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- 原著 1 Characteristics of one s view of Japanese society in university students: Development of the one s view of society scale and examination of val

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大学生における日本社会に対する社会観の特徴

――自由記述に基づく社会観尺度の作成と妥当性の検討――

峰尾菜生子

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Characteristics of one s view of Japanese society in university students: Development of the one s view of society scale and examination of validity of the scale

Naoko MINEO1

This study aimed to develop a scale measuring university students views of Japanese society. In study 1, 111 students provided free descriptions of their evaluations of society. The descriptions were classified into 11 categories. In study 2, based on the results of study 1, the One s View of Society Scale was developed, and its validity was examined. The participants comprised 271 students. Factor analysis yielded three subscales: negative evaluations of selfish and self-righteous people, positive evaluations of a peaceful and affluent life, and respect for efforts. Correlation analyses between the subscales and previous scales revealed that the validity of the One s View of Society Scale was acceptable. The results revealed that university students views of society had the following features: (a) the students conceptualizations of their image of society was varied; (b) they negatively evaluated society as a whole, as well as politics, media, and human relations; (c) they considered affluence, culture, and peace as positive attributes of society; and (d) most students evaluated society negatively but there were individual differences in degree of anxiety to live in society.

Key words: one s view of society, university students, effort, scale, late modern

問題と目的  本研究では,大学生の社会に対する認識の一端 を,「大学生が自分の生きている社会をどのよう に見ているのか」という観点から明らかにする。  本研究では,児島(2002)が挙げたうちの,“政 治,経済,文化などの諸制度の複合した包括的統 合体としての全体社会”を社会の定義とする。こ の定義を用いる理由は ,(a)身近な他者との関係 をこえた,より大きなレベルでの社会を扱うた め,(b)政治などの制度面だけでなく,文化面な ども含む包括的な定義であるためである。本研究 の定義と異なる意味で社会という語を使う際は, 熟語を除き,「」をつけて区別する。  青年心理学では,社会と個人の関係を問う問題 意識は存在していたが,それを実証的に検討した 研究は少ない(下村・白井・川 ・若松・安達, 2007)。その理由として,「社会」という概念の抽 1 中央大学(Chuo University) 2017,28,67-85

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象度の高さ(浦上,2008),研究対象となりうる 現象の見出しにくさ(下村他,2007),「社会体制」 のような“大文字の社会”に対するリアリティの なさ(土井,2002)などが挙げられる。20代の国 政選挙における投票率が他の世代よりも低い(明 るい選挙推進協会,2015)など,青年の社会に対 する無関心・無関与も1970年代頃から指摘されて きた(高田,1979)。  しかし,青年心理学における“社会的”という 語には,“家族との人間関係”から“生活様式を 規定する制度”,“文化歴史的影響”まで含まれる とされており(西平,1973),青年の社会に対す る認識を研究することには,発達的および歴史的 な観点からみて意義がある。 発達的観点からみた青年と社会  一般的に,発達段階が上がるにしたがって,認 識や活動が可能な「社会」の範囲が広がるとされ ている(e.g. Erikson,1950 仁科訳 1977;藤原, 1966;暉峻,2012;山岸,1990)。その背景には, 認 知 能 力 の 発 達 が あ る。Piaget(1970 滝 沢 訳 1972)の認知発達論では,青年期が始まる11,12 歳頃から,具体的なものを媒介せずに,論理的に 物事を考えられるようになる形式的操作期に入る とされている。  認知能力の発達は,仕事や政治,国家などの社 会的概念の獲得(楠見,1995),抽象的な他者や 集団の重要性の理解(藤原,1966),大人の考え 方や社会的な習慣などの矛盾や不合理な点への気 づきや批判(藤原,1962;山岸,1990),社会か らの期待を担わされている「社会の中の自分」を 考えること(山岸,1990)などを可能にし,青年 個人と社会との関係に大きな影響を与える。より 抽象的なレベルの社会を認識できるようになるこ とは,児童期までと異なる青年期の特徴といえ る。一方で,労働や納税,家庭をもつことなどに より自分の生活と社会との関係を意識しやすい成 人期と比べると,青年期の社会に対する認識は漠 然としていると推測される。青年の社会に対する 認識の特徴を明らかにすることは,青年が抽象的 な社会をどの程度具体的にとらえているのかを明 らかにすることでもあり,青年期の認知発達の特 徴を考える糸口になる。  青年期の発達主題として重要なアイデンティ ティは,他者を通して形成され,その他者はより 外側の社会へと拡大していく(溝上,2008)。青 年の社会に対する認識を研究することは,従来の 研究で取り上げられてきた青年期の発達を,別の 方向からとらえ返すことにもつながる。 歴史的観点からみた青年と社会  2000年代以降,グローバル化に伴う新自由主義 政策の推進,2008年のリーマン・ショック後の不 況,安全保障や労働,教育などの法制度の抜本的 改定など,青年を取り巻く日本の社会状況は大き く変化している。  特に青年にとって重要だと考えられるのが, “後期近代(late modern)”社会(Beck, 1986 東・ 伊藤訳 1998;Giddens, 1991 秋吉・安藤・筒井訳 2005)への変化である。後期近代社会では個人の 「 自 助 努 力 」「 自 己 責 任 」 が 強 調 さ れ( 松 下, 2014),特に青年は,自分が直面するリスクは自 分自身で乗り越えなければならないというイメー ジ を も ち や す い と さ れ る(Furlong & Cartmel, 2007 乾・西村・平塚・丸井訳 2009)。現在の青年 は,“モラトリアム(猶予期間)なきモラトリア ム(青年期)”(村澤・山尾・村澤,2012)を過ご している。個人の努力がより求められる社会への 変化に伴い,「努力すれば何とかなる」と考えら れる青年と,「努力しても無駄である」と諦めて いる青年との,努力に対する意識の格差拡大が指 摘されるようになってきている(Benesse 教育研 究開発センター,2009;苅谷,2001;菅田・小沢, 2006;山田,2004)。都筑(2008)の研究からは, 青年個々人の努力のとらえ方の違いが,社会に対 する認識に影響を与えることが示唆されている。 社会に無関心とされている青年であっても,個人 の努力がより求められる社会の影響を少なからず 受けていると考えられる。  青年の社会に対する認識を研究することで,青

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年が現在生きている社会の様相,その社会に対す る青年のとらえ方,その社会における青年の生き 方の模索など,歴史的な観点から青年の心理をと らえられる。  青年支援を考える上でも,個々の青年と社会と の 関 係 を 検 討 す る こ と は 重 要 で あ る( 白 井, 2004)。自分の生活する共同体に積極的にかかわ ることは,青年自身の発達にとっても社会にとっ ても利益がある(Zaff, Boyd, Li, Lerner, & Lerner, 2010)。青年の社会に対する認識の実態を把握す ることは,青年が社会に積極的にかかわって生き ていくためにどのような支援が必要なのかを考え る端緒ともなる。  以上述べてきたように,青年の社会に対する認 識を明らかにすることは,現在の社会に生きてい る青年の発達をとらえる上で意義がある。 従来の心理学における社会に対する認識の研究  従来の心理学では,社会に対する認識は,社会 認 識(e.g. 藤 村,2002; 長 谷 川,2003; 田 丸, 1992), 社 会 的 態 度 や 政 治 的 態 度(e.g. 原 田, 1984;Jagodi , 2000; 加 藤・ 加 藤,1987; 久 世, 1989;Van Hiel & Kossowska, 2007),社会的事象 の 認 知(e.g. 松 尾,1993; 高 木・ 吉 田・ 加 藤, 1980),社会的信頼(e.g. 白井・安達・若松・下 村・川 ,2009),社会への関心や関与(e.g. 白井, 1990; 高 木,1970;Boyd, Zaff, Phelps, Weiner, & Lerner, 2011; Zaff et al., 2010),自己意識との関係 (e.g. 加藤・高木,1981;都筑,2008),移行との 関係(e.g. 下村,2013;白井他,2009)などの観 点から研究されてきた。

