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<論説>損害防止費用負担義務の制度的淵源(2・完)--わが国商法と英国海上保険法

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Academic year: 2021

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(1)損害防止 費用負担義務 の制度的淵源(二 ・完). 損害防止費用負担義務 の 制 度 的淵 源(二. ・完)*. わが国商法 と英国海上保険法. 野. 口. 夕. 子. -⊥. 目 次 第1節 は じめに 第2節 海上保険契約 におけるわが国商法660条1項 第1款 損害防止義務 および義務違反 の効果 第1項 損害防止義務 その理論的根拠 をめ ぐる学説 の検討 9自 00. 損害防止義務者 の範囲 損害防止義務 の開始時期. 4. 損害防止義務 の内容 第2項 損害防止義務違反 の効果(以 上, 55巻2号) 第2款 損害防止費用負担義務 一 商法660条1項 但書 と海上保険約款 との比較一 第1項. 保険者の損害防止費用負担義務 1損 害防止費用,そ の意義 2損 害防止費用の種類 3損 害防止費用の要件 第2項 損害防止費用負担義務をめ ぐる保険約款の有効性 1商 法660条1項 但書の強行性をめ ぐる学説の展開 2海 上 保険約款 にみ る損害防止費用負担義務 (1)船 舶保 険普通 保険約款 (2)内 航貨 物海上保険普通 保険約款 第3節 小 括 第1款 問題提起 第2款 英 国海上保 険法 の影響 とその考察 の必 要性(以 上,本 号) *本 稿 は,2006年 度 お よ び2007年 度 科 学 研 究 費 補 助 金(若 手 研 究(B)「. 損害防止. 費 用 負 担義 務 形 成 史 に つ いて の 実 証 的 ・比 較 法 的 研 究(課 題 番 号18730081)」) に よ る研 究 成 果 の一 部 で あ る。 一71一.

(2) 近畿大学法学 第2款. 損害防止費用負担義務 一. 第1項 1損. 第55巻第4号. 商 法660条1項. 但 書 と海 上 保 険 約 款 との 比 較. 保 険 者 の損 害 防止 費用 負担 義 務 害 防 止 費 用,そ. の意 義. わが 国 商 法660条1項. は,本 文 にお いて 被 保 険 者 に損 害 防 止 義 務 を課 す 。. ま た,同 項 但 書 は,被 保 険 者 が損 害 防止 義 務 を履 行 す る 際 に要 した 費 用 に つ いて,損 害 防 止 の た め に必 要 ま た は有 益 な もの で あ った場 合 に は そ の 成 否 に関 わ らず,か つ,た. とえ そ の費 用 と損 害 填 補 額 と の合 計 が約 定 の保 険. 金 額 を 超 過 す る と きで も,保 険 者 が そ の費 用 を負 担 す べ き 旨 を規 定 す る。 さ ら に,一 部 保 険 の 場 合 に も,同 条2項. を もって 保 険 者 が 損 害 防 止 費 用 に. つ い て 保 険 金 額 の 保 険 価 額 に対 す る割 合 に従 って 負 担 し,そ の残 額 を被 保 険者 が 負 担 す る 旨定 め て い る。 同項 但 書 に規 定 す る損 害 防 止 費 用 負 担 義 務 を め ぐって,特 約 に お い て は保 険 の原 則上,当. に海 上 保 険 契. 該 費 用 は当 然 に保 険 者 の 負 担 に帰 す る もの. で は な い とす る説 ㈲ と,当 然 の規 定 で あ る との主 張aiiに大 別 さ れ る6D。 前 説 の一 つ に,被 保 険者 の 損 害 防止 義務 にか か る規 定 の 性 質 に照 ら して そ の 解 釈 を展 開 す る も の が あ る。 同 説 に よ る と,「 被 保 瞼 者 に して既 に損 害 防 止 義 務 を負 ふ もの とせ ば,然. らば,其 の 反 面 に於 て保 険者 は必 然 的 に. 該 義 務 履 行 に伴 ふ 損 害 に就 き填 補 の 責 を 負 ふ べ き な る か 否 や の 問 題 で あ. (89)加 藤 ・ 前 掲 注(2)79頁,勝 呂 弘 『現 代 商 學 全 集 第26巻 頁(春 秋 社,1955年),葛. 城 照 三 『講 案. 海上保 瞼 〔 改 訂 新 版 〕』351. 海 上 保 険 契 約 論 』352頁(早. 稲 田大学. 講 案 海 上 保 険 契 約 論 』332頁(早. 稲 田大 学. 出 版 部,1963年),葛. 城 照 三 『新 版. 出 版 部,1966年),今. 村 有 『海 上 保 険 契 約 法 論. 下 巻 』309頁(財. 団法 人. 損害. 保 険 事 業 研 究 所,1980年)。 ⑳ ⑳. 小 町 谷 ・前 掲 注(2)585頁 。 非 海 上 保 険 の 分 野 に お い て,商 法660条1項 但 書 の 根 拠 を め ぐる こ の よ うな議 論 は,皆 無 で あ る。 一72一.

(3) 損害防止費用負担義務 の制度的淵源(二 。完) る。 この点 の考 察 は該 義 務 規 定 の性 質 に 遡 る こ とを 要 す る」 と した 上 で, 「凡 そ 保 瞼 契 約 に於 て は,保 瞼 事 故 の 嚢 生 せ る場 合,之 に基 く損 害 を 填 補 す る こ とを主 旨 とす る もの な れ ば,此 の主 旨よ り して は必 然 的 に藏 に所 謂 損 害 防止 義 務 の登 生 を見 ざ る所 な る は素 よ り其 塵 な り と云 ふ べ く,更 に民 法 に於 け る一 般 原 則 諸 規 定 に顧 る も斯 の種 の義 務 の護 生 を是 認 す べ き 法理 の 存 せ ざ る所 な る は論 な き所 で あ ら う。 果 して然 らば,各 國海 上 保 険 法 に 於 け る損 害 防 止 義 務 規 定 は特 別 規 定 た る の性 質 を有 す る」 こ とに な る6D。 した が って,「 被 保 瞼 者 の損 害 防 止 義 務 を負 ふ は 保 瞼 契 約 上 當 然 に要 求 せ ら る ㌧に 由來 す る所 に は あ らず して,第 一 義 的 に は保 瞼 者 の保 険,第 二 義 的 に は公 盆 の 保 全 を期 す て ふ 立 法 政 策 に基 き て然 る。 随 て被 保 瞼者 が損 害 防 止 義 務 を 負 ふ こ と は直 ち に其 の履 践 に伴 ふ ㈱ 損 害 に封 し保 険者 は之 が 填 補 の 責 を 負 ふ べ し との 必 然 的 法 理 構 成 を得 ざ る所 な る や 論 な き所 で あ る」 が,「 翻 て 惟 ふ に,既 に被 保 瞼 者 に して 保 瞼 契 約 に 於 け る必 然 的 要 求 に基 か ず して 損 害 防 止 義 務 を 負 ふ もの とな し,而 も保 瞼 者 は之 が履 践 に伴 ふ 損害 を填 補 す る責 な し とせ ば,徒 ら に契 約 の 當 事 者 間 に利 不 利 の差 別 的 地 位 を 築 く こ と \な り斯 て は法 の 期 す る衡 平 の 理 念 に背 反 す る に至 るで あ. 働. 瀬 戸 彌 三 次 『海 上 保 瞼禮 系(被. 保 険者 の措 保義 務 篇)』177頁(文. 雅 堂,1936. 年)。 ㈱. 瀬 戸 彌 三 次 博 士 は,こ. こで 被 保 険 者 の 損 害 防 止 義 務 の 「 履 践 に伴 ふ 損 害 」 と. の表 現 を用 い る と と もに,「之 を 普 通 損 害 防 止 費 用 と云 ふ も,其 の 用 語 は 學 術 的 債 値 を 有 す る も の で は な い」 と指 摘 す る(瀬 戸 ・前 掲 注 働222頁)。 そ の うえ で,「 各 國 に於 け る規 定 文 言 に於 い て は皆 保 瞼 者 は 『損 害 防 止 費 用 』"farisde recouvrment;Aufwendung(=Schadenobwendungs一. 王(osten)"に 就 き 責 を. 負 ふ とせ らる。 依 て之 を 文 字 的 に 解 す る に於 て は,金 鏡 に依 る費 用 に 限 る か の 観 を呈 す る所 な れ ど も,條 理 上 に於 て は 之 を 筍 くも損 害 防 止 行 爲 に伴 ひ た る一 切 の 有 形 無 形 の損 害 な り と解 さ ざ るを 得 ざ る所 で あ ろ う。 是 れ 私 が 一 般 的 に慣 用 せ られ つ1あ. る損 害 防止 費 用 あ る 用語 例 に敢 て 傲 ふ を 避 け,其 の 内容 を示 す. に比 較 的 適 切 な る損 害 防止 損 害 な る 語 を 使 用 す る所 以 で あ る」 と,そ の理 由 を 説 明 す る(瀬 戸 ・前 掲 注(9?」231頁)。 一73一.

(4) 近畿大学法学. 第55巻第4号. ら う」 と解 す る0の 。 他 方,保 険 者 の*G補 範 囲 か らそ の 根 拠 を 説 明 す る もの もあ る。 海 上 保 険 契 約 にお い て は,保 険 者 は,保 険 に付 され た 被 保 険 利 益 に生 じた 損 害 を 填 補 す る責 を 負 う。 しか しな が ら,保 険 者 が 一 切 の 直 接 損 害 を 填 補 す べ きで あ る とす る この 直 接 損 害 填 補 の 原 則p9に 対 して は,例 外 が あ る。 直 接 損 害 で あ って も小 損 害 に つ い て は 保 険 者 は 填 補 しな い とす る消 極 的 例 外 と,間 接 損 害 で あ って も一 定 の もの につ い て は 保 険者 が 填 補 責 任 を 負 う とい う積 極 的例 外 とで あ る⑲ ㊧ 。 わ が 国 商 法 は,前 者 につ いて 同830条1項. に 「共 同 海. 損 二 非 サ ル 損害 又 ハ 費 用 力 其 計 算 二 関 ス ル 費 用 ヲ算 入 セ ス シテ 保 険 価 額 ノ 百 分 ノニ ヲ超 エ サ ル トキ ハ 保 険者 ハ之 ヲ填 補 ス ル 責 二 任 セ ス」 旨の 少 額 損 害 ま た は費 用 の不 填 補 を規 定 し,ま た 後 者 に つ い て は 同638条2項 調 査 費用,同817条. に共 同 海 損 分 担 額,そ. に損害. して 同660条1項. 但書 に損害防止. 保 険損 害. で は な く,そ の. 費用 に か か る規 定 を設 け て い る。 保 険 に付 さ れ た被 保 険利 益 自体 の損 害. 保 険 損 害 を 防止 し軽 減 す る た め に被 保 険者 が支 出す る損 害 防止 費 用 は,発 生 す れ ば保 険 者 の 負担 に帰 す る損 害 を 防止 ・軽 減 す る た め の 費 用 で あ り,. ⑳ ㈱. 瀬 戸 ・前 掲 注(92}222∼223頁。 加 藤 ・前 掲 注(2)16頁,葛 (1966年)323頁. 城 ・前 掲 注(89)(1963年)342頁,葛. 城 ・前 掲 注(89). 。 「陸 上 保 瞼 に お い て 從 来 屡 々 行 な わ れ て い る直 接 損 害,間 接 損. 害 のpP別 は保 瞼 事 故 と損 害 との 因 果 關 係 が 直 接 な るか,間 接 な るか の 見 地 に立 脚 した もの で あ る」 の に対 して,上 述 の よ うに,「 海 上 保 瞼 で は,… … 保 険 事 故 が 當 該 保 瞼 契 約 の 目的 た る特 定 利 盆(=付. 保利 盆)上 に惹 起 した損 害 で あれ ば,. これ を 直 接 損 害 と い い,そ の他 の損 害,換 言 す れ ば,付 保 利 盆 以 外 の 利 盆 上 に 惹 起 した 損 害 で あ れ ば,こ れ を 間 接 損 害 と い う」(勝 呂 ・前 掲 注(89)270∼271頁)。 こ の点 に鑑 み,「 海 上 保 険 に お い て は こ の意 味 に お い て直 接 損 害 填 補 の 原 則 と い う言 葉 が 一 般 に使 わ れ る。 しか し,直 接 損害,間 接 損 害 とは 因 果 関 係 の 遠 近 を 意 味 す る こ と も あ る の で避 け た が よ い。 あ ま りに 当 然 の こ とで あ って,原 則 とい う に値 しな い 」 との 批 判 もあ る(今 村 ・前 掲 注(89)309頁)。 ㊤ ㊦ 葛 城 ・前 掲 注(89)(1963年)351∼352頁,葛 一74一. 城 ・前 掲 注(89)(1966年)332頁. 。.

