出 題 症例 1
24歳,男性.高速道路をバイクで走行中に単独転倒し受傷. 救急隊現着時,JCS300,呼吸減弱,持続勃起状態にあり,受傷後 1 時間でドクターヘリにて本院へ搬入された. 画像所見:外傷性くも膜下出血,C2 骨折と retropharyngeal hematoma,両側肺挫傷を確認. 搬入後,バイタルサインは安定していたが,鼻出血を大量に誤嚥していたため,気管内挿管を施行.数時間 で JCS20 まで意識は回復し,四肢自発運動も見られるようになったが,不穏状態に陥ったため鎮静を行った.4 日後,気管切開術施行.6 日後に鎮静を解除.JCS3,明らかな四肢麻痺は認めず. Spinal Surgery 26(1)30 38,2012標準治療と明日の医療を考える
誌上フォーラム
vol.
1
上位頚椎の事故外傷
Forum
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Stratagies & Indications
招待コメンテーター:鈴木晋介(仙台医療センター) 企画・コメント: 乾 敏彦(冨永病院脳神経外科) 下川宣幸(ツカザキ病院脳神経外科) 菅原 卓(秋田大学脳神経外科) 症例提供:金 彪(獨協医科大学脳神経外科),山本慎司(獨協医科大学脳神経外科) Fig. 1 入院時
出 題 症例 2
64歳,女性.階段を 9 段転落,当日に整形外科へ搬送入院,9 日後に退院. 受傷後約 2 カ月で右上腕の痛みと巧緻運動障害を自覚し同整形外科を受診.手術を勧められるがセカンドオピニ オンを希望し,受傷後 4 カ月に症例提供施設受診. 神経学的所見:下肢深部腱反射の亢進,腕橈骨筋の打腱により病的指屈曲の出現,10 秒手指開閉テストは 16 / 20回,筋力は腕橈骨筋,二頭筋,三頭筋,手首の屈筋,伸筋とも正常,痛覚低下を上肢で認めなかった. Spinal Surgery 26(1)30 38,2012標準治療と明日の医療を考える
誌上フォーラム
vol.
1
上位頚椎の事故外傷
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Stratagies & Indications
招待コメンテーター:鈴木晋介(仙台医療センター) 企画・コメント: 乾 敏彦(冨永病院脳神経外科) 下川宣幸(ツカザキ病院脳神経外科) 菅原 卓(秋田大学脳神経外科) 症例提供:金 彪(獨協医科大学脳神経外科),山本慎司(獨協医科大学脳神経外科) Fig. 2 受傷日 Fig. 4 受傷後 2 カ月 Fig. 5 受傷後 4 カ月(症例提供施設受診時) Fig. 3 受傷後 22 日
病態機序
鈴木 多発外傷例で,頚椎病変は軸椎の tear drop fracture with hangman fracture type1 でしょうか? 過前屈のメカ ニズムで発症したものと考えます.椎体前スペースに骨折由来の大量の出血があり,この例は一時窒息しかけた可能性 があります.ただ,この例は靱帯損傷は軽度で,不安定性もないと診断しました.
乾 C2 tear drop fracture(TDF)を認め,圧迫 屈曲損傷による椎体前方の圧迫骨折である flexion TDF(FTDF)と伸 延 伸展損傷による椎体前方の純粋な剝離骨折である extension TDF(ETDF)の鑑別が必要です.画像所見は,骨折片 の形状が triangular,ほかの椎体骨折を伴わない純粋な C2 剝離骨折,骨折片の高さが幅以上,損傷椎体高損失なし, 後咽頭の血腫の存在,脊柱後方の軟部組織の明らかな損傷なし,C2/3 で椎体後縁を結ぶ線と spino laminar line のずれ や C2/3 の椎間関節の離開を認めます.Allen 分類 DES(distractive extension stage:DES)2(後方すべりのある伸展) の C2 ETDF と診断します.
