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―愛知教育大学附属名古屋中学校におけるグループ活動での利用を中心に―
愛知教育大学 飯島康之 抄録 GC/html5 は,HTML5 + JavaScript によって開発した作図ツールであり,PC,iPad,Android など多くの機器で動作す る。本稿では,iPad 上で GC/html5 を利用した実践例について,(1)5 分間程度の利用,(2)操作と話し合い活動を重視した 実践,(3)2 時間構成の多様な探究に関して報告した。これらを含めて多くの実践では,グループの中での話し合いの活性化を 重視して,4 人で 1 台の iPad を使ったが,話し合いが活性化する点でも,ワークシートなど紙上の作業を邪魔しない点でも有 益であった。今後のタブレット利用において,このようなグループの中での話し合い活動は重視していくべきと考える。 ◎キーワード iPad,グループ活動,図形指導,作図ツール,動的幾何Classroom activities using dynamic geometry software GC/html5 with iPad
Yasuyuki Iijima Abstract
GC/html5 is one of dynamic geometry software, which is developed based upon HTML5 & JavaScript. We made some lesson studies using GC/html5 with iPad. In this paper, three kinds of classroom activities are reported; (1) 5 minutes use of it, (2) experiments and discussion and (3) diverse investigations. In each group, four students used one iPad and it was adequate for their cooperative experiments and discussions.
Keywords: iPad, dynamic geometry software, group activity
1
はじめに
作図ツールあるいは動的幾何ソフトというジャンルの ソフトは,1990 年代から教育現場で利用されており, 数学教育の中では定番のソフトの一つといえる。近年の iPad の登場は,これらの授業実践に新しい流れを生み 出しつつある。本稿では,筆者が開発した GC/html5[1] を取り上げ,その開発の背景を素描しつつ,GC/html5 の特徴とそれを使った実践例についてまとめることにし たい。2
作図ツール GC/html5 開発までの経緯
2.1
1990 年代のコンピュータ室での探究的な利用 作 図 ツ ー ル あ る い は 動 的 幾 何 ソ フ ト(dynamic geometry software)のジャンルは,Yerushalmy ら[2]の Geometric Supposer に始まると言ってよいであろうが, マウスやキーボードで「動かす」ことができるようにな っ た の は,1980 年 代 末 以 降 で あ る。世 界 的 に は cabri[3],Geometer's SketchPad[4]が代表的であり,国内では筆者が開発した Geometric Constructor(GC/DO S(1989)[5],GC/Win(1997)[6],以下これらに GC/J ava,GC/html5 を加え,それらを総称して GC と略す) などが代表的だった。この時期は,コンピュータ室での 探究的な利用が中心だった[7,8]。
2.2
2000 年代の普通教室でのプレゼン的な利用 2002 年からの学習指導要領下では,中学校数学の時 間数と内容の削減や基礎・基本重視に伴い,1990 年代 のような使い方は激減した。一方で,ミレニアムプロジ ェクト等によって,学校教育でのコンピュータ利用の方 向性は従来のコンピュータ室での利用から普通教室での (デジタル教科書等を使った)プレゼン的な利用に変わ った。GC に関する研究も,教科書準拠コンテンツ等で の利用を想定した GC/Java の開発や,コンテンツの開 発,それらを使った授業実践の研究に移行した[9]。2.3
