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シュウヨウカ氏名 ( 生年月日 ) 周楊華 (1980 年 9 月 13 日 ) 学位の種類博士 ( 総合政策 ) 1238 学位記番号学位授与の日付学位授与の要件学位論文題目論文審査委員 総博甲第 77 号 2017 年 3 月 16 日 中央大学学位規則第 4 条第 1 項 An empiric

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シュウ ヨウ カ 氏名(生年月日) 周 楊 華 (1980 年 9 月 13 日) 学 位 の 種 類 博士(総合政策) 学 位 記 番 号 総博甲第 77 号 学位授与の日付 2017 年 3 月 16 日 学位授与の要件 中央大学学位規則第 4 条第 1 項

学 位 論 文 題 目 An empirical analysis of success in overseas assignments for both Japanese expatriates and MNCs

―a psychological contract perspective―

論 文 審 査 委 員 主査 青木 英孝 副査 花枝 英樹・大橋 正和・丹沢 安治 内容の要旨及び審査の結果の要旨 Ⅰ 本論文の主旨と構成 1.本論文の主旨 近年、経済活動のグローバル化が進展する中で、多国籍企業の存在感が益々高まっている。そし て、この多国籍企業のビジネス展開や組織運営においては、海外派遣者が重要な役割を担っている。 しかし、海外派遣には多くの問題がある。例えば、一部の派遣者は、派遣期間中もしくは派遣期間 終了後に、本社に戻らずに他の会社へ転職してしまうこともある。また、派遣者が予定通りに帰任 しても、本社で海外経験を十分活用できるような相応しい地位や仕事が用意されていないといった 場合もある。このように、海外派遣者が自らのキャリア向上を目指してより良い条件の他社に転出 してしまうケースは、派遣者個人にとっては良いことであっても、派遣元の企業側からすれば貴重 な人的資源の喪失となる。また、派遣者には、帰任後に海外経験で得た知識やノウハウなどを派遣 元の企業に伝播させる役割も期待されるが、不十分な待遇によってこれが実現されないことは、派 遣者個人にとっても派遣元の企業にとっても好ましい自体ではない。このように、海外派遣後の転 職や帰任の失敗は決して珍しい現象ではない。派遣者個人のキャリア断絶と海外経験の不十分な活 用は、派遣者本人のみならず、その家族や多国籍企業本体にも損失をもたらす可能性がある。そこ で、提出論文では、日系の多国籍企業における日本人海外派遣者を分析の対象とし、派遣者個人と 派遣元企業それぞれの、派遣成功および帰任成功の要因分析を試みている。

Yan, Zhu and May(2002)は、個人と組織間の心理的契約の履行度が、派遣と帰任それぞれの成 功の度合いを決定するという命題を提出している。彼らの研究は、心理的契約理論を用いて、海外 派遣者の派遣と帰任の成功を分析する最初の研究の一つである。しかしながら、これらの命題は、

