原. 著
倭タ購,第鞍、輪〕
40歳未満のインスリン依存型糖.尿病148例における
大動脈脈波速度に関する研究
東京女子医科大学 第3内科学教室(主任 平田幸正教授) ト タニ リ エ コ 戸 谷 理 英.子 (受付平成2年9月25日)The Measurement of Pulse Wave Velocity of Aorta in 1481血sulin Dependent
Diabetes M.e皿itus under 40 Years Old. Rieko TOTANI
Department of Medicine III(Director:Prof. Yukimasa HIRATA)
Tokyo Women’s Medical College
In addition to microangiopathy, macroangiopathy has a prognostic value in diabetes. Atheros・
clerosis is said to develop at younger ages and become severer in diabetics, as compared with non・
diabetics. In Japan, however detailed studies on macroangiopathy in young Patients with insulin dependent diabetes mellitus(IDDM)are very few. So, we measured the pulse wave velosity(PWV)and estimated.the degree of. advan6e of atherosclerosis in 1481DDM cases(66 males,82 females)aged
under 40 years(9∼39 years).
Furthermore, the cases were divided by age into three groups, and an毎1yzed for the relationship
between PW and the duration of diabetics or degree of microanglopathy(retinopathy, nephropathy)
in each age group.66 age and sex−matched non・diabetic cases were used as th6 control group. The
relationship between PWV a血d the atherosclerosis・a㏄elerating factor was also studied by multiple
regression analys量s. PWV in the IDDM group significantly exceeded that in the control group from 20 years of age on(p<0.05), and this trend lncreased with aging. When comparison was made between the duration of illness of less than 10 years and that of more than 10 years,PWV showed h孟gher values in the groups of over 10 years duration, in any of age群oup. PW in the IDDM groups showed correlation with the duration of iliness(rニ0.53,pく0.001). No specific rβlationship was observed between PW and
the presence or not of retinopathy and nephropathy, both of which are representative of m圭cro・ angiopathy. PWV showed significantly high values in the nephropathy. PWV was strongly under the
positive influence of the age, systolic blood pressure, duration of illness and obesity(body mass index:
BMI)and under the negative influence of耳DL・cholesterol. These flndings suggest that macro・ angiopathy develops much ealier in IDDM patients as compared with age and sex・mached non−diabetic
