人権教育政策の展開と人権教育
一人権教育研究指定校事業にふれてー
梅
田
{
彦
1997
年度から文部省(当時)は、それまで実施してきた同和教育研究指定校事業を廃止し、新 たに人権教育研究指定校事業をはじめた。これは、同和教育・同和啓発を人権教育 ・人権啓発とし て再構成する方針にもとづいて発足した事業である。 では、はじめて創設された人権教育研究指定校事業の対象になった学校は、人権教育をどのよう に理解し、どのような実践を構想したのであろうか。このことの検討を通して、人権教育がどのよ うな形で浸透しているのかを検証する。I
.人権教育研究指定校事業
1.人権教育研究指定校事業の登場 (1)人権教育 ・人権啓発の提起 地域改善対策協議会「同和問題の早期解決に向けた今後の方策の基本的な在り方について(意見 具申 )J (1996
年5
月17
日、以下「意見具申 J)は、教育 ・啓発に関して、二つの現状認識とそれに もとづく課題を示した。 第一は、 r(同和地区内外の)較差は大きく改善されたJが、「高等学校や大学への進学率に見られ るような教育の問題、これと密接に関連する不安定就労の問題、産業面の問題など、較差がなお存 在している分野がみられるJので、「教育、就労、産業等の面でなお存在している較差の是正」が 課題だということである。[r
格差」の是正] 第二は、「差別意識は着実に解消へ向けて進んでいるものの結婚問題を中心に依然として根深く存 在しているjので、「差別意識の解消Jが課題だということである。 [r差別意識」の解消] 二つの課題のうち、[r
差別意識」の解消]に関する施策の方向について、「産見具申Jは次のよ うに述べている。今後は、同和教育 ・同和啓発の「成果とこれまでの手法への評価を踏まえ、すべ ての人の基本的人権を尊重していくための人権教育、人権啓発として発展的に再構築」し、その中 で「同和問題を人権問題の重要な住として捉え一積極的に推進すべき」である。同様な観点から、r
w
人権教育のための国連1
0
年』に係る施策の中でも、同和問題を我が国の人権問題における重要な 柱として捉え、今後策定される圏内行動計画に基づいて教育及び啓発を積極的に推進し、同和問題 に関する差別意識の解消に努めるJべきである。 ここでは、新たに人権教育 ・人権啓発としての再構築が提起されている。ただし、その際「同和 問題を人権問題の重要な柱として捉えj るとか、「同和問題を我が国の人権問題における重要な柱 として捉え」るといった視点が挿入されており、同和問題が人権問題の中心であるかのような解釈 を生む余地を残している。これは、以後の人権教育・人権啓発事業にも影響を与えていくことにな る。 q u 門︿U(2 )人権教育 ・人権啓発事業 「意見具申j をふまえて行われた閣議決定「同和問題の早期解決に向けた今後の方策について」 (1996年7月26日)は、45種目の地域改善対策特定事業(国)を次のように措置するとした。 ア
r
法的措置」によって五年間の経過的措置を講じる事業(15事業) イ.一般対策に移行する事業 (30事業) ①一般対策に工夫を加えて対応する事業(14
事業) ②人権教育・人権啓発の事業に再構成する事業(10事業) ③既存の一般対策によって対応する事業 (6事業) 「一般対策に移行する事業 (30事業)J のうち、「人権教育 ・人権啓発の事業に再構成する事業」 は10事業であるが、その中の5事業(文部省関係)が、次の三つの事業に再構成(創設)された。 すなわち、従来学校教育 ・社会教育で実施されてきた同和教育・同和啓発は一般対策への移行がは かられ、新たに人権教育 ・人権啓発として概括されることになったのである。 ア.教育総合推進地域事業一教育上特別な配慮、を必要とすると認められる地域において、学校、 家庭、地域社会が一体となった総合的な取組みを推進し、児童 ・生徒の学力 ・進学意欲の向上、 家庭や地域社会の教育力の向上等を図る。 イ.人権教育研究指定校事業一学校における人権教育についての実践的な研究を委嘱。 ウ.人権教育総合推進事業一広く人々の人権問題に対する理解と認識を深めるため、社会教育に おける人権に関する学習活動を総合的に推進。 2.人権教育研究指定校事業の概要 (1)事業の特徴 1996年度まで実施されてきた同和教育研究指定校事業(文部省)は廃止され、 1997年度から新 たに人権教育研究指定校事業がはじまった。では、人権教育研究指定校事業とはどのような事業な のか。 文部省「平成九年度人権教育研究指定校事業実施要領J(1997年)によれば、目的は、「人権意 識を培うための教育の在り方について、幅広い観点から実践的な研究を行い、人権教育に関する指 導方法等の改善及び充実に資する」である。「人権意識を培うための教育の在り方」の実践的な研 究が中心におかれている。 研究内容は、「ア.基本的人権尊重の精神を高め、一人一人を大切にした教育の進め方Jr