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実証的な検証を十分に経ているとは言い難い。また、心理的契約の履行度が組織パフォーマンスに 与える影響に関しては、一般の従業員を対象とした研究は行われているものの、分析対象を海外派 遣者に絞った場合は、研究の蓄積が進んでいない。特に海外派遣者の心理契約に注目した研究は、 日系の多国籍企業だけではなく、欧米の多国籍企業でも研究の蓄積が進んでいない。このように、 心理的契約に関する理論命題の実証を前進させる点、および分析対象を従業員全般から海外派遣の 経験者に絞ることで、先行研究におけるリサーチ・ギャップを埋めようとすることが本提出論文の 主旨と呼べるものである。 本研究では、定性的分析手法と定量的分析手法を併用し、心理的契約の履行度が、日系多国籍企 業と日本人派遣者それぞれの、海外派遣の成功および帰任の成功に対して、どのような影響を与え ているのかを検証している。まず、先行研究と事例分析に基づいて、心理的契約の履行度が、日系 多国籍企業と日本人派遣者の派遣成功と帰任成功に与える影響に関する 12 の仮説を提示している。 そして、これらの仮説を検証するためにアンケート調査を行い、111 名の日本人派遣者から回答を 得ている。このアンケート調査から、日系多国籍企業と日本人派遣者それぞれの心理的契約の履行 度、および派遣と帰任それぞれの成功度を変数化し、記述統計による検討や OLS による回帰分析を 行って、仮説の検証を試みている。さらに、これらの定量分析の結果を補完するために、複数の多 国籍企業の人事担当者へのインタビュー調査を行っている。すなわち、アンケート調査における組 織の心理的契約履行度は、海外派遣経験者(回答者)の主観的価値に基づくため、派遣を行う企業 側の視点から、結果の再検証を行っている。アンケート調査は回答者それぞれの所属企業を特定で きない構造で実施されているため、この追加的な分析は、とりうる最大の対処であると考えられる。 以上の分析に基づいた、本研究の事実発見は次の通りである。第一に、日本人派遣者および日系 多国籍企業双方の心理的契約の履行度が高いことが確認された。派遣者の心理的契約履行度の平均 値は 3.76、企業の心理的契約履行度の平均は 3.59 であり、ともに尺度の理論的中央値(5 段階評価 の 3)を超えていた。現在、多くの日本企業における人事制度では、終身雇用の制度的基盤が揺ら ぐとともに、年功制から成果主義への転換が図られていることから、企業側・従業員側それぞれの 心理的契約の履行度は決して高くないと推察された。実際、Morishima(2000)や Wakabayashi(2009) でも、日本企業の一般従業員の心理的契約が関係的から取引的に変化していることが示されている。 しかし本論文のサンプルでは、多くの日本人派遣者が企業との心理的契約を高いレベルで履行して いることが確認されている。また、海外に派遣されてから本社に帰任しなかったケースも 10 例とサ ンプルの 1 割未満に過ぎなかった。さらに、欧米の大手企業との M & A 経験をもつ日系の大手多国籍 企業の人事担当者へのインタビュー調査からも、人事制度は欧米に合わせて見直したものの、アジ ア地域へ派遣している従業員に対しては帰任後のポジションを用意しており、終身雇用的な人事制 度の実施が確認されている。 第二に、日本人派遣者個人の派遣成功と帰任成功について分析した結果、派遣者個人と多国籍企 業の双方の心理的契約履行度が高いほど、派遣者個人の派遣成功および帰任成功の度合いが高いこ とが分かった。また、個人と組織の心理的契約履行度の補完的効果(交差項)は、派遣成功に対し

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ては確認できなかったが、帰任成功に対しては確認することができた。 第三に、多国籍企業(組織)の派遣成功と帰任成功について分析した結果、派遣者と多国籍企業 の心理的契約履行度の影響が異なることが分かった。具体的には、派遣者個人の心理的契約履行度 だけが組織の派遣成功に対して正の影響を与える一方、組織の心理的契約履行度だけが組織の帰任 成功に対して正の影響を与えていたのである。 第四に、心理的契約履行度の他に、個人の年齢も派遣と帰任の成功に有意な影響を与えていた。 派遣者個人の年齢は、個人と組織の派遣成功には負の影響を、組織の帰任成功に正の影響を与える。 そして、人事担当者へのインタビューの結果から、外部環境や地域の特色も個人と組織の派遣成功 に影響することが確認された。また、日系多国籍企業組織の本部と海外子会社間の集権度合いは、 派遣成功と帰任成功には影響しないが、日本人派遣者の数に影響を与えていることが確認された。 2.本論文の構成 本論文の章立ては次の通りである。 I. Introduction 1.1 Introduction 1.2 Research Problem 1.3 Methodology

1.4 Definitions and Key Terms 1.5 Outline

Ⅱ. The Rationale for deploying expatriates in MNCs 2.1 Agency Theory and Transaction Cost Theory 2.2 Multinational Internal Labor Market Theory 2.3 Social Network Theory

2.4 Resource Based View

2.5 Governance style of Japanese MNCs

2.5.1 The centralization and decentralization of authority of MNCs 2.5.2 Organization model and governance style of Japanese MNCs 2.6 Summary

Ⅲ. Psychological contract theory 3.1 The concept of PC

3.2 Typology of PCs

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3.4 Effect of PCs and their fulfillment on Assignment Success of Expatriates and MNCs 3.5 PC and PC fulfillment

