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COPD 急性増悪患者の栄養状態が退院時における自立歩行の可否に与える影響

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 166 47 巻第 2 号 166 ∼ 173 頁(2020 年) 理学療法学 第 47 巻第 2 号. 研究論文(原著). COPD 急性増悪患者の栄養状態が退院時における 自立歩行の可否に与える影響* 小 林 孝 至 1)# 松 嶋 真 哉 1) 横 山 仁 志 2) 武 市 梨 絵 2) 渡 邉 陽 介 2) 中 田 秀 一 3) 中 茎   篤 2) 相 川   駿 1) 駒 瀬 裕 子 4) 峯 下 昌 道 5). 要旨 【目的】COPD 急性増悪(以下,AECOPD)患者の栄養状態を調査し,退院時の自立歩行の可否に与える 影響を明らかにすることである。 【方法】対象は入院前歩行が自立していた AECOPD 患者であり,理学療 法を実施した 101 例である。栄養状態は低栄養の有無とエネルギー充足率を調査した。自立歩行の可否は 歩行 FIM で 6 以上を可能と判定した。統計解析は自立歩行の可否を目的変数,低栄養の有無とエネルギー 充足率を説明変数とした多変量ロジスティック回帰分析を実施した。 【結果】自立歩行の可否に対して低栄 養の有無(OR 3.9)とエネルギー充足率(OR 0.7)は,有意な因子であった(p<0.05) 。 【結論】AECOPD 患者における栄養状態は,退院時の自立歩行の可否に影響する可能性が示された。そのため,理学療法介 入時には栄養状態の評価が必要と思われ,エネルギー充足率の低い患者へは早期からの栄養補給療法の併 用が重要と考えた。 キーワード COPD 急性増悪,歩行自立度,栄養. はじめに. COPD 患者全体の約 30% に認め. 1). ,最重症の COPD 患. 者では約 60% に認めると報告されている. 2). 。このよう.   慢 性 閉 塞 性 肺 疾 患(chronic obstructive pulmonary. な COPD 患者の BMI の低下は,死亡や急性増悪のリス. disease:以下,COPD)患者は,低栄養を有すること. ク因子と報告されており 1). 3). ,COPD 診断と治療のため. において,COPD 患者に対する. が多い疾患である。実際に,body mass index(以下,. のガイドライン 2018. 2 BMI)が 20 kg/m 未満の体重減少をきたしている者は,. 栄養療法の重要性が提唱されている。  COPD 患者の低栄養の原因は,エネルギー消費量の. *. The Effect of Nutritional Status on Walking Ability at Discharge in Patients with Acute Exacerbations of COPD 1)聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院リハビリテーション部 (〒 241‒0811 神奈川県横浜市旭区矢指町 1197‒1) Takayuki Kobayashi, PT, Shinya Matsushima, PT, MSc, Shun Aikawa, PT: Department of Rehabilitation Medicine, St. Marianna University School of Medicine Yokohama City Seibu Hospital 2)聖マリアンナ医科大学病院リハビリテーションセンター Hitoshi Yokoyama, PT, MSc, Rie Takeichi, PT, Yosuke Watanabe, PT, MSc, Atsushi Nakakuki, PT: Center of Rehabilitation Medicine, St. Marianna University School of Medicine Hospital 3)川崎市立多摩病院リハビリテーション科 Shuichi Nakada, PT: Department of Rehabilitation Medicine, Kawasaki Municipal Tama Hospital 4)聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院呼吸器内科 Yuko Komase, MD: Department of Respiratory Medicine, St. Marianna University School of Medicine Yokohama City Seibu Hospital 5)聖マリアンナ医科大学病院呼吸器内科 Masamichi Mineshita, MD: Department of Respiratory Medicine, St. Marianna University School of Medicine Hospital # E-mail: [email protected] (受付日 2019 年 6 月 5 日/受理日 2019 年 11 月 27 日) [J-STAGE での早期公開日 2020 年 2 月 25 日]. 増加とエネルギー摂取量の低下とされる. 1). 。エネルギー. 消費量の増加は,気流閉塞や動的肺過膨張により呼吸筋 の筋活動が増加するためであり,安静時のエネルギー消 費量が健常人と比較して約 40%亢進しているとの報告 がある. 1)4). 。エネルギー摂取量の低下は,食事時の呼吸. 困難や摂食調整因子などの内分泌ホルモン異常により食 欲低下が惹起されることなどが原因として考えられてい る. 5). 。さらに,COPD は慢性炎症性疾患であるため,. 炎症性サイトカインの増加による筋蛋白異化亢進も低栄 養の進行を助長させる. 6). 。特に COPD 急性増悪期では,. 安定期に比べ,呼吸仕事量の増加や炎症反応の増強が起 こるため,さらに栄養状態が悪化することが懸念され る。近年ではリハビリテーションと栄養の関連が注目さ れており,急性増悪期のように代謝が亢進している状態.

