ユビキタスコンピューティングの世界を実現する革新的ネットワーク技術:4.やわらかいネットワーク
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(2) Special Features: Revolution of Networking Technologies to Support the Ubiquitous Computing Environment. クはこのような利用者の要求を満足するサービスを理. して,ネットワークが対処できる変化の種類やその程. 解し,自動的に構成し提供する(知性).. 度が大きいほど,やわらかさが大きいと考える.. 2. :故障や事故などによ. りネットワーやそのサービスに障害が起こった場合, 著者らが推進してきたやわらかいネットワークの研. これを素早く検出して対応策を自動的に発動し,利用. 究は,次の 3 つのフェーズに整理できる.. 者に対する悪影響(サービス品質低下や仕事の中断など). (1)第一期(1980 年代中盤から 1990 年代初頭)では,. を最小限に抑え込む(恒常性). 3. :利用者の習熟度やシステム. 利用者の立場を重視したサービスの実現に焦点をあて. を取り巻く環境の変化によるネットワーク/サービス. て,知識情報処理技術に基づく大規模ネットワーク/. の更新/変更/新規創生が,利用者に負担を与えるこ. ネットワークアプリケーションの系統的な開発を支援. となく行える(発展性).. する知識型設計方法論 1)を提案した.. やわらかいネットワークの「やわらかさ」は,上記の. (2)第二期(1991 ∼ 98 年)は,新しいネットワークア. 3 つの特性が実現される度合いに応じて決定される.そ. ーキテクチャに関する研究を推進し,「やわらかいネッ. (a) 本来の形(正常動作). 自律的な復帰. やわらかい ネットワーク (ゴム風船). 圧力の消滅 過剰な圧力 圧力の発生. 外圧. 内圧. (b) 圧力への対処(動作の調整・継続). (c) 破裂(システムダウン). -1. 他システム. 災害/事故. 短期的変動への自律的対応. 妨害 利用者. 稼働状況の変動. 要求の変化 やわらかいネットワーク. 知的で柔軟な処理 知性. 発展性. 恒常性. アプリケーション. 内部機能の変化. システム更改 設計者/管理者. 恒久的変化への自律的対応. -2. 43巻6号 情報処理 2002年6月. −2−.
(3) マルチエージェントによる「やわらかさ」の創生 利用者A. 利用者要求の知的処理. 利用者AのFVCS エージェント組織. 動画像の自律的調整. 計算機 計算機環境の自動監視. FVCSエージェント組織の 自律的は構成/再構成. 利用者B. ネットワーク環境. 協調動作. ネットワーク環境の自動監視. 情報共有の知的支援. 協調動作. 音声の自律的調整. 計算機. 利用者BのFVCS エージェント組織. :エージェント. -3. FVCS. トワーク」のコンセプトを確立した時期にあたる 2),3).. され,その成果は次世代グループウェア製品などに反. このコンセプトは,利用者の視点からネットワークの. 映されている.. 利便性や透明性を格段に向上させるために,時々刻々. (3)第三期(1999 年∼現在)では,ネットワーク環境. と変化する利用者から要求されるサービスとネットワ. がその利用者/アプリケーションをより能動的に支援. ーク稼働環境の変動を自律的に検出・処理する能力を. できる新たな仕組みの実現を目指している 8).現在,や. 備えた知的ネットワークの概念である.その実現手段. わらかいネットワークの 1 つの実現法である「動的ネッ. として,著者らは,エージェント指向コンピューティ. トワーキング」において,やわらかいネットワーク層と. ング技術を積極的に取り入れたネットワークアーキテ. 呼ぶ新たな機能層を提案し,エージェント指向アーキ. クチャを開発した.そして,本アーキテクチャに準拠. テクチャに基づくプロトタイプの試作を進めている 9).. した具体事例であるやわらかいビデオ会議システムを. 本研究の一部は,1999 年から 5 年計画でスタートした日. 実現し,やわらかいネットワークに基づくサービスや. 本学術振興会・未来開拓プロジェクトにおいて推進さ. アプリケーションの有用性を実証した 4).加えて,やわ. れ,今日に至っている.. らかいビデオ会議システムをはじめとする種々の機 能/サービスをマルチエージェントシステムとして構 成するために,ADIPS(Agent-based Distributed Information Processing System)フレームワークと呼ぶエー ジェントシステム構築ツールを開発した 6),7).これら. やわらかいネットワークでは,ネットワークシステ. の研究の一部は,情報処理開発協会・創造的ソフトウ. ム自身の構造的な柔軟性だけでなく,利用者/アプリ. ェア開発事業のプロジェクト(1996 ∼ 98 年)として実施. ケーションに対する親和性,多様な利用者要求やサー IPSJ Magazine Vol.43 No.6 June 2002. −3−.
