• 検索結果がありません。

シャーロット・ブロンテ初期作品研究(4) : ヒーロー像の造形とテーマの形成

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "シャーロット・ブロンテ初期作品研究(4) : ヒーロー像の造形とテーマの形成"

Copied!
26
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

シヤー ロッ ト・ プロンテ初期作品研究

(4)

一― ヒー ロー像 の造形 とテーマの形成 ―

岩 上 は る 子 (1992年 6月29日受理) 序 本稿 は「 シャー ロッ ト・ ブロンテ初期作品研究」(2)(3)で取 り上 げた ヒロイン像 に続 いて

,

ヒー ロ ー像 を分析 し

,初

期作品 に現れ た シャー ロッ トの愛 の特質 お よび恋愛物語の もつ意味 につ いて考察 しようとす るもので ある。 あわせて これ まで触れて いなか った作 品 も取 り上 げ

,初

期作 品の全体像 の概括 を 目的 とした本研究の締 め くくりとしたい と考 える。 シャー ロッ トが14歳か ら23歳 にかけて書 き続 けた初期作 品群の主人公 は

Arthur Wenedeyす

なわ ちMarquis Of Douroで

,後

に Duke of Zamornaか ら Emperor Adrttnへ と変わ る一人の男性 で あ った。 先に論 じた ヒロインたちが

,こ

の主人公 をめ ぐって恋愛物語 を織 りな してい る。彼女 たちの容姿, 性格

,境

遇 は個性的 に描かれてい るが

,共

通項 はいずれ もザモーナ公爵 に魅せ られ

,彼

への愛 を生 の拠 りどころ としていた ことである。ザモーナ公爵 は彼女 た ちの人生のすべてで あ り

,彼

への愛 に 生 きるこ とが彼女た ちの生 を意味づ けていた。言葉 を変 えれば

,彼

女 たちの存在 はザモーナ公爵 に 依拠 し

,彼

の存在 に従属 してい るのである。 物語 を導 くのは ヒー ローで

,

ヒロインたちは彼 らの人生 のそれ ぞれの局面 を飾 るために現れ る。 物語のなかでは

,彼

女 たちが変化 し成長す る姿 よ りも

,設

定 され た状況での印象的 な姿 を とらえ る ことに重点がおかれてい る。激 しい恋 に とらわれ るさま

,報

い られ ない恋 に耐 える孤独

,愛

の不安 になやむ姿 の形象が くり返 し描かれている。彼女 たちはザモーナ公爵 を中心点 に放射状 に置かれ, 加えて ヒロインたちの相互 の関連性が失 われ た ところに位置 させ られていた。 したが って彼 との愛 を失 った状態 におかれた とき

,彼

女たちは孤立 し自己の内に沈潜 す る しか なか った。 先 に見 た ように初期作品の恋愛物語 は

,そ

の多 くが悲恋 に終 ってい る。そ こに描かれ るのは愛 の 歓び とい うよ り

,む

しろ ヒロインたちの愛への憧憬や満 た され ない愛 の苦 しみである。作 中の愛 は 片務的で

,

ヒロインは一方的 に犠牲的献身 を強 い る形 であ らわれ

,

ヒー ローは多 くの女性 た ちに愛

(2)

184 岩 は る 子 を捧 げ られなが らも

,そ

の愛 に報 いることを知 らない。 この愛 の非対称 の基底 にあるのは

,

ヒロイ ンに とって愛 はその生のすべてであるのに対 して

,

ヒー ローのばあい愛 は必ず しも生 の拠 りどころ とはなっていない ことである。 ヒロインの造形 の中核が

,愛

に生 きる女性 の姿 を描 くことにあった とすれ ば

,

ヒー ロー像の中心 理念 は何で あったのだろ うか。物語 は

,既

成の道徳や因襲 に とらわれず

,

自分 の情熱 の赴 くままに 生 きるザモーナ公爵 を主人公 として展開 し

,そ

の彼 に報 い られ ることのない愛 を捧 げる ヒロイ ンた ちの悲劇的 な姿 を映 し出す。 ヒロインたちに対 して強烈 な求心力 を放つ ザモーナ公爵の魅力 とは何 なのか

,ま

たそれが どの ように形成 されてい ったのか を追究す ることが本論の主要 なテーマである。 以下で は

,ザ

モーナ公爵 を中心 として

,彼

の父 ウェ リン トン公謡

,義

父 となるノーザ ンガーラン ド 伯爵 な どを取 り上 げ

,シ

ャー ロッ トの男性像の特徴 とその問題点 を明 らか に したい。 (―

)グ

ラ ス タウン物語 :ウェ リン トン公 爵 にみ る ヒー ロー像 ウ ェ リン トン公爵 は

,子

供 た ちが最初 に作 り出 した グラ ス タ ウン物 語 の主 人公 で あ る。拙論 「 シ ャー ロ ッ ト・ ブロ ンテ初期 作 品研 究」Q)で 紹介 した よ うに

,武

将 の ウ ェ リン トン公 爵 を主 人公 とす る この物 語群 は

,多

くが探 検

,政

,戦

争 な どを主 題 と した

,女

性 人物 が ほ とん ど登 場 しな い 男性 的 な世 界 で あ る。物 語 の起 こ りか ら

,ウ

ェ リン トン公 爵 の造 形

,そ

の英 雄 像 な どにつ い て見 て み た い。 10歳の シ ャー ロ ッ トを リー ダーに

4人

の子供 た ちが

,父

の生産 の兵 隊 人形 か ら物 語作 りを開始 し た時 の模 様 は

,次

の一 節 に よって あ ま りに も有名 で あ る。

Papa bought Branvell some soldiers from Leeds,When Papa came home it was night and ve were in bed,sO next morning BranweH came t0 0ur door with a box of sOldiers,Emily and l jumped out

of bed and l snatched up one and exclairned, `This is the Duke of WeHington I It shan be■ line t' When l said this,E■lily likewise took One and said it should be hers. When Anne came down she took one also,Mine was the prettiest of the whole and perfect in every part,EInily's was a grave― looking felow,We caned hiln`Gravey'.Anne's was a queer little thing,very much like herself.He

was caned`Waiting Boy'.Branwen chose`Bonaparte'.l)

お な じみ の場 面 だが

,こ

こで改 めて確認 した いの は

,子

供 た ちの物 語 が 「 これ は ウ ェ リン トン公 爵

よ!わた しの は これ にす るわ!」 とい うシャー ロッ トの歓 声で始 ま った とい う点 で あ る。 は じめ に

(3)

シャーロット・ブロンテ初期作品研究

(4) 185

その後 しば しば入れ代 ったの に対 して

,グ

ラスタウン物語時代の シャー ロッ トは

,終

始 ウェ リン ト ン公爵 を自分 の物語 の主人公 として使 い続 けてい る。 物語 を最終的 に支配 す るの は

,常

に ウェ リン トン公爵 と決 まって いた。の シャー ロ ッ トの生 まれ る前年 の1815年 にワーテル ローで ナポ レオ ンを破 った公爵 は

,イ

ギ リスの国民的 な英雄 となった。 ブロンテ家 において も子供 たちばか りで な く

,父

ブロンテ師 も崇拝す る愛 国者で あった。牧師館 の 裏庭で ピス トル を撃 ち鳴 らす こともあった とい うブロンテ師 は

,

シャー ロッ トの親友 エ レン・ ナ ッ シが語 っているように

,お

そ ら く聖職者で あるよ りも軍人 に向いて いたのか も知れ ない。

9)ケ

ンブ リッジ時代 には ウェ リン トンの戦歴 に深 い関心 を示 し

,ま

た詩集 勁 ¢V,'」 οデX,'Jαγηり (1818)に おいて も

,登

場人物 の 日を借 りて

,優

れた軍略家 としての公爵 に賛辞 を送 って い る。つ ブロンテ師 にとって ウェリン トン公爵 は

,自

分 の果た しえなか った軍人 としての英雄的生涯 の夢 を体現 して く れ る人間であったのだろ う。 こうした父の ウェ リン トン崇拝 は子供 たち

,

と りわけ シャー ロッ トに最 も強 く受 け継 がれ る。彼 女の ウェリン トン熱 とも呼 びたい ような熱狂ぶ りには

,た

んなる ヒロイ ックなものへの憧れ以上 の ものが感 じられ る。 そ こには父 と共通の英雄 を崇拝す ることで得 られ る

,父

との連帯感 に似 たもの もあったのではないか と思 われ る。父 と弟 を中心 とした世界 に入 るためには

,彼

らと同 じ関心 をも ち共感す ることが必要であ った。。 そ うした意味で ウェリン トン公爵 を主人公 とした一連のグラス

タウン物語は

,シ

ャーロットを中心とする子供たちによる

(父

親探し〉の物語としての一面をもつ

といえよう。

グラスタウン物語の`Young Men's Play'におけるウェ リン トン公爵 は

,は

じめはArthurヽVelesley

の名 (これ も実在 の ウェ リン トン公爵の名 をとっている

)で

,In ncible号 と名付 け られ た船 に乗 り くんだTve e Adventurersの 一人 として登場 し

,後

に守 り神 か らウェ リン トン公爵 の称 号 を与 え られ

,植

民地の リー ダー として敵 と戦 い

,や

がて グレイ ト・ グラスタウンと名付 られ た王国の君主 として君臨 し

,政

治力 を発揮 す るよ うにな る。 また一方 のとIslander's PLy'に おいて は

,

ウェ リン トン公爵の辣腕ぶ りは カ トリック解放令や アイル ラン ド問題 をは じめ

,内

閣解散や総選挙 といった 政治的事件 な ど

,実

際の公爵の活動 に直接的 に取材 して描かれ るようになる。 シャー ロッ トはそれ らの知識 を

,新

聞や雑誌 あるいは父の蔵書 な どか ら得たのであろ う。6)ゥ ェ リン トン公爵 の公私 に わた る様 々な出来事 に強 い関心 を寄せ

,理

想化 した姿で 自作 に登場 させてい る。

物語の主要人物 の容姿 と性格 を紹介 した ℃haracters of the Celebrated Men of the Present Time'