(2) COPD 急性増悪患者の栄養状態が自立歩行に与える影響. での身体機能向上をめざすような運動療法は,筋肉量の 減少を引き起こすことが危惧されている. 7). 。そのため,. 167. また有酸素運動は Karvonen 法を用い,定数の 40%か ら開始し,徐々に漸増した。有酸素運動中の呼吸困難が. 入院前より低栄養を有する,または入院後にエネルギー. 強い者には修正 Borg scale を適応し,場合によっては. 摂取量が十分に得られていない COPD 急性増悪患者で. ADL トレーニング主体に切り替えた。また,運動中に. は,理学療法を実施していても筋力などの低下から歩行. 過度の呼吸困難(修正 Borg scale 7 ∼ 9)や呼吸数の増. 機能の改善が得られにくい可能性がある。しかし,現在. 加(30 回 / 分以上),SpO2 が 90%未満,高度の収縮期. では COPD 急性増悪患者における歩行機能の回復過程. 血圧の低下,高度の拡張期血圧の上昇,その他自覚症状. に及ぼす影響は明らかではなく,栄養状態に合わせた適. (胸痛,動悸,疲労,めまい,ふらつき,チアノーゼなど). 切な理学療法の内容や負荷量なども検討されていない。. が出現した場合は,速やかに運動を中止した。.  そこで本研究は,急性増悪にて入院した COPD 患者 の栄養状態を調査し,COPD 急性増悪患者の栄養状態. 4.アウトカム. が退院時の自立歩行の可否に与える影響を明らかにする.  本研究のメインアウトカムは,退院時における自立歩. ことを目的とした。この影響が明らかとなることで,包. 行の可否と設定した。自立歩行の可否は,歩行 FIM で. 括的な栄養補助療法が必要な患者を早期より把握するこ. 6 以上の者を自立歩行可能,5 以下の者を自立歩行困難. とが可能と考える。. であると定義した。. 対象および方法. 5.調査項目. 1.研究デザインおよび倫理的配慮. 1)栄養状態.  研究デザインは,診療録調査による後ろ向き観察研究.  本研究において注目している COPD 急性増悪患者の. である。本研究は,聖マリアンナ医科大学病院における. 栄養状態は,入院前からの低栄養の有無と入院後におけ. 生命倫理委員会の承認(承認番号:第 4066 号)を得て. るエネルギー充足率を用いて評価した。低栄養の有無に. 実施した。また,研究情報の公開についてはオプトアウ. 関しては COPD 診断と治療のためのガイドライン. ト方式を用いた。個人情報保護法に基づき個人データの. おいて積極的な栄養補給療法が提唱されている % 理想. 摘出や管理は,匿名化を行い患者個人が特定できないよ. 体重(% ideal body weight:以下,%IBW)が 80% 未. うに留意した。. 満の者を低栄養有りと定義した。%IBW は式 (1)を用. 2). に. いて算出した。 2. 2.対象.  式(1):%IBW(%)= 体重(kg)/ 身長(m)/22 × 100.  対象は平成 27 年 1 月∼平成 29 年 3 月の間に聖マリア.  エネルギー充足率は入院直後 1 週間の平均エネルギー. ンナ医科大学横浜市西部病院および聖マリアンナ医科大. 摂取量を調査し,得られた値を目標エネルギー摂取量で. 学病院の呼吸器内科に COPD 急性増悪で入院し,標準. 除すことで算出した[式(2)]。目標エネルギー摂取量. 的な理学療法介入を行った連続症例とした。COPD 急. は患者別に管理栄養士が式(3)を用いて計算した値を用. 性増悪の定義は日本呼吸器学会 COPD ガイドラインに. いた。. 沿って医師により COPD 急性増悪と診断され,入院お. 式(2):エネルギー充足率 = 平均エネルギー摂取量 /. よび,治療が行われた場合とした。また,COPD 急性. 目標エネルギー摂取量× 100. 増悪の誘因として,今回は市中肺炎による急性増悪のみ. 式(3):目標エネルギー摂取量 = 基礎代謝量(Harris-. に限定した。除外基準は入院前から自立歩行が困難であ. Benedict 式) ×活動係数(1.2 ∼ 1.5) ×ストレス係数(1.2. る者(歩行 FIM ≦ 5),入院中に死亡した者,入院時に. ∼ 1.5). ICU に入室した者,認知症を有している者,自宅以外. 2)背景因子. の施設から入院した者(有料老人保健施設など)とした。.   診 療 録 よ り 年 齢, 性 別,BMI,COPD 病 期 分 類. 3.当院における呼吸リハビリテーションプログラム. 