3.6 Summary

Ⅳ. Hypothesis development for success in expatriation and repatriation of individuals 4.1 Expatriates’ careers amid globalization

4.2 PCs of Japanese expatriates 4.2.1 Qualitative analysis method 4.2.2 Cases of Japanese expatriates 4.2.3 Cross-case analysis

4.3 Hypothesis development for expatriation and repatriation success of individuals

Ⅴ. Hypothesis development for success in expatriation and repatriation of organizations 5.1 History of FDI of Japanese MNCs

5.2 Innovation of Human Resource Management and PC change in Japanese corporations 5.3 Factors that influence PCs of MNCs

5.4 Hypothesis development concerning success in expatriation and repatriation of organizations

Ⅵ. Methodology

6.1 Research methods and statistical analysis strategy 6.2 Sample

6.3 Estimation model

6.3.1 Estimation models for assignment success of individuals 6.3.2 Estimation models for assignment success of organizations 6.4 Variable measurement

6.4.1 Dependent variables 6.4.2 Independent variables 6.5 Descriptive statistics

6.6 Distribution and matrixes of the degree of PC fulfilment and overseas assignment success

Ⅶ. Results for success in expatriation and repatriation of individuals

7.1 Results of t-test for success in expatriation and repatriation of individuals 7.2 Results of multi-regression analysis of success in expatriation and repatriation of

individuals

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7.2.2 Results of PC fulfillment of both individuals and organizations 7.3 Discussion and implications

Ⅷ. Results for success of organizational expatriation and repatriation 8.1 Results of t-test on expatriation and repatriation success of organizations 8.2 Results of multi-regression analysis on expatriation and repatriation success of

organizations

8.2.1 Results for PC fulfillment of individuals or organizations 8.2.2 Results for PC fulfillment of both individuals and organizations 8.3 Discussion and implications

Ⅸ. Expatriate management practice and PC fulfillment of Japanese MNCs: a multiple case study 9.1 Introduction

9.2 Cases of Japanese MNCs 9.3 Cross-case analysis

9.4 Discussion and implications

Ⅹ. Conclusions 10.1 Conclustions

10.2 Theoretic contributions 10.3 Practical implications

10.4 Limitations and directions for future research

References Appendices Ⅱ 本論文の概要 Ⅰで記した構成に即して、本論文の各章の内容を要約すれば、以下の通りとなる。 第 1 章では、日系多国籍企業の海外展開と日本人派遣者の重要性、本研究の問題意識と狙い、中 心的な概念とその定義、そして最後に論文の構成が述べられている。グローバル化が進展する中で、 日系多国籍企業も速いスピードで海外に事業展開している。その結果、海外子会社数と日本人派遣 者の数も急激に増加している。多国籍企業では、海外派遣者が子会社ガバナンス、技術やノウハウ の移転と調整、現地でのビジネス開発、現地政府との関係作りなど、様々な面で極めて重要な役割 を担っている。2014 年時点では、東証一部上場非金融事業法人の連結総資産上位 100 社の平均海外 子会社数は 34 社である。また、2010 年時点では、日本人の海外派遣者数はおよそ 23 万人となって

