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中小企業における人的資源の確保-香川大学学術情報リポジトリ

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中小企業における人的資源の確保

細 川

進 Ⅰ 序 ⅠⅠ人的資源確保の現状 ⅠⅠⅠ人的資源確保のための前提条件 ⅠⅤ 人的資源確保の方法

Ⅴ 結

いまや企業を巡る経営環境は一刻一刻と変化している。わが国の経済は,す

でに円高が定着し,貿易摩擦や海外現地生産などの「国際化」の波に洗われて

いるのみならず,マイクロエレクトロニクス・バイオテクノロジー・新素材開

発などの「技術革新」が,あるいは,CADシステム・POSシステム・企業間

オンラインネットワークシステムなどによる「情報化」が急速に進展している。

さらに,社会の成熟化や高齢化社会の到来も間近に迫っている。

このようなわが国経済の基本的な構造変化の進展は,企業に新たな「経営戦

略」の展開を求めている。そのためには,「生産技術力」のみならず,「新製品

開発力」や「市場力」などが,経営資源として重要となっている。しかも,こ

れらの資源の基礎には,「人的資源」の向上が必須のこととして要請されている。

中小企業も,こうした状況変化に無縁なものではない。ここでは,香川県にお

ける中小製造業の動向をふまえて,人的資源確保の問題を考えてみよう。

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J9β7 香川大学経済学部 研究年報 27 一6β− ⅠI l調査対象企業の特性 本節では,香川県下の商工会地域38町の中小製造業を対象としたアンケート 調査(対象事業所数1,012,回収事業所数672,回収率66,4%)により,中小企 業における人的資源確保の状況を検討しよう1)。 (1) 経営規模 従業者数規模別では,6人∼20人規模の企業が5割をしめ,圧倒的に多く, 次で,1人∼5人規模および21∼50人規模がそれぞれ2割である。すなわち, 県内郡部の製造業は,零細ないし小規模経営が中心であることがわかる。 (2) 経営意欲 1∼5 6∼20 21∼50 51∼100 101∼300 従業者数項棟(人) 1)詳細については,『企業の人材ニーズ調査報告書』香川県南工会連合会,1987参照。

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中小企業における人的資源の確保 ー69−

事業の出発点となる経営意欲については,「現状を維持したい」とする企業が

全体の5割強をしめ,過半数の経営者はやや消極的である。しかし,「拡大した

い」とする積極的な経営者も4割強に達している。また,「縮小したい」および

「廃業したい」は極めて少ない。 従業者数規模別でみると,50人以下規模と51人以上規模では,大きな差異が みられる。すなわち50人以下規模では,「現状維持」が過半数を超えているのに

対して,51人以上規模では,「拡大したい」が過半数を超えている。全体として

みると,経営規模の大きいほど,経営意欲の高い企業が多い。(図表1) (3) 経営上の問題点 経営上の問題点として,最も注目されているのは,「製品価格の伸び悩み」で ある。これは,「需要の鈍化・減少」のため高度成長期とは異なり,原材料費・ 労務費の上昇分を販売価格に転嫁できないことが,経営を圧迫しているためと 思われる。これらの外部要因に対して,「若年労働者の不足」と「熟練工・技術 者の不足」は共に中小企業のかかえる重要な内部問題である。「需要の多様化・ 高度化への対応困難」も,その…・因は若年労働者や熟練工の不足によるもので 国表2 経営上の問題点 0 10 20 30 40(%) 製品価格の伸び悩み 若年労働者の不足 需要の鈍化・減少 熟練エ・技術者の不足 額聾変化への対応困難 販売不振・受注減少 県外企業との競争

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ー和一 香川大学経済学部 研究年報 27 エ鎚㌃7 あり,′また,「設計・開発にたずさわる技術者の不足」や「企画力の貧困」によ るものと思われる。なお,最近の「急激な円高」は,1割強の企業に強い影響 を与えている。(図表2) 従業者規模別にみると,「製品価格の伸び悩み」は全規模において3∼5割の 企業によって選ばれているのに対して,「若年労働者の不足」および「熟練工・ 技術者の不足」は主として100人以下規模の企業において重視されている。 経営意欲別にみると,経営意欲が高く,事業を「拡大したい」企業では,経 営意欲が低く,事業の「現状を維持したい」企業と比べて,「需要の多様化・高 度化への対応困難」(1い9倍),「新製品開発体制の不備」(2‖3倍),「技術水準の 変化・高度化への対応困難」(2“2倍)が重視されている。すなわち,消費者ニ ーズの変化に直面して,開発体制,開発技術,生産技術などの経営力に目が向 いており,それを問題点として意識している。これに対して,「現状を維持した い」企業は,拡大指向の企業と比べて,「販売不振・受注減少」(1て倍),「需要 の伸びの鈍化・減少」(1.5倍)を重要問題として認識しており,いわば外的要 因に経営不安の原因を求めている点で,好対照をなしている。 (4) 経営戦略 経営戦略の重点として,なかでも,「人的資源の確保・育成」が半数に近い企 業によってとりあげられている。これは人的資源が企業の命運を左右する要素 として理解されているためと思われる。次に,生産関連の「品質管理・生産管 理の実施徹底」,「省力化・合理化」,「多品種少量生産体制の確立」の3項が重 視され,生産面への関心の高さがうかがえる。ただ,設問不備のため「販売努 力」に関する対応をうかがうことはできなかったが,「マーケテイング・広告活 動等の機能強化」は1割以下の企業が指摘しているにすぎない。(図表3) 従業者数規模別では,50人以下規模においては,全体の傾向とほぼ同じであ る。ただ,21∼50人規模では,「OA化」への関心が他の規模と比べて高い。51 ∼100人規模および101∼300人規模では,「FA化」(重視度係数は9.55および 467)を経営戦略の課題とするものがきわめて多く,また「情報収集力・情報 解析力の強化」(重視度係数は186および182)にも重点をおいている企業が多

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中小企業における人的資源の確保 −77− 人的資源の確保・育成 品質・生産管理実施 省 力 化・合 理 化 新製品の企画・開発等 製品の高級化等 多品種少虚生産体制 事業多角化・事業転換 新技術・素材への対応 大量生産体制の確立 研究開発活動の強化 い。さらに,101∼300人規模では,「研究開発活動の強イヒ」(重視度係数は10.32) にも強い関心を示している。 経営意欲との関係をみると,事業拡大を意図する企業においては,「FA化」 をとるものが他のグループと比べて多く,平均値の2倍(重視度係数2.07)に 達している。これに対して,「現状維持」を考える企業では,「FA化」(重視度 係数0“24)は平均値の四分の−・にすぎず,大きな対照をなしている。 採用した経営戦略と企業が直面している経営問題との間に相関関係の高いも の(重視度係数がほぼ1.50以上のもの)をあげれば,次のようである。 ① 事業の多角化・事業転換戦略 「製品に対する需要の伸びの鈍化・減少」(重視度係数1.64)に直面し,しか も,「地域内企業」(同1.35)のみならず,「県内企業との競争」(同1..54)も激 しくなり,「販売不振・受注の減少」(同1い60)におちいっている。