9) test index:以下,COTE Index) ,市中肺炎重症度分.  当院における呼吸リハビリテーションプログラムは呼. 類(以下,A-DROP) ,人工呼吸器使用の有無,在宅酸. 2). ,. COPD 特異的合併症検査指数 (COPD-specific co-morbidity. 8). に従い,コンディ. 素療法(home oxygen therapy:以下,HOT)使用の. ショニング,ADL トレーニング,上下肢レジスタンス. 有無,入院 1 週間以降のエネルギー充足率,リハ介入ま. トレーニング,有酸素運動を基盤として構成した。レジ. での期間,リハ介入期間,在院日数,転院の有無を調査. ス タ ン ス ト レ ー ニ ン グ の 負 荷 量 は 基 本 的 に 1RM. した。. 吸リハビリテーションマニュアル. (repetition maximum)の 70 ∼ 80% を基準とし,困難 なものには修正 Borg scale で 3 ∼ 4 程度に設定した。.

(3) 168. 理学療法学 第 47 巻第 2 号. 図 1 研究対象患者 FIM: functional independence measure. 6.統計学的解析方法. とカテゴリー変数化したうえで,多変量ロジスティック.  収集した情報のうち,連続変数は Shapiro-Wilk 検定. 回帰分析を行った。. を使用して正規性を確認した。正規分布する指標は平均.  なお,すべての解析において統計学的有意水準は 5%. 値±標準偏差,正規分布を示さない指標は中央値[四分. とし,統計ソフト「R」のグラフィカルユーザーインター. 位範囲]で表記した。2 群間の比較に関しては,連続変. フェイスである EZR version1.35 を使用した。. 数は Shapiro-Wilk 検定により,正規性が確認されたも のは対応のない t 検定,正規分布を示さなかったものは. 結   果. 2 Mann-Whitny の検定を行った。また,名義尺度は χ 検.  調査期間に COPD 急性増悪で入院した全 111 例のう. 定を行った。. ち,10 例が除外基準を満たし,最終的に 101 例が解析.  栄養状態が退院時における自立歩行の可否に与える影. 対象となった(図 1)。その中で入院前の歩行は自立し. 響を検討するために目的変数を退院時の自立歩行の可. ていたが,21 例(20.8%)の者は通常の理学療法を行っ. 否,説明変数を入院前からの低栄養の有無,入院後にお. ていたにもかかわらず,退院時の自立歩行が困難となっ. けるエネルギー充足率とした多変量ロジスティック回帰. ていた。対象の背景因子を表 1 に示す。全対象の年齢中. 分析(強制投入法)を行った。なお,共変量には先行研. 央値は 78.0[72 ‒ 83]歳,男性は 81 例(80.2%)であった。. 10)11). を参考に退院時の歩行機能に関連すると考えら. また,COPD 病期分類はⅠ期 22 例,Ⅱ期 34 例,Ⅲ期. れる年齢,COPD 病期分類,A-DROP を投入することで. 28 例,Ⅳ期 17 例と軽症から重症まで様々であった。栄. 交絡を調整した。その際,自立歩行の可否は歩行 FIM. 養状態に着目すると,全体の 31 例(30.7%)は入院前よ. で 6 以上の者を「0」 ,5 以下の者を「1」 ,低栄養の有無. り低栄養を有していた。エネルギー充足率の平均は全体. は %IBW で 80% 以上の者を「0」 ,80% 未満の者を「1」. で 78.7 ± 31.7%,歩行自立群で 85.9 ± 26.9%,歩行非自. とカテゴリー変数化して投入した。. 立群で 51.3 ± 34.4 であった。今回,入院後 1 週間以降.  加えて,自立歩行の可否に対するエネルギー充足率の. のエネルギー充足率も調査しているが,入院直後 1 週間. 目安を検討するためのサブ解析として,エネルギー充足. と 1 週間以降のエネルギー充足率には有意な正の相関関. 率 100% 以上を「0」 (control 群)とし,100% 未満 90%. 係を認めた(r = 0.757)。このため早期にエネルギー充. 以上を「1」 ,90% 未満 80% 以上を「2」,80% 未満 70%. 足率が低いものはその後も低いことが示された。. 以上を「3」,70% 未満 60% 以上を「4」 ,60% 未満を「5」.  歩行自立群と歩行非自立群の 2 群において,年齢,性. 究.