(Allen BL Jr, Ferguson RL, Lehmann TR, O Brien RP: A mechanistic classification of closed, indirect fractures and dislocations of the lower cervical spine. Spine 7 : 1 27,1982)
下川 交通外傷による C2 椎体の斜骨折の症例です.受傷 6 日目において意識レベルは脳挫傷による JCS 3 点で,痛み, しびれなどの意思疎通が可能な状態であると判断すると,それらがないこと,および明らかな四肢の麻痺は認められな いことより幸い脊髄損傷はまぬがれた状態と考えられます.提示された画像からは C2 椎体下縁の斜骨折を認めるも頚 椎配列は保たれています.Axial view では C2 pars articularis の両側の骨折らしき部分が疑われますが,頚椎配列におい て局所後弯をきたしておらず,C2 3 の椎間関節脱臼も伴っていないようです.つまり,ハングマン骨折を合併してい ても不安定性損傷である Levine 分類の Type ⅡやⅢではないものと思われます.しかし,提示されている coronal view からは slice の関係からか,やや C1 2 と C2 3 の椎間関節腔が開大しているように見えます.つまり C1 2 と C2 3 間 の instability が存在する可能性があると考えられます.
菅原 高速道路のバイク事故で,大量の鼻出血と搬送時昏睡状態だったことから推察すると,顔面を強打したもので, 一過性の呼吸減弱,持続勃起状態は brainstem あるいは spinal concussion の状態で,いわゆる高エネルギー損傷と思わ れます.Sagittal CT では C2 tear drop fracture,MRI では retropharyngeal hematoma があり,顔面受傷と考え合わせる と hyperextension injury による C2 fracture と前縦靭帯の損傷が疑われ,CT では C2/3 の Facet 関節の異常もみられ, 後方要素も損傷されているようです.
自然予後予測
鈴木 tear drop 骨折は遊離して痛みの原因となることがありますが,いずれ吸収,癒合していきます.C2 3 のすべり はおそらく起きてこないだろうと思います. 乾 DES 2 は後縦靱帯の損傷を伴い,屈曲には安定,伸展には不安定です.背臥位で行った画像診断は後方すべりも矯 正され,一見,損傷椎の不安定性は見逃しがちで注意が必要です.座位,立位,頚椎伸展時に不安定性が顕在化し,症 状が増悪する可能性があります. 下川 脊髄の高度な圧迫を有していないことより,局所の安定化をはかれば,全身状態(全身の酸素化や血圧)が悪化 しないかぎり神経症状の急激な増悪は考えにくいです.菅原 前縦靭帯損傷の疑い,C2 body fracture がみられ,後方要素にも損傷がみられることから,instability があると思 われます.今後 alignment が増悪する可能性がありますが,C2 tear drop fracture は自然経過で fusion する可能性もあ ります.
病態機序
鈴木 C2 前方すべりによる後弯が進行している例です.おそらく靭帯損傷が 2 column にあり不安定性をきたしている ものと思われます.それから,画像ではなかなか診断できないのですが,椎間板の傷害(椎間板の亀裂)が多くの場合 で認められます.この例もそうであろうと思われます. 乾 受傷日の MRI は C2/3 棘上・棘間靱帯および広範な脊柱後方軟部組織の損傷を示唆し,以後の画像検査で C3 椎体 前上方の終板鈍化,C3 椎体の矢状骨折,C2/3 の約 25°の局所後弯(出題施設来院時の X 線機能撮影で不安定性なし) および棘間距離の離開,左 C2 下関節突起の亀裂骨折と亜脱臼および locked facet を認めます.伸延 屈曲損傷による Allen分類 DFS(distractive flexion stage:DFS)1(屈曲位で椎間関節,棘間距離の離開を伴う椎間関節捻挫)から 2(片 側の椎間関節脱臼または脱臼骨折)への進展例と診断します.下川 受傷 3 カ月以上経過した C3 椎体上縁部の骨折に伴う C2 3 局所後弯変形の症例です.後弯変形は動態撮影から は rigid な変形で,軽度のすべりを伴っていますが C2 3 椎間関節の脱臼はきたしていません.受傷日の T2WI sagittal viewの所見より,もともと C6 7 の yellow ligament の肥厚は subclinical に存在していたものと思われます.提示され た神経学的陽性所見からは,10 秒テストの低下(巧緻運動障害あり),腕橈骨筋反射の所見(C6 以上での myelopa-thy),下肢深部腱反射の亢進(myelopathy)が存在するが,運動系感覚系ともに正常であることより,神経症状からの 責任高位診断が困難です.画像所見と合わせ考えると,局所後弯部での脊髄障害が最も推察されます.T2WI sagittal viewにおける脊髄周囲腔の所見より,静的圧迫というより動作時の同部位での minor trauma による動的な脊髄障害が 考えられます.