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香川大学経済学部 研究年報 27 エガ7 −72− (∋ 事業の縮小戦略 基本的には「地域内企業との競争」(同3.04)に直面して,「販売不振・受注 の減少」(同1い82)をきたしている。対内的には,「機械設備の老朽化・陳腐化」 (同1“91)がかなり進んでいるが,「金融費用の上昇が収益を圧迫」(同2・11) しているため,機械設備の更新は困難であり,また「需要の多様化・高度化へ の対応も困難」(同1.67)となっている。さらに「原材料・エネルギー価格の高 騰」(同1.61)も経営を圧迫し,事業縮小を余儀なくさせている。 ③ 人的資源の確保・育成戦略 「熟練エ・技術者の不足」(同144)および「若年労働者の不足」(同1い41) に対応するため,人的資源の確保育成が意図されている。 ④ 研究開発活動の強化 今まで「新製品開発体制が不備」(同181)であったという内部事情による場 合と,「原材料・エネルギー価格の高騰」(同145)や「公害・環境・立地の問 題」(同2.95)など外的要因への対応を迫られている場合である。なお,「需要 の鈍化」(同127)や「技術水準の変化・高度化」(同1.19)も影響を与えてい る。 (診 新技術・新素材への対応戦略 「急激な円高」(同1小81)や「発展途上国の追い上げ(貿易摩擦)等の国際環 境の変化」(同1“78)に直面していて,新たな方向を模索している。また,情報 処理機器を導入したが,「情報処理要員の不足」(同3.14)に悩まされている。 ⑥ 新製品の企画・開発・商品化戦略 問題となるのは「新製品開発体制の不備」(同2.06)と「需要・技術・経営等 に関する情報不足」(同1..54)である。 ⑦ 製品の高級化・高付加価値化戦略 平均的に各項目に関連しているが,「情報処理要員の不足」(同1..8)との関連 が強い。 ⑧ 大量生産体制の確立戦略 「機械・設備の老朽化・陳腐化」(同2.31)が進んでいて,更新が必要な場合 とか,「熟練工・技術者の不足」(同144)による「賃金の上昇」(同1.68),「原

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中小企業における人的資源の確保 −73− 材料・エネルギー価格の高騰」(同2。.23)による原価アップなどが考えられる。 また,「公害問題」(同3,87)の解決に新たな設備を導入することとも関連して いる。 ⑨ 多品種少量生産体制の確立戦略 「発展途上国の追い上げ」(同1.66)に対応するため,「製品の多様化・高級 化」(同1い49)で応える必要が生じている。しかし,これを進めるためには「情 報処理要員の不足」(同1‖85)に悩まされている。 ⑩ 品質管理・生産管理の実施の徹底 全体の動向とほぼ同じであるが,しいてあげれば,「発展途上国の追い上げ等」 (同1‖22)により,「技術水準の高度化」(同1..13)が求められている。 ⑪ 省力化・合理化 全体の動向とほぼ同じであるが,しいてあトゲれば,「賃金の上昇による収益圧 迫」(同1.24)が動機となっている。 ⑫ FA化戦略 基本的には「技術水準の変化・高度化」(同1.92)への対応のためである。ま た,「価格の伸び悩み」(同1‥79)や「急激な円高」(同3.58)による輸出原価上 昇をもFA化によるコストダウンで解決しようとしている。 ⑬ マーケテイングの強化戦略 「地域内企業との競争激化」(同1.28)以上に,「県内企業」(同1.78)や「県 外企業との競争激化」(同1い69)がきびしくなっている場合や,「販売不振・受 注の減少」(同1小37)や「製品価格の伸び悩み」(同1.31)による経営圧迫を解 決する方途として,この戦略がとられる。そのさい,新たに要求される「技術 水準の変化・高度化」(同1.53)への対応が重要な課題となっている。 ⑭ OA化戦略 「県内企業との競争の激化」(同3‖30),「公害・環境問題」(同2.59),「販売 の不振,受注の減少」(同1“95)などとの関連が強いが,その直接的な関係は理 解しにくい。 ⑮ 情報収集力・情報解析力の強化戦略 「販売不振・受注減少」(同1.37)に関しては市場情報が,「技術水準の変化・

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香川大学経済学部 研究年報 27 −7孝一 J9β7 高度化」(同1.87)に関しては技術情報が,「急激な円高」(同1..91)に関しては 海外経済情報などが重要になってきているが,これらの「情報不足」(同3.52) は経営に大きな影響を与えており,とくに「情報処理要員の不足」(同7‖51)は 深刻な事態をまねいている。そのため,情報処理能力の強イヒが重要となってい る。 ⑯ 省資源・省エネルギー化戦略 「県内企業との競争の激化」(同1.65)に加えて,「急激な円高」(同1.53)や 「開発途上国の追い上げ」(同1小78)などにより,コストの引き下げが課題とな っている。その解決の一つとして省資源・省エネルギー化戦略をとっているが, 設備投資による「金融費用の上昇は収益を圧迫」(同4‖95)する恐れが強い。 2‖ 経営後継者確保の現状 (1) 後継者の有無 「後継者を決めている」企業よりも「決めていない」企業の方がやや多い(4 割5分対5割5分)。 従業者数規模別では,5人以下と51人以上規模では,後継者の決っていない 企業が多い。 経営意欲との関連では,「拡大したい」および「現状を維持したい」は後継者 の決定とはほとんど関係がない。しかし,「縮小したい」企業の7割5分,「廃 業したい」企業のすべてにおいて,後継者は決っていない。 (2) 後継者と事業主との関係 後継者については「自分の子供」にあとをつがせる考え方が圧倒的に強く, 後継者を決めている企業の8割5分までが自分の子供を後継者にしている。社 内からの優秀な社」員の登用はごくわずかである (3) 後継者決定までのいきさつ 後継者決定までのいきさつでは,「親の希望を本人が了承した」場合が6割5 分を占めるが,「本人の強い意志による」ものも2割ほどある。

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中小企業における人的資源の確保 一行− (4) 後継者の職歴 後継者の職歴については,新卒者としてそのまま入社する場合(3割)と1 ∼3年県外企業に就職させたのちUターンさせ,後継者にしているケース(2 割5分)が多い′。 (5) 後継者未決定の理由 後継者を決めていない理由については,「考えていない」が,決めていない企 業の全体の7割を占めている。 経営意欲との関係では,「拡大したい」企業では,後継者のととを「まだ考え たことがない」ものの比率がやや多く,逆に,「縮小したい」企業では,「考え たことがない」ものの比率がやや少なくなり,また,「自分の代での廃業を決め ている」企業ではその比率も高い(重視度係数3,.43)。 (6) 後継者の今までの従事部門 後継者が今までに従事してきた部門については,第1位が生産部門(2割8

分),第2位が販売部門(1割8分),第3位が技術部門(1割7分)となって

おり,事業主の従事部門とは異なっている(「全般的に従事」が第1位,3割強) ことがわかる。 (7) 後継者のこれからの従事部門 後継者の将来の従事部門については,「全般的に従事」(3割強)が第1位, 販売部門(2割)が第2位で,事業主の従事部門に接近しつつある。 同一部門を継続しようとするものは「全般に従事」しているもののでは7割 に達している。これは経営者の場合とほぼ同傾向であり,あらゆる側面の能力 向上をめざしている。逆に,「販売部門」の継続は非常に低く(定着率1割5 分),しかも,事業主の場合のそれ(4割弱)と比べても非常に低くなっている が,その多くは「全般に従事」に移っている。(図表4) 後継者の減少のいちじるしい部門は「技術部門」および「生産部門」であり, 共に今までの4割強の水準にとどまっている。これは流出が多いにもかかわら