(4) COPD 急性増悪患者の栄養状態が自立歩行に与える影響. 169. 表 1 対象者の背景因子. 年齢 ( 歳 ). 全対象 (n=101). 自立歩行 (n=80). 歩行非自立 (n=21). p値. 78.0 [72‒83]. 77.0 [72‒82]. 82.0 [78‒85]. 0.053. 男性 n(%). 81.0(80.2). 63.0(78.8). 18.0(85.7). 0.355. BMI(kg/m2). 19.9 ± 3.6. 20.6 ± 3.7. 17.5 ± 3.2. < 0.001.  Ⅰ n(%). Ⅰ:22(21.8). Ⅰ:16(20.0). Ⅰ:6(28.6).  Ⅱ n(%). Ⅱ:34(33.7). Ⅱ:31(38.8). Ⅱ:3(14.3).  Ⅲ n(%). Ⅲ:28(27.7). Ⅲ:22(27.5). Ⅲ:6(28.6).  Ⅳ n(%). COPD 病期分類 0.341. Ⅳ:17(16.8). Ⅳ:11(13.8). Ⅳ:6(28.6).  COTE index. 1.0 [1‒2]. 1.0 [0‒2]. 1.0 [0‒2]. 0.961.  A-DROP. 1.0 [0‒2]. 1.0 [1‒1]. 2.0 [1‒2]. < 0.001 0.434. NPPV 使用の有無 n(%). 有:6(5.9). 有:4(5.0). 有:2(9.5). 無:95(94.1). 無:76(95). 無:19(90.5). HOT 使用者 n(%). 60(59.4). 47(58.7). 13(61.9). 0.793. リハ介入までの期間 ( 日 ). 3.0 [1‒5]. 3.0 [1‒5]. 4.0 [2‒6]. 0.214. リハ介入期間 ( 日 ). 14.3 ± 2.3. 11.6 ± 9.1. 23.34 ± 16.6. 0.001. 在院日数 ( 日 ). 20.6 ± 13.0. 17.6 ± 9.5. 30.3 ± 17.5. < 0.001 < 0.001. 低栄養の有無 n(%). 有:31(30.7). 有:18(22.5). 有:13(61.9). 無:70(69.3). 無:62(77.5). 無:8(38.1). 入院直後 1 週間のエネルギー 充足率 (%). 78.7 ± 31.7. 85.9 ± 26.9. 51.3 ± 34.4. < 0.001. 入院後 1 週間以降のエネルギー 充足率 (%). 87.0 ± 28.0. 85.8 ± 26.7. 67.2 ± 35.9. < 0.001 < 0.001. 転院の有無 n(%). 有:10(9.9). 有:0(0.0). 有:10(47.6). 無:91(90.1). 無:80(100.0). 無:11(52.4). 平均値±標準偏差 , 中央値[四分位範囲] COPD: chronic obstructive pulmonary disease BMI: body mass index COTE index: COPD-specific co-morbidity test index HOT: home oxygen therapy NPPV: noninvasive positive pressure ventilation. 別,COPD 病期分類,COTE Index,人工呼吸器使用の. ratio( 以 下,OR) と 95% confidence interval( 以 下,. 有無,HOT 使用の有無やリハ介入までの期間には有意な. CI) は 低 栄 養 の 有 無(0: 無,1: 有 ) で OR = 3.92,. 差を認めなかった。しかし,入院時における A-DROP に. 95% CI = 1.3‒11.7,エネルギー充足率(単位変化量=. おいては歩行自立群,歩行非自立群の順に 1.0 [1‒1] ,2.0. 