イ.同 和問題をはじめとする様々な人権問題に係る教育指導のあり方」の二つである。ここで、「人権意 識」とは別に「基本的人権尊重の精神」という概念が示されているが、ほぽ同じ意味と解される。 二つの研究内容が示されたことにより、人権教育が「人権意識を培う教育」という意味と「人権問 題に係る教育指導J という意味に解釈されていくことを容易にしたといえる。(
2
)指定校の指定状況 表 lは、 1997年度"'2001年度の都道府県別人権教育研究指定校の状況である。 1997年度は 123校(幼稚園6、小学校57、中学校47、高校13)、1998年度は 127校(幼稚園8、小学校57、 中学校51、高校11)、 1999年度は 126校(幼稚園7、小学校67、中学校39、高校13) 2000年度 は 135校(幼稚園5、小学校67、中学校47、高校16) 2001年度は 126校(幼稚園3、小学校57、 4 n d中学校
5
0
、高校1
6
)
が指定されている。 5校以上の都道府県は、 1997度は大阪府10校、兵庫県9校、愛媛県7校、奈良県6校、三重県 5校であり、 1998年度は大阪府10校、兵庫県9校、福岡県6校、愛媛県5校、奈良県5校、三重 県5校、岩手県5校であり、 1999年度は大阪府11校、東京都9校、兵庫県8校、三重県7校、愛 媛県5校、福岡県5校であり、 2000年度は東京都13校、大阪府10校、三重県7校、兵庫県7校、 愛媛県6校であり、 2001年度は大阪府9校、兵庫県7校、愛媛県6校、福岡県5校である。 1999 年度・ 2000年度に東京都の指定校数が多かったものの、大阪府、三重県、兵庫県、愛媛県、福岡 県が毎年多数の学校を指定している。 なお、人権教育研究指定校事業の指定期間は「原則として二カ年」である。したがって、事業が 開始された1997年度に研究指定を受け、二カ年間研究を継続した82校(幼稚園4
、小学校37、中 学校33、高校8)が最初に人権教育研究指定校としてまとまった実践を展開したということができ る。 11.人権教育研究指定校における人権教育の理解
ここでの分析の対象は、 1997年度に研究指定を受け、二カ年間研究を継続した82校 である。具体的な教育実践の分析・紹介は小学校・中学校を対象とした。 1.人権教育はどのように説明されたのか 人権教育研究指定校事業である以上、まず人権教育がどのような教育として理解されたかが重要 となる。ところが、以外とも言えるのだが、「人権教育とは何か」について説明している学校は限 られているのである (11校程度)。 このことは逆に言えば、新たに提起された人権教育が内容的に特定しにくい概念であったことを うかがわせる。事実、研究指定校の報告資料(以下、資料)の中には、「研究を進めるに当たって は、ほとんど実践例がなく、まさに、未知の分野に果敢に取り組む勇気が必要とされました。J (小) 「範囲の非常に広い、しかも新しい分野の研究(であり)…昨年度当初は、その糸口さえつかめず に多くの日数を過ごしてしまいました。J (小)といった記述がみられる。 では、何らかの形で「人権教育とは何かJ にふれた学校は、人権教育をどのように説明したので あろうか。 第一は、「人権教育は、誰でも人間として尊重される社会の実現をめざすために行われる教育J (小)r
人権教育=人間が人間としてお互いに尊重され、幸せに生きていくための教育J (中)とい った説明である。だがこれは、社会変革や社会生活との関連で人権教育を位置づけたもので、あって、 教育の内在的な説明になっていない。 第二は、「人権教育とは、生涯にわたる社会の構成員としての人間形成の基盤を養うこと J (小) といった説明である。これは、教育そのものの説明とかわらず、特に人権教育として説明する必要 性は認められない。 F h u n︿ U第三は、「全教育活動のなかで人間尊重の精神を高め、一人一人の子供を大切にした教育を行う ことが人権教育であると考える。ここでいう人間尊重の精神とは、自分を認めるとともに、自分と は違いのある個性を持つ友達をかけがえのない存在と認め受け入れる心である。J(小)という説明 である。これは、文部省実施要領(前述)の研究内容に示されている人権尊重を人間尊重に置き換 えて、そのまま人権教育として説明したものである。内容的にも、人間尊重の精神が「お互いを認 め合う心」という意味で説明されており、道徳教育とほとんどかわらないものになっている。事実、 この学校の資料には、 rw道徳教育~ w心の教育~ w人権教育』といろいろな呼び方や考え方が広まっ ています。一呼び名はどう変わろうと中核になる考え方は、お互いに思いやりのある気持ちを共有 できる子供を育てるととにつきるのではないかと思われます。J と記されている。 第四は、「人権教育=人権を妨げる性・年齢・障害・職業・出身・国籍・生活環境・宗教・財 産・その他による差別を解消し、互いの人権を大切にしていこうという強い意志と実践力を養う教 育J (中)