controls. 緒 言 糖尿病患者の特有な合併症としては,細小血管 症(microangiopathy)である網膜症,腎症が知ら れてい.るが,一方,冠動脈硬化症や,脳血管障害 等に代表される動脈硬化症(macroangiopathy) は糖尿病患者の生命予後を決定する重要な因子で ある.日本においても,生活の欧米化や糖尿病管 理の進歩に伴い,糖尿病.の死因に占めるma− croangiopathyの比重は大き.ュなってきている. すなわち,Sakamotoら1}の日本における糖尿病 患者の死因調査では,macroangiopathyが全体の 28.7%を占め,糖尿病患者は非糖尿病患者に比べ,
心筋梗塞,脳梗塞な:どの動脈硬化性疾患が原因で
死亡する危険性が約2倍であった.また,
LeCon:1pteら2)によれぽ,糖尿病患者では非糖尿 病者と比べ動脈硬化がより若いときから起こり, その程度も強いと報告されている. 近年,動脈硬化の程度の評価を行う非観血的・ 簡便な検査法として,大動脈の動脈硬化度を測定する脈波伝達速度(puise wave velocity:PWV)
が臨床検査法として確立している.これは, Bramwel13)により報告されて以来,多くの研究を 経て臨床応用されるに至ったものである.PWV を用いて動脈硬化の程度をみた報告4)}9)は,イン スリン非依存型糖尿病(NIDDM)についてはすで に数多く知られているが,インスリン依存型糖尿 病(IDDM)において,特に若年者のみを対象とし た研究は,非常に少なくStellaら10)による報告を
みるのみである.そこで著者は,40歳未満の
IDDM 148名につきPWVを用いて,動脈硬化の
進展と,それに関与すると考えられる諸因子につ き検討を行うこととした. 対象および方法 1.対象 対象は,1983年から1990年4、月に東京女子医大 糖尿病センターに入院または通院中の,40歳未満 のIDDM 148名(男/女66/82,検査時年齢9∼39 歳,平均年齢22.1±6.08歳)であった.これらの 全てにおいて,心電図上虚血性変化はなく,一過 性脳虚血発作や脳梗:塞の既往はなく,末梢の足背 動脈の触知は良好で臨床上閉塞性動脈硬化症のな いものであった. 対照群には健常者65名(男/女31/34,検査時年 齢8∼36歳,平均年齢23.0±7.09歳)を用いた. 糖尿病群,対照群は,現在年齢別に,①8∼19 歳以下,②20∼29歳,③30∼39歳の3群に分けた.各群の肥満度(body mass index:BMI, kg/m2) はほぼ同程度で肥満はなかった(表1). 2.方法 全例にPWVを測定し,年齢別,性別,罹病期
1網悔
。 /→itl一
頸動脈脈波 股動脈脈波 心音図 心電図 … 」 _ tc 股動脈脈波 心音図 頸動脈脈波レ_____縄図
・WV一門網, 融
図1 大動脈脈波速度(PWV:pulse wave velocity)
の測定法および計測法 t:頚動脈と股動脈波の立ち上がり時間差,tc:心II 音,頚動脈波切痕時間差,D:胸骨右縁第2肋間と股 動脈拍動部間の直線距離,p:最小血圧,1.3:解剖 学的補正値 表1 対象 IDDM 対 照 年齢別グループ 性 別 性 別 n 男 女 BMI ikg/m2) n 男 女 BMI ikg/m2) 8∼19歳 56 32 24 20.2±2.7 15 7 8 19.7±⑪.6 20∼29歳 72 28 44 2L2±2.4 39 18 21 20.6±2,2 30∼39歳 20 6 14 21.1±2,9 11 6 5 21,4±2.1 計 148 66 82 20.8±2.6 65 31 34 20.6±2.0 数値はmean±SD, nは症例数を示す,
BMI:body mass index(kg/ln2)
間別,microangiopathy(網膜症,腎症)の有無別 に比較した.
PWVの測定方法は,図1に示した.頚動脈股
動脈,心音を同時記録し,章章波立ち上がり時間 差(t),心II音成分起始部,頚動脈下行脚切痕時間 差(tc),大動脈一罪動脈の解剖学亭亭長(第II肋 間胸骨右縁一股動脈拍動部直線距離D×1.3)がわ かれぽ,大動脈弁士部から股動脈までの平均の硬 さ,柔らかさを速度(m/sec)で表示することがで きる,1.3は大動脈実長算出のための解剖学的補正 値である.なお,PWVは最:小血圧に依存するためPWVを絶対値で表示するためには最小血圧80
mmHgの値に較正表を使って補正する必要があ
る6).PWV測定器としてフクダ電子MECHANO
CARDIOGRAPH MCG−400を使用したが,本機
器を用いれば,自動的に拡張期1血圧を80mmHgに 補正したPWV値が求められるものであった. 血1糖コントロールを示すHbA、cは, PWV測定 時より1.ヵ月以内に測定した値で示した.血清学 コレステロール,HDLコレステロール,中性脂肪はPWV測定時の空腹時に採取した.糖尿病性
microangiopathyとmacroangiopathyの関連を