  特 に, 社 会 認 識(social cognition, social understanding)のような概念理解,社会的態度 (social attitude)などの価値的態度,シティズン シ ッ プ(citizenship) や 市 民 的 関 与(civic engagement)などの社会への関心や関与が,よ り多く取り上げられてきた。社会認識研究では, 社会的な事象や概念の理解の発達過程が検討され てきた。社会的態度研究では,久世・宗方・和 田・後藤・浅野・宮沢・二宮・大野・内山・ (1986)がいうように,「∼すべきだ/すべきでは ない」という規範的な面も含めて,所与の社会に 対してどのような態度をとるのかを中心に検討さ れてきた。シティズンシップや市民的関与の研究 では,主に,共同体の社会的な活動への参加とい う観点から検討が行われてきた。  以上のような先行研究からは,児童期から青年 期にかけての抽象的な社会的概念に対する理解の 発 達(e.g. 藤 村,2002; 長 谷 川,2003; 田 丸, 1992),「保守―革新」という軸でとらえられない, 1980年代以降の青年の価値観の変化(e.g. 加藤・ 加藤,1987;久世,1989),社会をより否定的に, 自分をより肯定的にとらえる青年の傾向(e.g. 白 井,1990;百合草,1981),社会に対する意識と キャリアの違いとの関連(e.g. 下村,2013;白井 他,2009)などが明らかにされてきた。 先行研究の問題点と社会観という観点から研究す る意義  しかし,先行研究では,概念理解,価値的態度, 社会的活動への関与にもかかわる,「自分が生き ている社会はどのような社会か」という認識につ いては,あまり検討されていない。概念理解や価 値的態度の研究では,社会というものが研究者側 であらかじめ設定されており,個人が自分の生き ている社会をどのようにとらえているのかという 面は見えにくい。また,社会的態度や市民的関与 は,社会に対する能動性がかかわる概念であり, 社会に無関心だが何らかの印象をもつ青年や,関 心があっても関与しない青年の社会に対する認識 を把握しきれない。従来の心理学研究は,社会に 対する認識の一部しか明らかにできていないとい える。  自分の生きている環境をどのように見ているの かは,個人の意識や行動に影響を及ぼすとされ, キャリア選択や人格形成,適応などの研究で重要 視されている(e.g. 安達,2006;白井,2008;山 岸,1990)。社会から抜け出た視点をとるために も,社会を個人がどのように見ているのかが重要 になる(下村・白井・川 ・若松・安達,2008)

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と考えられている。「社会をどのように見ている のか」という観点から研究を行うことで,社会に 対する認識が日々の意識や行動に与える影響を検 討しうる。  先行研究の問題点を踏まえ,本研究では,「自 分が生きている社会をどのように見ているか」を 表す,社会観(one s view of society)という概念 を提唱する。先述した社会の定義に基づき,本研 究では,社会観を「自分が生活している,政治, 経済,文化などの諸制度の複合した包括的統合体 としての社会に対する認知的評価」と定義する。 現在の青年の社会観を把握する方法  青年の社会観を研究する上で,まず次の点を検 討する必要がある。第一に,自由記述のような, 青年自身の声をより具体的に聞く調査を行うこと である。自由記述によって大学生の政治的態度を 明らかにしている原田(1998)の研究では,マス メディアへの批判など従来の社会的態度研究では あまり検討されてこなかった要素が抽出されてい る。青年自身の声から出発することで,浦上 (2008)が指摘するような,「青年が何を社会とし てとらえているのか」も明らかにできると考えら れる。白井他(2009)は,社会的信頼研究の課題 の 1 つとして,“見知らぬ社会の人々への信頼”, “社会の秩序や規範に対する信頼”,“社会に自分 が関与した場合の変化の可能性への信頼”の 3 側 面を区分した測定を挙げている。見知らぬ社会の 人々や社会の秩序,規範を信頼するかどうかは, 社会を構成する人々や社会事象をどう見ているか ということでもあるため,社会観には“見知らぬ 社会の人々への信頼”や“社会の秩序や規範に対 する信頼”も含まれうる。青年自身の声から出発 することで,青年がこれらの側面を信頼している のかどうかも把握できると考えられる。  第二に,現在の社会と個々の青年との関係を把 握するために,「努力が報われる社会かどうか」, 「個人の努力次第で何とかなる社会かどうか」と いう見方を考慮することである。先述したよう に,「自助努力」「自己責任」が強調される社会の なかで,青年個人間の努力に対する意識にも格差 が生じているとされている。青年個人と現在の社 会とをつなぐ努力に対する認識を取り上げること は,青年を歴史的にとらえると同時に,同じ環境 下で生活している青年間の差異をとらえるために 重要である。  第三に,青年の社会観を明らかにするために妥 当性,信頼性のある方法を生み出すことである。 浅 川(2008),Benesse 教 育 研 究 開 発 セ ン タ ー (2009),高木他(1980),都筑(2008)などは, 社会観に関する項目を用いている。しかし,高木 他(1980)が用いている項目以外は尺度化されて いない。高木他(1980)の社会認知の尺度は,日 本社会をどのように見ているかを測定するもので あり,本研究の社会観に近いものを測定してい る。しかし,主に憲法の内容に基づいて作成され ているため権利保障に関する項目が多く,包括的 な社会観を測定するには不十分である。妥当性, 信頼性のある包括的な社会観尺度を開発する必要 がある。  社会観尺度の妥当性を検討するにあたり,本研 究では高木他(1980)の社会認知の測定尺度と社 会に対するイメージの項目を用いる。社会に対す るイメージの項目は,社会を“肯定的受容的”あ るいは“否定的拒否的”にとらえているかどうか という情緒的側面を測定する内容となっている。 社会認知の測定尺度と同様,社会観に近いものを 測定している。高木他(1980)の用いている尺度 との相関関係を分析することで,社会観を測定す るのに妥当な尺度かどうかを検討できると考えら れる。  以上の点を踏まえた社会観尺度を開発すること で,青年が自分の生きている社会をどのように見 ているかを把握することが可能となる。なお,作 成される社会観尺度の範囲は,現在の日本社会に 限定される。グローバル化により国際社会を意識 する青年は少なくないと考えられるが,本研究で は青年にとっての「自分が生きている社会」を扱 うためである。