2008 年以降のネットブックでの利用 プレゼン的な利用での教育実践では,問題提示等を GC を使って行い,実際の問題解決は従来の道具,つま り紙と鉛筆等を使って行い,議論や検証等において, GC を使うというスタンスでの実践が中心であった。一 方,いわゆるネットブックの登場は,普通教室での探究 的な授業の可能性を実感させるものであり,2008 年以 降,いくつかの研究授業を行った。その結果,1990 年 代に行った探究的な授業を普通教室の中で実施可能だと いう手応えを得ると共に,いくつかの問題点も明らかに なった。特にネットブックは低価格とはいえ,本質的に は通常の PC と変わらないため,起動時に時間のロスが 連絡先:[email protected]Fig. 1 GC/html5 発生するリスクが高い点や,管理面での人的コストの高 さの問題などが明らかになった[10]。
2.4
iPad の登場のインパクトと GC/html5 の開発 2010 年の iPad の登場は衝撃的だった。ネットブック での問題点が解消されることを実感するとともに,近未 来の生徒用端末がおそらくこの形に変わっていくであろ うことを実感した[11]。また,飯島は,開発前の期待と して,ネットブックに関する次の問題点が解消されるこ とを挙げている[12]。 (a)起動が遅い。あるいは,生徒が間違って(電源スイ ッチを長押しして)再起動してしまう。 (b)覗き込める方向が限定される。机上にフラットに 置くならば,周り中から観察できる。 (c)マウスの制御は一人に限定される。タッチパネル なら,多くの生徒が手を出せる。 (d)指で動かす方が自然な感じがする。 一方,iPad では windows アプリケーションのみなら ず,flash も Java も動作しないため,ソフトの新規開発 が必要になることが問題点だった。教育用のタブレット としては,iPad 以外にも windows などが想定されるこ とを考え,新規開発は,HTML5 + JavaScript で行うこ とにした。2010 年内に試作版を開発し,2011 年 1 月に 最初の研究授業を行った。2011 年にはビューア版を, 2012 年には正規版に至るとともに,研究授業も重ねて いった。3
GC/html5 の特徴
GC/html5 の最も基本的なコンセプトは,HTML5 + JavaScript という手法によって,GC/Win とほぼ同等の 機能を実現する作図ツールである。つまり,「変数,点, 線(直線,線分,半直線),円」を扱う幾何的対象とし, 図形を,いくつかの点をもとに,作図手続きや測定によ って階層的に構成されるものとして作図することがで き,元にする点を動かすことによって,図形全体がどう 変わるのか,変わらないのかを探究したり,軌跡を調べ たりすることができるソフトである(Fig. 1)。 HTML5 + JavaScript によって開発しているので, PC,iPad,Android など,多くの機器で単一のソフト が動作する上,html ファイルなので,インストールの 作業は不要である。また,マルチタッチに対応している ので,iPad のような機器で使う場合には,複数の点を 同時に動かすことができる。4
実践例
4.1
基本的なスタイル(4 人 1 台での話し合い重視) 2010 年末から,愛知教育大学附属名古屋中学校を中 心に,iPad 上で作図ツール GC/html5 を使った実践を行 ってきたが,そのスタイルはほぼ共通している。多くの 場合,4 人 1 台で使っている。4 つの机を Fig. 3 や Fig. 8 のように合わせ,その中央に iPad を配置する。話し 合いを活性化すると同時に,ノートやワークシートを机 上に置いても邪魔にならないことも重視している。デジ タル的に対処できることでも,アナログ的に対処するこ とが多い。たとえば,点のプロットは GC/html5 の記録 機能を使うこともできるが,iPad 上に OHP シートをの せ,書き込む方法を使うことも多い。生徒の画面の提示 は,iPad をプロジェクタ等に直接接続するのではなく, 実物投影機を使うことが多い。指による操作の様子など も反映するためである。提示用に電子黒板を使うことも あるが,プロジェクタで黒板に投影することが多い。チ ョークで印や証明を書き込むことを重視するからだ。 事前に使うページを表示した状態でスリープモードに しておき,それを配布したときにカバーを開けてそのま ま使うスタイルで配布することが多い。附属学校での実 践では,web サーバ上にオンライン保存したデータに 直接アクセスすることが多いが,公立学校で実践する場 合 に は,校 内 LAN を 使 え な い こ と が 多 い の で, dropBox や Documents by Readdle,iCould などを使っ て事前にデータをそれぞれの機器に配信しておき,授業 中はオフラインで使うことが多い。4.2