(4) Special Features: Revolution of Networking Technologies to Support the Ubiquitous Computing Environment. ビス品質の充足性,あるいは,稼働環境の変動への適. ムに対して,利用者の要求や作業環境に即して動的か. 応性などを含めた複合的な視点から,ネットワークシ. つ適応的に調整・変更する機能を付与することにより,. ステムのやわらかさを追求している 2).具体的には,た. 個々の利用者に適合した知的メッセージングサービス. とえば,「やわらかいネットワークの考え方」で述べた. を提供する.いずれのシステムも,種々の制御知識に. 3 つの特性を反映した次のような機能の実現を目指して. 基づいて動作するエージェントからなるマルチエージ. いる.. ェントシステムとして設計され,前述した ADIPS フレ. (1)利用者やアプリケーションから与えられる要求を. ームワークを利用して実装されている.. 受理・解釈し,これに対応した妥当な応答やサービス. やわらかいネットワークの研究では,1995 年頃から. を動的に実現する(知性).. ネットワーク分野に対して知識処理技術やエージェン. (2)システム稼働中に,利用者/アプリケーションか. ト技術の導入を積極的に推進してきたが,今日,同様. ら,システム開発時に想定されていなかった要求が与. のアプローチに基づく研究開発が数多くみられるよう. えられた場合,これに対処するための処理を自律的に. になっている.今後,より高度なネットワークアーキ. 決定し実行する(知性).. テクチャや高付加価値サービスの実現に向けて,これ. (3)システム自身,もしくはシステム環境における. らの技術の果たす役割はますます高まってくるものと. 種々の障害に対して,利用者/アプリケーションに提. 考えられる.. 供しているサービスや処理を最大限に維持するように, システムの機能や構成を調整・変更し,障害の原因が 解消された場合には,元の状態に自律的に復帰する(恒 常性). (4)技術革新,制度変革,システム動作環境の変化に 対応した新規機能の創生などのシステム更改が,利用. 現在,やわらかいネットワークのコンセプトに基づ. 者/アプリケーションにとって好ましくない影響を及. く次・次世代ネットワークの実現手法について研究を. ぼすことなく行える(発展性).. 進めている.そこでは,やわらかいネットワークの実. これらの機能は,利用者/アプリケーション,およ. 現法として,やわらかいネットワーク層を導入した「動. び,ネットワークの双方で観測されるさまざまな変化. 的ネットワーキング」と呼ぶネットワークアーキテクチ. に対処しながら,利用者/アプリケーションの多様な. ャを提案し,これを分散プラットフォーム上のネット. 要求を最大限に満足させるためのものである.. ワーク向きミドルウェアとして実現する手法について 検討を進めている 8),9). 従来のネットワークアプリケーションの多くは,. やわらかいネットワークのサービス事例として,や. TCP/UDP などが提供するトランスポート通信サービス. わらかいビデオ会議システム(FVCS: Flexible Videocon-. を静的/固定的に用いて構成されてきた.しかしなが. System)4),そして,やわらかい非同期メッセ. ら,利用者の増加や利用要求の高度化などを背景とし. ージングシステム(FAMES: Flexible Asynchronous. て,時々刻々と変化するネットワーク環境における従. ference. System)5)などが開発されている.. 来の固定的な通信サービス利用に関する種々の問題が. FVCS は,家庭や小規模オフィスなど,十分な資源. 明らかとなりつつある.たとえば,通信路を確保する. (伝送速度や処理能力など)が得られないネットワーク. 際に通信相手に対応する IP アドレスやポート番号を推. 環境における不慣れな利用者向きのビデオ会議サービ. 定しなければならないといった接続時の不自由さ,ア. -3).その特徴は,ビデオ. プリケーションごと/セッションごとの QoS 制御が柔. 会議開始時のサービス生成機能,ビデオ会議中のサー. 軟に行えない,あるいは,帯域保証機能の有無などの. ビス調整機能とサービス再構成機能を備えることによ. 機能的差異を考慮した効果的なネットワーク利用が困. り,利用者要求やネットワーク稼働状況の変化に自律. 難であるなどの問題が挙げられる.そこで,これらを. 的に対処できる点にある.たとえば,ネットワークト. 解決するための手段として,やわらかいネットワーク. ラフィックに輻輳が生じた場合,既存のビデオ会議シ. 層を導入した動的ネットワーキングの枠組みを提案し. ステムはダウンするが,FVCS では資源をやりくりして. た.これは,やわらかいネットワークの 1 つの実現法を. サービスを継続することができる.また,FAMES は,. 与えるものである.. Messaging. スを提供するものである(. 電子メールに代表される非同期メッセージングシステ 43巻6号 情報処理 2002年6月. −4−.
