はじめに 本邦の平成 22 年度国民生活基礎調査において,介護が必要 になったおもな原因では,脳卒中が全体の 21.5%を占めてい る1)。脳卒中は運動障害や感覚障害などの機能障害を引き起こ し,QOL(Quality of life)を低下させる2)。下肢機能におい ては,脳卒中患者の約 35%が運動麻痺によって実用的な機能ま で回復することができず,20 ∼ 25%の患者が物理的な介助な しでは歩行することができないとされている3)。一方,上肢に おいてはコペンハーゲン脳卒中研究によると,脳卒中患者のう ち 32%が重度の上肢運動麻痺を呈し,37%は軽度の不全麻痺を 呈すると報告されている4)。また,上肢の機能的な使用に関し ては,完全麻痺者のわずか 5%しか到達できないとの報告もあ る5)。 理学療法士にとって,日常生活活動能力の低下の主要な原因 となる上下肢の運動麻痺の改善は脳卒中リハビリテーションに おいて重要な課題であることはいうまでもない。近年のニュー ロリハビリテーションの発展により,動物実験や脳イメージン グ研究の結果から,脳卒中後機能回復における様々なメカニズ ムがあきらかになりつつある。Krakauer ら6)によるレビュー によれば,動物実験からも発症 1 ヵ月はシナプス可塑性が高め られる重要な時期であり,それには GABA や NMDA などの 神経伝達物質や BDNF といった神経成長因子が重要な関与を 示すことがあきらかにされている。脳卒中からのいわゆる“真 の回復”とは一次的 Impairment である運動麻痺や感覚障害の 改善である。すなわち,損傷半球の大脳皮質の再編であり,再 生である。そこで今一度本邦の臨床に振り返ってみると,今日 までのリハビリテーションは自然回復よりも有意な改善を示し ているのであろうか。少なくとも現在までのエビデンスにおい ては,真の Impairment の改善に関する報告は限られており,
Constraint-induced movement therapy に代表されるようなエビ デンスの高い治療法であっても代償手段の学習による Activity level の改善の部分が大きく,Impairment に対して特異的に有 効であったかどうかは不明である。脳卒中リハビリテーション において,理学療法士は Activity limitation の改善を主たる目標 として治療が展開されるが,その Activity limitation に大きく関 与する運動麻痺の早期改善は,我々にとって大きな命題である。 近年の神経科学の知見やエビデンスを踏まえ,activity limitation の改善のみならず,運動麻痺の改善に向けてのエビデンスを構 築していく必要性が改めて感じられる。 神経リハビリテーションにおける電気刺激の役割 理学療法士が専門とする中枢神経系を変化させるような治 療手段として代表的なものは当然ながら運動療法である。一 方で,他のモダリティーによっても中枢神経系に変化をもた らす報告は数多くされている。そのひとつに,末梢への電気 刺激がある。2002(平成 14)年に発表された McDonald らの n-of-1 研究7)では,C-2 完全脊髄損傷患者に対する長期的な Functional electrical stimulation(FES)とペダリング運動の 組み合わせによって感覚および運動機能が改善したことが示さ れた。後に数多くの研究がなされることになる不全脊髄損傷患 者に対する体重免荷装置によるトレッドミル練習と同様に,こ のようなリズミカルかつパターン化された体性感覚刺激は中枢 神経系の可塑性変化に影響を及ぼすことが完全脊髄損傷者でも 示されたことは非常に意義深い。 一方,脊髄ではなく大脳での再構成に電気刺激はどういった 役割を担うのであろうか。Shin ら8)は慢性期脳卒中患者に対 して筋電誘発型電気刺激を用いたトレーニング前後で機能的磁 気共鳴映像法(以下,fMRI)を用いてその皮質構造変化を追っ た。介入群は 1 回 30 分の手関節背屈筋群への筋電誘発型電気 刺激を 1 日 2 回,週 5 回 10 週間実施し,コントロール群は治 療介入なしとした。その結果,介入群は Box and Block test や 筋力が有意に改善しており,かつ fMRI では,一次感覚運動野 に有意な BOLD 信号の増大が見られ,これらの変化は機能的 能力の変化量と相関していた。これは,損傷対側から損傷同側 へ皮質活動をシフトさせることが,機能的改善に関連するとい う可能性を示唆するものであり,この可塑性変化に電気刺激が 一役を担っていると考えられる。その他,脳卒中患者の運動麻
神経リハビリテーションにおける物理療法と運動療法の新たな治療戦略