(5) 損害防止費用負担義務の制度的淵源(二 ・完) した が って 保 険者 が 当然 に填 補 責 任 を 負 担 す る も の で は な い と解 す るの が,同 説 で あ る⑲ の 。 そ の う え で,わ が 国商 法660条1項. 但 書 の立 法 趣 旨を. 「公 平 の観 念 か ら,… … こ の費 用 を保 険 者 に負 担 させ る規 定 を設 け て い る」 と説 く㈱。 これ に対 して,そ 660条1項. もそ も保 険 者 に 損 害 防 止 費 用 負 担 を 義 務 づ け る商 法. 但 書 を 当 然 の 規 定 で あ る と解 す る後 説 は,そ の理 由 を次 の よ う. に説 明 す る。 す な わ ち,「損 害 防止 義 務 者 は,… … 保 険 契 約 の本 質 上,受 任 者 の地 位 に立 つ もの で あ る か ら,民 法 の規 定 に よ つ て も,必 要 費 用 の 償 還 又 は前 彿 を求 め る権 利 を,有 す る の で あ る が,商 法 は,損 害 防止 義務 者 の 利 盆 を保 護 す る た め,た だ に,必 要 な費 用 の み な らず,有 盆 な 費 用 につ い て も,そ の請 求 権 を認 め た の で あ る。 換 言 す れ ば,損 害 防止 行 爲 を な す 當 時 に,必 要 と は認 め え な い が,そ れ を なす こ とが,保 瞼者 の た め に,有 盆. 働. 葛 城 ・前 掲 注(89)(1963年)352頁,葛. 城 ・前 掲 注(89)(1966年)332頁,今. 村 。. 前 掲 注(89)309頁。 「損 害 防 止 費 用 は畢 寛保 瞼事 故 に因 り嚢 生 した る損 害 で は あ る が 保 瞼 の原 則 上 當 然 保 険 者 の負 携 に鶴 す る も の でな い」(加 藤 ・前 掲 注(2)79頁)。 損 害 防 止 費 用 は,「保 険契 約 に 附 随 す る損 害 防止 義 務 を履 行 す る に當 り,被 保 瞼 者 が 被 む つ た費 用 損 害 で あ つ て,保 瞼事 故 か ら被保 瞼 利 盆 が 直 か に受 け る と こ ろの,狭 義 の 保 瞼 損 害(直 接 損 害)で ㈱. 葛 城 ・前 掲 注(89)(1963年)352頁,葛. はな い」(勝 呂 ・前 掲 注(89)351頁)。 城 ・前 掲 注(89)(1966年)332頁. 。 さ ら に,. こ こ に公 平 の 観 念 と は,「即 ち之 に 因 つ て保 険者 が一 定 の利 盆 を受 け た か,少 な く と も利 盆 を 受 くべ きで あ つ た 」 こ とを 意 味 す る(加 藤 ・前 掲 注(2)79∼80頁)。 夢. 同 様 に,「 損 害 防 止 費 用 …… は保 険 契 約 に 附 随 す る損 害 防止 義 務 を履 行 す る に 當 り,被 保 瞼 者 が 被 む つ た費 用 損 害 で あつ て,保 瞼事 故 か ら被 保 瞼 利 盆 が 直 か に 受 け る と ころ の,狭 義 の保 瞼 損 害(直 接 損害)で 法(六. はな い」 こ とを前 提 に,「 商. 六 〇 條 但 書)が 物 保 瞼 の一 般 原 則 を超 越 して保 瞼者 に 損 害 防 止 費 用 填 補. の 義 務 を 負 わ しめ た こ とは,正 面 で 被 保 瞼 者(お よ び保 瞼契 約 者)に 課 した 一 主 契 約 に附 随 す る と は いえ,格 別 大 き な重 荷 と な る こ との あ る 一. 損害防止義. 務 の 裏 づ け を な す もの と して 甚 だ重 要 な意 義 を有 つ 。 蓋 し斯 く して こそ は じめ て保 瞼者 ・被 保 険 者 間 の 利 害 の均 衡 を保 た しめ うる か らで あ る」 と主 張 す る勝 呂 弘 博士 も,こ れ と同 旨で あ る(勝 呂 ・前 掲 注(89)351∼352頁)。 一75一.

(6) 近 畿大 学法学. 第55巻第4号. で あ る と認 あ う る費 用 も,保 瞼 者 が,こ れ を 負 捲 す る こ とを 要 す る点 を, 明 らか に した の で あ る」 と した 上 で,商 法660条1項. 但 書 「は,被 保 瞼 者. 及 び保 険契 約 者 が,損 害 防止 義 務 を 負推 す る こ と に封 し,利 害 の 平 均 を 保 つ た あ で あ つ て,當 然 の 規定 で あ る仰 。. 2損. 害 防 止 費 用 の種 類. わ が 国 商 法660条1項. 但 書 に 定 あ る損 害 防 止 費 用 とは,損 害 防 止 義 務 者. が 損 害 防止 義 務 を 履 行 す る た あ に蒙 っ た あ らゆ る 財 産 上 の 損 害 で あ る㈹。 したが って,火 災 消 防 費 用,海 難 救 助 料,弁 護 士 に対 す る報 酬 等 の 金 銭 の 犠 牲 は もと よ り,物 の犠 牲,第 三 者 に対 して 負担 した債 務 に至 るま で,損 害 防 止 費 用 に該 当す るUOD。 損 害 防 止 義 務 者 が,当 該 義 務 の履 行 に あ た って 自己 の労 力 を提 供 した場 合,そ の 報 酬 を 損 害 防 止 費 用 と して請 求 で き るか 否 か につ い て は見 解 が分. (99)小 町 谷 ・前 掲 注(2)585∼586頁 。 ⑪. 加 藤 ・前 掲 注(2)80∼85頁,小. 町 谷 ・前 掲 注(2)605頁,勝 呂 ・前 掲 注(89)352頁,. 葛城 ・前 掲 注(89)(1963年)355∼356頁,葛. 城 ・前 掲 注(89)(1966年)335∼336頁,. 葛城 。前 掲 注(7)113∼114頁 。 これ に対 して,今 村 有 博 士 は,「 損 害 防 止 費 用 を広 義 に 解 し,保 険 に付 け られ た利 益 の損 害 の 防止,軽. 減 若 し くは 救 助 に要 す る費. 用 は,こ れ が 損 害 防 止 義 務 者 の 行 為 に よ って生 じた もの も,ま た 第 三 者 の 行 為 に よ って 生 じた もの も,一 切 これ を損 害 防 止 費用 とす る 見 解 が あ る」 が,わ が 国 「商 法660条 の 規 定 す る損 害 防 止 費 用 は損 害 防 止 義 務 者 の 損 害 防 止 行 為 の 履 行 に よ る 費 用 を 意 味 す る も ので あ って 著 し く制 限 的 で あ る。 広 く被 保 険 利 益 の 損 害 の 防止 ・軽 減 若 し くは 救 助 に要 す る一 切 の費 用 や共 同法 損 害 分 担 金 な どを 包 含 す る もの で は な い。 こ こ に損 害 防 止 費 用 は保 険 事 故 の 発生 に 際 し,保 険 者 の填 補 す べ き損 害 の 防 止 ・軽 減 につ いて 被 保 険 者 及 び保 険 契 約 者 に 課 され た 損 害 防 止 義 務 の履 行 た る損 害 防 止 行 為 の 適 当 な手 段 に必 要 な 費用 で あ る」 と反 論 す る(今 村 。前 掲 注(89)310頁)。 (10D加 藤 ・前 掲 注(2)80∼85頁,小. 町 谷 ・前 掲 注(2)605頁,勝. 葛 城 ・前 掲 注(89)(1963年)355∼356頁,葛 葛 城 ・前 掲 注(7)113∼114頁 。 一76一. 呂 ・前 掲 注(89)352頁,. 城 ・前 掲 注(89)(1966年)335∼336頁,.

