵弾性率,E″は損失弾性率, βは防振ゴムの形状や寸法および変形の仕方に関係する係 数で,防振ゴムの変形が微小であれば定数として扱うこと ができる.ωは強制振動の振動数,ω0は防振支持系の固有 振動数である.なお,複素剛性の実部及び虚部はそれぞれ 貯蔵剛性,損失剛性と呼ばれ,記号 K′,K″で表され, K′=βE′,K″=βE″と書くことができる.また,l≡tanδ =E″/E′=K″/K′. 実際,防振ゴムの動的性質は振動数に対して一定ではな く,周波数依存性を有するので,定性的に (1) と表せるから,伝達率の式は次のように書きかえられる28). (2) ただし上式のE′0はω0における動的弾性率,ω0は防振支持 系の固有振動数であり次式で表される. (3) (4) 一般にE′(ω)はゴム状領域で周波数の増加関数である から,式(2)の項E′0/E′(ω)が周波数の増加に伴う伝達 率の低下を阻害する原因となる.このことは次節で明らか になるであろう. 防振支持は機器の常用振動数域で伝達率を1以下に抑え ること,即ち振動絶縁が目的である.E′(ω)=E′0ならば, 振動絶縁できる振動数領域は防振支持系の固有振動数の 2 倍以上の振動数領域であることはよく知られている. 通常,固有振動数ω0は振動絶縁すべき振動数領域の下限 周波数ωLの 1/2.5 ~ 1/3 に設定される2).したがって,防 振支持系の固有振動数が決定され,用いられる防振ゴムの 動的性質が与えられるならば伝達率の式(2)によって防 振の効果が評価できる. なお,伝達率の式(2)の誘導過程に興味のある読者は 付録Aを参照されたい. 2. 1 ゴムの粘弾性モデルと動的弾性率 ゴムのもつ粘性と弾性が振動の伝達率を低減するために 利用される.ここではゴム(防振ゴム)の力学モデルとそ の弾性率について述べる. 比較的単純な 2,3 の粘弾性体の力学モデルを図 2 に示 す.ばねとダッシュポットの並列結合したモデル図2(a) はVoigtモデルと呼ばれている.防振系の伝達率を議論す 図1 防振支持のモデル Mechanical Model(a) Mechanical Model(b) Equation of motion Steady state solution Complex amplitude x*0 Definition Transmissibility T 表1 伝達率
( 23 ) 2 4 3 る上で最も基本的なモデルである.ばねはひずみεに比例 する弾性応力 Eeεを,ダッシュポットはひずみ速度ε 4 に比 例する粘性応力ηε4 を発生するモデルであり,全応力はそ れらの応力の和で表される.従ってこのモデルの運動方程 式は次のように書くことができる. (5) 調波ひずみを (6) のように複素変数で表せば,対応する応力σ*は式(5)よ り次式で与えられる. (7) 複素弾性率E*は一般に (8) で定義され,周波数の関数である.Voigt モデルの場合, 複素弾性率E*は次のようになる. (9) (10) ここに,τ=η/Eeは遅延時間と呼ばれ,ステップ状の応力 に対する応答ひずみの遅れの測度である. 貯蔵弾性率 E′= Eeで一定,損失係数 l ≡ tanδ=τωで振動 数に比例して増加する. 図 2(b)は未架橋あるいは非架橋粘弾性体の粘弾性特 性を定性的に表す力学モデルで,Maxwellモデルと呼ばれ ている.このモデルはばねとダッシュポットが直列に接続 されているので,モデルの応力σはばねのひずみεeによる 応力Evεeおよびダッシュポットのひずみ速度ε 4 vによる応力 ηε4 vに等しく,モデルのひずみεはばねのひずみεeとダッシ ュポットのひずみεvの和として表される.運動方程式は, ひずみ速度の項で書くことができて, (11) ここで,Voigt モデルの場合と同様に調波ひずみを複素形 式(6)で与えると,応力はσ*(t)=σ*0eiωtと仮定できるの で,運動方程式(11)は (12) と書くことができる.