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抵当権と工場抵当法3条目録との関係について : -優先弁済権の対抗力を中心として- 利用統計を見る

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(1)

抵当権と工場抵当法3条目録との関係について :

-

優先弁済権の対抗力を中心として-著者名(日)

小林 秀年

雑誌名

東洋法学

44

1

ページ

1-21

発行年

2000-09-01

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00000422/

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︻論  説︼

抵当権と工場抵当法三条目録との関係について

    i優先弁済権の対抗力を中心として

イ・

はじめに

東洋法学

 大陸法系の流れをくむわが国の民法においては、一物一権主義が固執せられ﹁独立する物の集合体の上には独 立する所有権は成立しない﹂という原則が存在している。しかしながら、近代経済取引の発展は必然的に信用の        パこ 拡大を伴い、この素朴な一物一権主義を崩壊させたのである。これはとりもなおさず、わが国民法の担保物権の 規定が近代資本主義における立役者として、その役割を十分に発揮するには甚だしく不十分であったことを物語っ   ハヱ ていると指摘されるに及んでいる。  一物一権主義のもとでの金融担保制度としての抵当制度は、若干の欠点︵短期賃貸借・糠除・実行手続など︶ を含んではいるものの、最も優れた担保であると評価することができるであろう。しかし、物的担保としての優

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抵当権と工場抵当法三条目録との関係について 秀性という面からすると、あらゆる物的財産がその担保目的物となりうることが望ましいのであるが、制度的に 二つの制約が内在しているのである。  周知の如くわが国民法は、一物一権主義を基礎においていることから集合物上の物権は認められないことに帰 結するのであるが、企業が企業財産を担保目的物とするためには、多くの財産の集合体からなる企業財産の一括 担保化こそが必要不可欠となってくるのであって、そのことと特定の原則をどのように維持して企業財産の担保 化を図るかということが民法典制定後の立法上の重心的課題となったのである。また抵当権は、担保目的物の占 有移転を伴わないことから、公示手段として質権の如く占有を用いることができず、登記・登録などを用いて公 示手段としたことから、担保目的物は登記・登録になじむもの、すなわち原則としては不動産ということになり、 その範囲は質権と比べて著しく制限されたものとなっている。そこで担保目的物が生産手段である機械・器具の ような場合には、質権を設定したとしても債務者︵質権設定者︶にとっては本末転倒になりかねないことから、 動産抵当制度が望まれることとなったのである。すなわち、一つは目的物に関する確定主義︵特定性︶からの制       マ 約であり、もう︼つは公示の原則からの制約である。  ここにおいて近代経済取引の発展は、民法制定以来財団抵当制度を始めとして証券抵当・動産抵当など幾多の 制度を創設させて、担保物権法が民法中最も多くの特別法を擁する結果となっているのである。  そこで本稿においては、従物理論の進展として制定された工場抵当法の三条目録の法的性質について、同法の 沿革や﹁工場抵当法三条目録を対抗要件としない判決﹂︵福岡高判平成三年八月八日金融法務事情二二一二号二六頁

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以下︶そして、﹁工場抵当法三条目録を対抗要件とする判決﹂︵最判平成六年七月一四日民集四八巻五号二二六頁、 判例時報一五一〇号九〇頁以下︶に至るまでの判例・学説を素材にして、優先弁済権の対抗力を中心に検討するこ とにする。 ︵1︶ 水島廣雄﹁イギリス浮動担保の素描︵企業担保の理論︶﹂中央大学七〇周年記念論文集四六頁︵昭和三〇年︶  増補特殊担保法要義︵企業担保法制理論︶八二頁︵平成三年︶所収︶。 ︵2︶ 我妻 栄・新訂澹保物権法︵民法講義皿︶七頁︵昭和四三年︶。 ︵3︶ 高木多喜男﹁抵当権設定の理論上の問題点﹂加藤一郎・林 良平編集代表 担保法大系第一巻一五二頁以下  和五九年︶。 二 抵当制度と資本主義の発達

東洋法学

 抵当権の在り方について民法典制定後の立法あるいは判例は、抵当権の目的物の範囲の拡大、抵当権の流通性        パゑ 確保、根抵当の承認を中心とする附従性緩和の方向、という点で発展してきたのである。  ﹁抵当権の目的物の範囲の拡大﹂を換言すれば、動産質権の設定者が公示方法として目的物の占有を移転する ことを不便として占有に代わる公示方法として考案された第二の制度である、企業施設を構成する動産の登記ま たは登録である。具体的に言えば、次の三つの方向を指摘することができる。

