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ハイキング時の消費カロリーの推定

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Academic year: 2021

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ハイキング時の消費カロリーの推定

川中子

敬至

システム情報分野

A Study on the Estimation of Calorie Consumptions in Hikings

Takashi Kawanago 1. はじめに むかし,キャラメルのコマーシャルに「1 粒で 300 メー トル」というものがあった.これは,キャラメル1 粒に 300m 走れる分の栄養が含まれている,という意味であろ う.しかしながら壮年以降の人々にとっては,1 粒舐めた ら300m走らなければ栄養分が体に残る,という解釈も可 能である. ところで近年,定年退職後にハイキングを始める人が 増えている.これは,比較的簡単に始められる健康維持 活動であるから,というものがその多くの理由であろう. ところが,事件・事故に遭うケースも多々見られる.1 番 多いのは不慣れな道で迷ってしまうものであるが,体に 掛かる負担を推測できないために途中で体調不良を起こ し,場合によっては死亡事故となることもある. 後者への対策として,消費カロリーを計算する機能の 付いた万歩計をハイキング時に持参することも,1 つのア イディアにはなる.ところが,歩行して行く斜面それぞ れには勾配の違いがあり,歩数のみから消費カロリーを 計算しても,正しい値が得られていると考えるには無理 があろう. このような背景から,実際にハイキングをする前に, 勾配も考慮して体に掛かる負担を推測する方法の開発が 望まれている. 2. 研究の経緯と本報告の目的 2010 年頃から筆者の研究室では,ハイキング時の消費 カロリーを推定する問題へ取り組んで来ている[1- 4].こ れらの研究では,GPS 受信機を用いてハイキング時のト リップ・ログを採取し,ログの系列を計算式へ代入して移 動時の消費カロリーを計算する方法を取って来た. その結果,携帯性などに多少の問題点は残るが,消費 カロリーを計算すること自体は可能となった. ところで,GPS では受信機が置かれた位置の緯度・経度 に比べ,高さの情報を得ることが困難である.このため Abstract

Recently, the number of hikers is increasing more and more. But in such a hiking, there are many accidents and death cases. One reason of such accident is not estimable the load that a body has received. So, in this research, we will deal with the estimation of calorie consumption of the hiking by using METs (Metabolic Equivalents) and RMR (Relative Metabolic Rate).

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多くのGPS 受信機では,気圧を用いて高度を推定する方 法を取っている.そこで,気象状態によって高度が変化 してしまうという問題があった. 筆者らは,GPS から得られた位置情報をインターネッ ト上の地図へ照らし合わせ,地図上から高度を得るよう にしてみた.研究当初はインターネットの通信速度に問 題があり,高度の情報を得るのに時間を要した.しかし, インターネットの通信速度が改善されるのに従って,待 ち時間の問題も解決されるようになっている. 上記のように,GPS 受信機を用いて出発地点からハイ カーが到達している地点までの消費カロリーを求めるの は,確かに万歩計を用いるよりは優れた方法であると考 えられる.しかしながら,ハイキング中に消費カロリー が多すぎるからと言って,ルートを変更することは困難 であろうし,道に迷う危険性もあるだろう. そこで,それぞれのルートを歩いた場合の消費カロリ ーが実施前に推定できるなら,より有用であると考えら れる.本報告は事前の推定を目的として行われた研究を, まとめたものである. 3. 消費カロリーの推定 消費カロリーの推定には,METs や RMR を用いる. METs(Metabolic Equivalents)とは,活動・運動を行っ た際に安静状態の何倍の代謝(カロリー消費)をしてい るかを表すものである.METs 値はあらかじめ行動ごとに 決められており,以下のような表の形で提示されている [5]. 表1 行動ごとの METs 値 METs を使って消費カロリーを計算するには,(1)式の ように係数(1.05)と METs 値,運動時間(hour),体重 を掛けるだけで済む. (1) しかし,METs の値は大まかな数値(細かくても小数点 以下第 1 位までで,ほとんどのものは整数値)しかなく, また適用のさせ方によって数値が異なるという問題もあ る.例えば,登山,散策,通勤通学,散歩の違いによっ て,METs 値が異なることなどである. 次に,もう 1 つの計量値であるRMR を取り上げる. RMR(Relative Metabolic Rate)とはエネルギー代謝率 のことで,さまざまな身体活動やスポーツの身体活動強 度を示すものである.これは,活動に必要としたエネル ギー量が基礎代謝量の何倍にあたるかを活動強度の指標 としている. エネルギー代謝率は,体格・性別・年齢が考慮されてい る基礎代謝量を基準としていることから,体格・性別・年 齢に関係なく値を求めることができる. RMR は以下の (2)式で与えられる. (2) RMR から消費カロリーを計算するには,(3)式を利用す る. (3) 例えば,体重60kg の 30 歳男性が 30 分間のアイロン がけをすると,BM は 0.015,アイロンがけの RMR は 1.5 で,A は成人男子で 1.25 なので,以下のように求められ る. しかしながら,人によって異なるBM(基礎代謝基準 値)や A(安静時代謝量)が必要であり,その都度代入 して計算するのは煩雑であると考えられる. ところで,斜面の勾配(あるいは傾斜)とRMR との間 には,実験式が存在する[6-8].これは,勾配を百分率で(4) 式のように表すとするなら,勾配が正(即ち登り坂)の 場合にはRMR が(5)式で近似できるというものである. (4) (5) また,勾配θが 0≧θ≧ -11%(即ち 11%より小さい 下り勾配)の場合には(6)式となる.さらに,11%を超え る下り勾配の場合には再び(5)式を適用し,勾配のきつい 下り道は体にとって上りと同様の負担となることを示し ) 体重( 時間      ) 消費カロリー( kg METs 05 . 1 kcal × × × = 基礎代謝量 ー量 作業に要したエネルギ     ) エネルギー代謝率( = RMR ) 体重( 運動時間(分)     代謝量) 基礎 (安静時     (基礎代謝基準値)    ) 消費カロリー( kg ] ) ( A RMR [ BM kcal × × + × =