(7) 損害防止費用負担義務 の制度的淵源(二 ・完) か れ る。 加 藤 由作 博 士 は,損 害 防止 義 務 者 が 当 該 義務 の 履 行 の た め に,他 に得 べ か り し利 益 を失 った とき は,こ の 「失 は れ た る利 盆 等 は之 を 損 害 防 止 費 用 と して填 補 の請 求 を爲 す こ とを得 るが,自 己 に封 す る報 酬 は之 が 填 補 を請 求 し得 な い」 と主 張 す る゜ ⑫。 ま た,小 町谷 操 三 博 士 に よれ ば,「 そ の 行 爲 が,そ の地 位 に お い て,當 然 な す べ き もの で あ る 限 り,そ れ は,自 己 の義 務 の履 行 に外 な らな い か ら,そ の報 酬 を,費 用 と して請 求 す る こ と は 出來 な い。 しか し,そ の程 度 を超 え て勢 力 を用 ゐ た場 合 に は,そ れ に封 す る報 酬 を,費 用 と して請 求 す る こ とを妨 げ な い」0    。 したが って,「 船 長 が, 保 瞼 の 目的 と なつ て ゐ る船 舶 に,乗 船 して ゐ て,海 難 を避 け る た め,船 長 と して 當 然 なす べ き慮 置 を,な. した場 合 」 は,そ の報 酬 を損 害 防止 費用 と. して 請 求 す る こ と は で き な いが,「退 船 を正 當 とす る場 合 に,船 に と どま つ て,救 助 作 業 に從 事 した場 合,又. は船 長 の職 務 外 のin務 に服 した場 合 」 に. は,そ の 報 酬 を 当 該 費 用 と して 請 求 し得 るq    。 前 二 説 に 対 して,「 被 保 険 者 又 は保 険 契 約 者 が損 害 防 止 行 為 を な す こ と が 義 務 の 履 行 で あ るか らそ の 報 酬 が 填 補 され な い もの とす れ ば,損 害 防止 行 為 は被 保 険 者 の 義 務 で あ るか ら,そ の 費 用 の一 切 につ い て保 険 者 の填 補 は否 定 され な けれ ばな らな い。 何 とな れ ば,経 済 的 に見 れ ば,被 保 険 者 又 は保 険契 約 者 の 労務 と労 務 以 外 の 費 用 とを 区 別 す る こ と はで き な い」 し,. ⑰. 加 藤 ・前 掲 注(2)81∼82頁 。. poi小. 町谷 ・前 掲 注(2)605∼606頁 。 勝 呂 弘博 士 もま た,「 勢 力 の 提 供 も一 種 の 犠 牲. に は違 い な い が,普 通 は 財産 的 犠牲 とは 見 倣 され な い」 が,「 も し保 瞼 契 約 者 ま た は被 保 瞼者 が 保 険 者 の 受 任 者 と して,も. し くは事 務 管 理 者 と して 行 動 し,而. もそ の地 位 に お い て 當 然 庭 理 す べ き事 務 の範 園 を超 え て,自 己 の 勢 力 を 損 害 防 止 の た め提 供 した の で あ るな ら,相 當 の 報 酬 を損 害 防 止 費 用 と して 請 求 で き る と解 して差 支 え な い 。 防 止 義 務 者 が 自己 の 螢 力 を提 供 した た め 失 つ た 利 潤,ま た は 負旛 した債 務 は 固 よ り財 産 的犠 牲 に属 す る」とす る(勝 呂 ・ 前 掲 注(89)353頁)。 ⑭. 小 町谷 ・前 掲 注(2)607頁 。 一77.

(8) 近畿大学法学. 第55巻第4号. また 「損 害 防 止 行 為 を した が た め に,他 に得 べ か り し利 益 の 喪 失 を損 害 防 止 費 用 と認 め る こ と は,損 害 防 止 費 用 を 損 害 防 止 行 為 の 相 当因 果 関 係 の範 囲 外 に まで 逸 脱 させ る不 都 合 な 結 果 を 生 じさせ る もの で あ り,実 際 的 見 地 か ら見 れ ば,損 害 防 止 行 為 そ れ 自体 に対 す る労 務 の 報 酬 を 損 害 防 止 費 用 と 認 め る よ り更 に複 雑 な 当 事 者 間 の 紛 争 の 余 地 を 残 す こ と にな る」 と批 判 し た 上 で,「 被 保 険 者 又 は保 険 契 約 者 自身 が損 害 防止 行 為 に努 力 した とき は, そ の 努 力 に対 す る報 酬 はな お 損 害 防 止 費 用 と認 め るべ きで あ る」 との 見 解 が あ る゜ ⑮。 物 の犠 牲 を め ぐ って は,例 え ば,被 保 険 船 舶 の 遭 難 に際 し,無 保 険 の, ま た は,他 の 保 険 に 付 した る姉 妹 船 を そ の 救 助 に当 た らせ た 場 合 に,こ の 姉 妹 船 が救 助 作 業 中 に 蒙 った 損 害 一 救助料 他 方,保. 修 繕 費 や 救 助 船 の 船 員 に支 払 うべ き. は,勿 論,損 害 防 止 費 用 で あ る㈹。 険 の 目的 た る物 を 犠 牲 に 供 した 場 合,か か る犠 牲 は 損 害 防 止 費. 用 と して填 補 さ れ得 る か否 か。 被 保 険船 舶 の 沈 没 を 回 避 す るた め の 緊 急 処 置 と して の錨 鎖 の切 断,あ る い は,任 意 座 礁 に よ る損害 は⑰,損 害 防 止 費 用. ㈹. 今 村 ・前 掲 注(89)315∼316頁。. (IOp加 藤 。前 掲 注(2)81∼82頁,小. 町 谷 。前 掲 注(2)607頁,勝. 呂 ・前 掲 注(89)353∼354. 頁 。 こ の場 合 に お い て,船 主 が,姉 妹 船 た る船 主 と して 救 助 料 を請 求 し得 る か 否 か につ い て は,救 助 料 の請 求権 を 認 め る こ とを 前 提 に,こ の 救 助 料 もま た損 害 防 止 費 用 で あ る との 見 解(小 町 谷 ・前 掲 注(2)607∼608頁)と,被. 保険者 たる. 船 主 の行 動 は そ の義 務 履 行 の 範 囲 を で て い な い こ とか ら,救 助 料 は請 求 し得 な い と の説(加 藤 ・前 掲 注(2)82頁)が 存 す る。 加 藤 由作 博 士 は,そ の うえ で,「實 際 に於 て は之 に備 へ て各 國何 れ も所 謂 姉 妹 船 約 款 を 使 用 し,被 保 瞼 船 主 は 自 己 の 救 助 行 爲 に封 す る報 酬 を も保 瞼者 よ り請 求 し得 る 旨約 す る こ とが あ る」 と続 け る(加 藤 。前 掲 注(2)82頁)。 ま た,勝 呂 弘博 士 に よ れ ば,「 實 際 に は姉 妹 船 約 款 に よ り他 船 主 に よ る救 助 の場 合 に 擬 せ られ るか ら,防 止 費 用 に加 え て よ い こ と にな る」(勝 呂 ・前 掲 注(89)354頁)。 ⑰. 「か か る行 爲 を もつ て,被 保 険者 が故 意 に保 瞼事 故 を 招 い た もの と,解 す べ か ら ざ る こ と は,い ふ ま で もな い。 蓋 し,既 に生 じた保 瞼 事 故 が,か や う な防 止 ノ' 一78一.

(9) ・・ 一一ム忙輔 譜.. 損 害防止 費用負担義務 の制度 的淵源(二 ・完) で あ る と 同 時 に,保. 険 損 害 で も あ る㈹。 こ の 点 に つ い て は,解. 釈 論 上,ま. た. 海 上 保 険実 務 上,従 来,損 害 防止 費用 と して で は な く,保 険 損 害 と して 取 り扱 わ れ て い るq卿 。 損 害 防止 行 為 に よ って 保 険 の 目的 に附 随 的 に生 じた 損 害. 例 え ば,沈 没 を 防 ぐべ く切 断 した マ ス トの倒 壊 に よ って 当該 船 舶 が. 蒙 った 損 害. もま た,保 険損 害 と して 保 険 者 の 負 担 に帰 す るqゆ 。 もっと. も,他 に適 当 な方 法 が あ った に も拘 わ らず,船 長 の重 大 な過 失 に よ って判 断 を誤 った等,当 該 行 為 が損 害 防止 行 為 と して相 当 で な か った場 合 に は, 保 険 者 は,保 険 事 故 に よ る損 害. い わ ゆ る保 険損 害. と し て も,損. 害. 防 止 費 用 と して も,か か る填 補 責 任 を負 わ な いplp。 損 害 防 止 費 用 は,必 ず し も損 害 防 止 義 務 者 自 らが支 出 した もの で あ る こ と を要 しな い。 第 三 者 が,損 害 防 止 義 務 者 の た め に損 害 防 止 行 為 を な し,. \ 行 爲 を,必 要 と した もの だ か らで あ る」(小 町 谷 ・前 掲 注(2)606頁)。 同 旨 と して, 勝 呂 ・前 掲 注(89)354頁。 G⑱ 「この 損 害 を 保 険 損 害 と して 取 扱 うか,損 害 防 止 費 用 と して 取 扱 うか に よ り 保 瞼 者 の 填 補 額 に大 差 が生 ず る。 な ぜ な ら,假 りに 損害 防 止 費 用 と して 取 扱 う もの とす れ ば,保 険 者 は保 険金 額 を越 え て も責 任 を 負 わ な けれ ば な らな いの み な らず,小 損 害 で あつ て も小 損 害 不 搬 保 の 規定(商. 法八 三 〇 條)を 援 用 す る こ. とが で きな い か らで あ る」(勝 呂 ・前 掲 注(89)355頁)。同 旨 と して,今 村 。前 掲 注 (89)316∼317頁。 ㈹. 勝 呂 ・前 掲 注(89)354頁,葛 城 ・前 掲 注(89)(1963年)356頁,葛 (1966年)336頁,葛. 城 ・前 掲 注(89). 城 。前 掲 注(7)114頁,今 村 ・前 掲 注(89)316∼317頁。 加 藤 由作. 博 士 に よ れ ば,「 之 を 純 理 よ りす れ ば 該 犠 牲 は 本 來 一 種 の 損 害 防 止 費 用 た る性 質 を 有 す るの で あ るが,取. 引の 観 念 上 は專 ら之 を普 通 の保 瞼 損 害 と爲 す の で あ. る」(加 藤 ・ 前 掲 注(2)84頁)。 これ に 対 して,小 町 谷 操 三 博 士 は,「 保 瞼 の 目的 物 に封 して,損 害 防 止 行 爲 を なす 場 合 … …例 へ ば,緊 急 庭 置 と して の 錨 鎖 の 切 断, 沈 没 同避 の た め の 乗 揚. 積 荷 の一 部 の 投棄 」に つ い て も,「 自己 の 財 産 に加 え た. 損害 」 と して,損 害 防止 費用 に 包 含 す る(小 町 谷 。前 掲 注(2)605∼606頁)。 OlΦ 加 藤 ・ 前 掲 注(2)84頁。 「この 損 害 もま た 畢 寛 保 険事 故 そ の もの の 不 可 避 的 結 果 に ほ か な らな い か らで あ る」(勝 呂 ・前 掲 注(89)354頁)。 (11D小 町谷 ・前 掲 注(2)606頁,勝 呂 ・前 掲 注(89)355頁。 一79一.