みるために,網膜症や腎症とPWVとの関係を検 討した.網膜症の診断はすべて当センター所属の 眼科専門医によって行われた.腎症との関係につ いては,持続性蛋白尿のないもの,持続性蛋白尿 があり,血液透析を施行していないもの,さらに 血液透析群(以下HD群)に分け3群で検討した. PWV,血清総コレステロール, HDLコレステ ロール,中性脂肪,現在年齢,罹病期間,血圧,HbAlc,インスリン1日使用量の各数値は,
mean±SDで表し,有意差の検定はStudent’s t・ testを用いた.網膜症,腎症の十三率の検定には κ2−testを用いた.また, PWVと動脈硬化関連因 子(現在年齢・罹病期間・収縮期血圧・拡張期血 圧・総コレステロール・中性脂肪・HDLコレステ ロール。BMI・HbAlc・インスリン1日使用量) との関係を重回帰分析を用いて統計的に検討を 行った. 結 果IDDMの年齢別に分けた臨床像を表2に示し
た.罹病期間,血圧,喫煙率,網膜症および腎症 表2 1DDM群の各年齢別臨床像 年齢別 グ ル 一 プ 8∼19歳 20∼29歳 30∼39歳 n 56 72 20 現在年齢(歳) 16.1±2.6 24.1土2.9 32,3±2.2 BMI(kg/m2) 20、2±2.7 21.2±2.4 21.1±2.9 罹病期間(年) 5.7±4.5 10.9±6.9 17,1±8.3 収縮期血圧(mmHg) 110.9±19,7 116±17,1 126.6±27.6 拡張期血圧(mmHg) 63.6±9.8 70,0±12.8 77.8±1L4 総コレステロール(mmo1〃) 176.4±45.7 193.9±60.8 186.9±43.9 HDLコレステロール(mmol〃) 59,8±14.3 58.9±17.0 62.2±19.8 中性脂肪(mmol〃) .81,1±53.5 96.4±58.4 86,3±44.5 HbA、。(%) 10.15±2.59 10.81±2.4 9.33±2.11 インスリン1日使用量(U/kg) 0.92±0.45 0.71±:0.34 0.63±0.23 喫煙率(%) 8.9 31.9 30 網膜症有症率(%) 12.5 51.4 80 持続蛋白尿有症率(%) 1.8 16.7 40 血液透析施行率(%) 0 5.6 15 数値はmean±SD, nは症例数を示す,PWV
(m/sec) 10 9. 8 7 6 5 4 3 8 00 8 o 80 8 8∼19歳 20∼29歳 I l I } 1 .. l l ooo I o齢:1…li劇
●● I o ● [ 1 ! 5’6│’8「6’1㍊’78 ネー一
● ● 8 ●● 3 ●『● ■ { 30∼39歳一
〇● ● む i§壬 。 … :. 塞 ・鮎 ● 5.30±1.21 6,62±0,82 6.40±0.43 7.47=ヒ1.08対照 IDDM 対照 IDDM 対照 IDDM 図2 1DDM群と対照群における年齢別PWVの比較 対照群(○),IDDM群(●)のPWV値を各年齢別グループ毎にプロットした.数値 はmean±SD, nは症例数を示す. 有意差:*p〈0.05 の有症率は加齢と共に増加がみられた.
1.PWVと年齢別検討(図2)
図2はIDDM群と対照群全例を8∼19歳,
20∼29歳,30∼39歳の3群に分け,1例毎のPWV 値をプロットし各年齢別に比較したものである. 健常対照群においてもIDDM群においても,それ ぞれPWVは年齢の増加と共に高値となった.またIDDM群のPWVの平均値は対照群のそれに
比し常に高値であった.PWVとして表示する単 位はm/secで示したが,8∼19歳では,対照群 5.30±1.21(n=15),IDDM群5.68±0.86(n=56) で,両群間に有意差はみられなかった.20∼29歳 では対照群6.15±0.78(n=39),IDDM群6.62± 0.82(n=72,pく0.05),30∼39歳の群では対照群 6.40±0.43(n=11),IDDM群7.47±1.08(n=20, p<0.05)となり,20歳以上ではIDDM群の方が有 意、に高値であった.2.PWVと性別の検討(表3)
表3 1DDM群と対照群における,年齢別,性別 PWVの比較 年齢別 Oループ PWV(m/sec) 男 女 P 8∼19歳 対 照 522±1.28 in=7) 5.36±1,22 @(8) N.S.IDDM
5.62±0.99 @(32) 5.75±0.64@(24) N.S. 20∼29歳 対 照 6.23±0.88@(18) 6.08±0.68@(21) N.S.IDDM
6.78±0.96 @(28) 6.53±0.70 @(44) NS. 30∼39歳 対 照 6.41±0.54 @(6) 6.40±0.30@(5) N.S.IDDM
7.47±1,19 @(6) 7.46±1.07@(14) N.S. 数値はmean±SD, nは症例数を示す.PWV:pulse wave velocity,大動脈脈波速度(m/sec).