従って複素弾性率は定義式(8)に より,次式のように表される. (13) ここに,τv=η/Evはステップひずみに対する応力緩和の 測度で緩和時間と呼ばれる.Maxwellモデルでは,振動数 が 0 の時の弾性率が 0 となるので静荷重を支持できない. したがって防振支持系の力学モデルとしては不適当である が,Maxwell モデルを幾つか並列に結合させた一般化 Maxwellモデルを用いると,ダンパーなどの作動流体とし て用いられるシリコーンオイル等粘性液体の動的性質を表 現する上で役立つ34).ただし,Maxwellモデルの場合損失 係数は l(ω)= 1/(τvω)となるので,振動数に対して双曲 線的に減少し,0に漸近する. 図 2(c)は(a)と同様に架橋粘弾性体の特性を定性的 に表す3要素モデルである.この力学モデルはMaxwellモ デルに並列に弾性要素のばねが結合したモデルであるか ら,複素弾性率は次式で与えられる. (14) これより,貯蔵弾性率E′(ω)と損失弾性E″(ω),および 損失係数l(ω)はそれぞれ (15) (16) (17) 各モデルの無次元周波数ωτまたはωτvに対する無次元化
した動的弾性率E′(ω)/Ee,E″(ω)/Eeおよび損失係数l(ω)
≡tanδ(ω)の周波数特性を図3に示す.Voigtモデルの貯 蔵弾性率は周波数の増加に対して一定であるが,損失弾性 率は線形に増加する.3要素モデルは架橋ゴムの動的性質 の3つの領域(ゴム状領域,転移領域,ガラス状領域)の 挙動を定性的に表すことができるが,防振ゴムとして用い られるのはゴム状領域である.この領域における貯蔵弾性 率は周波数の増加に対して一定であり,損失弾性率は線形 的に増加している.実際,3要素モデルの動的性質の第一 図2 粘弾性体の力学モデル 特集0802-佐藤.indd 23 2016/08/03 13:48:15
次近似は, (18) (19) (20) となるから,前述のVoigtモデルの挙動と一致する.した がって,ゴム状領域における動的弾性率の周波数特性を表 す力学モデルとしてはVoigtモデルの動的弾性率で十分で あるように見える.しかしながら,実際には,ゴム状領域 における貯蔵弾性率は周波数の増加に対して一定ではなく 若干の増加傾向を示す.そこで,防振支持系の伝達率のシ ミュレーション用にはVoigtモデルの動的性質を次式のよ うに修正する. (21) (22) (23) 防振材料に対する要求特性を定性的に明らかにするために は,これらの式で十分である. なお,実在のポリマーのゴム状領域から転移領域付近ま での広い周波数領域に渡る特性を表現するために,次式の ような分数階微分モデルが用いられる29, 31-33). (24) ここに,Dαi,(i=1,2)はα i階微分演算子で (25) 分数階微分モデルにおける動的弾性率は, (26) (27) 実 際, ア ク リ ル ゴ ム(ACM) や ジ エ ン 系 の ゴ ム(IR, CR,BR),シリコーンβゲル等では適当にパラメータを選 べば動的弾性率を広い周波数に渡ってうまく表現でき る29, 31 - 33).一例として ACM(Nipool AR31)の動特性を 図 433)に示す.なお,図 4 横軸は全て換算周波数 fa4 T,aT はシフトファクタ,図4(a),(b)の縦軸は換算動的せん 断弾性率 G′/βT,G″/βTでβTは測定温度によるエントロ ピー弾性の補正係数である. 3. 防振支持系の伝達率 動的性質の周波数特性が伝達率へ及ぼす影響について検 討する. 3. 1 損失係数の特性の影響 貯蔵弾性率が振動数に依存しない場合は,式(21)のα は 0 であるから,伝達率の式(2)中 E′0/E′(ω)= 1,式 (23)の損失係数l(ω)は (28) 図4 ACMの動的性質と分数階微分モデルによる表現 図3 力学モデルの動的性質