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大学生の社会観を検討する意義  本研究では大学生を対象とする。その理由は, 第一に,中学生や高校生と違い,大学生は卒業後 すぐに就職する場合が多く,労働現場などの社会 を意識しやすいためである。第二に,大学生活は, 産業界,市民社会,両親,教職員,学生といった 異なる目標をもつ者たちがかかわる社会化の準備 過程である(Montgomery & Côté, 2006)ためで ある。日本の大学教育では,「社会人基礎力」(経 済 産 業 省,2006) や「 学 士 力 」( 文 部 科 学 省, 2008),「グローバル人材」(文部科学省,2011) など,後期近代で求められる能力の育成が強調さ れている(松下,2014)。2000年代以降,資格や 職業と直結した学業を求める学生の増加が指摘さ れ て い る が(e.g. 半 澤・ 坂 井,2005; 溝 上, 2006;新村,2006),個人の努力を強調する社会 からの要請を学生が認知し,応じているともいえ る。  本研究では,大学生の社会観の特徴を明らかに する一端として,性別,学年,学部,居住形態, サークル参加,アルバイト経験という大学生の基 本属性の違いによる社会観の差異を検討する。溝 上(2001)は,自己評価を規定する大学生的文脈 として,学業,クラブ・サークル活動,アルバイ ト,進路,一人暮らしなどを挙げている。これら の大学生的文脈は,社会の情報を得る機会に影響 すると考えられ,社会観にも影響を与えると推測 される。たとえば,保守志向や生活満足感は女性 のほうが男性よりも高いとされている(原田, 1984)。一方で,中学生や高校生よりも,大学生 の社会認知や社会イメージの性差は小さいという 研究もある(高木他,1980)。大学時代のアルバ イトやクラブ・サークルの経験は成人期の社会的 信頼を高めるとされている(白井他,2009)。こ れらの研究はあるものの,大学生の基本属性と社 会に対する認識の関係を扱った研究は少ない。ど のような大学生がどのような社会観をもっている かを把握するために,社会観の属性差の検討が必 要である。 本研究の目的  問題意識を踏まえ,本研究では,大学生の社会 観の特徴を明らかにするために, 2 つの研究を通 じて社会観を測定する尺度を作成する。研究 1 で は,自由記述方式の調査を行い,大学生の社会観 の特徴を質的に明らかにする。研究 2 では,研究 1 で得られた記述をもとに社会観尺度の作成を行 い,尺度の妥当性と信頼性を検討する。尺度の妥 当性と信頼性が確認された場合は,大学生の基本 属性による社会観の差異を検討する。 研  究  12 目的  大学生の社会観の特徴を質的に明らかにするた め,および社会観尺度の質問項目を作成するた め,大学生が社会をどのように見ているのかを自 由記述方式によって把握する。 方法  調査対象者 東京都内の 4 年制私立 X 大学3 通う学生138名(男性74名,女性64名。平均年齢 19.50歳〔SD=1.24〕)であった。 1 年生41名, 2 年生51名, 3 年生30名, 4 年生16名であった。文 学部30名,商学部30名,法学部42名,経済学部32 名,総合政策学部 2 名,不明 2 名となっていた。 一人暮らし68名,実家64名,寮 3 名,その他 3 名 であった。サークルは,所属93名,無所属43名, 不明 2 名となっていた。アルバイト経験は,あり 108名,なし29名,不明 1 名であった。出身地は, 32都道府県に分かれていた。関東地方出身者が多 く,最多は東京都の34名で,次いで神奈川県の19 2 研究 1 の概要は,2009年の日本青年心理学会第17回 大会において発表したが,本稿ではより詳細な内容 を報告する。 3 X大学は,入試偏差値が60程度の大規模総合大学で ある。実学重視の学風をもち,資格取得に力を入れ ている。華やかさはないが堅実なタイプの学生が多 いとされている。文系の学生は,郊外のキャンパス に通う。

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名,埼玉県の 9 名であった。  調査時期および手続き 2009年 5 月中旬− 6 月 上旬に実施した。筆者が X 大学内の学部棟や課 外活動施設,学生食堂にて質問紙を個別配布し, その場でまたは後日回収した。回答の所要時間は 約15分であった。倫理的配慮として,質問紙の冒 頭に(a)青年心理学研究として,大学生が自分 や社会についてどのように感じているのかを調べ ていること,(b)コンピュータを用いて全体集計 されるため,個人が特定される恐れはないこと, (c)回答したくない項目は答えずともよいことを 記した。  質問紙の構成  1 .フェイスシート:性別,年 齢,学部・学科・専攻,学年,居住形態,出身地, サークル参加,アルバイト経験をたずねた。   2 .社会に対する評価:「今の社会を見ていて, いいと感じているところ,悪いと感じているとこ ろ,好きなところ,嫌いなところなどいろいろあ るかと思います。あなたは,今の社会についてど のように感じていますか」4 という質問に対し, 自由記述方式で回答を求めた。 結果と考察  自由記述の回答者111名(男性58名,女性53名) を分析対象とした。  得られた自由記述を,KJ 法(川喜田,1967) を参考にして筆者が分類した。まず,各人の記述 を 1 つの意味内容のみを表すまで分割した。対象 者 1 名につき最低 1 個,最高12個,全体で245個 の記述が得られた。次に,分割した記述を内容の 類似したものごとに分類した。 3 段階のグループ 化を経て,【全体的なイメージ】,【能力主義】,【経 済・生活】,【政治】,【安全】,【文化】,【メディア】, 【人と人との関係】,【人間】,【社会と自分】,【社 会を評価することに対する考え】,【未分類】とい う12の大カテゴリーが抽出された(Table 1)。各 カテゴリーの特徴は次のとおりであった。なお, 大カテゴリーは【】,中カテゴリーは「」で括った。  最も多かったのは,【全体的なイメージ】(記述 数39,全記述数に対する割合15.9%)に分類され た記述であった。このカテゴリーには,社会全体 に対する漠然としたイメージについての記述がま とめられた。「全体的な負のイメージ」(記述数10 例, カ テ ゴ リ ー 内 の 全 記 述 数 に 対 す る 割 合 25.6%。以下,括弧内の数字は同様),「悪い方向 へ向かうことに対する不安」( 8 例,20.5%),「味 気のない社会」( 7 例,17.9%),「裏がある社会」 ( 2 例,5.1%)と,約 7 割が社会に対する否定的 なイメージについての記述であった。一方で,決 して絶望的な社会ではないという記述もみられた (「決して悪いことばかりではない社会」, 4 例, 10.3%)。  次いで,【人と人との関係】(記述数35,全記述 数に対する割合14.3%)に分類された記述が多 か っ た。「 人 間 同 士 の 関 係 の 希 薄 さ 」(18例, 51.4%),「他者に対する攻撃」(10例,28.6%),「差 別・偏見」( 2 例,5.7%)に分類された記述はカ テゴリー内の 9 割近くを占めており,人間関係の 希薄化や他者への冷たさに関する記述が多かっ た。残りは,「一人一人が尊重されない社会」( 5 例,14.3%)に分類された。記述の全てが,現在 の社会で人と人との関係に問題があるととらえて いる内容であった。   3 番目に多かった【経済・生活】(記述数34, 全記述数に対する割合13.9%)については,「物 質的豊かさ」(11例,32.4%),「とりあえず生き ていける社会」( 5 例,14.7%),「万全な健康対策」 ( 1 例,2.9%)に分類されるような肯定的記述が あった。一方で,「大不況」( 9 例,26.5%),「欲 を追求し続けている社会」( 6 例,17.6%),「お 金がものをいう社会」( 2 例,5.9%)に分類され るような否定的記述も同程度あった。 4 最初に配布した17名に対しては,「今の社会を見て いて,いいと感じているところ,悪いと感じている ところ,好きなところ,嫌いなところがあると思い ます。どのような意見をもっていますか」という教 示で行ったが,「意見なし」という回答者が 1 名い たため,その後の調査では,より記述しやすい文章 に改めた。文章修正前後で記述の内容に大きな違い が見られなかったため,修正前の17名の記述も分析 に含めた。

