《実践報告》主体的・対話的で深い学びを実現するための漢文授業の提案 ―白居易「香炉峰下、新卜山居、草堂初成、偶題東壁」を教材に―
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(2) 横浜国大国語教育研究 No.43(2018) (匡廬は是便ち名を逃るる地). ①五人グループで、二句ずつ「香炉峰下」の書. 司馬仍為送老官. き下し文と現代語訳を考える。(プリントⅠ. (司馬は仍ほ老を送る官たり). 記入). 心泰身寧是帰処. ②それぞれのグループが考えた書き下し文と現. (心泰く身寧きは是帰する処). 代語訳を教師が添削し、クラスで共有。. 故郷何独在長安 (故郷何ぞ独り長安に在るのみならんや). 【第 2 回】 本時の目標. 「香炉峰下」は、順風満帆な政治家としての生. ・白居易の人物像について学ぶ. 活を送っていた白居易が、43歳の時に江州へ. ・中国と日本の文化の関係について学ぶ. と左遷された後、その地で詠んだ漢詩である。. 授業の流れ. 「香炉峰下」を左遷という事実を知らないまま. ①学校配布の国語便覧の白居易に関する項目を. 読むと、悠々自適な生活を享受する白居易の姿. 参考にしながら、白居易の人物像をつかみ、. が印象付けられる。しかし、左遷という人生の. 「香炉峰下」がいつ詠まれた漢詩なのかを理. 一大転機をふまえて読むと、この漢詩からは敢. 解する。(プリントⅡ記入). えて自身の状況を悠々自適の生活として描くこ. ②①と同様に国語便覧を参考にしながら、「長. とで、白居易が左遷を前向きに捉えようとする. 恨歌」と『源氏物語』を参考に、中国と日本. 姿を見ることが出来る。つまり、人生を多角的. の文化の関係を理解する。(プリントⅡ記入). に捉え、どのような境遇であっても今自分が生 きている場所に価値を見いだそうとする、白居. 【第 3 回】. 易という詩人の生き方を見出すことができるの. 本時の目標. である。. ・「香炉峰下」を白居易の人生と重ねて読む. 本単元では、このような「香炉峰下」の特徴. ・現代における漢文を読む意味を考える. を活かして、漢詩だけを読む場合と、作者の人. 授業の流れ. 生を踏まえて漢詩を読んだ場合で、漢詩の読み. ①前時で学習した、 白居易の人生を踏まえて(左. 方が変わるという経験を経て、作者を含めた漢. 遷されたときに「香炉峰下」は作られたこと. 詩の理解を深めさせたいと思い、本単元の目標. を踏まえて)、再度「香炉峰下」を読み、漢. を、「漢詩の作者の人生や経験を踏まえて漢詩. 詩から、どのような白居易の感情が読み取れ. を読むと、漢詩の持つ意味やイメージが大きく. るかについて考える。(プリントⅢ記入). 変わることを理解し、漢詩に詠まれる作者の人. ②漢詩の読み方が変わった経験から、漢詩や漢. 間観や人生観について考える」と設定した。. 文を読む意味を考える。(プリントⅢ記入). 本実践は論者の出身高校である、群馬県立沼 田高等学校 の2年生の文系クラス(38名)に. 本実践では、毎回の授業でプリントを論者が. て行った。 沼田高校は群馬県の公立の男子校で、. 作成し、配布した。今回は、スペースの都合上. 一般的にいう進学校である。そのため、4年制. プリントの掲載は控えさせていただくが、プリ. 大学に進学する生徒が多く、学習に対する意欲. ントⅢにおける質問項目は、後の章にて言及す. は比較的高いと言える。. る。. 授業は計3回、次のようにして行った。. 三. アンケートについて 単元の開始前と、終了後にそれぞれ生徒に漢. 【第 1 回】. 文の学習に関するアンケートを実施した。質問. 本時の目標. 項目は次の通りである。回答形式はアンケート. ・「香炉峰下」の書き下し文を書き、現代語訳. 結果を参照してもらいたい。. を考える 授業の流れ 118.