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抵当権と工場抵当法三条目録との関係について

 すなわち、︿その一﹀1従物理論の進展−

 企業施設の基礎となっている個々の不動産を基盤として、それに付属する動産を]体としてその不動産の運命 に従わしめる方向であり、例としては工場抵当が該当する。

 ︿その二﹀ー集合物理論の進展−

 特定の企業施設を構成する多くの不動産と動産をコ個の不動産﹂ないしコ個の物﹂とみなして、抵当権の        パヱ 客体とする方向であり、例としては各種財団抵当が該当する。

 ︿その三﹀ー動産の不動産化−

 個々の動産について登記または登録の制度を設けて、抵当権の設定を可能とする方向であり、例としては農業 用動産の抵当権が該当する。  民法は、抵当権の効力が担保目的物である不動産の附加物にも及ぶと規定しているが︵三七〇条︶、そこには 従物︵八七条︶が附加物に含まれ抵当権の効力が及ぶか否かについて、かつて判例・学説の争いがあったところ ではあるが、現在では理論構成は別として、従物には、その附属せしめた時期が設定行為の前後に係わらず抵当       ぢレ 権の効力が及ぶとなっている。  工場抵当法二条一項本文によれば、﹁工場二属スル土地ノ上二設定シタル抵当権ハ建物ヲ除クノ外其ノ土地二 附加シテ之ト一体ヲ成シタル物及其ノ土地二備附ケタル機械、器具其ノ他工場ノ用二供スル物二及フ﹂と規定す る。工場抵当権の効力が附加物︵﹁土地二附加シテ之ト一体ヲ成シタル物﹂︶および工場供用物︵﹁工場ノ用二供

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      ヱ スル物﹂︶に及ぶことは、民法におけることと同様であるが、備附物︵﹁其ノ土地二備附ケタル機械、器具﹂︶に まで及んでいることは、民法の成しえなかったことであり、さらに同条但書において民法三七〇条但書と同一の       パニ 規定を設けることにより、前記の民法上の争点については、立法的に解決しているのである。  何故に、法はこのような法律そして規定を置いたのであろうか。  現行民法三七〇条を立案するにあたり起草委員は、旧民法債権担保編第二〇〇条の本来の趣旨を生かすことな く修正し、またドイツ民法第一次草案の﹁抵当権の目的物︵とくに従物︶﹂に関する詳しい規定︵一〇六七条︶       すマ をも生かすことをしなかった。このような立法上の問題、そして民法施行後の日清・日露の戦争により日本経済       パリ はにわかに発展したが、抵当の対象は土地から工場に移行していったことから、これに対処すべき工場施設の有 効な担保化に民法は全く無力な状態であった。すなわち、明治三〇年代に入ると生産資金調達のための抵当利用 に着目されはじめるが、民法自体は西欧法一〇〇年の成果の上に成り立ってはいたものの、形の上だけの継受で        パユ あったことを物語っているのである。これらの事情から、明治三八年には鉄道・工場・鉱業の各種財団抵当法と 担保附社債信託法が制定・施行されるに及んだのである。  工場抵当制度においては、狭義の工場抵当︵工場抵当法二条乃至七条、以下工場抵当法を法という︶そして工場 財団︵法八条以下︶ともに外国において類をみない制度であり、特に狭義の工場抵当は俗に﹁第三条による工場 抵当﹂と呼ばれ、主に中小企業により利用されている。この特別立法により日本法は、やっとドイツ民法︵二 二〇条、九七条、九八条︶やフランス民法︵二一一八条、五二四条以下︶の水準に達したと評価される反面、これ

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抵当権と工場抵当法三条目録との関係について        パお らの諸制度が法的構成の面において民法体系と調和を欠くものであったことから、 包することになったのである。

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)))

       12 11 10 9  8  7 )  )  )  )  )  ) 本稿の如き解釈上の問題を内  我妻 栄編著・判例コンメンタールm担保物権法二〇九頁以下︵昭和四三年︶。  各種財団抵当制度の詳細については、水島・前掲・増補特殊担保法要義を参照されたい。  我妻 前掲・新訂澹保物穰法二五九頁、於保不二雄﹁附加物及び従物と抵当権﹂民商法雑誌二九巻五号一頁以下、 林 良平﹁抵当権の及ぶ範囲  従物﹂民法判例百選1︵第三版︶一八二頁以下︵平成元年︶、斎藤和夫﹁抵当権 の及ぶ範囲ー従物﹂民法判例百選1︵第四版︶一七八頁以下︵平成八年︶、湯浅道男﹁抵当権の効力の及ぶ範囲﹂ 星野英一編民法講座3四七頁以下︵昭和五九年︶など。  民法八七条二項・三七〇条。  柚木 馨﹁工場抵当と機械器具目録の順位﹂金融法務事情四〇〇号三一頁︵昭和四〇年︶。  我妻 栄﹁抵当権と従物との関係について﹂法学協会五〇周年記念論文集︵昭和八年︶。  福島正夫・清水 誠﹁日本資本主義と抵当制度の発展﹂法律時報二八巻一一号六頁。  福島・清水・前掲論文七頁。  福島・清水・前掲論文七頁。 三 工場抵当法 ︵1︶沿   革 日清・日露の戦争を通じて日本経済はにわかに発展したことにより、 鉄道・紡績業を中心に経済界は、低金利