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香川大学経済学部 研究年報 27 国表4 後継者の同一部門定着率 0 10 20 30 40 50 60 70 80(%) −76− J.9β7 全般的に従事 生 産 部 門 販 売 部 門 技 術 部 門 総務・経理部門

ず,流入も少ないからである。これに対して,「販売部門」は「全般に従事」(流

出率5割)などへの流出があるにもかかわらず,「生産部門」(新受入構成比5

割7分)や「技術部門」(同3割)からの大量の受入れがあったため,過去と将

来はほぼ同水準となっている。これは販売に重点をおこうとするためと思われ

る。(図表5)

「技術部門」と「生産部門」からはともに「販売部門」および「全般に従事」

へ多く流出している。これは事業の基本となる生産面で一応の成果をあげ,販

売面の充実や各分野での自己の能力の啓発をはかるためと思われる。(図表6)

なお,「技術部門」への流入の三分のこは「生産部門」からである。これは,

加工・組立等の基本的な技術を修得したうえで,開発,設計等のより高度の技

術を修得しようとする方途として注目される。(図表7)

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中小企業における人的資源の確保 図表5 販売部門の流出・流入(どの部門へ・から) −77− 国枝術部門へ・から 田生産部門へ′から 凶総務・・経理部門へ・から 田コンピュータ関係へ“から []全般的に従事へ・から 田未決定へ‖から (%) 0 20 40 60 80 100 販売部門から 販売部門へ 図表6 技術および生産部門からの流出 闘技術部門へ 匿ヨ生産部門へ 盟販売部門へ 区ヨ総臥経理部門へ [ココンピュータ関係へ 隈全般的に徒歩へ []未決定へ (%) 40 60 80 100 0 20 技術部門から 生産部門から 図表7 技術部門への流入 (%) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 団生産部門から 田販売部l】1から 図絵臥・経理部門から 図会般的に従事から [コ未決定から 技術部門へ

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−7ぎー 香川大学経済学部 研究年報 27 J鎚∼7

「全般に従事」への受け入れは,「販売部門」,「生産部門」,「技術部門」の順

で,3者でほぼ9割に達している。これは,それぞれ1つの技術を修得したも

のが,それを足掛りに全体を見渡せる経営者へ成長しようとする意欲の現れと

思われる。(図表8) 図表8 全般的に従事への流入

園田因閻□厨田

技術部門から 生産部門から 販売部門から 総務い経理部門から コンピュータ関係から 未決定から その他から 0 20 40 60 全般的に従事へ (8) 後継者の取得すべき能力 後継者の取得すべき能力については,第1位が「事業に関する知識・理論」 図表9 後継者の取得すべチ能力 (%) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 事業の知識理論 開発改良面の知識 開発改良面企画力 生産販売実務力 現 場 経 験 計 数 把 握 力 市場動向先見力 人材猛威能力 統 率 力 等 対 外 交 渉 力 そ の 他

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中小企業における人的資源の確保 −79− (3割5分),第2位が「統率力・リ、−ダーシップ」,第3位が「生産や販売に 関する実務能力」となっており,事業主の場合(豊富な経験4割強,生産・販 売の実務能力,事業についての知識・理論)とは異なっている。すあわち,後 継者像としては,自分の「事業についての知識・理論」の基礎にして,経営者 としての「統率力」を養成することが重視されている。(図表9) 従業者数規模別では,101人以上規模では,「統率力・リーダーシップ」(重視 度係数3け26),「開発・改良面での企画力」(同2.66),「豊富な現場経験による技 能・判断力」(同2.66)がとくに重視されているのに対して,1人∼5人規模で は「豊富な現場経験による技能・判断力」(同5‖34)がきわめて重視されている。 中間の21人∼100人規模では,「統率力・リーダーシップ」のほか,「計数把握力」, 「市場動向に関する先見力」,「人材養成面での能力」などが重視されている。 (9) 後継者の育成方法 後継者の育成力法としては,事業主の場合と比べてみると,事業主は「日常 図表10 後継者の育成方法 (%) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 事業主が教育 事業主の自己啓発 団体活動参加 研究会等参加 技術交流会等参加 商工会指導活用 経営コンサルタント指導 他企業での勉強 専門紙等の購読 そ の 他

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J.9β7 香川大学経済学部 研究年報 27 一ざ()一

業務の中から判断力を養い」,後継者は「業務に従事させながら,事業主が教育

する」という0.JT方式は共に第∵位を占めている。しかし,後継者の場合には

「研究会,セミナ、−,研修会などへの参加」の比重(4割弱)が,経営者の場

合のそれ(1割6分)と比べてきわめて高くなっている。逆に「親企業,取引

先など他企業での勉強」の比重は,事業主の場合が高い。(図表10)

3い 従業員確保の現状 (1) 雇用管理上の問題点

三分の一・の企業では雇用管理上なんらかの「問題が生じている」。

従業者数規模別では,1∼5人規模では「問題が生じていない」企業が7割

もあり,満足度が高い。逆に,規模が大きくなるにつれて,「問題が生じている」

企業の割合が高くなり,50人規模以上では,過半数の企業で間邁が生じており,

とくに100∼300人規模では6割を超えている。(図表11)

21∼50人 51−100人 6371 101∼300人

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中小企業における人的資源の確保 −βノー 経営意欲との関係では,事業規模を「拡大したい」とする企業の方が,「現状 維持をはかる」企業よりも,雇用管理上の「問題点が生じている」割合が高い。 これは経営意欲が高いほど,自社の問題点を意識するためと思われる。 (2) 雇用管理上の問題要因 雇用管理上の問題点については「若年労働者の採用難」(企業選択率5割6分) を指摘するものが過半数を超えており,きびしい事態を反映している。また, 第三位の「高年齢化に伴う中高年齢者の配置および処遇」も三分の−の企業で 問題となっており,若年労働者の不足と高齢化というきびしい事態が明らかに なっている。さらに三分の一前後の企業では,「管理者の管理能力の不足または 人材不足」および「新技術の導入・開発に備える技術者の確保が困難」が問題 となっており,中堅層の薄さが明らかになっている。 従業者数規模別では,100∼300人規模で重みが大きいのは,「若年労働者の知 識および技能の不足」(特化係数2‖63)および「高年齢化に伴う中高年齢者の配 置および処遇」(同1.47)であり,作業現場で問題が発生している。しかし,「若 年労働者の採用難」を指摘するものは,この規模ではきわめて少ない。1∼5 人規模および101∼300人規模の両端で比重の強いのは,「新技術の導入・開発に 備える技術者の確保難」(特化係数は前者1,56,後者1‖34)である。21∼50人規 模および51∼100人規模の中間規模でより多く問題になっているのは,「管理者 の管理能力の不足または人材不足」(重視度係数は前者1.20,後者1.53)である。 (3) 新卒採用計画の有無 昭和61年4月の新卒採用を計画した企業は三分の一・にとどまっている。 従業者数規模別では,新卒採用を計画した企業の割合は,小規模ほど低く, 規模の増大につれて高くなっている。すなわち,1∼5人規模では2割(特化 係数0い64)にすぎないが,21∼50人規模では4割強(同1い31)となり,平均値 (三分の−う を超えている。51人以上規模では7割(同2.15)の企業が新卒採 用計画をたてており,101∼300人規模では8割弱(同2.37)に達している。(図 表12)

