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げる働きをしてしまう 従って マスメディアの異文化理解と表現の仕方に注意を払い ( 青木 2001) 映像作品に盛り込まれたステレオタイプ的要素を批判的に読み解かなければならない こうした背景のなか 日本語教育現場において ステレオタイプに対する批判の目を養うために メディア リテラシー (Medi

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要 旨  本実践は、映像作品を用いた日本語授業にメディア・リテラシーを取り入れることによっ て学習者がどのような学びを得られるのかを、中国のA大学における授業実践をとおして 明らかにすることを目的としたものである。授業実践では、映像作品の視聴後にグループ で「感想交換活動」とメディア・リテラシーの基本概念を取り入れた「指定課題活動」とい う二つの対話活動を行った。また、全ての授業実践が終了したあと、学習者全員への質問 紙調査と、うち6名を対象としたインタビュー調査を行った。学習者による対話を分析し た結果、 学習者は仲間との対話を通して、映像作品を批判的に分析し、「MLの学び」が実 現できたことが分かった。また、実践後調査を分析した結果、映像作品の視聴によるイン プット的な言語学習や対話によるアウトプット的な言語学習、さらに、グループ活動によ る「協働的学び」が実現できたことが分かった。  【キーワード】 メディア・リテラシー、映像作品、学習者の学び、協働学習 1.背景と目的  近年、日本の映像作品が、マスメディアやインターネットを通じて世界中に配信され、 海外において高い人気を博している。日本語学習者の最も多い中国では、映像作品が学習 者の間で高い人気を呼ぶと同時に、教育リソースとしての効果も教育機関により期待され ている。実際に映像作品を用いた授業を開設している大学も少なくない。その多くは、学 習者の総合的日本語能力を養うと同時に、日本社会や文化に対する理解を向上させること も目指している(高2007)。これは、映像作品は日本の様子を多角的、具体的かつ総合的に 示せると言う特徴(石田2008)を持っているからである。学習者は日本社会文化を反映し ているメディアを楽しみながら、日本語や日本社会・文化を学び、新しいメディアを通し て現在の日本を知ることを期待している(清水2014)。  しかし、その反面、映像作品視聴にはステレオタイプ的見方を拡大再生産し(青木 2001)、日本語学習および異文化理解に支障をきたすというデメリットも潜んでいる。窪田 (2007)は、日本映画を通して日本の国を理解する外国人の増加を評価すると同時に、日本 映画がステレオタイプ的な日本人観や文化的なイメージを与える可能性に懸念を表してい る。学習者は視聴者として、「受け手」という立場で、映像作品の情報を受け取る場合が多い。 その際に、学習者は日本社会に対する理解不足や映像作品を批判的に読み解く能力の欠如 により、ステレオタイプのような認知の仕方を取りがちであり、それはかえって学習を妨 ―実践報告―

メディア・リテラシーを取り入れた授業活動の学習効果

―映像作品を用いた授業実践による学習者の学び―

馬 珊

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― 80 ― げる働きをしてしまう。従って、マスメディアの異文化理解と表現の仕方に注意を払い(青 木2001)、映像作品に盛り込まれたステレオタイプ的要素を批判的に読み解かなければな らない。  こうした背景のなか、日本語教育現場において、ステレオタイプに対する批判の目を養 うために、メディア・リテラシー(Media Literacy、以下ML)が注目され、MLの育成を 目指す日本語教育実践が行われるようになってきた。だが、それは各教師が個別に試みる にとどまり、まだ理論的・実践的研究に乏しいと言える。特に、MLを取り入れることが 学習者にどのような学びをもたらすのかについての報告は少ない。前述したように、映像 作品の視聴による日本社会・文化への理解が求められていることから、今後、ますますML を取り入れた実践が行われることが予想されるため、MLを取り入れた授業活動の学習効 果について考察することは大きな意義があると考える。  そこで本実践では、映像作品を用いて、中国国内の日本語専攻の学習者を対象とし、 MLを取り入れた授業実践を実施し、MLを取り入れた授業実践において、学習者はどの ような学びを得たのかを明らかにすることを目的とする。 2.先行研究 2.1 MLの学び方の基本となる枠組み (1)MLの定義  日本でML教育に早くから取り組んできた鈴木(2013)は、MLを次のように定義して いる。「MLとは、市民がメディアを社会的文脈でクリティカルに分析し、評価し、メディ アにアクセスし、多様な形態でコミュニケーションをつくりだす力をさす。また、そのよ うな力の獲得を目指す取り組みもMLという(p.17)。」  ここでいう「クリティカル」とは否定や非難することではなく、メディアを自分とのか かわりや社会的・経済的脈絡の中で捉え直す姿勢や方法を表している(門倉2005)。それに は、メディアに含まれている情報を分析し、内容や表現方法を客観的に把握した上で、文 脈に沿って批判的かつ適切に理解することが必要である。 (2)基本概念  鈴木(2013)は、カナダ・オンタリオ州教育省が提示したMLの取り組みの理論的な基盤 となっている8つのキーコンセプト(Key Concepts、以下KC)を参考に、日本のメディア 状況に即した基本概念を「KC1 メディアはすべて構成されている」「KC2 メディアは「現 実」を構成する」「KC3 オーディアンスがメディアを解釈し、意味をつくりだす」「KC4 メ ディアは商業的な意味を持つ」「KC5 メディアはものの考え方(イデオロギー)や価値観 を伝えている」「KC6 メディアは社会的・政治的意味をもつ」「KC7 メディアは独自の様式、 芸術性、技法、決まり/約束事をもつ」「KC8 クリティカルにメディアを読むことは、創造 性を高め、多様な形態でコミュニケーションを作り出すことへとつながる」と提示してい る。中でも、KC1とKC2は最も重要な概念とされている。 224067_桜美林言語教育論叢_2校.indb 80 2015/03/23 20:56:18