菅原 受傷日の MRI で明らかな外傷に起因する lesion はみられませんが,そののちの CT で C3 椎体骨折(CT は C3 レベルの断面?)が明らかになったようです.まれですが,hyperflexion injury による C3 椎体骨折が考えられます. 後方要素には明らかな損傷はなく,instability は強くないようです.画像と神経学的所見から,症状は C2/3 レベルの myelopathyが主体と思われます.また,もともと C5 7 には spondylotic な change があり,C6/7 には両椎間孔の os-teophytic spurによる狭窄が認められ,後方からは黄色靭帯の突出もみられることから,C2/3 の局所後弯によって中下 位頚椎の前弯が進行し,神経根性疼痛も合併している可能性があります.
自然予後予測
鈴木 この例は慢性的に後弯変形をきたしています.過去にさらに後弯が強くなった例を経験しました.症状が進行し た時点で矯正をしても,神経症状は頚髄傷害のため改善せず手遅れとなることがあります.当科例での経験ですが,上 位頚椎の後弯変形の進行は堪えがたい頚部痛を起こします.圧迫が強い場合は long tract sign を出すので特にハングマ ン骨折の 2b, 3 型の場合は要注意です. 乾 DFS 2 で左側椎間関節はある種の locked facet となっており不安性も認めないため,急速な症状増悪は考えにくい ですが,症状経過から C3 高位での flexion myelopathy が考えられ,緩徐でしょうが症状増悪も予測されます. 下川 新たな外傷を伴わないかぎり,急激な症状の増悪の可能性は少ないと考えられる.しかし定期的な経過観察は必 要であろう. 菅原 C2/3 alignment の変化は進行性であり,今後も増悪する可能性があり,それに伴い C6/7 付近の前弯も進行する 可能性があります.症状としては C2/3 と C6/7 の両レベルが原因の myelopathy, C6/7 レベルが原因の radiculopathy が 増悪することも考えられます.しかし,現時点では明らかな instability はなく,症状は急激には変化しないものと思わ れます.
症例 2
治 療
鈴木 初期治療としては外固定で対応します.当科ではフィラデルフィアカラーで初期固定を図ります.すべりなどの 変化がもしも出てきた時には,この例は気管切開をしているので,後方からの固定が望ましいです.できれば,short fusionがよいので,C1 3 固定がよいでしょうか.OC fusion は首がまったく動かなくなるので,なるべく避けたいとこ ろです. 乾 手術を勧めます.頭蓋内および全身・呼吸状態の安定後で,気管切開チューブの抜去後 1 ∼ 2 週間以降の可及的速 やかに自家腸骨を用いた disk surgery で C2/3 の前方除圧固定術を前方プレート固定の併用(骨片をスクリューで整復 固定する)で行います.強固な外固定による保存的治療も適応になりますが,C2/3 の不安定性や症状増悪時には速や かに上記手術を行います. 下川 受傷6日後の時点では神経症状と全身状態から緊急を要する内固定術の適応ではなく,外固定の適応と考えます. halo vest装着下での呼吸状態に問題がなければ,halo vest による外固定を選択します.C2 3 をできるだけ正しい頚 椎配列で固定を行います.
菅原 現在は頚椎由来の症状は明らかではないものの,instability が今後も増悪する可能性があるので,halo vest を装 着し,C2 椎体が自然癒合するかどうか,また instability が強くならないかどうかを観察します.観察期間中に
instabil-ityが増悪するようであれば,①気管チューブが抜けていれば前方固定術,②気管切開が継続中であれば後方固定術(C2
3 pedicle screwあるいは C2 pedicle screw + C3, C4 lateral mass screw)を行います.経過良好であれば,手術を待機 して halo vest による固定 2 ∼ 3 カ月,そののちフィラデルフィアカラーを装着します.