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で豊富な外国資本の導入の必要に迫られる一方、綿紡工業の実業家たちは﹁抵当の機械にも相当の価格を附し評 価されること﹂を始めとして、抵当制度に関して行った建議要望は多くあり、工業分野における生産信用への要       パる 望は十分に高まっていた。その結果、工場抵当法を始めとする三財団抵当法︵鉄道・工場・鉱業︶と担保附社債 信託法とは、明治三八年に成立したのである。  工場財団の立法に際してはプロイセンの鉄道抵当法︵O①ω①旨響R9Φω魯器一旨魯窪一。 。。㎝︶などを参考とし ており、一般の工場にまで財団の原理を拡張したことは欧米に例をみないものであり、日本法の著しい特徴と言 えよう。  この財団の原理をプロイセンの鉄道抵当法にみると、鉄道︵田ω99ぎ⋮冨毎魯ヨ9︶または軽便鉄道 ︵丙一Φ冒び魯壼旨Φヨ魯ヨ窪︶企業は認可を得て財団を設定することができ、財団の組成要素は鉄道総線路 ︵閃9導ま壱R︶・鉄道用地︵〇三且ω岳良Φ︶・工作物︵閃蝉急3ぎ冨昌︶・地上権︵甲び訂自9算︶、経営管理上の 必要資金・経常的な現金・経営上の債権補助金請求権、鉄道企業者の可動有体物︵なお、この動産は譲渡後も鉄 道用地上にある限り財団構成分子とみなされる︶であり、財団組成物の処分は経営能力に影響のないことが証明 されないかぎり効力を生じないとし、抵当権の登録は鉄道抵当原簿に行い、強制執行・強制競売・強制管理につ        パど いては特殊な場合を除いては原則として一般法が準用されている。

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抵当権と工場抵当法三条目録との関係について  ︵2︶ 解釈上の問題  工場の土地または建物に設定した抵当権の効力は、原則として当該土地または建物に附加して一体をなす物お よび当該土地または建物に備えつけられた機械・器具その他工場の用に供する物に当然に及ぶとし︵法二条一項 本文、二項︶、抵当権設定の際に当事者の特約で、あるいは附加または備付け行為が民法四二四条の詐害行為に 該当するときは、抵当権の効力が及ばないこととした︵法二条一項但書、二項︶。工場の土地または建物を目的と する抵当権は、工場抵当法八条以下に規定されている工場財団を目的とする抵当権と区別するため、一般に﹁狭 義の工場抵当﹂または﹁工場抵当﹂もしくは﹁工場抵当権﹂と呼ばれている。それは、抵当権の効力の及ぶ目的 物の範囲を、工場の土地または建物の附加物・従物のほか、従物でない備付物にまで拡大したもの︵従物理論の 進展︶である。  すなわち、工場について抵当権が設定されると、財団組成の手続きをとらない限りすべて工場抵当法の二条な いし七条の規定が適用されるのであり、財団組成という煩雑な手続きをとることなく工場を構成する物的施設の        パを 重要部分が一体として抵当権の対象となることから、工場抵当制度は重要な作用を果たしているといえる。  工場抵当制度の特質としては、民法上の抵当権の効力が及ぶ目的物の範囲に従物が含まれるか否かという議論 が存した時代において、工場抵当権の効力が及ぶ目的物の範囲については、その物が従物か否かを問うことなく、 当該工場の土地または建物の附加物・備附物・供用物である︵法二条︶とし、さらに工場の所有者が工場抵当権 の設定を申請するときは、当該工場の土地または建物の備附物・供用物で法二条により抵当権の目的である物に