10%)では OR = 0.68,95%CI = 0.55‒0.85 であった。. [1‒2]と歩行非自立群で有意に高値であった(p < 0.001) 。.  また,エネルギー充足率をカテゴリー化したサブ解析.  また,栄養状態に関しては,入院前より低栄養を有し. は,エネルギー充足率 100%以上の群を control 群とし. ている者の割合は歩行自立群で 18 例(22.5%) ,歩行非. たとき,エネルギー充足率 60% 未満の群のみ(OR =. 自立群で 13 例(61.9%)であった。入院後のエネルギー. 29.4,95%CI = 2.82‒305.0)が自立歩行の可否に対する. 充足率は歩行自立群で 85.9 ± 26.9%,歩行非自立群で. 有意な因子として抽出された。その他,60 ∼ 70%,70. 51.3 ± 34.4% であった。COPD 急性増悪で入院した者は,. ∼ 80%,80 ∼ 90%,90 ∼ 100%の群では 100%以上の. 入院前より低栄養を有している割合は高く,入院後のエ. 群と比較して,有意差は認めなかった(図 2) 。加えて,. ネルギー充足率も低値という結果であった(p < 0.05) 。. エネルギー充足率を縦軸,%IBW を横軸とした散布図.  表 2 に多変量ロジスティック回帰分析の結果を示す。. を図 3 に示す。その結果,入院前から低栄養を有してお. 入院前からの低栄養の有無と入院後におけるエネルギー. り,かつ入院直後 1 週間のエネルギー充足率が 60% 未. 充足率は,共変量での交絡の調整後も自立歩行の可否に. 満の者は 10 例中 8 例(80%)が自立歩行困難という結. 対する有意な危険因子として抽出された。その odds. 果であった。.

(5) 170. 理学療法学 第 47 巻第 2 号. 表 2 ロジスティック回帰分析の結果 単変量 OR. 95%CI. 多変量 p値. OR. 95%CI. p値. 低栄養の有無 *. 5.22. 1.88‒14.5. < 0.001. 3.92. 1.30‒11.70. < 0.001. エネルギー充足率 †. 0.69. 0.57‒0.83. < 0.001. 0.68. 0.55‒0.85. < 0.001. 年齢. 1.10. 0.99‒1.16. 0.070. 1.10. 0.99‒1.24. 0.085. COPD 病期分類. 3.35. 1.54‒7.27. < 0.001. 2.21. 0.94‒5.20. 0.068. A-DROP. 1.26. 0.78‒2.04. 0.344. 2.35. 0.76‒7.31. 0.140. OR: odds ratio CI: confidence interval 自立歩行の可否 可「0」否「1」 *: 無「0」, 有「1」 † :単位変化量 10%. 図 2 エネルギー充足率をカテゴリー化した多変量ロジスティック回帰分析 control: 100%≦エネルギー充足率 OR: odds ratio CI: confidence interval. 図 3 縦軸をエネルギー充足率,横軸を %IBW とした散布図 %IBW: % ideal body weight. 考   察. 充足率は退院時の自立歩行の可否に影響する因子である ことが示された。.  本研究では COPD 急性増悪患者の栄養状態が,退院.  はじめに,低栄養の有無がなぜ退院時の自立歩行の可. 時の自立歩行の可否に与える影響を調査した。多変量解. 否に影響したかを考察する。本研究では,低栄養の有無. 析の結果,入院時の低栄養の有無と入院後のエネルギー. を% IBW が 80%以下の者を低栄養があると定義してい.