予後考察
鈴木 軸椎の骨折は合併損傷が多く,多部位の脊髄損傷や頭部を含めた合併損傷を有することが多々あります.さらに 環椎や中下位頚椎骨折も合併することがあり,ER 来院時にマルチスライスで全脊椎をスキャンし評価を行います.同 時に,肺損傷や腹部損傷の評価も同時に行うことが大切です.初療時に救急医とともに,first survey, second survey を 行い,多部位の損傷の見逃しをなるべく少なくします.それでも後手になることがあるので,ある程度は最悪の事態を 考えて急性期の初期対応を図るのが重要です. 乾 保存的治療の経過は「症例 1 自然予後予測(p32)」をご参照ください.画像上明らかな髄内輝度変化は認めず, 術後予後は良好であると予測します. 下川 気管切開が抜去可能となり,より詳しく神経症状がとれれば,動態撮影を含めた画像評価を再度行い,特に C1 3の instability を評価したいと考えます.もし instability が存在するなら C1 3 の後方固定術を考慮に入れます.保存的 に加療するならば,若い年齢であることより,将来 C2 3 の局所後弯変形に伴う中下位頚椎配列の過前弯変形,その後 の将来的な脊椎全体の sagittal imbalance についても十分な説明が必要でしょう. 菅原 今後 instability が増悪すれば,前述の前方あるいは後方手術が適応になると考えられますが,若年であり,6 日 間で神経学的にも明らかな改善がみられるので,予後は良好と思われます.
症例 1
治 療
鈴木 後弯による脊髄圧迫のため,long tract sign が出現して,反射亢進をきたしておれば,矯正が必要です.上肢痛 があるようですが,頚部痛があるのか? あればどの程度か知りたいところ.実際に圧痛や頚部を動かしてみて診察を しないとわかりませんが,C6 7 後方病変の評価が必要です.この例では右 C5 6, C6 7 の神経根症の可能性もあるよう です.後弯に複合発生した可能性もあり,それは否定したいが,それが主訴であればそちらの除圧のみでも可です. この症例に関して,やや高年の女性なので骨訴訟症が内在的にありますので,骨固定が十分ではないこともあるので十 分に留意したいところです.後弯(すべり症)が責任病巣の場合で,若い方ならば,前方支柱再建および後方固定を行 いたいところ.単に C3 verterectomy による ACDF(C2 4)でもよいですが,前方 plate 使用しても固定性は十分で なく,後方固定(C2 PS, C3 LMS, C4 LMS and rod)も追加したいです. 乾 手術適応の緊急性は乏しく外来経過観察(外固定は不要)または希望があるなら手術を行います.後方より locked facetの解除および C2/3 局所後弯の可及的整復を行い,C2 椎弓根スクリュー,C3, C4 側塊スクリューとロッドを用い た除圧固定術を行います. 下川 上記神経所見より軽度の myelopathy は存在するものの,画像所見からは不安定性頚椎損傷ではないと判断され, 即時手術の適応ではないと考えます.痛みが動作時には出現し,夜間の頚椎安静時には消失するなどの,痛みの性状を 追跡することや,数カ月のネックカラーによる外固定で症状が改善するならば,内固定術の相対的適応があるものと考 えます.これらの治療方針は患者本人・家族と十分相談するべきでありましょう.もし手術治療を選択するならば, rigidな C2 3 alignment を矯正整復し内固定するのが理想ですが,前後合併手術(前→後→前)が必要になります.外 固定のみで症状が改善するならば,64 歳という年齢で,今後それほど活動性が高い case でなければ C2 3 の in situ fu-sionを後方より行うという選択肢もあると考えます.
菅原 不安定性が強くなく,myelopathy はあるものの重篤ではないことを考えると,まずフィラデルフィアカラーな どで経過観察をしたいと考えます.myelopathy が進行するようなら,myelography を行って,神経学的所見と総合し て責任病巣は C2/3, C6/7 レベルどちらであるかを考えるのも一法かと思います.C2/3 の malalignment が進行して, 同部の症状が増悪するようなら,C3 corpectomy + mesh cage とプレートによる前方固定を行います.前方固定後に固 定が不十分であれば,C2 3 pedicle screw あるいは C2 pedicle screw + C3, C4 lateral mass screw を行います.この時に C6/7の lesion も症状に関与している可能性が強ければ,C6 7 laminectomy or laminoplasty を合わせて行います.