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ついては﹁目録﹂を提出すべし︵法三条一項︶とした点である。なお、この﹁目録﹂が三条目録あるいは機械器 具目録と呼ばれているものであるが、法はこの﹁目録﹂を登記簿の一部とみなして、その記載を登記とみなすと 規定したのである︵法三条二項による法三五条の準用︶。そして、﹁目録﹂に変更が生じたときには所有者は遅滞な く変更の登記を申請すべきであり、その場合は抵当権者の同意書またはこれに代わるべき裁判の謄本を添付すベ       パお しとしている︵法三条二項による法三八条の準用︶。これが、工場抵当権が民法上の抵当権と趣を異にする最も重 要なことである。       ハじ  さらに立法の経緯で、次のようなことが明らかにされているので若干長いが引用する。  ﹁立法者はこの工場抵当にドイツ法やフランス法の認めていない特色を加えた。それは、一方で抵当権の及ぶ 機械器具等を記載した目録を登記所に提出せしめるとともに︵工場抵当法第三条︶、その反面としてその機械器具 類がたとえ分離され、第三者に引渡されても、なおこれに抵当権の効力が追及することを認めた︵同法第五条一 項︶点である。この追及力を免れるには、その機械器具類の分離につき抵当権者の同意をえなければ︵中略︶な らない︵同法第六条︶。このような構成は、抵当権の効力を目的不動産の従物に及ばしめる民法的な構成をすで に離れており、機械器具等をいわば﹁登録動産﹂に近い存在たらしめるものといってよい。しかし、この構成に は明らかに無理がある。機械器具類がもつ、民法上の動産としての性質を全く否定するわけにはいかないからで ある。そこで立法者はやむなく第五条二項で民法一九二条を適用し、機械器具等を善意で取得した者を保護する こととした。貴族院の特別委員会はこれを遺憾として、﹁政府委員トモ交渉シテ何力策ガ無カラウカ、何力方法

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抵当権と工場抵当法三条目録との関係について ヲ設ケテ抵当権ノ効力ヲ完ウスル仕方ガ無カラウカト云フコトヲ談ジタ﹂が、﹁機械器具等一二々焼印ヲ捺スト 云フ訳ニモイカ﹂ずこの案をのんだ︵富井政章委員の発言。第一二回帝国議会貴族院工場抵当法特別委員会速記録一 五頁︶。しかし、そのかわりとして立法者は第四九条の罰則を用意した。すなわち、抵当権者の同意をえない機 械器具等の処分は刑罰によって制裁される﹂。  そこで解釈上の問題となるのは、例えば、工場に属する同一の土地または建物について前後して二つの工場抵 当権が設定されたとき、第一順位の工場抵当権の設定登記申請時に提出された三条目録︵機械器具目録︶中に工 場抵当権の効力が及んでいた機械甲の記載が漏れており、第二順位の工場抵当権の三条目録︵機械器具目録︶に は機械甲の記載がされていた場合には、第一順位の工場抵当権の三条目録︵機械器具目録︶に変更登記の申請を してこれを記載した場合、どちらの工場抵当権に機械甲の優先権があるのかということが争われる。  A説︵三条目録︵機械器具目録︶の記載は第三者に対する対抗要件であるとする説︶では、工場抵当権の設定 登記の前後にかかわらず目録の記載または変更登記の前後によることから第二順位の工場抵当権者が機械甲の優        パお 先権を主張できると解するのに対して、B説︵三条目録︵機械器具目録︶の記載ないし変更登記の前後にかかわ らず工場抵当権の設定登記の前後によるとする説︶では、逆に第一順位の工場抵当権者が機械甲の優先権を主張       パお できると解することになる。どちらの説をもって妥当とすべきであろうか。 ︵13︶ 水島・前掲本八八頁、福島・清水﹁前掲論文﹂六頁。

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︵14︶ 1615 )  ) 1817 ︵19︶  水島・前掲本五頁、OΦωΦ嘗まR良oω魯器冒ぎ一けΦp<oヨHP︾瀬島け一。 。貫08Φ9球げR象Φ浮ぎ皿嘗①ぎp <oヨ謡●富βq巽お8︵目まΦ畠︶参照。  高木・前掲本一五九頁。  工場抵当法の制定および同法二条・三条の解釈等に関する最近の詳細な研究としては、船橋哲﹁工場抵当法の 特別法的意義﹂法学政治学論究二九号一四四頁以下︵平成八年︶がある。  清水 誠﹁財団抵当法﹂講座日本近代法発達史41資本主義と法の発展−一二四頁︵昭和三三年︶。  香川保一・特殊担保五七頁以下︵昭和三八年︶、雨宮眞也﹁工場抵当権、各種財団抵当権の実行とその実務上の 問題点﹂︵担保法大系第三巻︶二六一頁、酒井栄治・工場抵当法︵特別法コンメンタール︶六頁︵昭和六三年︶。  柚木﹁前掲論文﹂=二頁以下、我妻・前掲・新訂澹保物権法五七一頁、秦 光昭﹁工場抵当法三条目録・狭義の 工場抵当﹂︵金融担保法講座n︶一七九頁以下︵昭和六一年︶。 四 判例・学説の検討

