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抑うつ症状に対するコーピング・レパートリーの奏功機序: ネットワーク分析による解析

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Academic year: 2021

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日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-41 378

-抑うつ症状に対するコーピング・レパートリーの奏功機序:

ネットワーク分析による解析

○宗田 卓史、佐々木 淳 大阪大学人間科学研究科 背景と目的 コーピング・レパートリーとは,個人が利用可能な コーピング方略の数のことである。従来のコーピング 研究では,ある特定の状況においては特定の方略が効 果的であるという主張が多かった。つまり,現実場面 では,状況によって効果的なコーピングは動的に変化 し,複数の状況に対処しなければならないため,スト レスに効果的に対処するためには,多くのコーピング を身に着けることが重要であると指摘されてきた。そ のため,コーピング・レパートリーの効果を示した調 査研究やコーピング・レパートリーを増やす実践上の 試みがなされてきた。 コーピング・レパートリーの重要性が認識される一 方,コーピングの柔軟性研究から異なる意見が示され ている。Kato(2012)は,コーピング・レパートリー よりも,状況の把握,対処に尽力する際のモニタリン グ,対処した結果の評価のようなメタ・コーピングの 方が重要だと主張している。同時に,Kato(2012)は, メタ・コーピングが,個々のコーピング方略の効果を 統制した後でも抑うつの得点を有意に説明することを 示した。Kato(2012)の結果から,コーピング・レパー トリーの精神的健康に対する効果は小さく,コーピン グ・レパートリーよりもメタ・コーピングなどコーピ ングを使い分ける能力が精神的健康に対してより効果 的であると考えられる。さらに,個々のコーピングに も,効果的・非効果的なコーピング方略が存在するこ とを踏まえるならば,実際にはコーピング・レパート リーの大小は精神的健康とは直接的には関係せず,利 用されたコーピング方略が効果的だと精神的健康が高 まるとも推測することができる。 先行研究は,コーピング・レパートリーとメタ・ コーピングの効果を比較するにとどまっていた。本研 究は,抑うつ症状に対するコーピング・レパートリー の効果が,効果的なコーピング方略やメタ・コーピン グを媒介した間接効果であることを検証することを目 的とする。本研究によって効果的なコーピング方略, コーピング・レパートリー,メタ・コーピングといっ た種々の変数間の関係性が明確になれば,介入時の目 標変数がより明らかになる可能性がある。 間接効果を検討する際,重回帰分析や媒介分析を用 いることが多い。しかし,重回帰分析には媒介変数や 独立変数同士の関係を分析できないという点,媒介分 析には独立変数や媒介変数の数が多くなった際,検討 すべきモデルの数が指数関数的に増加するという点な どが問題として挙げられる。そこで本研究では,解析 手法としてグラフィカルlasso(廣瀬,2018)を用いる。 この手法は,影響の小さいパラメータをゼロに縮約し つつパラメータを推定することで,多数の変数間の偏 相関係数のゼロ・非ゼロパターンを推定する方法であ る。そのため,変数の数が多くても変数の直接的・間 接的な関連を検討することが可能となる。 方法 対象者と手続き 対象者は大学生109名(女性66名, 男性43名,平均年齢20.257±1.279歳)である。入門 的な心理学の講義において,集団形式の質問紙調査を 行った。 測 度  う つ 病 自 己 評 価 尺 度(S D S),C o p i n g Flexibility Scale(CFS),Brief COPEを用いた。SDS (20項目 4 件法)は,抑うつ症状の程度を測定する。 先行研究では,SDSは 3 因子構造(認知,感情,身体 症状)に分かれるとされる。異なるコーピング方略は 異なる因子に影響を与えると考えられたため,SDSは 下位因子ごとに分析を行った。CFS(10項目 4 件法) は,効果的でないコーピングの利用を断念(評価コー ピング)し,新たなコーピングを実行(適応コーピン グ)することが重要だとする理論に基づき,メタ・ コ ー ピ ン グ( コ ー ピ ン グ の 柔 軟 性 ) を 測 定 す る。 Brief COPE(28項目 4 件法)は,14種類のコーピング 方略を測定する。コーピング・レパートリーの算出に は,Brief COPEにおいて,中央値を超えるコーピング 方略の個数を用いた。 倫理的配慮 本研究は,大阪大学人間科学研究科教 育学系研究倫理委員会の承認を得た上で実施された (2017年11月30日。承認番号: 17070)。調査に際して は協力者のインフォームド・コンセントを得た。 分 析 方 法  解 析 に は, 統 計 解 析 ソ フ ト R (ver.3.4.3)を使用した。グラフィカルlassoの実装 にはglassoパッケージ(ver.1.8)およびqgraphパッ ケージ(ver.1.4.4)を用い,モデルの選択基準は拡 張BICとした。 結果と考察 コーピング・レパートリーと抑うつ症状の相関につ

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日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-41 379 -いて,SDS認知因子のみが有意な負の相関を示した(r = -.262, p < .01)。SDSの合計得点および下位因 子,CFS合計得点および下位因子,Brief COPEにおけ る14のコーピング方略,コーピング・レパートリーを 変数としてグラフィカルlassoによる解析を行った (Figure1)。図中の線分は,結ばれた変数以外のすべ ての変数で統制した際の,該当の変数間の偏相関係数 が,ゼロでないことを示している。すなわち,変数間 に線分がある場合,該当の変数には直接的な関係が存 在することを示している。偏相関係数は,実線の場合 は正の値を,破線の場合は負の値をとる。Figure1か ら,SDS合計得点やSDS下位因子とコーピング・レパー トリーとの間に直接的な関係は認められなかった。 コーピング・レパートリーは,積極的コーピングなど のコーピング方略を介してSDS合計得点やSDS認知因子 と関連した。また,コーピング・レパートリーはCFS の下位因子である評価コーピングと直接的な関連を示 す一方,評価コーピングはSDS合計やSDS下位因子と直 接的な関係はなかった。CFS合計や適応コーピングは SDS認知因子と直接的に関連していた。 これらの結果から,抑うつ症状に対して,コーピン グ・レパートリーという量の側面は他の変数を介した 間接効果であり,コーピングが効果的であるかどう か,効果的なコーピングを選択できるかどうかという 質の側面が,直接的な効果を有することが示唆され た。コーピング・レパートリーを増やすという介入に は,介入方針として導入しやすく,試行錯誤によって 抑うつ症状に対して効果的な方略を身につけられると いう意義が存在すると思われる。しかしながら,本研 究の結果からは,効果的なコーピング方略の獲得およ び状況に応じて効果的なコーピングを選択する能力の 涵養を主眼に介入するほうが抑うつ症状に対して直接 的な影響を及ぼすことが示唆された。今後は縦断研究 を行い,変数間の因果関係をより明確にする必要があ るほか,効果的なコーピング方略が個人や状況によっ て異なる可能性を考慮した研究も必要だと考えられ る。 主要引用文献 廣瀬 慧(2018).多変量解析におけるスパース推定 川野 秀一・松井 秀俊・廣瀬 慧,スパース推定法に おける統計モデリング(pp.105-136)共立出版 Kato, T.(2012).Development of the Coping Flexibility Scale: Evidence for the coping flexibility hypothesis. J. Couns. Psychol., 59 ( 2 ), 262-273.

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