予後考察
鈴木 保存的治療が選択された場合,どの程度の症状を受け入れていただくかよくよく説明する必要があります.観血 的治療は諸刃の剣であることを知っておき,さらに当人の症状を良くする努力を私たちは行っております. 乾 保存的治療の経過は「症例 2 自然予後予測(p33)」をご参照ください.症例 1,2 ともに画像上明らかな髄内輝度 変化は認めず,術後予後は良好であると予測しますが,症例 2 は症状改善には時間を要するか,不十分な改善にとどま る可能性も考えます. 下川 保存的加療を選択する場合において,頚椎局所のみの説明を行うのではなく,頚椎局所の sagittal imbalance に よって引き起こされる,将来の脊椎全体から全身に及ぶさまざまな事象を十分説明すべきであろう.手術を選択するな らば sagittal balance を念頭に置いた治療が重要と考える. 菅原 今後症状が進行し,画像上の変化も増悪すれば,手術適応となる可能性がありますが,現時点では instability は 明らかでなく,経過観察でよいと思われます.症例 2
症例 1 実際の処置と経過
金,山本 受傷後 9 日目に halo vest を装着して ICU から脳神経外科の病棟に転棟した.離床後,誤嚥性肺炎は軽快, 運動知覚の脱落症状は明確に認めなかった.17 日目における CT 撮影で,C2 下方のティアドロップ(涙滴)骨折の破 片と C2 椎体との接触は比較的保たれていたため,安定性が保たれればこのまま癒着することが期待されると判断した. 受傷後 30 日目に halo vest をいったん緩め,頚椎前後屈撮影を敢行した.C1/2 は安定であり,C2/3 は軽度の C2 後 方亜脱臼が認められるが,安定であった.34 日目で halo vest を外し気管切開を閉鎖した.受傷後 40 日目に行った MRIでは,前縦靭帯周囲の出血も消失し,脊髄に圧迫は認めなかった.83 日目の前後屈においては,涙滴骨折部分は 癒合を開始しており,C2 の後方亜脱臼も改善傾向が認められた.C1/2 は安定であった.そののち,受傷後 180 日目ま で追跡しているが,四肢に運動知覚の脱落症状なく,頚部に痛みや違和感もなく,ADL はほぼ受傷前のレベルに回復 していた.180 日目の前後屈撮影では,涙滴骨折と C2 の椎体本体とは完全に癒合しており,C1/2,C2/3 ともに安定 であった.C2/3 では後方亜脱臼はもはや認められなかった. C2 C2 lower C2/3 Fig. 8 Day 40 Fig. 9 Day 83 Fig. 10 Day 180
Fig. 6 Day 17 Fig. 7 Day 30
症例 2 実際の処置と経過
金,山本 受傷直後の MRI により前縦靭帯の損傷は軽度であると判断した.靭帯に付いて剝離した涙滴骨折片があり, MRI T2画像で靭帯直下の出血が比較的少なく靱帯そのものが保たれて見えたため,前縦靱帯は力学的機能を維持して いるものと考えた.またその後の CT で,骨折片と C2 椎体本体との間の接合が期待できる位置関係と考え,保存的に 経過を観察したところ,骨折部位の良好な治癒が得られ,安定性なども問題なく解決した. 頚椎前弯を強める姿勢を指導しつつ,C2/C3 の間の後弯角度を測って経過を追跡した.受傷後 4 カ月には 32 度,10 カ月後には 27 度,12 カ月後は 23 度と,わずかながら改善傾向を認めた.最終的な経過観察は受傷後 13 カ月であるが, この時に中指に若干あったしびれ感を含めて自覚症状はすべて消失しており,首の痛みもないとのことであった.手指 巧緻運動に関しては手指 10 秒開閉は,26 回 / 26 回と改善しており,深部腱反射は膝蓋腱反射がごく軽度の亢進,上肢 の反射は,二頭筋,腕橈骨筋,三頭筋ともに正常であった. 最終受診時には,本人は手術をすることにさらに関心はなく,今後とも姿勢の矯正で経過を観察していく方針である. 前弯姿勢の強化の指導をしていきながら,C2/3 の部分の後弯ならびに,C3 の椎体圧迫変形が進まないことを見守っ ていかなければいけないと考えている. 