(6) COPD 急性増悪患者の栄養状態が自立歩行に与える影響. る。Wen らは体重と骨格筋量は相関が高いとしており, 体重や身長,年齢などから骨格筋量を推定する式を開発 している。その式によると体重が低いほど骨格筋量は低 12). 171. 本研究の限界と展望  本研究の限界は,後方視的観察研究のため歩行に関連. 。また,低栄養をきたしている COPD 患者. する筋力や骨格筋量,バランス機能などの身体機能項目. の約 18%は骨格筋量の低下や身体機能低下を引き起こ. の調査を行えていないことが挙げられる。加えて,入院. 値を示す. 13). 。つま. 時の呼吸状態や生化学検査値,体重の推移などいずれも. り,% IBW が低値であった COPD 患者は入院前より骨. 栄養状態や骨格筋量に関与してくると考えられるが,詳. 格筋量が低かったことが予測される。そのため,もとも. 細に調査できていない。そのため,考察で述べたように. と低身体機能であった者が急性増悪による入院を契機に. 実際に COPD 患者における栄養障害が骨格筋量や筋力. 身体機能の低下を引き起こすことで,歩行機能が低下し. の低下を招いていたかどうかは明らかではない。リハビ. た可能性が考えられた。. リテーション栄養の概念では,重度の低栄養や不適切な.  次に,エネルギー充足率について考察する。生体反応. 栄養管理のときには,レジスタンストレーニングや持久. として体外からのエネルギー摂取量がエネルギー消費量. 力増強訓練は禁忌とされる. を下回る状態が続くと,肝臓に貯蔵されているグリコー. 視的な研究のため,運動の強度や頻度などは不明である。. ゲンを分解することでエネルギーを産生する。しかし,. 今後の研究では,栄養状態を把握したうえで,レジスタ. 飢餓状態に陥ってから 3 ∼ 4 日後からは筋肉からタンパ. ンストレーニングの強度や頻度,運動療法の種類などを. ク質や脂肪を遊離することでエネルギーを産生するた. 十分に考慮した検討が必要と考えられる。また,本研究. すサルコペニアが併存するとの報告がある. 14)15). 15). 。しかし,本研究は後方. 。そのため,入. では歩行非自立群におけるエネルギー充足率が低下して. 院後 1 週間必要エネルギーが充足しないものは入院経過. いたが,その原因は明らかではない。ひとつの可能性と. 中に骨格筋量が低下していた可能性が考えられる。さら. して歩行非自立群は,自立群と比較すると A-DROP が. に COPD 急性増悪期は感染などの侵襲により安静時に. 高値を示していた。そのため,呼吸困難の増強や嚥下障. 比べ,蛋白異化は助長される。このように COPD 急性. 害,消化管機能の低下などによりエネルギー充足率が低. 増悪で入院した患者は入院後にエネルギー充足率が低値. 下したことが考えられる。しかし,入院前の嚥下機能や. であることで骨格筋量の減少が起こり,自立歩行が困難. 入院時の呼吸困難については調査できていないため,今. になった可能性が考えられた。特に,今回のサブ解析に. 後の検討課題と考える。. おいて特にエネルギー充足率が 60%以下の者で歩行自.  現在,安定期 COPD 患者に対する栄養補給療法と運. 立度との関係に有意差を認めた。理由のひとつとして,. 動療法の併用が,身体組成や骨格筋力の改善に有用と報. 今回の患者別の基礎代謝量を必要エネルギー量で除す. 告されている. と,平均で約 60%となる。そのため,エネルギー充足. 患者における歩行能力の低下を予防するためには,運動. 率 60%以下となると基礎代謝量にも足りず,より蛋白. 療法に加え,栄養補給療法を早期より併用していく必要. 異化が助長された可能性が考えられた。また,大腸癌患. があると考える。しかし,当院では実際に栄養補給療法. 者の周術期の研究ではあるが,術後 10 日間のエネルギー. が実施できている例は少なく,諸外国の報告でも,低栄. 充足率が平均 52%で有意な体重減少と骨格筋量の低下. 養のリスクが高い COPD 急性増悪患者に対する,栄養. め,骨格筋量が減少するとされる. を認めた報告. 16). もあり,本研究も類似した結果を示し. 17). 。そのため,低栄養の COPD 急性増悪. 補給療法の実施率は約 30 ∼ 40% との報告もあり. 18). ,. たと考えられる。. COPD 急性増悪期における栄養補給療法が普及される.  以上のことより,栄養状態が不良の COPD 急性増悪. ことが今後の課題と考えられる。一方,実際には食品の. 患者は通常の理学療法のみを実施していても歩行機能の. 提供のみでは目標とするエネルギー摂取量が得られない. 改善が得られにくいことが示唆された。そのため COPD. 場合も少なくない。そのため,経腸栄養や経静脈栄養な. 急性増悪期の理学療法を実施していくうえでは,まず,. ど強制栄養の併用を医師に提案することも効果的な介入. 入院時の体組成から低栄養の有無を評価することが重要. となりうるかもしれない。栄養補給療法は医師や看護. と考える。また,必要エネルギー量を算出し,患者が適. 師,管理栄養士が主体となって行われる。しかし,今回. 切なエネルギーを得られているのかを把握する必要があ. の結果から,低栄養の患者は運動療法のみでは身体機能. る。本研究では入院直後 1 週間のエネルギー充足率を調. の改善が妨げられる可能性がある。そのため,実際に運. 査しており,入院直後 1 週間までにサブ解析によって得. 動療法を実施する理学療法士が上記のような問題点を捉. られたエネルギー充足率が 60%に満たない者は急性増. え,他職種へ栄養補給療法の必要性を進言していくこと. 悪による入院期間中に自立歩行が困難となる可能性があ. も重要と思われた。. る。そのため,早期より積極的な栄養補給療法介入を検 討することが必要と考える。.