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一&2− 香川大学経済学部 研究年季臣 27 図表12 新卒採用計画の有無(61年4月) Jガ7 2 特 化 係 数 ●− 028 __ −● 【__ 」._ 1∼5 6・∼20 21・、・50 51・∼100 101′・、一300 従業者数規模(人) 経営意欲別では,「事業を拡大したい」意欲のある企業のなかで,新卒採用計 画を持った企業の割合は4割5分(特化係数141)であるのに対レて,現状維 持を考えている企業の中で新卒採用計画を待った企業の割合は2割5分(特化 係数0.74)にすぎず,経営意欲の強さと新卒採用とは相関が強い。 (4) 新卒採用計画の達成状況 新卒採用計画の達成度をみると,「希望通り採用できた」のは四分の一・弱にす ぎないが,「十分ではないが採用できた」が第1位で三分の−・弱に達しており, これを合わせると,ほぼ満足できた企業は半数を超えることになる。しかし, 逆に,「まったく採用できなかった」企業と「ほとんど希望を満たせなかった」 企業が合わせて三分の−・に達しており,労働市場は中小企業にとってきびしい 状況にあることがわかる。(図表13)

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中小企業における人的資源の確保 国表13 新卒採用計画達成状況 −&ヲー 希望通り 不十分だが採用 不足 ほとんど できない 2364 29小09 1318 15 1773 採用できた ない 満 足 足 従業者数規模別では,1∼5人規模では有利度係数0.68,不利度係数1。.58と なっているが,51∼100人規模では前者が1.37,後者が0.73と状況は改善されて いる。すなわち,小規模なものほど,新卒採用計画の達成は困難であり,規模 が大きくなるにつれて,計画達成が容易になっている。(図表14) 図表14 新卒採用計画の達成状況(61年4月) 2 特 化 係 数 まったく採用 できなかった 158 ●、 137 希望通り

。ニユぞこてできた \\ 114 0。91

08 077 073 1∼5 6∼20 21′−50 51∼100 101∼300 従業者数規模(人)

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香川大学経済学部 研究年報 27 エ9β7 −β4− (5) 新卒採用計画の達成方法 新卒採用計画を達成するために,企業が採った主要な方法としては,「縁故者, 知人,従業員などの紹介」(5割弱)によるいわば私的なルート,および「学校 (中学∼大学)への求人」依頼(4割)による公的なルー・トが中心である。 1∼5人規模では「縁故者,知人,従業員などの紹介」(特化係数1い65)にた よらざるを得ず,学校ルートはほとんどない。逆に50∼100人規模および101∼ 300人規模では「学校への求人」(特化係数は前者1一79,後者2.35)でその大半 を採用している。 「希望通り採用できた」企業の比重が高いのは「学校への求人活動」(特化係 数1.31)の場合である。他方,「ほとんど希望を満たしていない」および「採用 できたが不足が大きい」の比重が高いのは,「縁故者,知人,従業員などの紹介」 (特化係数は前者が1.25,後者が1.21)の場合である。 (6) 中途採用計画の有無(昭和60年4月∼61年3月31日) 中途採用を計画した企業は4割強に達しており,新卒採用計画のそれを上回 っている。 従業者数規模別では,規模が小さいほど「計画をたてた」企業の比率が低く, 規模が大きくなるにつれて,同比率は高くなるが,101人以上ではやや低下して いる。 経営意欲との関連では,「事業を拡大したい」とする意欲を持っている企業に おいて,「中途採用を計画している」ものの比率が高い(特化係数1.25)。 (7) 中途採用計画の必要理由 中途採用計画が必要となった第1の理由は,「中途退職者の補充」(6割4分) のためであり,第3位の「過去数年来,要員不足が続いており,それを補充す るため」(3割5分)とともに,消極的理由の比重が大きい。しかし,第2位の 「仕事量が増大し,それを担当する要員が必要となったため」も三分の−・ほど の企業が選んでいるが,最も積極的な理由である「新しい職種が必要となった が,社内に該当者がいないため」とするものはわずか1割弱にすぎない。した

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中小企業における人的資源の確保 −β5− がって,中途採用は,全体としては,新たな発展のためというよりは,過去の 欠点を補うためという性格が強い。(図表15) 図表15 中途採用の必要理由 (%) 0 10 20 30 40 50 60 ア0 新卒採用での不足 中途退職者補充 慢性的不足補充 仕 軍並 の 増 大 新 職種 の 担 当 専門知識等の効用 人 件 費 が 割 安 そ の 他 従業者数規模別では,「その年の新卒採用者だけでは,必要な要員の確保がで きなかったから」とするものは,小規模ほど少なく,規模が大きくなるにつれ て増加している。例えば,1∼5人規模では特化係数は0,53にすぎないが,21 ∼50人規模では同1.53となり,さらに101∼300人規模では同3、.77と高い。すな わち,規模が大きいほど,新卒採用だけでは必要な要員の確保が困難となって いる。「仕事量の増大に対応するため」は51∼100人規模で最も高く(同1..35), この規模では中途採用への依存度は高いが,逆に,101∼300人規模ではその比 重は低い。(図表16) 経営意欲との関連では,「事業拡大」意欲のある企業では,「仕事量が増大し, それを担当する要員が必要となった」(特化係数1‖23)が,「その年の新卒採用 者だけでは,必要な要員が確保できない」(特化係数1い26)ために,中途採用を 行うという積極性がみられる。

(20)

エガ7 −β6− 香川大学経済学部 研究年報 27 図表16 中途採用の理由(規模別) 新卒採用だけでは不足 3L77 ● 一一 / ノ/ / / 一 / 178/ ′● 153 _ ′・ 2 特 化 係 数 二●/ 1355 :−−−−・ こ 064 中途採用者に補充 / 105 /

:「、」09L一∠二

▼ ̄ ̄ ̄ ̄Y/ 104 097 093/ ●−− /

−● 053

046 仕事並の 増大に対応 1∼5 6、■20 21、■50 51∼100 101・∼300 従業者数規麒(人) (8) 中途採用計画の達成状況 中途採用計画を「希望通り達成できた」企業は3割弱,「十分ではないが採用 できた」企業は4割であり,新卒採用の場合の同項目よりも1割ほど高くなっ ている。逆に,「まったく採用できなかった」企業は1割弱,「ほとんど希望を 満たせなかった」企業は1割で,新卒採用の場合の同項目よりも前者で約二分 の−L,後者で約三分の二となっている。したがって,中小規模企業にとっては, 4月の新卒採用よりも,中途採用の方が人材を量的には得やすいと言える。(図 表17) 従業者数規模別では,「希望通り採用できた」企業の比率が最も高いのは,21 ∼50人規模である(特化係数1い21)。また「十分ではないが採用できた」企業の 比率が高いのは101∼300人規模および51∼100人規模で,特化係数はそれぞれ 2い15および1.38である。他方,「まったく採用できなかった」についての特化係

(21)