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Table 1 社会に対する評価についての自由記述の分類(括弧内は記述数) 第 3 段階 第 2 段階 記述例 全体的なイメージ (39) 全体的な負のイメージ(10) 「全てがネガティブな感じがします」 悪い方向へ向かうことに対する不安( 8 ) 「日本社会というものは本当に破滅に向かっているように感じます」 味気のない社会( 7 ) 「単調でつまらない」 短いスパンで動いていく社会( 7 ) 「目まぐるしく変化している」 決して悪いことばかりではない社会( 4 ) 「負のイメージが先行してはいるが,決して『絶望』ではない」 裏がある社会( 2 ) 「悪いと感じているところ→裏が多い」 過去の慣習の踏襲( 1 ) 「近年まで,過去の習慣・体制が踏襲されてきている」 能力主義 ( 7 ) 競争社会( 2 ) 「競争がはげしい」 限られた人しか手に入れられない豊かさ( 2 ) 「チャンスが与えられている人は極わずかで,努力しても報われない人が増えている気がする」 実力社会の弊害( 2 ) 「実力社会を指向した結果が,労働者を切り売りするようになった社会」 完全な能力主義ではない社会( 1 ) 「好きなところは,完全に能力主義ではないところです」 経済・生活 (34) 大不況( 9 ) 「失業率などを考えるとお先まっくらという感じがする」 お金がものをいう社会( 2 ) 「金がない=何もできない」 物質的豊かさ(11) 「豊かで物にあふれている社会」 欲を追求し続けている社会( 6 ) 「今の,日本社会はみんながわがままで欲ばりになっていると思います」 とりあえず生きていける社会( 5 ) 「生きるだけならどんな人間でもとりあえず生きられる社会」 万全な健康対策( 1 ) 「良いところは,健康面での安全対策が万全に行われているところ」 政治 (20) 政治全体や政策への不信( 9 ) 「信用できない(政治)」 国民と政治家,国会,政府との乖離( 7 ) 「国会の中だけで盛り上がっている気がする」 現代社会に即していない法制度( 1 ) 「法制度自体も現代社会に即していないと感じます」 他国に言われるがままの日本( 3 ) 「他国に左右されやすかったり」 安全 (10) 治安がよく,平和 な社会( 6 ) 「治安の良さは,日本に生まれて良かったと思っている」 犯罪増加による治安の悪化( 3 ) 「若い人の犯罪が増えていて良くない。(大麻など)」 個人的理由からの殺人の多発( 1 ) 「個人的な理由からの殺人事件が多い」 文化 ( 6 ) 素晴らしい独自文化( 4 ) 「独自文化がある。「日本!」て感じの文化がまだ残ってるところとか」 豊富な娯楽( 1 ) 「娯楽が豊富なこと。(音楽や映画,バラエティ,スポーツ)」 宗教活動を強制されない社会( 1 ) 「自分が無宗教なので,宗教活動を強制されない(無宗教でも何も言われない)社会であることはすごく良いと感じます」 メディア (31) マスコミの報道姿勢の悪さ( 8 ) 「コロコロ態度を変えるアホなマスコミ」 マスコミの過剰報道と人々の過剰反応(11) 「何事も,マスメディアであおり立てる程には何も起こっていないように感じる」 メディアの影響による何も考えない人の増加( 9 ) 「マスコミに影響されすぎている」 インターネットの普及による社会生活の変化( 2 ) 「ネット文化が普及し,同じ考えを持った人同士の交遊など,世代・地域を超えた関りが増え,充実」 暗いものばかりではないニュース( 1 ) 「いいと感じているところ→ニュースが暗いものばかりでないこと」 人と人との関係 (35) 人間同士の関係の希薄さ(18) 「人と人とのつながりがうすれているような気がしています」 他者に対する攻撃(10) 「人をさげすむ人が多くなった気がする」 差別・偏見( 2 ) 「差別や偏見もまだまだ残っている」 一人一人が尊重されない社会( 5 ) 「少しでも“普通”からはみだすだけで,数の原理で封じ込めようとする」 人間 (23) 社会に生きる人間の質の低下( 5 ) 「この社会に生きる人間の質が下がっていってる」 閉鎖的な国民性( 6 ) 「日本人は全般的に視野が狭いと感じることが多い」 頑張っている人たちの存在( 4 ) 「皆頑張って働いている」 主体性のなさ( 7 ) 「みんな流されるの好きですよね」 今を楽しむ人たちの増加( 1 ) 「良いと思うのはずっと先のことよりも今を楽しむ人がふえていること」 社会と自分 (17) 自分次第で何とかなるという思い( 5 ) 「社会のせいでなくて自分しだいでどうにでもなる !!」 この社会をどう生きていくか考えることの楽しさ( 3 )「これから,そういう世界でどういきていけば成功なのかそれを考えることはあるいみたのしみでもある」 社会に出ていくことに対する不安( 4 ) 「不安や,就職がちゃんとできるかどうかの心配ごとが大きい」 大変そうな社会だが仕方がないという思い( 2 ) 「何だかんだ言っても物質的なものによって幸せを求めざるを得ない今の社会では生きにくそうな気がします。でも仕方ない」 自分からは遠いと感じる社会( 3 ) 「世の中の事象すべてがなんとなく自分と直接関係ないような,自分からは遠いことのような感じがして,良いとか悪いとかの評価以前に,自分 が「社会」を捉えられていないような気がします」 社会を評価することに 対する考え (12) 特に何も感じない・無関心( 5 ) 「社会には無関心なので,あまり感じることはないです」 社会を評価することの困難さ( 4 ) 「良い・悪いとか,いろんな側面があるから,いちがいにどっち!とは言えない」 「社会」の定義( 3 ) 「社会という定義がわかりませぬ」 未分類(11) 「何ごとも結果論や意味だけが先行しているのもおかしいと思う」  記述数合計245 注 1:第 1 段階と基礎データは省略した。 注 2:記述例については,明らかな誤字脱字以外は修正せず,原文のまま載せた。

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 否定的な内容の記述の割合が特に多かったの は,【メディア】と【政治】であった。【メディア】 (記述数31,全記述数に対する割合12.7%)に分 類された記述は,「マスコミの過剰報道と人々の 過剰反応」(11例,35.5%),「メディアの影響に よる何も考えない人の増加」( 9 例,29.0%),「マ スコミの報道姿勢の悪さ」( 8 例,25.8%)と, 約 9 割がメディアやメディアの情報に反応する 人々への批判であった。【政治】(記述数20,全記 述数に対する割合8.2%)は,「政治全体や政策へ の不信」( 9 例,45.0%),「国民と政治家,国会, 政府との乖離」( 7 例,35.0%),「他国に言われ るがままの日本」( 3 例,15.0%),「現代社会に 即していない法制度」( 1 例,5.0%)となってお り,全記述が批判的な内容であった。  一方,肯定的な記述が多かったのは,【文化】 と【安全】であった。【文化】(記述数 6 ,全記述 数に対する割合2.4%)では,日本独自の文化に 対する肯定的記述が多かった(「素晴らしい独自 文化」, 4 例,66.7%)。【安全】(記述数10,全記 述数に対する割合4.1%)では,治安のよさに関 する記述が多かった(「治安がよく,平和な社会」, 6 例,60.0%)。  【能力主義】(記述数 7 ,全記述数に対する割合 2.9%)については,今の日本社会が能力主義的 か否かという記述(「競争社会」,2 例,28.6%)や, 能力主義社会の問題点に関する記述(「限られた 人しか手に入れられない豊かさ」と「実力社会の 弊害」,計 4 例,57.1%)がみられた。  【人間】(記述数23,全記述数に対する割合9.4%) については,「主体性のなさ」( 7 例,30.4%)や, 「閉鎖的な国民性」( 6 例,26.1%)に関する記述 があった。その一方で,真面目に頑張っている人 もいるという肯定的な記述もみられた(「頑張っ ている人達の存在」, 4 例,17.4%)。  【社会と自分】(記述数17,全記述数に対する割 合6.9%)に関しては,進路選択の面から社会と 自分とを関連づけた記述がみられた。進路選択に 関した記述においては,不況のなかで生きること に対する姿勢として,大きく分けて 2 つのタイプ があった。 1 つは「自分次第で何とかなるという 思い」( 5 例,29.4%),「この社会をどう生きて いくのか考えることの楽しさ」( 3 例,17.6%) に分類されるような,自分の力で乗り切っていこ うとするタイプの記述であった。もう 1 つは,「社 会に出ていくことに対する不安」( 4 例,23.5%) に分類されるような,不安を抱いているタイプの 記述であった。この他に,自分と社会との距離に 関する記述(「自分からは遠いと感じる社会」, 3 例,17.6%)などがあった。  【社会を評価することに対する考え】(記述数 12,全記述数に対する割合4.9%)については,「特 に何も感じない・無関心」( 5 例,41.7%)や,「社 会を評価することの困難さ」( 4 例,33.3%),「『社 会』の定義」( 3 例,25.0%)に分類されるよう な記述がみられた。「社会」を定義したり,社会 を評価したりすることが難しいという内容の記述 がみられた。  結果をまとめると,次の 5 点が明らかになっ た。第一に,個々の大学生が社会という語から思 い浮かべる事柄は,漠然とした社会全体,社会を 構成している人々,制度的側面,文化的側面,治 安,社会と自分とのかかわりというように,多様 であることが明らかにされた。大学生に「社会」 という単語から連想する単語を挙げさせている浦 上(2012)の研究では,「政治」「会社」「歴史」「人」 「大人」「お金」「集団」「つながり」「人間」「人間 関係」「ルール」が,連想語の上位に来ることが 明らかにされている。本研究で抽出された【人と 人との関係】は,浦上(2012)の研究で抽出され た「集団」「つながり」「人間関係」と重なる。同 様に,【人間】は「人」や「人間」,【経済・生活】 は「お金」と重なる。一方,浦上(2012)と比べ て,政治や会社,歴史に関する記述が相対的に少 なかった。調査時期や対象者の違いを反映してい る可能性もあるが,連想する単語を書き出す浦上 (2012)の研究と,「社会に対してどのように感じ ているか」をたずねた本研究の違いがあらわれた 結果と考えられる。先行研究では社会そのものと して扱われることがあまりなかった【メディア】