r
人権教育は社会の中に根強く残っている不合理な部落差別をはじめ、様々な差別を解消 し人権尊重の精神を貫く教育J (中)r
人権教育とは、同和問題を含めた広い視野で捉え、法の下の 平等の原則に基づき、基本的人権を尊重し、日常の教育実践の中で人権意識の高揚と差別事象の解 消を図るものであるJ (小)といった説明である。これは、「人権尊重J に「差別解消」という意味 を加味して説明したものである。では、「差別解消のための教育J とはどういう内容なのかが問題 となるが、この点は後でふれる。 2.同和教育と一体のものとしての人権教育 「人権教育とは何かJにふれた学校は少ないのだが、同和教育もしくは同和教育の延長線上で発 想された教育を、事実上人権教育と一体のものとして説明している学校は多い。 第一は、呼称の仕方からして、人権教育と同和教育を一体化させている学校である。たとえば、 「人権教育・同和教育は一人権に対する感覚を磨き、さまざまな人権侵害に気付き、差別をなくして いこうとする意欲や態度を身に付けさせていくことがねらいJ (小)r
(人権)問題を進んで解決し ようとする意欲や実践力を育てる人権・同和教育の推進は、学校における重要な教育課題J(中) 「人権・同和教育を広げ、深めることにより、未だ残る部落差別をはじめとする様々な差別の解消 を目指していかなければならないJ (小)といった説明である。 第二は、呼称までは一体化させていないものの、人権教育と同和教育を同ーの内容で説明してい る学校である。たとえば、「人権尊重の立場から学校や社会の中に生起している同和問題をはじめ 様々な人権問題を直視して、その不合理に気付くよう人権感覚を磨いていかねばならないJ(小) 「今日なお一根深く残る部落差別の現状を見据えながら、人間形成の重要な時期にある生徒に『人間 の尊さ』を正しく理解させ、差別解消への実践力を学校教育の中で育成していくことは重要な課題 である J(中)r
本校のめざす人権教育、これまでの同和教育の成果を踏まえ、差別に気づき、差別 を見ぬき、差別を許さない人権感覚を身につけた子どもを育成するJ (小)といった説明である。 第三は、同和教育の発展として人権教育を位置づけている学校である。たとえば、「同和教育を 人権教育からとらえ直し、同和教育に学び、人権教育を構築することを基本的な考え方として取り 組んできたJ(中)r
人権教育を、人権尊重の精神を原点として、従来の同和教育の取組を発展的に 再構築すべきものとしてとらえる。一本校における同和教育は、人権教育としての同和教育という 形で、推進する。J (高)といった説明である。円 。
円 台 Uこのように、同和教育もしくは同和教育の延長線上で発想された教育を人権教育と一体のものと して説明している学校が多いのだが、その説明に大きな特徴が見られる。 第一は、「部落差別をはじめとする様々な差別の解消」という表現に象徴されるように、社会に 存花する様々な差別問題 ・人権侵害問題の克服がまず前提におかれていることである。だが、学校 は社会に存在する差別問題 ・人権侵害問題の克服に直接かかわるわけではない。そのために何を教 育の課題として引き取るかが問題となる。そこで、次の特徴につながる。 第二は、教育の課題としては、「あらゆる差別をなくしていこうとする,意欲や実践力J
r
あらゆる 差別や偏見をなくしていこうとする意欲や実践力Jr
差別に気づき、差別を見ぬき、差別を許さな い人権感覚J を育てることが強調されていることである。簡潔にいえば、「差別と偏見を解消する ための教育J ということができる。つまり、人権教育=差別と偏見を解消するための教育、という 位置づけである。川.人権教育研究指定校における人権教育の実践
1 .人権教育の概念の不確かさの意味 人権教育とはどのような教育を意味するのか、それは道徳教育や心の教育とどう違うのか、ある いは同和教育とどのように関連するのか。こうした問題は、当然のこととして研究指定校の検討課 題であったであろう。 ところが、何らかの形で「人権教育とは何か」について説明した学校は限られた (11校程度)。 この限られた学校の説明でも、教育そのものの説明とかわらないもの、道徳教育と呼んだ方が適切 なものなどがある。こうした人権教育概念の不確かさは、各学校の研究不足・認識不足といった問 題ではなく、日本における人権教育概念がもっているもともとの問題である(くわしくは、八木英 二・梅田修編『いま人権教育を問う』大月書庖、 1999年)。 こうした人権教育概念の不確かさは、人権教育の政策的活用の裁量を増大させる。あいまいであ ればあるほど、活用の幅も大きくなる。 第一は、政府関係機関は、人権教育を「差別解消のための教育」という位置づけを経由して、ほ ぽ「人権意識の培うための教育Jr