(12.1829)で は

,シ

ャー ロッ トは スコッ トにな らって

,公

爵の姿 を次 の ように描 いてい る。

in short,the whole contour of his features were exactly what l should have wished for in the hero of Waterloo, conqueror of Buonaparte. In his disposition he is decisive, calln, courageous

(4)

186 尭」 は る 子

and noble―■linded. ・ ・ ・ All his conduct was calculated to inspire confidence into the Hlinds of his sOldiers and to make them mOre resolute in the defence of their king and cOuntry.の

秀 で た額

,高

い鼻梁

,引

き締 ま った 日元 とい った顔 立 ちの

,そ

して 決然 と して 勇敢 で気 品 に あふれ, 部 下 た ちの信頼 厚 く

,愛

国心 を奮 い立 たせ る強 力 な指導者 と して の姿 が そ こにあ る。物 語 にお いて は

,公

爵 は どの よ うな難 局 に あ って も挫 けず

,

ときに超人的 な力 を発 揮 して問題 を解 決 す る。優れ た軍 人

,政

治家 と して の ウ ェ リン トン公 爵 は

,家

庭 に あ って も頼 も しい父 親 ― 窮 地 に陥 った子 供 た ち を救 い 出す エ ピソー ドが い くつ か見 られ る ― で あ る。 こ う した家 父 長 的 な英 雄 像 は

,大

き くは この時代 の理想像で あ り

,そ

れ ゆえ英 国民の

,そ

して ブロンテ師の賞賛す る英雄 とな りえた のであろ う。 グラスタウン物語 において

,架

空の王国や島 々を舞台に活躍す るのは ウェ リン トン公爵 をは じめ とした実在の人物 たちで あったが

,そ

の物語世界 は童話性 をもつ子供 の虚構 の世界で あ った。彼 ら の想像 を掻 き立てた ものは

,遠

いア フ リカ大陸で遭遇す る未知の冒瞼

,奇

怪 な風物や 自然

,原

住民 との戦 い

,超

自然 の出来事で あ った り

,架

空の島 々で くり広 げ られ る政 治事件で あった。それ らは ロマ ンテ ィックな幻想物語か ら リア リステ ィックな政治寓話 にいたるまで多種多様であるが

,い

ず れ も子供 たちの想像力が生み出 した もので あった。そ うした物語の主人公 は

,子

供 たちの夢 を叶 え られ る万能の ヒー ローで あることを求 め られ

,そ

のため ウェ リン トン公爵 は極端 に理想化 され た完 全無欠 な姿で描かれたので あった。 (二

)ア

ング リア伝説 :ザモーナ公爵にみる ヒーロー像 アーサー・ ウ ェルズ リか ら ドゥアロウ候爵へ ア ング リア伝説 は グラスタウン物語の舞 台 と登場人物 の多 くを受 け継 ぎなが らも

,主

人公 は ウェ リン トン公爵か ら長男のアーサ ー・ ウェル ズ リ(ドゥア ロウ侯爵

)に

移 り

,彼

を中心 とした様 々な 恋愛物語が描かれ る。やがて ドゥア ロウ侯爵 はザモーナ公爵 とな り

,ア

ング リア国王 として君臨 し 大勢 の女性 たちにか しづかれ る一方

,義

父 となった ノーザ ンガーラン ド伯爵 と愛憎劇 を くり広 げる。

シャー ロッ トの最初 の恋愛物語`Albion and Marin〆 (10.1830)に お け るアーサ ー(ド ゥア ロウ侯

)は ,

ウェリン トン公爵の英雄 としての資質が

,指

導力

,勇

,英

,公

明正大 さ

,愛

国精神 な どにあったのに対 して

,ア

ポ ロを思わせ る均整 の とれた体型 と端正 な顔立 ち

,優

雅 な身の こな し,

人 を捉 えて離 さない深 く澄んだ褐色の瞳

,メ

ランコ リックな風情

,時

た ま見せ るはにかんだ魅力的 な微笑 の持主 で

,武

将 としての イメー ジはもた され ていなか った。の 彼 は可憐 な乙女 Ma naと 恋 に落 ちるが

,父

は息子の愛 を試すためにア フ リカヘの留学 を命 じる。かの地での

4年

の別離 のあい

(5)

シャーロット・ブロンテ初期作品研究

(4) 187

だ に恋 人 の面影 も薄れ

,ア

ル ビオ ンが わずか に ゼル ジアに心 を移 した時

,故

国 で彼 の帰 りを待 ちわ びて い た マ リーナは失 意 の うちに息絶 え る。帰 国 して彼女 の死 を知 った アル ビオ ンは

,何

処 とも知 れず姿 を消す。語 り手チャールズ(Charles wellettey)の 日調 に皮 肉が混 じるものの

,ア

ル ビオ ン (ドゥア ロウ侯爵

)は

悲恋の主人公 として描かれている。ただ し悲劇的な結末 はチ ャール ズによる 創作であ り

,実

際には`The Bridal'(7.1832)に おいてふた りは結ばれ る。この作品では

,妖

術 を使 って ドゥアロウの心 を動かそうとするゼノウビアの執念にも負けず

,彼

はマ リアン・ ヒュームヘの 愛 を遂げる誠実な恋人であ り続ける。

純真 な若者 としての ドゥア ロウ像 に変化が現れ るのは`Something about Arthur'(5,1833)以 降で

ある。 シャーロッ トはこの作品で時間をさかのぼって

,ア

ーサーの15歳当時の恋愛事件 を新たに書 き加えている。 ここで早熟な彼はMina Lauryと 最初の恋 をするが

,若

すぎるとい う父の反対 によ り恋は実 らない。 しか し彼 らの関係は愛人 として続 くのであ り

,こ

こに ドゥアロウ侯爵の女性遍歴 の物語が始 まることになる。続 く

`The Foundhg'6-6.1833)で

,マ

リアンを妻に迎 えた19歳の ドゥアロウ侯爵は

,Sydneyを

片腕 として国会 を運営す る

,野

心 に燃 える青年政治家である。生 ま れの良 さと非の打 ち処のない容姿によって

,社

交界で も人 々の注 目を集め

,そ

の将来を嘱望 されて いる。

その後`The Green Dwarf'(9,1833)を経て

,

シャーロッ トは詩や物語を集めた`Arthuriana'(9-■ .

1833)を 書いている。そのうちの

3篇

の散文作品に登場する ドゥアロウ侯爵の変化 を順に追 ってみ

る。 最 初 の `The Post Orice'(9,1833)ではFlowerに よ る `The Life of VerdOpolls'(Branvell,1833) に掲載 された ドゥア ロウ侯爵の スキ ャングル を暴 いた記事 を読 んだチ ャール ズが,「悪 の淵 に救 い 難いまで にはま りこんで いる」 とい う兄の噂 の真偽 を確 かめに行 き

,本

当 らしい感触 を得 る。 その 悪事の内容 について は書かれていないが

,

ドゥア ロウ侯爵が シ ドニーの妻 ジュ リアに対 して

,い

ぜ ん`影響 力'を も って いることがほのめか されている。`The Fresh Arr 』'(10,1833)で はマ リアン・

ヒュームが長男 を出産 した ことが告 げ られ

,考

き父親 ドゥア ロウ侯爵が赤ん坊 を抱 いて`he gazed With a SAlile Of such unutterable fondness as l never saw beanling on his countenance either before Or

Snce'の といった表 情 で我が子 を見つめている。 しか し彼の子供 の養育 にたい して父親 らしい気遣 い をみせ るのは

,む

しろ叔父のチ ャール ズである。彼 はこの子が父親譲 りの高慢 と激 しい気性 か ら蕩 児 にな ることのない よう指導す るのが

,叔

父 としての 自分 の義務で あると考 える。 自分 の ことは棚 にあげ

,自

然 に親 しませ質素 を旨 とした生活 をす るな ど

,ル

ソー的 な叛育方針 を披露 して い る。1の シャー ロッ トが ドゥア ロウ侯爵 に求めているのは父親像ではな く

,家

庭や生活 とは無縁 な放縫 な 男 らしさで ある。侯爵 の過去が さらに書 き加 え られ る。すなわ ちマ リア ンと結婚 す る以前 に Heにn

Victorineとのあいだにすでに庶子がいた。Fitz―Arthurと 名付 け られ たその子 は

,現

4歳

にな っ

(6)