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というカテゴリーが抽出されたことも,特筆すべ き点である。大学生が何を社会としてとらえてい るのかを自由記述により明らかにしたことで,新 たな知見が得られたといえる。本研究や浦上 (2012)の結果を踏まえると,大学生の社会観を 検討する際には,社会全体から社会を構成する人 間まで多様な面を含めて考える必要があることが 示唆される。  第二に,全体的にみると,大学生は社会を否定 的に見る傾向があることが明らかにされた。【全 体的なイメージ】,【人と人との関係】,【メディ ア】,【政治】,【人間】,【能力主義】という 6 カテ ゴリーにおいて,否定的な記述が 6 割を超えてい た。特に,社会を構成する人々や政治家,マスメ ディアの自己中心的な行動を問題視する学生が少 なくなかった。青年が社会を否定的にとらえると いう傾向は,先行研究でも指摘されている(e.g. 白井,1990;百合草,1981)。一般的に,青年期 は大人や社会に疑問を抱いたり,抵抗したりする ことが多くなる時期とされる。本研究の結果に も,青年期という発達段階の特徴が表れていると 考えられる。  第三に,大学生は物質的な豊かさや治安のよ さ,独自の文化などをより肯定的にとらえる傾向 があった。【文化】と【安全】は 6 割以上,【経済・ 生活】は半数が肯定的な記述であった。これらの 側面は,社会に対する否定的評価とは異なり,日 本以外の国や地域など他のものとの比較によって 相対化して評価をしていることが示唆される。  第四に,問題部分で述べた「努力が報われる社 会であるかどうか」という点に関したカテゴリー としては,【能力主義】と【社会と自分】の 2 つ が抽出された。【能力主義】には,限られた人し か努力が報われないとする記述や能力主義によっ て問題が起きているととらえる記述がみられた。 【社会と自分】では,「自分次第で何とかなる」と いう記述もあれば,「不安がある」という記述も あった。記述数は多くはないが,努力が報われる かどうか敏感になっている学生が一定数いること がうかがえる。  第五に,社会に対する否定的な評価は多くの学 生に共通していても,その上での態度には「不安 がある」,「自分次第で何とかなる」,「仕方がな い」,「絶望的というほどではない」といった差異 がみられた。一方で,これらの差異は,否定的な 印象のある社会を変えようとするよりも,自分の 力で乗り越えようとする点においては共通してい る。自分の力で何とかしなければいけないという 思いがあるからこそ,不安を感じる学生もいれ ば,自分次第だと考える学生もいるといえる。白 井(1990)は,より否定的な社会の未来像とより 肯定的な自己の未来像という不一致がある場合, 青年は社会への関与によってではなく,自己の認 知を変化させることで不一致を低減させようとす る傾向があることを明らかにしている。白井 (1990)は中学生を対象としているが,大学生に おいても同様であるといえる。第四の点や第五の 点は,先に述べたような,個人の努力がより求め られる社会状況も大きくかかわっていると考えら れる。  以上の結果を踏まえて,研究 2 では社会観を測 定する尺度を作成する。 研  究  2 目的  大学生の社会観の特徴を明らかにするために, 研究 1 で得られた記述と既存の尺度から項目を選 定し,社会の多様な側面に関する項目が含まれた 尺度を作成する。作成された尺度の妥当性および 信頼性を検討する。大学生の基本属性による社会 観の差異を検討する。 方法  調査対象者 X 大学の学生271名(男性119名, 女性152名,平均年齢20.01歳〔SD=1.39〕)であっ た。 1 年生93名, 2 年生87名, 3 年生45名, 4 年 生以上45名,不明 1 名であった。文学部90名,商 学部56名,法学部66名,経済学部45名,総合政策 学部13名,不明 1 名であった。一人暮らし122名,

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実家138名,寮 4 名,その他 4 名,不明 3 名であっ た。サークル・部活動所属224名,無所属46名, 不明 1 名であった。アルバイト経験あり218名, なし52名,不明 1 名であった。  調査時期および手続き 2009年10月中旬−下旬 に実施した。対象者のうち243名については,学 内で筆者が質問紙を個別配布し,その場でまたは 後日回収した。残りの28名については,担当者の 許可の下,心理学専攻 2 年次の授業時に質問紙を 筆者が配布し,その場で回収した。回答の所要時 間は約15分であった。倫理的配慮は研究 1 と同様 に行った。授業時の協力者には,後日,結果の一 部を口頭と書面で報告した。  質問紙の構成  1 .フェイスシート:出身地を 除いて,研究 1 と同様の項目をたずねた。   2 .社会観:以下の手順によって,社会観尺度 の項目を選定した。まず,研究 1 で得られた記述 のなかから,社会観を測定するのに適しているも のを選定した。【社会を評価することに対する考 え】と【未分類】に分類された記述は,社会観の 定義から外れる内容となっているため,選定から 外した。それ以外のカテゴリーに含まれていて も,社会観を測定するのに適していない記述や調 査時期特有の問題に関する記述(たとえば,新型 インフルエンザの流行に関する記述)は除外し た。より多くの大学生が何を社会としてとらえて いるのかを考慮するために,各カテゴリーに分類 された記述数に応じて,選定する項目数を調整し た。研究 1 で述べたように,全体的に否定的な内 容の記述が多かった。否定的な内容の項目が連続 することによる回答者の心理的負担を軽減するた め,肯定的な内容の項目は,他の項目と多少内容 が重なっていても可能な限り含めるようにした。 研究 1 の自由記述から選定された項目は,合計で 73項目であった。【全体的なイメージ】から12項 目,【能力主義】から 5 項目,【経済・生活】から 13項目,【政治】から 8 項目,【安全】から 3 項目, 【文化】から 2 項目,【メディア】から 5 項目,【人 と人との関係】から13項目,【人間】から10項目, 【社会と自分】から 2 項目を選定した。次に,社 会観に関する既存の項目から,「正しいことが通 りにくい」,「正直者がバカを見ることが多い」, 「国民が主人公になっている」(いずれも,都筑, 2008)の 3 項目と,努力に関する 4 項目(浅川, 2008;Benesse 教育研究開発センター,2009;都 筑,2008)の計 7 項目を選び出した。努力に関す る項目以外の 3 つは,個々人の意見が反映される 社会であるかどうかにかかわり,個人と社会との 関係を意識させる項目であると考えられるため選 定した。各項目の文面は,今の大学生の意見を反 映させるため,可能な限り自由記述の文面どおり にした。研究 1 をもとに選定された項目と内容が 重なり,かつ文面が平易な既存項目がある場合 は,既存項目を採用した。以上の手続きによって 得られた80項目を,社会観を測定するための仮尺 度とした。心理学専門の教員 1 名に目視によって 教示文や項目内容を確認してもらい,修正を行っ た。  回答は,「全くそう思わない( 1 点)」から「と てもそう思う( 5 点)」までの 5 件法によって求 めた。教示文は「あなたが,現在の日本社会につ いてどう思っているのか,お聞きします。なお, 社会という言葉にはさまざまな意味があります が,ここでいう社会とは『政治,経済,法制度, 文化などの複合体であり,そこで生活している 人々のことも含めたもの』とします」とした。   3 .社会に対するイメージ:都筑(1993)の時 間的態度尺度の項目(15の形容詞対)および,高 木他(1980)の社会イメージの測定尺度の項目(20 の形容詞対のうち,都筑の尺度と重複する項目を 除いた15対)を用いた SD 法(30の形容詞対, 7 件法)によってたずねた。時間的態度尺度の項目 を用いた理由は,第一に,内容が高木他(1980) の項目に一部重なっており,社会を対象とした場 合においても適用できると判断されたためであっ た。第二に,高木他(1980)にはない形容詞対も 含まれており,より詳細なイメージを把握しうる と考えたためであった。因子分析(主因子法, Promax回転)を行った結果,最終的に残った 2 因子14項目を用いた。充足感や安心感に関する項