グループ活動の中で 5 分間程度の利用 (1)研究授業のコンセプト 最初の実践(鈴木幸浩教諭,愛知教育大学附属名古屋 中学校,2011/1/27)で目指したのは,「普段の授業の中 で気軽に使える」ことであった。必要なときにサッと配 布してサクッと使い,必要がなくなったらサッとしま う。他の教具であれば当たり前に行えていることを行えてこそ,普段の授業の中で日常的に使える機器になるは ずだと思ったからである。そして,ネットブックでの実 践は,そこでの困難点を示していて,特別な授業でなけ れば実践は難しいことを示していたからである。そのた め,研究授業で設定した目標は,「(機器の配布等も含め て)5 分間程度に限定した実践」であった[13]。 (2)問題と活動の様子 問題 : 台形の畑を,村長と鈴木くんが図(Fig. 2)のよ うな境界線で使っています。今の境界線では使 いにくいので,二人の土地の面積を変えないよ うに,境界線の引き直しをしたいと思います。 電子黒板を使って,点を動かすと面積が測定されるこ とを提示し,まず一点 E だけを動かすことにした。 Fig. 2 畑の境界線 面積が 100 になる場所を見付け,その点を OHP シー トの上にプロットする(Fig. 3)。気づくことはないか。
Fig. 3 iPad 上の OHP シートに書き込む
この活動で特徴的なのは,Fig. 3 のように,iPad の周 りに生徒が集まり,顔を寄せることによって,協力や話 し合いがしやすい雰囲気になった点である。その後, シートを実物投影機で提示し,複数のグループのシート を重ね,直線になること,より正確には点 E を通って GH に平行な線分になることを確認し,その後の証明へ とつなげていった。ここでの,機器の配布・プロット・ 収集・実物投影機での提示までの時間が約 5 分間だっ た。 (3)紙や黒板での活動 GC を使った活動で得られた線分の上なら面積は 100 になるのか,その中ではどの境界線が有力か,他の点も 動かしていいなら,どういう境界線が候補になりうるか などについて検討した。これらの問題を考える場面で は,iPad は使わず,Fig. 4 のように板書や紙(ワーク シート)を中心に使った。証明を考えるには,補助線な どに関する静的な図を使った思考の方が適切だからであ る。 Fig. 4 ワークシートや黒板を利用 (4)考察 本課題を含めて 2 つの課題に関して,のべ 10 時間ほ ど「5 分間の利用」の授業を行った。どの授業もほぼ円 滑に実施できた。特にネットブックのときのようなトラ ブルは一切発生せず,十分に実用的であることがわかっ た。同時に,5 分程度に限定するには,どういう場面の みで GC を使うかという割り切りが重要であるととも に,黒板やワークシートでの活動を授業の中心に位置づ けていくことが大切であることがわかった。
4.3
操作と話し合い活動を重視した実践 (1)研究授業のコンセプト 次に取り上げるのは,2011/10/7 に愛知教育大学附属 名古屋中学校で鈴木幸浩教諭が行った公開授業である。 前述の 2011/1/27 の実践を振り返ったとき,生徒の操作 や話し合いなど,iPad を生かした時間を増やした授業 への志向性が高まった。そのような研究授業を行うため の教材開発の視点として,マルチタッチの特徴を生かし た「複数の点を動かす動かし方」に注目した。これを取 り上げることによって,グループの中での試行錯誤や話 し合いを活性化することを目指した。 (2)問題と解答例 問題 : 四角形 ABCD の 4 辺の中点をそれぞれ E,F, G,H とし,それらを結んで四角形 EFGH をつ くった。 ABCD が正方形のとき,EFGH は正方形になる。 (a)A〜D 中の 2 点を同時に動かしても,EFGH は常 に正方形のままというような動かし方を見つけよ。 (b)A〜D の 4 点を同時に動かしても,EFGH は動か ないというような動かし方を見つけよ。 10/7 の公開授業までに,またその後も多くの場面で, 中学校の先生方や大学生などにこの問題を提示してきた が,即答できる方はほとんどいなくて,実際に操作しな がらいろいろなことを発見し,その内容や理由に関して 話し合いが生まれることの多い課題だった。 前者の代表的な解答は,向かい合う 2 点をつかまえてFig. 7 複数の点の動かし方の提示 同じ方向に移動するもの(Fig. 5 左)と,隣り合う 2 点を つかまえて,いわば対角線方向に同じ距離だけ移動する もの(Fig. 5 右)がある。 