188 党雪 は る 子

った初期作品に整合性 を与 えるために

,シ

ャー ロッ トは物語の時間的な流れ を無視 してまで

,

ドゥア ロウ侯爵 を多 くの女性関係 をもつ放埒 な男 として構成 しようとしていることがわか る。`Arthuriana' に収録 されてい る `The Tea Party'(10,1833)で も

,息

子の洗礼が済んでお茶会 を開 くマ リア ンに,

エル リン トン,日,らが酔 いにまかせて言 い寄 ろ うとす る騒 ぎが描かれ る。 この折の ドウア ロウ侯爵 は 客のひ と りのゼ ノウビア と日配せ して

,仕

事 と称 して 出かけて しま う。マ リア ンの どこかやつれ た 様子 に

,す

で に夫の心変 りが暗示 され る。 `Arthuriana'は統一 され たテーマは もたないが

,

ドゥア ロウ侯爵 の私生活 に焦点 をあてた もので ある。 そ こに描かれ る ドゥア ロウ侯爵 は

,か

つてマ リア ンヘの忠誠 を誓 った純真 なアーサー とはす っか り変 って

,妻

以外の女性 たち とも関係 をもつ不実 な男性 に変 っている。だがその不倫 に対す る 罪悪感 は皆無であ り

,む

しろ女性 を惹 きよせ る力 は彼 の美質 のひ とつ になってい る。 こうした兄 に 対 してチ ャール ズは批判 と嫉妬の入 り混 じった複雑 な態度 を示 している。ふた りは しば しば対立 し,

`The Fresh Arriv』 'で

,チ

ャール ズは兄か ら家 への出入 りを禁 じられ てい る。両者 の反 目につ い

て ラチ フォー ドは

,そ

れがバ イ ロン的 ヒー ローに対す るシャー ロッ ト自身の葛藤 を示 す もの と捉 え てい る。すなわ ち ドゥア ロウ侯爵の放蕩 に一方で は想像 を掻 きたて られ なが らも

,他

方で はその非 道徳 を批判 しなければな らない気持 ちも働 き

,チ

ャール ズをいわば検 閲の道具 に してい る。す なわ ちチ ャール ズに批半Jのポーズを取 らせ なが ら

,バ

イ ロン的 な ヒー ローにな りつつ ある ドゥア ロウ侯 爵の魅 力 を描 くとい うもので ある。・) 初期作品では物語の大半が

,チ

ャール ズによって語 られ る。彼 自身 は物語の主人公 となることは ないが

,た

えずザモーナ公爵の傍 らにあって

,そ

の言動 を見つめ るとい う役割 を担 い

,ザ

モーナ公 爵 とともにつね に物語 に登場 す る。脚光 を浴び る兄の陰 にあって

,チ

ャール ズは強 い劣等感 を抱 き なが ら

,兄

の言動 を羨望 と嫉妬の入 り混 じった気持 ちで観察 し報告す る。その皮 肉な語 り日

,屈

折 した感情

,変

節ぶ り

,臆

病 さ

,覗

き趣味

,中

歩好 きとい った性格 は

,チ

ャール ズ とい う人物 を リア ル な等身大の人間に している。現実離れ した巨大 な ヒー ローのザモーナ公爵の造形が

,こ

の卑少 と も思 えるチ ャール ズの 目を通 して行 なわれ るので ある。 かつての グラスタウン物語 においては

,チ

ャール ズは兄 と同 じように才能豊か な美少年 として描 かれていた。1の それがア ング リア伝説 になると

,シ

ャー ロッ トはチ ャール ズを恋愛物語の主人公で はな く語 り手 に後退 させたばか りでな く

,そ

の性格 まで矮小化 させてい る。兄 とその女性 た ちの密 会の場面 をか ぎつけ

,ふ

た りのや りとりに聴 き耳 を立てた り

,覗

き見 した りす るチ ャール ズの性癖 は

,彼

の批判 の論拠 を怪 しませ

,そ

の語 りの信憑性 に まで疑間 をもたせ る。 チ ャール ズの語 りは, 必ず しもラチ フォー ドのい う道徳的 なマ ウス・ ピースとい うのみでは説 明 しえない。それ は忠実 な 報告 あるいは道徳的 な注釈 とい うよ りも

,む

しろ恋人 たちの様子 を覗 う嫉妬 をもつ歪んだ 目に よっ て

,恋

愛物語の秘密 めいた性的な雰 囲気 をつ くりだす ことに貢献 している。 また何 よ りもチ ャール

(7)

シャーロット・ブロンテ初期作品研究

(4) 189

ズとい う男性の語 り手 を用 いた こ とに よって

,ザ

モーナ公爵 の放埒 な生活ぶ りも語 りやす く

,さ

ら に公爵の心理 にも近づ きやすい とい う利点があった。物語の方法 に対す るシャー ロッ トの作為 を語 るもの といえよ う。 ザモーナ公爵の誕生 1830年10月

,

ドゥア ロウ侯爵 は宿敵で あったエル リン トン卿 と手 を結んで

,対

ア シャンテ ィ戦 に 勝利す る。その功績 で

,

ヴェル ドポ リス連合政府 は彼 にザモーナ公爵の爵位 と領上 を与 える。 シャ ーロッ トの物語で は`High Life in VerdOpolis'修.1834)か らザモーナ公爵 の名 が使 われてい る。 この

作品の直前 に書かれ た `A Leaf ttom an Unopened Volume'(1,1834)は

,24年

後 のア ング リアを舞台 にした ものだが

,そ

こで はザモーナ公爵 はさらに「偉大 な」 とい う呼称 までついた Emperor Adrねn

として君臨 し

,絶

大 な権力 を振 るってい る。40代 は じめの威厳 を漂 わせ畏怖 をさえ感 じさせ る皇帝 に

,も

はや少年 の面影 はな く

,戦

いの明け暮れのなかです うか り精憚 な顔立 ちに変 っている。威圧 的な物腰か らは近寄 りがたい雰囲気が醸 し出され,「野心 をみなぎらせた鋭 い眼光」 と「深謀遠慮 を め ぐらす」公爵 の風貌 は`It iooked,・ ・ ・,as f heaven,being vrath with manHnd,had sent Lucifer

to reign on earth in the flesh・ '1の とい うよ うに

,天

か ら遣 わ され たル シファーに例 え られてい る。

ザモーナ公爵の形容 には 日立 って比Detが多 くな り

,

ロマ ン主義的 な ヒー ロー として肥大化 してい く。

`High Life in Verdopolis'は

,エ

ピグラフにバ イ ロンのC力

''」

ゼHαrοJJ's PttJg河秘電

cの

一 節が引用

され

,さ

らにザモーナ公爵 は上流社交界 の寵児 として華麗 な女性遍歴 を くり広 げるチ ャイル ド・ハ ロル ドに擬せ られ るな ど

,バ

イ ロンの影響 を強 く窺 わせ るものになってい る。物語 の梗概 は次 の と お りである。

主人公 はザモ ーナ公爵 の片腕Warner Howard Warnerで ある。 ア ング リア最大の旧家 の主で あ る

彼 は

,結

婚相手 を見つ けるために ヴェル ドポ リスの社交場 に姿 を現す。並居 る美女 の なかで フロー ラ・ ロス リンは持参金が ないため

,マ

ライア とエデ ィスの スニーキー姉妹 は高慢 なため

,ル

イーザ はザモーナ公爵 の叔母 にあた ることか ら

,い

ずれ も候補者 とはな らない。Grenville将軍の娘Elにn は 日にか な うが

,彼

女 の方が ウォーナーの容姿 ― 同性愛 者 な どとか らか われ るほ ど

,彼

は華奢 で女性的 な外見 を してい る一一―に内心が っか りしてい る。 エ レンはゼノウビアの愛弟子で

,機

知 に富 む率直で聡 明な女性 。父が決 めた婚約者 Lord Macara

LoAyが

い るが

,ウ

ォーナー と話す うちに

,彼

がその外見 とは異 な り

,男

らしい人物 で あることが わか り好意 をもつ。 狩 りが催 され

,ロ

ー フテ ィ卿 は棒猛 な猟犬たちに震 えあが るが

,ウ

ォーナーは動 じず

,不

思議 な 透視力 を発揮す る。 しか しノーザ ンガーラン ド伯爵の侮犀 に腹 をたて

,ひ

とリー行 を離れ森 のなか に姿 を消す。やがて何処か らともな く現れたザモーナ公爵 に別荘 に招かれ る。公 は ウォーナーの透

(8)

190 岩 は る 子 視力に興味 を示 し

,

と くに彼 が見 た女 の亡霊が

,今

は亡 きマ リア ン・ ヒュー ムで は ないか 聞 きた だそ うとす る。やがて森 の中の館 につ き, Mina Lauryに迎 え られ る。 ザモ ーナ公爵 は

4歳

にな る Fitz―Arthurと

,マ

リア ン・ ヒュームの遺 児で6カ月の Jd sを

,父

親 らし く抱 き じめ る。後 に召 使か ら

,公

爵が館 を訪れ たのは

2年

ぶ りで

,マ

イナ との関係 はマ リア ンと結婚す る前か らの ことで あった ことを知 らされ る。 舞台は再 び ノーザ ンガーラン ド伯爵の屋敷。おな じみの顔ぶれ で退屈 しの ぎにマ スカ レー ドをす ることになる。仮装 した人 々の中に部外者が幽霊の姿で紛れ込んでお り