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いる。特にアジア地域に展開する日系の多国籍企業の子会社では、およそ 83%の経営管理職が日本 人派遣者によって占められている。このように、日系の多国籍企業において経営の現地化が進んで いないことは従来から指摘されてきたが、アジアにおける日本人派遣者の高い経営管理職比率は近 年でも横ばいで推移している。海外派遣に伴う問題は多く、日本人派遣者と日系多国籍企業の組織 パフォーマンスや事業目標の達成に負の影響を与えることもある。一部の日本人派遣者は、派遣期 間中か派遣終了後に、本部に戻らず他社へ転職している。また、ある日本人派遣者は、予定通りに 帰任しても相応しい仕事や役職が用意されておらず、満足のいく待遇が得られないばかりか、本部 への知識移転もうまく進んでいない。このように、海外派遣に関しては、帰任後に十分なキャリア 開発が図られないといった派遣者個人にとっての失敗と、派遣者の離職や知識・情報・ノウハウの 不十分な伝達といった派遣元企業にとっての失敗が存在する。Yan, Zhu and May(2002)は、海外 派遣および帰任の成功や失敗に対しては、派遣者個人と派遣元企業双方の心理的契約の履行度が影 響することを理論的に示している。彼らの研究は、心理的契約理論を援用しつつ海外派遣者の派遣 と帰任成功を分析する主要な研究業績の一つであるが、これらの命題を実証的に検証することは今 後の課題とされてきた。また、心理的契約が組織のアウトプットに与える影響に関しては、一般の 従業員レベルでの研究はなされているものの、特に海外派遣者を対象とした研究の蓄積は薄い。さ らに、心理的契約の概念を用いて多国籍企業を分析対象とした研究も少ないのが現状である。そこ で、提出論文では、日系の多国籍企業における日本人派遣者を対象に、心理的契約の履行度が海外 派遣と帰任の成功に与える影響の検証することで、学術的貢献を狙っている。 第 2 章は、主に先行研究のレビュー・パートである。ここでは、取引費用理論、多国籍内部労働 市場理論、ネットワーク理論、資源ベース理論とコーポレート・ガバナンス論の各視点から、海外 派遣者が必要とされる理論根拠が提示されている。複数の国や地域で活動する多国籍企業では、文 化に起因する商習慣の違いや、異なる法・政治・規制体系に起因して、通常のビジネスに伴う取引 費用が高いと想定されるが、海外派遣者は様々な取引費用の削減に寄与しうる。例えば、本体の基 幹技術を保有する海外派遣者の存在は、同等の技術レベルをもつ現地企業の探索や契約締結に伴う 取引費用の節約に資する。また、多国籍企業の内部労働市場が適切に機能すれば、多国籍企業の将 来を担う幹部人材の育成や適材適所の人的資源の配置にも寄与する。また、ネットワーク理論の視 点から考えると、ネットワーク組織である多国籍企業の中で、組織の連結点に位置する海外派遣者 は、境界連結者ゆえに情報優位性をもち、ソーシャル・キャピタルの累積に役立つ可能性がある。 また、本社の企業文化、管理手順と技術ノウハウを熟知しているマネージャや技術者は、特殊な価 値をもつ人的資源であり、他社との差別化や模倣困難性から、組織の業績向上に寄与する可能性が ある。また、多国籍企業の本部と海外子会社との間には、プリンシパル・エージェント関係があり、 情報の非対称性という性質上、海外子会社にはモラルハザードの問題が発生しうる。企業グループ の統一戦略を理解し、グループ子会社の管理ノウハウを保有する海外派遣者の存在は、子会社ガバ ナンスの確実な実行に寄与しうる。特に、集権的な組織形態をとる多国籍企業にとっては、海外派 遣者は海外子会社をコントロールする有効なガバナンス手段の一つでもある。

