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日本臨床麻酔学会 vol.30

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Academic year: 2021

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はじめに  本邦では,長きにわたり術後疼痛管理法の主役と して硬膜外麻酔が行われてきた.しかし近年,レミ フェンタニルの登場や超音波ガイド下末梢神経ブロ ックの普及による麻酔法の変化,深部静脈血栓症・ 肺血栓塞栓症予防を目的とした周術期抗凝固療法の 普及に伴い,術後疼痛管理法を再考すべき時代とな った.硬膜外麻酔の代替鎮痛法の一つとして,in-travenous patient-controlled analgesia(IV-PCA) は非常に有用な手段である1).そして,その導入を 簡便にし,かつ患者にとって安全に提供するための デバイスとして携帯型精密輸液ポンプ「CADD Legacy®」がある.本稿においては,その特徴およ び使い方,利点,欠点等を,当院での実際の使用方 法を交えながら紹介する. Ⅰ CADD Legacy®の特徴  CADD Legacy®は米国で約 20 年,日本において も約 15 年の実績をもつポンプシステムである.寸 法 112mm × 95mm × 41mm(縦×横×高さ),重量 290g と小型であり(図 1)ベッドサイドおよび携帯で の使用に適している.電源は単三形アルカリ乾電池 2 本で駆動し,約 1 週間の連続使用が可能である (4ml/ 時で持続動作時).オプションで AC 電源も 利用できる.術後鎮痛を目的として使用した場合, 術後 2 日程度で使用を終了する場合が多く,毎回の 電池交換は必要ないように思われるが,当院ではト ラブル回避のために使用を終了するたびに電池交換 を行っている.薬液の充塡は専用のメディケーショ ンカセット(50ml,100ml,250ml)またはメディケ ーションバッグ(250ml)を使用可能であるが,メデ ィケーションバッグはスパイクの外れにより空気を 術後管理における PCA の上手な使い方

PCA ポンプの特徴と使い方

─ CADD Legacy

(スミスメディカル社)─

®

大友重明

 笹川智貴

 国沢卓之

[要旨]硬膜外麻酔の代替鎮痛法の一つとして,intravenous patient-controlled analgesia(IV-PCA)は非常に有用な手段である.そして,IV-PCA の導入を簡便に, かつ患者にとって安全に提供するためのデバイスとして携帯型精密輸液ポンプ 「CADD Legacy®」がある.本稿において,その特徴および使い方,利点,欠点等を, 当院での実際の使用方法を交えながら紹介する. キーワード: 経静脈的自己調節鎮痛,IV-PCA,術後鎮痛 (日臨麻会誌Vol.30 No.5, 842 〜 848, 2010) 著者連絡先 大友重明 〒 078-8510 北海道旭川市緑が丘東 2 条 1-1-1 旭川医科大学麻酔・蘇生学講座 *旭川医科大学麻酔・蘇生学講座