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 裁判所は同一事件について、﹁工場抵当法三条目録を対抗要件としない判決﹂︵福岡高判平成三年八月八日金融法 務事情二一二二号二六頁以下︶そして、﹁工場抵当法三条目録を対抗要件とする判決﹂︵最判平六年七月一四日民集四 八巻五号一二一六頁、判例時報一五一〇号九〇頁以下︶という、B説そしてA説に基づくという結論に達したので あるが、高裁判決を通してB説を支持する見解が多く出されているので、その点を踏まえながら判例・学説の検 討を試みてみよう。

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抵当権と工場抵当法三条目録との関係について  ︵1︶ 従来の判例および学説  大判大正九年一二月三日民録二六輯二八巻一九二八頁によれば、﹁工場抵当法第三条第一項二依ル目録ノ記載 ハ同条第二項及ビ同法第三十五条二依リ之ヲ登記ト看倣スベキモノナレバ抵当権者ハ目録二記載セラレザル物二 対シ有スル抵当権ヲ以テ第三者ニハ対抗スルコトヲ得ザレドモ抵当権設定者二対スル関係二於テハ目録二記載ナ キ物ト難モ荷モ工場ノ用供スル物ナル以上ハ抵当権ノ効力ハ当然之二及ブモノト為サザル可カラズ﹂ものとし、 最判昭和三二年一二月二七日民集一一巻一四号二五二四頁は、﹁︵三条目録には軽微な附属物に限っては概括して 記載することができるが︶機械器具類は具体的に記載するを要すると解すべきであって、ー︵中略︶1工場 の土地建物につき抵当権設定登記をなすに当たっては、その土地又は建物に備附けた機械器具其の他工場の用に 供する物にして抵当権の目的となるものの目録を提出することを要し、その目録は抵当権設定登記により登記簿 の一部と看倣され、その記載は登記と看倣されるのであるから、前記機械器具等についての抵当権は右目録に記 載された場合にのみ抵当権の効力を第三者に対抗し得るのであるー︵中略︶ーされば本件物件は右目録に記 載なきため抵当権設定登記の効力がこれに及ばず、その対抗力がないとの原判決の判断は結局正当﹂としている。 ・すなわち従来の判例によれば、三条目録に記載されていなかった工場備附物にも抵当権の効力が及ぶこと、な らびに三条目録に記載がない以上、抵当目的物であることを第三者に対抗できないとしている。なお、民事局長 も、﹁新たに備えつけられた機械器具に対する優先権は、抵当権設定登記の順位にかかわらず第三条目録変更登       ハ  記の順位による﹂と回答している。

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 学説のうちA説は、判例や登記実務と同様に、三条目録への記載を第三者対抗要件と解しており、その根拠と して、法二条の法意は民法三七〇条と同じく、工場に属する土地又は建物はその附加して一体を成す物は当然の こと備附けられた機械器具その他工場の用に供する物と一体としてのみ、その社会経済的効用を全うするもので あることから、附加物および備附物を土地又は建物と法律的運命を共にさせて一体として取り扱うところにある。 すなわち、民法三七〇条の一般の土地又は建物と異なって、工場施設である土地又は建物という特殊性から法律 的運命を共にさせる範囲を備附物にまで拡張したにすぎないのである。民法上、登記は不動産物権の得喪変更に ついての第三者対抗要件であることから、工場備附けの機械器具その他工場供用物件の動産についての抵当権の 得喪変更については同条の適用がないようにも解せられるが、工場抵当は不動産とその備附けの機械器具等を一 体として取り扱うことから、これら動産をも含めた抵当権であるので、民法一七七条も当然三条目録の登記につ いて適用あるものであるから、三条目録への記載は備附物についての抵当権の効力発生要件ではなくして、第三        パむ 者対抗要件と解すべきであるとする。  B説は三条目録の登記に対抗要件としての効力を否定すると解しており、その根拠として、工場備附けの機械 器具その他工場供用物件の動産は従物と同一の理論に従うべきであるとの考えから、三条目録への記載がない備 附物であっても﹁備付け﹂という状況において工場抵当権の登記をもって第三者に対する対抗要件とするもので あり、三条目録への記載は単に備附物の範囲を事実上公示するのみであって、対抗要件としての効力はなく、た とえあるとしても、備附物が不法に分離搬出されてそれを取得した第三者に対する抵当権の追及力の問題として

