• 検索結果がありません。

<原著>小児期各種行動特徴の遺伝学的解析 利用統計を見る

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "<原著>小児期各種行動特徴の遺伝学的解析 利用統計を見る"

Copied!
8
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

小児期各種行動特徴の遺伝学的解析

石 川 サト子,大 木 秀 一,山 縣 然太朗,浅 香 昭 雄

山梨医科大学保健学Ⅱ講座 抄 録:小児期の行動上の問題に関する遺伝要因・環境要因を解析する目的で双生児資料に共分散 構造分析を行った。東京大学附属中学校に 1981 年度から 1998 年度に入学志願した双生児を対象と した。卵性の内訳は一卵性双生児 609 組(男男 279 組,女女 330 組),二卵性双生児 223 組(男男 65 組,女女 56 組,異性 102 組)である。

量的遺伝学における threshold theory をもとに,liability(易罹病性)の tetrachoric correlation を算出し,得られた相関行列をもとに E, AE, CE, ACE, ADE の各遺伝モデルを構築し,その適合度 を検討した。ここで,A は相加的遺伝要因,D は優性遺伝要因,C は共有環境要因,E は非共有環 境要因である。その結果,「寝言」「寝ぼけ」「夜驚」「爪かみ」では AE モデルが採択され,遺伝率 もほぼ 80 %を越える高いものであった。「夜尿」に関しては ACE モデルが採択された。得られた 遺伝率には男女差が大きかった。また,共有環境要因の関与が強かった。「吃音」に関しては遺伝 要因の関与が示唆されるにとどまった。 本研究により,小児期の行動上の問題に対する遺伝要因の関与が統計学的に明らかにされた。ま た,性差の重要性が確認された。 キーワード 共分散構造分析,双生児研究法,遺伝要因,環境要因,小児の行動 緒  言 小児期の行動に関してはこれまで親子関係や 家庭環境など,主として環境要因の影響に関す る研究が多く,遺伝要因の研究ははるかに少な かった。近年の行動遺伝学・分子生物学の発達 により,多くの行動の背景には少なからぬ遺伝 要因の関与が明らかにされている。本研究では, 最近 10 年間で目覚ましい発達を遂げた共分散 構造分析1)を大規模な双生児資料に応用して, 小児期に問題となる行動の遺伝学的解析を行っ た。 対  象 本研究の調査対象は,東京大学教育学部附属 中学校に昭和 56(1981)年度から平成 10(1998) 年度までに入学志願した双生児 916 組である。 入学出願時に提出された双生児調査票の質問 項目のうち,小児期に行動上の問題となる 7 項 目を分析に用いた。具体的には「寝言」「寝ぼ け」「夜驚」「爪かみ」「吃音」「夜尿」「チック」 である。これらの項目に関して「しばしば見ら れた」「見られた」「見られなかった」「わから ない」の 4 つの選択肢から回答を得た。 入学志願双生児の保護者に対しては医学的な 面接を実施し,調査票の記載の確認を行うとと もに,母子手帳から生育歴や発育歴を調査した。 今回の対象には早産,低出生体重,light-for-〒 409-3898 山梨県中巨摩郡玉穂町下河東 1110 受付: 1999 年 2 月 19 日 受理: 1999 年 3 月 15 日

(2)