*
─末梢神経電気刺激療法と運動療法─
生 野 公 貴
1)2)専門領域研究部会 物理療法 特別セッション「シンポジウム」
*Exercise Therapy Combined with Peripheral Nerve Electrical Stimulation in Neurorehabilitation
1) 医療法人友紘会 西大和リハビリテーション病院リハビリテーショ ン部
(〒 639‒0214 奈良県北葛城郡上牧町上牧 3238‒6)
Koki Ikuno, PT, PhD: Department of Rehabilitation Medicine, Nishiyamato Rehabilitation Hospital
2) 畿央大学大学院健康科学研究科
Koki Ikuno, PT, PhD: Graduate School of Health Science, Kio University
痺の改善を目的に電気刺激による様々な介入が行われており, システマティックレビューにおいても肯定的な報告が多数寄せ られている9)。 末梢神経電気刺激の基礎研究 次に,電気刺激による求心性入力が大脳皮質にどのような影 響を及ぼすのかを解説する。古くから脳卒中患者に対する電気 刺激療法は実施されており,その臨床効果は確かめられてい た。しかしながら,電気刺激が大脳皮質にどういった変化をも たらしているかは研究手法の遅れもあって不明であった。よう やく 1990 年代よりイメージングや経頭蓋磁気刺激など非侵襲 的に脳活動や興奮性を評価できる機器が台頭し,そのメカニズ ムの解明は大きく前進している。現在までに電気刺激による大 脳皮質の変化を調査する様々な研究が実施されている。 近年,Chipchase ら10)は末梢からの電気刺激が経頭蓋磁気 刺激(TMS)を用いて評価した大脳皮質興奮性に与える影響 の系統的レビューをしている。その結果,より長い時間の刺激 は皮質興奮性の持続的な変化を生成する傾向にあったと結論づ けている。刺激周波数や波形による変化を立証するデータは不 十分であり,各研究によって相反する結果もあるが,おおむね 末梢電気刺激により皮質脊髄路の興奮性に影響を与えることは 間違いないようである。刺激強度においては,末梢神経電気刺 激の刺激強度を運動閾値上,あるいは感覚閾値上とした 2 種類 の刺激強度が用いられており,全体的に運動閾値上を用いた研 究が多い。ただし,臨床応用を考えた場合,感覚閾値上刺激は 患者負担が少ないうえ,様々な運動と同期して実施できるた め,その臨床的意義は高いといえる。感覚閾値上刺激を用いた 代表的な研究に Kaelin-Lang ら11)の報告がある。彼らは尺骨 神経に 2 時間の感覚電気刺激を行った。その結果,刺激 2 時間 前後で尺骨神経領域である小指外転筋の運動誘発電位(MEP) が有意に増大していた。電気生理学的な検討以外に,Wu ら12) は脳イメージング法を用いて末梢神経電気刺激の効果を検証し ており,Kaelin-Lang らと同様の刺激パラメータにて正中神経 に 2 時間電気刺激を行い,その前後で母指屈曲伸展運動時の血 流を測定した。また,比較検討群として,刺激なし群と三角筋 刺激群を設けて,その効果の違いを検討した。その結果,刺激 前後で正中神経群のみ一次運動野,一次感覚野,背側運動前野 が有意に活性化し,介入後その領域が拡大していた。つまり, 正中神経への末梢神経電気刺激により一次感覚野の他の再現領 域に母指の体部位再現が広がっており,この可塑性変化は感覚 入力が運動再現に短期的な影響を与えたことを示していると考 えられる。 これら末梢神経電気刺激による可塑性変化のメカニズムにつ いては不明な点も多いが,現在のところ GABA 抑制の脱抑制 によるもの,アンマスキング効果,長期増強様効果などが考察 されている。この生理学的変化を治療に応用したのが,末梢神 経電気刺激療法である。 末梢神経電気刺激の臨床研究 我々は,現在まで脳卒中患者の上肢機能障害に応用されて いる末梢神経刺激療法について系統的レビューを実施した13)。 まずはじめに実施されたのは,Conforto ら14)による研究であ る。彼らは,8 名の慢性期脳卒中患者に対して麻痺側手関節部 に電極を貼付し,正中神経への 2 時間の電気刺激を行った。刺 激強度は,痛みがなく支配神経領域に感覚異常を感じる程度 とし,パルス幅 1 ms の 5 連パルス(パルス周波数 10 Hz)を 1 Hz で実施した。コントロール条件として感覚閾値以下強度 の電気刺激を行った。その結果,正中神経刺激条件前後で有意 にピンチ力が増大していた。