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抵当権と工場抵当法三条目録との関係について 取り扱われるべきであるとする。  B説を妥当とする論拠としては、①理論的側面からの民法上の従物理論との整合性、②実務的側面からの目的        パお 物に対する先順位抵当権者の利益配慮、の二つに要約される。①では、工場抵当法施行当時は従物理論も不十分       パま なことから、抵当権設定時に存在した従物についても、抵当権の効力は及ばないとしていたが、その後の従物理 論の発展により、少なくとも抵当権設定時に存在した従物については抵当権の効力が及び、抵当権の登記があれ        パお ばその効力は第三者に対抗することができるとするに至った点が指摘され、三条目録への記載をもって対抗要件 とする︵A説︶ならば、工場抵当権の従物である備附物については民法上の抵当権の効力よりも厳しい対抗要件 を要求することとなり、法二条の立法趣旨にも反するとしている。②では、三条目録の変更登記は抵当権者の同 意書等の添付を要求するとともに、これを工場所有者の単独申請としている︵法三条二項、三八条ないし四二条︶ ことから、競合する抵当権者の三条目録についていずれが先に変更登記されるかは専ら工場所有者の意思に左右 されることになるので、かりに三条目録の変更登記を対抗要件と解する︵A説︶とすると先順位抵当権者の利益 配慮に欠けることとなる。すなわち、目的不動産に対する工場抵当権の優劣関係と変更後の備附物に対する優劣 関係との間に齪齪が生じた場合、抵当権の実行による売却と配当の手続きにおいて煩雑化の虞れがあるとする。 ︵2︶ 事実の概要・判決要旨      へ最高裁”最判平成六・七・ 一四、破棄自判、民集四八巻五号一一二六頁、

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    判例時報一五一〇号九〇頁 控訴審目福岡高判平成三・八・入、     判タ七八六号一九九頁 第一審”大分地裁中津支判平成三・ 原判決取消・請求認容、金法二二一二号二六頁、 ・二一昭和六三年︵ワ︶第一四三号

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 X︵原告・控訴人・被上告人︶は、A所有の工場に属する本件建物について第一順位の根抵当権設定登記を経 由していた︵昭和六〇年三月⋮二日︶。ところがXは本件建物が工場抵当法︵以下﹁法﹂という︶一条にいう工場 に属する建物であるにもかかわらず右設定登記について法三条に規定する目録︵以下﹁三条目録﹂という︶を提 出していなかった。Y︵被告・被控訴人・上告人︶は、本件建物の後順位の抵当権者であり、その設定登記を経 由していた︵同年一一月五日︶が、本件物件︵ミキサi、集塵機、ベルトコンベアー、各種計量器等八点は、生 コンクリートを製造するバッチャープラントを組成している︶に関しては、当初は三条目録を提出していなかっ た。その後、設定者からYの抵当権に関連して、本件物件が記載された三条目録が提出された︵昭和六一年四月︶。 その後、本件物件を含む本件建物等について競売手続が開始された︵昭和六一年一二月︶。そこで執行裁判所は、 建物については後順位抵当権者であるが本件物件に関して三条目録を提出しているYに対して、本件物件の売却 代金をXに優先して全額交付する旨の配当表を作成した。そこで、Xは右配当表の変更を求めて本訴に及んだ。 すなわち、Xは、本件建物について設定した根抵当権の効力は本件物件にも及んでいるから、その売却代金につ

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抵当権と工場抵当法三条目録との関係について いてもYに優先して配当を受けることができると主張した。  第一審判決は、本件物件を本件建物の構成部分ではなく備附物としたうえで、工場抵当法は、備附物は必ずし も常に従物の範疇に含まれることはなく、独立して取引の対象となる可能性も高いことから、民法上の抵当権の 効力の及ぶ範囲を拡張して、工場抵当権の効力を及ぼすこと、そして三条目録を対抗要件としてこれを公示する ことにしたものであるとし、三条目録は、法三条二項および三五条により登記簿の一部とみなされることから、 目録への記載は登記とみなされる。よって、目録を提出していない抵当権者は、これを第三者に対抗することは できないとして、XのYに対する優先弁済権を否定して、Xの本訴請求を棄却した。︵A説︶  控訴審判決は、次の①から⑤を理由に三条目録を対抗要件とみる原判決の見解を否定し︵B説︶、Xが勝訴。 ①工場抵当権の法的性質は、民法上の抵当権にほかならないこと。②法二条一項・二項は、工場に抵当権を設定 することにより、当然に付加物および備附物でもあるところの工場供用物の双方に抵当権の効力が及ぶことを規 定したものと解されること。③三条目録の提出を対抗要件と解する見解︵A説︶からすれば、工場供用物が従物 であるか否かにかかわらず三条目録の提出がない場合には、工場供用物に工場抵当権の効力は及ぶが第三者に対 抗することはできないと解するのであれば、従物である工場供用物の場合には、不動産につき抵当権の登記があ ればその効力は従物にも及び、これをもって第三者に対抗することができるとする民法上の判例理論との整合性 を欠くことになる。従物でない工場供用物についてのみ三条目録が対抗要件となるという解釈は、工場供用物が 従物か否かという極めて微妙な判断により工場抵当権の効力を対抗できる範囲が変化するという重大な結果をも

