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巻頭言

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Academic year: 2021

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巻 頭 言

我々は身近なところにあるものを気にもとめずに利用しているが,水,空気,食糧は必 要不可欠なものであることもよく承知している。ではこれらは我々にとって無害のもので あるから気にもとめないのであろうか。 人体の組成は水分が約 70% を占め,たんぱく質,脂質を加えると全体の約 94% を構成 している。その他は無機質が 5% で,糖質はか 1% である。なぜ,こんなに水が多いの だろうか。また,我々が日常摂取する米飯やパンなどは糖質で,食事構成において推奨も され,摂取もしている。それにもかかわらず,体内に留まっている糖質量が意外に少ない のは何故か。 この答は,摂取された糖質の多くは体内で酸化分解され炭酸ガスと水に変化し,その時 生まれるエネルギーを筋肉活動や生合成活動のエネルギーとして利用しているからである。 もちろん,たんぱく質や脂質も糖質同様エネルギーを生むことのできる栄養素であるが, 人間の生命維持に必要なエネルギー源として糖質は最も優れた栄養素であるから,摂取は 不可欠である。しかし,この安全で無毒のように思える糖が場合によっては我々に思わぬ 害を及ぼす。そのことは糖尿病からも明らかで,近年は周知のこととなっている。糖を過 剰に長期間摂取するとそれは細胞の中で重要な働きをしているたんぱく質を傷つけその機 能を失わせ,生命の維持を脅かす様々な病気を引き起こす。つまり,糖は必要不可欠な物 質であるが,必要以上に体内に留まってはいけない物質なのである。 これら三大栄養素の構成元素の主なものは,糖質,脂質においては炭素原子,酸素原子, そして水素原子で,たんぱく質においてはこれらに窒素原子が追加されて構成された有機 化合物である。これらがエネルギーに変わるにはいずれも体内に取り込んだ酸素分子を利 用して,我々がものを燃やすのと同様の反応を体内で起こさせているのだが,これを酸素 分子を利用できない微生物と比べると,酸素分子を利用している我々の場合は約 20倍弱 のエネルギーを得ることができる。酸素分子の利用はなんと素晴らしいエネルギー獲得メ カニズムなのだろうか。 しかし,生物がこの酸素を利用できるようになるためには,莫大な時間が必要であった ことを知っているだろうか。地球が誕生して 46億年が経過したといわれるが,地球上に 生命が誕生したとされる 40億年くらい前は,酸素分子はほとんど存在しなかった。しか し,地球に降り注ぐ太陽のエネルギーを利用する光合成細菌などが現れ,それによって地 球上に酸素分子が長い年月を経て蓄積され,生命の誕生から 30億年かけてやっと陸上に 生物が存在するようになった。大気中の酸素濃度が今と同じくらいになったのは 3億年前 である。 なぜ,陸上に生物がい上がってくるのに時間がかかったのかというと,酸素分子はも のを燃焼させる非常に危険な分子であり,その危険性に対応できる防御機構を備えるのに, 時間を要したからである。酸素分子は我々に不可欠な分子で,今の酸素濃度が半分になる だけでも窒息してしまうが,濃度が高くても様々な障害を生む。不可欠なものである酸素 が,人をはじめとした多くの生物の老化や癌化に深い関わりがあるのは驚きではないか。 我々の身の回りには,当たり前と思っていることの中にも当たり前では済まされないこ とが隠れている。 (たかし)

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