,魔

術師 に扮 していたマ カ ラ・ ローフテ ィに見破 られて逃 げ出す。夜 も更けて

,メ

ア リがひ と りで先祖 の墓地 に行ずんでいる。 そ こにザモーナ公爵が現れ彼女 を抱擁す るが

,そ

れ は別の女性 と勘違 い しての ことで あった。その とき銃弾が公爵の頭 をかすめ る。狙撃 したのは ローフテ ィであった。彼 は死んだはずの兄が生 き返 り

,こ

の場所 で今夜 ザモーナ公爵 と会合す るのを知 り

,家

督 を奪 われ ることを恐れて兄の暗殺 をは か つたのである。かか る ローフテ ィの卑劣 さが知れ

,グ

ランヴィーユ将軍 もエ レンとウォーナーの 結婚 を許す。 ウォーナー とエ レンの恋 の展開は

,そ

れ までのパ ター ンで あった美 男美女の ロマ ンテ ィックな恋 物語ではな く

,た

が い に内 に秘 め た魅 力 を発 見 す る とい う意 味 で

,そ

の 後 の`Henry Hastings'

(2-3.1839)に おけるWilliam Percyと Elizabeth Hastingsを 予感 させ る。 しか しここで注 目したいの

,ウ

ォーナーよ りもザモーナ公爵で ある。バ イ ロンを巻頭 に頂 いた作品 は

,さ

らにバ イ ロンの主 人公を思わせ る声音で

,ザ

モーナ公爵 に次の ような第一声を放たせている。

I Ike high life:I like its lnanners,its splendOrs,its luxuries,the beings which mOve in its enchanted

sphere. I like to consider the habits Of those beings, their way of thinking, speaking, actingo Let

fools talk about the artificial, voluptuOus, idle existences spun out by dukes, 10rds, ladies, knights and squires of high degreeo Such cant is not for me;I despise it. What is there of artificial in the

hves of Our VerdOpontan aristocrasy? What is there of idle? Volupltuous they are to a proverb, splendidly,magnificently voluptuOus,but not inactive,not unnatural.1つ

上流貴族 の華やかな生活 と享楽 を高 らか に歌 い上 げようす る

,自

信 に浴れ た考 いずモーナ公爵 の姿 は

,コ

ー ロッパ社交界の寵児 として各地 を漫遊 し享楽の限 りを尽 くすチ ャイル ド・ハ ロル ドの姿 と 重 なる。ザモーナ公爵 の魅力的 な容姿 は

,あ

らゆる女性 を惹 きつ けず にはおか ない。 ここで も今 な お彼への未練 を断 ち切れ ないゼ ノウビアが「′いの平衡 を失 うほ ど」悩 み苦 しんで い る。弟子のエ レ ンも公爵 に会 うまでは

,あ

の非道徳で放縦 と噂 に高 い彼 に冷淡 に してみせ ると公言 しなが ら

,空

し く彼の魅力 に微笑 を禁 じえない。ザモーナ公爵 は女性 の魂 を奪 い

,彼

女 たちを意 の ままに操 りなが

(9)

シャーロット・ブロンテ初期作品研究

(4)191

,女

性 た ちに一片の敬意 も払 お うとしない。女性 た ちは彼 の快楽 のための道具 にす ぎず

,彼

の前 で誇 りを失 い

,暴

君 に自ら進 んで身 を委ね る。 こうしたザモーナ公爵の姿 は

,

トル コの後官 に君臨

,多

くの妻妾 に囲 まれたサル タンに例 え られている。

また主要人物 の 肖像画 をチ ャール ズがめ くりなが ら批評す る趣 向の`A Peep into a Picture Book' (5-6.1834)で は

,ザ

モーナ公爵の姿が次 の ように描 かれてい る。

Oh,ZamOrna t WVhat eyes those are glancing under the deep shadow of that raven crest ! They bode no good,Man nor woman could ever gather more than a troubled,fitful happiness from their kindest hght,Satan gave them their giory to deepen the midnight gloom that always fo1lows where

their lustre has fallen most lovingly. ・・・ AH here is passion and fire unquenchable.Impetuous sin, stormy pride, diving and soaring enthusiasm, war and poetry are kindlng their fires in aH his veins, and his wild blood boils from his heart and back again hke a torrent of new― sprung lava.

Young duke―young demon l 19

公爵 はバ イ ロンの主人公 あるいは トル コの皇帝 を越 えて

,こ

こでは悪魔的 な魅 力 を秘 めた超人的 な ヒー ローになってい る。その情熱 は燃 えさか る炎

,噴

出す る溶岩 に例 え られ

,そ

れ を鎮 め ることは だれ にもで きない。そ してその輝 きを際だたせ るように

,深

い間が彼 を取 り巻 いてい る。 続 く`The SpeH'(6-7.1834)は チ ャール ズが

,そ

の「せん さ く好 き」 のために兄 の家 を追 われ た 腹いせに

,兄

の二重人格ぶ りを暴 くつ も りで編集 した とい う前置 きで始 まる。す なわ ちザモーナ公 爵の「表裏 のある

,偽

善的で

,後

ろ暗 い

,狂

気 を秘 めたその性格 を知 り抜 いてい る人 間が

,一

人 は いる」 ことを思 い知 らせ よう というものである。チャールズの この復讐心の背景 には兄嫁への思慕 が ある。ただ し物語で はチ ャール ズは10歳 とされてい るので (大人びた 日調 は とて も子供 とは思 えな いが

),メ

ア リヘの感情 も憧れ以上の もので はないか も知れ ない。 それ で も好奇心 が強 く

,執

拗 な 視線 には嫉妬が感 じられ

,屈

折 した心理 を窺わせ る。 物語 には メア リの夫 としてのザモーナ公爵 と

,マ

イナ・ ロー リの別荘 を訪れ るふ た りの息子た ち の父 としての

,も

うひ と りのザモーナ公爵が登場す る。対照的 な二つの顔 をもつ ザモーナ公爵 につ いての謎解 きは

,後

者が双子 の兄Ernest(Duke of VЛ dacelけ で あること

,ふ

た りが一 緒 の姿 を他 人に見 られ る と死ぬ とい う呪いのため

,こ

れ まで他人 にはわか らない ように

,ふ

た りは しば しば入 れ代 りなが ら成人 した とい うもので あ る。兄 はWelhngtondandの 王妃

Emlyと

結婚 し

,妻

は人里 離れ た地で二人 の子供 たち と暮 らし

,夫

は人 目を避 けなが ら一年の半分 を家族 と共 に過 ごす生活 を 送 って きた とい う説 明がな され る。物語 はザモーナ公爵の分身 を創 りだ して終 るが

,チ

ャール ズは 追記 として次の ように述べてい る。

(10)

192 岩 は る 子

Reader,f thereね nO Vattacdtt there ought to be one.r the yOttg King of Angrね has no』ter ego he Ought to have such a convenient representative, for no single man, having one corporeal and one spiritual nature, if these were rightly cOmpounded without any Hlixture of pestilential ingredients, shOuld, in right reasOn and in the ordinance of coHllnon sense and decency, speak

and act in that capricious, dOuble― deahng, unfathomable, incOmprehensible, torturing, sphinx― hke

manner which he constantly assumes for reasOns known Only tO hilnself.工 。

す なわ ちザモ ーナ公 爵 が も う一 人 い る と考 え な けれ ば

,あ

の気 ま ぐれ で残 酷 で

,測

り知 れ ない謎 を 秘 め た人物 を説 明す る こ とな ど不可 能 で あ る。 も し彼 が一 人 の人 間で あ る とい うの な ら

,そ

の 肉体 と魂 はお そ ろ し く有 害 な成分 か ら構 成 され て い るに違 い ない と

,チ

ャール ズは読 者 に語 りか けた う えで

,最

後 に ザ モ ー ナ公爵 が22歳で狂 死 す る とい う予言 を して物 語 を終 えて い る。 ザ モ ーナ公爵 の 出生 の秘 密 や二重 人格 ぶ りが ここで新 た に書 き加 え られ たの は

,ザ

モ ー ナ公爵 を 超 現 実的 な一 面 も含 ん だ巨大 な ヒー ロー像 と して作 りあげ よ うとい う意 図か らで あ ろ う。 またそ こ に は

