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学位授与番号 13301甲第4036号

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Academic year: 2022

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転位と格子欠陥の相互作用に基づく超微細粒材の力 学特性に関する原子論的研究

著者 木下 惠介

著者別表示 Kinoshita Keisuke

雑誌名 博士論文要旨Abstract

学位授与番号 13301甲第4036号

学位名 博士(工学)

学位授与年月日 2014‑03‑22

URL http://hdl.handle.net/2297/38961

Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja

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学位論文要旨

題名: 転位と格子欠陥の相互作用に基づく

超微細粒材の力学特性に関する原子論的研究

Title: Atomistic study of unique mechanical properties of ultrafine-grained metals based on dislocation-lattice defect interactions

所属:自然科学研究科 システム創成科学専攻 機能開発システム講座

氏名: 木下 惠介

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Abstract

In this paper, to investigate the unique mechanical properties of ultrafine-grained (UFG) metals, elementally processes of dislocation-defect interactions at atomic-scale resolution are examined by using atomic-level computer simulations. Dislocations, precipitates and grain boundaries are considered as lattice defects. Some unique dislocation motions such as cross slips during the bow-out motion are observed; these motions are not considered in conventional lattice defect theories. Hence, the critical resolved shear stress (CRSS) of each elementally process at the nanometer scale cannot be predicted by the conventional theories. Moreover, characteristic lengths are introduced for each dislocation-defect interaction phenomenon to compare the CRSSs between the elementally processes and it is found that the grain-boundary strengthening is more effective than other strengthening mechanisms. Next, unique mechanical properties of UFG metals are investigated on the bases of the results of dislocation-grain boundary interactions obtained by the atomic simulations. Three unique mechanical properties:

grain-boundary distribution dependence of the Hall-Petch coefficient, improved fracture toughness at low temperatures, and hardening by annealing processes, can be explained by taking dislocation-grain boundary interactions with atomic-scale resolution into account.

Therefore, there is a strong possibility to obtain nanostructured materials with excellent mechanical properties by controlling the grain-boundary characteristics.

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要旨

金属材料の結晶粒をサブミクロンオーダーまで微細化すると,従来の粗大粒材よりも 優れた力学特性を示すことが報告されている.そのため,ナノスケールの組織を有する 材料(ここでは超微細粒材と呼ぶ)は,高強度・高延性の実現可能性を期待されている.

しかしながら,従来の連続体力学に基づく格子欠陥理論では,ナノスケールで生じる格 子欠陥の挙動を正しく表現することは困難であるため,超微細粒材の特異な力学特性の 発現メカニズムを明らかにすることは難しい.そこで,本論文では,個々の原子の運動 を取り扱う原子シミュレーションを用いて,第1に,材料強化の素過程である転位と様々 な格子欠陥の相互作用を原子レベルで検討し,従来の格子欠陥理論と比較を行い,第 2 に,上記で検討した素過程に基づき,超微細粒材の特異な力学特性の発現メカニズムに ついて検討を行った.以下に本論文の各章の概要を示す.

第1章では,本論文の背景について述べた.まず,一般的な金属材料の各種強化法に ついて紹介し,それらをナノレベルで制御することで優れた力学特性を示す材料開発が 近年盛んに行われていることを述べた.その例として超微細粒材の示す特異な力学特性 について紹介した.つぎに,これらの特異な力学特性が従来の格子欠陥理論では表現で きないことを述べ,ナノスケールの原子構造を考慮した転位と格子欠陥の素過程の理解 が必要であることを示し,本研究の目的を述べた.

第2章では,本研究で用いる解析手法や格子欠陥を表現する原子モデルの作成方法に ついての概略を述べた.まず,原子シミュレーションについて説明し,これまでに確立 している格子欠陥の理論を紹介した.つぎに,様々な格子欠陥に対して,原子モデルと 既存の格子欠陥理論の比較を行った.[1]等方的な性質を持つアルミニウムの転位近傍 の力学場を原子モデルと線形弾性論を用いて比較した結果,両者は良く対応しているこ とを示した.[2]<112>対称傾角粒界について,粒界領域のエネルギー,自由体積,弾 性率の関係を検討し,粒界エネルギーと自由体積には正の相関があることを示し,また,

粒界領域の弾性率は結晶領域のものに比べて約 40〜60%程度であることを明らかにし た.[3]原子モデルにおけるき裂や転位等の特異点に作用する力を,J 積分を用いて評 価した.J 積分の経路独立性を確認し,転位まわりにJ 積分を適用することで転位に生

じる力(Peach-Koehler力)を評価できることを確認した.

第3章では,金属材料の強化法である,[1]転位密度による強化,[2]結晶粒微細化 による強化,[3]析出強化に注目して転位と格子欠陥の相互作用の素過程について原子 シミュレーションを実行し,検討を行った.解析対象はアルミニウムである.