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目で構成された「豊かさ」因子(10項目,α=.80, 項目例:「豊かな−貧しい」,「安心な−不安な」) と,活力や明瞭性に関する項目で構成された「明 快さ」因子( 4 項目,α=.58,項目例:「生き生 きした−活気のない」,「はっきりした−ぼんやり した」)からなっていた。回答は,「全く」「かなり」 「やや」「どちらでもない」「やや」「かなり」「全く」 の 7 件法で求めた。教示文は「あなたの社会に対 するイメージについて,お聞きします。あなたは, 現在の日本社会についてどのようなイメージを もっていますか」とした。   4 .社会認知:高木他(1980)の社会認知の測 定尺度20項目(「社会的平等・公正・福祉」〔10項 目。項目例:「教育の機会均等の保障(保障され ていない−保障されている)」〕,「社会的連帯・希 望」〔5 項目。項目例:「世代の断絶(大きい−小 さい)」〕,「個人の自由・権利」〔5 項目。項目例: 「思想や意見発表の自由(保障されていない−保 障されている)」〕)を用いた。社会に対するイメー ジと同じ 7 件法で回答を求めた。 結果と考察  社会観尺度の因子分析結果 社会観仮尺度の80 項目について,探索的因子分析を行った(主因子 法,Promax 回転)。初回の因子分析において,固 有値の減衰傾向(10.19,5.23,2.75,2.38,2.22, 2.19…)および因子の解釈可能性から, 3 因子解 (回転前の累積寄与率19.8%)あるいは 4 因子解 (回転前の累積寄与率21.9%)が妥当であると判 断された。 2 回目以降は, 3 因子設定と 4 因子設 定でそれぞれ分析を行った。当該因子の負荷量が 絶対値 .35未満の項目と,複数の因子に絶対値 .35 以上の負荷量を示した項目を削除して分析をくり 返した。分析をくり返すなかで, 4 因子設定は複 数の因子に負荷量の高い項目が多く,単純構造と ならなかったため, 3 因子設定で分析を行った。 最終的に,Table 2のような 3 因子構造の因子パ ターン(累積寄与率31.4%)が得られた。  第 1 因子は,「自分中心に働く人が多い」,「差 別や偏見がある」など社会で生きている人々やメ ディアの自己中心性に関する19項目で構成されて いたため,「自己中心性・独善性に対する否定的 評価」と命名した(α=.85)。第 2 因子は,「社 会全体は平和である」,「便利な社会である」など 治安のよさや便利さを表す12項目から構成されて いたため,「生活の安定性に対する肯定的評価」 と命名した(α=.76)。第 3 因子は,「社会で成 功できるかどうかは本人の努力次第だ」,「本人の 頑張り次第でお金持ちになれる社会だ」といった 努力が報われることに関した 7 項目から構成され ていたため,「個人の努力の尊重」(α=.73)と 名づけた。以上の 3 因子38項目が得られた。いず れの因子も Cronbach のα係数が .70以上となって おり,一定の内的整合性および信頼性があると判 断された。  因子分析の結果,作成された社会観尺度の累積 寄与率は 3 割台と低かった。その第一の要因とし て,各項目の平均値の高さが考えられる。各項目 の得点範囲は1.00から5.00までであるが,平均値 が3.50以上となったのは38項目中26項目と 7 割以 上であった。多くの学生が各項目に対して「当て はまる」と回答したため,まとまりにくかった可 能性がある。第二に,抽出された因子は,研究 1 で抽出されたカテゴリーごとに構成されていない という要因が考えられる。多様な側面の項目が同 じ因子に含まれているため,まとまりにくかった と考えられる。第三に,「社会をどのように見て いるか」を表す社会観は,社会的態度のような価 値的態度よりもゆらぎやすいという要因が考えら れる。以上のことから,累積寄与率の低さは,大 学生の社会観の特徴を示しているともとらえられ るため,続けて妥当性の検討を行うこととした。  社会観尺度の構成概念妥当性の検討 本研究で は,高木他(1980)の社会認知の測定尺度と社会 に対するイメージの項目を用いて,社会観尺度の 妥当性を検討する。高木他(1980)の尺度によっ て測定される社会認知と社会に対するイメージ は,本研究で測定される社会観に類似した概念で あるため,社会に対して肯定的な下位尺度は社会 認知および社会イメージと正の相関を,社会に対

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Table 2 社会観尺度の因子分析結果(主因子法,Promax 回転) Ⅰ Ⅱ Ⅲ M SD Ⅰ 自己中心性・独善性に対する否定的評価  (α=.83) h12 自分中心に動く人が多い .55 .05 .06 3.78 0.87 h11 差別や偏見がある .54 −.03 .12 4.19 0.73 g2 マスメディアが伝える情報によって人々がおどらされている .52 .24 .03 4.37 0.69 C5 正しいことが通りにくい .52 −.11 0.00 3.64 0.87 h8 少数派の人が社会不適合者であるかのように扱われる .50 .11 −.13 3.72 0.96 C4 正直者がバカを見ることが多い .50 .02 −.18 3.63 0.94 h10 常に誰かを 謗・中傷している社会だ .49 −.00 −.08 3.81 0.88 c8 不満ばかり言う人が多い .46 .27 −.01 3.87 0.81 c5 経済的に不安定である .46 −.27 −.10 3.83 0.92 g1 事実がきちんと報道されない .45 .11 −.05 3.89 0.90 c13 欲の追求ばかりをしている .44 .07 .22 3.82 0.95 h13 助け合いの精神がない .43 −.24 .12 3.08 0.99 d8 国の方針を国民と共有できていない .42 −.07 .05 3.86 0.87 g4 マスメディアの報道が一面的である .40 .18 −.06 4.04 0.83 c2 お金がものをいう社会だ .40 .06 −.01 3.99 0.76 c11 お金がないと何もできない .39 −.06 .10 4.08 0.92 d6 日本のトップにいる人たちは自分たちのことしか考えていない .38 −.18 −.18 3.49 1.09 a3 先行きが不安な社会である .38 −.16 −.12 4.07 0.85 h9 他人に対して無関心な人が多い .35 .06 −.04 3.70 0.89 Ⅱ 生活の安定性に対する肯定的評価  (α=.76) e1 社会全体は平和である −.03 .57 −.15 3.34 1.04 e2 治安がよい −.15 .56 −.11 3.67 1.04 c10 便利な社会である .28 .49 .12 4.14 0.79 c7 生きるだけならとりあえず生きていける社会である .18 .48 −.02 4.03 0.90 f2 娯楽が豊富である .28 .47 .05 4.33 0.79 g3 マスメディアで伝えられているほどには悪い社会ではない −.14 .45 .18 3.30 0.97 c6 物質的に豊かである .11 .45 .01 4.19 0.84 c12 生存の心配がなく生活できる −.02 .44 .03 3.51 1.04 e3 犯罪が増えていて昔より安全でなくなっている R .19 -.44 .20 2.86 1.11 a9 この社会にはそれなりに楽しいことがある .08 .41 .18 4.06 0.78 h7 協調性のない社会である R .25 -.39 .03 3.32 0.92 i9 まじめな人たちがいる .09 .38 .04 4.07 0.75 Ⅲ 個人の努力の尊重  (α=.73) Aj2 社会で成功できるかどうかは,本人の努力次第だ .17 −.13 .67 3.83 0.93 B1 本人の頑張り次第でお金持ちになれる社会だ −.03 −.04 .67 3.00 1.08 C2 努力すればむくわれる社会だ −.11 −.06 .63 2.85 0.99 c9 自分のやりたいことを見つけられる社会である 0.00 .01 .48 3.04 0.97 j1 何事も社会のせいではなく,結局は自分(本人)次第である .14 .15 .41 3.56 1.01 Cb5 努力のしがいのない社会だ R .25 −.15 -.38 3.36 0.99 C1 夢のある社会だ −.15 .01 .35 2.45 0.83 因子間相関 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅰ ― −.19 −.22 Ⅱ ― .41 Ⅲ ― 注 1:R がついている項目は逆転項目である。この表に載せた逆転項目の平均値は,逆転処理済みのものである。 注 2:各項目に付けられたアルファベットは,下記のカテゴリーおよび引用文献を意味している。 2 種類のアルファベット が付いている項目は,研究 1 で得られた記述と重複した内容の既存項目の文面を採用している。 a【全体的なイメージ】, b【能力主義】,c【経済・生活】,d【政治】,e【安全】,f【文化】,g【メディア】, h【人と人との関係】,i【人間】,j【社 会と自分】,A 浅川(2008),B Benesse 教育研究開発センター(2009),C 都筑(2007)。 注 3:絶対値 .35以上の因子負荷量をボールド体で示した。