(10) 近畿大学法学. 第55巻第4号. か か る費 用 の支 払 を求 あ た場 合 に は,そ の 第三 者 が 当該 行 為 を 損 害 防 止 義 務 者 の委 任 に よ って行 った か否 か を 問 わ ず,保 険者 は これ を 損 害 防 止 費 用 と し て 負 担 し な け れ ば な ら な いUID。. 3損. 害 防 止 費 用 の要 件. わ が 国 商 法660条1項. 但 書 に定 め る保 険 者 が 負 担 す べ き損 害 防 止 費 用 と. は,同 項 本 文 に規 定 す る損 害 防 止 義 務 を履 行 す る た め に要 した 費 用 で な け れ ば な ら な い 。 し た が っ て,か. か る 費 用 で あ る た あ に は,保. 険 事 故 の存 在. を 前 提 とす るの は 当然 で あ る。 保 険 者 の担 保 す べ き危 険 が発 生 して い な い. G② 「第 三 者 の 支 出 した る費 用 と錐 も被 保 瞼 者 の 事 務 管 理 が 行 はれ た る もの と し て 第 三 者 が 之 が 償 還 を 被 保 瞼 者 に請 求 し得 べ き性 質 の もの な る と き は,損 害 防 止 費 用 と して 保 瞼 者 は之 が 負 携 を爲 す 義 務 が あ る。 從 て 例 へ ば 海 難 救 助 料 の如 き は 其 の 全 額 に 於 て 當 然 損 害 防 止 費 用 に厨 す る」(加 藤 ・前 掲 注(2)85頁)。 小 町 谷操 三 博 士 は,続 け て 「損 害 防 止 の 目的 達 成 の点 か ら見 れ ば,第 三 者 が 委 任 に よ つ て 行 動 した か ど うか は,全. く,無 關 係 な こ とだ か らで あ る 。 故 に また,公. の施 設 が,損 害 防 止 義 務 者 の 意 思 如 何 を問 はず,公 益 の立 場 か ら,損 害 防 止 行 爲 を 行 つ た場 合,例 へ ば 港 湾 の 公 設 消 防 隊 が,消 火 作 業 を行 つ た 場 合,又. は交. 通 妨 害 とな る 坐 洲 船 を,港 長 が,そ の 灌 限 に基 い て 引卸 した場 合 に,こ れ に よ つ て損 害 を生 じ,又 は 被 保 瞼 者 た る船 舶 所 有 者 が,費 用 の負 携 を 命 ぜ られ た な らば,被 保 険者 は 保 瞼 者 に 封 し,損 害 防 止 費 用 と して,そ の損 害 又 は 費 用 の 償 還 を,求 め る こ とが で き る」 と述 べ る(小 町 谷 ・前 掲 注(2)608頁)。 こ れ に 対 し て,「損 害 防 止 を 目的 とす る行 為 に よ って 生 じる費 用 で あ って も,損 害 防 止 義 務 者 の損 害 防止 行 為 に よ る費 用 で な い 限 り,こ こ に い う損 害 防 止 行 為 に よ る 費 用 は損 害 防 止 費 用 で は な い」 との 見 解 が あ る。 同 説 に よ る と,「損 害 防止 手 段 の 採 用 を決 定 す る者 が,保 険契 約 者 又 は 被 保 険 者 で あ る と き は,第 三 者 が損 害 防 止 行 為 の実 行 者 で あ っ て も,こ れ は 保 険 契 約 者 又 は被 保 険 者 に よ る損 害 防止 行 為 で あ る」が,「第 三 者 が 保 険 契 約 者 又 は被 保 険 者 の依 頼 な く して行 う救 助 は損 害 防 止 行 為 で は な い」(今 村 ・前 掲 注(89)311頁)。また,鈴 木 祥 枝 博 士 は,「 損 害 防 止 費 用 は被 保 瞼 者 自 ら之 を支 佛 つ た もの で,保 険 契 約 で 保 瞼 者 が 填 補 の責 任 を 負 う損 害 の防 止 に必 要 で あ り又 は 有 盆 で あ つ た もの に限 られ る」 と解 す る(鈴 木 ・前 掲 注(7)294頁)。 :1.

(11) 損害防止費用負担義務 の制度 的淵源(二 ・完) な らば,仮 に船 舶 ま た は積 荷 が;;..;に遭 遇 し,被 保 険 者 が こ れ を免 れ る た め に費 用 を支 出 した と して も,そ れ は損 害 防 止 費 用 で は な い019。 また,保 険 事 故 が 発 生 した こ と を要 す るが,保 険 者 の負 担 す べ き損 害 が 発 生 した こ と は要 しな い働。 小 町 谷 操 三 博 士 は,続 けて,「 蓋 し,損 害 防止 行 爲 に よつ て,損 害 を 零 にす る こ とが 出來 た な らば,そ れ は,こ の 防止 行 爲 が,最 も よ くそ の 目的 を,達 成 した 場 合 だ か らで あ る」 と しつ つ も,「保 瞼事 故 が 登 生 す る以 前 に,そ の 護 生 を 防 止 した行 爲 は,そ の 行 爲 が な け れ ば,保 瞼事 故 が護 生 し,且 つ,そ の場 合 に も,同 一 の 防止 行 爲 を な す の が, 最 も妥 當 で あ つ た こ とを,認 め う る場 合 の ほか は,費 用 の 償 還 請 求 権 を生 じな い」 と解 す るpl9。 他 方,勝. 呂弘 博 士 は,商 法660条1項. 本 文 に規 定 す る. 損 害 防止 義 務 とは,「危 瞼 が 保 瞼 損 害 へ 具 禮 化 して い る と き,ま た は,そ の 具 禮 化 が避 け難 い と認 め られ る状 態 にあ る と き,適 當 な 手 段 を 執 る こ とを 命 じた もの で あ る」 と解 した上 で,し た が って 「危 険 が 切 迫 し,保 瞼 事 故 が避 け難 い と見 え て も,損 害 が現 實 に嚢 生 す るま で は損 害 防止 義 務 な く, した がつ て,こ れ を 阻止 す るた あ に犠 牲 を彿 つ て も損 害 防止 費用 とな らな い と解 す べ き で な い」 旨主 張 す るqゆ 。 損 害 防 止 費 用 とは,保 険事 故 の発 生 に よ って惹 起 され た損 害 を 防止,軽. ㈹. 「例 へ ば,全 損 のみ 旛 保 の特 約 あ る場 合 に,分 損 を生 ず る保 瞼 事 故 が起 り,且 つ,そ れ が 全 損 に嚢 展 す る危 瞼 が な い 場 合 に は,そ の 分 損 防 止 の た め に要 した 費 用 は,保 瞼 者 が,こ. れ を支 梯 ふ こ とを 要 しな いの で あ る。 保 瞼 の 目的 物 の性. 質 に よ る損 害 の,防 止 行 爲 に よつ て 生 じた費 用 につ いて も,同 様 で あ る」(小 町 谷 ・前 掲 注(2)601∼602頁)。 同 旨 と して,加 藤 ・前 掲 注(2)85頁,勝 357頁,今. 呂 ・前 掲 注(89). 村 ・前 掲 注(89)312頁。. (110小 町 谷 ・前 掲 注(2)603∼604頁 。 G⑤ 「か か る事 情 が な けれ ば,そ の行 爲 に よ る 費用 は,當 該 事 業 に通 常 附随 す る も の,若. くは早 す ぎ た も の,又 は不 適 當 な もの で あ つ た とい ふ,推 定 を生 ず る」. (小町 谷 ・前 掲 注(2)604頁)。 Olゆ 勝 呂 ・前 掲 注(89)355∼356頁。 同 旨 と して,今 村 ・前 掲 注(89)311頁。 一81一.

(12) 近畿大学法学. 第55巻第4号. 減 す るた め に要 した 費 用 で な けれ ば な らな いが,同 費 用 で あ る た め に必 ず し も当 該 損 害 の 防 止 ・軽 減 を 唯 一 の 目的 と す る費 用 で あ る こ と を 要 しな いGm。保 険 者 の 負 担 す べ き損 害 を 防 止 し軽 減 す る た あ に 支 出 され た 以 上 は,保 険 者 が 負 担 しな い,ま た は,他 の 保 険 者 の負 担 す べ き損 害 の防 止 ・ 軽 減 の た め で あ って も差 し支 え な いGl&。時 と して,保 険 者 の 負 担 す べ き損 害 の 防 止 ま た は 軽 減 が 従 た る 目的 とな って も,損 害 防 止 費 用 で あ る こ とを 妨 げ な いGl9。また,実 際 に も,保 険 契 約 者 また は被 保 険 者 は,保 険 者 の負 担 す る損 害 の 防 止 とそ うで な い損 害 の 防 止 とを 併 せ て 行 う場 合 が 多 いが,こ の よ うな 場 合,保 が,こ. 険 者 の 負 担 す べ き損 害 の 防 止 に よ って 生 じた 費 用 の み. こに 損 害 防 止 費 用 とな る伽。. と ころ で,損 害 防止 費 用 で あ るた め に は,損 害 を 防 止 し軽 減 す る 目的 を も って 要 した 費 用 で な けれ ば な らな い とす る見 解 が 主 流 の 中 で,そ. もそ も. 損害 防止 費 用 の 要件 と して,損 害 防 止 の 目的 は不 要 で あ る と解 す る説 が あ る。 同説 に よ れ ば,「 損 害 防 止 費 用 の支 彿 を請 求 す る た あ に は,必 ず し も, 損 害 防止 義 務 者 が,防 止 行 爲 を な す 目的 を 以 て,そ の 費 用 を 支 出 した こ と. (117)瀬 戸 ・前 掲 注(97」235∼244頁,加. 藤 ・前 掲 注(2)86頁,勝. 呂 ・前 掲 注(89)357頁,今. 村 ・前 掲 注(89)312頁 。 (1⑯ 瀬 戸 ・前 掲 注 働238∼244頁,加 頁,今 ㈲. 村 ・前 掲 注(89)312∼313頁. 藤 ・前 掲 注(2)86頁,勝. 瀬 戸 ・前 掲 注 働236∼237頁,加 村 ・前 掲 注(89)312∼313頁. 呂 ・前 掲 注(89)357∼360. 。 藤 ・前 掲 注(2)86頁,勝. 呂 ・前 掲 注(89)357頁,今. 。. (12Φ た だ,「 損 害 防 止 行 為 が 保 険 者 の 填 補 す べ き 損 害 と 然 ら ざ る 損 害 と の 防 止 を 目 的 と し た 場 合 に お い て,両. 者 が 別 個 の 防 止 手 段 か ら成 る 場 合 に は,損. 費 用 の 算 定 は 容 易 で あ ろ う 。 し か し,両 に は,損 頁)。. 害 防 止 費 用 の 算 定 は 困 難 を 伴 う で あ ろ う 」(今 村 ・前 掲 注(89)312∼313. そ の う え で,個. 掲 注(2)86∼92頁,勝 が,い. 害 防止. 者 の 救 助 作 業 が 分 離 し得 な い 場 合 … …. 々 の 場 合 に つ い て,瀬 呂 ・前 掲 注(89)357∼361頁. ず れ も 詳 細 に 論 じて い る 。 一82一. 戸 ・前 掲 注(92」236∼244頁,加. 藤 。前. お よ び 今 村 ・前 掲 注(89)313∼315頁.