表3は,男女別にPWVを比較したものであ
る.IDDM群においても,対照群においてもとも
PWV
(m/sec) 10 9 8 7 8−19歳 **一
oo ●● 20∼29歳一一
●● 3 ● ● 馨9 00 ● o o 30∼39歳 ■● ● ● 霧・:壽
4 3笏
%
、勿
響 / o o ●● 5,54土0.84 6.21±0.72 6.13±0.64 6.89±0.78 7.04±0,81 7.61±1,14 (12) (25) (47) (5) (15) (n=44) A B A B A B 図3 1DDM群の各年齢における罹病期間別PWVの比較: 各年齢グループで対照群のmean±SDを笏部に示し, IDDM群の罹病期間10年未満 群(A群:○),10年以上群(B群:●)のPWV値を表示した.数値はmean±SDを 示し,nは症例数を示す. 有意差:**p<0.01,***p〈0.001 表4 1DDM群の各年齢群における罹病期間10年未満群と10年以上群の臨床像 有症率(%) “V1
PWV
im/sec) 現在年齢 @(歳) 罹病期間 @(年) 収縮期 @血圧 immHg) 拡張期 D血圧 immHg) BMI ikg/m2) 総コレス eロール immol〃) HDLコレ ースァローノレ immol〃) 中性脂肪 immol〃) HbAlc i%) インスリン P日使用里 iU/kg) 網膜症 腎症 i含HD) A(44) 5.54±*串 @0.84 15.6±**串 @2,6 3.8± @2.7 108,7±零 @11,3 62.5± @9.8 19.9± @2.8 177.9± @44.4 61.0± @14.9 80.7± @56.2 10.33± @2.73 0.89± @0.49 6.8† o 8−19歳 B(12) 6.21± @0.72 17.9± @1.4 12.8± @2.3 120。7± @11.7 67.8± @9.7 21.2± @2.0 168.7± @52.7 55.6± @12 82.6±@45.0 9.53± @1.98 1.01± @0.21 33.3 8.3 A(25) 6.13±**零 @0.64 23.5± @2.7 3.2± @3.4 111.6± @14.3 68.1± @14 20.6±@2.6 189.6± @39.4 55.0± @14.2 98.6± @55.0 1L62±ホ @2.78 0.56±掌 @0.26 12.0† 0‡ 20 │29歳 B(47) 6.89± @0.78 24.4± @2.9 15.1± @4.1 118.4± @183 71.1±@12.3 21.6±@22
197.5±@71.4 61.1± @18.4 96.2± @61.9 10.33± @2.03 0.80± @0.35 72.3 25.5 A(5) 7.04± @0.81 32.0± @1.9 5.0± @3.7 104.8± @14.0 66.8±串* @12.2 23.6± @4.2 185.0± @35.6 56.8± @5.6 73.6±. @31.1 8.89± @2.13 0.49± @0.10 20.0‡ 2.0 30 │39歳 B(15) 7.61± @1.14 32.4± @2..4 21.1± @4.5 13L4±@26.8 80.8± @8.8 20.3± @2.0 185.0± @48.3 64.2± @20.7 90.9± @48.6 9.47± @2.16 0.67± @0.25 100 46.7 数値はmean±SD,()内は症例数を示す. A:罹病期間10年未満群,B:罹病期間10年以上群. HD:血液透析施行例 有意差検定は,同一年齢グループの中の,A群とB群の聞で行った。 *p<0.05, 牌p〈0.01, ***pく0.001 (Student’s t−test) †p<0.01,‡p<0.001(λ=2−test)に性差はみられなかった,
3.IDDM群におけるPWVと罹病期間別検討
(図3) IDDM群の罹病期間を10年未満(A群)と,10年以上(B群)にわけPWVを比較した.8∼19