Fig. 5 正方形を保つ二つの動かし方 後者の答えとしては,左右の隣り合う 2 組(AB と DC)を Fig. 6 左のように対称に動かす動かし方や,向か い合う 2 組(BD と AC)と考えて,Fig. 6 右のように BD の動きとは反対に AC を動かし,動きをキャンセルしあ うものがある。 Fig. 6 正方形の位置を変えない二つの動かし方 この実践の中で直接扱う問題は,「ABCD が正方形で ない場合でも,EFGH が正方形になる場合はあるだろう か」という投げかけに始まり,生徒の動かし方に注目す ることで,間接的に上記の問題に触れることにした。 (3)授業の様子 2011/10/7 の公開授業に先立ち,前時に一般的な場合 に関して,中点連結定理を使って「EFGH はいつも平行 四辺形になる」ことを証明しておいた。当日はそれを確 認した上で,次のようなやりとりになった。 先生 : 外側の四角形を長方形にすると,内側の四角形 はどんな形になるだろうか。 生徒 : ひし形。 先生 : 本当かな。じゃあ,iPad で確認してみてくだ さい。 こうして,外側(ABCD)が長方形になる場合について 確認した。そして,その場で,「iPad では,こういうこ ともできるんだよ」と,四角形 ABCD の 4 つの頂点を つかまえ,四角形全体をグルッと回して一度に複数の点 を動かせることを実物投影機によって示した(Fig. 7)。 そして,外側(ABCD)がひし形,正方形の場合に内側 (EFGH)がどういう形になるかを確認した。 先生 : 次に何をするでしょう。 生徒 : …。(沈黙) 調べるべき四角形の種類が出尽くしてしまったから生 徒たちは沈黙してしまったのだ。それを踏まえて鈴木先 生は次のように続けた。 先生 : 今,外側が正方形のとき内側が正方形になった けど,外側が正方形以外で,内側を正方形にす ることってできるかな。ちょっと試してみて。 それぞれのグループでいろいろな活動が始まった。 iPad の上に OHP シートを置いて自由に書き込みながら 話し合うグループ。紙の上にスケッチを書いて議論をす るグループ。四角形の頂点をこう動かすと,ここがこう 動くというような動きを手で表現しながら話し合うグ ループ。Fig. 8 のように,iPad の操作に関心があるとき には,4 つの机の中央に置いた iPad のところに自然に 体が寄ってくるが,それぞれのワークシートの上での作 業に熱中しているときには,iPad は中央に放置したま ま,自分の机の上のワークシートの方で作業をする。こ のように,4 つの机を合わせた上に 1 台の iPad を置く 場合には,必要なときに使い,不要なときには邪魔にな らない使い方ができていた。 Fig. 8 iPad で GC を使う様子 グループでの特徴的な動かし方に応じて,鈴木先生は
Fig. 9 四角形の動かし方の提示 次のような声かけをしていた。 a.点の動きを 2 回に分けていたグループ あるグループでは,まず中で長方形になるように動か し,次に正方形になるように動かしていた。 先生 : 今,どういう動かし方をした? もう一度やっ てみて。 生徒 :(最初中の四角形が長方形になるように一つの 点を動かし,次にもう一つの点を動かして中の 四角形が正方形になるようにしていた。) 先生 : 今,二回動かしたよね。今の動かし方に秘密が あるんじゃないかな。 b.2 点をつかんで,拡大していたグループ あるグループでは,2 点 B,C をつかまえて,対角線 AC,BD が同じ方向に伸びるような動かし方をしてき た。 先生 : どうやりたい? 生徒 :(正方形を)大きくしたい。 先生 : そうだよな。こうやったら拡大できるんだよ ね。この拡大の動き,これいいと思うんだよ な。 c.点 B,D を動かしていたグループ あるグループでは,ABCD を正方形にしてから,点 B を斜めに動かし,続いて点 D をやはり斜めに動かして いた。 先生 : 今,点を 2 つ動かしたけど,どういう動かし方 をした? 生徒 : 平行移動。 先生 : その動かし方になにか秘密がありそうだよな。 それぞれのグループの中で,動かし方に関する説明が できるようになったのを踏まえて,実物投影機で動かし 方を提示させた。 先生 : みなさん。こんな動かし方をしているグループ があります。 先 生 : ど う。今 の 四 角 形(EFGH),ど う な っ て い る? 生徒 : なんか正方形みたい。 先生 : もう一度やってもらおうか。どう。長さはどう なっている? 長さは変わっているけど,形は かわっていないな。なんでそうなんだろう。 先生 : もう一つみて。 先生 : 今度の動かし方は,形も大きさも変わっていな いよね。 先生 : こういう動かし方には秘密はないのかな。