[1]転位密度による強化に対して,転位−転位の相互作用を検討した.まず,転位線 が同じ方向を向いている場合の転位−転位相互作用を計算した.このとき,各転位は転 位の力学場を介して弾性相互作用をしている.周期境界条件を適用した解析モデル中に

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転位双極子を導入し,転位密度とその転位を動かすために必要な臨界分解せん断応力の 関係を検討した.刃状転位の場合,転位密度の増加とともに臨界分解せん断応力は上昇 した.この傾向は,無限体中に存在する1つの転位双極子を動かすために必要な理論的 に見積もれる臨界分解せん断応力よりも大きな傾向を示した.つぎに,転位線が同じ方 向を向いていない場合の転位−転位相互作用を計算した.このとき,転位同士の切り合 いが生じることになる.ここでは運動する転位とその障害物となる転位は両方とも刃状 転位とし,後者については前者のすべり面と異なる9つのすべり系の転位について検討 した.まず,運動する転位のすべり面と平行なバーガースベクトルを有する3つのすべ り系に対して,障害物の転位密度(3×1015〜5×1015 1/m2)と臨界分解せん断応力の関係 を求めた.ここでは,転位密度の増加につれて臨界分解せん断応力も増加することがわ かった.この関係は従来の理論と同様に転位の張り出し長さにより整理されることが理 解できた.つぎに,障害物となる9つのすべり系の転位を通過するために必要な臨界せ ん断応力について検討した.運動している転位と障害物となる転位の芯構造の反応によ っては,局所的に先頭の部分転位が交差すべりを生じ,運動している転位の実質的な張 り出し長さが減少する結果が得られた.このことは,従来では転位の切り合いにより形 成されるジョグやキンクが転位の切り合い抵抗を律速していると考えられていたが,本 研究で考慮した高転位密度領域では,転位を張り出すために必要な応力が大きくなり,

結果的に林転位を起点とした交差すべりが転位の切り合いに強く影響を与えている可 能性があることを示した.

[2]結晶粒微細化による強化に対して,転位−粒界の相互作用を検討した.解析対象 はアルミニウムである.<112>傾角対称粒界に格子転位を侵入させ,さらに外部負荷を 加えたときにその格子転位が粒界を通過するために必要な臨界分解せん断応力を求め た.この臨界分解せん断応力は小傾角粒界の方が大傾角粒界より小さくなることがわか った.しかしながら,大傾角粒界においては,粒界方位差の増加とともに臨界分解せん 断応力は増加せず,逆に減少する傾向を示した.この傾向は,従来の理論(転位が粒界 を通過する前後のすべり系の幾何学的な関係や通過後に粒界に残存するバーガースベ クトルの大きさを考慮している)では説明することができない.そこで,粒界を構成し ている粒界転位と格子転位の相互作用に注目して解析を行った.ある粒界を表現する粒 界転位は,その粒界近傍のエネルギー的に安定な粒界を参照構造に設定し,その安定な 粒界からの方位差を表現するために必要な転位であるため,必ずしも粒界方位差とは定 まった関係性を有していない.本研究で用いた大傾角粒界を構成する粒界転位の間隔は,

粒界方位差の増加に伴い広くなる傾向を示した.つまり,大傾角粒界においては,粒界 方位差の増加に伴い粒界転位列と格子転位の弾性相互作用は小さくなることが理解で き,このことが臨界分解せん断応力に影響を与えていると考えることができる.さらに,

侵入する格子転位と粒界転位のバーガースベクトルの関係も重要であり,その内積が負 の場合は,お互いの転位芯構造が打ち消され,格子転位が侵入した粒界領域の原子構造

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は大きく乱れないことになる.このことは,格子転位を粒界から放出させるためには,

格子転位の芯構造を粒界において再構築する必要があり,臨界分解せん断応力は大きく なることを意味している.これらの結果より,転位と粒界の相互作用には,粒界転位を 正しく表現することや,格子転位と粒界転位の芯構造の反応を原子レベルで表現するこ とが重要であることが明らかになった.

[3]析出強化に対して,転位−析出物の相互作用を検討した.まず,析出物近傍の応 力場が転位運動にどのような影響を与えているかを見積もるために,フェライト中のら せん転位のパイエルスエネルギーに対する転位運動に寄与しない応力(非すべり応力)

の影響を,最小エネルギー経路が求められるNudged elastic band法を使って検討した.

一般的に非すべり応力によるパイエルスエネルギーは変化しないと考えられているが,

非すべり応力によりらせん転位芯近傍の原子構造が変化し,その結果,パイエルスエネ ルギーの変化が確認できた.そこで,その原子構造変化を表現する幾何学的なパラメー ターの提案を行った.そして,ミスフィットひずみを持つ整合析出物にらせん転位が近 接する場合を想定し,導入したパラメーターの変化を析出物周りの力学場から考えるこ とで析出物を起点とした交差すべりの起こりやすさについて検討を行った.この検討か ら負のミスフィットひずみを持つ整合析出物は交差すべりを促進する可能性を示した.