基本的人権尊重の精神を高める教育」という意味に解し、これ にもとづいて研究指定校事業を組み立てた。人権教育を人権意識の形成の問題に収散させたといっ てよい 第二は、全国同和教育研究協議会をはじめ、同和教育の継続を追及する学校などでは、同和教育 及び同和教育の延長で発想された教育を人権教育と一体のものとして位置づけ、実践を展開しはじ めたといってよしとここでは、人権教育の内在的な検討は希薄で、無前提に同和教育と人権教育が 一体のものとして語られる傾向が強い(3) このように、人権教育概念の不確かさは、人権教育の政策的活用の裁量を増大させる可能性をも つのだが(事実そのように作用している)、学校によっては、以上二つの文脈とは別の文脈で人権 教育を位置づける可能性も生じさせる。こうした学校は多くはないが、いくつか見いだされる(後 述)。 勺 i q δ2.人 権 教 育 =
r
人権尊重の精神(人権意識)を高める教育」について 文部省は、人権教育を人権意識の形成の問題に収散させた。これは、人権教育の論議を「心の教 育Jのレベルにとどめることを意味する。 この人権意識は、中央教育審議会第一次答申が示した「時代を超えて変わらない価値あるもの」 として示されている心c
r
正義感や公正さを重んじる心Jr
自ら律しつつ、 他人と協調し、 他人を思 いやる心Jr
人権を尊重する心Jr
自然を愛する心J) の一つに位置づく内容でもある(人権意識= 人権を尊重する心)。 ここで示されているいくつか心の内、「自然を愛する心」は自然を対象とした意識であるが、「人 権を尊重する心」は「他人と協調し、他人を思いやる心」などとともに、他人との相互関係を対象 に生じる意識である。したがって、人権意識の形成を中心に人権教育を構想すると、人権について の理解だけでなく、どうしても子ども相互の人間関係にかかわる認識や行動の育成(人間関係づく り)が課題として意識されてくる。 したがって、実践的には、二つの課題(①人権についての学習、②子ども相互の人間関係づくり) を住にして指導計画が構想されることになる。二つの課題のうち、「人権についての学習」は教 科 ・道徳で、「子ども相互の人間関係づくり」は特別活動で追求されるのだが、その扱い ・重点の 置き方は学校によって異なる。 (1)人間関係づくりの意識化.
r
一人一人を認め合い、共に育ち合う生徒の育成J (中)をテーマにした学校 この学校は、教科 ・道徳における人権学習も構想しているが、重点は人間関係づくりである。事 実、三つの場面における生徒像(授業場面他の考えを認め、それを生かそうとする。/特別活動一 互いに理解し合い、協力し合おうとする。/生活場面ー思いやりの心をもち、 他人の立場になって 考える。)を示した上で、次のような学年の到達目標を提示している(表 2)。 授業は、本来的には知識 ・技術 ・技能の獲得をめざす活動である。本来の活動を通して、子ども の相互関係の形成にも寄与するという関連にある。ところがここでは、授業も人間関係づくりの観 点から評価するという位置づ、けになっている(ただし、実際の授業が、主としてこの観点から実践 表2 学年の到達目標 第l学年 第2学年 第3学年 目指す生徒の姿 授 友達の発表を真剣 友達の考えに対し 友達の考えのよさ 他の考えを認め、 に聞こうとする。 て意見をもとうと に気づき、取り入 それを生かそうと 業 する。 れようとする。 する。 特 友達の意見をしっ 友達の考えを取り 建設的な意見をも 互いに理解し合い l . lIJ かり聞き、理解し 入れて活動しよう ち、進んで協力し 協力しようとする。 活 動 ょうとする。 とする。 ょうとする。 生 友達の気持ちを考 困っている友達を 友達の気持ちゃ立 思いやりの心を持 1舌 えようとする。 助けようとする。 場を考え、温かく ち、他人の立場に 場 受け止めようとす なって考える。 面 る。 全 一人一人がかけがえのない存在であり、 場 自分を大切にする気持ちを持とうとする。 面 円 δ 内 Jされたのかは資料だけからはわからない)。 (2 )総合化への志向 二つの課題(①人権についての学習、②子ども相互の人間関係づくり)を一体のものとして追求 しようという試みも、当然ではあるが生じてくる。
r
.
