一般向け「小児滲出性中耳炎診療ガイドライン」解説書
小児滲出性中耳炎診療
ガイドラインについて
一般の方・おうちの方へ
● 滲 出 性 中 耳 炎 と は ・・・ 詳 し く 解 説 し ま し た ● 状 態 に 応 じ た 治 療 に つ い て 解 説 し ま し た ● ど う い う 状 態 か、治 療 に つ い て は 主 治 医 の 先 生 に 相 談 し ま し ょ うおわりに
ガイドラインには推奨(お勧め)している治療法が掲載されており、診療の 現場で活用していただくことを考えて作られています。しかし、実際の診療 では「ガイドラインにのっているから」と一律に当てはめることは適切では ありません。個々のお子さんによって状態や生活環境に違いがあり、最終 的にはお子さんや保護者の方のご希望、価値観などによって治療法を決め ていく必要があります。 お子さんの具体的な状態や治療などは、主治医の先生とよく相談しお決め ください。このガイドラインが少しでも多くの患者さんのお役に立てれば 幸いです。 小児滲出性中耳炎診療ガイドライン作成委員会 小児滲出性中耳炎診療ガイドライン作成委員会 担当理事 飯野 ゆき子 小島 博己 小林 俊光 髙橋 晴雄 委員長 伊藤 真人 出版元:日本小児耳鼻咽喉科学会 価格:200 円(含消費税)送料実費 委員 上出 洋介 工藤 典代 黒木 春郎 小林 一女 髙橋 吾郎 仲野 敦子 中山 健夫 日高 浩史 吉田 晴郎 日本耳科学会1 2 滲出性中耳炎は、鼓膜の奥(中耳)に液体がたまるお子さんに多い中耳炎で す。子どもの難聴の原因として多い病気ですが、急性の炎症がないため無症状 で気づかれないことも多く、そのままにしておくと難聴による言語や学習への 影響、鼓膜の変化が残ることもあります。 「小児滲出性中耳炎診療ガイドライン」は 2015 年に初版が出されました。 ガイドラインには滲出性中耳炎に関する情報がたくさん載っています。その内 容をもとに、保護者の方とお子さんのために解説書を作りました。
小
しようにしんしゆつせいちゆうじえん児滲出性中耳炎とはどんな病
び よ う き気なの?
鼓
こ ま く膜の内
う ち が わ側の中
ち ゆ う じ耳と呼ばれるところに、感
か ん せ ん染などにより慢
ま ん せ い て き性的な炎
えんしよう症(中
耳炎)が起
おこり、液
え き た い体(滲
しんしゆつえき出液といいます)がたまっている状
じようたい態です。
解 説 ● 滲出性中耳炎は中耳に液体がたまり、鼓膜の振し ん ど う動が悪わるくなって聞きこえにくくなる病び よ う き気 です。 ● かぜ、鼻び ふ く び く う え ん副鼻腔炎、急きゅうせいちゅうじえん性中耳炎などのあとに中耳の炎症が起こると、中耳の圧あつりょく力が 下がり滲出液がたまるようになります。 ● 耳管や乳突蜂巣などの状じょうたい態が良よければ、中耳炎や滲出液は自し ぜ ん然によくなることもあ りますが、そうでない場ば あ い合は、中耳に液体がたまる滲出性中耳炎となることがあります。A
Q1
さん耳のつくりとはたらき
右耳を前からみた図
耳みみは大きく外が い じ耳、中ち ゅ う じ耳、内な い じ耳に分わけられます。耳の奥おくにある鼓膜の内側には空く う き気が 入はいった中耳とよばれる空く う か ん間があり、耳じ か ん管という管くだで鼻はなとつながっています。また、 中耳のまわりには、乳にゆうとつ突蜂ほ う そ う巣という空間があり、耳管とともに中耳の換か ん き気をする働はたら きがあります。Q3
どんな人
ひ とがかかりやすいの?
滲
しんしゆつせい出性中
ち ゆ う じ え ん耳炎は子
こどもに多
お おい耳
み みの病
び よ う き気です。特
と くに小
しようがつこう学校に入
は いるまでのお
子さんに多く、年
ね ん れ い齢が上がるにつれてしだいにかかりにくくなります。
解 説 ● 1 歳さいまでに50%以い じ よ う上、2 歳までに60%以上、小学校に入るまでに90%の子ども が1回かいはかかるといわれます。 ● 滲出性中耳炎が治なおった後あともまた中耳炎になった、というように繰くり返かえす場ば あ い合もありま す。小ちいさなお子さんでは、急きゆうせい性中耳炎(中耳に膿うみがたまり発は つ ね つ熱や痛いたみなどが出でる)と 互たがいに移い こ う行することも多いです。 ● 子どもの滲出性中耳炎では、鼻はなやのどの炎えんしよう症が原げ ん い ん因になっていることが多いのも 特 とくちよう 徴です。A
Q2
どんな症
しようじよう状がでるの?
中
ち ゆ う じ耳に液
え き た い体(滲
しんしゆつえき出液)がたまるために、耳
み みがふさがったような感
か んじ(耳
じ閉
へ い か ん感 )、聞
きこえが悪
わ るくなる(難
なんちよう聴)などが起
おこります。発
は つ ね つ熱や痛
い たみはほと
んどありません。自
じ ぶ ん分で症状を伝
つ たえられない乳
に ゆ う よ う じ幼児では、耳をさわった
り頭
あたまを振
ふる、呼
よびかけへの反
は ん の う応が鈍
に ぶくなるなどの行
こ う ど う動や態
た い ど度でわかるこ
とがあります。
解 説 ● 耳閉感: 中耳に液体がたまると、耳閉感とよばれる耳がふさがった感じがします。 耳がヘンだ、という違い和感わかんもあります。 ● 難聴: 中耳にたまった液体などで、鼓こ ま く膜の振し ん ど う動が悪くなり、音おとが十じゆうぶん分伝わらなくなるため、 聞こえが悪くなります。乳幼児は自じ か く覚しないのですが、小しようがくせい学生以い じ よ う上では聞こえの悪 さを感じることがあります。聞き返かえしが多おおい、テレビの音が大おおきくなるなどにより、 周 し ゆ う い 囲から気きづかれることもあります。A
5 6
Q4
滲
しんしゆつせい出性中
ち ゆ う じ え ん耳炎になると鼓
こ ま く膜はどのようになるの?