(7) 172. 理学療法学 第 47 巻第 2 号. 結   論  本研究では COPD 急性増悪患者の栄養状態が退院時 における自立歩行の可否に与える影響を調査した。その 結果,入院時の低栄養の有無と入院後のエネルギー充足 率は退院時の歩行自立度に影響する因子であることが示 唆された。以上より COPD 急性増悪期における理学療 法を実施するうえで,栄養状態の評価を行うことや入院 後のエネルギー充足率を把握することは早期からの適切 な栄養補給療法や効果的な運動療法を行うために重要と 考える。 利益相反 峯下昌道:講演料など(日本ベーリンガーインゲルハ イム株式会社) その他の著者:本論文内容に関連して開示すべき利益 相反はない。 文  献 1)日本呼吸器学会 COPD ガイドライン第 4 版作成委員会: COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドラ イン(第 4 版).メディカルビュー社,東京,2013,pp. 99‒101. 2)吉川雅則,山内基雄,他:慢性閉塞性肺疾患(COPD)の 栄養状態および併存症の実態調査.厚生労働省呼吸不全調 査研究班平成 20 年度研究報告書.2009; 247‒251. 3)宮崎慎二郎,宮川哲夫,他:COPD 患者における入院を要 する急性増悪リスク因子の検討.日呼ケアリハ学誌.2016; 26(2): 246‒251. 4)Yoneda T, Yoshikawa M, et al.: Plasma levels of amino acids and hypermetabolism in patients with chronic obstructive pulmonary disease. Nutrition. 2001; 17: 95‒99. 5)Takabatake N, Nakamura H, et al.: Circulating leptin in patients with chronic obstructive pulmonary disease. Am. J Respir Crit Care Med. 1999; 159: 1215‒1219. 6)De Godoy I, Donahoe M, et al.: Elevated TNF-alpha production by peripheral blood monocytes of weight-losing COPD patients. Am J Respir Crit Care Med. 1996; 153(2): 633‒637. 7)御子神由紀子:急性期のリハビリテーション栄養管理.日 静脈経腸栄会誌.2016; 31(4): 955‒958. 8)日本呼吸ケア・リハビリテーション学会:呼吸リハビリ テーションマニュアル─運動療法─(第 2 版) .照林社, 東京,2012,pp. 2‒8. 9)Divo M, Cote C, et al.: Comorbidities and risk of mortality in patients with chronic obstructive pulmonary disease. Am J Respir Crit Care Med. 2012; 186: 155‒161. 10)植木 純,吉見 格,他:慢性閉塞性肺疾患(COPD). 順天堂医学.2002; 48(3): 305‒320. 11)村川勇一,南木伸基,他:当院市中肺炎患者における入院 時栄養状態が ADL 能力に及ぼす影響.日呼ケアリハ学誌. 2017; 27(1): 65‒69. 12)Wen X, Wang M, et al.: Anthropometric equation for estimation of appendicular skeletal muscle mass in Chinese adults. Asia Pac J Nutrition. 2011; 20(4): 551‒556. 13)澤田周也,齋藤泰晴,他:慢性閉塞性肺疾患(COPD)患 者におけるサルコペニアの有病率と栄養状態に関する検 討.日病態栄会誌.2017; 20(4): 325‒332. 14)新井桂子,芝崎 保:飢餓におけるストレス反応.アディ ポサイエンス.2011; 7(3): 206‒212. 15)若林秀隆:リハビリテーション栄養ハンドブック.医歯薬 出版,東京,2010,pp. 12‒50. 16)矢部広樹,塚本美月,他:大腸がん患者の周術期における 体重減少率と身体組成の変化の関係.理学療法科学.2018; 33(4): 605‒609. 17)渡邊 暢,高橋仁美,他:慢性閉塞性肺疾患患者における 呼吸リハビリテーションと栄養療法の併用効果─分岐鎖ア ミノ酸強化経口栄養剤を用いて─.総合リハ.2010; 38(4): 361‒367. 18)Ingadottir AR, Beck AM, et al.: Association of energy and protein intakes with length of stay, readmission and mortality in hospitalised patients with chronic obstructive pulmonary disease. Br J Nutr. 2018; 119: 543‒551.