date,骨盤位,新生児仮死等の不利な条件を有 する者もあったが,全体的には正常な発育を遂 げている者が大部分であった2) 異性双生児は二卵性であるが同性双生児は一 卵性と二卵性があるため,厳密な統計学的検討 がなされた卵性診断用質問紙票3)ないし各種 遺伝マーカー4)を用いて,卵性診断を行った。 その結果,一卵性双生児(MZ)609 組(男男 279 組,女女 330 組),二卵性双生児(DZ)223 組(男男 65 組,女女 56 組,異性 102 組)の合 計 832 組となった。 方  法 A.双生児研究法 双生児研究法5)の基本的原理はすでに確立 している。MZ は多胚化により生じ,同一の遺 伝子型を有する。DZ は多排卵により生じ,遺 伝学的類似度は同胞(兄弟姉妹)程度である。 MZ と DZ の間に類似度の差が認められれば, その差は遺伝要因に起因すると考えられる。 質的形質の類似度は一致率で測定する。双生 児の二人がある形質をともに有した場合を一致 (concordance: C),一方のみが有した場合を不 一致(discordance: D)と呼ぶ。 一致組数を一致と不一致の総組数で除した 値,すなわち C/(C + D)を組一致率(pair-wise concordance rate)と呼びこれまで多用さ れてきたが,この指標は双生児を個人として扱 っていないため集団における有病率との直接の 比較になり得ない。 これに対して,一致を第 1 子,第 2 子から 別々に捉える発端者一致率(probandwise con-cordance rate)は集団における有病率との直接 の比較対象となり,しかも確認率に影響を受け ないという特徴をもち6)2C/(2C + D)で得ら れる。 今回の解析では,従来の研究との比較もある ため,組一致率と発端者一致率の両者を算出し た。基本統計量の算出には PC-SAS,Ver6.127) 用いた。 B.Threshold theory 疾患の有無,あるいは段階的な頻度のような 不連続量で表わされる質的形質の解析にあたっ ては,polygene 遺伝学を基礎とした threshold theory が用いられる。すなわち,形質発現の 背景にある liability(易罹病性)を想定する。 これは一つ一つの遺伝子効果は少ない多数の遺 伝子およびこれを修飾する環境要因が形質発現 に関与する。その分布は正規分布に従い,ある 閾値を越えた時点で形質ないし疾患が発症する というモデルである8) C.Tetrachoric correlation 病院,医療施設の双生児データを用いた遺伝 分析では,必ずある疾患ないし形質を有した者 が発端者となり,両者とも形質を有さない組を 分析対象に含めていない。現実には,正常一致 組が大多数を占めるはずであり,その実数が把 握されている場合にはより情報量の大きい解析 手法が可能である。 疾患の有無を双生児の第 1 子,第 2 子で考え ると,有有,有無,無有,無無の四分クロス表 が得られる。前述の liability の背景にある正規 分布を想定し,その相関をとったものが tetra-choric correlation1)である。 具 体 的 な 算 出 に あ た っ て は 汎 用 ソ フ ト PLELIS29)の PM コマンドを用いた。 D.Model-fitting1) 今回用いた遺伝モデルを図 1 に示した。poly-gene 遺伝学ではある形質の分散を構成する潜 在変数を,2 種類の遺伝要因と 2 種類の環境要 因にわける。遺伝要因の構成要素は相加的遺伝 要因 additive genetic factor(A),優性遺伝要 因 dominance genetic factor(D)である。前 者は相加的に働く遺伝要因であるが,優性効果 を示すのが優性遺伝要因である。環境要因に関 しては共有環境要因 shared(familial)environ-mental factor(C)と非共有(個人特異的)環 境要因 non-shared(individual-specific)envi-ronmental factor(E)を考える。前者は同一 家庭内で養育されることで互いに共有する環境 である。後者は個人個人に特異的に働く環境要

(3)

因である。共分散構造分析では図 1 のパスの関 係を線型方程式で表現し,それを各種の行列で 集約する。そして,その解を最尤法により推定 する。その結果,形質として具体的に把握され た変数の背景にある潜在変数の関与の程度を推 定することが可能である。関与の程度はパス係 数として算出され,その二乗が各成分の分散の 相対的な値となる。 Model-fitting では A, D, C, E4 種類のパラメ ーターを適宜組み合わせその適合性を数値とし て評価する。そして,より少ない潜在変数を仮 定することで,実際に観察された変数を説明す る。具体的には E, AE, CE, ACE, ADE(それぞ れのアルファベットのパラメーターを変数にい れたモデル)の各モデルを構築し,最も適した モデルを採択する。なお ACDE full model の評 価には別居双生児のサンプルが必要となるた め,全てが同居双生児である今回の対象に関し