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第 3 章では、提出論文の中心的な概念である心理的契約理論が紹介されている。また、心理的契 約が、一般従業員と海外派遣者の行動、あるいは企業業績などに与える影響に関する先行研究の結 果が紹介されている。心理的契約が存在する理由は、情報の非対称性と不完備契約に大きく関係す る。MacNeil(1985)や Rousseau(2000)によると、心理的契約には、関係的と取引的という二つ のタイプが存在する。そして、心理的契約が高度に履行されている場合は、仕事態度や業績に正の 影響があると期待される一方、心理的契約違反は、従業員の仕事業績と忠誠心に負の影響を与える と考えられる。実際、海外派遣者が知覚した心理的契約履行が、海外環境適応と組織コミットメン トに有意な影響を与えること、また、環境適応に対する心理的なバリアが、実際の海外環境への適 応と組織コミットメントに負の影響を与えることなどが紹介されている。そして、本研究が依拠す る理論命題が提示される。具体的には、派遣者個人と派遣元組織の心理的契約が、それぞれ関係的 か取引的かという基準を用いて、心理的契約の四つの組み合わせパターン(①個人・組織とも関係 的、②個人が関係的かつ組織が取引的、③個人が取引的かつ組織が関係的、④個人・組織とも取引 的)が提示され、それぞれの組み合わせが派遣と帰任の成功に与える影響を整理したモデルである。 例えば、個人と組織双方とも関係的心理的契約である場合、個人と組織それぞれの派遣と帰任の成 功度は高くなるなどである。 第 4 章では、数名の日本人海外派遣者へのインタビュー調査に基づいて、派遣者個人の派遣成功 と帰任成功についての仮説が提起されている。質的分析手法では、統計データと現象の背後にある 因果関係を発見することが重要である。先行研究においては、心理的契約の履行度が、派遣成功と 帰任成功に影響するという理論命題が提示されているものの、日系多国籍企業あるいは日本人海外 派遣者を対象とした検討はなされていない。そこで、数名の日本人派遣者の事例を手がかりに、実 際の状況が慎重に確認されている。ヒアリングの結果からは、派遣中の仕事ぶりや業績、および組 織のサポート(例えば、派遣者を対象とした研修の実施、キャリアプランの策定、報酬、家族への 配慮など)は、海外派遣者個人と多国籍企業それぞれの、派遣成功と帰任成功に影響するという傾 向が確認されている。そこから、日系多国籍企業と日本人派遣者それぞれの海外派遣中の心理的契 約履行度が高ければ高いほど、派遣者個人の派遣成功と帰任成功の度合いが高いという仮説が提示 されている。 第 5 章では、派遣者個人の派遣・帰任の成功ではなく、派遣元である多国籍企業にとっての海外 派遣の成功と帰任の成功に関する仮説の提示がなされている。終身雇用や年功制などを特徴とする 日本型雇用システムは、高度経済成長期から安定成長期にかけては一般にも広く認知されていたが、 近年では非正規従業員の増加や報酬制度における成果主義の導入など、その制度的基盤が大きく揺 らいでいる。これらの雇用システムの変化は、企業の心理的契約が伝統的な関係的心理契約から取 引的心理契約にシフトしてきていることを暗示する。ただし、日系多国籍企業の心理的契約が、組 織にとっての海外派遣と帰任の成功に与える影響を検討した先行研究がないため、第 4 章のインタ ビュー調査の結果に基づいて、多国籍企業と派遣者の派遣中の心理的契約履行度が高ければ高いほ ど、日系多国籍企業の派遣成功と帰任成功の度合いが高くなるという仮説が提示されている。

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第 6 章では、本研究の分析手法が記述されている。定量分析と、その結果を補完する定性的調査 に関する説明である。まず、仮説を検証するために、5 段階のリーカット・スケールでの回答を依 頼する質問票を作成し、アンケート調査が行われた。質問項目は、個人と企業属性の他に、説明変 数となる個人と組織それぞれの心理的契約履行度、被説明変数となる個人と企業それぞれの派遣成 功と帰任成功を変数化するための項目から構成されている。具体的な質問項目は、論文末尾に付録 として示されている。派遣者個人と派遣元組織の心理的契約履行度に関する質問項目は、日本人の 一般従業員を対象とした先行研究の質問項目を参考にして作成されている。また、派遣者個人と派 遣元企業の派遣成功と帰任成功に関する質問項目は、理論命題が提示されている先行研究の定義に 基づいて作成されている。海外派遣の経験者を対象にしたアンケート票の配布と回収は、調査会社 を通して行われている。アンケートの配布に際しては、業種、職種、職位等に偏りがないように配 慮されている。合成変数の作成では信頼性チェックが行われ、その後、海外派遣者の派遣成功と帰 任成功、および多国籍企業の派遣成功と帰任成功のそれぞれを被説明変数、派遣者個人の心理的契 約履行度と派遣元企業の心理的契約の履行度を説明変数とするオーソドックスな回帰分析が行われ ている。日本人派遣者から集めたアンケート・データを用いて定量分析を行い、仮説検証がなされ ているものの、派遣元企業の心理的契約の履行度は、派遣元企業に直接回答を依頼して変数を作成 しているわけではない。すなわち、派遣者の主観を通して判断された企業の心理的契約履行度とな っている。そこで、日系多国籍企業の心理的契約の履行と派遣・帰任成功度についての状況を確認 するために、代表的な日系多国籍企業を数社選択し、人事担当者へのインタビュー調査が行われて いる。これは、定量分析の結果を定性的な証拠をもって補完する意義が認められる。 第 7 章では、海外派遣者個人の視点から見た派遣と帰任の成功要因の分析が行われている。はじ めに、派遣者個人の心理的契約の履行度の高低と、派遣元企業の心理的契約の履行度の高低による 2×2 の組合せ(マトリクス)を用いて基礎統計量を検討した結果、派遣者個人と派遣元企業の心理 的契約の履行度がともに高い組み合わせにおいて、派遣者の派遣成功度と帰任成功度が最も高いこ とが確認された。この結果は、派遣者個人の心理的契約の履行度が高いグループと低いグループを 分け、派遣者個人の派遣と帰任の成功度の平均値に差があるか否かをt検定した結果でも有意差が あることが確認されている。同様に、派遣元企業の心理的契約の履行度が高いグループと低いグル ープを分け、派遣者個人の派遣と帰任の成功度の平均値に差があるか否かをt検定した結果でも有 意差が確認されている。さらに、海外派遣者の年齢、帰任後の経過年数、職種、業種などの諸要因 の影響をコントロールした回帰分析が行われている。主な推計結果からは、派遣者個人と多国籍企 業の双方の心理的契約履行度が高いほど、派遣者個人の派遣成功および帰任成功の度合いが高いこ とが確認されている。また、個人と組織の心理的契約履行度の補完的効果(交差項)は、帰任の成 功に対してのみ確認されている。 第 8 章では、派遣元の多国籍企業の視点から見た派遣と帰任の成功要因の分析が行われている。 分析の進め方は基本的に第 7 章と同様である。はじめに、派遣者個人の心理的契約履行度の高低と、 派遣元企業の心理的契約履行度の高低による 2×2 の組合せ(マトリクス)を用いて基礎統計量を検