互いの人権を尊重し、連帯感を深める生徒の育成ー学校・家庭・地域社会との連携を通してJ (中)をテーマにした学校 この学校では、r
w
連携指導』と『まごころタイム』を核として人権・同和教育に取り組んできたJ とされる。 「連携指導」とは、「社会科の直接的指導が集中する6月と12月の一週間を『人権強調週間』と 設定し、この期間中に集中して」指導をおこなおうというものである。社会科の直接的指導という のは、人権問題・差別問題を扱った授業ということであろう。そして、社会科での指導だけではな く、「道徳では主に、共感的理解を深め『感受性』を育成するために、学級活動では、差別に対す る疑似体験をすることによって、何が差別や偏見にあたるのかを考える中で、差別解消に向けての 『実践力』を育成しよう」というものである。 「まごころタイム」とは、これまでは「社会科の直接的指導後、人権・同和教育の推進が希薄に なりがちであったJという反省のもとに、定期的・継続的に(週一回、 20---30分ほど)実施され てきた「基本的人権に関する学習会J のことである。内容はr
w
いじめ』や『仲間はずれ』など、 日常生活の中で起こりうる問題を取り上げたり、社会科直接的指導の事前準備や事後指導として教 材化を図ってきた」というものである。 いずれにしても、教科・道徳・特別活動の連携した指導ということが前提となって発想された実 践である。但し、連携の有効性は資料からだけで、は判断で、きない。r
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お互いに認め合う心豊かな人権感覚の育成J(中)を研究テーマにした学校 この学校では、「これまでの人権教育は、各教科・領域でそれぞれに行われており、学習が単発 的に終わってしまう傾向」にあったことを反省して、 rw認識~ w心情』を『行動』と結びつけて、 実践力に支えられた豊かな人権感覚を育成する必要があるJとの認識のもとに、クロスカリキュラ ム(関連する学習を相互に関連させたカリキュラム)の編成を追求している。 表3 クロスカリキュラム (1997.6.16-7.5) 1年生 2年生 3年生 主 題 多様な人々の存在に気付 人間の心の弱さを考 身の回りの人権に目を き、それぞれが尊重され える。 向ける。 ることの大切さを知る。 社 会 科 タイガーウッズ 鬼の歴史について調 私たちの生活と政治一 べる一酒呑童子 平等権 道 徳 思い出の一冊の本 いじめ克服のために A子さんとK君のこと 学 級 活 動 互いのよさを見つめ合お 意外なあなたを発見 学級生活における不平 つ。 等について話し合おう 生徒会活動 第一回全体意見交換「男と女はどちらが得か?J 第二回全体意見交換「明るい学校生活の実現を目指してJ ハ 同 d 円 δここでは社会科、道徳、学級活動・生徒会活動のクロス化が追求されており、それぞれの役割に ついて、社会科=人権や人権問題についての「認識」を深める場、道徳=人権を尊重して生活して いこうとする「心情」を育てる場、学級活動 ・生徒会活動=互いの人権を尊重して生活していく 「行動力」を育てる場、と説明している。こうした位置づけにもとづいて、たとえば1997年
6
月1
6
日"'7月5日には、表3のような実践が展開されている。 こうした実践では、社会科や道徳において、めざされている認識や心情がどれほど獲得される のかという問題とともに、それがこうしたやり方ではたして行動につながるのかという基本的な問 題点がある。このことは、資料からだけでは判断できない。関連させて追求すれば、認識 ・心情と 行動は結びつきやすくなるはずだという予定調和的な発想に支えられた構想である可能性が高い。 こうした総合化への志向は強くなっており、「総合的な学習の時間」の設置に伴って一層拍車が かかることが予測される。 3.人 権 教 育 =r
差別と偏見を解消する教育J
について 同和教育及び同和教育の延長で発想された教育を人権教育と一体のものとして位置づけている学 校が多い。ここでは人権教育の内在的な検討は希薄で、無前提に同和教育と人権教育が一体のもの として語られる傾向が強く、人権教育も「差別と偏見を解消する教育」という意味が加味されて理 解されている。 では、こうした位置づけによる人権教育は、実践的にはどのような特徴をもつのであろうか。 「差別と偏見を解消する教育」として何が重視されているのであろうか。.