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(3)学びの場の作り方  鈴木(2013)は、学びの場を効果的に展開するために不可欠な要素として「ファシリテー ターの役割」「グループで学ぶ」「能動的な参加」「対話による学習」という四つの要素を挙 げている。MLの取り組みでは、学ぶ者の参加と能動性を基本に据えてクリティカルな思 考を育成し、主体性の確立(鈴木1998)を目指している。従って、教師は一方的に知識を伝 達するのではなく、ファシリテーターとしての役割を果たし、学ぶ者が積極に参加できる よう場を提供する。また、学習者は、少人数のグループを中心に、仲間との対話に能動的に 参加し、その対話を通して互いに学びあう。 2.2 日本語教育現場でのMLを取り入れた実践  近藤(2010)は、学習者に映像と現実の違いに気づかせるため、MLを取り入れ、 YouTubeの映像を利用した授業を実践した。学習者の作成した感想文を分析したところ、 学習者にMLへの気づきが得られ、メディアと向き合う姿勢として「主体性」についての 理解も深まったことが分かった。  保坂(2011)は、対話を中心する映像作品の聴解活動を行い、多相的な意味を理解する マルチリテラシーズの育成を目指している。その授業を通した学びをMLの観点から分析 した結果、学習者は映像作品に埋め込まれる日本社会をめぐるイデオロギーや価値観を見 出し、それについて自分なりの意味づけをしていた。これにより、学習者の中では映像作 品の批判的視聴が行われ、 MLの学びを促していることがわかる。  李・宮崎(2013)は「視聴説」授業の中でML向上を目的として、同じテーマを扱った中 日のテレビ番組を比較させ、その違いについて考える授業を行った。その実践から、同様 題材を扱った映像作品を用いることで、多角的思考力の向上を促すのが可能となると結論 付けた。  以上の研究を通してMLの必要性と有効性が指摘された。ただ、上述した実践報告には、 MLの育成を中心に学習者の学びを論じるものが殆どであり、MLを日本語教育の一環と して取り入れることに焦点を当て、学習者の学びを包括的に検討したものは、管見の限り 見当たらない。また、MLを取り入れた日本語授業のほとんどは日本国内で行われたもの で、その参加者は国籍が異なり、日本で生活している学習者の場合が多い。一方、中国の日 本語教育現場において、学習者は、国籍・母語が同じで、日本人との接触がほとんどなく、 教師やメディアを通して日本を知る場合が圧倒的に多い。こうしたステレオタイプを醸成 しがちな環境において、MLを取り入れた授業を実践し、その学習効果を検討する必要が あると考えられる。