kcal

25

.

74

30

60

)

25

.

1

5

.

1

(

015

.

0

×

+

×

×

=

) 水平距離( ) 垂直距離( ) 勾配( m m 100 % = × 勾配  × × =3.113 e0.0461 RMR

(3)

ている. (6) さらに,METsとRMRとの間には,(7)式の関係がある. (7) 以上の点をまとめると,消費カロリーの計算ではMETs に基づく方が簡単であるが,RMR 値は勾配に対応してい る.そこで,傾斜角に基づくRMR 値を求め,ここから METs 値へ変換することが考えられる.この研究では,こ うした方法で消費カロリーを算出することにした. 4. ヒュベニイの平均経度による距離算定 GPS や電子地図から各地点の緯度・経度を求め,これら の系列をもとに地点間の距離を求めたいとしよう.これ は,地図に直接定規が当てられるなら,そのまま距離を 測れば済むことである.しかし,各地点の緯度・経度の情 報に基づいて距離を求める際には,地球の丸みのために そう簡単には行かなくなる. 経線の長さは,緯度によって大きく異なる.即ち,経 度1 度の長さが緯度によって変わる.このため,緯度・経 度の差からピタゴラスの定理を用いて距離を求めても,2 地点間の正しい距離にはならない.そこで,ヒュベニイ の平均経度による距離算定[9, 10]が必要となる. ここでは,地点1=(x1, y1)と地点 2=(x2, y2)間の距離を考 える.ここで,x iは地点i の経度を表し,yiは地点i の緯 度を表す.なお,緯度・経度の単位として通常は度数が用 いられるが,以下の計算ではラジアンが単位となる点に は,注意が必要である. 次に,2 地点間の経度の差を dx=x1-x2,緯度の差を dy=y1-y2とする.2 地点間の緯度の平均値μyは以下の(8) 式となる. (8) さらに,地球の赤道半径(長半径)をa,極半径(短半 径)をb とすると,第一離心率 e は以下の(9)式となる. (9) そこで,以下の(10)式を W とする楕円体の子午線曲率 半径M は(11)式となり,卯酉線曲率半径 N は(12)式とな る. (10) (11) (12) 以上の設定に従うと,ヒュベニイの平均経度による距 離d は次の(13)式によって求められる. (13) なお,以上の点についての詳しい説明は,参考文献 [9,10]に示されている.また,地球の赤道半径 a と極半径 b はベッセル楕円体(旧日本測地系),GRS80(世界測地 系),WGS84(GPS)によって異なるが,GRS80 と WGS84 は短半径が0.105mm 異なるだけなので,ここでは GRS80 のa=6,378,137.0m,b=6,356,752.31414m を利用する. 5. GPS 受信機による推定距離と地理院地図ならびに Google Maps 標高表示(V3 APi 版)による推定距離 に基づく消費カロリーの比較 適用事例には,足利市内にあるハイキングコースの中 から,行道山浄因寺と大岩毘沙門天正面までルートを用 いることにした.地図上で測った平面的な距離は3,664m であるが,場所によって標高差があることから,アップ ダウンも含めれば道のりが3,700m を超す可能性がある. ちなみに,行道山浄因寺は和銅7 年(714 年)に開創さ れた古刹で,崖から離れた巨石の上に建つ「清心亭」が 有名である.この清心亭と崖にある通路との間には橋が 架けられており,江戸時代に葛飾北斎はこの地を「足利 行道山雲のかけ橋」と題して描いている. さて,2 節でも述べたが,市販されている GPS 受信機 では標高を求める際に気圧を利用している.このため, 天候の影響によって測定するごとに標高値が変わってし まう可能性がある. この問題を検討するために,卒業研究の一環として 2011 年 6 月 13 日(月)に実際に行道山浄因寺から織姫神社 までのハイキングを行い,持参したGPS 受信機によって 必要なデータを取得してみた.この日は薄曇りではあっ たが風はほとんどなく,高気圧や低気圧の影響を直接受 けるような天候ではなかった. 勾配  × − × =3.113 e 0.0461 RMR 1 2 . 1 RMR METs ) 1 METs ( 2 . 1 RMR + = − = 2 y y1 2 y + = μ 2 2 2 a ) b a ( e= − ) sin e 1 ( W y 2 2 μ − = 3 2 W ) e 1 ( a M= −