中小企業における人的資源の確保 図表17 中途採用計画達成度 −β7− 希望通り 不十分だが採用 不足 ほとん どでき ない 2724 3946 102 986 採用できた 採用できない 図表18 中途採用計画の達成度 2 特 化 係 数 1∼5 6∼20 21∼50 51∼100 101∼300 従業者数撰模(人)

(22)

香川大学経済学部 研究年報 27 J.≦将7 一朗一 数(いわば不利度係数)は1∼5人規模および6∼20人規模で,それぞれ3い06 および1.07である。しかも,21∼50人規模では同係数は0い28で,不利はほとん どなく,さらに,51人以上規模では該当はない。すなわち,中途採用の達成に 関しては,中間の21∼50人規模が有利になっている。これより規模が大きく, または小さくなると希望通りの採用は困難となっている。(図表18) (9) 中途採用計画の達成方法 中途採用のルートについては,「公共職業安定所や人材銀行の利用」(7割) と「縁故者,知人,従業員等に紹介を依頼」(6割)が中心となっており,前者 は新卒採用者の場合の学校ルートに対応しているので,新卒採用者と中途採用 者の採用ルートは同種とみてよい。 (10) 中途採用者の転職前の就職企業 中途採用者がその直前に就職していた企業等については,「県内の中小企業」 が約三分の−・を占めている。つづいて,「同一・町内の中小企業」(大分の−L)と なっており,半数近くが近郊ないし県内の中小企業相互の移動となっている。 他力,Uターン者は「県外中小企業」(同6小80%),「県外中堅企業」(同5.44%) および「県外大企業」(同2.72%)となっており,合わせても1割5分にとどま っている。 (11) パート採用の有無 「パートを採用している企業」が「採用していない企業」をわずかではある が上回っている。 従業者数規模別では「パートを採用している」企業の比率が高いのは,51∼ 100人規模であり,ついで101∼300人規模である。そして,それより規模が小さ くなるにつれて,その比率は減少している。すなわち,51∼100人規模の中間規 模でパートへの依存度が高い企業が最も多い。 事業拡大意欲の高い企業では「パートを採用している」比率が高く,逆に, 現状維持を考えている企業では「パートを採用していない」比率がわずかでは

(23)

中小企業における人的資源の確保 −β9− あるが高い。 (12) パート採用の理由

パートを採用する理由については,「常用従業者をおさえて,仕事の変動に対

応しやすくするため」(回答項目数構成比3割弱)という経営内的な理由が第1

位を占めているが,「常用従業者の採用ができないため」(同四分の−・)という

外的な理由も第2位を占めている。また,「貸金負担を低くおさえるため」およ

び「仕事量が急に増加したため」も共に五分の劇を占めている。すなわち,パ

ートを必要とする理由は企業によって多様である。

(13) 人材派遣業の利用

人材派遣業を利用している企業は,わずか2%程度であり,香川県商工会地

区ではほとんど利用されていない。利用理由では,「仕事量の増加」および「常

用従業者の採用ができないため」が重視されており,パート利用の理由とはや

や異なっている。 (14) 人的資源確保の状況

「人材が確保されている」とする企業は4割5分にとどまっていて,「人材が

確保されていない」とする企業が過半数をわずかではあるが越えており,中小

企業にとっては人材の確保は今後の経営上の大きな課題となっている。

「人材が確保されている」企業の割合が高いのは1∼5人規模であり,逆に,

51∼100人規模および101∼300人規模では不足している企業の割合が高い。

(15) 人的資源確保が出来ない理由 人的資源確保難の一層大きい理由は「企業規模が小さいため」優秀な人が来

ないとするもので,三分の二の企業が中小企業の特質に基づく欠点を指摘して

いる。また,「採用活動が十分でないため」(4割)とするものが第2位を占め

ており,経営力の限界を自覚したり,あるいは努力不足を反省した意見となっ

ている。(図表19)

(24)

ー90− 香川大学経済学部 研究年報 27 図表19 人的資源確保難の理由 J9β7 (%) 0 10 20 30 40 50 60 70 大企業への流出 県 外 へ の 流 出 県内他業種への流出 業種吸引 力不足 同業種の他企業へ 企 業、規 模 が 小 企業知名度無 し 企業立地条件慈し 採用活動不十分 そ の 他 (16) 現在最も重要な人的資源の不足 現在企業が必要としている最も重要な人的資源としては,「工場作業者」(回 答項目数構成比2割)および「生産・販売等の分野で指導・管理できる人材」 (同2割)となっており,第一・線の工場作業者と生産・販売体制の確立のため の中間管理者が強く求められている。第2グループは「新製品開発面での企画, 開発能力を有する人材」(同1割3分)および「生産方法の改善に必要な新鋭機 器の操作等の知識,技術を有する人材」(同1割2分)となっており,第1グル ープよりは上級の開発技術者および機械・電気技術者が重要とされている。(図 表20) これらの重要な役割を担うべき人的資源について,そのすべてが充足されて いない。不足率が最も高いものは,「新鋭機器操作技術者」(無回答を除く不足 率8割)であり,続いて「中間管理者」(同7割強),「開発技術者」(同7割強)

(25)

中小企業における人的資源の確保 −9J− も高率となっている。しかし「工場作業者」(同6割弱)についてはやや低くな っている。(図表21) 図表20 現在最も重要な人的資源 図表21最も重要な人的資源の不足率 (%) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 エ 場 作 業 者 生産・販売の管理者 団充足 匡∃不足 開 発 技 術 者 新鋭機器操作技術者

(26)

J形7 香川大学経済学部 研究年報 27 一見2− (17) 人的資源不足への対応策

人的資源不足への対応策としては,「生産的作業の合理化」(企業選択率5割

5分)および「外注・下請の利用」(同4割強)により,「工場作業者」の不足

に対応しようとしている。また一腰的には「社員教育の強化による能力向上」

(同4割強)による対応が中心となっている。(図表22)

従業者数規模別では,〈規模が大きくなるにつれて,その比重が高くなってい

るもの〉は「社員教育の強化」である。「高学歴者の採用」も同傾向であるが,

最大規模(101∼300人)ではやや低下している。逆に,〈小規模で比重が高く,

規模の増大とともに比重は減少するが,最大規模ではやや上昇するもの〉は「パ

ートタイマーの採用」であるが,「生産作業の合理化」もほぼ同傾向である。ま

た,〈中間規模で比重の高いもの〉は「他企業からのスカウト」である。(図表

23)

図表22 人的資源不足への対応策 高学歴者の採用 専門能力保有者採用 職業訓練校から採用 他企其からスカウト パートタイマーの採用 人材銀行の利用 コンサルタントの酒用 人林派遣業の利用 異業種交流のノウハウ 外部研究機関の利用 社員教育 の強化 自 社体制の改善 生産作業の合理化 事務作業の合理化 定 年 延 長 外注・下請利用

(27)

中小企業における人的資源の確保 図表23 人的資源不足への対応策(規模別) 一,玖クー 1∼5 6∼20 21∼50 51∼100 101∼300 従業者数規模(人) 4.小 括 (1) 企業の特性 環境変化に直面している中小企業にとっては,経営者の経営意欲は,企業経 営の成果を左右する重要な要因となる。しかるに,「現状を維持したい」とする やや消極的な経営者が過半数越えているのは問題であるが,「拡大したい」とす る積極的な経営者も4割強に達しており,また,「縮小したい」および「廃業し たい」は極めて少なく,全体としては経営意欲は良好と言えよう。 経営上の問題点としては,製品価格の伸び悩み,若年労働者の不足,需要の 鈍化・減少,熟練工・技術者の不足,需要の多様化・高度化への対応困難,販 売の不振・受注の減少,県外企業との競争激化などが,重要な要因として指摘 されている。第1位として,「製品価格の伸び悩み」が4割近くの企業から指摘