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討した結果、派遣者個人と派遣元企業の心理的契約の履行度がともに高い組み合わせにおいて、多 国籍企業の派遣成功度と帰任成功度が最も高いことが確認された。この結果は、派遣者個人の心理 的契約の履行度が高いグループと低いグループを分け、派遣元企業の派遣と帰任の成功度の平均値 に差があるか否かをt検定した結果でも有意差があることが確認されている。同様に、派遣元企業 の心理的契約の履行度が高いグループと低いグループを分け、派遣元企業の派遣と帰任の成功度の 平均値に差があるか否かを t 検定した結果でも有意差が確認されている。さらに、海外派遣者の年 齢、帰任後の経過年数、職種、業種などの諸要因の影響をコントロールした回帰分析が行われてい る。推計結果からは、派遣者と多国籍企業の心理的契約履行度の影響が異なることが分かった。具 体的には、派遣者個人の心理的契約履行度だけが組織の派遣成功に対して正の影響を与える一方、 派遣元企業の心理的契約履行度だけが組織の帰任成功に対して正の影響を与えていたのである。 第 9 章では、代表的な日系多国籍企業数社の人事担当者へのヒアリング調査の記録が述べられて いる。ここでの第一の狙いは、前章までの定量分析の結果を定性的な観点から補完することにある。 そして第二は、アンケート調査を用いて変数化した多国籍企業の心理的契約の履行度は回答者個人 の視点から見た心理契約の履行度であり、実際の企業側の視点から見た場合の心理契約の履行度と 乖離がある可能性があるため、この問題点を補う狙いである。アンケート調査への回答は、企業名 を匿名とすることを条件に実施されているため、分析結果の信頼性を高める何らかの取り組みが必 要であり、インタビューによる結果の再確認はその努力ととれる。事例分析の結果によると、心理 的契約の履行度の他に、景気や国際関係のような外部環境や地域の特色も、派遣者個人と派遣元企 業の派遣と帰任の成功に影響しているという。例えば、中国や南アメリカへの派遣では、派遣の成 功度がより高い傾向が確認されている。そして、一部の多国籍企業では、アジア地域に派遣する従 業員に対して、終身雇用ベースの人事制度が約束されている。その他、日系多国籍企業組織の統括 本部と海外子会社間における意思決定権限の集権度は、派遣と帰任の成功に顕著な影響はないが、 日本人派遣者の数に対しては影響を与えていることなどが確認されている。 第 10 章は結論であり、本研究における事実発見、理論命題の実証性向上の貢献、実務へのインプ リケーションと今後の課題が述べられている。重要な事実発見の一つは、日本人海外派遣者と日系 多国籍企業それぞれの心理的契約の履行度が、いまだに高いレベルにあることである。この結果は、 一般従業員の心理的契約の履行度が関係的から取引的に変化しているという先行研究の結果とは対 照的な結果である。また、一般従業員を対象に行われていた心理的契約の履行度を測るアンケート 項目を、海外派遣者用にカスタマイズし、先行研究における理論命題の実証可能性を拡大させたこ とが本研究の貢献であることが述べられている。実務的インプリケーションとしては、派遣者個人 の派遣と帰任の成功には、会社の人事制度や上司のサポートが重要であることが示されている。他 方、多国籍企業にとっての派遣と帰任の成功には、適切な人選や派遣者のモチベーション向上が重 要であることが示されている。例えば、組織の帰任成功のためには、帰任者の定着や、海外で蓄積 した経験・ノウハウ・人脈等を活用するための人事制度上の保障が重要である。また、人材育成の 観点からは、キャリアの初期か中期の人材を派遣したほうが高い効果が期待されることなどである。

