3 会計基準の見直しの主な内容
(1)借入資本金 ○ 借入資本金制度を廃止し、建設又は改良に要する資金に充てるための企業債及 び一般会計又は他の特別会計からの長期借入金は負債に計上することとなりまし た。 ○ 負債に計上するに当たり、建設又は改良等に充てられた企業債及び他会計長期 借入金については、他の企業債及び借入金と区分されます。 【解説】 ○ 借入資本金とは、建設又は改良の目的のために発行した企業債や他会計から借 り入れた長期借入金に相当する額をいいます。この借入資本金は、民間の企業会 計においては、社債又は長期借入金として固定負債に整理されるものですが、地 方公営企業会計においては、民間企業の株式資本金に相当するものとして、昭和 27年の地方公営企業法制定時から、自己資本金と並んで資本金として整理されて いました。○
借入資本金制度を廃止し、負債に計上することにより、資本が減少し、負債が 増加するため、貸借対照表は次のとおりとなります。 <貸借対照表> (2)補助金等により取得した固定資産の償却制度等 ○ 資本的支出に充てるために交付された補助金、一般会計負担金等により取得し た固定資産については、当該固定資産の取得に要した価額からその取得のために 充てた補助金等の金額に相当する金額を控除した金額を帳簿原価又は帳簿価額と みなして、各事業年度の減価償却額を算出することができる、いわゆる「みなし 償却制度」が廃止されることとなりました。資本
資本
改正前
改正後
負債
借入資本金相当額資産
負債
資産
借入資本金
○ 負債は、固定負債、流動負債及び繰延収益に区分することとし、減価償却を行 うべき固定資産の取得又は改良に充てるための補助金等の交付を受けた場合にお いては、その交付を受けた金額に相当する額を、「長期前受金」として負債(繰延 収益)に計上することとなりました。 ○ 繰延収益については、補助金等により取得し又は改良した固定資産の減価償却 を行う際に、減価償却見合い分を順次収益化することとしました。 【解説】 ○ みなし償却を採用した場合には、貸借対照表上、補助金等の充当部分は減価償 却されないため、資産価値の実態が適切に表示できないこと、また、地方公営企 業の任意の採用とされていたため、採用の有無により財務諸表の構造が大きく異 なり、団体間比較を著しく阻害することから、みなし償却制度を廃止することが 適当であると判断されました。 ○ みなし償却を採用してきた事業の場合、これまで資本剰余金(資本)に計上し ていた補助金等のうち、未償却相当分を長期前受金(負債)に移行し、既償却相 当分については、それぞれ資産と資本が減少します。それにより資産、資本が減 少し、負債が増加するため、貸借対照表は次のとおりとなります。 <貸借対照表> なお、長期前受金(負債)に計上した未償却相当額のうち、当年度償却分を長 期前受金戻入(収益)として計上しますが、同額を減価償却費(費用)に計上す るため、費用と収益が増加し、損益計算書は次のとおりとなります。
長期前受金
資本
減少分
資本
改正前
改正後
資産
負債
資産
負債
資本剰余金
<損益計算書> ○ みなし償却を採用していない事業の場合、これまで資本剰余金(資本)に計上 していた補助金等のうち、未償却相当分を長期前受金(負債)に、既償却相当分 を未処分利益剰余金に移行します。全体として資本が減少し、負債が増加するた め、貸借対照表は次のとおりとなります。 <貸借対照表> なお、長期前受金に計上した未償却相当額のうち、当年度償却分を長期前受金 戻入(収益)として計上するため、収益が増加し、損益計算書は次のとおりとな ります。 <損益計算書>
長期前受金
資本
未処分利益剰余金改正前
改正後
負債
資産
負債
資産
資本
資本剰余金
純利益
長期前受金戻入費用
純利益
収益
改正前
改正後
費用
収益
純利益
減価償却費
純利益
長期前受金戻入費用
収益
改正前
改正後
費用
収益