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PCA ポンプの特徴と使い方 843 ─ CADD Legacy(スミスメディカル社)─ ® 843 引き込むおそれがあるため,当院ではより安全で小 型なメディケーションカセットを使用している.送 液精度は± 6%(メーカー調べ)であり,ディスポー ザブル PCA 機器で起こりうる初速および終速での 送液速度の変化が起こらない点で優れているといえ る.また精密 PCA 機器の利点として,患者の PCA 履歴等を確認できる点があげられるが,CADD Legacy®はボタン一つで履歴の確認が可能であり, また専用のソフトウェアである「CADD PRESS シ ステム」を使用することでポンプ本体のデータ履歴 (PCA 設定,総投与量,PCA 有効回数,PCA 無効 回数など)をコンピューターに転送し分析すること ができる(図 2).アラーム機能には,送液回路の閉 塞や薬液残量の警告,電池残量の警告,気泡検知な ど各種備わっており,インシデントの発生を未然に 防ぐ仕様となっている.患者が主体となって使用す る IV-PCA 機器である以上,患者自身の誤操作に よる事故を防ぐための機能は非常に重要である. CADD Legacy®では誤操作を防ぐため 3 段階のロッ クレベル設定が可能であり,医療従事者のみがプロ グラミングを行い,患者が投与方法や設定を変更で きない仕組みとなっている(表 1).また,IV-PCA ではモルヒネやフェンタニルなどのオピオイドを使 用するため,薬液の管理を厳重に行う必要がある. この点は,メディケーションカセット等の脱着に専 用の鍵を要することでセキュリティ性を高めてい る.携帯用のポーチ(図 3)や点滴用ポールへの固定 具などオプション品も充実しており,さまざまな場 面での使用を想定した作りとなっている. Ⅱ 薬液投与設定  CADD Legacy®は持続投与に加え,PCA 投与お よび随時投与の設定が可能である(図 4).投与単位 は ml,mg,μg から選択可能であるが,当院では 薬液調剤のミスをなくすため,すべての患者で薬液 濃度を一定とし,患者に合わせて投与容量(ml)を 変えるようにしている(以下の説明は投与単位とし て mlを選択した場合).  持続投与は 0.1 ∼ 50.0ml/h で設定可能なことに 加え,持続投与なしで PCA 投与のみを行う設定も 可能である.PCA 投与では,PCA ドーズ(1 回の PCA 操作で投与される薬液量)とロックアウトタイ ム(一度 PCA を使用した後,次に PCA 操作が加え られ実際に薬液が注入されるまでの時間),時間有 効回数(1 時間当たりに有効な PCA 投与回数)を設 定する.PCA 投与に投与間隔と 1 時間当たりの投 与回数の 2 つの制限を設けることで,過剰投与を避 け呼吸抑制などオピオイド使用時の副作用の発現を 最小限に抑えることができる.当院では,フェンタ ニルを用いる場合,PCA ドーズを 1 時間当たりの 持続投与量と同量とし,ロックアウトタイムを 15 分,時間有効回数を 4 回として運用しているが,こ れまでのところ呼吸抑制による低酸素血症などの重 篤な合併症は発生していない.PCA ドーズを 1 時 間当たりの持続投与量と同量にしているのは,緩和 医療の現場で癌性疼痛管理の際に用いられる手法を もとにしている.癌性疼痛管理において,オピオイ ドの持続静注を行っている患者が疼痛を訴えた場 図 1 CADD Legacy®本体 (メディケーションカセット,リモートドーズコード 装着時)

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合,レスキューとして 1 時間当たりの持続投与量を ボーラス投与することが多い.IV-PCA においても 同様の手法を用いることで,外科医や看護師の抵抗 感を少なくし,さらには安全性も担保できると考 える.  随時投与は想定外の強い痛みがある場合などに, ポンプを停止することなく任意の量の薬液をボーラ ス投与するモードである.このモードは暗証コード により保護されており,限定された医療従事者のみ に使用を制限することができる.突出痛への対処に 有効であるが,過量投与による副作用の発現が懸念 されるため,オピオイドの使用に習熟した医師が, 図 2 CADD PRESS によるデータ管理 表 1 ロックレベルと各変更の可否 ポンプ操作 停止中 動作中 LL0 LL1 LL2 全てのレベル プライミング ◯ ◯ × × 履歴の確認 ◯ ◯ ◯ ◯ スタート/ストップ ◯ ◯ ◯ ◯ 投与量    増量させる ◯ × × ×        軽減させる ◯ ◯ × × ドーズ量   増量させる ◯ × × ×        軽減させる ◯ ◯ × × リザーバー容量のリセット ◯ ◯ ◯ × ドーズ有効回数のリセット ◯ ◯ × × ドーズ回数のリセット ◯ ◯ × × 積算量リセット ◯ ◯ × ×