W

a

N

=

} ) cos N d ( ) M d {( d 2 y x 2 y・ + ・ μ =

(4)

ところで最近,国土地理院がインターネット上で3 次 元地図[11]を提供するようになっており,およそ 3 カ月ご とにバージョンアップを繰り返している.この3 次元地 図では各地点の標高を,近くにある標高が確かな10 カ所 あるいは5 カ所から推定する方法を取っている.また, Google Maps の中にも V3 APi 版[12]のように,標高の表 示が可能なものもある. そこで,気圧による実測高度と地理院地図及びGoogle Maps による推定高度の 3 つ標高を用いて,ハイキングコ ースの道のりと消費カロリーを求めた結果を表2に示す. なお,既に述べているようにアップダウンを考慮しない 平面的な距離は3,664.531m で,ここを歩いた場合の消費 カロリーは224.729kcal と推定される. 表2 高度を求める方法の違いによる結果の比較 道のり 消費カロリー 気圧によるGPS 受信機の実測値 3,767.99m 846.995kcal 地理院地図によ る推定値 3,720.70m 338.407kcal Google Maps によ る推定値 3,727.17m 367.728kcal 表2 を見ると,アップダウンを含めた道のりの差に比 べ,消費カロリーの差がより大きく現れているとわかる. そこで,気圧による実測では正しい消費カロリーが得ら れているのかどうかにも,疑問が生じる.従って,いず れの方法を使うとしても,地図上から推定した方が得ら れた結果の信頼性は高くなると考えられる. なお,表2 では体重 65kg で,歩行速度が平均 4km/h の 場合を念頭に置いている. そこで第2 の問題として,歩行速度が消費カロリーに どのように影響するのかを検討してみる.ここでは地理 院地図による推定高度を用い,歩行速度を2km/h から 6km/h まで変えて消費カロリーを図にしてみると,図 1 が得られる. 図 1 を見ると,歩速が速いほど消費カロリーが大きい 訳ではないことがわかる.これは,速度が遅いほど移動 に要する時間が長くなることによると考えられる. しかしこれは消費カロリーの大小を表すだけで,心臓 などへの負担の大小を表す訳ではない.そこで,健康増 進のためにカロリー消費を考えるなら,ゆっくりした運 動すれば良い,という考え方とも結びつく結果となった. 0 100 200 300 400 500 600 700 800 2 3 4 5 6 消 費 カ ロリー ( kca l) 歩速(km/h) 図1 歩速と消費カロリーの関係 6. システム化への検討 以上の検討で,GPS 受信機から得られた位置情報,あ るいは地図上にある位置情報の系列を基に,移動歩行で の消費カロリーを推定することが可能となった.そこで, 結果が得られるまでの作業をフローチャートにしてみる と,図2 となる. 図2 消費カロリーの推定システム GPS 受信機を使った場合,図 2 のプログラム 1 は GPS 受信機自体が持っている機能で,何ら特別なプログラム が必要な訳ではない.また,電子地図からルート情報を 取得する場合には,中継点の緯度・経度をファイル化すれ ば良い.