(5) 利用者. AP層 Java新規AP. レガシーAP. メディアエレメント機能. エージェント. レガシーアダプタ機能. メディア変換機能. ミドルウェア サービスユニット. 利用者・AP情報獲得機能. メディアストレージ機能 利用者・AP情報獲得ユニット. FN層. QoS制御ユニット QoS要求獲得機能. 接続提供機能. 接続要求獲得機能 位置変化獲得機能. 名前解決機能. 流量調整機能. 流量解決機能. 経路多重化機能. 経路解決機能. 高レベル通信ユニット. NW情報収集機能. プラット フォーム 情報獲得 ユニット. NW運用ユニット TCP. LN層. IP EtherNet. ATM. -4. ISDN. FN. 者・ AP 情報獲得ユニットとプラットフォーム情報獲得 やわらかいネットワーク層(FN 層)は,. ユニットは,FN 層を介して連携する AP 層と LN 層の各. -4 に示すよ. うに,現行の IP ネットワーク/テレコムネットワーク. 種要素の稼働状況の観測/収集/管理を行う.さらに,. などから構成される論理ネットワーク層(LN 層)と,ア. ミドルウェアサービスユニットは,AP 層のアプリケー. プリケーションが動作するアプリケーション層(AP 層). ションと連携して利用要求に即したサービスを構成す. との中間に位置する新たな機能階層である.その狙い. るための各種コンポーネントを提供する.これらの詳. は,AP 層からの要求と LN 層のサービスを効果的に連. 細は文献 9)に譲るが,現在,これらのユニットに属す. 結し,AP 層と LN 層の双方における大規模・小規模/. る各種機能をエージェントにより実装する手法を検討. 一時的・恒久的な変動を自律的に調整することにある.. し,その部分試作と評価を進めている.. 具体的には,下位層のネットワークサービスを抽象化 して上位層に提供する層機能に加えて,上/下位層の 動作状況を監視して,各層の機能に対して積極的に働 きかけるアクティブなミドルウェアとしての機能(サー. 現在,FN 層ミドルウェアが提供するサービス,およ. ビス連結,層内機能要素の適応的構成,動作履歴に基. び,これを利用したアプリケーションの開発を進めて. づ く 制 御 知 識 の 獲 得 , 共 通 機 能 の 組 込 み な ど )を 有. いる.たとえば,ミドルウェアレベルのサービスでは,. する.. 利用者指向流量制御,やわらかい経路制御,やわらか. やわらかいネットワーク層は 6 種類の機能ユニットに. い名前解決など,モバイル環境向きサービスマイグレ. 属するミドルウェアコンポーネントの組織として構成. ーションなど,また,FN 層のアプリケーションとして. される.ネットワーク(NW)運用ユニット,高レベル. は,モバイルユーザ向きのやわらかいビデオ会議シス. 通信ユニット,および QoS 制御ユニットは,LN 層のサ. テム,コンテンツ配信サービス,オンデマンドサービ. ービス/機能の管理/調整を担当する.また,利用. スなどがある. IPSJ Magazine Vol.43 No.6 June 2002. −5−.
(6) Special Features: Revolution of Networking Technologies to Support the Ubiquitous Computing Environment. 現状のネットワークサービス品質(QoS)保証方式で ある IntServ や DiffServ などにおいては,アプリケーシ. やわらかいネットワークのコンセプトに基づく次・. ョンを接続する経路上の IP ルータや通信装置に対する. 次世代ネットワークアーキテクチャの開発に向けた研. 特別な実装が必要となり,利用できるネットワークや. 究開発の現状を紹介した.本稿で述べたやわらかいネ. アプリケーションが制限される.そこで,FN 層を利用. ットワーク層(FN 層)は,やわらかいネットワークをネ. して,ネットワークサービスを変更することなしに,. ットワーク向きミドルウェアとして実現するものとな. 利用者の状況に応じた QoS 制御を実現することを目指. っており,今後,FN 層ミドルウェアとその上で稼働す. す.すなわち,利用者の要求に応じた流量制御機構を. る利用者指向アプリケーションの拡充と評価を引き続. FN 層に導入し,アプリケーション利用状況とその優先. き推進し,ネットワーク社会を支える新しい情報通信. 度に応じて,AP 層と LN 層間のトラフィックをアプリ. 基盤の実現を目指したい.. ケーションごとに調整・制御する.一般に,こうした 優先度,すなわち利用者指向の QoS パラメータを利用 1)Kinoshita, T., Sugawara, K. and Shiratori, N.: Knowledge-based Design Support System for Computer Communication System, IEEE Journal on Selected Areas in Communications, Vol.6, No.5, pp.850-861(1988) . 2)Shiratori, N., Sugawara, K., Kinoshita, T. and Chakraborty, G.: Flexible Networks: Basic Concept and Architecture, IEICE Trans. Commun., Vol.E77-B, No.11, pp.1287-1294(1994) . 3) Shiratori, N., Suganuma, T., Sugiura, S., Chakraborty, G., Sugawara, K., Kinoshita, T. and Lee, E. S.: Framework of a Flexible Computer Communication Network, Computer Communications, Vol.19, pp.1268-1275(1996) . 