(28)

香川大学経済学部 研究年報 27 J9β7 −94− されているのが注目される。これは,「需要の鈍化・減少」のため高度成長期の ように原材料費・労務費の上昇分を販売価格に転嫁できないことが,経営を圧 迫しているためと思われる。これらは外部要因へのいらだちを示しているので あろう。 これに対して,「若年労働者の不足」と「熟練工・技術者の不足」は共に中小 企業のかかえる重要な内部問題である。「需要の多様化・高度化への対応困難」 も,その山因は若年労働者や熟練工の不足によるものであり,また,設計・開 発にたずさわる技術者の不足や企画力の貧困によるものと思われる。なお,最 近の「急激な円高」は,1割強の企業に強い影響を与えるにとどまっている。 従業者数規模別にみると,「製品価格の伸び悩み」は全規模において問題にさ れているのに対して,「若年労働者の不足」および「熟練工・技術者の不足」は 主として100人以下規模の企業において重視されている。 事業を「拡大したい」と言う高い経営意欲を持っている企業では,「需要の多 様化・高度化への対応困難」,「新製品開発体制の不備」,「技術水準の変化・高 度化への対応困難」という問題点を自覚しており,積極的な行動を模索してい ることが伺える。 これらの問題点を解決するための経営戦略としては,「人的資源の確保・育成」 をあげる企業が半数近くあり,最重要課題となっている。この人的資源を基礎 として,生産面では,「品質管理・生産管理の実施徹底」や「省力化・合理化」, 「多品種少量生産体制の確立」によって,販売面では,「高付加価値商品の開発」 と「マーケテイング・広告活動等の機能強化」によって,当面の難局に対応し ようとしている。とくに,事業拡大を意図する企業においては,「FA化」を試 みようとするものが他のグループと比べて多く見られる。 (2) 後継者の特徴 後継者が主に従事してきた部門は,「生産部門」,「販売部門」,「技術部門」と なっており,「全般的に従事」は少なく,事業主の従事分野(「全般的に従事」 が第1位)とは異なっている。将来については,「全般的に従事」および「販売 部門」が上位となり,事業主の場合と同様となっている。

(29)

中小企業における人的資源の確保 一さJこ了− 他方,後継者が今後取得すべき能力としては,「事業に関する知識・理論」や 「統率力・リーダーシップ」が重視されており,現在の事業主よりも経営者と しての成長が期待されている。こうした能力の育成は,「業務に従事させながら, 事業主が教育する」という0.JT方式が基本であるが,さらに,「研究会・セミ ナー・研修会などへの参加」の比重が,事業主の場合と比べて,極めて高くな っており,より意図的な育成が図られている。 (3) 後継者の決定 後継者の決っていない企業は,半数を越えている。従業者数規模別では,中 間の21∼50人規模では,「後継者の決っていない」企業の比率が低く,規模がこ れより小さくまたは大きくなるにつれて,その比率は高くなっている。また, 後継者の決定は,事業を「拡大したい」とか「現状維持を図りたい」という経 営意欲とはほとんど関係がない。未決定の理由については,経営者がまだ働け るので「考えていない」のである。後継者が決まっている場合,その大半は「自 分の子供」である。そ・の決定にさいしては「親子間での話し合い」によるのが 大半であるが,「本人の強い意志」によるものもある。 (4) 雇用管埋上の問題点 雇用管理上で特に「問題が生じている」企業は,約三分の−・となっている。 最大の問題点は「若年労働者の採用難」である。また,「高年齢化に伴う中高年 齢者の配置および処遇」も問題となっており,若年労働者の不足と高齢化とい うきびしい事態に直面していることが分かる。さらに,「管理者の人材不足」お よび「技術者の確保難」も問題となっており,中堅層の薄さが明らかになって いる。 (5) 新卒採用 昭和61年4月の新卒採用計画を立てていた企業は参分の一・にとどまってお り,中小企業を取り巻く経営環境のきびしさがうかがえる。新卒採用を計画し た企業の割合は,小規模ほど低く,規模の増大につれて高くなっている。

(30)

香川大学経済学部 研究年報 27 Jガ7 −96− この新卒採用計画の達成度については,「希望通り採用できた」のは四分の− 弱にすぎないが,「十分ではないが採用できた」を合わせると,ほぼ満足できた 企業は半数を超えることになる。しかし,逆に,「まったく採用できなかった」 企業と「ほとんど希望を満たせなかった」企業を合わせると,三分の−・に達し ており,きびしい状況が明かとなっている。 この新卒採用計画を達成するための主要な方法としては,「縁故者,知人,従 業員などに紹介を依頼」する私的なルートと,「学校(中学∼大学)への求人を 依頼」する公的なルートとが中心である。 (6) 中途採用 中途採用を計画した企業は,4割強である。中途採用計画が必要となった理 由としては,「中途退職者の補充」や「過去数年来の要員不足の補充」という消 極的理由が大きな比重を占めている。しかし,「仕事量の増大に対応」するため という積極的な理由もみられる。 中途採用計画を「希望通り達成できた」企業と,「十分ではないが採用できた」 企業とを合わせると三分の二に達し,計画達成率は非常に高い。したがって, 中小企業にとっては,4月の新卒採用よりも,中途採用の方が人的資源を獲得 できる場となっている。もっとも,1∼5人規模では,「まったく採用できなか った」企業の比率が,他の規模と比べて,もっとも高い。 中途採用者がその直前に就職していた企業等については,町内および県内の 中小企業が多いが,Uターン者もみられる。 (7) パート採用 「パートを採用している企業」と「採用していない企業」とが相半ばしてい

る。パートへの依存度は,51∼100人規模の中間規模の企業でもっとも高

い。パートを採用する理由としては,「常用従業者をおさえる」という経営内的 な理由と,「常用従業者の採用ができない」という外的な理由などである。 (8) 人材派遣業の利用

(31)

中小企業における人的資源の確保 −97− 人材派遣業は,ほとんど利用されていない。 (9) 人的資源の確保 「人的資源が確保されていない」と考える企業が半数を越えている。1∼5人 の小規模よりもむしろ,51∼100人規模および101∼300人規模で不足している企 業の割合が高い。人的資源確保が出来ない理由としては,「企業規模が小さいた め」とするものが多いが,「採用活動が十分でないため」という反省もみられる。 現在最も重要な人材は,「工場作業者」,「生産・販売の管理者」,「開発技術者」 および「機械・電気技術者」となっているが,いずれも不充足率は高い。こう した人的資源不足への対応策として,生産面では,「生産的作業の合理化・機械 化」,「外注・下請けの利用」が,全般的には,「社員教育の強化による能力の向 上」が目指されている。 (10) 従業者数規模別の特性