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― 82 ― 3.調査概要と分析方法 3.1 授業実践  2014年3月にA大学1)で授業実践を実施した。協力者2)は、A大学日本語言語学専攻に 在籍する大学院2年生11名で、全員5年以上7年未満の学習歴を持つ上級学習者3)である。  テレビドラマ『半沢直樹』4)を用いて、90分の授業を2回行った。第1回目の授業では、 グループ分け5)を行い、映像作品を日本語字幕付きで視聴させた。第2回目には、まず20分 間の感想交換活動を行った。学習者が一般視聴者に最も近い状態で、視聴後の感想につい て話し合うことが目的である。また、話し合いに困ったグループのために「話し合いのヒ ント」を用意した。その後、30分間の指定課題活動を行った。稿者が用意したMLの基本 概念を取り入れた「課題」について仲間と話し合うことで、映像作品を多角的かつ批判的 に読み解き、思考力・洞察力を深めることを目指す。なお、「課題」はMLの基本概念をも とに、質問の形で提示されたトピックである。映像作品の内容理解にとどまらず、作品に 含まれている「現実・虚構」、制作側の意図、作品の社会性などを読み取れるようになって いる。「感想交換活動」と「指定課題活動」のいずれも原則として日本語で行った。授業実 践で行われた対話は学習者の許可を得てグループごとに録音し、BTSJ(宇佐美2011)に 基づき文字化した。 表1 話し合いのヒントおよび課題 『 半 沢 直 樹 』 話し合いの ヒント ① 半沢直樹はなぜ銀行に就職したのでしょうか? ② 西大阪スチールへの融資に対する半沢直樹の態度は? ③ 国税はなぜ銀行を訪れたのでしょうか? ④ 印象に残ったシーン、登場人物、台詞について話し合いましょう。 1) A大学は中国の北方地区の某直轄市に位置する外国語専門の大学である。そのカリキュラムは、21 世紀のニーズに応じ、現代的な特徴と創造精神豊かなハイレベルな人材を育成するため、「低学年で は外国語の実践能力を身につけ、高学年では文化知識、専門素質の育成に重点を置く」という原則 に基づき、すべての学生に4年間の勉強を通して、聴く・話す・読む・書く・訳すという専門技能を全 面的にマスターさせている。日本語コースには映像作品を用いた「日本語視聴説」という科目が開 設されている。 2) 協力者は全員女性(20代前半)である。当学年、当専攻の学生は12人(休学や留学などで不在の学生 を除き、男性1名、女性11人)である。唯一の男性学生は、授業実践への協力を承諾したが、校内行 事のため辞退した。また、以降は本実践の協力者を「学習者」と呼ぶ。 3) 稿者は、聴解授業において初級後期の学生に対してよりも中級以上の学生に対して効果があるとい う小林(1990)の研究結果を受け、学習者を上級学習者と設定した。また、学習者全員が日本語能力 試験N1に合格している。 4) 作品の選択に当たって、学習者の興味・関心に柔軟に対応する必要があると考え、事前にアンケー ト調査を行い、学習者が挙げた作品から選択した。 5) 11名の学習者をA(3人)B(3人)C(2人)D(3人)という四つのグループに分けた。 224067_桜美林言語教育論叢_2校.indb 82 2015/03/23 20:56:18

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『 半 沢 直 樹 』 課題(KC) ① 主人公の半沢直樹はどのような人でしょうか。製作者は、どのよ うな方法でその人物像を創ったのでしょうか? また、その人物 を通して、どのような意図を伝えようとしているのでしょうか? (KC1、KC5、KC7) ② ドラマでは、銀行員の生活がどのように描かれているのでしょう か?それは現実をそのまま反映していると思いますか?或いは、 「虚構」や「誇張」でしょうか? (KC1、KC2、KC3、KC7) ③ 男ドラマと言われる『半沢直樹』では、女性はどのように描かれて いるのでしょうか?(KC1、KC2、KC3、KC6) ④ 『半沢直樹』はなぜ高い視聴率を取ったと思いますか? (KC3、 KC4、KC5、KC6、KC7) 3.2 実践後調査  授業実践終了後、全授業に出席した学習者10名に授業実践の主要部分である「作品の視 聴」「感想交換活動」「指定課題活動」という三つの活動について自由記述式で評価しても らった。その後、質問紙調査での不明点や気になった点について尋ねるために、うち6名に 補助的インタビュー調査を行った。 3.3 分析方法  学習者の学びを分析するため、以下2つの方法でデータの分析を行った。まず、授業実践 中の対話6)を観察し、学習者による映像作品の分析を鈴木(2013)が挙げているMLの8つ の基本概念を念頭に解析し、そこで起きているMLの学びを考察する。次に、実践後調査 のデータをもとに、本実践に対する学習者の認識から、本実践による学習効果を探る。 4.対話分析から見た学習者の学び(MLの学び)  まずは、感想交換活動における対話全体を観察し、学習者が一般視聴者に最も近い状態 で行った対話を分析する。次に、 MLの8つの基本概念に基づき、「指定課題活動」における 対話を分析し、両活動の発話データを対照しながら、MLを取り入れたことによる学習者 の学びを分析する。   (1)感想交換活動の対話  感想交換活動の対話は「視聴経験の確認」から始まっている。その後、印象に残った登場 人物、印象に残ったシーン、ドラマの舞台である銀行といったドラマの内容に即した話題 が取り上げられた。さらに、学習者自身の経験、日本人の性格、銀行のあり方などに至るま 6) 本稿では、 Dグループの発話データを分析することにした。このグループを選んだ理由は、授業の観 察および「振り返りシート」の記入状況から、活動が順調に行われたと判断したためである。