(3) 横浜国大国語教育研究 No.43(2018) 【単元開始前】. 合計. 37. ①漢文の学習に対してどのようなイメージがあ りますか。. 【単元終了時】. ②漢文の学習の難易度についてどのようなイメ. ③今回の単元の学習について楽しかったと思い. ージがありますか。. ますか 楽しい. 26. 【単元終了時】. どちらかと言えば楽しい. 11. ③今回の単元の学習について楽しかったと思い. どちらともいえない. 1. ますか。. どちらかといえばつまらない. 0. ④今回の単元の学習について難しかったと思い. つまらない. 0. ますか。. 単元による. 0. 無回答. 0. 合計. 38. ※すべての質問に対し、その回答をした理由も 記述してもらった。 今回実施したアンケートの目的は、本実践を. ④今回の単元について難しかったと思いますか. 通じて、どのように生徒の漢文の学習に対する 考え方が変化したのか、を捉えることである。 質問項目はそれぞれ「楽しさ」と「難易度」の 観点から設けた。アンケートの結果は次のよう になった。なお、記述の引用は全て原文のまま とした。 【単元開始前】 ①漢文の学習に対してどのようなイメージがあ 0. どちらかと言えば楽しい. 4. どちらともいえない. 16. どちらかといえばつまらない. 7. つまらない. 4. 単元による. 5. 無回答. 1. 合計. 37. 2. どちらかと言えば楽しい. 7. どちらともいえない. 9. どちらかといえばつまらない. 19. つまらない. 1. 単元による. 0. 無回答. 0. 合計. 38. 単元開始前では、残念なことに漢文の学習に. りますか 楽しい. 楽しい. 対してネガティブなイメージを持った生徒が多 かった。1番多かった回答は「どちらともいえ ない」であったが、「どちらかといえばつまら ない」、「つまらない」と回答した生徒は「楽 しい」、「どちらかといえば楽しい」と回答し た生徒よりも多い結果となった。 「どちらともいえない」、「どちらかといえ ばつまらない」を回答した生徒のうち10名は、 「書かれていることの内容がよく分からないか ら」と理由を述べていた。漢文に書かれている. ②漢文の学習の難易度についてどのようなイメ. 内容が生徒にとってあまり身近ではなく、理解. ージがありますか. しづらい、ということがこの原因として考えら. 楽しい. 15. れるだろう。また、現代語訳ができても、理解. どちらかと言えば楽しい. 16. できたと実感できていないとも考えられる。 「つ. どちらともいえない. 2. まらない」と回答した理由としては「読み方や. どちらかといえばつまらない. 2. 意味が分からない」といったように、句法と内. つまらない. 0. 容の両方に苦手意識があるようであった。. 単元による. 2. 難易度に関する項目では「難しい」「どちら. 無回答. 0. かといえば難しい」を回答した生徒が、9割以 119.
(4) 横浜国大国語教育研究 No.43(2018) 上を占める結果となった。理由としては「句法. 致するところでもあった。また、グループ活動. や、文の内容理解が難しいから」といったよう. も生徒にとって新鮮であったようで、「グルー. に、 楽しさに関する項目と似たものが見られる。. プ学習や分かりやすいところが多かったから」. この項目に関しても、内容理解が難しいと感じ. という理由も見られた。. ている生徒が8名いた。また、「現代語訳が難. 「難易度」に関する質問では「簡単だった」. しい」と述べたものも6名見られた。実際1時. 「どちらかといえば簡単だった」と回答した生. 間目にグループで書き下し文と現代語訳を書い. 徒が8割を占めた。「白居易の漢詩文が簡単で. てもらった際には、現代語訳に苦戦している生. 読みやすかったから」と生徒も記述しているよ. 徒が多く見られた。現代とは異なった漢字の用. うに、今回の教材である「香炉峰下」には複雑. 法が、現代語訳の難しさの一因となっているの. な返り点が無く、漢字の意味も分かりやすいこ. かもしれない。. とが、この結果をもたらした要因の1つであろ. しかし、漢文を「難しい」と捉えている生徒. う。また、「作者の経歴を学んだことにより、. がほとんどの中で、 「どちらかといえば簡単だ」. 