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PCA ポンプの特徴と使い方 845 ─ CADD Legacy(スミスメディカル社)─ ® 845 バイタルサインをモニタリングしながら操作する必 要があると考える. Ⅲ 操作方法  CADD Legacy®は,薬液の充塡からプライミン グ,実際の投与開始までに複雑なボタン操作を必要 とせず簡単にプログラミングが行える.本体のボタ ン構成は非常に単純であり(図 5),プログラミング の基本操作に要するボタンは,スクロールボタン, 上下矢印ボタン,入力/リセットボタンの 3 つのみ である.実際のプログラミングの手順(図 6)および 設定範囲(表 2)を示す.投与開始後のドーズ有効回 数(患者の PCA 操作のうち実際に薬液が投与された 回数),ドーズ回数(空うちを含む患者が PCA 操作 を行った回数)および総投与量といった履歴の確認 もスクロールボタンを押していくだけで確認できる. Ⅳ 運用の実際  当院では,CADD Legacy®による IV-PCA が行 われる以前,なんらかの理由で硬膜外麻酔が行えな い開腹手術症例に対しては,通常のシリンジポンプ を用いたオピオイドの持続静注が行われていた.こ の方法は,新しいデバイスを使用しないので外科医 や病棟看護師の抵抗感が少ない反面,鎮痛が不十分 となる症例も多かった.開腹手術の術後疼痛を抑制 することは非常に重要であり,術後疼痛の抑制が呼 吸機能の維持や循環器系への負荷軽減により術後経 過を改善する.このことから,より質の高い鎮痛を 提供するため CADD Legacy®による IV-PCA が導 入されることになったが,そのためには麻酔科医の 学習に加え外科医やコメディカルの理解と協力が不 可欠であった.ICU および各病棟にて勉強会を開き, 新しいデバイスである CADD Legacy®について説 明を行った.また,患者への使用が終了した後,確 図 3 CADD Legacy ®用ポーチ 図 4 薬液投与設定のイメージ 図 5 CADD Legacy®本体 ボタン構成は非常にシンプルである.

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実に本体と残液を回収するため,各病棟のメッセン ジャーから手術室の臨床工学技士へと渡る回収経路 を確立した.回収された本体の薬液投与履歴は,臨 床工学技士の手によりコンピューターに保存され, 麻酔科医が後からいつでも確認・分析できるように した.  麻酔科医の学習も同時に行われ,当院独自のマニ ュアルおよび経過観察表(図 7)を作成し,運用・管 理にミスが生じないようにした.麻酔科医による回 診と薬液追加等の管理を徹底していくうち,次第に 病棟看護師の理解も深まり,今では経過観察表の記 載を看護師がともに行う病棟も出てきた.精密 PCA 機器を積極的かつ安全に運用していくために は,麻酔科医による徹底した管理に加えコメディカ ルの協力も欠かせない要素といえる. Ⅴ モルヒネを用いた IV-PCA に便利  CADD Legacy®は持続投与なしで PCA 単独投与 図 6 プログラミング手順 (投与単位として mlを選択した場合) 表 2 設定範囲 薬液量 1 ~ 9999ml,OFF(1ml Step) 投与単位 ml,mg,μg 設定濃度 mg/ml:0.1,0.2,0.3,0.4,0.5,1,2,3,4,5,10,15,・・・・・・95,100 μg/ml:1,2,3,4,5,10,15,・・・・・・・95,100,200,300,400,500 投与速度 0 ~ 50ml/ 時(0.1ml Step) ドーズ量 0 ~ 9.9ml(0.05ml Step) ロックアウトタイム 5 分~ 24 時間(5 ~ 20 分:1 分間隔,20 分~ 24 時間:5 分間隔) ドーズ時間有効回数 1 ~ 12 回 有効ドーズ回数表示 0 ~ 999 回 総ドーズ回数表示 0 ~ 999 回 総投与量表示 ml/μg:0 ~ 99999.95(0.05Step) mg  :0 ~ 99999.99(0.01Step) 随時投与量 0.05 ~ 20.00(注入速度 125ml/ 時)