,複

雑 化 す るザ モ ーナ公爵 の性格 づ く りの意 味 もあ る もの と思 われ る。 浮 気 な夫

,酷

薄 な恋 人 と して の ザ モ ー ナ公 爵 の姿 は随所 に見 られ る。例 えば `A Late Occurrence' (1,1835)では

,ザ

モ ー ナ公爵 の誘 惑 に負 けた ジュ リアがつ い に夫 ン ドユ ー と別れ

,公

爵 の も とに走 るの だが

,彼

の冷 や か な応 接 に心 の凍 りつ く思 い をす る。 また正妻 の メア リ・ ヘ ン リエ ッタも夫 の 陰 に女性 た ちの気配 を感 じ

,夫

と ともにい る時 いが い はつね に不安 に さい な まれ て い る。 メア リに とってザモーナ公爵 はすべてであって も

,公

爵 に とって は彼女がすべてで ない ところに メア リの苦 悩が ある。 ザモーナ公爵 とい うヒー ロー像 の特徴 のひ とつ は

,そ

のイモ ラル な点 にある。完全無欠の英雄で あった ウェ リン トン公爵 に対 して

,ザ

モーナ公爵 は反道徳的で

,多

くの女性 を誘惑 して は捨 て て 顧 み ない蕩児 で ある。 ヒロインた ちはその移 り気 な公爵 に恨みを抱 くので はな く

,む

しろ彼 の酷 薄 さ

,放

綻 さゆえにい っそ う彼 に惹 きつ け られて い く。 シャー ロッ トの ヒー ローた ちについて ジ ェラ ンは

,彼

らの道徳 的 な欠陥 (mOrЛ imperfecdon)を 指摘 し

,そ

の た め初期 作 品 の恋 愛 物 語 は 幸福 な結婚へ は導 かれず

,

ヒロイ ンた ちが不幸 に陥 る とい う結末 になる と説 明 して い る。 さ らに 彼女 た ちの不幸 は

,た

んに恋人の不実 さのゆえばか りで な く

,自

分 の誇 りをな くす まで に ヒー ロ ーに心奪 われ る ヒロイ ン自身 の嘆 きで もあ る と述 べて い る。17)すで に見 て きた よ うに ヒロイ ン たちが愛 を捧 げ るザモーナ公爵 は

,女

性 に とって その心 の内は窺 い知れ ない

,近

寄 る こ とので き ない孤高 の人 で あ り

,と

きに一個 の男性 を越 えた悪 魔的 な存在 として彼女 た ちの前 に現れ るので ある。

(11)

シャーロット・ブロンテ初期作品研究

(4) 193

ザモ ーナ公爵 の変 貌 ザモーナ公爵 の形象 には シャー ロッ トの愛読 した聖書

,シ

ェイ クス ピア

,

ミル トン

,ス

コ ッ ト, バイロンなどをは じめ

,無

数の ソー スが指摘 され るで あろ う。だがザモーナ公爵 はそれ らの合成で はな く, シャー ロッ トの理想 を投影 した独 自の ヒー ローで あった ことはい うまで もない。バイ ロン (そして彼の主人公 たち

)は

シャー ロッ トを魅 了 した ことは疑 いないが

,ザ

モ ーナ公爵 に取 り入れ られたのはバ イ ロンの一面 にす ぎなか った。ザモーナ公爵 はいか に享楽的 な人物 として描かれ よ う と

,彼

には快楽 と表裏 をなす孤独感や俗怠感 は希薄で ある。公爵 には人の道 を踏 み外 して も添 い と げず にはい られ ない 自己の情念 をおぞ まし く思 う気持 ちも

,あ

るいはひ とつの理想の女性像 を求 め て満た され ない ままに女性 たちのあいだを巡歴す る苦悩 もない。 また自分 の愛す る女性 をことごと く不幸 に して しま うとい う苦 い絶望感 も知 らない。暗 い罪悪感

,宿

命感

,反

逆精神 といった ものを もたないザモーナ公爵 は

,い

わば (毒のないバ イ ロン〉 とい うことがで きよう。 ジョン・ メイナー ドはバ イ ロンの影響 について

,ザ

モーナ公爵 にはバ イ ロンの暗黒面 は取 り除かれた形で導入 され な が らも

,シ

ャー ロッ トはバ イ ロンを通 して

,

しだいに閉塞 してい く当時 の社会環境では触れ られ な い情熱や性 の世界 を知 ることになった と述べてい る。1° ザモーナ公爵の性的側面が リア リテ ィをもって描かれ るようにな るのは'Julia'(6.1837)以 降で あ る。公爵の描 き方 に変化が見 えて くる。それ までの比喩の多 い誇大 な描写 か ら

,

日常的 な シチュエ ーションで垣間み られ る

,一

人の男の素顔 を捉 えるこ とへ と移 って くるので ある。 作品の紹介 に入 る前 に

,物

語全体 の状況 をま とめてお きたい。 シャー ロッ トは1835年 7月か ら38 年12月 までのお よそ

3年

半 を

,

ロウ・ヘ ッ ドにあるウーラー女史の私塾の教師 として過 ごした。 ブ ランウェル と手紙 をや り取 りしなが ら状況を把握 し

,休

暇で帰省 した折 な どに創作 にあた った。物 語の主導権 は ブランウェル にあ り

,彼

は姉が ロウ・ヘ ッ ドに発つ と

,さ

っそ く第二次 ア ング リア大 戦 に着手 した。 それ に よれ ば

,

ヴェル ドポ リス内閣はア ング リア王国を連合か ら追放す る決定 を下 し

,1836年

4月 には連合軍が ア ング リアの首都 エ イ ドリアナポ リスに迫 ってい る。 `Passing Events'(4・1836)は こうした状況 を シャー ロッ トが 自作 に取 り入れ なが ら創作 した もの

, 7つ

の断片的 な情景か ら構成 されている。 その内容 は主 だ った登場人物 たちの大戦前夜 の よう すである。再婚 した夫 ソー ン トンの身 を案 じるジュ リア

,

ノーザ ンガーラン ド伯爵 を気遣 うゼ ノウ ビア, crOss Of Rivauxの 別荘でザモーナ公爵 を待 ち続 けるマ イナ・ ロー リ

,あ

るいは ヴェル ドポ リ

スの裏町でBrOher AshwOrthと名乗 って布淑活動 をす るノーザ ンガー ラン ド伯 爵

,ま

たWelledey

Houseでは夫 と父の対立 に胸 をいためるメア リの姿が措かれ る。やがてエイ ドリアナポ リスは巨大

な兵始部 と化 し

,総

司令部で は重大 な決意 を したザモーナ公爵が

,駆

けつ けた メア リを追 い帰す。 後 日

,敵

の手 にお ちたア ング リアの様子が新聞で伝 え られ

,逃

走 したザモーナ公爵の 肖像画 をは じ め財産が競売 にふ され る。やがて首都 は敵の手 に落 ち略奪 にさらされ る。ザモーナ公爵は都落 ちす

(12)

194 岩 は る 予

る。い っぼ う蜂起 の機会 をね らって いた ノーザ ンガーラン ド伯爵はザモーナ公爵 を裏切 り

,暫

定政 府 を樹立 して共和 国 を宣言す る。捕 らえ られた公爵 は Ascendon lsleへ 流刑 になる。

`Passing Events'か 14カ月ぶ りに書かれ た`Julね'(6.1837)では戦況 は一転 し

,ザ

モ ーナ公爵 は

ア ング リア王国 に帰還 し

,い

っぼ うノーザ ンガーラン ド伯爵 は逃走 中で ある。 この物語 もやは りい くつかの場面 をつ なぎ合 わせた もので

,一

貫 した ス トー リーをもたない。時 間 はイー ヴシャムの戦 い直前 に設定 され

,ザ

モーナの軍が町 を包四 している。以下 に梗概 を示すゴ チ ャール ズはザモーナ軍が包 囲す るイー ヴシャムの町に

,評

半1の良 くないマ カラ・ ロー フテ ィと 滞在 している。遠 くで時お り銃撃 の音が聞 こえる。情婦 のル イーザ・ ヴァー ノンは一度は ノーザ ン ガーラン ド伯爵 を見限 り

,こ

のマ カラとの情事 に走 った こともあったが

,今

ではまた撚 りをもどし てい る。 だが今 はその彼 とも離れ ばなれで

,彼

女 はザモーナのも とに捕 らわれている。 先頃ヘ ン リ・ヘ イ ステ ィングズが出版 した本 を読 んだチ ャ

=ル

ズは

, 2年

前の事件 を思 いだす。 お茶 に招かれ たヘ ン リはか らかわれているとも知 らずに

,

ジュ リア とマ ライア・パーシィを相手 に カラバ ー作戦での手柄話 を得意になって話 している。それ をソーン トンに指摘 されてむっとす るが, 女たちのお世辞 に機嫌 をなおす。 そ こにハー トフォー ド,日,が現れ

,ヘ

ン リな ど歯牙にもかけず女性 たちの注意 を引 きつ け

,誇

りを傷つ け られたヘ ン リは怒 って出て行 って しま う。 これ を恨みに思 っ た彼 は

,こ

の本 を書 いて意趣 が え しを したわけで ある。 舞台は郊外 の メンジス ト派 の教会。かつてその牧師が迫害者 を呪い殺 したエ ピソー ドが紹介 され る。チ ャール ズは明 日の集会 の準備 に来 たのだが

,そ

こにWttIねm Percyと ザモ ーナ公爵 の付人 の Rosierが 現れ る。作戦本部 に案内されてい くと

,そ

こで は ソー ン トンや イーナ ラな どが険 しい表 情で話 し込んでい る。 イーナラはル イーザの扱 いにつ いてザモーナ公爵 に相談す る。公爵が彼女 に 会 うことにな るが

,彼

の胸 は妻 メア リの面影 でい っぱいであ る。幼い CarOline VernOnが ザモーナ 公爵の膝 で他愛 の ないお しゃべ りを している。まもな く母親 のル イーザが現れ