歳群では,A群5,54±0.84(n=44), B群6.21± 0.72(n=12,p〈0.01),20∼29歳群では, A群 6.13±0.64(n=25),B群6.89±0.78(n=47, p〈 0.001)で,罹病;期間の長い方にPWVが有意に高 値であった.しかし,30∼39歳群では,A群7.04± 0.81(n=5),B群7.61±L14(n=15, N.S.)で 同様の傾向はあるも推計学的に有意の差は得られ なかった.また,30歳未満の若い2群においては, 罹病期間の短いA群では,斜線で示した対照群と の間に差を認めないが,同年代のB群では対照群 を有意に上回った(p<0.05∼0.001).なお各年齢群の中におけるA群とB群との,現在年齢,血
圧,BMI, HbA、cなどPWVに影響を与えると考 えられる検査値を表4に示した.現在年齢では8∼19歳群においてA群はB群に比べ有意に若年
であったが,20歳以上の各群間には有意差は認めなかった.次にA群,B群と区別せずにIDDMの
全例について罹病期間とPWV値を図4に示し
たが,両者間に有意な正相関(r=0.53,p<0.001) が認められた.4.IDI)M群における年齢別PWVと網膜症と
の関係(表5) 網膜症のない群〔R(一)〕,網膜症のある群〔R (十)〕に分け,PWVを比較した.20∼29歳群での み,R(一)群6,35±0,73(n=35), R(十)群6.88± 0.81(n=37,p<0.05)と,弱いながらも有意差 を認めたが,他の群では網膜症の有無とPWVの 間に特定の関係を見出せなかった.5.IDDM群における年齢別PWVと腎症との
関係(表6) 持続性蛋白尿のない群〔N(一)〕,透析中のもの を除いた持続性蛋白尿のある群〔N(+)〕,血液透 析施行群(HD)とに分け, PWVを比較した.20 歳未満群ではN(十)群が1例しかなく,腎症の 有無で比較することはできなかった.20歳代,30 歳代の2群では,N(一)群とN(+)群の間に 10.0 8.0 言 署6・・ ; 託4・o 2.0 8 馨 ● ●8●8 ・ ・.8● ● o ● ● ・§:・;:ぬ:≒・・.ii’:馨:3i!∵・’
n=148 r;0.53 y二〇.077x十5,625 p〈0.OG1 0,0 Q 5 10 15 20 25 30 durati。n(years> 図4 1DDM群における罹病期間とPWVの相関 表5 1DDM群における網膜症の有無と年齢別 PWVとの比較 PWV(m/sec) 年齢別グループ R(一)群 R(+)群 P 8∼19歳 5.68±0.83(49) 5.65±1.09(7) N.S. 20∼29歳 6.35±0.73(35) 6.88±0.81(37) 〈0.05 30∼39歳 6.77±0.64(4) 7.63±1.10(16) N.S. 数値はmean±SD,()内は症例数を示す. R(一):網膜症なし,R(+):網膜症あり. 表6 1DDM群における持続性蛋白尿,血液透析施 行の有無と年齢別PWVとの関係 年齢別グループ PWV(m/sec) N(一)群 N(+)群 HD群 P 8∼19歳 5.66±0.58@ (55) 6.3i1) 』 『 20∼29歳 6.54±0,78*@ (60) 6.73±0.88@ (8) 7.62±0.51傘@ (4) 象くQ.G5 30∼39歳 7.09±0.85*@ (12) 7.28±0.58@ (5) 9.26±0.75傘@ (3) 零く0.05 数値はmean±SD,()内は症例数を示す. N(一):持続性蛋白尿なし,N(+):持続性蛋白尿あり,但 しHD群は除く,HD:血液透析施行例. 有意差*p<0.05.同一年齢グループのN(一)群,HD群と においての比較 PWVの有意差は認められなかったが, N(一)群とHD群との間にはPWV値に有意差が認めら
れた(p<0.05)。 6.II)1)MにおけるPWVと動脈硬化促進因子 との関係についての統計学的検討(表7) PWVと動脈硬化の促進因子について重回帰分 析を行ったところ,PWVと上記の促進因子との一75一