①零細規模(1∼5人規模および6∼20人規模)の特性

従業者数規模別では,1∼5人規模の企業が2割,6人∼20人規模が5割を

しめ,県内郡部の製造業は,零細規模経営が中心である。この規模では,経営 意欲は低く,「現状維持」が過半数を越えている。この規模では,「人材が確保」 されていて,雇用管理上の問題が「発生していない」企業が多いが,発生して いるところでは「若年労働者の不足」および「熟練工・技術者の不足」が主と して問題になっている。問題が生じていないため,採用計画をたてる企業は少 ないが,採用計画をたてている企業では,「まったく採用できなっかた」ものが 多い。 ②中間規模(21∼50人規模および51∼100人規模)の特性 この規模では,「中間管理者の能力不足または人材不足」が,他規模と比べて, 問題となっている。新卒採用にさいしては,「十分ではないが,採用できている」 ものが多い。また,「中途採用」の達成に関しても,21∼50人規模で達成率が最 も高い。 ③最上位規模(101∼300人規模)の特性

(32)

J9β7 −.鎚i− 香川大学経済学部 研究年報 27

101∼300人規模では,「事業を拡大したい」企業が過半数を越えており,積極

的な経営意欲を持つものが多い。この規模になると,「研究開発活動の強化」や

「FA化」に強い関心を示している。多数の従業者を必要とするだけに,「雇用

管理上の問題」も6割以上の企業で発生している。とくに,「若年労働者の知識

および技能の不足」,「新技術の導入・開発に備える技術者の確保難」および「高

年齢化に伴う中高年齢者の配置および処遇」が,他規模と比べて,大きな問題

となっている。したがって,「社員数育の弓針ヒ」の比重は高い。新卒採用計画は,

8割弱の企業がたてているが,「希望どうりには採用できていない」。

(11) 経営意欲別の特徴 「事業を拡大したい」とする積極的な経営意欲を持つ経営者は4割強に達し

ている。彼らは,「需要の多用化・高度化への対応困難」,「新製品開発体制の不

備」,「技術水準の変化・高度化への対応困難」などを直視しており,消費者ニ

ーズの変化に対応するためには,開発体制,開発技術,生産技術などの経営力

の向上が必要なことを意識している。これらの企業では,現状維持を考えてい

る企業と比べて,新卒採用計画および中途採用計画を持った企業の割合が高い。

すなはち,事業拡大意欲のある企業では,「仕事量が増大し,それを担当する要

員が必要となった」が,「その年の新卒採用者だけでは,必要な要員が確保でき

ない」ために,中途採用を行うという積極性がみられる。

「現状を維持したい」とする企業は全体の5割強をしめ,過半数の経営者は

やや消極的である。これらの企業では,拡大指向の企業と比べて,「販売不振・

受注減少」や「需要の伸びの鈍化・減少」を重要問題として認識しており,い

わば外的要因に経営不安の原因を求めている。 ⅠⅠⅠ 香川県の商工会地域の中小製造業においては,必要な人的資源を確保できて いない企業が多い。前記の製造業の調査では,半数以上の企業が「必要な人的 資源が確保されていない」と考えていた。中小企業において人的資源の確保を

(33)

中小企業における人的資源の確保 −p!)− 困難にしいる要因は多様であるが,たとえば, ①労働市場の構造,全体的な労働受給のアンバランス・ミスマッチなどの国 民経済的要因 ②就業希望者(とくに新卒者)の大企業志向,大都市志向などの就業者側の 要因 ③大企業の比べて低賃金,貧弱な福利厚生などの中小企業の特質にかかわる 要因 ④同族経営の前近代性,人的資源開発力の不足などの個々の経営体の特質に かかわる要因, などがある。これらの諸要因を一つ一つ解決していく努力が必要であるが,そ のためにも以下の前提条件を満たすことが必須のこととなる。 (1) 企業イメージの向上を図る 就業希望者とくの若年労働者が求めているものは,「企業の将来性」である。 日本の終身雇用という現状のもとでは,就職することは,自己の一・生を託する ことになるから,先行きの暗い業界や企業では,若年労働者をひきつけること は困難であろう。したがって,適正利潤をあげ,将来に明るい展望を持ちうる 企業に育てることが必要である。こうして企業イメージの向上を図ることによ って,就業希望者との接触は容易になるであ′ろう。 (2) 働きがいを与える 日々の仕事に生きがいを求めるのは,現代人の特色である。中小企業も従業 者に「働きがい」を提供できなければならない。意味のある仕事,仕事の達成 の喜び,昇進の可能性等の動機づけ要因2)を日々の労働の中で充足することが 出来れば,従業者は職務満足を得,自ら進んで働くのである。彼らは,職場で あるいは仕事の上で,自己実現欲求を満たそうと望んでいる。したがって,こ うした動機づけ要因を生み出し,提供できることが,人的資源確保の根底をな すのである。 2)ハーツバーグ 「能率と人間性」1978,73∼151ページ。

(34)

19β7 香川大学経済学部 研究年報 27 ーJ(丸)− (3) 就業条件の向上を図る

中小企業において人的資源の確保を困難にしている要因の−・つは,就業条件

の悪さ(例えば,低賃金や作業環境の不備)である。これらは不満足要因3)で

あるから,それらが高い水準にあるからといって,かならずしも従業者に満足

を与え,仕事へ動機づけるものではない。しかし,従来,中小企業は低賃金に

依存することが多く,それがとくに若年労働者不足の直接的な要因となってい

た。したがって,低賃金という悪条件を排除し,高賃金を支払いうるような状

態を生み出すよう,最大の努力を行うことが重要な課題である。また,就業条

件の整備も重要である。大企業と比べれば,職場の作業環境はもとより,福利

厚生面での遅れも大きい。これらの向上への努力も必要である。

(4) 企業情報を与え,採用ルートの多用化を図る

中小企業では,従業者の採用に際して,地縁・血縁の縁故に頼る傾向が掛ゝ。

それは従業者募集費用の負担能力ともかかわっているが,家族主義的な経営に

ふさわしい人材の導入という効果を持っている。しかし,近年,就業希望者の

求職行動に変化が現れている。すなわち,彼らは,職業選択に際して,大企業

や近くの中小企業の賃金や就業条件などの情報を豊富に入手しており,比較検

討が容易になっているのである。したがって,職業情報が豊富に伝播している

状況に,中小企業も対応する必要がある。共同求人組織への参加は,企業を知

らせ,採用ルートの多様化をはかるためには有効であり,それによって,人的

資源確保の可能性は高まるであろう。 ⅠV l.新卒者の採用

終身雇用を前提とする日本の雇用制度のもとでは,新卒者を採用し,仕事を

離れた社内教育(OFF−.TT)で,自社に必要な技能を持った人材を育成するの

が,人的資源確保の方法としては,基本的・理想的であるが,中小企業では,

3)ハーツバーグ「能率と人間性」1978,73∼151ページ。

(35)