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今後の課題としては、本研究で得られた結論が他国の海外派遣者や多国籍企業に一般化できるか否 かという問題が挙げられている。また、地域の特色や文化的要因など、他の要因も考慮に入れた分 析を行うことや、派遣者個人と派遣元組織をマッチングさせた分析も課題であることが示されてい る。 Ⅲ 審査の結果 本論文の審査結果は、以下のとおりである。 1.本論文の長所 本論文には、以下のような長所が認められる。 (1)テーマの設定が時宜を得ており、分析対象の絞り方がユニークである。グローバル化が大きく 進展し、多国籍企業の存在感が高まる中で、多国籍企業に関しては、事業展開の仕方や組織構造の 設計などに関して研究が蓄積されてきた。これに対して本研究では、多国籍企業の中の海外派遣者 というコアな人的資源に分析の焦点を絞っている。そして、従来は、海外派遣が多国籍企業の組織 能力や組織パフォーマンスに与える影響が検討されてきたのに対して、本研究では派遣と帰任の成 功に着目している。さらに、派遣と帰任の成功を、派遣者個人のキャリアという視点から眺めると ともに、人材の定着や知識のスピルオーバーという観点から派遣元組織にとっての成功も検討して いる。 (2)従来は個別に議論されてきた研究テーマの融合を試みる点に新規性がある。多国籍企業と海外 派遣者は、経済や文化のグローバル化が進む中で、重要な役割を果たしている。心理的契約理論も、 組織行動論や労使関係の研究分野ではコアな存在である。しかし、心理的契約理論を援用しつつ、 多国籍企業と海外派遣者の派遣と帰任成功を定量的に分析する先行研究は稀である。その意味で、 本研究は新しい研究分野の開拓に寄与し、グローバル時代のニーズにマッチしている。 (3)理論命題を、アンケート調査を用いて定量的に実証している点は高く評価できる。心理的契約 理論を用いた海外派遣者の派遣と帰任の成功に関しては、理論命題としてしか提示されていなかっ た。しかし本研究では、アンケート調査によってオリジナルなデータセットを構築し、統計的手法 を用いて実証している。また、心理的契約の履行度を測るアンケートの質問項目も、先行研究で用 いられていた一般従業員を対象としたものを参考にしつつ、海外派遣者向けにカスタマイズしてい る。この点は、今後の実証研究の進展に手がかりを与えている。 (4)定量分析と定性分析を組み合わせた研究手法がユニークである。本研究では、先行研究で提示 された理論命題を参照にしつつも、海外派遣経験者に対するパイロット調査的なヒアリングの結果 を踏まえて、検証すべき仮説の提示を行っている。次に、海外派遣者用にカスタマイズした質問項 目で構成されたアンケート調査を行い、統計分析によって仮説を検証している。さらに、アンケー ト調査における問題点を補強するために、追加的なヒアリング調査を行っている。具体的には、派 遣元企業の心理的契約の履行度は、海外派遣者(アンケート回答者)の主観を通して変数化されて