ちょ っとみんな,同じ動かし方をやってごらん。 Fig. 9 のように iPad 上で生徒が操作する様子を,実 物投影機を使って黒板上のスクリーンに投影し,点 A を左手の指で左に,点 B を右手の指で下に動かした。 これらの動かし方を確かめることで,当初の問題に対し て,「二つの対角線が直交し,長さが等しい四角形」と いう予想を立て,証明を進めていった。 (4)考察 この実践で印象的だったのは,操作や会話がそれぞれ のグループの中で非常に活発に行われた点である。iPad 上での操作が活発だったというだけでなく,その動きを 表現する手の動きや紙上へのスケッチあるいは言語表現 など様々なものが活性化されていた。 また,この実践を行ってから PC をみると,マウスで 一点しか動かせないのはとても不自然にみえてくるし, 特定の子がマウスを握ると他の子が手を出しにくくなる のも不都合にみえてくる。机の上で PC は,ともする と,ノート等を置けるスペースを狭くしてしまい紙での 作業に支障が生まれる。それらと比較して,日常的な道 具として iPad を使いこなせることを実感できた実践に なった。特に,紙上での作業に熱中したときには iPad は放置されたままになっていたが,必要な道具を見極め て使う生徒の力量と不必要な場合に邪魔しない道具とし ての iPad には手応えを実感した。
4.4
2 時間構成での探究的な実践 (1)研究授業のコンセプト 第三に取り上げる実践は,長谷川裕城教諭が愛知教育 大学附属名古屋中学校で 2012/2/21 に行った公開授業で ある。これまでに取り上げた二つの授業の中では,作図 ツールとしての GC/html5 は,与えられた図を動かす機 能しか使っていない。1990 年代に行ったような,ソフ トの機能をさまざまに生かした形で生徒の探究に委ねる ような授業の可能性を検討してみたいと考えた。そこ で,2 時間構成の中で生徒の多様な探究を許容するよう な授業を計画した[14]。 (2)授業の概要 問題 : 正三角形 ABC の内部に点 D をとり,図(Fig. 10)のように,BD,DC を一辺とする正三角形 EBD,FDC をかく。そして,A,E,D,F を結んで四角形 AEDF をつくるとき,AEFD はどのような形になるか。 Fig. 10 点 D の位置に応じて AEDF の形が変わる 想定される解答の一つは,「AEDF はいつも平行四辺 形」であるが,その中の特殊な場合に注目すれば,次の ような答えも追加されることになる。 a.AEDF は,長方形のときもある。 b.AEDF は,ひし形のときもある。 c.AEDF は,正方形のときもある。 また,次のようなケースに注目することもありうる。 d.AEDF は,つぶれてしまって線分になることもあ る。 Fig. 11 いろいろな場合 最初の平行四辺形に関しては,全体で証明しつつ,さ らに発展的な問題として,a-d のどれに注目するのか。 それを選択し,追究する多様性を生徒の選択に委ねた。 多くのグループは長方形になる場合に注目した。 AEDF が長方形になる場合を作っては点 D の位置を (GC/html5 の記録機能を使って)Fig. 12 左のようにプロ ットするあたりまでは共通だったが,次第に活動は多様 化していった。円になりそうという段階で納得するグ ループもあれば,円になる根拠として,∠ EDF が 90° になるためには,∠ BDC = 150°になるはずで,円周 角の定理の逆から,円になりそうという推測をして解決 できたと思っているグループもあった。一方,その円は どういう円かを明らかにする必要があると考え,反対側 の円周角は 30°になるため,反対側の中心角は 60°に なることを導き,BC の下側に正三角形を作図し,その 頂点を通って B を通る円が想定する(この上に点 D をお けば,AEDF が長方形になる)円になることを推論し, 実際に Fig. 12 右のように GC/html5 の作図機能を使っ て作図し,検証するグループもあった。 授業の中では,何人かの生徒が自分のグループで発見 したことを発表した。Fig. 13 のように黒板に投影した GC の図をチョークでなぞり,その図に生徒が書き込み をしながら証明のアウトラインを説明することでまとめ た。発表されなかったグループの中にもさまざまな多様 な探究が生まれていたことが印象的な授業であった。 Fig. 12 プロットで得られる円と作図で得られる円 Fig. 13 黒板での証明 (3)考察 紙と鉛筆だけでは実現困難な探究を一定の時間内に実 現することができたといえる。授業の中でソフトの機能 を学習する時間は確保しなかったが,時間と課題が適切 に与えられていれば,メニュー等を手がかりに,一定レ ベルまでの機能を使いこなせることも実感できた。もち ろん,それを使いこなす上で重要なのは,何をしたいか という数学的な考察が先行し,それを実現する機能がメ ニューの中にあるのではないかと推測することであり, ソフトの機能を適当に使えば自動的に解答が得られるわ けではない。つまり,必要に応じて生徒の数学的探究を 支援するツールとして機能することを実感させてくれた と言える。