表7 1DDM群におけるPWVと動脈硬化促進因子 との関係についての統計学的検討一重回帰分析を 用いて一 . 項 目 標準偏回帰係数 F値 重相関係数 現在年齢 0,418 38.31林 収縮期血圧 0,321 28.60串* 罹病期間 0,188 7.13纏 0,752 HDLコレステロール 一〇.136 5.95* BMI 0,120 4.41* 総コレステロール 一〇.043 0.48 HbAlc 0,030 G.28 拡張期血圧 一〇.051 0.46 中性脂肪 0,005 0.01 インスリン1日使用量 0,017 O.07 有意差*p<0.05,纏p<0,01 標準偏回帰係数は,現在年齢0.418(p〈0.01),収 縮期血圧0.321(p<0.01),罹病期間0.188(p〈 0.01),HDLコレステロールー0.136(p<0.05), BMI O.120(p<0.05)の順で,それらの重相関係 数は,0.752であった.以上の因子が,PWVに関 与する影響が強く,そのほかの因子の及ぼす影響 は強くなかった. 考 察 動脈硬化は,本来病理学的な概念であり,動脈 壁の肥厚,改築,弾性の低下すなわち硬化,機能 低下を示すとされている.その進展により,動脈 壁そのものの剛性,硬さが増大するという考えが 正しければ動脈硬化症の程度を物理的方法によっ て定量的に測定することは可能である.PWVは, この理論に基づいて開発され,現在臨床応用に 至っている.大動脈は弾性血管であるため,血管 運動神経支配の影響は考慮する必要はないとされ ている11). PWVの信頼性については,病理所見と対比し た報告12)13)があり,病理所見に基づいたPWV予 測値と実測値との間には,高い相関(r=0.86)が 証明されている.これは,PWVの信頼性が高いこ とを裏付けるものであり,この実測値から逆に定 量的な病理組織の推定も可能であることを示して いる. 動脈硬化の進展および分布は,個体別,臓器別 の特異性を有するが,一般に大動脈が最も早期, かつ高度に硬化病変をきたし,以下順に総腸骨動 脈,頚動脈,各臓器動脈となる14).系統的病理解剖 結果を分析したPWVと脳・冠動脈硬化度の関連 については,PWV 7m/sec未満の大動脈硬化度が 正常ないし軽度なものは脳・冠動脈硬化は認めな いが,PWV 10m/sec以上の大動脈硬化度が著明 高度なものでは,脳動脈硬化の合併率64.3%,冠 動脈硬化の合併率41.7%であったと報告されてい る15). 長谷川ら16)は,、健常者106,968例についてPWV を測定し,乳児で平均4.7±0.4m/sec,70歳以上で 9。6±0.9m/secと加齢と共に値が増大すること を示した.これによると0歳から20歳代までの PWV値の増大は大動脈の成長により,20歳代か ら30歳代までは成熟期の変化,40歳代以降は生理 的な大動脈物性の老化過程を表すとしており,高 齢になるとその分散も大きくなり,個体差が出現 してくることがわかる.性別差に関しては,30歳 代以前では女性のPWV値は若r二低く,40歳代で 一致,50歳代以降では逆に男性が若干下回るが有 意差はないとしている.また,この健常群と比較
検討した428例の糖尿病群のPWVは30歳代から
70歳代までp<0.001と有意差をもって健常群を 上回り,30歳台で同年代健常者に比べ約1m/sec の高値を示し,その後も増大し,70歳台では2m/ sec以上の高値を示すとしている.また,個体経時 推移では糖尿病は健常人の2.6倍の速さで動脈硬 化が進行するとしている6).本邦における小児糖 尿病例でのPWVを用いた報告は,陣内ら4)の,15歳以下発症の小児糖尿病患者(IDDM.と
NIDDM)42例・(6∼30歳)を対象としたものがあ る.いずれもPWVは対照群より高値であり,さ らにPWVは蛋白尿,血圧,総コレステロールと 相関を認めたと報告した.小児IDDMのみを対象 とした血管弾性についての報告は,Stellaら10)が 行っている.それによると,・IDDM群(9.32±5.90 歳)は,対照群(8.86±3.36歳)と比べ有意にPWV 高値であり,罹病期間とPWVに正相関を認め, HbAlとPWVには関連はないと報告した.本著では,個人差が大となる以前の,40歳未満 に焦点を当て,しかもIDDMという発症時期の明
らかな患者を対象としてPWVによる動脈硬化
度を測定した.その結果,20歳未満の若年の
IDDMでは,対照群との間に有意差がみられな
かったが,20歳以降では対照群より高値であった.加齢とPWVについては,今回の結果でも図2に