(5)

次に,プログラム2 に関しては,今回の報告では手作 業でデータの加工を行った.従って,プログラムとして 実際に作成されたものはプログラム3 に限られるが,プ ログラム2 の自動化が今後の課題となる. GPS 受信機のトリップデータには細かな変動が常にあ り,文献[4]はこの点に関する議論であった.そこで,ト リップデータにカルマンフィルタを掛け,細かな変動を 取り除くことも考えられる.プログラム2 の中にこうし た作業まで含めて開発を行うなら,消費カロリー推定シ ステムとして一体化することが可能となろう. 7. おわりに この研究では,地図上にある2 地点間を結ぶルートが 与えられた場合に,これらの2 地点間を結ぶ道のりの長 さと徒歩で移動する際の消費カロリーを,どのようにし て推定すれば良いかについて議論した. また,その適用事例として,栃木県立足利自然公園ハ イキングコースの中から行道山浄因寺と大岩毘沙門天正 面間のルートを取り上げ,標高の算出データの違いによ ってどのような差となるか比較した.これらの検討の結 果,GPS 受信機そのものから得られた標高データではな く,電子地図から推定した標高を用いた方が信用できる 値が得られる,と結論付けた. そこで,ハイキングを実施する前に,電子地図からル ートを歩いた際の消費カロリーを推定するなら,より安 全な実施計画を立てることが可能であると考えられた. また,トリップデータにカルマンフィルタを掛け,細 かな位置の変動を取り除くことや,緯度・経度情報に自動 的に標高値を書き加えるなど,今後の検討課題も明示す ることが可能となった. 本報告は数年にわたって川中子研究室内で進められて きた研究をまとめたものである.従って,研究室へ所属 した学生諸氏との議論なしには,完成しなかったと考え られる.そこで最後に,歴代の卒研生諸氏へ感謝し,結 びとしたい. 参考文献 [1] 鈴木晃一郎・齊藤裕治・野尻和之・野本幸宏:GPS を用いたハイキング時の消費カロリーの推定,足利工 業大学システム情報工学科卒業論文,(2012) [2] 青木鉄太郎・猪俣恭平・澤井一樹:ハイキング時の消 費カロリー推定システムの開発,足利工業大学システ ム情報工学科卒業論文,(2013). [3] 岡崎史良:ハイキング時の消費カロリー推定システム のAndroid アプリ化による一般利用化,足利工業大学 システム情報工学科卒業論文,(2014). [4] 釆澤陽子:カルマンフィルタによる GPS 測位誤差の 低減システム,足利工業大学大学院システム情報工学 専攻学位(修士)論文,(2014). [5] 田中茂穂(監修):「動いてやせる!消費カロリー事典」, 成美堂出版,(2010). [6] 佐藤方彦ほか:「人間工学基準数値数式便覧」,技報堂, (1992). [7] 猪井博登・中岡亮:坂道での身体的負担を考慮したコ ミュニティバスのアクセス改善効果に関する研究,土 木計画学研究・講演集,Vol.36,(2007). [8] 村林正隆:斜面を考慮した瀬戸市における歩行マップ, 2011 年度腰塚研究室卒業論文要旨,南山大学瀬戸キャ ンパス,(2012). [9] 三浦英俊:緯度経度を用いた 3 つの距離計算方法,オ ペレーションズ・リサーチ,Vol.60,No.12,(2015). [10] DAN 杉本:「カシミール 3D のホームページ」, http://www.kashmir3d.com/kash/manual/std_siki.htm . [11] 国土地理院:「地理院地図」,http://maps.gsi.go.jp/. [12] Google :「 Google Maps V3 APi 版 」,

https://www.google.co.jp/work/mapsearth/.

参照

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