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― 84 ― で、対話が展開していった。最後に、話したいことがなくなり、「話し合いのヒント」につ いて話した。図17)は対話全体の進行を図式化したものである。ここでは、学習者がドラマ について自主的に話し合った部分の対話を主要部分と見なし、分析対象とした。  主要部分の対話では、対話の内容は、「登場人物の描写」「場面の描写」「考え・感情の表出」 のやり取りに分けられる。対話の中心となる「考え・感情の表出」の部分では、「実際のや り方」や「実際の銀行」という表現を伴う、ドラマの内容を疑った話題もあったが、学習者 は虚構としてとらえず、個人的な好みや経験に基づき、ドラマの描く物語や人物を実在す るものとして評価し、そこから日本社会を読み取ろうとしていた。「上司はみんな馬鹿」「日 本人の妻は優しい」といった日本社会の表面的、ステレオタイプ的な理解も見られた。 図1 感想交換活動の対話全体の流れ   (2)指定課題活動の対話  指定課題活動は稿者が用意した課題について考えて話し合う活動であるため、指定課題 活動の対話はほぼ課題順に展開していった。紙幅の都合上、課題2と3のみを取り上げる。 7) 図1と図2の作成に当たっては、清水(2014)を参考にした。 85 実在するものとして評価し、そこから日本社会を読み取ろうとしていた。「上司はみんな馬 鹿」「日本人の妻は優しい」といった日本社会の表面的、ステレオタイプ的な理解も見られ た。 図 1 感想交換活動の対話全体の流れ (2)指定課題活動の対話 指定課題活動は稿者が用意した課題について考えて話し合う活動であるため、指定課題 活動の対話はほぼ課題順に展開していった。紙幅の都合上、課題 2 と 3 のみを取り上げる。 224067_桜美林言語教育論叢_2校.indb 84 2015/03/23 20:56:20

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図2 課題2・3の対話の流れ  課題2に関する対話では、学習者は「俳優の表情」「銀行の建物」といった表面的な視覚 情報から、「上司のあり方」「上司への態度」「仕事への姿勢」といった日本社会文化の面に 至るまで、ドラマを分析した。対話中、協力者はドラマに描かれたことに共感し、それがあ る程度現実に即した描写と捉えてもいたが(「銀行の建物」資料1)、現実との相違について 語るやり取りの方が圧倒的に多かった。特に「上司のあり方」について、感想交換活動では 「上司は皆バカ」というドラマに描かれた上司への評価だけが出された。指定課題活動(資 料2)では、学習者はドラマに現われた上司のひどさを語った後、メンバーそれぞれが考え る現実での上司の姿について話し合った。DF1は実際の上司は「余裕」で、取引先との付 き合いや旅行を兼ねての学習会といった部下と違う仕事で「忙しい」という意見を語った。 DF1のマイナス的な意見に対し、DF3は「それなりの才能」を持っていないと「上司にな れない」と話し、プラス的な意見を出した。DF2は、DF3の意見に賛同し「特に企業」で は実力が重視されると考えていた。このように、「上司のあり方」に関する対話では、マイ ナス評価とプラス評価の両方が見られたが、いずれもドラマの描き方を鵜呑みにするので はなく、ドラマで描かれた上司の真正性を疑った発話であると言える。以上のように、学 習者はドラマは現実をそのまま反映しているのではなく、虚構や誇張を加えて作りだされ たものであることを認識し、ドラマの描く「現実」を批判的に読み解いている。