中小企業における人的資源の確保 一ノ(フノー 新卒者の採用が思うようにできない,社内に経営教育能力が欠如しているなど のために,現実には困難が多い4)。それゆえ,外部経営資源を積極的に導入する ほうが,現実的で実践的である。 2.外部経営資源の導入 (1) 中途採用の活用 急速に変化する技術革新に対応した人材を社内で育成するこ が多く,ベンチャー・ビジネスや中小企業では,即戦力を求めて中途採用を行 う企業が多くなっている。また,出身地へのUターン希望者にとっては,中途 採用を受け入れる企業が存在するかどうかは大きな関心事となっている。 しかし,募集しても応募者が少ない,採用してもすぐ辞めてしまう,平均年 齢が高くなるなどの問題点もあるので,留意する必要がある。 [A社(高松市,60人)の事例5)]A社では,特定の技術力と経験を持った技 術者10数人を中途採用してきた。将来は海外での販売や現地生産にも力点をお く計画であるが,社内にはその人材がいないので,人材銀行を介して61年度に 新たに1名を中途採用し,すでに長期出張させ,現地商社と市場調査を行って いる。62年度には,マネージャーとして2名を中途採用している。このように, A社は業務拡掛こともなう人的資源の不足を,中途採用を積極的に滴用するこ とによって,補っている。 [B社(松山市,170人)の事例]B社では,優秀な人材を社内のみで育成し 充足するのは困難であったし,また,「社内にない力」が欲しいので,中途採用 を積極的に行ってきた。昭和54∼58年頃には,Uターン者を人材銀行を利用し

て,積極的に勧誘してきた。それらの中から課長クラスが育ってきている。ま

た最近では,大手企業の地元工場が構造不況であるため,その技術者の引き抜 きも行っている。これは非常に成功しており,設計課長,同係長はこのルート 4)『四国地方における機械工業に関する調査研究(人材の育成・酒用)』通商産業調査会, 1987,33′)34,5針−74ページ。 5)以下の事例については,機械工学ヒアリング調査(昭和61年度)による。『四国地方にお ける機械工業に関する調査研究(人材の育成・活用)』通商産業調査会,1987,90∼92ペー ジ参照。

(36)

香川大学経済学部 研究年報 27 J9β7 ーJ()2−

によるものである。これらの中途採用によって,現在では社内で教育できるよ

うになっている。

[C社(徳島県松茂町,50人)の事例]C社では,新しい要員を必要とする

たびに,中途採用による人的資源の充実をはかり,成功している。最初は,販

売代理店からメーカーへ転進する段階で,鋳物工場から技術者を引き抜いたの

が,製造技術の向上に大きく貢献した。また,東京営業所および九州営業所の

開設にさいしては,いずれも取引先社員を所長として中途採用したが,これは

販売ルートの確立に役だった。さらに,最近では,社長室の充実をはかるため

に,海外勤務の経験もあるUターン者を2名採用し,組織の酒性化に貢献して

いる。とくに新分野進出となるレジャーランド(共同出資)の企画も,この2

人が中心となっている。

[D社(徳島県牟岐町,50人)の事例]D社は,大手企業と共同開発を行う

ほどで技術水準は高いが,大卒はほとんどが中途採用である。こちらから募集

するというよりも,Uターン希望者などから応募問い合わせがあり,修得技術

の分野や水準がD社の要求に近ければ,試験と面接を行い,随時決定している。

[E社(松山市,300人)の事例]E社では,地元出身者で四国以外に就職し

ているUターン希望者で,年齢25∼35歳程度,技術力・管理力・営業力のいず

れかに優れている者を中途採用のターゲットとしているが,思うようには採用

できていない。大学や高専の卒業生名簿でアプローチするが,本人にUターン

の意思があるかないかがわからないので効率的ではない,また,人材銀行は現

状ではあまり頼りにならない。そこで,当面は,リクルート関係の雑誌にUタ

ーン者募集の広告を出している。

[F社(愛媛県内子町,140人)の事例]F社では,工場創設当時は量産工場

を意図していたので,中途採用者を多く採ったが,現在はあまり採用していな い。そのため,数年前に55歳以上の希望退職者を募ったが,それでも平均年齢 が40歳と高いという問題が生じている。 (2) 親会社・関係会社よりの人的資源の受け入れ 親会社との関係は,従来は,資本的な提携関係(その一・環としての受注関係)

(37)

中小企業における人的資源の確保 −Jαヲー

の視点から支配一従属の関係が重視された。しかし,経営資源の関係として見

た場合には,人的資源の交流による機能的関係の強化とそれによる経営能力の

向上が重要である。

[G社(高松市,60人)の事例]G社は,親会社から開発部が独立して作っ

た企業であるため,親会社から経営資源を投入して,営業力・技術力の充実を

はかってきた。たとえば,親会社の営業部長をG社の営業部長に,技術部長を

営業所長に,製造部長を営業所長に,技術課長を技術部長にそれぞれ移籍した◇

もっとも,これらの人々に対して特別の教育などは行なわれなかったが,会社

の状況からみて,本人が必死で手探りしながらやってきて,現在では,G社を

支える中核的存在になっている。

[H社(高知市,54人)の事例]H社は,技術者が集まって設立された会社

であったため,技術力の高さにもかかわらず,マネジメントカの面では不十分

であった。そこで,取引先から優れた人材を常務として受け入れることで,ト

ップの強化を図り,成功している。

(3) 人材派遣企業の利用

人的資源確保のために人材派遣業を利用することは,日本でも昭和61年に−

定の業務について法制化されて以来,普及し始め,『中小企業白書62』によれば,

事務用機器操作関係業務や情報処理・システム開発関係業務を中心に,その利

用が進んでいるが,「社内の人員に余裕がない」という消極的理由が多い6)。し

かし,香川県ないし四国地方の製造業ではまだ利用は−・般的でなく,機械工業

ヒアリング調査(昭和61年度)では,その例はみられなかった。

Ⅴ 終身雇用制度のもとでは,新卒採用および社内での能力開発を基本とした人 事システムがとられてきた。たしかに,新卒者の採用とOff−JTによる教育は 6)中小企業庁編『中小企業白書62』大蔵省印刷局,1987,209∼212ページ。

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エ鎚77 香川大学経済学部 研究年報 27 ーJ(1ノー

「理想的」な方法である。しかし,中小企業においてはその理想を満足させる

ことはかなり困難である。それよりも,中途採用による人的資源の確保とOJT

による教育が「現実的」で「実践的」な方法である。

とくに,高度成長期に労働力の不足が深刻となり,また,近時,経営環境が

複雑化してくると,社内の人材のみではそれに対応できない状況が発生してい

る。中途採用,親会社からの人材受け入れ,人材派遣業の利用などにより,外

部経営資源を積極的に導入・活用することは,育成時間の節約効果をもつので,

環境変化の激しい現代では,内部人的資源の不足を補う方法としても重要であ

る。

なお,人的資源の確保・育成の基本的な前提として,企業の将来進むべき方

向を明らかにし,経営理念や企業文化を確立することが急務である。それがな

ければ,将来必要になる人的資源を前もって確保・育成することは不可能とな

ろう。

ところで,経営教育の方法は極めて多様化しているので,企業特性にマッチ

した社内教育制度を選択すべきである。また,人的資源の育成に関しても,外

部経営資源への依存が強まっている。とくに中小企業においては,社内での人

的資源育成能力が十分ではないが,これを補うものとして,公的教育機関・研

究機関・指導機関を活用し,あるいは経営コンサルタントの指導を受けること

も効果的なことが多い。共同研究や異業種交流組織への参加も,それに参加す

るメンバーにとっては,相互啓発を行い,異なる発想にふれることになるので,

経営教育としての効果をもっている。人的資源の育成については,改めて検討

することにしたい。

参照

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