示したごとく,10歳代から30歳代においてPWV値は増大し,20歳代以降,IDDM群のPWVは対
照群と比べ有意差をもって増大し,20歳代で,約 0.5m/sec,30歳代で約1m/sec高値であった.加齢による変化は若年であってもIDDMにおいてよ
り強いことが示唆された.糖尿病の罹病期間とPWVの間には,図4に示
したごとく正の単相関がみられ,罹病期間が長期 であるほどPWVも高値となり,動脈硬化が進展 している傾向が認められた.これについてはすで にいくつか同様の報告7)16》がある.但し,NIDDM では正確な発病時期が明らかでないことが多く, 今回のIDDMのように,発症時期が明確な例を対象として罹病期間とPWVとの正の相関関係が
認められることは,糖尿病そのものが動脈硬化を 進展させる強力な危険因子であることを物語って いると考えられる.また,30令外のIDDMで罹病期間10年以上の群でSDの値が大きくなったの
は,腎症が含まれる率が高くなり非HD群とHD
群とのPWVの差が大となったためと考えられ
る. 高血糖状態が動脈硬化を促進させるか,という点については,血糖コントロール状態を表す
HbAIcとPWVとは関連はみられなかった.坂本
ら8)はHbA、c値9以上群のPWVは,7以下群に
比し有意な(p〈0.01)高値を示したと報告した が,長谷川ら6)は,血糖を正常化しても動脈硬化の 進展阻止もしくは退縮があるとは考えられないと している.Framingham study17)などのprospec・ tive studyによれぽ,冠動脈疾患などの動脈硬化 性血管障害が糖尿病に多発することから高血糖が 危険因子であるとしているが,University Group Diabetes Program18)の成績では,血糖値を低下さ せても心臓血管死を減少させ得なかったと報告 し,高血糖と動脈硬化性疾患の関係については一 定の見解をみていない.今回用いたHbAlcは,PWV測定時より1ヵ月以内の値であり,糖尿病
発症後からPWV測定時までの長期にわたる血
糖の状態を示しているものではない.また,対象 年齢が報告例に比べ若年であり,明らかな動脈硬 化性疾患を発症していないことなどから,HbA、c の高値,すなわち高血糖状態がPWVに与える影 響が少なかったと考えられる, 高血圧は,動脈硬化の代表的な危険因子のひと つであり,従来の報告7)と同様,重回帰分析の結果 からもPWVに及ぼす影響が強いことを示した. 糖尿病では罹病期間の長いほど,腎症の合併率も 高くなり,それに伴い血圧も上昇する.また,高 血圧による血管内皮の障害が,動脈硬化をより促 進するといおれており,PWVはその状態を反映 しているものと考えられる. 脂質とPWVとの関係については,総コレステ ロール,中性脂肪はともにPWVとは関連を示さ なかったが,抗動脈硬化作用があることで知られ るHDLは,負の影響を示した.糖尿病において は,インスリン作用不足の結果生ずる高中性脂肪 血症,高コレステロール血症,低HDL 1血症および 糖化LDLが動脈硬化に促進的に作用していると 考えられているが,脂質とPWVとの関係につい てはいまだ一定の見解がない.新井ら19)は,1血清脂 質の高い50,60歳代では血清コレステロール,中性脂肪値とPWVとに有意な正相関を,また
HDLとは負の相関を示したと報告し,坂本ら8)は高コレステロール血症でPWVの上昇を報告し
ている.i森田7)の報告では,脂質とPWVとの間に は関連は認められなかったとしている.Newman ら20)は,非糖尿病の5∼24歳までの35例の剖検例 から,動脈硬化の初期病変とみられる脂肪線条の 占める割合は,大動脈においては血清コレステ ロール,LDLコレステロール濃度と正の相関を, 逆にHDLコレステロールと負の相関傾向を示し たと報告し,小児においても危険因子の存在が動 脈硬化を早めることを明らかにした.今回,対象 年齢を40歳未満としぼった群においてもHDLが PWVに負の影響を示したことは,この脂質異常一77一
の中でも,HDLが最も強く動脈硬化の進展抑制 に関わっている可能性があることが示唆された.. 近年,高インスリン血症が動脈硬化症の危険因
子であることが明らかにされてきている.