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して否定的な下位尺度は負の相関を示すと推測さ れる。「自己中心性・独善性に対する否定的評価」 には,社会で生きている人々の自己中心性や他者 への関心のなさなどに関する項目が含まれている ため,人と人とのつながりの強さに関する項目か ら構成されている社会認知の「社会的連帯・希 望」との間に,他の因子に比べて相対的に強い負 の相関があると推測される。また,政治やメディ アなどの不公正さに関する項目が含まれているた め,社会認知の「社会的平等・公正・福祉」との 間に,相対的に強い負の相関があると推測され る。物質的豊かさや治安のよさにかかわる項目か ら構成されている「生活の安定性に対する肯定的 評価」は,「豊かな−貧しい」,「安心な−不安な」 といった項目で構成されている社会イメージの 「豊かさ」との間に相対的に強い正の相関がある と推測される。「個人の努力の尊重」は,活力や 見通しのよさに関する項目から構成されている社 会イメージの「明快さ」との間に,相対的に強い 正の相関があると推測される。  社会観尺度の 3 因子と,社会イメージの 2 因 子,および社会認知の 3 因子との間の相関分析を 行った結果は,以下のとおりであった(Table 3)。  「自己中心性・独善性に対する否定的評価」は, 「個人の自由・権利」以外の 4 因子と有意な負の 相関を示した。特に,「社会的連帯と希望」との 間に,他の因子と比べて相対的に強い負の相関を 示した(r=−.42,p<.001)。「生活の安定性に対 する肯定的評価」は,全 5 因子と有意な正の相関 を示した。特に,「豊かさ」との間に,他の因子 と比べて相対的に強い正の相関を示した(r=.60, p<.001)。「個人の努力の尊重」は,全 5 因子と 有意な正の相関を示した。特に,「豊かさ」との 間に,他の因子と比べて相対的に強い正の相関を 示した(r=.44,p<.001)。  因子間で中程度の相関のあるものが存在し,擬 似相関の可能性があるため,また,複数の因子に 同程度の相関がある因子が存在し,弁別性が明瞭 ではないため,社会観尺度の各因子と,社会イ メージおよび社会認知の各因子との間の偏相関分 析を行った。  偏相関分析の結果,「自己中心性・独善性に対 する否定的評価」は,「社会的連帯と希望」との 間に他の因子と比べて相対的に強い負の相関を示 した(r=−.25,p<.001)。また,「社会的平等・ 公正・福祉」とも同程度の負の相関(r=−.23, p<.01)を示した。「生活の安定性に対する肯定 的評価」は,「豊かさ」との間に他の因子と比べ て 相 対 的 に 強 い 正 の 相 関 を 示 し た(r=.48,p <.001)。「個人の努力の尊重」は,「明快さ」と の間に他の因子と比べて相対的に強い正の相関を 示した(r=.24,p<.001)。偏相関分析の結果から, 社会観のいずれの下位尺度も,概ね想定されてい た下位尺度との間に相対的に強い相関があること が明らかにされ,社会観尺度には一定程度の構成 概念妥当性があると判断された。  社会観の属性差の検討 属性別の社会観下位尺 度得点の平均値の差の検定を行った結果,性別, 学年,居住形態において群間の平均値に有意な差 がみられた。学部,サークル参加,アルバイト経 Table 3 社会観の下位尺度と,社会イメージおよび社会認知の各下位尺度の相関(右上)と偏相関(左下) 1 2 3 4 5 6 7 8 1 .自己中心性・独善性に対する否定的評価 ― −.21***−.29***−.38***−.23***−.36***−.42***−.08*** 2 .生活の安定性に対する肯定的評価 ― .36*** .60*** .22*** .38*** .16*** .38*** 3 .個人の努力の尊重 ― .44*** .42*** .37*** .38*** .32*** 4 .豊かさ −.19*** .48*** .12*** .40*** .41*** .35*** .33*** 5 .明快さ −.03***−.07*** .24*** .32*** .34*** .19*** 6 .社会的平等・公正・福祉 −.23*** .11*** .06*** .36*** .50*** 7 .社会的連帯・希望 −.25***−.12*** .18*** .16*** 8 .個人の自由・権利 −.20*** .17*** .09*** 注 1:偏相関分析では,相関をみる下位尺度以外の社会観・社会イメージ・社会認知の各下位尺度を制御変数とした。 注 2:*p<.05,**p<.01,***p<.001