中
ち ゅ う じ耳に液
え き た い体がたまると、鼓膜がへこんだりします。また、長
な がい間
あいだ液体が
たまっていると、鼓膜が薄
う すくなるなどの変
へ ん か化が強
つ よくなります。
解 説 ● 液体の貯ちょりゅう留: 正 せいじよう 常では、中耳には空く う き気が入はいっており、液体はたまっていません。滲出性中耳炎では、 中耳の液体(滲しんしゆつえき出液)が鼓膜から透すけてみえます。A
陥凹
鼓膜の菲薄化・接着
液体 ● 鼓膜陥か ん お う凹: 鼓膜がへこんでいることを鼓膜陥凹といいます。中耳と外が い じ耳との圧あつりよく力の差さによって 奥 おく に鼓膜がひきこまれている状じようたい態です。 ● 鼓膜の菲ひ は く か薄化・接せっちゃく着: 長ながい間あいだ液体がたまっていると、鼓膜全ぜ ん た い体が薄うすくなったり(菲薄化)、鼓膜のへこみが 強つよくなり奥おくの骨ほねとくっつく(接着する)こともあります。 ● 鼓膜の動うごきが悪わるくなる: 正常の鼓膜は、気き み つ密耳じ き よ う鏡という診し ん さ つ察道ど う ぐ具やティンパノメトリという検け ん さ査装そ う ち置で圧あつりよく力を 変化させると、よく動きます。しかし、中耳に液体がたまると、この動きが悪くなり、 難 なんちよう 聴の原げ ん い ん因にもなります。 正常な鼓膜 滲出性中耳炎 滲出性中耳炎 滲出性中耳炎 注:5 ページ、6 ページの写真はすべて右耳の鼓膜Q6
飲
のみ薬
ぐすりの治
ち り よ う療はどんなものがあるの?
滲
しんしゆつせい出性中
ち ゆ う じ え ん耳炎では、中耳にたまっている液
え き た い体を出
だしやすくする粘
ね ん え き液溶
よ う解
か い や く薬がよく使
つ かわれます。鼻
は なや副
ふ く び く う鼻腔の炎
えんしよう症があるお子
こさんでは、それ
らに対する薬が使われることもあります。
解 説 ● よく使われるのは、カルボシステインとよばれる粘液溶解薬です。この薬は、中耳 の液体を出しやすくしたり、鼻び ふ く び く う え ん副鼻腔炎に対たいしても効こ う か果があるといわれています。 ● 滲出性中耳炎の治療では、鼻副鼻腔炎や繰くり返かえす急性中耳炎、アレルギー性せい鼻炎 などの炎症を治なおすことも大た い せ つ切です。鼻び ふ く び く う え ん副鼻腔炎がある場ば あ い合には、マクロライド系けい薬やく(ク ラリスロマイシンなど)とよばれる抗菌薬を飲むとよくなることがあります。 ● それぞれの治療法ほうについてはかかりつけの医い師にお聞し ききください。A
Q5
治
ち り よ う療はどのようにするの?
3か月
げ つ以
い な い内は、自
し ぜ ん然に治
な おることも期
き た い待できるため、必
ひ つ よ う要な検
け ん さ査や治療を
しながら注
ち ゆ う い意深
ぶ かく様
よ う す子をみます。治らない場
ば あ い合の治療としては、飲
のみ薬
ぐすりなどの保
ほ ぞ ん て き存的治療、鼓
こ ま く膜にチューブを入
いれるなどの手
しゆじゆつ術治療があります。
解 説 ● 小しように児の滲しんしゆつせい出性中ち ゆ う じ え ん耳炎は、中ち ゆ う と う ど等度以い じ よ う上の難なんちよう聴や鼓膜の変へ ん か化などがなければ、発はつしよう症から 3か月間かんは様子をみることが勧すすめられています。ただし、この間あいだには何なにもせずただ観かん 察 さつ するということではなく、必要な検査を進すすめるとともに周し ゆ う い囲の炎えんしよう症や感か ん せ ん染に対たいする 治療をしながら、注意深く様子をみるという意い味です。み ● 保存的治療では、粘ね ん え き液溶よ う か い や く解薬の内な い ふ く服が勧められています。アレルギー性せい鼻び え ん炎を含ふくむ 鼻び ふ く び く う え ん副鼻腔炎、アデノイドの炎症などが小児の滲出性中耳炎を悪あ つ か化させると考かんがえられ ているため、これらに対する治療も行おこなわれます。また、耳じ か ん管通つ う き気とよばれる鼻から 耳みみに空く う き気を送おくる治療を行うこともあります。 ● 3 か月たっても自然に治らない場合は、それ以い じ よ う上待まっても治らないことが多おおいため、 手術治療が必要となることもあります。鼓膜に小ちいさなチューブを入れる小しよう手術や、 鼻の奥おくにあるアデノイドを取とる手術などがあります。 *アデノイド:鼻の奥にある扁へ ん と う桃(リンパ組そ し き織)A
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