r
他者の苦しみや悲しむに共感し、自己の姿を見返すことによって、よりよく生きょうとする 生徒を育てる指導はどうあったらよいかー自己を率直に語り合える学級づくりを通してJ(中) をテーマにした学校 この学校は、人権教育を「差別解消のための教育」という意味を加味して把握した上で、研究テ ーマについて、「まず一人一人の生徒の『居場所』としての聞かれた学級づくりを目指して誰にで も気兼ね無く率直にものを言える人間関係の醸成に力を注ぎつつ一教材や資料を吟味して、人権を 侵された人の苦しみや悲しみに共感し、その不当性に怒りを持って立ち向かうことのできる生徒の 育成に努めたいj と解説している。 具体的には、「自己を率直に語り合える学級づくりjを柱にした日常的な活動(教科学習、道徳、 特別活動、家庭 ・地域との連携)を想定している。しかし、人権教育は「日常の全教育活動を通し て実践されるべきものであるが、全学年が同時期に一斉に取り組むことで、より教育効果をあげる 表4 各学年の人権学習 l学年 第一時 身の回りのいじめや差別について考えよう① 第二時 親子でいじめについて考えよう 第三時 身の回りのいじめや差別について考えよう② 2学年 第一時 私たちのクラスにいじめ ・差別はないだろうか 第二時部落差別の問題について考えよう 第=時 差別の問題を本当に自分の問題として考えているだろうか 3学年 第一 ・二時 ビデオを視聴して高校間格差について考える 第=時 よい高校つてなに-40-ことができるJ として、年二回の同和教育強調旬間 (5月・ 12月)に実施される人権学習を「人権 教育の中心」に位置づけているのである。紹介されている各学年の実践例は、表
4
のようなもので ある。 これは、人権問題・差別問題の集中的な学習活動である。つまり、「差別解消のための教育」と いう意味は、実践的には「人権問題・差別問題を中心とした人権学習」の重視ということになる。 . '人権意識を高め、仲間とともに進んで実践する生徒の育成一部落差別をはじめとする差別を なくす意欲と実践力をつけるためにJ(中)をテーマにした学校 との学校の研究テーマは、「人権尊重の精神に徹し、差別の実態を正しく認識し、差別の問題を 自分のこととしてとらえ、積極的に部落差別をはじめとするあらゆる差別をなくしていこうとする 意欲や実践力をもった生徒を育てることの重要性を考え」て設定されたものである。研究テーマに もとづいて設定された研究課題は、教育実践にかかわっては次の二点である。 ①道徳 ・特別活動・教科の慢業実践を通して、人権感覚を培う(・部落問題学習を推進するため の指導内容の焦点化を図る。.体験活動を積極的に取り入れた、学習方法を工夫する。) ②違いを認め合い、一人ひとりの思いや願いを大切にする集団づくりをすすめる(・集団活動を 通して、いろいろな問題を出し合い、解決しようとする生徒を育てる。.仲間とともに学び、高ま り合う人権学習の充実に努める。) これは、二つの課題(①人権についての学習、②子ども相互の人間関係づくり)にもとづいた課 題設定となっている。問題は、何が強調されているかである。ちなみに、各学年の人権学習年間計 画の内容は、表5のようになっている。 表5 各学年の人権学習計画 (一部省略) 一学期 二学期 =学期 1年生 -仲間づく り、集団づ -人間理解と人権尊重 -子どもの権利条約 くり -障害者差別と外国人差別 -基本的人権と世界人 -いじめと部落差別 一体験活動 権宣言 2年生 -科学的合理的なもの -水平社宣言から水平社運 -部落差別の実態 の見方や考え方 動 -部落の歴史学習 -国民的課題としての同和 問題 3年生 -解放運動の成果と課 -県人権センター聞き取り -解放運動と差別撤廃 題 -差別と闘う人たちに学ぶ に取り組む仲間 仲間づくり・集団づくりの課題も設定されているものの、圧倒的に部落問題を中心とした学習計 画である。「人権感覚を培うJための実践として、部落問題学習の比重がすこぶる大きいのである。 このように、人権教育を「差別と偏見のための教育」という意味を加味して推進しようとする場 合、実践的には差別問題の学習を特に重視するという傾向になる。もちろん、ここでも、差別問題 の学習が、はたして差別や偏見に対する批判意識の形成にどれほど寄与するのかという検討すべき 基本的問題点がある。差別問題を学習することが、こうした批判意識の形成につながるはずである という予定調和的な発想に支えられた構想である可能性が高い。 唱E i A 吐4.人 権 教 育 =
r
当たり前の教育」について 人権教育を特別な教育としては設定せず、学校教育そのものの充実を基本にしながら人権教育を 位置づけた学校がある。.