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験については,群間に有意な差はみられなかっ た。性別については,「生活の安定性に対する肯 定的評価」(t(269)=3.62,p<.001)および「個人 の努力の尊重」(t(269)=4.89,p<.001)において, 男性のほうが女性よりも平均値が高かった(Table 4)。女性は男性に比べて社会的に不利な立場にな ることが多いとされているため,性差がみられた と考えられる。学年については,「自己中心性・ 独善性に対する否定的評価」(F(3,266)=3.62,p <.05)において, 1 年生と 3 年生は, 4 年生よ りも平均値が高かった(Table 5)。「生活の安定性 に対する肯定的評価」(F(3,266)=3.05,p<.05) において, 4 年生のほうが 1 年生よりも平均値が 高かった。 4 年生は進路選択を経て,社会につい ての知識を獲得したり,社会に対して前向きにと らえようとしたりしている可能性が示唆される。 1 年生は,入学前に思い描いていた生活との ギャップを感じることなどで,社会に対して不満 や不信を抱きやすい可能性がある。 3 年生の多く は就職活動の最中であり,社会に対する不満を抱 きやすい可能性がある。居住形態については,「生 活の安定性に対する肯定的評価」(t(269)=3.25, p<.01)および「個人の努力の尊重」(t(269)=2.37, p<.01)において,一人暮らしの人のほうが実家 生よりも平均値が高かった。一人暮らしの人は, 保護者のもとを離れて自活することで,社会のな かで生きていけるという効力感をより得ている可 能性が示唆される。ただし,実家生の約65%(90 名)が女性であり,性差の反映である可能性もあ る。 総合的考察 本研究で得られた知見  本研究では,大学生の社会観の特徴を明らかに するため, 2 つの研究を通じて,社会観を測定す る尺度を作成した。  研究 1 からは,大学生の社会観の特徴として, (a)個々の大学生が社会としてとらえているもの が多様であること,(b)社会の全体的な印象,政 治,メディア,人と人との関係を否定的にとらえ る傾向があること,(c)物質的な豊かさ,独自文 化,治安を肯定的にとらえる傾向があること,(d) 否定的な社会観は共通していても,「何とかな Table 4 性別,居住形態,サークル参加,アルバイト経験の違いにおける社会観下位尺度得点の t 検定結果 全体 性別 居住形態 サークル・部活動 アルバイト経験 男性 女性 tr 一人暮らし 実家 tr 所属 無所属 t 値 r あり なし tr n 119 152 122 138 224 46 218 52 否定的評価 3.84 3.81 3.86 −0.84*** .05 3.79 3.87 −1.47** .09 3.83 3.86 −0.42 .03 3.83 3.86 −0.48 .03 (0.44)(0.45)(0.43) (0.44)(0.42) (0.43)(0.46) (0.44)(0.44) 肯定的評価 3.73 3.85 3.64  3.62*** .22 3.83 3.65  3.25** .20 3.74 3.72  0.25 .02 3.76 3.63  1.67 .10 (0.48)(0.52)(0.42) (0.46)(0.47) (0.49)(0.43) (0.49)(0.42) 個人の努力 3.16 3.35 3.01  4.89*** .29 3.25 3.08  2.37** .15 3.17 3.11  0.57 .04 3.17 3.11  0.66 .04 (0.60)(0.64)(0.52) (0.63)(0.57) (0.60)(0.62) (0.62)(0.50) 注 1:「否定的評価」は「自己中心性・独善性に対する否定的評価」,「肯定的評価」は「生活の安定性に対する肯定的評価」,「個人の努力」は「個人の努 力の尊重」の略。 注 2:上段の数値は平均値,下段の数値は標準偏差。 注 3:*p<.05,**p<.01,***p<.001 Table 5 学年および学部別における社会観下位尺度得点の分散分析結果 学年 学部 1 年 2 年 3 年 4 年 F値 偏η2 多重比較 経済 総合政策 F 偏η2 n 93 87 45 45 90 56 66 45 13 否定的評価 3.89 3.81 3.93 3.67 3.62* .04 1 , 3 年> 4 年 3.86 3.82 3.79 3.89 3.74 0.66 .01 (0.41) (0.43) (0.44) (0.47) (0.44) (0.43) (0.45) (0.40) (0.54) 肯定的評価 3.63 3.77 3.73 3.88 3.06* .03 4 年> 1 年 3.72 3.83 3.71 3.63 3.90 1.57 .02 (0.45) (0.45) (0.47) (0.57) (0.45) (0.48) (0.48) (0.52) (0.49) 個人の努力の尊重 3.07 3.13 3.23 3.29 1.79* .02 3.04 3.26 3.30 3.08 3.13 2.37 .03 (0.59) (0.55) (0.59) (0.68) (0.57) (0.62) (0.60) (0.58) (0.69) 注 1:「否定的評価」は「自己中心性・独善性に対する否定的評価」,「肯定的評価」は「生活の安定性に対する肯定的評価」の略。 注 2:上段の数値は平均値,下段の数値は標準偏差。 注 3:* p<.05

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る」,「不安を感じる」など社会のなかで生きてい く上での個々人の意識には差異があることが明ら かにされた。(a)の点は,浦上(2008)が課題と して挙げた,大学生が何を社会としているのかと いう点を明らかにしているといえる。たとえば, メディアは,先行研究では社会そのものとして取 り上げられることがあまりなかった。大学生自身 の声から出発したことで,大学生個々人がとらえ る社会を抽出できたといえる。(d)の点は,青年 は社会を否定的にとらえる傾向があるという点 で,先行研究と一致する。しかし,否定的に社会 をとらえるのは多くの学生に共通していても,否 定的にとらえた社会のなかで自分が生きることに 対しては,「何とかなる」という学生もいれば, 「不安を感じる」という学生もおり,反応は分か れていた。ただし,「何とかなる」という学生も, 「不安を感じる」という学生も,否定的な社会を 変えていこうとするよりも,「自分次第」という 意識が強いという点では共通しているともいえ る。個人の努力がより求められる社会の風潮や, “社会に自分が関与した場合の変化の可能性への 信頼”(白井,2009)のなさともかかわっている と考えられるが,本研究の結果のみでは考察しき れない。今後検討していくべき課題である。  研究 2 では,「自己中心性・独善性に対する否 定的評価」,「生活の安定性に対する肯定的評価」, 「個人の努力の尊重」という 3 因子38項目からな る社会観尺度が作成された。既存の尺度との相関 関係から,作成された尺度には一定の妥当性,信 頼性があると判断された。「自己中心性・独善性 に対する否定的評価」,「生活の安定性に対する肯 定的評価」には,社会を構成する人々,メディア, 政治,経済,文化など社会の多様な側面の項目が 含まれていた。しかし,研究 1 で抽出されたカテ ゴリーごとに 1 つの因子を構成しているわけでは なかった。項目選定の問題も考えられるが,大学 生の社会観の特徴が表れているとも考えられる。 大学生は,具体的な側面別に評価をするというよ りも,漠然と社会をとらえて「自己中心的だ」と いうように評価している可能性がある。山岸 (1990)は,外界認知の仕方を規定するものとし て,“主体の一般的な認知能力”,“認知対象の特 性”,“主体と認知対象の相互作用の特性”の 3 つ を挙げている。社会という認知対象は複雑で,個 人との相互作用も見えにくいため,形式的操作の 段階にある大学生であっても漠としたイメージし か持てないと考えられる。別の要因として,自由 記述よりも尺度項目は具体的側面を思い浮かべず に回答しやすい点も挙げられる。  白井他(2009)が挙げている社会的信頼の 3 側 面に照らして考えると,「自己中心性・独善性に 対する否定的評価」は,身近な他者をこえた一般 的な他者への不信が表れた下位尺度であり,白井 他(2009)のいう“見知らぬ社会の人々への信頼” と関連していると考えられる。「生活の安定性に 対する肯定的評価」は,物質的豊かさや治安のよ さを示す下位尺度であり,白井他(2009)のいう “社会の秩序や規範に対する信頼”の一部を含ん でいるといえる。「個人の努力の尊重」は,必ず しも“社会に自分が関与した場合の変化の可能性 への信頼”と一致しているわけではないが,自分 の行動が報われるかどうかという点ではかかわる 部分もある。  属性差の検討においては,性別,学年,居住形 態の違いによる社会観の差異がみられた。女性は 男性よりも社会観が否定的であることが明らかに された。女性は男性に比べて雇用の面などで社会 的に不利な立場に置かれやすく,また犯罪などの 治安の問題にも敏感になりやすいため,社会を否 定的にとらえる傾向があると考えられる。 4 年生 は 1 年生や 3 年生と比べて,より社会観が肯定的 であった。進路選択を経て,社会の知識を得たり, 労働現場で働く自分を意識しやすくなったりする ため,社会を前向きにとらえて頑張ろうという思 いが強くなるのではないかと推測される。キャリ ア発達と社会に対する認識のつながりが示唆され る。一人暮らしの学生は実家生よりも社会観が肯 定的であった。自分の生活をコントロールすると いう意識と能力が身につくことで,社会のなかで 生きていけるという効力感が増し,社会を肯定的

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