,そ

の友れ っぼい様 に公爵 もい くらか心動か され る。 しか し「自由」 を とい う願 いが聞 き入れ られ ない とわかぅた途端 に

,彼

女 はす さま じい悲鳴 をあげ公爵 を狼狽 させ る。結局

,ル

イーザはエイ ドリア ン砦 に送 られ る。 チ ャール ズはい よい ょ戦 いの火蓋が切 られ ようとしている町 を後にす る。

物語の語 り手 Charles Welesleyは ,`Passing Events'以降 Charles TOwnshendと その姓 を変 えてい る。 しか しその語 り日か ら幸辣 さは消 え

,脇

役 のひ と りとして登場 す るだ けになって い る。 シャ ー ロッ トは ここで はチ ャール ズとは別 に著者 として顔 をのぞかせ

,読

者 に直接語 りか ける。 と くに

`JuliJや `Mina Laury'や aroline Vernon'な ど後期 の作品で はその傾 向が強 く

,チ

ャール ズの皮 肉

な日調 を借 りるので はな く

,よ

り権威 をもつ全知の著者 として コメン トを加 えている。

`Julia'では夕暮れ にひ とりもの思いにふけるザモーナ公爵の姿がある。彼は一年にもおよぶ離別にた

(13)

シャーロッ ト・ブロンテ初期作品研究

(4)195

にしようとしたザモーナ公爵が

,今

は戦いをうち捨て妻のもとに帰 りたい気持ちを抑えられない。そう

したザモーナ公爵の変化について

,著

者は次のようにいう。

`He cursed War&anbttiOn― Warnもr,

if he had seen hiln at this moment,would have gone half一frantic――His troops were arranged, his plans were ttid for an awful cnds.託 was at hand and he was ck Ofit,'1の これ まで政争 に明け暮れ

,遮

二 無二突 き進んで きたザモーナ公謡が

,は

じめてそ うした生 き方 に疑間 を覚 える。公爵 を ヒー ロー と して特徴づ けて きた野望

,情

,自

尊心 な どが衰 え

,よ

り人間 らしい弱 さをもった常人へ と変 わ り つつある。

lulia'において初 めて妻の メア リ・ヘ ン リエ ッタを振 り返 ったザモーナ公爵 は,`Mina Laury'(1.

1838)では情婦 マ イナ・ ロー リの存在 を今 さらなが らに意識 す る。 Lord Hartfordが マ イナに思 い

を寄せてい るこ とを知 った公爵 は

,な

ぜか寝つ けない。眠れ ないザモーナ公爵の姿が次 の ように描 かれてい る。

Long Zamorna lay awake, neither Youth,nor health, nor Weariness cOuld woo sleep to his pillow

―he saw his lamp expire― he saw the brilhant flame of the hearth settle into ruddy embers一 then fade, decay & at last perish一 ―he felt silence & total darkness close around hirn tt but still the unslumbering eye wandered over ilnages which the fiery inagination pourtrayed upon

vacancy―-20j ランプが燃 え尽 き

,炉

のお さ火 も灰 に変 わ り

,辺

りに闇が落 ちて きて も

,ザ

モーナ公爵 に眠 りは訪 れない。彼 を愛 した多 くの女 たちが

,火

の気が な くなるまで炉 を見つめなが ら感 じていた孤独 と不 安 を

,ザ

モーナ公爵が今感 じているか否かはわか らない。 だが とにか く公爵 はマ イナの愛 を確かめず にはい られ ない。ふた りが向い合 う場面は

,こ

れ まで の彼 らの関係 を象徴 す るような場面 にな ってい る。 マ イナは彼女 を正妻 として迎 え

,安

定 した家 庭生活 を保証す る実直 なハ ー トフォー ド卿 の プロポー ズを退 け

,家

族 や世 間 の非難 を受 けなが ら も

,気

ま ぐれ なザモ ーナ公爵 の愛人 として生 きるこ とを選ぶ。 マ イナに とって愛 は理性 を越 えた 力で あ り

,愛

において は彼女 は 自分 を捨て る しか ない。前 回見 た ように

,ザ

モ ーナ公爵 はマ イナ が彼 に献身的 な愛 を捧 げ

,い

か な る犠牲 も厭 わず絶対服従 す るこ とを求 め る。 それ はいわ ば主従 関係

,さ

らには絶対神 とその僕 の関係で あ り

,マ

イナはあたか も神 に仕 え る よ うに

,報

い を期待 す ることな くザモーナ公爵 に仕 えて悔 いない。 マイナに とって ザモーナ公爵 の命令 は神 のそれ で あ り

,反

逆 は許 され ない。厳格 で嫉妬深 く

,た

とえ不合理 で あって も犠牲 を求 め

,そ

の絶対 的 な 支配力 をもつザモーナ公爵の造形 には

,シ

ャー ロッ トが愛読 した旧約聖書の神 の イメー ジが うかが われ る。

(14)

196 岩 は る 子

マイナの姿 にはバ イ ロンの愛人であったオーガスター・ リーを思わせるものがあ り,`Mina Laury'

は彼女のザモーナ公爵 に寄せ る自滅的な愛の分析 ともい うべ き作品 になっている。著者はマイナが 逃れ ようもな くザモーナ公爵への愛 に とらわれていることを

,憐

れ み と驚 きの眼で見つめ る。公爵 の愛 の ささや きに酔 う彼女 に対 して`StrOng―minded beyond her sex―active,energetic,and accom―

plねhed in al1 0ther points of

ew―

here she was as weak as a child'21)と コメン トをしている。著者

の声で語 るのは

,チ

ャール ズの主観的 な

― ザモーナ公爵 には皮 肉な

,相

手 の女性 た ちに対 して は同情的 な一一 語 りでは伝 えられ ない

,達

観 した見方 を提示 しようと意 図 したため と思 われ る。 その直前 にも著者 は

,公

爵への愛 を疑われた ことに驚 き気絶 したマ イナを見て

,内

心の満足 を覚 え るザモ ーナ公爵 につ いて`PeOple say l am not in earnest when l abuse hin― Or dse l would here insert half a page of deserved vituperation― deserved &heart― felt―――as it is l will=neroly relate his

conduct without nOte or comment― 'と特 にザモーナ公 爵 を批判 す る様 子 も見 られ ない。そのい っ

ぽ うマイナに対 して は魔力 を発す るザモーナ公爵が

,思

いが けず妻が現れた ことに慌て る滑稽 な姿 が捉 え られてい る。彼 はマイナには巨人であっても

,読

者の 目にはひ とりの平凡 な男で しか ない。 ザモーナ公爵 の ロマ ン主義的な ヒー ロー像は相対化 され

,も

はや絶対的 な崇拝 の対象ではな くなっ てい るとい うことが言 え よう。 初期作 品のほぼ終 りに位置 す る ℃arOIne vernon'16-8/11-12.1839)で

,ザ

モーナ公爵の姿 は 二つ に分裂 してい る。先 に紹介 した ように作品は

2部

か ら成 り

,そ

こに登場す るザモーナ公爵 はふ たつの顔 ―― 後見人お よび誘惑者 ― をもってい る。第

1部

にお ける彼 は麦 わ ら帽子 に シャツ姿 で

,額

に汗 して農作業 にいそ しみ

,被

後見人のキ ャロラインがパ リの社交界 にデ ビューすることに 難色 を示 し

,出

発 にあた っては身 を謹 む よう説荻す る道徳家で ある。第

2部

における彼 は首都で議 会の運営 にあた り

,上

流社交界 に姿 を現す華やか な元首であ り

,キ

ャロライ ンがザモーナ公爵の過 去 を知 って帰国 し

,彼

の前 にひ と りの女 として姿 を現す と

,公

爵 は誘惑者 に変身す る。 この落差 に 不 自然 を感 じたのか

,

シャー ロッ トは後 に第

1部

の終 りの部分 を大幅 に削除 してい る。最初の原稿 ではザモーナ公爵 は

,誘

惑の舞台 として よ く使 われ る月 明 りの庭で,「誘惑す る」 のではな く「説 教す る」 かたちになっている。それでは誘惑に対す るパ ロデ ィである。

ザモーナ公爵のもつ く

後見人〉とは別の

(誘

惑者〉の顔を引きだすのはキャロラインである。そ

の意味では誘惑者はむしろ,こ の無邪気なキャロライン自身というべきであろう。公爵の変貌ぶ り

`HithertO ve have seen hiln rather as restraining his passions than yielding tO them―

he has stood befOre us rather as a Mentor than a Misleader― ―but he is going to lay dOwn the last garment of light &be himser entirely'2の と伝 え られ る。 さ らに著 者 は ザ モ ー ナ 公 爵 と道 徳 的 な フ ィデ ィーナ公

爵をあえて比較 し

,こ

の怖いもの知 らずの少女にたいして「フィディーナ公爵ならば

,そ

の危院 な

(15)