(13) 損害防止費用負担義務 の制度 的淵源(二 ・完) を 要 しな い。 筍 く も損 害 防 止 義 務 者 が,損 害 の嚢 生 又 は接 大 を 防止 す る行 爲 を な し,且 つ そ の行 爲 が,損 害 防 止 行 爲 と して の要 件 を,備 へ て ゐ る 限 り,こ の者 は,そ の行 爲 につ い て要 した費 用 の償 還 を,求 め る こ とが で き る。 … … 蓋 し,保 瞼 者 の 立 場 か らいへ ばs荷. く も,客 観 的 に妥 當 な 防止 行. 爲 が あ る限 り,そ の行 爲 者 の 目的 の如 何 は,そ の利 害 に,何 等 の 關係 もな い か ら で あ る 」G2p。. そ の うえ で,わ が 国商 法660条1項. 但 書 に よれ ば,保 険者 は,損 害 の 防止. に 「必 要 又 ハ 有 益 ナ リシ費 用 」 を負 担 しな けれ ば な らな い。 損 害 の 防止 に 「必 要 又 ハ 有 益 ナ リシ費 用 」 で あ った か 否 か は,個. 々の 場 合 につ い て,そ. の 当 時 の 状 況 を 斜 酌 して 決 定 され るべ き とす る点 で は,解 釈 論 上,概 論 は な い ㈹。 し か し な が ら,そ. ω. の 判 断 基 準 を め ぐ っ て は,争. ね異. いが あ る。 一. した が って,当 然 の こ とな が ら,「損 害 の 防 止 を 目的 とす る場 合 に も,そ の防 止 行 爲 は,そ れ の み を,唯 一 一の 目的 とす る こ とを 要 しな い。 た だ この 場 合 に は, どの 範 園 の 費 用 が,損 害 防 止 の た め に支 出 せ られ た もの と,認 む べ きか の 問 題 を,生 ず るだ け で あ る。 ま た,そ の防 止 行 爲 は もち ろ ん,最 初 か ら,損 害 の一 部 の 防止 を,目 的 とす る もの で あ る こ とを,妨 ∼605頁)。. げな い」(小 町 谷 ・前 掲 注(2)604. G2の 加 藤 ・前 掲 注(2)92頁,小 町 谷 ・前 掲 注(2)588頁,勝. 呂 。前 掲 注(89)361頁。 これ. に対 して,今 村 有 博 士 は,「 こ こに必 要性,有 益 性,合 理 性,合. 目的 性 は費 用 に. つ い て 要 求 され る もの で は な く,損 害 防 止 行 為 に つ い て 要 求 され る。 保 険 者 は す べ て の 損 害 防 止 行 為 に よ る費 用 につ い て填 補 す る の で は な く,必 要 な,有 益 な,合. 目的 な 損 害 防 止 行 為 に よ る費 用 につ い て そ の責 め に任 ず る」 と解 した 上. で,「 損 害 防 止 行 為 の 合 理 性 は厳 密 に いえ ば損 害 防 止 を 必 要 とす る客 観 的 事 実 の存 在 を前 提 と し,現 実 に採 用 〔さ〕 れ た損 害 防 止 行 為 の合 理 性 は 決 定 され る べ き で あ る が,客 観 的 主 義 を 採 る と き は,当 事 者 間 の紛 争 の原 因 とな るの み な らず,損 害 防止 に 対 す る有 効 な 手 段 の 採 用 を逡 巡 させ る欠 点 が あ るか ら,主 観 主 義 が 立 法 上 優 れ て い る。 わ が 立 法 は 主 観 主 義 を採 る も の と解 す べ き で あ ろ う。 従 って,損 害 防 止 義 務 者 が 合 理 性 を確 信 し行 っ た損 害 防 止 行 為 は,そ の 後, そ の手 段 が不 合理 で あ った こ とが 証 明 され て も,合 理 的 損 害 防止 行 為 で あ る こ と を妨 げ な い」 とす る(今 村 ・前 掲 注(89)317∼318頁)。 一83一.

(14) 近畿大学法学. 第55巻第4号. つ は,当 該 費 用 の 必 要 性 また は有 益 性 は,当 時 にお け る客 観 的 標 準 に よ っ て 定 ま る との 説 で あ る㈱。 こ こ に客 観 的 標 準 と は,「着 實 な 被 保 瞼 者 ま た は 保 瞼 契 約 者 の 義 務 に即 した 判 断 を 基 に して,個. 々 に決 す べ きで あ る。 防 止. 義務 者 と して は 固 よ り保 険 損 害 の 防 止 ・輕 減 の た め,で な す べ き で あ る 。 し か し,そ と し な い 」働。 ま た,あ. の 程 度 を 以 つ て 足 り,そ. き るだ けの こ とを. れ 以 上 の こ とを 必 要. く ま で 「客 観 的 標 準 に よ つ て 決 定 す べ き で あ る か ら,. 被 保 険者 が必 要若 くは 有 盆 な りと認 め脚 又 は保 瞼者 が必 要 若 くは 有 盆 な ら ず と認 む る も゜ 節損 害 防 止 費 用 は其 の性 質 に何 等 の影 響 を受 け な い」°2ゆ 。. (12⇒加 藤 ・前 掲 注(2)92頁,勝 呂 ・前 掲 注(89)362頁。 瀬 戸 彌 三 次 博 士 は,こ れ を 「善 良 な る管 理 者 の注 意,1商. 法 に所 謂"imVeskehrerforderlichenSorgfar". (HGB§2了6Absl)を 標 準 と し,其 の程 度 に於 け る客 観 的合 目的性 を具 有 す る こ とを 要 す る も の と解 」 す る(瀬 戸 ・前 掲 注(92」245頁)。 (⑳ 勝 呂 ・前 掲 注(89)362頁。 ㈱. ただ,当 該 判 断 基 準 は,あ. くま で 「客 観 的 な もの で あ るが,同 時 に 防止 義 務. 者 の考 慮 に基 づ くと い う点 に お い て,そ の 客 観 性 は緩 和 され て い る。 した が つ て,そ. の 出費 が 實 際 上 眞 に止 む を得 な か つ た こ とを 必 要 と しな い。 ま た,客 観. 的 に は 出費 の必 要 が な かつ た と して も,被 保 瞼 者 また は保 瞼 契 約 者 が 當 時 の状 況 に照 ら し必 要 と認 め て 出費 した以 上,保 瞼者 に 填 補 を 求 め る こ とが で き る」 (勝呂 ・前 掲 注(89)363頁)。また,損 害 防 止 に 「必 要 又 ハ 有 益 ナ リシ費 用 」 に か か る具 体 例 につ い て は,加 藤 ・前 掲 注(2)93∼96頁 を参 照 の こ と。 p24勝. 呂弘 博 士 は,「 保 瞼 契 約 に 即 した 被 保 瞼 者 ま た は保 瞼 契 約 者 の考 慮 が 基 に. な る の で あ る か ら,保 険 者 が そ の 出 費 を必 要 と認 め な か つ た こ と も重 要 で な い 」と しなが ら も,「保 瞼 者 か らそ の 防 止 手 段 を 執 らな い よ う指 圖 が あつ た場 合 に お い て,こ れ に反 封 す べ き理 由 な き と き は,固 よ り これ に 從 うべ きで あ る」 と述 べ る(勝 呂 ・前 掲 注(89)363頁)。 伽. さ らに,そ の 求 め られ る必 要 性 ま た は有 益 性 を 「 具 備 しな い 費 用 と錐 も常 に 保 瞼 者 に何 等 義 務 な しと断 じ得 な い。 若 し之 が爲 に事 實 上 奏 数 を 見 た るが 如 き 場 合,例 へ ば 一 般 に救 助 の 見 込 な しと認 め た る坐 礁 船 舶 を 試 み に 救 助 した る に 之 が 奏 数 を 見 た るが 如 き場 合 に は,不 當 利 得 の原 則 に從 て 保 瞼 者 其 の 責 に任 ず べ き で あ る」(加 藤 ・前 掲 注(2)92頁)。 同 旨 と して,瀬 戸 ・前 掲 注(97」246頁 。小町 谷操 三 博 士 も,こ の 点 に つ い て は,「 當 時 の 事 情 か らい ふ と,損 害 防 止 行 爲 を, 正當 と認 め え な か つ た 場 合 に は,た とへ 事 實 上,保 険 者 に 有盆 な結 果 を 齎 ら し/ 一84一.

(15) 損害防止費用負担義務の制度的淵源(二 ・完) 同 説 に対 して 主 張 され て い るの が,「慎 重 な る無 保 険 者 主 義 」で あ る。 す な わ ち,「 被 保 険 者 は慎 重 な る人 が無 保 険 な り し とせ ば 行 動 す べ か り し如 く行 動 す べ し」 とい う命 題 に照 ら し,無 保 険 の 慎 重 な 所 有 者 を 損 害 防 止 行 為 の 合理 性 を 決 す る一 つ の 標 準 と して,「 そ の 者 が,損 害 防止 の た め,當 該 費 用 の 支 出 を,必. 要 又 は 有 盆 な り と,認 め る も の で あ る こ と を 要 し,且 つ,. そ れ で 充 分 で あ る」 と す る脚。. 「必 要 又 ハ 有 益 ナ リシ費 用 」で あ った か 否 か は,そ の 当 時 の 状 況 に照 ら し て これ を決 定 す べ き で あ るか ら,爾 後 状 況 の変 化 に よ って不 必 要 また は無 益 とな って も,換 言 す れ ば奏 効 しな い とき で も,保 険者 は 当該 費 用 を 負 担 しな け れ ば な らな い。 既 述 の よ うに,そ の判 断 基 準 に つ い て は説 が分 か れ る もの の,損 害 防 止 費 用 は奏 効 しな か った とき で も保 険者 の 負担 に帰 す る と解 す る点 で は異 論 は な い⑳。 こ こ に奏 効 を要 件 とす る こ と は,損 害 防止. \ て も,損 害 防 止 行 爲 が あ つ た こ とに は な らな い 。 しか し,損 害 防 止 行 爲 者 が, 不 當 利 得 の償 還 請 求 椹 を行 使 す る こ とは,こ れ を 妨 げな い」 とす る(小 町 谷 ・ 前 掲 注(2)588頁)。 同 旨 と して,今 村 ・前 掲 注(89)318頁。 G2$小 町 谷 ・前 掲 注(2)588頁 。 非 海 上 保 険 契 約 にお け る議 論 に 目 を転 じる と,同 説 が 通 説 とな って い る よ うで あ るが(野 津 ・前 掲 注(2)256頁,大 森 ・前 掲 注 ㈱171 頁,石 田 ・前 掲 注 ㈱176頁,坂. 口 ・前 掲 注 ⑳148∼149頁,田. 辺 ・前 掲 注(2)159頁,. 西 島 。前 掲 注(2)208頁),「 も し これ を 過 度 に強 調 し,恰 か もあ ら ゆ る場 合 を支 配 す る一 般 原 則 で あ るか の如 く説 くと,そ れ は正 當 で な い こ と にな る。 蓋 し被 保 瞼 者 お よ び保 瞼 契 約 者 は保 瞼 契 約 に 由つ て,無 保 瞼者 に は 關 係 の な い,種 々の 特 別 な 義 務 を 負 わ され て い る た め に,無 保 険 者 な ら執 らな い で 濟 む 塵 置 を ば, 契 約 に 則 して 執 らな くて は な らな い こ と が あ る か らで あ る。 … … 反 樹 に,無 保 瞼者 な ら愼 重 な 用 心 か ら執 るべ き塵 置 を,保 険 あ る が ゆ え に執 らず に濟 む こ と もあ り う る。 故 に 無 保 険 と い う見 地 か ら正 當 化 さ れ る行 動 圏 を以 つ て 直 ち に損 害 防止 行爲 の 合 理 性 や 防 止 費 用 の 必 要 性 を断 定 して 了 う こ とは で き な い 」 との 厳 しい批 判 が あ る(勝 呂 ・ 前 掲 注(89)362∼363頁)。 同 旨 と して,加 藤 由 作 「注 意 深 い無 保 険者 主 義 の功 罪 」 損害 保 険研 究14巻1号46∼48頁(1952年)。 ⑳. 瀬 戸 ・前 掲 注 ㈱247頁,加. 藤 ・前 掲 注(2)93頁,小 町 谷 ・前 掲 注(2)589頁,勝. 前 掲 注(89)361∼362頁,加 藤 由 作 『海 上 保 険 新 講 』199頁(春 一85一. 秋 社,1962年),今. 呂・ 丁.