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PCA ポンプの特徴と使い方 847 ─ CADD Legacy(スミスメディカル社)─ ® 847 が可能であるが,この点はモルヒネを用いた IV-PCA を行う際に大きな利点となる.モルヒネを用 いた IV-PCA では,持続投与を併用すると呼吸抑 制の頻度が高まる2)ことが報告されている.海外で はモルヒネを用いた IV-PCA を行う際,「鎮痛効果 が現われるまでモルヒネを投与した後,持続投与な し,PCA ドーズ 1mg,ロックアウトタイム 6 ∼ 10 分」 とするプロトコルが多い3).この方法は,疼痛があ るときのみモルヒネが投与されるため過量投与とな るリスクが低く,優れた方法といえる. Ⅵ CADD Legacy®の欠点  CADD Legacy®を含む精密 PCA 機器の欠点とし て,まずあげられるのがコストの問題である.本体 を購入するためのイニシャルコストに加え,専用の メディケーションカセットやエクステンションチュ ーブセットなどの消耗品にもランニングコストがか かる.これらの材料は非特定保険医療材料のため, コストはすべて病院の負担となる.今後,精密 PCA 機器による IV-PCA を普及させていくために は,その有効性を社会に周知し特定保険医療材料の 対象となるよう努力する必要がある.  その他,ディスポーザブル PCA 機器にはない駆 動音の問題もあるが,当院では駆動音に対する患者 や病棟看護師からの苦情はあがっていない.ボタン 操作時のクリック音を消音する機能がないため,看 護師からは「夜間に投与状況の確認を行う際,就寝 中の患者に気を遣い不便である」との意見がある. 最後に  レミフェンタニルの登場により,術中の鎮痛は非 常に容易となった.しかし,これにより術後鎮痛に 対する配慮がおろそかになってはならない.良好な 術後鎮痛は,患者の ADL を改善し慢性疼痛への移 行を妨げる4)  オピオイドを用いた IV-PCA は非常に有効な鎮 痛方法であるが,その一方で体動時痛に対する鎮痛 は単独では不十分である.当院では,症例に応じて 腹直筋鞘ブロックや腹横筋膜面ブロック,大腿神経 ブロック,坐骨神経ブロックなどの末梢神経ブロッ クを併用している.よりよい鎮痛を提供するための 努力を惜しまず,複数の方法を組み合わせて鎮痛を 行うことが重要と考える. 参考文献

1) Wu CL, Cohen SR, Richman JM, et al.:Efficacy of postoperative controlled and continuous infu-sion epidural analgesia versus intravenous patient-controlled analgesia with opioids:a meta-analysis. Anesthesiology 103:1079-1088, 2005

2) Schug SA, Torrie JJ:Safety assessment of postopera-tive pain management by an acute pain service. Pain 55:387-391, 1993

3) Walder B, Schafer M, Henzi I, et al.:Efficacy and safety of patient-controlled opioid analgesia for acute postoperative pain. A quantitative systematic review.

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Acta Anaesthesiol Scand 45:795-804, 2001

4) Pluijms WA, Steegers MAH, Verhagen AFTM, et al.:

Chronic post-thoracotomy pain:a retrospective study. Acta Anaesthesiol Scand 50:804-808, 2006

Benefits of CADD Legacy(Smiths Medical)® Shigeaki OTOMO, Tomoki SASAKAWA, Takayuki KUNISAWA Department of Anesthesiology and Critical Care Medicine, Asahikawa Medical College  Intravenous patient-controlled analgesia(IV-PCA)has efficacy as a substitute for epidural anesthe-sia. CADD Legacy(Smiths Medical, St. Paul, MN, USA)is a medical device used for IV-PCA. It is ® easy-to-use and safe for patients. Its features and usage, as well as its advantages and disadvantages, are described. Key Words : Intravenous patient-controlled analgesia, IV-PCA, Postoperative analgesia The Journal of Japan Society for Clinical Anesthesia Vol.30 No.5, 2010

図 7 当院の経過観察表

参照

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