( 25 ) 2 4 5 と変形できるので,ω/ω0を無次元周波数,τω0を減衰係 数として,伝達率を求めた結果を図5(a)に実線で示す. 防振支持系の固有振動数の 2 倍以上の振動数領域で振動 絶縁が可能となり,その下方に共振領域があることが分か る.機器の始動と停止の際に通過しなければならない共振 領域では減衰係数が大きいほど伝達率が低く押さえられて いるが,振動絶縁領域では逆に減衰係数が小さいほど振動 絶縁効果は大きい.また損失係数の振動数依存性が小さい 程振動絶縁領域における伝達率は小さく抑えられている. 一般に共振を抑制することを制振というが,防振にはこの 制振と振動絶縁の両方が必要であり,各領域で必要とされ る減衰特性が相反している.ここでは損失係数l(ω)を周 波数の(線形)増加関数としたことが振動絶縁領域の伝達 率を増加させているものと考えられる.実際,損失係数が 周波数に独立で一定,例えばl0=0.5であるとすると,図5 (a)の破線で示されるように共振領域の伝達率は,周波数 依存の減衰係数τω0= 0.5 の場合の伝達率とほぼ同様では あるが,振動絶縁領域の伝達率がより低く抑えられている ことが分かる. 防振は制振領域と振動絶縁領域をもつ系であるから,防 振材としては損失係数は大きく,周波数依存性は極力小さ い方が良いといえる. 3. 2 損失係数と貯蔵弾性率の特性の影響 損失係数の特性 l(ω)と貯蔵弾性率の特性 E′(ω)が伝 達率に及ぼす影響について検討する場合,それらの幾つか の組み合わせが考えられる.(1)E′(ω)= Ee,l(ω)= l0,
(2)E′(ω)=Ee,l(ω)=τω,(3)E′(ω)=Ee+αω,l(ω)=
l0,(4)E′(ω)=Ee+αω,l(ω)=τω.(1) と(2) の 場 合 については,すでに前小節で検討したので,これらを基準 にして,(3),(4)の場合について比較すれば,貯蔵弾性 率の周波数特性の影響が分かる.固有振動数における伝達 率が同じ値になるように各パラメータを選ぶと,図5(b) に示すように,振動絶縁領域の下限周波数が防振支持系の 固有振動数の 2 倍以上になり,伝達率が高く防振効果が 低下していることが分かる.これは,伝達率の式(2)中 の項 E′/E′(ω)の減少が振動絶縁を低下させていること が一因である. 目標とする振動数域ωa≤ωにおける伝達率をできるだけ 低くするためには,前項の逆数 E′(ωa)/E′が小さくなる ようなポリマーの選択と配合設計が重要である.共振振動 数以下も含めて考えるならば,静的せん断弾性率 E′sとの 比すなわち動倍率 E′(ωa)/E′sを小さくすることが重要で ある. ゴムの選択または配合設計の一つの指針は,防振支持系 の固有振動数ω0における損失係数 l0= l(ω0)は大きく, 動倍率E′(ωa)/E′を小さくすることである. なお貯蔵弾性率は,荷重の支持による静たわみ xstと固 有振動数に関係する.周波数依存性が無視できるならば, 固有振動数が決まれば静たわみも必然的に決まる. (29) ここに,gは重力加速度である.ちなみに,固有振動数を 15Hzと仮定すれば,静たわみはおよそ1.1 mm程度に留まる. 防振支持の一例として,固有振動数を10 Hzに取り前小 節で示したACMを用いた場合を考えると,その伝達率は 図6に実線で示すようになる.点線で示された理想的な場 合(損失係数と貯蔵弾性率一定)と比較すると,明らかに ACMの動的性質の周波数依存性が伝達率を増加させてい ることが分かる. 4. 制 振 処 理 はりや平板等の部分構造物(以降,部材)が外力によっ て生じる面外(曲げ)共振は騒音源となることがある.