この研究を切り口とし,現在まで 脳卒中患者に対する末梢神経電気刺激による使用に依存した脳 の可塑性変化15),手指機能の改善16),リーチ速度の改善17) が報告されている。感覚強度の末梢神経電気刺激の最大の長所 は運動療法を併用できる点にある。電気刺激単独でもパフォー マンスの変化は生じるが,運動療法と組み合わせることでそ の治療効果は増幅する可能性は容易に想像できる。そこで, Celnik ら18)は脳卒中患者に対し,末梢神経電気刺激と課題志 向型練習の組み合わせ効果をランダム化クロスオーバー試験に て調査した。その結果,末梢神経電気刺激なし群と比較して上 肢機能が有意に改善したことを報告した。この研究は,末梢神 経電気刺激が課題志向型練習による運動学習効果を促進し,上 肢機能の改善が少なくとも 24 時間は持続することを示した興 味深い報告である。これらの先行研究から,末梢神経電気刺激 は脳卒中後の上肢機能障害に対する新たな物理療法として有益 である可能性が高く,積極的に臨床応用されるべきであると考 えられる。 しかしながら,先行研究では末梢神経電気刺激と課題志向型 練習の併用治療による即時効果に関する報告が多く,複数回 セッションによる短期および長期効果や臨床環境での実践報告 はなかった。また,先行研究のほとんどは 2 時間の末梢神経電 気刺激を実施しており,臨床応用を考えた場合に本邦の医療制 度上実施困難となる可能性があった。そこで我々は,刺激時間 を短縮した 1 時間の末梢神経電気刺激が即時的に上肢機能を改 善させるかを多重ベースライン法にて調査した19)。多重ベー スラインのベースラインには電極を貼るのみで電気を流さな い Sham 期を用い,その Sham 期の日数をずらして末梢神経電 気刺激の即時効果を検証した。その結果,3 症例のうち 2 症例 で末梢神経電気刺激後に有意に上肢機能の改善を認め,刺激後 24 時間後もその改善を維持していることを確認した。 我々の研究結果や先行研究からも末梢神経電気刺激は即時的 にパフォーマンスを改善させる可能性が考えられるが,臨床で は永続的なパフォーマンスの変化が治療目標になるため,併用 する運動療法の選択も重要である。そこで,現在の神経科学 や臨床のエビデンスに基づき,末梢神経電気刺激と合わせる べき運動療法は課題志向型練習を基盤とした。課題志向型練 習 1 セッションの課題運動反復回数は 300 回(約 1 時間)を目 安とした20)。その他の課題志向型練習の要素として「明確な ゴール設定」や「漸増負荷および段階的使用」,「フィードバッ クや動機づけ」を加えて21),かつ Wolf ら22)の Constraint-induced movement therapy の治療コンセプトを参考にした。 この 1 時間の末梢神経電気刺激と課題志向型練習の併用治療プ ログラムの複数回セッション(1 週間週 6 日)の臨床実用性を 検証するために,まずは AB デザインによる単一症例研究を
行った23)。標準的な理学療法および作業療法に追加して,A 期には 1 日 60 分の課題志向型練習を週 6 日行い,B 期には課 題志向型練習と同時に末梢神経電気刺激を実施した併用治療を 同じく週 6 日実施した。その結果,維持期ながら約 15%の簡 易上肢機能検査(STEF)の改善と Perdue Pegboard Test の 改善を認めた。 これらの結果を基に,本邦で実現可能なプログラムの有効 性を検証するため,回復期脳卒中患者を対象としたランダム 化クロスオーバー試験を実施した24)。対象は回復期脳卒中患 者 22 名とし,対象者を先行介入群と遅延介入群の 2 群にラン ダムに割りつけた。先行介入群はまず末梢神経電気刺激と課題 志向型練習の併用治療を 1 週間週 6 回行い,次に課題志向型練 習のみを 1 週間週 6 回行うこととし,遅延介入群はその治療順 序を逆にした。末梢神経電気刺激には Intelect mobile combo (Chattanooga 社製)を用いた。電気刺激波形は非対称性二相 性パルスを用い,パルス時間 1 ms,周波数 10 Hz,50%デュー ティーサイクルとした。刺激強度は感覚閾値とし,5 cm 四 方の自着性電極を用いて麻痺側手関節部の正中および尺骨神 経に 1 時間刺激した。末梢神経電気刺激は,課題志向型練習 に併用して同時に実施した。課題志向型練習は,前述の通り Constraint-induced movement therapy に用いられるような機 能的課題を用い22),課題難易度は対象者の能力に合わせて漸 増させながら 1 時間行った。