(3)引当金 ○ 将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当該事業年度以前の事象に起 因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積もることができると 認められるものは、当該金額を引当金として貸借対照表(負債又は資産)に計上し、 当該事業年度の負担に帰すべき引当金を費用に計上しなければならないこととな りました。退職給付引当金については、一般会計と地方公営企業会計の負担区分 を明確にした上で計上するものとし、計上不足額については、適用時点での一括 計上が原則ですが、その経営状況に応じ、当該地方公営企業職員の退職までの平 均残余勤務期間の範囲内(最長15年以内)で均等に分割した額を計上することが可 能となっています。 【解説】 ○ 現行の地方公営企業においては、引当金として退職給与引当金と修繕引当金が 認められていますが、両方とも引当は任意とされています。退職給付引当金につ いては、企業会計における引当金の要件である「将来の特定の費用又は損失であ って、その発生が当期以前の事象にも起因し、発生の可能性が高く、かつ、その 金額を合理的に見積もることができる場合」に該当すること、また、民間企業や 地方独立行政法人の会計制度においても計上を義務付けていることから、引当を 義務化することが適当であると判断されました。 ○ 引当金は負債に計上し、当該事業年度の負担に帰すべき引当金を引当金繰入額 として費用計上するため、貸借対照表及び損益計算書は次のとおりとなります。 <貸借対照表>
引当金
利益剰余金
資本
改正前
改正後
負債
負債
資本
資産
資産
利益剰余金
<損益計算書> (4) 繰延資産 ○ 資産は、固定資産、流動資産及び繰延資産に区分することとし、繰延勘定が廃 止されることとなりました。 ○ 事業法において繰延資産への計上を認められているものを除き、新たな繰延資 産(改正前の繰延勘定)への計上は認められません。但し、資産に係る控除対象 外消費税については、引き続き繰延経理が認められ、長期前払消費税として、固 定資産のうち投資その他の資産に計上することとなりました。 【解説】 現行の地方公営企業会計では、災害による事業用資産の多額の損失、企業債発 行差金、開発費、試験研究費、退職給与金及び控除対象外消費税が認められてい ます。 (5)たな卸資産の価額 ○ たな卸資産であって、事業年度の末日における時価がその時の帳簿価額より低 いもの(重要性の乏しいものを除く。)については、その時価をもって帳簿価額と する、いわゆる「低価法」を義務付けることとなりました。 【解説】 たな卸資産とは、販売等を目的として保有する商品・製品等で、会計上期末に たな卸(保有総量の確認)をしなければならないとされている資産です。 (6)減損会計 ○ 固定資産であって、事業年度末の末日において予測することができない減損が 生じたもの又は減損損失を認識すべきものについては、その時の帳簿価額から当 該生じた減損による損失又は認識すべき減損損失の額を減額した額をもって帳簿 価額とする、「減損会計」を導入することとなりました。 引当金繰入額
純利益
改正前
改正後
費用
純利益
収益
収益
費用
【解説】 ○ 減損会計とは、不動産、設備等の事業用の固定資産の収益性が低下し、投資額 の回収が見込めなくなった場合に、その資産の回収可能額を算出し、帳簿価額を 適正な額に減額させる会計処理です。 ○ 減損額を費用計上することに伴って、資産、利益剰余金が減少するため、貸借 対照表、損益計算書は次のとおりとなります。 <貸借対照表>
<損益計算書> (7)リース取引に係る会計基準 ○ 地方公営企業会計にリース会計を導入することとし、ファイナンス・リース取 引については通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行い、オペレーティ ング・リース取引については通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行 うこととなりました。 ○ 事務負担の軽減の観点から、次のいずれかに該当するときは、ファイナンス・ リース取引であっても、通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行うこ とができることとなっています。 ・ 所有権移転外ファイナンス・リース取引におけるリース物件の借主が地方公 営企業法第2条第1号各号に掲げる事業であって、地方公営企業法施行令第8 減損 損失 純利 益 改 正前 改正 後 費用 純 利益 収 益 収益 費 用