こ の共振を抑制するために用いられる粘弾性材料を一般に制 振材と呼ぶ.曲げに伴う制振材の基本的変形としては,主 に伸縮を伴う曲げ変形と,せん断変形がある.図7は,制 振処理部材が曲げ変形を受けた時の微小部分の断面であ る.ハッチングの施された部分が制振材料で,その他は部 材の微小部分である.図 7(a)は,制振材の自由表面が 伸ばされ,接着面は圧縮を受ける伸縮曲げ変形である.図 7(b)は,拘束層をもつので表面は自由な変形が拘束さ れ,主にせん断変形となる.前者は非拘束型制振処理,後 図5 防振ゴム支持系の伝達率 図6 ACMを用いた防振支持系の伝達率 特集0802-佐藤.indd 25 2016/08/03 13:48:15
者は拘束型制振処理と呼ばれている.処理の仕方で減衰の 評価が大きく異なるが,ここでは,比較的単純な非拘束形 の制振処理を例に,制振材料特性が処理部材の特性にどの ように反映されるかを解説する. 4. 1 非拘束型制振処理のメカニズム 制振処理は部材に平行に制振材が貼付されるので,剛性 は直接加算される.制振処理は大局的にみると,図8に示 すように剛性 k1の部材に複素動剛性 k*2=k(1+iη2 2)の制 振材が並列に結合されることになるので,制振処理された 部材の動剛性K*は, (30) したがって,貯蔵剛性はk1+k2,損失剛性はk2η2となるか ら,損失係数η(≡l)は (31) となり,制振処理部材の損失係数ηは制振材の損失係数η2 と剛性比k1/k2に依存する.大きなηを得るためには,高い 弾性率と損失係数が制振材料に要求されるので,制振対象 となる部材の共振振動数が制振材料の転移領域(損失係数 最大)となるように設計される. はり,または平板部材に作用する外力を F0eiωt,等価質 量を m,変位を x とすると,その運動は表 1 の力学モデル (a)の場合に対応し,定常振動の振幅Xは (32) ここに, (33) 制振材の複素動剛性の周波数依存性,K*(ω)=k1+k(ω)2 (1+iη(ω))を考慮し,記号 k′2 (ω)=k1+k(ω)を用いる2 と,振幅の式(32)は次のように書き換えられる. (34) ここに,ω(ω),x0 (ω)そしてηst (ω)はそれぞれ次式で与 えられる. (35) 対象部材の使用温度が制振材のガラス転移温度で,損失 係数がη(ω)が最大となる振動数ωgがω0の近傍に来るよ うに設計することが望ましい.そしてその効果をωgの近 傍で低減させないようにするためには,制振材の貯蔵剛性 k(ω2 g)を大きく,周波数依存性は低くとる必要がある. 前者は制振材の形状係数の厚さを大きくとればよいので, 理論上は可能であるが,対象部材の厚さの何倍にもなるよ うな形状は望ましくはない.それ故,制振材の貯蔵弾性率 も大きくなければ制振材としては不適当である. 4. 2 Oberst はり 非拘束形の制振処理されたはり(複合はり)は Oberst はりと呼ばれ29),制振処理の原型である.曲げ変形を受け る Oberst はりを図 9(a)に示す.図中ハッチングが施さ れた部分は複素弾性率E*,厚さtの制振材,その下側の部 分は弾性率E,厚さhの処理前のはり(制振対象部材)で ある.変形を受けると上表面は伸長され,下表面は圧縮さ れるので,それらの間に伸縮しない面,中立面が何処かに ある.図 9 には 1 点鎖線で示されている.矩形横断面をも つはり単体の場合には明らかにh/2にあるが,このような 複合はりの場合には,横断面の全応力が0となる位置とし て見いだされる.中立面をはり上面からmhの所にあるも のと仮定し,図9(a)に示すように座標を取れば,応力は (36) この積分を実行し,mについて解けば, 図7 制振処理はりの曲げ変形 図8 制振処理はりの曲げ剛性の等価モデル 図9 Oberstはりの曲げ変形