ては解析不可能である。評価にあたっては,算 出されたχ2値をもとに AIC(Akaike’s

informa-tion criteria10))を算出した。AIC は共分散構造

モデルによって潜在変数を推定した遺伝学モデ ルの説明力と安定性を相対的に評価しうる指標 であり,具体的にはχ2値から自由度(degree of freedom: df)の 2 倍を減じたものである。 この値が小さいほど,モデルのデータに対する 適合がよく,新しいデータに対する予測力も高 いと判定される。今回採用したモデルのうち E モデルで df = 2,AE と CE モデルで df = 1, ACE と ADE モデルで df = 0 である。ただし, モデルの採択に対する AIC 値の絶対的基準は ない。 共分散構造分析の最大の特徴は,モデルを柔 軟に構築・改良できその適合度を数値として比 較 検 討 で き る 点 に あ る 。 以 上 の プ ロ セ ス は tetrachoric correlation の相関係数行列をもと A:相加的遺伝要因 D:優性遺伝要因 C:共有環境要因 E:非共有環境要因 1)相加的遺伝要因の相関は MZ で 1.0,DZ 0.5 であり,優性遺 伝要因の相関は MZ 1.0,DZ 0.25 である。 2)共有環境要因の相関は定義により,MZ,DZ ともに 1.0 であ り,非共有環境要因は各双生児のペアで相関はない。 3)○は潜在変数を,□は観測変数を表す。 4)a, d, c, e はパス係数であり,その 2 乗の値が各々の要因の寄 与する割合を示す。 図 1.本研究で用いた遺伝学モデル

(4)

に汎用ソフト LISREL811)を用いて行った。具

体的には同性の双生児を用い男女別に univari-ate genetic model の解析を実施した。

結  果 各形質の性別の出現頻度を表 1 に示した。 「夜尿」と「チック」に関して有意な性差が見 られた。出生順位差や卵性差は見られなかっ た。 表 2 に卵性別の組一致率・発端者一致率を示 した。いずれの項目においても MZ の一致率が DZ の一致率よりも高い値を示した。「吃音」 に関しては,男男,女女のペアともに一致の 表 1.性別にみた各種行動特徴の頻度 しばしば 時々 なし 寝 言 男子 2.2 %(19) 48.3 %(408) 49.5 %(418) 女子 1.8 %(17) 50.2 %(471) 48.0 %(450) 寝ぼけ 男子 0.7 %(6) 23.0 %(192) 76.3 %(636) 女子 0.6 %(6) 22.8 %(213) 76.5 %(714) 夜 驚 男子 1.1 %(9) 7.0 %(58) 92.0 %(766) 女子 0.4 %(4) 7.1 %(66) 92.5 %(860) 爪かみ 男子 5.6 %(47) 20.7 %(173) 73.6 %(614) 女子 6.1 %(58) 21.8 %(206) 72.1 %(682) 吃 音 男子 0.2 %(2) 3.3 %(27) 96.5 %(798) 女子 0.2 %(2) 1.9 %(18) 97.9 %(918) チック * 男子 0.3 %(2) 7.4 %(49) 92.3 %(608) 女子 0.3 %(2) 3.8 %(29) 95.9 %(732) あり なし 夜 尿 * 男子 45.8 %(374) 54.2 %(442) 女子 40.2 %(369) 59.8 %(548) * 夜尿とチックに関して有意な性差(男子>女子)が認められた (夜尿χ2= 5.15,DF = 1,P ≦ 0.05,チックχ2= 10.27,DF = 1,P ≦ 0.005) 表 2.