つぎに,実際に析出物と転位の相互作用シミュレーションを実行した.解析対象はアル ミニウムである.ここでは,析出物の大きさは1nmであり,母相と整合界面を有し,ま た格子定数も同じである.しかし,析出物の弾性率を系統的に変化させることで,転位 と析出物の相互作用に対する析出物の剛性率効果を検討した.まず,析出物の剛性率が 母相の 10 倍より小さい場合,転位はカッティングにより析出物を通過した.一方で,

剛性率がそれよりも大きい場合,カッティングは起こらず,張り出している転位線の一 部が交差すべりを起こし,Orowan ループの形成は容易ではなかった.しかしながら,

後者の析出物に対して,転位線の張り出し長さと臨界分解せん断応力の関係を,従来の 理論式と比較を行い,同様の傾向が得られることが理解できた.また,前述したフェラ イトに対する NEB 法から得られた結果において予測されるとおり,非すべり応力によ る格子転位の析出物通過機構の変化を確認した.

最後に,第3章で得られた各強化機構の素過程に対する臨界分解せん断応力を,それ ぞれの代表長さで整理し,統一的に検討を行った.転位−転位の相互作用の場合,(1a) 運動している転位と障害物となる転位の転位線の方向が等しい場合は,転位間距離を代 表長さとし,(1b)転位線の方向が異なる場合は,障害物の転位の間隔を代表長さとし た.(2)転位−粒界の相互作用の場合,粒界転位の間隔を代表長さとした.(3)転位−析 出物の相互作用の場合,転位の張り出し長さを代表長さとした.ここで,(1a)と(2) は転位間の弾性相互作用が強く影響し,(1b)と(3)は転位の張り出し過程が強く影響 していることになる.これらの素過程に対する臨界分解せん断応力を比較した結果,転 位−粒界の相互作用が効率良く強化に寄与することが理解できた.

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第 4 章では,超微細粒材が示す特異な力学特性([1]Hall-Petch 係数の粒界方位差分 布依存性,[2]低温において破壊じん性値の向上,[3]焼鈍による硬化現象)の発現メ カニズムに対して,原子シミュレーションより得られた知見をもとに考察を行った.こ こでは,第 3 章で行った強化機構の素過程の結果を考慮し,転位−粒界の相互作用に着 目した.解析対象はすべてアルミニウムである.

[1]超微細粒材のHall-Petch係数の粒界方位差分布依存性を表現できるようにパイル アップモデルの拡張を行った.ここでは,隣接粒への塑性変形の伝ぱは,粒界を介して 生じると考え,この転位が粒界を通過するために必要な応力に,粒界方位差依存性を導 入した.この拡張したパイルアップモデルにおいて,転位が粒界を通過するために必要 な応力が,大角粒界の方が小角粒界より大きいと仮定すると,実験結果をよく表現でき ることを示した.この仮定の妥当性は,第3章において求めた傾角粒界の転位通過に対 する臨界分解せん断応力と方位差の関係と定性的に一致している.

[2]低温において破壊じん性値が向上する原因について,き裂から放出され,その 後粒界に侵入した転位のき裂先端に対する遮へい効果から説明を行った.まず,低温で は,粒界に侵入した格子転位の力学場は保存されることを確認した.つぎに,き裂先端 の力学場をJ積分により評価し,粒界に侵入した転位の影響を検討した結果,明確な遮 へい効果が確認できた.ここで,粒界に侵入した転位が隣接粒に通過してしまうとき裂 先端の力学場に対する遮へい効果は減少する可能性があるが,その転位が粒界を通過す るために必要な力学場は第 3 章で求めた転位−粒界の相互作用から見積もることが可能 である.また,粒界に侵入した転位の安定性(粒界の転位に対するピン止め効果)も遮 へい現象には重要である.このピン止め効果は第3章で行った解析と同様に,粒界転位 と粒界に侵入した格子転位のバーガースベクトルの関係に強く影響を受けることが確 認できた.

[3]焼鈍による硬化現象の原因を検討するために,粒界から転位が放出される現象 に注目し検討した.格子転位をふくむ粒界モデルを焼鈍し,格子転位を再放出するため に必要な応力を検討した.焼鈍を行うと粒界に侵入した格子転位に対する粒界のピン止 め効果は上昇した.これは格子転位のバーガースベクトルが粒界上で分解し,粒界面に 平行な成分が焼鈍により移動し,その移動距離が長くなると粒界の転位ピン止め効果が 上昇することがわかった.この傾向は焼鈍による硬化現象と同様の傾向を示している.

よって,強ひずみ加工プロセス中に導入される余分な粒界転位を超微細粒材の有効な転 位源であると考えれば,焼鈍による硬化を説明できることを示した.

第5章では,本論文で得られた結果を総括した.以上のように,金属材料の強化機構 の素過程を原子レベルの解像度で検討することで,従来の理論では表現できない現象を 明らかにし,さらに,これらの知見に基づき超微細粒材料の特異な力学特性の発現メカ ニズムに対して検討を加えた.これらの原子レベルの格子欠陥の相互作用メカニズムは,

今後のナノスケールの材料開発において有益な知見を多く与えられると期待できる.

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参照

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