4)菅沼拓夫, 藤田 茂, 菅原研次, 木下哲男, 白鳥則郎: マルチエージェン トに基づくやわらかいビデオ会議システムの設計と実装, 情報処理学 会論文誌, Vol.38, No.6, pp.1214-1224(June 1997) . 5)Sekiba, J., Kitagata, G., Suganuma, T., Kinoshita, T., Okada, K. and Shiratori, N.: FAMES: Design and Implementation of Flexible Asynchronous Messaging System, Proc. Int. Conf. on Software in Telecommunications and Computer Networks(SoftCOM'98), IEEE COMSOC, pp.125-134(1998) . 6)藤田 茂, 菅原研次, 木下哲男, 白鳥則郎: 分散処理システムのエージェ ント指向アーキテクチャ, 情報処理学会論文誌, Vol.37, No.5, pp.840852(May 1996) . 7)Kinoshita, T. and Sugawara, K.: ADIPS Framework for Flexible Distributed Systems, in Ishida, T.(ed.): Multiagent Platforms, Lecture Notes in Artificial Intelligence LNAI1599, Springer-Verlag, pp.1832(1999) . 8)Shiratori, N., Chakraborty, G., Sugawara, K., Kinoshita, T. and Suganuma, T.: Make Network a Lively Distributed System: A Modern Approach to Solve Networking Problems, Proc. 14th Int. Conf. on Information Networking(ICOIN-14), IEEE, pp.5A-3.1-8(2000) . 9)Suganuma, T., Kinoshita, T. and Shiratori, N.: Flexible Network Layer in Dynamic Networking Architecture, Proc. of The 1st International Workshop on Flexible Networking and Cooperative Distributed Agents(FNCDA2000), pp.473-478(2000) . 10)Kitagata, G., Sekiba, J., Suganuma, T., Kinoshita, T. and Shiratori, N.: Agent-based Flow Control Mechanism for Flexible Asynchronous Messaging System FAMES, Proc. 14th Int. Conf. on Information Networking(ICOIN-14), IEEE, pp.2B-2.1-8(2000) . 11)Konno, S., Kitagata, G., Suganuma, T., Kinoshita, T., Sugawara, K. and Shiratori, N.: Dynamic Networking: Architecture and Prototype System, Proc. Int. Conf. on Computational Intelligence and Multimedia Applications(ICCIMA01), pp.93-97, IEEE(2001) . (平成14 年5 月1 日受付). 状況に応じて適切に選択・設定するためには QoS に関 する専門知識が必要となるが,本機構は,これを FN 層 ミドルウェアとして提供されるアプリケーション監視 機能や QoS 解決機能などを用いて行うことにより,利 用者やアプリケーションへの負担を課すことなく,利 用者指向の QoS 調整・制御を実現するものである.. IP ベースの通信では,各通信ノードが保持するルー ティングテーブルに基づいて経路が選択される.しか し,それらは単一で半固定的な経路となり,転送効率 のよい経路が選択できる場合でも局所的な最短経路に トラフィックが集中する傾向があり,ネットワーク全 体として転送効率が低下してしまう.そこで,やわら かい経路制御サービスでは,利用者/アプリケーショ ン間でさまざまな通信において,その利用要求を十分 満足できる適切な経路を自律的に選択・設定する.す なわち,FN 層において,利用要求に即した単一/多重 経路の選択と適応的なルーティングを行うアプリケー ションに応じた経路制御機構を提供する.その中核と なる機能は,複数経路へのトラフィック分割(多重経路 通信),多重経路の動的選択・設定,負荷状況に応じた トラフィックの流量調整である. こうした FN 層ミドルウェアや利用者向きアプリケー ションは,各種のエージェントとその組織として実現 される.これらのエージェントでは,既存ソフトウェ アとの連結や制御ができるため,FN 層ミドルウェアで は,AP 層と LN 層に存在する既存のサービス/機能と 緊密に連携した利用者向きのサービスを実現すること ができる.. 43巻6号 情報処理 2002年6月. −6−.
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