(16) 近畿大学法学. 第55巻第4号. 義 務 者 の 臨 機 即 応 の 処 置 を 摯 肘 す る嫌 いが あ るか らで あ るG鋤 。 保 険 者 が 負 担 す べ き損 害 防 止 費 用 は,損 害 防 止 行 為 の 奏 効 を 要 件 と しな い け れ ど も,当 該 費 用 が 損 害 防 止 の た め に必 要 また は有 益 な もの で あ っ た こ と を 要 す る 。 し た が っ て,そ. の 程 度 を 越 え た 部 分 に つ い て は,損. 害防止. 義 務 者 の 損 失 に 帰 し,保 険 者 は 責 任 を 負 う必 要 はな いp3D。. 第2項 1商. 損害 防止 費用負担義務 をめ ぐる保険約款の有効性 法660条1項. 但 書 の 強 行 性 を め ぐる学 説 の展 開. 法 規 定 と保 険約 款 の乖 離 は,従 来,指 摘 され て き た と ころ で あ る。 特 に 保 険 法 分 野 に お い て は,法 規 定 を解 釈 す る に あ た って,保 険約 款 の 存 在 は. \ 村 ・前 掲 注(89)318頁。 ㈹. 勝 呂 ・前 掲 注(89)365頁。 瀬 戸彌 三次 博 士 は,こ の 点 につ いて,「 法 が被 保 瞼者 に封 して適 當 の 防止 手 段 を 講 ず べ き義 務 を 課 す る もの な る以 上,合 理 的手 段 な りと思 惟 せ らる \限 り何 等 の躊 躇 な く之 を 敢 行 す るの 鯨 裕 を 認 むべ しと な す こ と一 是 れ 其 の義 務 者(被 保 瞼者)に. 於 け る當 然 の 要 求 な り と解 す べ き所 な る に. 之 を … … 保 瞼 者 の責 任 は救 助 物 の 慣額 を 限 度 とな す 場 合 に在 りて は,事 實 上 防 止 行 爲 着 手 の當 時 其 の結 果(奏 数)に. 就 き 豫 見 す る こ とを 要 求 し,其 の豫 見 に. 基 きて 運 を 賭 す べ し(奏奴 以r.と のな 程る 度ぺ がき 坦か 害否 防か 止Y2用 に就き)と 額 な す こ と \な り,斯 て保 瞼 者 被 保 瞼者 の 責 任 均 衡 を失 す る に至 る で あ ろ う」 と指 摘 す る(瀬 戸 ・前 掲 注(9?」248頁)。 小 町 谷 操 三 博 士 も また,「 この 点 は,規 定 の 上 に現 れ て ゐな い けれ ど も,規 定 の 目 的 に鑑 み て,さ. う解 繹 す る の が妥 當 で あ る。 抑 も委 任 の 原 則 に よれ ば,必 要 費. 用 は,正 當 な 支 出 で あ る限 り,そ れ が委 任 者 に とつ て,有 利 な り しや 否 や を問 は ず,委 任 者 が,こ れ を負 措 す べ き もの で あ る」 こ とを 前 提 に,「 も し損 害 の防 止 又 は 輕 減 の,奏 数 を 要 す る もの とす る な らば,被 保 瞼者 は,損 害 の 完 全 な填 補 を う けえ な い 結 果 と な り,甚 だ不 合 理 で あ る。 且 つ,そ れ で は,損 害 防 止 義 務者 が 防 止 行 爲 を 躊 躇 す るか ら,損 害 の防 止 又 は輕 減 の機 會 が 少 な くな つ て, 結 局,保 瞼者 の 不 利 盆 にな る ので あ る」 と そ の理 由 を説 明 す る(小 町 谷 ・前 掲 注(2)589頁)。 これ に 対 して,加 藤 由作 博 士 は,「損 害 防止 費 用 の 負1旛が 奏 数 の 有 無 を 問 は な い の は 被 保 瞼 者 は軍 に損 害 防 止 に力 む る義 務 を 負携 し其 の 奏 数 を 負 捲 して居 な い當 然 の結 果 で あ る」 と述 べ る(加 藤 ・前 掲 注(2)93頁)。 (13p小 町谷 ・前 掲 注(2)590頁 。. :・.

(17) 損害防止費用負担義務の制度的淵源(二 。完) 無 視 で き な い。 む しろ,法 規 定 の 解 釈 如 何 に よ って は,保 険 契 約 は,法 で は な く,保 険 約 款 に よ っ て規 整 され る こ と に な る。 わ が 国 商 法660条1項 但 書 は,そ の典 型 とい え る。 非 海 上 保 険 の 分 野 にお い て,実 際 に は保 険 者 に よ る 損害 防止 費 用 負 担 の 行 わ れ て い な い わ が 国 にあ って ㈱,商 法660条1 項 但 書 と異 な る保 険 約款 の 有 効 性 につ い て は異 論 もあ り,同 項 但 書 の強 行 性 如 何 を 含 め,議. 論 が 尽 き な い こ と はGl⑳,既 述 の 通 りで あ る 。. 損 害 防止 費 用 負 担 に か か る保 険 約 款 の 有 効 性 を め ぐって,現 在,海 上 保. G3ゆ 木村 ・前 掲 注(3)216頁,古 瀬 村 ・ 前 掲 注(2)221頁 。 た だ,非 海 上 保 険 分 野 に あ っ て,火 災保 険 にお い て は,現 在,火 災 保 険 普 通 保 険約 款 を は じめ,火 災 保 険 関 係 の 各 保 険 約款 を も って,保 険 契 約 者 ま た は被 保 険者 が(1)消火 活 動 の た め に費 消 した 消 火 薬 剤 等 の 再 取 得 費 用,(2)消 火 活 動 に使 用 した こ と によ り損 傷 した 物 (消 火 活 動 に従 事 した 者 の着 用 物 を含 む)の 修 理 費 用 ま た は再 取 得 費 用,お. よ. び,(3)消 火 活動 の た め に緊 急 に投 入 され た人 員 ま た は器 財 に か か わ る費 用(人 身 事 故 に 関 す る費 用,損 害 賠 償 に要 す る費 用 ま た は謝 礼 に 属 す る もの を 除 く) に 限 って,か か る 費 用 が 他 の 填 補 額 と合 算 して保 険金 額 を超 過 す る場 合 で あ っ て も,保 険者 が 負 担 して い る。 当 該 保 険 に お い て も,当 初 は,保 険 契 約 者 お よ び被 保 険者 に損 害 防止 義 務 を課 しな が ら,「当会 社 は,… … 損 害 の 防 止 又 は軽 減 に 要 した 費 用 は,こ れ を 負 担 しな い」 旨約 定 して い た が,1981年6月1日. に実. 施 さ れ た全 面 改 定 を も って,上 述 の よ う に改 め られ た。 しか しな が ら,こ れ は, あ くま で も家計 保 険 分 野 につ いて のみ で あ る。1973「 年9月25日. の 日本 損 害 保. 険協 会 損 害 調 査 委 員 会 に お い て よ うや く,家 計 物 件 につ い て の み,『家 財 一 式 と して付 保 され て い る場 合 に は,保 険 の 目的 性 を容 認 し,か つ,危 険 の 蓋 然 性 の あ る こと を条 件 と して,』 旧 火 災 約 款 一 条 二 項 にい う 『消 防 損 害 』 と して,保 険 者 は て ん補 の責 め を 負 う,と い う損 害 保 険 業 界 の統 一 見 解 が成 る に い た った 」 が,「 企 業 物 件 に つ い て は,見 解 の 統 一 を み なか っ た」(藤 井 一 道 「一 五 防止 義 務 と消 防 損 害 」 田 辺 康 平 ・石 田満 編 『新 損 害 保 険双 書1火 訂 版 〕』 所 収353頁(文 ㈹. 損害. 災保険 〔 補. 眞堂,1994年))。. 特 に非 海 上 保 険契 約 お け る損 害 防 止 費 用 不 担 保 約 款 の有 効 性 を め ぐ って,わ が 国 で は,① 商 法660条1項. 但 書 を 強 行 規 定 と解 し,こ れ と異 な る保 険 約 款 はす. べ て無 効 とす る無 効 説(野 津 務 『保 険 契 約 法 論 』171∼172頁(有 た だ し,野 津 ・前 掲 注(2)258∼260頁 に お い て 改説),こ. 斐 閣,1942年),. れ に 対 して,同 項 但 書 を. 強 行 規 定 と解 した上 で,② 損 害 防 止 費 用 と他 の填 補 額 と の合 計 が 保 険 金 額 の 範 囲 内 で あ って も負担 しな い 旨約 定 す る保 険 約 款 につ い て の み無 効 とす る条 件 的 ノ 一87一.

(18) 近畿大学法学. 第55巻第4号. 険 契 約 に特 化 した 議 論 は見 受 け られ な い。 こ の よ う な現 状 に あ っ て,古 は,商 法660条1項. く. 但 書 が公 益 規 定 で あ る と の前 提 に,当 該 規 定 に反 す る保. 険 約 款 はす べ て 無 効 と認 め ざ るを 得 な い との 主 張 も存 した。 瀬 戸 彌 三 次 博 士 は,ま ず,「被 保 瞼 者 の 損 害 防 止 義 務 を 負 ふ は保 瞼 契 約 上 當 然 に要 求 せ ら る ㌧に 由來 す る所 に はあ らず して,第 一 義 的 に は保 瞼 者 の 保 険,第 二 義 的 には 公 盆 の 保 全 を 期 す て ふ 立 法 政 策 に基 きて 然 る。 随 て 被 保 険 者 が 損 害 防. 止義務を負ふ ことは直 ちに其あ履跳 た伴ふ損害 に封 し保瞼者 は之が填補 の 責 を 負 ふ べ し との 必 然 的 法 理 構 成 を 得 ざ る所 な るや 論 な き所 で あ る」 が, 「翻 て惟 ふ に,既 に被 保 険者 に して 保 瞼契 約 に於 け る必 然 的 要 求 に 基 か ず して 損害 防 止義 務 を 負 ふ もの とな し,而 も保 瞼 者 は 之 が 履 践 に伴 ふ 損 害 を 填 補 す る責 な し とせ ば,徒. らに 契 約 の 當事 者 間 に利 不 利 の 差 別 的 地 位 を 築. く こ と \な り斯 て は法 の期 す る衡 平 の理 念 に 背 反 す るに 至 るで あ ら う」 と 解 す る㈹。 そ の うえ で,保 険 者 の損 害 防 止 費 用 負 担 義 務 「規 定 の 性 質 は 被 保. \ 無 効 説(石 井 ・前 掲 注⑳330頁,大 189頁,鈴. 木 ・前 掲 注....頁),③. 森 ・前 掲 注 ㈱173頁,田. 中=原 茂 ・前 掲 注(Z9). 保 険 者 が 被 保 険 者 に対 して損 害 防止 義 務 違 反. に基 づ く損 害 賠 償 請 求 権 を 放 棄 す る な らば,如 何 な る損 害 防 止 費 用 不 担 保 約 款 も有 効 とす る条 件 付 有 効 説(松 本 ・前 掲 注 ⑳114頁,伊 學 全 書 〕』283頁(青. 林 書 院,1957年)),そ. 澤 孝 平 『保 険 法 〔 現代法. して,現 在 の 通 説 と して,④ 如 何 な. る保 険 約 款 もす べ て 有 効 とす る有 効 説(青. 山 ・前 掲 注(2)269頁,野 津 。前 掲 注(2). 259∼260頁,古. 辺 。前 掲 注(2)148∼149頁,西. 瀬 村 ・前 掲 注(2)221頁,田. 掲 注(2)212∼213頁)の. 島 ・前. 四 説 が 存 在 す る。 ま た,山 下 友 信 教 授 は,「損 害 防 止 費 用. を そ もそ もて ん 補 しな い もの とす る約 款 を 用 い る保 険 種 類 もあ るが,損 害 て ん 補 義 務 を ど こ ま で認 め る か は契 約 自 由 の 問題 で あ り不 当 視 す べ きで はな い」 と しな が ら も,「 も っと も,損 害 防 止 費 用 の て ん 補 を す る場 合 と しな い場 合 とで は 損 害 防 止 義 務 の 内容 に 自ず か ら差 異 が生 じる の で は な い か と思 わ れ る」 と述 べ る(山 下 ・前 掲 注(2)415頁)。 な お,こ の 点 につ い て の 詳 細 お よ び私 見 は,拙 著 ・前 掲 注 ⑲92∼100頁,315 ∼329頁 を 参 照 の こ と。 (⑳ 瀬 戸 ・前 掲 注(97」222∼223頁 。 ...