(8) COPD 急性増悪患者の栄養状態が自立歩行に与える影響. 〈Abstract〉. The Effect of Nutritional Status on Walking Ability at Discharge in Patients with Acute Exacerbations of COPD. Takayuki KOBAYASHI, PT, Shinya MATSUSHIMA, PT, MSc, Shun AIKAWA, PT Department of Rehabilitation Medicine, St. Marianna University School of Medicine Yokohama City Seibu Hospital Hitoshi YOKOYAMA, PT, MSc, Rie TAKEICHI, PT, Yosuke WATANABE, PT, MSc, Atsushi NAKAKUKI, PT Center of Rehabilitation Medicine, St. Marianna University School of Medicine Hospital Shuichi NAKADA, PT Department of Rehabilitation Medicine, Kawasaki Municipal Tama Hospital Yuko KOMASE, MD Department of Respiratory Medicine, St. Marianna University School of Medicine Yokohama City Seibu Hospital Masamichi MINESHITA, MD Department of Respiratory Medicine, St. Marianna University School of Medicine Hospital. Purpose: This retrospective study aimed to clarify the associations between nutritional status and walking ability at discharge in patients with acute exacerbation of chronic obstructive pulmonary disease (AECOPD). Methods: We enrolled 101 patients hospitalized for AECOPD and who underwent physical therapy. Walking ability was assessed by Functional Independence Measure (FIM). The subjects were classified into the independent group (FIM ≥6) and non-independent group (FIM <6) by walking ability at discharge. The presence of malnutrition (% ideal body weight <80%) and adequacy of caloric intake (% estimated target calories: intake/estimated target calories × 100) were examined as indices of nutritional status. Multivariate logistic regression analysis was performed to assess whether nutritional status affected walking ability at discharge (FIM ≥6 or FIM <6) adjusted by age, A-DROP, and severity of airflow obstruction. Results: Despite being independent before hospitalization, 21 patients could not walk independently at discharge, and 31 patients had malnutrition before admission. The average % estimated target calories was 78.7 ± 31.7%. Multiple logistic regression analysis showed presence of malnutrition (OR 3.9, 95% CI 1.3‒11.7, p<0.05) and % estimated target calories (OR 0.7, 95% CI 0.5‒0.9, p<0.05) to be significantly associated with walking ability at discharge. Conclusion: Nutritional status affected walking ability of AECOPD patients at discharge. Therefore, nutritional status should be evaluated when providing effective exercise and adequate nutritional therapy during hospitalization. These findings may imply that oral nutritional supplements should be provided immediately after hospitalization for patients with inadequate caloric intake. Key Words: Acute exacerbation of COPD, Walking ability, Nutritional status. 173.

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