r
一人一人がいきいきとする教育活動一自分の思いを持つ子、互いに認め合う子の育成J (小) をテーマにした学校 この学校の資料には、次のように書かれている。r
w
人権教育だからせねばならない』式の認識で は、時に子供不在の形骸化した研究に陥るであろう。私たちの目の前にいる子供たちの現実と、私 たちの望むべき子供像を見据えた研究を進めていきたいと考える。/この研究が始まったとき、私 たちの『人権教育』に対する与え方は実に暖昧たるものであった。『地対財特法』が期限切れを迎 え、『同和教育』が霧消してしまうような感覚を覚える中、『人権教育』は新しい教育のような錯覚 を覚えた。しかしながら、私たちは一『人権教育』は、決して特別な教育ではなく『当たり前の教 宣』として考えた。一私たちは、『人権教育』を全ての教育活動の根底に流れる普遍的な性格を持つ べきものであると考える。特定の教科・活動ではなく、全教育活動の中でこそ、子供の人権感覚は 磨かれていくものである。J(傍線一梅田) たしかに、研究テーマについて、「子供一人一人に自尊感情が芽生え、育っていくことをめざし ていきたい。一自尊感情の育成こそ、人権尊重の精神の第一歩と考えるからである。J と説明され ているように、自尊感情の育成を主眼においているのだが、実際の研究活動の重点は次のようなも のである。 ①段業づくり一子供一人一人が、自己の力量を最大限に発揮しながら、その可能性を切り開いて いくような授業をめざす。「全教科・全領域で人権教育に取り組むJ という基本姿勢から、学校全 体としての主たる研究教科は、特に設けない。 ②集団づくり一学級 ・学年・異年齢集団を中心とした集団づくり。一人一人の存在が認められる 学級集団づくり。子供一人一人の個性が尊重され、「自分が大切にされている」と実感できる集団 をめざす。 ③学校づくり一子供たちが、日々生活する「学校」を再度、見直していく。具体的には、「物的 環境J (教室環境、掲示 ・緑化等)と「人的環境J (教育活動を支える職員集団、保護者を含めた地 域集団)の見直しを図る。 人権教育は「全ての教育活動の根底に流れる普遍的な性格を持つべきものJと説明されているよ うに、実践的には学校教育全体の充実を図りつつ、その結果として自尊感情の形成をねらうという 構図になっているといってよい。 おわりに 人権教育をどのような教育として考えるかが、当然のこととして実践の内容を規定する。実際は、 人権教育を人権意識の形成の問題に収数させた政府関係機関の位置づけにも影響されて、二つの課 題(①人権についての学習、②子ども相互の人間関係づくり)を中心とした実践を展開する学校が 主流となっている。さらに、これに、「差別と偏見の解消のための教育」という意味を加味して人 権教育を位置づけている学校がかなり存在する。 ここでは、子どもを人権の主体としてとらえ、それにふさわしい子どもの扱いと能力形成をはか 円 , L A せるという観点からの人権教育の位置づけは希薄に映る。たとえば、「主体的な活動(行動)Jを子ど もの自治的な能力の形成との関連で位置づけている学校は少ない。権利主体としての基本的な能力 となる学力形成についても、人権教育の課題として位置づけている学校は限られているのである。 註 (1)二カ年の研究期間が経過した後(1
999
年4
月以降)、82
校に対し、資料(研究集録・・研究発 表要綱など)の発送を依頼した。このうち、学校の事情によって発送してもらえなかった6校を除 く76校の資料を収集できた。基本的には、この収集した資料にもとづいて分析をおこなった。(
2
)全国同和教育研究協議会は、人権教育・人権啓発事業の開始に対応して、1998
年度より I~豊かな人権教育の創造』実践交流集会J を開催している。交流集会参加の呼びかけ文は、 I~豊か な人権教育の創造』実践交流会を開催し、これらの施策に関する具体的な実践に基づいての情報交 換・意見交換をはかり、同和教育を基軸とした人権教育の確かな歩みを交流する機会にしたいと思 いますJ (傍点 梅田)と述べている。人権教育の研究を、「同和教育を基軸とした人権教育」の研 究へと組織したいという意図が率直に表明されている。(
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)森実「人権教育の展開と日本における課題J (中野陸夫ら『人権教育をひらく同和教育への招 待』解放出版社、 2000年)は、人権教育を四つの次元に区分した上で次のように指摘している。 I (人権教育の四つの次元は)同和教育が追求してきたことがらとかなり重なることがわかる。 『人権をめざす教育』として、同和教育は差別のない社会をめざし、それを担える子どもたちを育 てようとしてきた。『人権としての教育』として、同和教育は義務教育を受けられなかった人たち が学べるよう、識字運動を展開してきた。また、子どもたちが自己実現を果たせるように学力保障 を進めると同時に、さまざまな教育機会を利用できるよう奨学金制度の充実など、就学保障に取り 組んできた。『人権を通じての教育』として、同和教育はなかまづくりを進め、最も弱い立場にあ る子どもたちに注目しつつ、すべての子どもたちが生き生きと自己実現していけるようになること を願ってきた。『人権についての教育』として、同和教育は部落問題を中心にあらゆる差別につい て学ぶ内容や方法を創造してきた。j 同和教育は人権教育の四つの次元をすべてふくんでおり、同和教育と人権教育はかなり重なって いるという主張である。だが、こうした説明自体には何か特別な意味があるわけではない。同和教 育と人権教育はかなり重なっているという言い方ができるとすれば、子どもの人権にかかわるすべ ての教育活動が人権教育と重なっているととになるからである。-43