( 27 ) 2 4 7 (37) ただし,n=t/h,e=ℜ(E*/E),E*=E(1+iηv v). ここでは,ばね定数の代わりに曲げ剛性が使われる.複 合はりの曲げ剛性(EI)*は,はりの曲げ剛性と制振材の 曲げ剛性の和で表される. (38) この積分を実行し,m に式(37)を代入し,I = bh3/12 と 置けば, (39) なお,式(38)の実部ははり単体の曲げ剛性と制振材の曲 げ剛性の和になるので,前節の式(30)に対応している. また損失係数は式(38)の虚部を実部で除して得られるの で,式(31)に対応するが,最終的な形は次式のようにな る. (40) 制振材の厚さ比と弾性率の比がかなり複雑に関係してい る.Oberst はりの厚さ比 n = t/h に対する損失係数比η/ηv および曲げ剛性比の変化をそれぞれ図 10 に示す.制振材 の損失係数を大きくとるだけでは,非拘束型の制振処理材 (Oberstはり)に大きな損失係数係数を与えることはでき ない.同時に制振対象のヤング率に対する貯蔵弾性率の比 Ev/E も大きくなくてはならない.Ev/E を大きくとれば, 曲げ剛性も上がり固有振動数も上がる. 制振材としてACMを用いる場合を想定すると,損失係 数の最大値は,約 1 kHz 付近でおよそ 2.2 にもなるが,制 振対象の材質を鋼とすれば弾性率の比 e≈3 × 3.8 MPa/200 GPaはおよそ5.7×10-4のオーダーになるから,ACMの厚 さを鋼板の厚さの 10 倍以上とらないと,制振効果が期待 できないことが,図 10 より容易に推察できる.ACM は tanδは大きいが,貯蔵弾性率が低いため実用的な厚さ(n ≤1)では,制振効果が期待できない. 5. 材料設計への指針 防振支持の主たる目的は,振動絶縁にある.したがって 振動体を支持することができるだけの静的弾性率があれ ば,損失係数はできるだけ小さい方が良いが,防振支持に よって必然的に現れる固有振動数を通過しなければならな いので,固有振動数近傍ではできるだけ大きな損失係数が 必要となる.このように防振材料の損失係数に対する要求 は相反するように見える.実際,多くのゴムの粘弾性特性 からすれば,損失係数のもつ周波数依存性は,増加関数で あるから,相反する要求であると考えられる.したがって 防振ゴムの材料設計に於いては,動的性質の周波数依存性 をできる限り低く抑えるようにすることが望ましい.力学 モデルから見た防振材の設計目標は,貯蔵弾性率及び損失 係数の周波数依存性を低く抑えることである.損失係数に 周波数の減少関数の特性を与えることができれば,複合構 造化した液封マウント等を使う必要がなくなるであろう. 他方,制振材は制振対象部材の共振を抑えることが目的で あるから,制振材には高い損失係数が要求されるが,同時 に高い貯蔵弾性率も必要である.単に損失係数だけが高い 高分子材料は良い制振材料とはなりえない.制振材には制 振対象部材の弾性率の値に近いオーダーの貯蔵弾性率が必 要である. 6. お わ り に 「防振・制振」というと,まとめて取り扱えるかのよう に誤解されることがある.防振と制振は本質的に異なる原 理に基づくものであることを力学モデルを用いて解説を し,力学的視点から防振材と制振材へ要求される周波数特 性について述べた.各材料設計の指針の一助となれば幸い である.なお,ここでは防振材や制振材の温度特性が防 振,制振特性に及ぼす影響については直接触れなかった が,周波数温度換算則が成り立つものと考えれば,その影 響は容易に推察できるものと考え省略した. 図10 Oberstはりの損失係数比と曲げ剛性比の厚さ比に対する変化 特集0802-佐藤.indd 27 2016/08/03 13:48:16