金,山本 これらの 2 症例は,一見して固定術を要すると考える向きも多い,C2/3 の骨折亜脱臼である.しかし,不 安定性,靭帯と骨折の破損の程度を綿密に評価し治癒経過を予測して,慎重に経過を追うと,固定に頼らずとも日常生 活にまったく支障のない状態に持ち込むことができることを示している.金属による固定術は早期の解決には手堅いと もいえるが,保存的に治療することでもよい状態を患者にもたらすことができ,長期的には固定に伴う可動性喪失や筋 肉損傷による問題を防ぎうることのメリットは大きいと考えている. Fig. 13 受傷後 13 カ月 C2/3 C3 C3/4 C4 Fig. 12 受傷後 13 カ月まとめ
鈴木 今回の企画では頚椎外傷 2 症例の検討をさせていただきました.議論も深く,よい検討をさせていただきました. 2症例とも,上位頚椎に病変がありますが,この部は脊柱管が比較的大きい部位なので,かなりの圧迫がないと神経症 状は出にくい部位なことを常に念頭に置いています.症例 1 は保存的に治療でよいと思いますが,症例 2 をみたとき, この部位での後弯変形は運動や感覚の神経症状はなくとも,不快な痛み・違和感や不定愁訴が伴い非常に困った事例を 経験しているので,その経験が頭をよぎりました.幸い症状は軽快したとのこと,それで結果はよかったものと思いま す.この例の後弯がもう少し強くなると遅発性に四肢の症状が出る可能性もあり経過を追いたいところです. 菅原 提示された症例はいずれも C2/3 レベルの外傷性骨折で,経過中に脊髄症状が出現しています.症例提示の時点 では,いずれも神経症状は軽度でしたので,まず保存的療法を選択すべきと思われました.しかし 2 例とも instability や malalignment が進行する可能性があり,外固定を行いながら慎重に経過を観察し,必要ならば固定術を行うという 方針を選択しました.固定術は術後の可動域制限の問題もあり,近年は上位頚椎の固定でも下位頚椎と同様に隣接椎間 病が問題となることが報告されていますので,慎重に適応を決定したいと考えております.提示された 2 症例は保存的 療法で経過良好であり,示唆に富むものでありました.今後の参考にさせていただきます. 乾 病態機序,治療方針において,深く考えさせられる大変興味深い,今後の診療に役立つ頚椎損傷 2 例の検討でした. 適切な診断と治療のためには,正確な病態機序の理解が,疾患の自然予後予測を踏まえた治療方針決定に必須となりま す.誌上フォーラムでは,限られた情報(特に画像情報)での診断になるため,病態機序の理解が各コメンテーターで 異なる結果となったようです.症例 2 は flexion injury で異論のないところですが,症例 1 は flexion injury と extensioninjuryで意見が分かれました.病態機序の理解が異なるため,治療方針も異なっています.損傷椎の不安定性を見逃し がちで注意が必要とされる DES 2 と診断した症例 1 は,C2/3 の不安定性の有無が不明でしたので,あえて手術を勧め るとしましたが,実際には不安定性の認めない症例は保存的治療が選択されることは言うまでもありません.重要なこ とは出題施設の最後のコメントに尽きます. 下川 ほかの医師より「頚椎骨折を認めました.どのように手術で固定すればいいですか?」というご質問を時に頂き ます.骨折が存在するだけで,即内固定術につながるものではないと思います.外傷症例はバラエティーに富み,その 治療の strategy も一つではありません.個々の症例ごとに,将来を見据えた保存的加療と観血的加療の両者の治療結果 を予想し,それを患者さんに提示して治療方針を決定することが重要だと考えています.いつ,目の前に同様の case が運ばれてくるかもしれません.そのためにも,われわれ spinal surgeon は標準的手術治療の skill をいつでも提供で きるように,日頃から skill up をはかるべきだと考えています.