利益剰余金
減少分
資本
資産
改正前
改正後
負債
資産
負債
利益剰余金
資本
条の2各号に掲げる事業以外のものであるとき(管理者を置かないことができ る企業) ・ リース物件の重要性が乏しいものであるとき。 【解説】 ○ ファイナンス・リース取引とは、リース契約に基づくリース期間の中途におい て当該契約を解除することができないリース取引又はこれに準ずるリース取引で、 借手が当該契約に基づき使用する物件からもたらされる経済的利益を実質的に享 受することができ、かつ、当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的 に負担することとなるリース取引をいい、オペレーティング・リース取引とは、 ファイナンス・リース取引以外のリース取引をいいます。 ○ リース会計の導入に伴って、リース資産価値相当額をリース資産として資産の 部に、未経過リース料相当額をリース負債として負債の部にそれぞれ計上するた め、貸借対照表は次のとおりとなります。 <貸借対照表>
リース資産
リース債務
資本
改正前
改正後
負債
資産
負債
資本
資産
○ リース会計の導入に伴って、これまで計上されていた賃借料が減額となりま すが、減価償却費を計上することとなるため、損益計算書は次のとおりとなり ます。 <損益計算書>賃借料
改正前
改正後
減価償却費
収益
収益
費用
費用
減価償却費
(8)セグメント情報の開示 ○ 地方公営企業会計にセグメント情報の開示を導入することとし、開示すべきセ グメント情報は、セグメントの概要のほか、セグメントごとの営業収益、営業費 用、営業損益金額、経常損益金額、資産、負債その他の項目の金額とすることと なりました。 ○ セグメントの区分は、事業単位の有無も含め、各地方公営企業において判断す ることとし、地方公営企業法第10条の規定による企業管理規程で定めることと なりました。 【解説】 セグメント情報とは、売上、損益その他の財務情報を事業の種類別・地域別な どによって区分して作成、開示する情報です。 (9)キャッシュ・フロー計算書 ○ 地方公営企業会計にキャッシュ・フロー計算書の作成を義務付けすることとし、 地方公営企業法第25条に規定する予算に関する説明書として予定キャッシュ・ フロー計算書を、地方公営企業法第30条第1項の規定により管理者が決算に併 せて地方公共団体の長に提出しなければならない書類等としてキャッシュ・フロ ー計算書がそれぞれ定められました。 【解説】 キャッシュ・フロー計算書は、企業の現金創出能力や支払い能力の大きさを示 す財務諸表であり、貸借対照表や損益計算書から直接読み取ることのできない現 金の収入・支出(資金の変動)を表しています。発生主義会計の下では、収益・費 用を認識する会計期間と現金の収入・支出を認識する時期とに差異が生じますが、 キャッシュ・フロー計算書の導入により、この現金の収入・支出に関する情報を 得ることが可能となります。 (10)組入資本金制度の廃止 ○ 減債積立金を使用して企業債を償還した場合、また、建設改良積立金を使用 して地方公営企業の建設又は改良を行った場合等において、その使用した積立金 の額に相当する金額を自己資本金に組み入れる制度(組入資本金制度)が廃止する こととされました。 【解説】 組入資本金制度は、地方公営企業がその経営によって獲得した利益(剰余金)を 固定資産(事業用資産)の取得を通じて自己資本化するものであり、これにより資
金の流出を防ぎ、当該固定資産の長期安定性を確保し、住民への継続サービスの 提供を可能とすることとしたものです。 地方公営企業では、従来、地方公営企業の事業を拡大するというニーズを背 景に自己資本金の増額を固定資産の取得に関連付けてきたと考えられますが、地 方公営企業の事業・施設等の充実に伴い、固定資産の拡大が一律に求められてい るとはいえなくなっています。また、経営判断の余地を広げる観点から、資本制 度の見直しが行われ、自己資本の充実に当たって、地方公営企業の利益剰余金や 資本剰余金を資本金に組み入れることができることとなりました。このような状 況を踏まえ、固定資産の取得に関連付けた現行の組入資本金制度については廃止 することが適当であると判断されました。