卵性別にみた一致率 組一致率 発端者一致率 同性 異性 同性 異性 MZ DZ DZ MZ DZ DZ 全体 男男 女女 全体 男男 女女 全体 男男 女女 全体 男男 女女 寝 言 0.821 0.820 0.821 0.468 0.488 0.444 0.484 0.901 0.901 0.902 0.638 0.656 0.615 0.652 (279/340)(123/150)(156/190)(37/79) (21/43) (16/36) (30/62)(558/619)(246/273)(312/346)(74/116)(42/64) (32/52) (60/92) 寝ぼけ 0.559 0.506 0.609 0.333 0.286 0.381 0.286 0.717 0.672 0.757 0.500 0.444 0.552 0.444 (100/179)(44/87) (56/92) (14/42) (6/21) (8/21) (10/35)(200/279)(88/131)(112/148)(28/56) (12/27) (16/29) (20/45) 夜 驚 0.424 0.429 0.419 0.158 0.167 0.143 0.250 0.595 0.600 0.591 0.273 0.286 0.250 0.400 (25/59) (12/28) (13/31) (3/19) (2/12) (1/7) (3/12) (50/84) (24/40) (26/44) (6/22) (4/14) (2/8) (6/15) 爪かみ 0.502 0.531 0.480 0.313 0.280 0.348 0.265 0.669 0.694 0.648 0.476 0.438 0.516 0.419 (110/219)(51/96)(59/123)(15/48) (7/25) (8/23) (9/34)(220/329)(102/147)(118/182)(30/63) (14/32) (16/31) (18/43) 吃 音 0.136 0.071 0.250 0 0 0 0.500 0.240 0.133 0.400 0 0 0 0.667 (3/22) (1/14) (2/8) (0/10) (0/4) (0/6) (4/8) (6/25) (2/15) (4/10) (0/10) (0/4) (0/6) (2/3) 夜 尿 0.862 0.882 0.842 0.614 0.517 0.714 0.596 0.926 0.937 0.914 0.761 0.682 0.833 0.747 (224/260)(112/127)(112/133)(35/57) (15/29) (20/28) (34/57)(448/484)(224/239)(224/245)(70/92) (30/44) (40/48) (68/91) チック 0.277 0.267 0.294 0.100 0 0.250 0.333 0.433 0.421 0.455 0.182 0 0.400 0.500 (13/47) (8/30) (5/17) (1/10) (0/6) (1/4) (1/3) (26/60) (16/38) (10/22) (2/11) (0/6) (2/5) (2/4)