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― 86 ―  また、「ドラマに描かれた女性」に関して、感想交換活動では主人公の妻である半沢花だ けが出現したが、課題3(資料3・4)に関する対話では、話し合いの対象を登場人物全体から、 女性に限定したため、半沢花だけでなく、非主要人物の女性登場人物である近藤妻、また 婦人会という女性の群像も話し合いの対象となった。学習者は代表的なシーンやエピソー ドに基づき、半沢花の性格、婦人会で現れた女性の生き方を言語化し、描写するだけでなく、 製作者の意図、社会背景、現実社会に至るまで深く掘り下げた。また、授業実践の参加者が 全員女性であることもあり、対話中、学習者がドラマと自分自身を重ね、ドラマに描かれ た女性の生き方を批判し、女性としての自分自身の価値観や生き方について語る発話も見 られた。学習者がそれぞれ多様性と個別性を踏まえ、創造的な討論を展開していることが 分かる。対話を通して、学習者は仲間からの指摘を受け、より深い理解や新たな気づきへ と促されたと思われる。  このように、指定課題活動では、 MLの基本概念を取り入れた課題を手掛かりに、仲間 との対話を通して、制作側の意図を推測したり、作品をめぐる現実と虚構について議論し たり、作品に含まれた様々なものの見方に自分なりの意味づけをしたりしていた。こうし た多様な視点からの多角的な分析によって、 MLの学びが実現できたと言える。また、実 践後調査では、指定課題活動に関して、多くの学習者はMLを取り入れた課題について話 し合うことで、新たな視点から作品を見直し、作品のより深い読み取りが実現できたと回 答していることから、学習者はMLの学びを実感していたことが明らかとなった。 5. 実践後調査から見た学習者の学び  学習者から得た回答は、佐藤(2008)の質的データ分析法を参考に、内容8)を示すキーワー ドでコーディングを行って分類し、表にまとめて分析を行った。ここでは、その結果に基 づき、学習者の学びを「言語的学び」「協働的学び」の二つに分けて考察する。 表2 授業実践への評価 テーマ 概念カテゴリー 定性的コード 人数(合計9名) 作品の視聴 使用した 映像作品 字幕が役に立った 9(100%) 視聴時間が長い 5(55.56%) 作品が面白い 2(22.22%) 作品の選択が良い 1(11.11%) 代表的な作品 1(11.11%) 学習効果 新しい表現の学習に役立った 3(33.33%) 聞く能力が鍛えられた 2(22.22%) 8) 中国語の回答は、稿者が日本語に訳した。 224067_桜美林言語教育論叢_2校.indb 86 2015/03/23 20:56:20

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感想交換活動 学習効果 作品内容への理解が深まった 5(55.56%) 自分の意見が自由に話せた 4(44.44%) ほかの人の意見が聞けた 4(44.44%) 話す能力が鍛えられた 6(66.67%) 「話す」刺激になった 1(11.11%) その他 対話がよかった 6(66.67%) 指定課題活動 学習効果 作品への理解が深められた 3(33.33%) 作品を深く分析できた 2(22.22%) 新しい視点から分析できた 1(11.11%) 思考力が鍛えられた 1(11.11%) 話す能力が鍛えられた 6(66.67%) その他 課題がいい 6(66.67%) 5.1 言語的学び  本実践は、日本語の授業の一環として行われたが、応用力、思考力を重視し、映像作品に 含まれている言語知識についての説明を行わなかった。しかし、実践後調査では、「新しい 表現の学習に役立った」「聞く能力が鍛えられた」「話す能力が鍛えられた」といった回答 から、学習者は本実践による言語学習の効果を実感していたことが明らかとなった。では、 言語項目の説明の必要性について学習者はどのように思ったのだろうか。学習者の考えを 把握するため、稿者はインタビュー調査で詳しく尋ねた。以下はインタビュー学習者6名 のコメントを文字化したものである。 B2 学生同士が話し合っているうちに、単語とか文法とかの問題は自然に解決できます から。 C1 上級だと、自律していますので、先生が説明しなくても、授業の後で自分で調べる とか、ちゃんと勉強しますから。 D3 以前受けた授業で、先生は言語知識について説明しました。でも、実際には、あまり 効果がなくて、身に付かなかったです。逆に、字幕とかから、自分が覚えたい、勉強 したいものを自分で探させたほうが効果があります。  これらの回答から、作品を視聴する際に、学習者は字幕を利用し、聞き取れなかった言 葉を確認したり、新しい表現をメモしたりしながら、未習得言語項目を自主的に学習でき ることが分かった。また、「感想交換活動」と「指定課題活動」での対話に参加する際に、自 分の考えを仲間に理解してもらうため、既習の言語項目から適切な表現を探したり、辞書 で調べたり、仲間から教えられたりしながら、対話を通して言語知識を身に付けると思わ れる。さらに、授業終了後、教室内で把握できなかった言語項目に関して、教室外で学習す る学習者も見られた。このように、学習者は対話による学習、字幕の利用による学習、およ