(19) 損害 防止費用負担義務 の制度 的淵源(二 ・完) 瞼 者 の負 推 す る損 害 防 止 義 務 規 定 が 特 別 規 定 た る の性 質 に鑑 み又 同様 に解 せ ざ るを 得 ざ る所 で あ る。 然 り然 れ ど も,法 が 既 に此 の損 害 防 止 損 害 を以 て 保 険 者 の 負 携 に錦 す べ き もの とな す 以 上,反1)の. 解 繹 に資 す べ き特 別 の. 理 由存 せ ざ る 限 り,法 意 は此 の 損 害 防 止 損 害 侃 畿。 蕊藁。 認 蕩)を. 一般保. 険 者 の 負 捲 に蹄 す べ き損 害(猫 學者 は普通 之をVersicherungsschadenと 云う)に 準 ず る に存 す る もの と解 す る こ そ穏 當 の 見 解 と云 はね ば な らぬ 。 斯 て 損 害 防 止 損 害"Aufwendungsschaden"が. 保 瞼 損 害"Versicherungsschaden"内. に包 撮 せ ら る1. もの とせ ば,保 瞼 損害 に封 して 適 用 せ ら るべ き一 切 の 損 害 保 瞼 の 原 則 規 定 及 び海 上 保 瞼法 規 は 損害 防止 損害 に封 して も亦 當然 其 の適 用 を 見 るべ き所 な る は云 ふ ま で もな き所 で あ る」 と暁 さ らに,「一 部 保 瞼 の場 合 に於 け る保 瞼者 填 補額 算 定 に關 す る規 定(三 九 一條. 〔 現636条 〕)は. 損 害 防止 損 害 の場 合 に其 の適 用 を見 る こ と1. な る」 が,「 第三 九 一 條 〔現636条 〕 の規 定 精 神 よ り して,保 瞼者 は原 則 と して 保 瞼 金 額 以 上 に損 害 填 補 の責 に任 ぜ ざ る所 な るが 故 に,本 來 に於 て は 損 害 防 止 損 害 の 場 合 に在 りて も亦 同様 に保 陰 金 額 よ り も超 過 せ る防 止 費 用 に就 き保 瞼 者 其 の 責 に任 ぜ ざ るべ きの 理 な れ ど も,法 は斯 くて は被 保 険 者 を して 損 害 防 止 に専 念 た ら しむ る所 以 にあ らず との 政 策 的 見 地 よ り して, 防 止 費 用 が保 険 金 額 を超 過 す る場 合 と錐 も(籠 饗 鍵 の 該 超 過 額 を も負 推 す べ き」 で あ る と続 け る㈹。 しか しな が ら,そ の後 は,保 険者 の損 害 防止 費用 負担 義 務 を定 あ る商 法 660条1項. 但 書 が 任 意 規 定 で あ る との前 提 に,損 害 防 止 費 用 負 担 に か か る. 海 上 保 険 約 款 論 に終 始 して い る。 加 え て,同 項 但 書 を任 意 規 定 とす る見解 も,そ の理 論 的 根 拠 を特 に示 した もの は,ほ ぼ皆 無 で あ る。 例 え ば,加 藤. ㈱. 瀬 戸 ・前 掲 注(9?」228∼229頁 。. ㈹. 瀬 戸 ・前 掲 注 働229頁. 。. i'.

(20) 近畿大学法学. 第55巻第4号. 由作 博 士 は,前 項 で 詳 述 したが,「損 害 防止 費 用 は畢 寛 保 瞼事 故 に 因 り嚢 生 した る損 害 で は あ る が保 険 の原 則 上 當 然 保 瞼者 の 負措 に蹄 す る もの で はな い。 蓋 し本 費 用 は所 謂 間接 的損 害 の性 質 を有 して い る か らで あ る。 然 し今 日何 れ の國 法 に於 て も保 険 者 之 を填 補 す べ き 旨規 定 して居 る が,之 は 寧 ろ 公 平 の観 念 に基 い て居 る の で あ る」 と解 す る も,同 項 但 書 の強 行 性 如 何 に つ いて は,「尚本 費 用 に 關 す る規 定 の但 書 は 強行 法 で な い か ら,保 瞼者 が之 に反 す る特 約 を爲 す こ と は差 支 な い」 と述 べ る に と どま る㈹。 ま た,商 法660条1項. 但 書 を も って 保 険 者 に損 害 防 止 費 用 を 負 担 させ し. め る の 「は,被 保 瞼 者 及 び保 瞼 契 約 者 が,損 害 防 止 義 務 を負 推 す る こ とに 封 し,利 害 の平 均 を 保 つ た め で あつ て,當 然 の規 定 で あ る」 と主 張す る小 町 谷 操 三 博 士 に あ って も㈲,そ の 強 行 性 如 何 に つ い て は,損 害 防 止 「義 務 は,公 盆 に も關 係 を 有 す るか ら,損 害 の防 止 を禁 止 す る特 約 は,無 敷 で あ る。 しか し,そ の 他 の 特 約,例 へ ば損 害 防 止 費 用 の償 還 を しな い 旨 の特 約 は,こ れ を 妨 げな い」 とす る のみ で あ る既 と こ ろで,海 上保 険 契 約 にお い て,「損 害 防 止 費 用 に対 す る保 険 者 の填 補 責 任 は保 険 契 約 の 当 然 の 効 果 で はな い。 けだ し,損 害 保 険 契 約 は保 険 事 故 に よ り被 保 険 利 益 に生 じた 損 害 を 屓 補 す る契 約 で あ るか らで あ る。 損 害 防 止 費 用 に対 し,保 険 者 に填 補 責 任 を 負 わ せ る立 法 の根 拠 は,被 保 険 者 に損 害 防 止 義 務 を 負 わ せ る こ と に対 し,公 平 を 保 つ こ とが 必 要 で あ る こ と及 び 損 害 防 止 義 務 を 負 わ せ た 目的 を 達 成 させ る に効 果 が あ るか らで あ る」 と説 き つ つ,商 法660条 ユ項 但 書 を任 意 規 定 と解 した上 で,そ の 根 拠 を 明 示 す る. G3の 加 藤 ・前 掲 注(2)79頁 。 葛 城 ・前 掲 注(89)(1963年)352頁 (1966年)332頁. も,全. お よ び 葛 城 ・前 掲 注(89). く同様 で あ る。. ⑯. 小 町 谷 。前 掲 注(2)585∼586頁. G鋤. 小 町 谷 ・前 掲 注(2)556頁 。. 。. 一90一. '▽ 甲帰.

(21) 損害 防止 費用 負担義務 の制度 的淵源(二 ・完) 説 が あ るu⑰ 。 同説 に よ れ ば,商 法660条1項. 本 文 に基 づ き 「被 保 険者 に損 害. 防 止 義 務 が あ る とい って も,そ れ は 当然 の こ とで あ り,特 別 の 負 担 を課 す る もので は な い… … 。 被 保 険 者 が負 担 す べ き損 害 防 止 に要 す る費 用 は,一 種 の 費 用 利 益(Aufwandinteresse)で. あ り,こ れ を 保 険 に 付 け る こ と は 差. 支 な い。 商 法 は この よ うな 費 用 利 益 をす べ て 損 害 保 険 に 当然 附帯 させ て い る立 場 を と って い る と見 るべ きで あ る。 故 に約 款 で そ の よ うな 附帯 保 険 を はず し,そ の 分 だ け保 険 料 を 低 廉 にす る こ と は公 序 良 俗 に反 す る もの で は な い 。 また,こ れ を 保 険 経 営 の 技 術 的 構 造 か ら考 え れ ば,保 険 的 保 護 の主 た る 目的 た る所 有 者 利 益,収 益 利 益 な ど の損 害 に対 す る保 険 と,損 害 防 止 費 用 の よ うな 費 用 利 益,殊. に保 険 金 額 に よ る制 限 の な い附 随 的 な 損 害 に対. す る保 険 と は 別 個 に 取 扱 う こ と が 合 理 的 で あ る 」p44。しか し な が ら,こ れ は. 従 来,非 海 上 保 険契 約 に お け る当 該 規 定 を め ぐって 展 開 され て きた 解 釈 論 で あ り㈹,海 上 保 険契 約 にお け る独 自の,か つ,目 新 しい 議 論 で はな い。 い ず れ に せ よ,海 上 保 険契 約 に お い て も勿論,保. 険者 の 損 害 防 止 費 用 負. G⑪ 今 村 ・前 掲 注(89)319頁。 ω. 今 村 ・前 掲 注(89)320∼321頁。 しか しな が ら,同 説 に対 して は,「 損害 防止 費用 につ い て,別 個 の保 険契 約 が併 存 す る もの で あ る,と の 見 地 もあ る」が,「 著 し く,事 實 と當 事 者 の意 思 と に反 す る」との 批 判 が あ る(小 町 谷 ・ 前 掲 注(2)585頁)。. (≫ 青 山 ・前 掲 注(2)269頁,田. 辺 ・前 掲 注(2)148∼149頁 。 加 え て,非 海 上 保 険契 約. に お いて は,同 説 に対 して,「 一 般 に損 害 防 止 費 用 と は な にか 明 らか で な く,そ の 費 用 の認 定 や 算 定 も むず か し くi紛 争 の生 ず る お それ もあ」 り,「今 日で は, た とえ ば工 場 に関 す る火 災 保 険 の場 合 に 化 学 消 火 剤 を 使 用 した 場 合 そ れ が高 額 にな る こ と も予 想 され る」の で,こ れ に は理 由が あ る と しなが ら も,「家 計 保 険 の 場 合 に は,被 保 険 者 に損 害 防 止 義 務 だ け を期 待 し,こ れ に対 して そ の費 用 を 払 わ な い とす る こ と は衡 平 に欠 け る とい わ ざ るを え な い 。 した が って,少. なく. と も家 計 保 険 の 分 野 に お い て は,保 険 者 は,そ の 費用 と填 補 額 とを 合 算 して保 険 金 額 を 限 度 とす る制 約 の もと で も損 害 防止 費用 を 負 う 旨 に改 め るべ き」 と の 指摘 が あ る(石 田 。前 掲 注 ㈱178頁)。 な お,わ が国 の火 災 保 険 実 務 にお け る 当 該 約 定 を め ぐる動 向 に つ い て は,前 掲 注 ㈹ を 参 照 の こ と。 一91一.