評価項目は,Wolf motor function test(以下,WMFT)平均時間と Functional 5 Ability Scale(以 下,FAS),Box and Block Test(以下,BBT),握力,ピンチ 力,治療の疲労度(Visual analog scale を用いた)とし,介入 前,1 週後,2 週後に評価した。結果,全対象者はすべてのプ ロトコルを完了し,副作用はなかった。介入前評価ではすべて の評価で 2 群間に有意な差はなかった。群間比較では,介入前 から1週後評価において,先行群が遅延群よりも WMFT 時間 が減少した傾向にあったが,多重比較後の有意差は認めなかっ た(P = 0.041)。群内比較では,先行群は WMFT 平均時間と FAS,BBT において,介入前と 1 週間後に有意な改善を認め(P < 0.01),遅延群では WMFT 平均時間と BBT が 1 週後と 2 週 後に有意な改善を認めた(P < 0.01)。握力,ピンチ力に有意 な差は認めなかった。本研究の結果から,本末梢感覚神経刺激 の治療プロトコルは,副作用の報告はなく,かつ脱落者もいな かったことから,入院リハビリテーションにおいて実現可能で 患者の受け入れもよい治療であったといえる。群間比較と群内 比較の結果から,末梢感覚神経刺激と課題志向型練習の併用治 療は,課題志向型練習単独よりも治療効果が高い可能性が考え られた。しかしながら,サンプルサイズが少ないことと評価者 がマスク化されていないこと,長期間のフォローアップを含ん でいないことなど,本研究にはいくつかの限界を含んでいる。 本研究結果から,治療効果の決定に必要なサンプル数は治療群 および統制群それぞれ 20 例と算出され,今後良質なデザイン での大規模なランダム化比較対照試験が必要であると考えて いる。 一方で,この末梢神経電気刺激の適応については不明確であ り,今後さらなる研究が必要である。我々は末梢神経電気刺激 による感覚障害改善の可能性を探るべく,重度感覚障害を呈す る脳卒中患者 1 症例に末梢神経電気刺激と課題志向型練習の併 用治療を実施した25)。対象は,脳幹出血および小脳梗塞発症 から 11 ヵ月経過した 60 代女性であった。主訴は「左手が震 えて使いにくい」であった。左上肢の Brunnstrom recovery stage(BRS)は上肢Ⅴ,手指Ⅴであった。おもに左半身の表 在感覚中等度鈍麻,深部感覚重度鈍麻と異常感覚を認めてお り,感覚性の運動失調を呈していた。左手は補助手として使用 可能であったが,薬の袋の封を開けるなどの巧緻動作の不自由 さを訴えていた。研究デザインには,シングルケーススタディ の ABA デザインを用い,基礎水準期(A 期)は課題志向型練 習のみ 1 日 1 時間を 3 週間,操作導入期(B 期)は課題志向型 練習と同時に末梢神経電気刺激を 1 日 1 時間 3 週間,撤回期 (A2 期)は課題志向型練習のみを 1 日 1 時間で 3 週間,それぞ れ週 5 回の頻度で治療を実施した。電気刺激方法は前述と同じ 方法であるが,感覚障害が重度であったため,筋収縮が生じる 運動閾値以下の強度(約 5 mA)で実施した。上肢機能検査と しては,WMFT,Jebsen-Taylor Hand Function Test(以下, JTHFT)を用いた。感覚検査としては,Semmes-Weinstein monofi lament(以下,SW)を用い,正中,尺骨,橈骨神経領 域の表在感覚を評価した。各評価は,毎週測定を行い,SW の み B 期より測定した。A 期前,B 期前,B 期後,A2 期後の各 評価の結果を表1に示す。B 期前後で WMFT は 22.8 秒の改 善を認め,特にペンやクリップの把持といった巧緻動作を要す る課題で変化が認められた。JTHFT では 9.5 秒の改善を認め, スプーンでの豆すくい,カードめくり,チェッカーの積み上げ の 3 つの課題のうち,チェッカー積みで特に変化が認められた。 両パフォーマンステストともに A2 期においても改善を維持し ていた。驚くべきことに,SW は B 期前後に正中神経領域で不 可から 3.84,尺骨神経領域で 6.10 から 3.84,橈骨神経領域で 6.45 から 3.84 へ感覚閾値の低下を認めた。また,B 期中には,電 気刺激を知覚可能な閾値が約 5.0 mA から 4.5 mA に減少した。 さらに,B 期 2 週目に「震えがましになった」「薬の袋が開け やすくなった」といった内省報告も得られた。本研究は臨床的 アウトカムしか測定していないため,その改善メカニズムは不 明であったが,末梢神経電気刺激と課題志向型練習の併用治療 によって感覚障害の改善の可能性を示した初の報告である。さ らに興味深いことに,今回直接刺激していない橈骨神経支配領 域においても感覚改善を認めた。