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― 88 ― び自律学習といった学習方法で、作品を視聴する際に生じてしまった言語的問題を解決し、 映像作品の視聴によるインプット的な言語学習が実現できたと言える。  また、実践後調査の結果を概観すると、多くの学習者は対話による話す能力の向上を高 く評価し、アウトプット的言語学習の効果を実感していた。海外の日本語学習者にとって、 日常生活で日本語を話す機会が少ないため、教室は日本語による言語活動を行う最も重要 な場所と考えられる。従って、教室内での充実した言語活動が求められる。しかし、中国 の日本語教育における映像作品の使用状況は、聴解の訓練に終始していると指摘され(徐 2011)、言語活動のうち、作品の視聴による「受容」に重点が置かれ、「産出」「やりとり」ま では十分に至っていないのが現状である。本実践は「対話」を中心とした実践であり、日常 生活で日本語を話す機会が少ない学習者に話すための必須な要素である「相手=仲間」「話 題=映像作品」「教室=場所」を提供した。調査結果から、学習者は、対話を通して、アウト プット的な言語学習が実現できたと言える。 5.2 協働的学び  実践後調査の結果を概観すると、多くの学習者は、仲間とのコミュニケーションを通し て、自分の考えを発信すると同時に、仲間の考えを受信し、自分の理解への修正・補足を促 し、作品内容への理解が深まったと回答した。以下は、学習者の回答の一部をまとめたも のである。   A1 話す機会を増やして、コミュニケーションの機会を提供した。互いに意見交換をし て、自分の足りない部分を補った。 A2 とてもいいと思う。皆の注目するポイントや考えが違うから、勉強になった。 B2 コミュニケーションの時間と機会を提供した。自分の考えを自由に話せて、話す能 力が鍛えられたと同時に、他人の考えを理解できた。 C1 コミュニケーションは学生にとっては重要かもしれない。自分で見るときは、自分 が興味を持っているところだけに注目して、自分の一方的な思考だと思う。他人と コミュニケーションして、学べるものもあった。 D2 話す機会、他人とコミュニケーションする機会が増えた。グループで感想を自由に 話し合い、話す能力を鍛えると同時に、他人の意見を聞いて、自分の足りない部分 を補って、互いに学び合える。みんなそれぞれ興味を持っている部分が違うことに 気づいた。そして、同じグループの人が落ち着いて、流暢に話しているのを見て、羨 ましいと思って、刺激になった。    鈴木(2013)は、MLの学びの場においては、参加者が対話を通して分析し、互いに学び あうことが基本であり、メンバーは互いの意見を交換・共有することにより深く学ぶこと ができると主張している。これは日本語教育における協働的学習と共通する成果である。 224067_桜美林言語教育論叢_2校.indb 88 2015/03/23 20:56:20

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協働学習には、「対等・対話・創造・プロセス・互恵性」という5つの要素が必要9)である(池 田他2007)。本実践では、参加者の学習者は、同じクラスに属する日本語学習者であるとい う点で「対等」と言える。また、映像視聴後、仲間と「対話」する方法を用いて、協働学習の 場を提供した。学習者は課題を手掛かりに、共同視聴した作品について話し合い、自然な 対話「プロセス」が実現できた。その対話には、仲間からの指摘を受け、より深い理解・新 たな気づきへと促された発話や学習者の多様性と個別性を踏まえて展開された創造的な討 論が見られた。つまり、協働による学びが実現され、学習者もそれを自己認識しているの である。 6.まとめと今後の課題  本実践では、映像作品を用いて、中国国内の日本語専攻の学習者を対象とし、MLを取 り入れた授業実践を実施した。学習者による「感想交換活動」と「指定課題活動」両活動で の対話を観察し、そこで起きている学びを考察した結果、 MLを取り入れる課題を与える ことにより、学習者は普段と異なる視点から映像作品を多角的・批判的に分析し、MLの 学びを実現していることが明らかになった。また、実践後調査の結果を分析したところ、 学習者は「対等」な立場にいる仲間との自然な対話プロセスの中で、より深い理解が促さ れ、新たな気づきが生まれ、協働的学びが得られたこと、さらに、映像作品の視聴によるイ ンプット的な言語学習や対話によるアウトプット的な言語学習が実現できたことも分かっ た。  しかし、本実践を通して明らかになったのは、 映像作品を用いた授業にMLを取り入れ ることによって、学習者が得られた学びの一部に過ぎない。MLの学びに関しては、課題 について対話することで、その向上が図れるのかどうかについて、まだ不明な点が多い。 また、本実践では、対話を順調に進めたと思われるグループが多かったが、そうではない グループの存在も否めない。従って、本実践の問題点を分析し、授業における教師の役割 を検討し、授業改善を図る必要があると考えられる。 参考文献 青木保(2001)『異文化理解』岩波書店 池田玲子・舘岡洋子(2007)『ピア・ラーニング入門 : 創造的な学びのデザインのために』 ひつじ書房 石田敏子著(2008)「第18章 視聴覚教材の利用」『日本語教授法 改訂新版』大修館書店 門倉正美(2005)「メディア・リテラシーの世界」細川英雄編『ことばと文化を結ぶ日本語 教育』第10章 凡人社154-171 9) 互いに相手は「対等」な立場で、「対話」を通して理解しあい、或いは新たな知識を得る。対話の中で 他者の視点が加わることで対話がさらに展開し、共有の学びを生み出していく過程はプロセスであ り、このプロセス全体と学びの効果が、両者にとって意義のあるものとなることが「互恵性」である。