5
おわりに
iPad で GC/html5 を使った実践は,2010 年末から始 まり,4 年を経過した。本稿で紹介した愛知教育大学附 属名古屋中学校での授業のみでなく,附属岡崎中学校で も,また 10 校以上の公立学校でも実践を行ってきた。実践によってそれぞれの違いはあるものの,生徒の活動 や話し合いが活性化されることを実感してきた。生徒用 タブレット端末に関する議論は生徒用デジタル教科書の 開発など,一人一台を前提としたものが多いが,本研究 のような実践では話し合いを活性化することが重要であ り,グループ活動の中で話し合い活動を活性化するため のタブレット端末利用に関するノウハウも教育実践に反 映できることを望んでいる。同時に,少なくとも数学に おいては紙や黒板など,従来の道具との整合性を生かす 方が,生徒の思考や授業の流れを妨げないように実感し ている。 iPad に代表されるタブレット端末が登場してからす でに 5 年になり,附属学校などでは一定の普及をしてき たが,公立学校ではほとんど導入されていないのが現実 だ。タブレットを日常的な道具として使いこなすために は,一気に導入する前に,地域内でパイロット校を作 り,授業のノウハウを蓄積していくべき時期になってい ると思う。 参考文献
[1] GC/html5,http: //www. auemath. aichi-edu. ac. jp/teacher/ iijima/gc_html5/
[2] Yerushalmy,M. The Geometric Supposer:Promoting thinking and learning,the Mathematics Teacher,79,(6),1986,418-422.
[3] cabri,http://www.cabri.com/
[4] Geometer’s SketchPad,http://www.keycurriculum.com/ [5] GC/DOS,http: //www. auemath. aichi-edu. ac. jp/teacher/
iijima/gc/basic.htm
[6] GC/Win,http: //www. auemath. aichi-edu. ac. jp/teacher/ iijima/gc/test-gcwin/download.htm [7] 飯島康之他,GC を活用した図形の指導,明治図書,1997. [8] 清水克彦・垣花京子,コンピュータで支援する生徒の活動-数学科・図形分野での新しい展開-,明治図書,1999. [9] 飯島康之,教育用ソフトと教材のインターネット上での整 備:作図ツールコンソーシアムが行ったことの報告と提言, 日本数学教育学会誌,83(12),2001,13-24. [10]飯島康之,普通教室での 1 時間の授業で 1 台の GC を使う授 業の設計と実践―附属名古屋中学校での伊藤実践 : 「共同井 戸を掘るべき場所を探せ」―,イプシロン,51,2009,5-16. [11]飯島康之,生徒用学習端末としての iPad の可能性と html5 による数学用ソフト・コンテンツ開発の可能性 : GC/html5 の開発を手がかりに,数学教育論文発表会論文集 43(2), 2010,741-746,日本数学教育学会. [12]飯島康之,iPad 上で操作可能な GC/html5(ビューア版)の 開発と授業の実際,年会論文集 35,2011,86-88,日本科 学教育学会. [13]飯島康之,iPad と GC/html5 を使った授業による二つの提案 ―附属名古屋中学校での鈴木実践に関連して―,イプシロ ン,53,2011,13-24. [14]飯島康之,作図ツール GC を使った多様な探究のための教材 開発の実際―3 つの問題に関するケーススタディ―,イプシ ロン,54,2012,7-27. 2014. 8. 31 受理 2014. 10. 9 掲載決定 著者略歴 飯島康之(いいじま やすゆき) ◎現在の所属:愛知教育大学 数学教育講座 ◎専門分野:数学教育学 ◎主な著書 GC を活用した図形の指導,明治図書,1997 コンピュータで数学授業を変えよう―作図ツール GC による図形の指 導―,明治図書,1995