ー表 1 都道府県別「人権教育J研究指定校数 1 9 9 7年度 1 9 9 8年度 1 9 9 9年度 2 0 0 0年度 2 0 0 1年度 iロL 計 幼 中 高 幼 中 高 幼 中 高 幼 中 高 幼 中 高 1997 1998 1999 2000 2001 北海道 1 1 1 1 1 1 1 l 1 2 2 1 青 森 1 1 l 1 1 1 1 2 2 1 1 1 岩 手 1 l l 2 2 1 2 1 1 1 l 1 2 5 4 2 2 宮 械 2 1 l 1 1 l l 1 2 3 2 2 2 2 秋 田 1 l 1 1 1 l l 1 l l 山 形 l 1 l l 1 1 1 l 1 1 2 2 2 2 福 島 l l 1 1 1 l 1 l l 2 2 2 3 1 茨 城 l 1 1 1 1 l l 1 1 1 栃 木 2 2 2 2 1 l 2 2 3 1 4 4 2 4 4 群 馬 1 1 2 l 1 l 1 l l 2 3 2 1 2 埼 玉 1 1 1 1 l l l l O 2 2 東 京 8 1 10 1 2 6 2 1 O O 9 13 4 千 莱 1 1 1 l 1 1 1 2 1 2 l 2 2 2 4 4 神奈川 l 1 l 1 1 2 1 2 1 2 2 1 3 3 新 潟 1 1 2 2 l l l l l 1 2 4 2 2 2 富 山 l l 1 1 1 1 1 l 1 1 2 石 川 1 1 l l 1 1 1 l 1 1 2 2 2 2 2 福 井 1 l l 1 l l 1 l 1 1 山 梨 1 1 1 1 l 1 1 l 1 l 長 野 2 2 2 2 2 2 2 ワ 2 2 4 4 4 4 4 岐 阜 1 1 l l l 1 l 1 l l 1 3 2 2 2 2 静 岡 1 1 1 l l 1 l 1 1 l 2 2 愛 知 1 l l 2 l l 1 l l 2 2 二 重 l 2 1 l l 2 1 l 1 2 1 3 l 2 1 3 l 2 l 5 5 7 7 4 滋 賀 l l 1 1 l 1 1 l 1 2 2 2 2 2 王氏 都 l 1 1 l 1 1 l l 1 l 1 1 1 l 1 3 3 3 3 3 大 阪 2 4 l 3 2 4 1 3 2 6 l 2 l 5 3 1 l 2 3 3 10 10 11 10 9 兵 庫 6 2 1 1 4 3 1 l 4 3 5 2 3 3 l 9 9 8 7 7 奈 良 3 2 1 3 2 2 l l 2 l 2 6 5 4 4 2 和歌山 l 1 1 l 1 1 1 l 1 1 1 1 1 1 1 3 3 3 3 3 鳥 取 2 l l 2 1 l l 3 3 2 1 O 島 根 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 4 4 4 4 4 岡 山 1 1 l 1 1 l 1 1 1 l 2 2 2 2 2 広 島 3 2 2 l 2 1 1 2 3 2 3 3 4 i ll. 口 l l l 1 l 1 2 l l l l 徳 島 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 4 4 4 4 4 香 川 l l 1 1 1 1 1 1 l l 1 l 1 1 1 1 1 1 1 3 4 4 4 4 愛 媛 3 3 1 2 2 1 2 2 1 2 2 2 2 2 2 7 5 5 6 6 高 知 1 2 2 1 2 1 l 2 3 3 2 2 2 福 岡 2 l 4 2 4 l 3 1 4 1 3 6 5 4 5 佐 賀 1 1 l l 1 l l 1 1 1 長 崎 l 1 1 l l 1 1 1 1 l 熊 本 l 1 l 2 l 1 l 1 1 2 2 2 2 大 分 l 1 1 1 1 1 1 l l 1 l 1 l l 1 3 3 3 3 3 宮 崎 l 1 l l 1 1 1 1 1 鹿児島 2 l 1 l 1 1 l 1 1 1 3 2 2 2 2 沖 縄 l 1 l 1 O O l 計 6 57 47 13 8 57 51 11 7 67 39 13 5 67 47 16 3 57 50 16 123 127 126 135 126 1997年度-1998年度のー年継続の学校 4 37 33 8