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― 90 ― 窪田守弘(2007)「映画で日本文化を学ぶ人のために」世界思想社 高春璐(2007『日本語専攻高級視聴覚授業についての一考察―日本映画鑑賞クラスをめ ぐって―』重慶大学修士論文 小林典子(1990)「テレビドラマによる聴解授業の実践報告:「生」教材を初級後期、中級、 上級で使用して」『筑波大学留学生教育センター日本語教育論集』(5)99-113 近藤有美(2010)「メディア・リテラシー育成を目指した日本語授業 : Youtube映像を利用 して」『長崎外大論叢』(14)51-60 佐藤郁哉(2008)『質的データ分析法 : 原理・方法・実践』新曜社 清水美帆(2014)「中国A大学における映像メディアを用いた日本語「視聴説」授業の研究 ―映画をリソースとした対話重視の授業実践から―」桜美林大学修士論文 徐燕(2011)「映像作品の教材化に向けて」『東アジア日本語教育・日本文化研究』 (14)335-354 鈴木みどり(1998)「特集 : メディア・リテラシー メディア・リテラシーとはなにか」『情 報の科学と技術』48(7)388-395 ――(2003)『Study Guide メディア・リテラシージェンダー編』リベルタ出版 ――(2013)『最新Study Guideメディア・リテラシー 入門編 最新版』リベルタ出版 保坂敏子(2011)「映画・ドラマを通した「学び」の可能性①―対話中心の聴解授業とメディ アリテラシ―」『異文化コミュニケーションのための日本語教育①』344–345 李建華・宮崎恒平(2013)「視聴覚授業の新たな形態の模索-日中のテレビ番組を用いたメ ディア・リテラシー向上の試み‐」『福井工業大学研究紀要』501-508 参考Webサイト・資料

宇佐美まゆみ(2011)「基本的な文字化の原則(Basic Transcription System for Japanese BTSJ)2011版」 <http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/usamiken/btsj2011.pdf>(2014/3/22 ダウンロード) 公益社団法人著作権情報センター 学校教育と著作権 <http://www.cric.or.jp/qa/cs01/index.html>(2014/7/28 最終アクセス) TBS日曜劇場『半沢直樹』 <http://www.tbs.co.jp/hanzawa_naoki/>(2014/7/28 最終アクセス) 224067_桜美林言語教育論叢_2校.indb 90 2015/03/23 20:56:20