シャーロット・ブロンテ初期作品研究

(4)197

Heartはな く

,何

の た め らい もな く若 い花 を手折 り自分 の祭壇 の飾 りとす るで あ ろ う」 と続 け る。

そ して キ ャロライ ンの前 に現 れ た ザ モ ーナ公謡 は,

``If l were a bearded Turk, CarOhne, I vOuld take you to my Harem"― His deep vOice, as he

uttered this― his high―featured face,&dark large eye,beaming bright with a spark from the depths of Gehenna,struck CarOhne Vernon with a thrili Of nameless dread― ―Here he was‐――the

man that Montmorency had described to her― ――all at once she knew hirn― Her Guardian was

gone―

Something terrible sat in his place,つの

ここに見 られ るザモ ーナ公爵 の姿 は

,サ

タ ンや サル タ ンの比喩 に よって これ まで繰 り返 し描 かれ て きた放 縫 な公 爵 で あ る。彼 はふ たた びバ イ ロン的 な ヒー ローに戻 って い る よ うに見 え る。 そ してお な じみ の誘 惑 の場面 が展 開 され る。 しか し「キ ャ ロライ ン・ ヴ ァー ノン」 はそれ まで の恋愛物語 と お な じ題 材 を用 いなが ら

,そ

の扱 い方 とテ ーマ は これ まで とは異 な って い る。 それ はザ モ ーナ公爵 の誘惑 の物 語 で はな くして

,ひ

と りの少女 が大人 に な る

,い

わ ば イニ シエ ー シ ョンの物 語 とな って い るので あ る。 キ ャ ロライ ンは

,ノ

ーザ ンガー ラ ン ド伯 爵 と彼 の情 婦 ル イーザ・ ヴァー ノ ンの あいだ に私 生児 と して生 まれ

,ザ

モ ーナ公爵 を後見 人 と して成 長 す る。「バ イ ロンを読 みす ぎ」 た「想像 力 の強 い」 少女 が

,や

が て パ リに出て

,そ

こで ザ モ ーナ公 爵 の放縦 な一面 を知 らされ

,好

奇 心 をか きた て られ, 彼 へ の 関心 を 「恋 なのか も知れ ない」 と思 い込 み

,か

れ の前 にひ と りの女 性 と して戻 って い く。彼 女 は公 爵 との再 会 の場面 を想像 の 中で ロマ ンテ ィックに思 い描 いて いたが

,実

際 に彼 を眼 の前 に し た とき強 い羞恥 心 に襲 われ る。 キ ャ ロライ ンの姿 は次 の よ うに描 かれ て い る。

一 they intilnated that he looked upon her with different eyes to what he had dOne, ど監 considered her attachment to hiln as liable tO anOther interpretation than the mere fOndness of a Ward fOr her Guardian――her secret seemed to be discovered一 ―She was struck with an agOny of shame一―her

face burned―――her eyes fe■―――she dared look on Zamorna no more.の

「 自分 の秘 密 が暴 かれ た よ うに感 じた」 の は

,無

意 識 の うちに キ ャロライ ンの心 の なか に育 くまれ

て いた感情 が

,ザ

モ ーナ公爵 に対 す る性 愛 で あ るこ とに気づか され たた めで あ り

,自

分 も また ひ と

りの女 で あ る とい う事実 を認 識 させ られ たか らで あ る。「す べて の男女 とお な じよ うに

,経

験 の 園

でぶ ど うを摘 む ひ と り」 として

,キ

ャ ロライ ンは ザ モ ーナ公爵 の多 くの女性 た ちの ひ と りに身 を連

(16)

198 寿雪 は る 子 る。 しか し盲 目的 な愛 に 自己の主体性 を失 っていった彼女たちとは異 な り

,キ

ャロラインは彼女 自 身 を客観視 してい る。彼女 は 自らの「バ イ ロン的」情熱 を自覚することによって

,バ

イ ロンを脱 し たのであ り

,そ

れ は著者 シャー ロッ ト自身の姿で もあ った。 以上

,ザ

モーナ公爵の造形の変遷 を見て きた。その姿 は純真で誠実な恋人か ら

,放

縦 で悪魔的 な ヒー ローヘ と超人化 し

,や

がて現実味 をおびた性的 な誘惑者へ と変 わ ってい った。それ は一言でい うな ら

,巨

大 な ヒー ロー像か ら実物大 の男性像 への変容 と要約で きるだろ う。望 ま しい ヒー ロー像 の構築 は

,主

としてバ イロンに取材 しなが ら

,も

っぱ ら観念の うえで形成 され た もので あった。そ の姿 は想像の なかで肥大化 し

,比

喩 に包 まれ

,実

在感 の乏 しいものにな らざるを得 なか った。神秘 的な人間以上 の存在 にまで理想化 され たザモーナ公爵の内面 は描かれず

,そ

の造形 は ダイナ ミズム を欠いていった。 そ うした ヒー ロー像 の変化 は

,物

語 の主眼が ヒー ロエの賛美か らヒロイ ンの注視 へ と移 ることによってもた らされた。ザモーナ公爵への愛に翻弄 され る女性たちの苦悩は観念 とし てではな く

,女

性 の生の現実 として現れ たのである。 その意識の変化 に よって

,ザ

モーナ公爵 もま た現実の男性 として見つめ られ るようになる。それで もなお「キャロライン・ ヴァーノン」 におけ るザモーナ公爵 は

,い

ぜん として強烈 な魅力 を放つ誘惑者であった ように

,

シャー ロッ トの意識 の 底 にある男性像 は

,そ

の本質 において性的存在であ るといえ よう。 (三

)ノ

ーザ ンガーラン ド伯爵の造形か ら 悪役 と して ノーザ ンガーラン ド伯爵はもとはブランウェルの創作の主人公であったが,25J シャ

_ロ

ッ トは彼 女の物語 に

,ザ

モーナ公爵のアンチ・ ヒー ロー役で登場 させている。 は じめは Alexander Percy通

称Rogueとい う海賊であ ったが

,後

にゼ ノウ ビア と結婚 しLord Ellringtonさ らにEarl of Northan―

genandと名前 を変 え

,そ

の地位 を向上 させてい く。 ノーザ ンガーラン ド伯爵 とザモーナ公爵 は敵 対関係 にあ り

,は

じめは対照的 な人物 として描かれ るが

,

しだいに共通性 を示 す ようにな り

,ふ

た りの姿が見分 けのつか ないほ ど類似 してみ えることもある。多 くの ヒロインが登場 しなが らもそ こ には一つの雛型 があった ように

,

ヒー ローもまた同一人物 であ り

,ザ

モーナ公爵 とノーザ ンガーラ ン ド伯爵はそれぞれその陽画 と陰画ではなか ったか と思われ るのである。以下では作品に断片的に 現れ るノーザ ンガーラン ド伯爵の姿か ら

,そ

の形象 の変化 を追 ってみたい。

ロウグが最 初 に シ ャー ロ ッ トの作 品 に登 場 す るの は ℃haracters of the Celebrated Men of the

Present Time'(12,1829)に おいてである。 この ときの彼 は47歳 で

,外

見 は紳士 らしいが性格 は残忍 な男 として

,次

の ように紹介 されている。

(17)

シャーロッ ト・ プロンテ初期作品研究

(4) 199

His countenance is handsome, except that there is sOmething very startling in his fierce, grey eyes and forHlidable forehead. His manner is rather pOhshed and gentlemanly, but his ■lind is

deceitful,b100dy,and cruel.26J この悪役 としての性格 づ けはその まま変わ らない。前 回紹介 した ように `The Found g'脩.1833) では

,エ

ル リン トン卿 とな った彼 は

,ザ

モーナ公爵 に対抗意識 を燃や し

,妻

に向か って ナイフを振 りか ざす といった

,嫉

妬深 く凶暴 な男 として描かれて い る。 シャー ロッ トは卿 を

,自

分 の ヒー ロー であるザモ ーナ公爵の引 き立て役 として位置づ けてい るが

,や

がて この悪役 に興味 をひかれ

,彼

の 過去 を書 き加 えることによって肉付 けを試 み る。

3カ月後 に書かれ た `The Green Dvarr 19,1833)で は

,若

き日のパ ー シ ィが主人公のSt,CLtteの

敵役 として登場 す る。物 語 の タイ トル も粗筋 も Scottの `The Black Dwarf'(TαJgs ο

M)と

,η」IοrJ,

1816の

1集

に収録

)や

fυαttθ9(1819)の影響 を窺 わせ る。以下 に梗概 を示す。

Verdopolisで の祭典の 日

,Percyは

許婿者のEmily Charlesworthと 彼女の叔父た ちの前 で得意気 に武術 を披露す る。 しか し洋弓の的 をはず し

,観

衆の中か ら名 の りでた覆面 の若者 に優勝 をさ らわ れ る。彼 は じつ は行方不 明になっていたSt.CIttre,即で

,エ

ミリと恋仲で あ ったのだが

,彼

の不在 中にエ ミリは叔 父 によってパ ー シィと婚約 させ られて いた。夕暮れ にエ ミリを訪ねたサ ン・ クレア は

,彼

女の心が変 わ っていないの を知 り

,駆

け落 ちの約束 を交 わす。深夜12時 に待合せの場所 に出 かけたエ ミリは馬車で連れ去 られ

,森

の奥の老婆 の見張 る古城 に監禁 され る。パ ーシィは しば しば 現れて は

,サ

ン・ クレアは死んだ といって彼女 に結婚 を迫 る。 ア シャンテ ィ族 との戦 いが勃発 し

,ウ

ェ リン トン公爵 はチ ャール ズワースやパ ーシィや サ ン・ ク レア,日,らを率 いて出撃す る。,日「ιまあの夜 エ ミリが裏切 った もの と思 うが