(5)

DZ は見られなかった。「チック」に関しては 男男の組で DZ の一致組が見られなかった。 表 3 に tetrachoric correlation を示した。全 体として性の組み合せ別に見て MZ の値が DZ の値よりも高い傾向が見られた。 表 4 に Model fitting の結果を示した。「寝言」 「寝ぼけ」「夜驚」に関しては,男女ともに AE モデルが最も適合し,推定された遺伝要因の関 与はおよそ 90 %を越える値であった。「爪かみ」 に関しては,男女ともに AE モデルが最も適合 し,遺伝要因の関与は 75 − 80 %であった。 「吃音」に関しては,男女ともに最適なモデル は得られなかった。「夜尿」に関しては男女と もに ACE モデルが最も適合したが,遺伝要因 の関与の程度に関しては男女差が見られた。男 子では遺伝要因の関与は 50 %と推定されたが, 女子では 15 %であった。「チック」に関しては, 男子では最適なモデルは得られなかった。女子 では CE モデルが採択された。共通環境要因の 関与が 80 %程度であった。 考  察 これまでにも小児期の行動上の問題に関する 表 4.各種遺伝モデルの適合と最適モデルのパラメーター推定値 男子 女子

モデル ACE ADE CE AE E a2 c2 e2 ACE ADE CE AE E a2 c2 e2

df 0 0 1 1 2 0 0 1 1 2 寝 言 χ2 0.012 0.294 3.648 0.023 2941 0.95 0.04 0.224 0.961 7.682 0.047 2.167 0.94 0.06 AIC 0.012 0.294 1.648 –1.977 2937 0.224 0.961 5.682 –1.953 –1.833 寝ぼけ χ2 0.000 0.173 2.431 0.153 248.4 0.86 0.14 0.000 0.961 2.652 0.915 7.859 0.90 0.10 AIC 0.000 0.173 0.431 –1.847 244.4 0.000 0.961 0.652 –1.085 3.859 夜 驚 χ2 0.000 0.510 0.866 0.504 187.4 0.87 0.13 0.000 0.043 1.215 0.016 3.634 0.86 0.14 AIC 0.000 0.510 –1.134 –1.496 183.4 0.000 0.043 –0.785 –1.984 –0.366 爪かみ χ2 0.000 0.005 3.663 0.000 258.4 0.80 0.20 0.000 0.580 1.314 0.578 14.22 0.75 0.25 AIC 0.000 0.005 1.663 –2.000 254.4 0.000 0.580 –0.686 –1.422 10.22 吃 音 * χ2 91.99 91.99 91.99 91.99 171.0 279.4 279.4 279.4 279.4 415.3 AIC 91.99 91.99 89.99 89.99 167.0 279.4 279.4 277.4 277.4 411.3 夜 尿 χ2 0.000 3.964 3.960 3.580 14315 0.50 0.48 0.02 0.000 55.01 1.277 40.16 102.1 0.15 0.83 0.02 AIC 0.000 3.964 1.960 1.580 14311 0.000 55.01 –0.723 38.16 98.1 チック * χ2 272.0 272.0 272.0 272.0 385.6 0.000 1.419 0.043 1.418 6.067 0.78 0.22 AIC 272.0 272.0 270.0 270.0 381.6 0.000 1.419 –1.957 –0.582 2.067 * 全てのモデルが採択されなかった § A, C, D, E, a, c, e,の意味は図 1 参照 表 3.Tetrachoric Correlations 及び標準誤差 同性 異性 MZ DZ DZ 全体 男男 女女 全体 男男 女女 寝 言 0.95 ± 0.03 0.95 ± 0.04 0.94 ± 0.04 0.45 ± 0.25 0.50 ± 0.33 0.43 ± 0.36 0.52 ± 0.26 寝ぼけ 0.85 ± 0.06 0.81 ± 0.10 0.90 ± 0.06 0.55 ± 0.26 0.48 ± 0.04 0.61 ± 0.34 0.49 ± 0.31 夜 驚 0.86 ± 0.09 0.86 ± 0.13 0.86 ± 0.12 0.54 ± 0.41 0.61 ± 0.54 0.47 ± 0.68 0.66 ± 0.38 爪かみ 0.77 ± 0.08 0.81 ± 0.10 0.74 ± 0.11 0.45 ± 0.28 0.40 ± 0.41 0.52 ± 0.38 0.44 ± 0.33 吃 音 0.63 ± 0.30 0.41 ± 0.54 0.81 ± 0.29 *–0.73 ± 0.07 *–0.62 ± 0.13 *–0.73 ± 0.09 *1.00 ± 0.01 夜 尿 0.98 ± 0.01 0.98 ± 0.02 0.98 ± 0.02 0.83 ± 0.13 0.73 ± 0.25 0.90 ± 0.13 0.74 ± 0.18 チック 0.72 ± 0.16 0.67 ± 0.23 0.79 ± 0.22 0.37 ± 0.63 *–0.76 ± 0.10 0.73 ± 0.55 0.84 ± 0.40 *空のセルが存在したため,適切な相関が得られなかった。

(6)