(22) 近畿大学法学. 第55巻第4号. 担 義 務 を 規 定 す る 商 法660条1項. 但 書 は任 意 規 定 で あ り,当 該 規 定 と異 な. る保 険約 款 の そ の す べ て が有 効 で あ る。 わ が 国 に お い て締 結 さ れ る海 上 保 険契 約 に は,原 則 と して,行 為 地 法, す な わ ち わ が 国 の法 律 が適 用 さ れ る。 しか しな が ら,海 上 保 険 契約 に つ い て も,非 海 上 保 険 契 約 と 同様,定 型 化 さ れ た保 険約 款 に よ って取 引 され て い る のが 実 状 で あ る。. 2海. 上 保 険 約 款 に み る損 害 防 止 費 用 負 担 義 務. 「海 上 保 険 法 の法 源 と して は,商 法 第 四編 〔 現 第3編 〕 海 商 第 六 章 保 険 に収 あ られ た商 法 の 規 定 を 中心 と して商 法 の淵 源 に関 す る原 則 が一 般 に適 用 され るが,海 上 保 険 取 引 の実 際 に お いて は,保 険 約 款 が 重 要 な役 割 を演 じ,海 上 保 険契 約 関係 は ほ とん ど全 部 保 険 約 款 に よ って 支 配 され,実 際上, 国 家 の 定 め た 法 律 の 代 用 を な し,法 律 は 単 に補 充 的 な 意 義 し か も た な い」㈹。 こ こ に指 摘 され る よ うに,そ れ が 当然 に強 行 規 定 で あ る と解 され て きた 被 保 険者 の 損 害 防 止 義 務 を 定 め る商 法660条1項. 本 文 に比 して,同 項. 但書 に規 定 す る保 険者 の 損 害 防 止 費 用 負 担 義 務 は,解 釈 論 上,任 意 規 定 と 解 す るの が通 説 で あ り,故 に当 該 義 務 につ いて も保 険 約 款 に よ る と こ ろ と な って い る。 海 上 保 険 は,船 舶 所 有 者 の所 有 船舶 に対 す る被 保 険 利益 を 対 象 とす る船 舶 保 険 と,海 上 運 送 され る貨 物 の輸 送 中 に生 ず るお そ れ の あ る損 害 を 填 補 す る こ とを 引 き受 け る貨 物 海 上 保 険 に大 別 され る。 わ が 国 の海 上 保 険 実 務 に お い て も,当 初 は,非 海 上 保 険実 務 と同様,船 舶 保 険 お よ び貨 物 海 上 保 険 の いず れ も各 保 険 会 社 ご とに作 成 され た普 通 保 険約 款 に よ る保 険 の 引受. ㈹. 葛 城 ・前 掲 注 ⑬1頁 。 一92一.

(23) 損害防止費用負担義務 の制度的淵源(二 。完) が 行 わ れ て い た が,1898年1月,「. 当 時 海 上 保 険 事 業 を 営 ん で い た東 京 海 上. 保 険 会 社,日 本 海 陸 保 険 会 社,帝 国 海 上 保 険 株 式 会 社 お よ び 日本 海 上 保 険 株 式 会 社 の 四 社 は,大 阪 にお いて 四 社 会 議 を 開 催 して,保 険 料 の 引上 げ と 船舶 お よ び 貨 物 の 保 険 証 券 につ い て 議 し,保 険 証 券 の 改 正 と共 に普 通 保 険 約款 の 改 正 も同 年 一 〇 月 に決 定 し,同 年 一・ 一・ 月 か ら改 正 約 款 が 実 施 され 」 る暁. しか しな が ら,「 この 四社 会 議 によ って作 成 され た保 険約 款 は,大 綱. に お い て は 同 じで あ った が,細 部 にわ た って は,会 社 に よ って 多 少 の 相 違 が あ った」㈹。 そ れ か ら四半 世 紀 を経 た1920年4月30日,日. 本海上保険協会の設立 と同. 時 に,当 該 協 会 の事 業 と して保 険約 款 の 改 定,統 一 の 議 が 起 こ る。 そ こで 立 案 さ れ た計 画. す な わ ち,英 文保 険証 券 に お け る保 険 約 款 と和 文 保 険. 証 券 に お け る保 険証 券 約 款 を統 一 し,各 保 険 会 社 に共 通 す る保 険 約 款 を 設 け る こ とを 目的 と した和 文 保 険約 款 の改 定 一. に基 づ い て,ま ず は 日本 籍. 船 を対 象 とす る船 舶 保 険 に か か る統 一 約 款 と して 旧船 舶 保 険 普 通 保 険 約 款 お よ び損 害 填 補 の範 囲 に 関す る船 舶 保 険特 別 約 款5種. が作 成 され,各 保 険. 会 社 に共 通 す る統 一 約 款 と して そ の実 施 に至 る㈹。1933年 の こ とで あ る。 後 を追 う よ う に1943年 に は,わ が 国 の沿 岸 輸 送 貨 物 を対 象 とす る内航 貨 物 海 上 保 険 に つ い て も,旧 内航 貨 物 海 上 保 険 普 通 保 険約 款 が 完 成 を み る  の。. ㈹. 葛 城 ・前 掲 注 ⑬17∼18頁 。. ㈲. 葛 城 ・前 掲 注(13)17∼18頁。. ㈹. 当該 約 款 の 改 定 ・統 一 に至 る経 緯 につ いて は,日 本 海上 保 瞼 協 會 特 別 委 員 「 海 上 保 険(船 舶)約 款 改 正 理 由書 下(文 雅 堂,1933年)を. ㈲. 保 険謹 券. 普 通保険約款. 特 別 約 款 』1頁 以. 参 照 の こ と。. 当 該 約 款 の 実 施 に至 る沿 革 に つ い て は,北 沢 宥 勝 「貨 物 保 険 証 券 並 に保 険約 款 の 改 正 案 に就 て 」損 害 保 険 研 究3巻3号160∼164頁(1937年),社 損害保険協会内 211∼214頁(社. 団法 人 日本. 日本 貨 物 保 険100年 史編 集 委 員 会 編 『日本 貨 物 保 険100年 史 』 団法人. 日本 損 害 保 険 協 会,1981年)を 一93一. 参 照 の こ と。.

(24) 近畿大学法学. 第55巻第4号. そ の後,両 保 険約 款 は文 語 体 を 口語 体 に 改 め る とい う表 現 形 式 に主 目的 を お い た1965年 改 定 を 経 て囎,旧 内 航 貨 物 海 上 保 険 普 通 保 険 約 款 に つ い て は 1989年4月1日. に 大 改 定 が 行 わ れ て 以 降,今. 日 に 至 っ て い る。 旧 船 舶 保 険. 普 通 保 険 約 款 お よ び 船 舶 保 険 特 別 保 険 約 款 に つ いて も,翌1990年4月1 日,抜 本 的改 定 が実 施 さ れ た が,そ の 後 の船 舶 保 険 の 自由 化 お よ び 日本 船 舶 保 険 連 盟 の解 散 に伴 って,当 該 約 款 の 各保 険会 社 に 共通 す る統一 約 款 と して の性 格 は失 わ れ,現 在 で は,各 保 険会 社 に お い て個 々 の 保 険 約 款 が 用 い られ て い るp49。した が って,わ が 国 の海 上 保 険実 務 に お い て は,現 在,日 本 籍 船 を そ の対 象 とす る船 舶 保 険 は,主. と して 日本 船 舶 保 険連 盟 が 作 成 し. た統 一 約 款 で あ る船 舶 保 険 普 通 保 険 約 款 お よ び そ の必 要 性 に応 じて 当 該 約. ㈹. た だ し,旧 内 航 貨 物 海 上 保 険 普通 保 険 約 款 につ いて は,当 該 改 定 以 前 に もそ の 必 要 性 か ら文 言 を 訂 正 す る と と も に,免 責 事 由 が 削 除 さ れ て い た。 旧 内航 「貨 物 海 上 保 険 普 通 保 険 約 款 は,戦 後,必 要 に よつ て文 言 の訂 正 と免 責 事 由 の抹 消 が あ つ た。 文 言 の 訂 正 と して は,第 一 七 条 の 『ヨ ー ク ・ア ン トワ ー プ 規 則 (千九 百 二 十 四 年)』 が 『ヨ ー ク ・ア ン トワ ー プ規 則(千 九 百 五 十 年)』 に訂 正 さ れ,第 二 四 条 の 『日本 帝 国 の法 令 』 が 『日本 国 の 法 令』 に 訂 正 され た こ と を あ げ る こ とが で き,又 免 責 事 由 の抹 消 と して は 第 四 条 第 六 号 の 『貨 物 の取 扱 又 は 積 付 の 不 注 意 』が 抹 消 され た こ とを あ げ る こ とが で き る」(葛 城 照 三 『条 解 物 海 上 保 険 普 通 約 款 論 』15頁(有. 斐 閣,1959年))。. そ の 後 も,1951年. 貨. と1953年. に 計 三 度 に わ た る一 部 改 定 が 行 わ れ て い る(松 島 ・前 掲 注(16)1∼2頁)。. な お,. 両 約 款 にお け る1965年 改 定 の経 緯 とそ の 要 旨に つ い て は,葛 城 ・前 掲 注 ⑬18∼ 20頁 を 参 照 の こ と。 G⑨ 当 該 約 款 は,「1997年 にな る と,船 舶 保 険 の 自 由化 と船 連 〔日本 船 舶 保 険 連 盟 〕 の 解 散 によ り,統 一 約 款 と して の性 格 が失 わ れ,各 社 個 々 の 約 款 とな る。 … … しか し,実 質 上 各 社 と も同 一 約 款 を 使 用 して い るの で 差 異 は な い」(藤 沢 順 「Part4海. 上 リス ク と船 舶 保 険 」 藤 沢 順 ・小 林 卓 視 ・横 山 健 一 『海 上 リス ク マ. ネ ジ メ ン ト』 所 収187頁(成. 山堂,2003年))。. ([5Φ先 後 す るが,船 舶 保 険 特 別 約 款5種. に加 え,1987年,船. 舶 保険第六種特別約. 款 が 新 た に設 け られ て い る。 当 該 約 款 は,「 わ が 国 で ス タ ンダ ー ドな約 款 と さ れ る 第五 種 〔 特 別 〕 約 款 の 形 式 ・体 裁 に合 わせ なが ら一 九 八七 年 四 月 一 日 に制 定 され た新 約 款 」 で あ り,「担 保 す る 事 由 は 第 五 種 約款 と同 一 で あ るが,第 五 種/ 一94一.

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