Ducimetiereら21), Py6rar註22)は,冠動脈疾患と空 腹時インスリンレベルとの間に有意な正の相関が あることを報告し,NIDDMにおける内因性高イ ンスリン血症と冠動脈疾患との関連を示した.ま たStout23)は,動脈壁にインスリンを作用させる と中膜平滑筋細胞の増殖,脂肪分解の抑制,コレ ステロールや中性脂肪の合成がみられることか ら,インスリンが動脈硬化を促進する可能性を示 した.生理的には膵で分泌されたインスリンは肝 を通過することにより濃度が調節され,食事摂取 により分泌が促進されている.インスリン注射を 行った場合,末梢よりインスリンが注入され,肝 というmterを通過せず,末梢血中に過量のイン スリンが存在する可能性がある.今回,IDDMにおける外因性高インスリン血症とPWVとの関
連を,インスリン1日使用:量(U/kg)とPWVに おきかえて検討したが,相関は認められなかった. しかし,対象となったIDDM患者らが今後冠疾患 を発症する可能性もあり,引続き経過観察をする 心要があると考えられる.microangiopathyとmacroangiopathyとの関
連については,n!icroangiopathyの進展にともな い,PWVも高値を示すという報告6)7)9)も見受けら れたが,今回の結果では,HD群以外には特に関連 は認められなかった.しかし,HD群は血圧も高 く,それのみでmicroangiopathyが進展したため にPWVも上昇したとは言い切れない.網膜症の 有無,HD以外の腎症の有無と,PWVに明らかな 関連がみられなかったことは,対象が若年である・ことが影響を及ぼしている可能性もある.
Knowlesら24)は, IDDM 108例のprospective studyを行い,罹病期間と細小血管症および動脈 硬化症の発症・進展への危険性を経年的に観察し たところ,両者ともが経年的に増加することを明 らかにした.しかし,発症に至る期間は両群で大 きく異なり,動脈硬化症の併発率が全症例の30% を超えるのは罹病期間30年以上であるが,網膜症 は15年,腎症は20年と進展する期間に差を認めた. この報告からも,macroangiopathyとmicroan− giopathyの進展が,並行していないことが伺われ る. 今回,明らかな動脈硬化性疾患を有さない若年 のインスリン依存型糖尿病において,20歳代です
でに同年代の健常対照者と比べPWVが高値と
なっていることは,無自覚,無症候に経過する今 後の動脈硬化性疾患の合併を予測診断する上でも PWV測定は意義があるものと考えられた.また, 今回対象となった若年のIDDMの各症例が,今後 どのような経過をたどっていくのかという予後調 査も含め,PWVによる長期にわたる経過観察が 必要であると考えられた, 結 論 非観血的・簡便な動脈硬化診断法であるPWV 法を用いて,40歳未満のIDDM患者148名におけ る大動脈の動脈硬化度の進展を年齢別に比較検討 した.PWVは,20歳未満の若年のIDDMでは, 健常対照群との間に有意差がみられなかったが, 20歳以降では対照群より有意に高値であり,大動 脈の動脈硬化が進んでいる所見が得られた.罹病 期間が10年以上と長期になるほど,20歳未満から PWVは高値となる傾向がみられた.重回帰分析 の結果,IDDMにおいて, PWVには加齢,収縮期 血圧,罹病期間,肥満度(BMI)の正の影響が強 く,一方HDLコレステロールの負の影響を認め た.また,microangiopathyである網膜症,腎症 の有無はPWVの上昇とは関連を認めず, ma−croangiopathyとmicroangiopathyの進展には
差があると考えられた. 稿を終えるに当り,御指導,御校閲を賜りました平 田幸正教授に深謝申し上げます.また,終始御指導, 御助言を賜った河原玲子助教授に感謝の意を捧げる と共に,PWV測定の手ほどきを頂いた新城孝道先生, 御協力頂いた糖尿病センターの諸先生,検査技師の皆 様に感謝致します. 文 献1)Sakamoto N, Hotta N, Kakuta H et al:The
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