研究は数多い。しかし,わが国では阿部らの一 連の研究12–18)を除いては,遺伝学的な研究は 皆無である。 それぞれの項目の頻度についてわが国の報告 をもとに検討するが比較しにくいものは海外の 報告を用いた。ただし,報告により,頻度の算 出方法,年齢層,診断基準等が若干異なってい る。 表 1 に示した頻度はこれまでの報告と大きく 矛盾するものではない。竹内ら19)の 3 歳から 6 歳の児の調査によれば,「寝ぼけ」は 3 歳で 22.8 %であり,以下年齢とともに減少し 6 歳で 11.6 %であった。一方,「寝言」は 3 歳から 6 歳を通じて 37.7 %から 45.3 %に見られた。い ずれの年齢でも「寝言」の頻度が「寝ぼけ」の 頻度よりも高い値を示した。今回の結果もこの 傾向とほぼ合致した。 「夜驚」の頻度も報告によりかなりの差が見 られる。5 歳から 12 歳までの児で 1 − 3 %とす るものから,入園・就学までの児の 20 %に見 ら れ る と す る も の も あ る20)。 わ が 国 で は 柳 川21)が 3 歳児で 28 %という値を報告している が,幼少時には夜驚と夜泣きの鑑別があいまい で,夜泣きを含めたと考えられる統計が多いと 言っている。今回の対象では男女ともに「夜驚」 は 8 %程度であり,夜泣きが含まれている可能 性は否定できない。 「爪かみ」では,学童の 11 − 30 %に出現す る22)と言うものがあり,今回の 26 − 28 %も この中に含まれた。 「吃音」に関しては,人口の 0.7 − 1 %23) 日本の 3 歳児の 0.6 %24)という報告があるが, 今回の結果は男子 3.5 %,女子 2.1 %であり, 若干多めであった。 「夜尿」に関しては,竹内ら19)が 3 歳から 6 歳児を男女別に調査した結果では,年齢ととも に減少し,男子で 29.6 %から 9.7 %に低下,女 子で 27.5 %から 5.2 %に低下している。いずれ の年齢でも男子の頻度が高かった。一方で, 2 − 3 歳 で 51 % , 5 − 6 歳 で 20 % と す る 報 告25)もある。今回は男子 45.8 %,女子 40.2 % であり,幼児期の最大値に近いものである。た だし,男子が女子よりも多い傾向は多くの報告 の一貫した傾向であり今回の結果もこれに一致 した。 「チック」に関しては,9 歳ごろで 10 %以下 と言う数値22)があり,今回の結果も大きく矛 盾するものではない。女子よりも男子に多いこ とは多くの報告の一致した見解であり,この点 も一致していた。 データの収集法の制限を考えると,これ以上 は推論の域を出ないが,少なくとも今回扱った 形質の頻度には従来の知見と大きく矛盾するも のはなく,単産児と双生児の間で大きな差がな いと考えられる。したがって双生児を分析対象 に用いても,その解析結果は一般性を失わない と言える。また,卵性・出生順位による頻度差 が見られない事もこの点を裏付ける。 表 2 に示すとおり,組一致率・発端者一致率 ともに MZ の値が DZ の値よりも大きく,遺伝 要因の関与が示唆された。ただし,「吃音」に 関しては DZ において男男,女女の組ともに一 致が見られず,一致率が 0 となった。DZ の男 男の「チック」に関しても同様であった。この 点は,その後の分析結果を解釈する際に考慮す べきである。 表 3 に tetrachoric correlation を 示 し た が , 大部分の項目で男女ともに MZ が DZ よりも大 きな値を示し,類似度が高い事が確認された。 こ の tetrachoric correlation は疾患の重症度, 症状の出現頻度など不連続な ordinary data の 相関を見る場合に情報量を最大限に引き出す有 効な指標である。 Model-fitting の結果「寝言」「寝ぼけ」「夜驚」 「爪かみ」の 4 項目で高い遺伝要因の関与,す なわち 75 %− 95 %の遺伝率が得られた。以上 の形質に相加的遺伝要因が大きく働いているこ とが明らかにされた。「寝言」に関しては Abe et al.12,16,18)による双生児研究により遺伝要因の 関与が明らかにされている。「爪かみ」に関し ては Bakwin26)の双生児研究の結果からも遺伝 性が支持されている。

(7)