多発性硬化症患者に対する先 行研究26)においても同様の結果を示しており,末梢神経電気 表 1 各評価の結果 A 期前 B 期前 B 期後 A2 期後 WMFT(s) 56.5 66.7 43.9 44.8 JTHFT(s) 50.1 47.8 38.3 39 SW(log force) 正中神経 未実施 不可 3.84 3.22 尺骨神経 未実施 6.1 3.84 3.61 橈骨神経 未実施 6.45 3.84 3.61 WMFT: Wolf Motor Function Test, JTHFT: Jebsen-Taylor Hand Function Test, SW: Semmes-Weinstein monofi lament
刺激による正中および尺骨神経領域の活性化がなんらかの要因 で他の隣接する領域へ波及された可能性が考えられる。 我々の研究を含む脳卒中患者の上肢機能障害に対する末梢神 経電気刺激の臨床研究の要約と課題を図 1 にまとめる。これら 問題点を解決するためのさらなる研究が待たれる。 今後の展望 我々は上肢機能障害に対する研究を基に,下肢への応用を試 みている。現在,下肢の運動としてペダリング運動を用いた末 梢神経電気刺激との併用治療の効果を確認するため多施設共同 ランダム化比較対照試験を展開している。その他,今はまだ研 究段階ではあるが,新たな治療法との併用として経頭蓋直流刺 激と末梢神経電気刺激の併用を試みている。ロボットアームや Brain Machine Interface など近年の技術革新により様々な機 器による治療法が台頭してきており,これらはすべて大脳皮質 の可塑性変化を誘導する目的で実施されている。これら最新の 種々のモダリティーとも末梢神経電気刺激は併用可能であり, また対費用効果という点でも有用である可能性を秘めている。 末梢神経感覚刺激の利点について図 2 にまとめる。 しかしながら,いずれにせよ種々の治療において重要なこと は臨床的関連性の明確化である。臨床家にとって根拠に基づい た理学療法(以下,EBPT)の実践は今後さらに重要視される であろう。その EBPT の要素でもある患者中心のアウトカム の設定とその改善は、臨床上もっとも関心の高い事柄のひとつ である。そのアウトカムの改善が介入によって真に変化したと いえるのか,また患者にとって意味のある変化であったのか を判定するために Minimal Detectable Change(以下,MDC) と Minimal Clinically Important Diff erence(以下,MCID)と いう指標がある27)。臨床家はこれらの指標を基に,介入結果 を客観的に吟味し,さらなる評価および治療へ展開していく過 程が必要とされる。末梢神経電気刺激においてもこの MDC と MCID を超える変化であったかどうかを真摯に検討する必要が ある。先の我々の研究結果では WMFT において MDC は超え ていたものの,MCID には到達していなかった。よりよい結果 を目指して,末梢神経電気刺激の方法論やその組み合わせ方法 などさらに詳細に検討していく必要がある。 おわりに 医学的な脳卒中リハビリテーションにおける課題は,早期の 運動麻痺などの Impairment の改善と回復期における早期の動 作能力 Activity(リーチ動作,操作,歩行,バランス,ADL) の改善である。末梢神経電気刺激の方法は多様であり,エビデ ンスは相反しているものもあるが,刺激パラメータにより生理 学的効果が異なる可能性があるため,目的・病期・障害に応じ 図 2 末梢神経電気刺激療法の利点 図 1 脳卒中患者の上肢機能障害に対する感覚強度の末梢神経電気 刺激の臨床研究レビューの結果
て使い分ける必要がある。現在までのエビデンスから,末梢神 経感覚刺激は運動療法と併用することで,可塑性変化を誘導 し,学習効果を高める可能性がある。つまり,電気刺激はむし ろ運動療法の補助ツールとして捉えるべきであり,対象者の問 題点に合わせて柔軟に電気刺激のパラメータを設定していく必 要がある。今後は,臨床的関連性を考慮し,他の治療法との臨 床効果の差異,実現可能性,対費用効果などをあきらかにする ための質のよい研究が求められる。 文 献 1) 厚 生 労 働 省 ホ ー ム ペ ー ジ 平 成 22 年 国 民 生 活 基 礎 調 査 の 概 況. http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa10/ (2013 年 6 月 30 日引用)
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