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【資料】 資料1 〈指定課題活動 課題2 ドラマに描かれた現実と虚構(「銀行の建物」抜粋)〉 → 22 DF3 : まず、銀行の建物ですが、そんなに立派なのか? → 23 DF1 : 立派でしょう、絶対。日本だけではなく” 24 DF2 : Aの銀行もそうなんでしょう。 → 25 DF1 : そうですよ。学校近くのスーパーの隣の「 」銀行、あれはただの支店ですよ。 26 DF1 : そんなに高くて、宮殿みたい。 27 DF2 : 古い建物かな。 28 DF1 : 古くないですよ。 → 29 DF2 : ほかの銀行もそうなんです。 30 DF1 : つまり立派です。銀行はお金があるから。 資料2 〈指定課題活動 課題2 ドラマに描かれた現実と虚構(「上司のあり方」抜粋)〉 40 DF3 : このドラマの中の上司たちはバカのように、部下の仕事ぶりを見ているだけで、自分は何もしてないのに。 (中略) → 43 DF1 : でも、現実はそうではないと思うんですが。 44 DF1 : ええ、私なんか上の人が” 45 DF3 : 上の人は部下より忙しいでしょう? → 46 DF1 : はい、そうです。一応忙しい。でも、仕事の内容はちょっと違うと思う。 47 全員 : ははは〈笑う〉。 48 DF1 : 例えば、取引先の人とお酒を飲んだりして、勉強に行ったりついでに旅行もしたり、そういう感じですよ。 49 DF3 : 部下の報告を聞くとか。 50 DF1 : はい。つまり、上司は余裕。 → 51 DF3 : 私は、その人が上司である以上、それなりの才能があると思いますけど。 → 52 DF3 : そうでないと、上司になれないでしょう。 → 53 DF1 : それもそうなんですけど。 → 54 DF3 : 実力があるひと。 55 DF2 : そうですね、特に企業。 資料3 〈指定課題活動 課題3 ドラマに描かれた女性たち(「半沢花」抜粋)〉 105 DF1 : 花ちゃんは一番主に描かれている女性で、明るくて、可愛いくて” 106 DF1 : うん、一番印象深いのは、花ちゃんが作った手料理。 107 全員 : ははは〈笑う〉。 → 108 DF1 : 料理だけのシーンもあるんじゃないですが、なんか、愛情込めている なと思いました。

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― 92 ― 109 DF2 : 私はもう一つあります。パーティーの時、あの、マーフラのシーン。 110 全員 : オウ、ははは〈笑い〉。 (中略) 113 DF2 : ヘンとは言えなくて、なぜみんな笑ったの? (中略) 116 DF1 : 私が笑ったのは、花ちゃんが家に帰ってもちゃんと掛けている。 117 DF1 : 半沢はちょっとおかしいって感じで、おもしろいな。 → 118 DF3 : でも、副支店長に『ご主人は大丈夫』って言われたから、夫のことが 心配で、マフラーはダサいとかは、もうどうでもいいからみたいな。 → 119 DF3 : 花ちゃんが半沢のことを心配しているを表現して。 120 DF2 : そうか、なるほど。 → 121 DF3 : そうですね。花ちゃんは、時々撒娇【甘えること】もしますけど、でも ちゃんと夫の仕事を理解してあげて、いい妻だと思います。 122 DF1 : うん、優しくて。 123 DF2 : そうですか。 124 DF1 : ええ?違うんですか? → 125 DF2 : 花ちゃんは、優しいし、きれいし、でも、ちょっと不谙世事的感觉【世 間知らずという感じ】 126 DF1 : そうですね。仕事もしていないし。 → 127 DF2 : 依存于丈夫而存在的、因为我特别看出她们的价值就是信任他、给他鼓 励、然后照顾好家庭。【夫に依存する。特に、彼女たちの価値は、夫を 信じて、夫を励んで、家庭を支えて、それで終わり。】 資料4 〈指定課題活動 課題3 ドラマに描かれた女性たち(「婦人会」抜粋)〉 137 DF2 : で、先の女性のパーティー、集会。 138 DF2 : それを見て、何を思いましたか? 139 DF1 : なんか暇で。 140 DF1 :私はこの前、図書館で『白い巨塔』という日本の小説、翻訳された、中 国語に翻訳された日本の小説を読みました。 141 DF1 :日本の病院の医者さんの間のことなんですけど、その妻たちも結構集 会しますよ。妻の間の。 142 DF1 : そして、よく自分の華麗な衣装を着て、自分の夫は” → 143 DF3 : つまらないな。 → 144 DF1 : うん。もし自分の夫が出世したら、すごくえらくなって、ダメになっ たら、もう大人しくなったようです。 145 DF1 : やはり日本ってこのようですか? 146 DF2 : 中国もそうなんでしょうね? 224067_桜美林言語教育論叢_2校.indb 92 2015/03/23 20:56:20

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→ 147 DF1 : それはそうなんだけど、中国はやはり友達のほうが多いんで、女性も 自分の仕事があるので、あまりそういうようなパーティーとかがなさ そうですね。 (中略) → 150 DF1 : これは、実は銀行員と医者とかは結構社会地位高いと思います。 → 151 DF1 : 金に余裕があると、女たちは働かない。 152 DF3 : 銀行員はそんなに?。 153 DF1 : 私は、もし夫がお金があると、働きたくない。 154 DF3 : ダメよ。 155 DF2 : 女性は働かないとダメだと思う。 156 DF1 : 勿論、自分のお金がないと。 157 DF2 : なんか落ち着かない。 158 全員 : ははは〈笑う〉。 (略)

参照

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