付録 A 伝達率の誘導過程 防振材の動的弾性率が周波数依存性を有する場合の伝達 率の式(2)の誘導過程を以下に示す. 表1に示された伝達率の定義から, (41) (42) 式(42)の分母分子を K′2で除して,K″/K′=l,K′/m =ω2 0と置けば,表 1 中の伝達率の式が得られるが,ここ では防振材の動的弾性率の周波数依存性を考慮して,式 (42)の K′,K″をそれぞれ K′=βE′(ω),K″=βE″(ω) で置き換え,分母分子をβE′(ω)で除すと式(42)は (43) 防振支持設計上,本文中にも述べたように固有振動数ω0 が先行決定されるので,この振動数に対応する防振材の貯 蔵弾性率は E(ω0)= E0と書くことができて,ω0は本文中 の式(4)を満足しなければならない. (44) この式は形状係数βを次のように拘束する. (45) これを用いて式(43)を書き直せば, (46) References
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30)Göbel, E. F.; Brichta, A. M.:“Rubber Springs Design”, Newnes-Butterworths London(1974) 31)Satoh, Y.; Wakui, F.; Sogabe, K.; Shimizu, N.: Dynamic & Design Conference 2000 CD-ROM, JSME D&D Division 32)Satoh, Y.; Iida, D.: Dynamic & Design Conference 2005 CD-ROM, JSME D&D Division 33)Satoh, Y.; Shimizu, N.; Yokomura,T.:“Fractional differenciation and its applications”, p.303(2005) 34)Satoh, Y.; Katoh, A.: Dynamic & Design Conference 2008 CD-ROM, JSME D&D Division 日本語表記参考文献 1)西田政三,古川淳二:日本ゴム協会誌,26,136(1953) 2)平野正勝:日本ゴム協会誌,29,17(1956) 3)松本正保:日本ゴム協会誌,33,799(1960) 4)関口久美,西村正己,厚見一也,藤吉猛夫:日本ゴム協会誌, 33,29(1960) 5)関口久美:日本ゴム協会誌,36,544(1963) 6)吉沢司,井上一雄:日本ゴム協会誌,47,73(1974) 7)小山清:日本ゴム協会誌,48,488(1975) 8)吉沢司:日本ゴム協会誌,49,4(1976) 9)吉沢司:日本ゴム協会誌,49,310(1976) 10)吉沢司:日本ゴム協会誌,49,669(1976) 11)山田慶男:日本ゴム協会誌,52,84(1979) 12)中島善治,松岡主税,清水徹司:日本ゴム協会誌,56,201 (1983) 13)久我新一:日本ゴム協会誌,57,276(1984) 14)浜中剛:日本ゴム協会誌,60,441(1987) 15)大山哲夫:日本ゴム協会誌,64,734(1991) 16)中西幹育:日本ゴム協会誌,64,780(1991) 17)佐藤美洋:日本ゴム協会誌,64,741(1991) 18)阿部真人:日本ゴム協会誌,64,76(1991) 19)中内秀雄,高野伸和:日本ゴム協会誌,67,34(1994) 20)団琢也,煙山英夫:日本ゴム協会誌,67,103(1994) 21)宇津木宏之,小薬次郎:日本ゴム協会誌,73,330(2000) 22)井垣正則:日本ゴム協会誌,78,393(2005) 23)制振工学ハンドブック編集委員会編:制振工学ハンドブック, コロナ社(1998) 24)日本機械学会編:振動のダンピング技術,養賢堂(1998) 25)日本鉄道車輛工業会編:改定防振ゴム(1975)