遺伝率(遺伝要因の関与の程度)の概念は, 集団に対して測定されるもので,個人に関する 概念ではない。対象集団が変われば,大きく異 なることがある。したがって今回得られた結果 は,数値そのもの以上に上記 4 形質に無視し得 ぬ遺伝的背景が存在するという事実の方が重要 である。 次いで,「吃音」に関しては適合するモデル が得られなかった。これは,DZ に一致組が存 在せず,適切な tetrachoric correlation が算出 されなかったためである。しかし,DZ で一致 が見られなかったという事実が,遺伝要因の関 与を示唆している。その関与の程度を分析する ことは今後の検討事項である。 「夜尿」に関しては古くから家族発症が注目 されてきた13,17,27)。今回の解析の結果,男女と もに ACE モデルが採択されたが,男女差が見 られた。すなわち,男子の遺伝率は 50 %であ る一方,女子では 15 %にすぎなかった。女子 ではむしろ共有環境要因の影響が大きかった。 このことは「夜尿」の病因として男女差が存在 することを示唆しており,男女を合わせて解析 することが正当でないことを意味する。従来の 研究では,サンプルサイズの問題も在りこの点 があいまいにされてきた。事実,Bakwin27) よる双生児研究においても,遺伝性は示唆され たものの性差に関する検討はされていない。ま た,「夜尿」に対して環境面からアプローチす る事が有効であると言える。 「チック」に関しては男子では有効なモデル が得られなかった。しかし,DZ に一致組が存 在しない事から,遺伝要因の関与が示唆された。 これまでにも家族研究により遺伝性が指摘15) されている。女子に関しては CE モデルが採択 され,遺伝要因の関与が小さいと言う結果にな った。この点に関しては,表 2 に示す様に DZ 女子でチックそのものを有する組が少ない事か ら断定的な結論は下し得ないと考えられる。今 後,例数を増やして再検討する必要がある。 最後に,今回の解析の制限に触れる。第 1 に, 発症年齢が同定されていない点である。Abe et al.18)の指摘にあるとおり,小児期の多くの行 動上の問題には多発年齢が存在する。したがっ て遺伝要因の大きさは年齢の影響を受けている 可能性が強い。今回の対象はデータを得た時点 で小学校卒業間近であり多くの形質の発症多発 年齢は過ぎたものとみなせた。よって,小児, 学童全時期を通じての平均的な遺伝要因関与の 程度として解釈すべきであろう。第 2 に養育者 (主として母親)の記憶の正確さである。これ に関しては第 1 子と第 2 子に対して異なる評価 を下すことは考えにくい。また同性双生児に関 しては養育者は児の正確な卵性を知らされてい ない事を面接時に確認している。第 3 に,行動 特徴の頻度で「しばしば」「時々」をまとめて 症状ありとした点であるが,これは情報量を大 きく減じている。また,本質的に病態の異なる 形質を混同している可能性が存在した。しかし, 頻度の捉えかた事態に主観が作用していると考 えられたので両者を同一に扱った。今後行動上 の問題などを評価する方法に対する検討も重要 である。第 4 に,対象集団の代表性であるが, DZ において同性 121 組,異性 102 組は 1.2 : 1 であり期待される比率(1:1)と大きく異なる 数値でない。Imaizumi ら28)によればわが国で 同性双生児の 20 %は DZ であると言う。今回 の対象に関して同性 DZ は 17 %(121/730)で あり,若干少ないもののかなり代表性のあるサ ンプルであると思われた。ただし,DZ の分析 結果に若干の問題が生じた事は注意すべきであ る。いずれにせよ,欧米諸国のような大規模な 双生児レジスターが存在しないわが国において は,質量ともにこれ以上の資料を得る事は事実 上不可能である。 性差に関しては,今回の Model-fitting から 除外した異性双生児のデータを相関行列に導入 する事で,いわゆる限性の状態を直接把握する 事が可能である。これらは,General Sex-limi-tation Model, Scalar Sex-limiSex-limi-tation Model1)

して具体的に共分散構造解析が可能である。 以上のように,共分散構造分析を大規模な双 生児資料に応用する事で,小児期に見られる行

(8)

動上の問題には遺伝要因が関与する事が統計学 的に示された。今後はこれまでの知見をもとに, 形質の発現に関与する具体的な遺伝要因/環境 要因を探索する事になる。

文  献

1) Neale MC, Cardon LR: Methodology for genetic studies of twins and families. Kluwer Academic, Dordrecht, 1992. 2) 大木秀一,浅香昭雄:双胎分娩における周産期 の各種要因の分析.周産期医学,21(8): 1997– 1203, 1991. 3) 大木秀一,山田一朗,浅香昭雄,早川和生,清 水忠彦:質問紙法による双生児の卵性診断.民 族衛生,55(5): 227–235, 1989. 4) 大木秀一,浅香昭雄:多胎卵性診断. 産科と婦 人科,64(12): 1695–1698, 1997. 5) 大木秀一,浅香昭雄:精神疾患における遺伝的 要因解明のための方法論 ―家系研究,双生児 研究,養子研究―.臨床精神医学,21(5): 827– 833, 1992.

6) McGue M: When assessing twin concordance, use the probandwise not the pairwise rate. Scizo-phrenic Bulletin, 18 : 171–176, 1992.

7) SAS user’s guide: Basics and statistics, version 6.12. SAS Institute, Cary NC, USA, 1993. 8) Falconer DS: Introduction to Quantitative

Ge-netics. John Wiley & Sons, New York, 1989. 9) Joreskog KG, Sorbom D: Prelis 2 user’s reference

guide. Scientific Software International, Chica-go, 1993.