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東洋法学

たらすことになるので、法がそのような結果を承認しているとは解することができない.④後順位抵当権者は工 場抵当権を設定するにあたり、先順位抵当権者が三条目録を提出していなくても、工場の登記簿を閲覧したり工 場内外を観察したりして、先順位抵当権や工場供用物の有無を容易に認識することができるので、不測の損害を 被る虞れは稀である。⑤三条目録の記載の変更については設定者の単独申請とされていることから︵法三条二項、 三八条、三九条︶、工場抵当権者の保護に欠ける。三条目録の提出を対抗要件と解する見解︵A説︶を採ったとし ても、記載変更を具備させてやることが工場抵当権設定契約における設定者の基本的な債務の内容に含まれてい ると解することから、手続上、抵当権者には目録の記載変更請求権が認められないということには理解しがたい。  最高裁判決は、﹁工場の所有者が工場に属する土地又は建物の上に設定した抵当権︵以下﹁工場抵当権﹂とい う。︶は、その土地又は建物に付加してこれと一体を成した物及びその土地又は建物に備え付けた機械、器具そ の他工場の用に供する物︵以下、後者を﹁供用物件﹂という。︶に及ぶが︵法二条参照︶、法三条一項は、工場の 所有者が右土地又は建物につき抵当権設定の登記を申請する場合には、供用物件につき目録︵三条目録︶を提出 すべき旨を規定し、同条二項の準用する法三五条によれば、右目録は登記簿の一部とみなされ、その記載は登記 とみなされている。また、法三条二項の準用する法三八条は、右目録の記載事項に変更が生じたときは、所有者 は遅滞なくその記載の変更の登記を申請すべき旨を規定している。  右各条項の規定するところに照らせば、工場抵当権者が供用物件につき第三者に対してその抵当権の効力を対 抗するには、三条目録に右物件が記載されていることを要するもの、言い換えれば、三条目録の記載は第三者に

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抵当権と工場抵当法三条目録との関係について 対する対抗要件と解するのが相当である。﹂︵A説︶として、原判決を破棄して、Xの上告を棄却した。  控訴審判決はB説に拠るものであり、従来の判例とは異なった論拠であることもあってか多数の判例評釈がだ     ハ       パ  されており、最高裁判決︵A説︶の評釈については賛否が分かれている。  たとえば、控訴審判決を支持するところは、実務家の立場からでは﹁いままでの取扱いには各種の不合理を感 じていたことから、今回の判決はむしろ歓迎されるもの﹂と位置づけ﹁三条目録が対抗要件でなく、ただその工 場に備え付けられた機械器具、供用物を念のため公示しただけのものと解すると︵中略︶今後の担保実務に影響        パど を生じてくる﹂としている。B説を支持する学者からは、三条目録に記載されるべき附加物・備付物・供用物の 上には、民法三七〇条によって当然に抵当権の効力が及んでおり、この理は工場抵当においても妥当し、抵当権 自体の順位ばかりでなく抵当目的物である工場の機械器具等に対する優先順位も抵当権自体の登記の前後によっ てその順位は確定するし、さらには目録提出・変更登記についてはそのイニシアティブが工場抵当権者にないこ とから︵法三条一項・二項、三八条一項︶、そもそも三条目録について強力な対抗力を与える前提がないばかりで  パ  なく、従物理論の進展あわせて最近における工場の機械器具等への担保的依存度の相対的低下という傾向の中で       パ  は、三条目録は廃止する傾向で検討すべきであるとの指摘もあり、本判決はB説の流れに沿ったものと位置づけ、 合理的な判決であると支持している。  最高裁判決を支持するところは、工場抵当権の目的物のうちの供用物件と従物との関係において法二条・三条 の文言は従物とは別個の視点から.広く供用物件の範囲を把握しているのであるから、この前提によれば登記との