,後

に彼女が誘拐 され た こ とを知 る。人方手 を尽 くして探すが消息 はつかめず

,今

回の戦 いには死 を覚悟で赴 いていた。 ア シ ャンテ ィの王Quash協 の陣 に夜襲 がか け られ るが

,敵

はすでに作戦 を察知 しもぬ けの殻で あった。 サ ン・ クレアはパ ーシィに よって通報者 の濡れ ぎぬ を着せ られ

,部

Andrewの

裏切 りもあ って弁 明で きない。裁判 では潔 白を主張す るものの

,そ

れ を証 明す るものは何 もない。だがその時パ ー シ ィの部下 Ensign Budが ア ン ドル ーの買収 につ いて証言 す る。 さ らに 日封 じのために殺 され かか っ た Traversが パ ー シ ィの陰謀 ―― Green Dwarfこ と

Andrewを

使 って エ ミリを誘拐 した こ と

,サ

ン・ クレアが敵 と通 じているとい う嘘の証拠 をで っちあげ,,日,を罪 に陥れ ようとした こ と ― を 暴露す る。 サ ン・ クレアは無事 に救 出されたエ ミリと再会 す る。 いっぽ うパ ーシ ィは16年 の流刑 が 決 り, Green Dwarfも 10年の ガ レー船漕 ぎの刑 に処せ られ る。 潔 く単純 ともいえるサ ン・ クレアに対 して

,パ

ー シ ィは狡猾 な陰謀家である。それは許婚者の誘 拐 と監禁

,恋

敵 を陥れ ようとす る企 み

,部

下 に対す る日封 じな どの行動 に見 られ るばか りで な く,

(18)

200 岩 は る 子

つ ぎの ような容姿の スケ ッチにもその性格が捉 えられている。

His features vere regularly formed.His fOrehead was lOfty,thOugh nOt very open.But there vas in the expressiOn of his blue,sparkling,but sinister,eyes and Of the s■11le that ever played round his deceitful-100king mouth, a spirit of deep, restless villainy which warned the penetrating observer that an was not as fair within as without, while his palid cheek and sOmewhat haggard air bespoke at once the profhgate,the gambler and perhaps the drunkard.2の

パ ー シ ィは悪役であって も

,そ

の部下の S'Death(本 名Robert King)や Green Dwarfこ と

Andrev

の ように醜悪 な姿で は描かれていない。む しろ端正 な顔立 ちとす らりとした体型は魅力的です らあ る。だがそ うした外見 の下 に隠 され た邪心 は

,そ

の 目や 日元 あるいは不健康 な疲れた表情 に窺われ る。 シャー ロッ トは顔 の表情 はその人の性格 を表す もの と考 えてお り

,人

物描写 はす なわち性格描 写へ と繋が る。影 のあるパ ー シィの描写 は

,彼

の表裏 のあ る性格 を物語 ることになる。パー シィは この後16年 にわた る海賊 としての放浪生活のあいだに

,殺

人 を含 む様 々な罪 を犯 し

,暗

い過去 を背 負 った人物 として

,

シャー ロッ トの作品のなかで次第 に重要性 を占めてい く。 次作 の `The Secret'(11.1833)で は

,パ

ー シ ィはすで にゼ ノウ ビア と結婚 し

,貴

族 に昇格 して い る。ドゥア ロゥ侯爵の妻マ リアン・ ヒュームは

,自

分 の出生 の秘密 に関す る手紙 を入手す るため,、 ひ とりで エル リン トン卿 に会 いに行かなければな らない。卿 はマ リア ンを書斎に通 し

,こ

れ まで何 人 もの血 を吸 って きた とい う愛用の剣や海賊船の旗 な どを自慢 し

,ま

す ます彼女 をおびえさせ る。 メア リが秘密の手紙 を読み

,そ

れ を炉 に くべて しま うと

,激

怒 した卿 は メア リを部屋 に閉 じ込 め, その内容 を知 らせ るよう迫 る。無力な美女が悪漢の館 に監禁 され る設定 はゴシック的である。 だがエル リン トンJgllの もつ真の恐 ろ しさは

,実

の息子 に対す る異常 な憎悪 にある。手紙 は彼の二 番 目の妻であ った メア リ・ヘ ン リエ ッタが

,生

まれて くる男児 を夫か ら守 るために

,マ

リア ンの母 親 と子供 を交換す る約束 を した ものであった。 この約束 は実行 されなかったものの

,三

男のヘ ン リ はマ リア ンとの結婚後 まもな くして溺死する。それが実の父の命令 による暗殺であったことが後に 判 明す る。パ ー シ ィ(当時の名前

)は

生 き残 った長 男 と次 男

(Edwardと

William)も 追放 して しま う。 これはいわゆる (拒絶す る父親〉である。それが どのような意味をもつかは興味深い問題であ る。シャーロッ トの意識の底に

,一

人息子 ブランウェル を溺愛する父に対 して

,疎

外 されていると いう思いもあったかも知れない。 シャーロッ トもなん らかの説明は必要 と考えたものらしく

,後

に 軍人 として出世 した ウィリアムに,`Henry Hastings'に おいて

,父

のことを次のように語 らせている。

(19)

シャーロット・ブロンテ初期作品研究

(4)201

“The man's a monomaniac― ―I'l svear to it― ― God bless me,I'd never marry if l thought l should inherit he wild delusion of belie ng hat all the male children who might be borne to me were

devils. ・ ・ ・ in hiS hypochondria dread he must darkly have concluded that he hilnself was not

altogether human一 ―but a something with a cross of the fiend in it― ―that's just the lunatic's idea,

&he thinks his sons take after their Demon father― ―&his Daughter is the pure orering Of her pleasant human mother――''23j

パーシィが女児は蕩愛 しなが らも男児 を忌み嫌 った理 由について,「息子 た ちが父親 の悪 魔的 な性 格 を受 け継 ぐことを恐れて」 とい う説 明で ある。それが説得力 をもつか否か は ともか く

,パ

ー シィ には自分 の内に流れ る残忍で凶暴 な血 をおぞ ま し く思 う気持 ちが ある。彼が しば しば見せ る無神論 的で虚無的 な態度の底 には

,こ

うした 自己の存在 を呪わ し く感 じる意識が潜 んでい るこ とがわか る。 高貴 な身分 に生 まれ

,女

性 の愛 を欲 しい ままに し

,そ

うした 自分 を誇示 す る自己陶酔 の気味のある ザモーナ公爵 に対 して

,シ

ャー ロッ トは ノーザ ンガーラン ド伯爵 を素性 の知れ ない

,成

り上が りの, 野心的 な

,だ

が冷やか な厭世的意識 をもつ反逆者 として造形 してい く。

今 や ノーザ ンガーラン ド伯爵 となった彼 の姿が `A Peep into a Picture Book'(5-6.1834)に お い て

,つ

ぎの ように紹介 されて い る。

The expression in this picture is somewhat pensive,composed,free frOHl sarcasm except the fixed

sneer of the lip and the strange deadly ghtter Of the eye,whose glance―――a n xture of the keenest scorn and deepest thought―――curdles the spectator's blood to ice.In my opinion this head embodies the most vivid ideas ve can conceive of Lucifer, the rebellious Archangeli there is such a total absence of human feehng and sympathy; such a cold frozen pridei such a fathoHlless power of

intenect;such passionless yet perfect beauty― ―-2の

測 り知れ ない才知

,非

の打 ち処 のない容姿

,冷

酷で傲然 とした態度 は

,神

に背 いた堕天使 の イメー ジと重ね あわ されてい る。 これ を先 に紹介 したザモーナ公爵 の描写 と比較 してみ ると

,激

情的 な公 爵が炎の イメー ジで語 られてい るのに対 して

,伯

爵 の人間 とは思 えない冷酷 さは氷 に例 え られてい る。その比喩 は対照的で あるが

,

どち らも現実離れ した悪魔的 な魅力 をもつ

,超

人的 な ヒー ロー と い う点で共通 してい る。 次作 の `A Day Abroad'(6.1834)の 第

4章

では

,ザ

モーナ公爵 とノーザ ンガーラン ドイ白爵の接近が 伝 え られ る。ザモーナ公爵 とかつての師 John Fidenaは

,今

で は疎遠 にな ってい るが

,そ

れ で も公 爵のなか にまだ旧師 を敬 う気持 ちが ある。 また フ ィデ ィーナの方 も

,公

爵が しだいに ノーザ ンガー

参照

関連したドキュメント

これまでの国民健康保険制度形成史研究では、戦前期について国民健康保険法制定の過

せん断帯の数値解析は、材料の非線形性だけでなく初期形状の非対称性や材料の非均質性

study of formationof gibbsite irom plagioclase -The clay minerals in the Daisen loam and.. Sambesan

[r]

調査資料として映画『ハリー・ポッター」シリーズの全7作を初期、中期、後期に分け、各時

フランツ・カフカ(FranzKafka)の作品の会話には「お見通し」発言

−104−..

この小論の目的は,戦間期イギリスにおける経済政策形成に及ぼしたケイ