10) Akaike H: Factor analysis and AIC. Psychometi-ka, 52: 317–332, 1987.

11) Joreskog KG, Sorbom D: Lisrel 8: Stuctural equa-tion modelling with the SIMPLIS command lan-guage. Scientific Software International, Inc. Chicago, 1993.

12) Abe K, Shimakawa M: Genetic and developmen-tal aspects or sleepdevelopmen-talking and teeth-grinding. Acta Paedopsychiat, 33: 339–344, 1966.

13) Abe K, Shimakawa M, Kajiyama S: Interaction between genetic and psychological factors in ac-quisition of bladder control in children.

Psychi-at. Neurol (Basel),154: 144–149, 1967.

14) Abe K: Parent-child transmission of some child-hood behaviour characteristics. Acta Paedopsy-chiat, 44: 9–16, 1978.

15) Abe K, Oda N: Follow-up study of children of childhood tiqueurs. Biol Psychia, 13(5): 629– 630, 1978.

16) Abe K, Amatomi M, Oda N: Sleepwalking and re-current sleeptalking in children of childhood sleepwalkers. Am J Psychiatry, 141: 800–801, 1984.

17) Abe K, Oda N, Hatta H: Behavioural genetics of early childhood : Fears, restlessness, motion sick-ness and enuresis. Acta Genet Med Gemellol, 33: 303–306, 1984.

18) Abe K, Oda N, Ikenaga K, Yamada T: Twin study on night terrors, fears and some physiological and behavioural characteristics in childhood. Psychiatric Genetics, 3: 39–43, 1993. 19) 竹内政夫,高橋きみ子,富所隆三:小児の睡眠 異常,―とくに夜泣きと夜驚について―.臨床 精神医学,4(9): 1085–1093, 1975. 20) 児玉 省,中村 孝:小児のメディカル・ケア・ シリーズ,小児の問題行動,―心配な行動・性 格とその対策―.医歯薬出版,東京,1992. 21) 柳川光章,藤掛永良: 3 歳児における問題行動 の概括的研究.児童精神医学とその近接領域, 3(2): 107–121, 1962. 22) 社会心理的行動異常.小児医学大系,14 巻 B, 中山書店,東京: 128–146, 1986. 23) 隠岐忠彦,花田雅憲,編:乳幼児発達事典.岩 崎学術出版社,東京,1985. 24) 安藤春彦,熊代 永,中根允文,編:小児精神 医学.ヒューマンティワイ,東京,1991. 25) 昭和 55 年度幼児健康度調査報告(日本小児保 健協会).小児保健研究,40(4): 272–275, 1982. 26) Bakwin H: Nail-biting in twins. Develop Med

Child Neurol, 13: 304–307, 1971.

27) Bakwin H: Enuresis in twins. Am J Dis Child, 121: 222–225, 1971.

28) Imaizumi Y, Inouye E: Analysis of multiple birth rates in Japan. 1. Secular trend, maternal age ef-fect, and geographical variation in twinning rates. Acta Geneticae Medicae Gemellolgiae, 28: 107–124, 1979.

参照

関連したドキュメント

今日のお話の本題, 「マウスの遺伝子を操作する」です。まず,外から遺伝子を入れると

プログラムに参加したどの生徒も週末になると大

第四章では、APNP による OATP2B1 発現抑制における、高分子の関与を示す事を目 的とした。APNP による OATP2B1 発現抑制は OATP2B1 遺伝子の 3’UTR

式目おいて「清十即ついぜん」は伝統的な流れの中にあり、その ㈲

・逆解析は,GA(遺伝的アルゴリズム)を用い,パラメータは,個体数 20,世 代数 100,交叉確率 0.75,突然変異率は

話者の発表態度 がプレゼンテー ションの内容を 説得的にしてお り、聴衆の反応 を見ながら自信 をもって伝えて

 英語の関学の伝統を継承するのが「子どもと英 語」です。初等教育における英語教育に対応でき

小学校における環境教育の中で、子供たちに家庭 における省エネなど環境に配慮した行動の実践を させることにより、CO 2