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関連においても従物には抵当権の効力が及び、それ以外の供用物件については三条目録が対抗要件となるという ような区別をすることは適当でないばかりかその必要もなく、立法形式に種々の欠陥があろうと工場抵当権は明 らかに民法とは異なった特別法により制定された独自の抵当権であるから、立法論とは切り離して基本的にはこ        ︵3 0︶ れを規定する法文の解釈から導くべきであるとする。        2524232221 20 )  )  )  )  )  ) 東 洋 法 学           27  26  昭和三四年一一月二〇日民事甲第二五三七号登記研究一四五号一七頁。  香川保一・工場及び鉱業抵当法七二頁以下︵昭和二八年︶。  雨宮眞也﹁工場抵当法三条目録と第三者対抗要件﹂NBL四九九号一〇頁。  大判明治三九年五月二三日民録一二輯八八O頁。  大連判大正八年三月一五日民録二五輯四七三頁、最判昭和四四年三月二八日民集二三巻三号六九九頁。  半田正夫﹁工場抵当法三条目録の提出有無と対抗力﹂私法判例リマークス一九九三年︵上︶四頁以下、副田隆重 ﹁工場抵当法のいわゆる三条目録の効力、判タ七入六号五一頁以下、亀田廣美﹁解説﹂判タ八二一号三八頁以下、 小林明彦﹁工場抵当法三条一項の目録の対抗要件としての効力﹂ジュリスト増刊担保法の判例−二五四頁以下、︿判 旨不支持﹀雨宮・前掲論文NBL四九九号八頁以下︵民法上の登記制度・登記理論との整合性を重視して︶、︿判旨 支持﹀湯浅道男﹁工場抵当法三条所定の目録と対抗力﹂金法一三三一号三六頁以下、鈴木正和﹁工場抵当法三条目 録を対抗要件としない判例と担保実務への影響﹂金法一三一七号入頁以下、関 武志﹁工場抵当法三条一項の目録 と抵当権の対抗﹂ジュリスト一〇二二号一六九頁以下、吉田光碩﹁工場抵当法三条目録の効力﹂判タ八〇九号四三 頁以下。  ︿判旨不支持﹀荒木新五﹁工場抵当法三条目録と対抗要件﹂判タ八七一号四三頁以下、︿判旨支持﹀滝川章代﹁最 判平六・七⊥四﹂判例評釈四三七号二一四頁以下。  鈴木︵正︶・前掲論文九頁。

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抵当権と工場抵当法三条目録との関係について        

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湯浅・前掲論文金法一三三一号三八頁以下。 秦・前掲論文一八O頁、一八八頁。 滝川・前掲論文二一六頁以下。

五 おわりに

 元来、工場の抵当権の効力が、その工場の経済的作用を営ませるために附加された物はもとより、備附けられ た機械器具その他の物に及ぶことは当然であるにもかかわらず、民法が従物の規定︵八七条︶も抵当権の効力の 規定︵三七〇条︶も不十分なものであったために、当然の事理が認められない虞れがあったことから、工場抵当       む 法は冒頭の数個条でこれを規定したのである。このことは、民法と工場抵当法との法的関係が一般法と特別法と の関係にあるといえる。特別法は一般法に優先するのが原則であり、一般法は特別法に規定がないものについて のみ補充的に適用されるのである。したがって、特別法である工場抵当法二条・三条の解釈および適用にあって       パゑ は一般法である民法上の規定との整合性を求めることには賛同しがたい。また、工場抵当権は民法上の抵当権と       パ  は異なる特別な抵当権であることから、その解釈にあっては工場抵当法に規定する法文から導かれることになろ パお う。立法論としてはB説の指摘に傾聴すべき点も多々ある同法ではあるが、そこを解釈論によって解決すること が、われわれの使命であろう。  A説およびB説を概観して抵当権と工場抵当法三条目録との関係について優先弁済権の対抗力を中心に考察し

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てきたが、そこには日清・日露戦争を契機とした経済的事情からの抵当権に対する実業家からの要望という時代 背景および立法過程における議論などがあり、あわせて抵当権における従物理論の進展さらには近時の非典型担 保の理論的発展にみられるように、解釈法学の果たす役割の重大性が再認識されたわけであるが、これは、恩師        パ  水島廣雄博士が説かれる如く﹁人は法を創り、自然はこれを破壊する﹂の感を深くするものである。         3534 3332 31 )  )  )  )  ) 我妻・前掲・新訂澹保物権法五六九頁。 同趣旨、﹁上告理由﹂判時一五一〇号九四頁。 船橋・前掲論文一八○頁。 滝沢・前掲論文二一六頁。 水島・前掲論文四八頁︵同・特殊担保法要義八四頁︶。

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