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いるため、代表的な多国籍企業の人事担当者へのヒアリング調査を通して、実際の企業側の認識を 追試している。このように、定性的手法と定量的手法を補完的に活用している。 2.本論文の短所 本論文に関して、以下のような短所を指摘することができる。 (1)先行研究のレビューで取り上げた諸概念と分析内容との関係性が弱い箇所が存在する。例えば、 先行研究のレビューでは、グローバル型、マルチナショナル型、インターナショナル型、トランス ナショナル型といった多国籍企業の組織形態が紹介されているが、これらの組織形態の違いが心理 的契約と派遣・帰任成功との関係とどのように結び付けられるのかが議論されていない。例えば、 派遣者個人と多国籍企業双方の心理的契約の履行度が高いほど、派遣者個人の派遣成功および帰任 成功の度合いが高いことが分かったが、個人と組織の心理的契約の履行度の高低は、多国籍企業の 組織形態といかなる関係に立つのか。特定の組織形態の採用や海外子会社への権限委譲などの諸条 件を考慮に入れた上で、高い心理的契約のコミットメントが高いアウトプットを生み出すという基 本的関係の妥当性を再検証する試みがなされてこそ、既存理論の発展に対する学術的貢献がある。 (2)分析結果に関する事実は明示されているものの、結果の解釈が不十分である。例えば、先行研 究では、日本企業における一般従業員の心理的契約が取引的に変化している一方、本研究では、海 外派遣者の心理的契約の履行度が高いということが示されている。しかし、なぜ一般従業員では心 理的契約の履行度が低い(取引的)のに、海外派遣者ではこれが高い(関係的)のか、原因の考察 がなされていない。例えば、海外派遣者が、多国籍企業というビジネスの特性上将来の幹部候補で あり、自らを中核的な人的資源であると認識している可能性など、一般従業員と海外派遣者の心理 的契約の履行度の違いが何に起因するのかの説明が不足している。特に、この点を本研究の一つの 貢献であると考えるのであれば、単なる事実発見にとどまらず、深い考察がなされるべきである。 (3)統計分析に関して改善の余地がある。例えば、海外派遣や帰任の成功に対しては、海外派遣者 の心理的契約の履行度や派遣元企業の心理的契約の履行度といった主要な説明変数の他にも、海外 子会社の業績や派遣元企業の業績など、本来コントロールした方が良いと思われる要因が十分に考 慮されているとは言い難い。また、多国籍企業の人事担当者へのヒアリング調査では、海外子会社 の分権度に言及されているものの、OLS を用いた重回帰分析のモデルでは、分権度に関する変数は 導入されておらずコントロールされていない。必要とされる質問項目に対する十分な考慮がなされ た上でアンケート調査が設計されていれば、推計モデルの精度が向上しただろう。なお、推計結果 の解釈に関する記述が薄いという問題もある。特に、仮説が棄却された場合の原因に関する記述や、 補完関係を検証した部分など、より厚い記述があったほうが良い。 (4)リサーチ・メソッドに関して、研究上の作法として記述が不十分である箇所が存在する。例え ば、海外派遣者や多国籍企業の人事担当者にインタビュー調査を実施しているが、その対象をどの ように選定したのかが示されていない。この点は、サンプル・セレクション・バイアスを判断する ためにも必要な情報である。また、アンケート調査の概要に関しても、具体的な質問項目は付録資

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料で確認でき、対象が海外派遣経験者であることはわかるが、配布や回収のプロセスの記述が不十 分である。調査を依頼した会社名、あるいは個票の回収率や部分回答のサンプル数とその処理方法 など、調査の手順を正確かつ丁寧に記述することは、実証分析の信頼性担保の観点から極めて重要 である。 3.結論 本論文には、以上のような長所と短所が見られるが、それらの短所は上述した長所を損なうもの ではなく、むしろ今後の研究を質的に向上させるための課題ということができる。以上の審査結果 に基づき、本論文提出者周楊華は、「博士(総合政策)中央大学」の学位を受けるに十分な資格が あると認められる。

参照

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