漢文の捉え方が変わったから」というように、. と回答した生徒もいた。理由としては「暗記は. こちらにおいても作者の人生を踏まえたこと. できる」、「古文よりは短いし楽に読める」と. で、漢詩の理解が促進された面があったようで. いったもので、漢文の面白さに関して言及して. ある。. いるものはなく、学習する際の負担が回答の理. 一方「難しかった」、「どちらかといえば難. 由となっているようだ。. しかった」と答えた生徒も9名いた。理由とし. まとめると、単元開始前のアンケートでは、. ては「作者の人生観を考えたのが初めてだった. 「楽しさ」、「難易度」ともに、あまり良いイ. というのもあったが、漢文として、かいてある. メージを抱いていない生徒が多い結果となっ. ことが、作者の思っていることとイコールでは. た。理由としては、句法の難しさに言及するも. ないかもしれないと思ったのが難しかった」と. のも、もちろんあったが、内容理解に関するも. の回答も見られ、 作者の人生を踏まえることで、. のが目立った。漢文を書き下し文にして、現代. 逆に漢詩の読解を難しいと感じた生徒もいた。. 語訳するだけでは不十分であることが考えられ. 「作者の思っていることとイコールではないか. る。生徒のより深い理解のためには、生徒が内. もしれない」というのは、論者が漢詩の読解を. 容に関して考察し、自身の考えを形成するなど. する際に生徒に注意したことであったが、生徒. といった学習形態のように、漢文の内容が生徒. は難しく感じたようである。. 自身の考えに還元されるような授業が行われる. 単元終了時のアンケートでは「楽しさ」、「難. 必要があると論者は考える。. 易度」ともにポジティブなものが多かったとい えよう。論者が沼田高校の卒業生であるため、. 次に単元終了時のアンケートについて見てい. 生徒が気をつかってくれた、という面は否定で. きたい。. きないが、漢詩の作者の人生を踏まえて、漢詩. 「楽しさ」に関する質問では「楽しかった」、. をより深く理解する、という方法は多くの生徒. 「どちらかといえば楽しかった」と回答した生. にとって有効であったといえるのではないだろ. 徒が8割弱を占めた。理由としては「作者の人. うか。漢詩だけを読む場合と、作者の人生を踏. 生について知ることで読みやすく、理解しやす. まえて漢詩を読む場合の両方を行ったことで、. くなった。今後の漢詩の学習に活かしていきた. より、漢詩が作られた背景を意識でき、それが. いと思います」、「作者の人生を知った後に話. 漢詩の理解を深めたのではないだろうか。. を読んでみると、作者の気持ちなどもとらえや. しかし、他方ではそういった学習方法に慣れ. すくなり、話の内容もわかったから」といった. ておらず、難しく感じた生徒もいたため、生徒. ように、作者の人生を踏まえて漢詩の読解をす. にとってより分かりやすい方法で深い内容理解. ることで、漢詩の内容が理解しやすくなったと. ができるよう、より授業をブラッシュアップさ. いうものがあり、これは論者の授業の狙いと合. せなければならない。また、今回は2時間目に 120.
(5) 横浜国大国語教育研究 No.43(2018) 古文(『源氏物語』)と漢文(「長恨歌」)を. であった。自分の考えに合った作者、漢文に出. 関連させた解説を行ったが、それに関して詳し. 会えるといいなと思った。. く意見を述べた生徒がいなかった。論者として は、古文と漢文を関連させ、生徒がより広い視. 【考察】. 野で古典について考えることは、深い学びの実. 単元開始時のアンケートでは、漢文の学習に. 現のために重要であると考えているため、今回. 対して「内容がつかめない」と、苦手意識を持. これに関して生徒の意見が聞けなかったのは残. っていたが、本単元終了時のアンケートでは、. 念であるが、今後も古文と漢文を比較し、関連. 「内容がつかめた」と記述しており、今回の単. させた授業を行い、それがどのように生徒の理. 元に限ったことではあるが、漢文の学習に対す. 解につながるのかについて調査していきたい。. る印象がポジティブなものへと変化しているこ とが分かる。. 四. ケーススタディと考察. ここでは、生徒Aがアンケート①、②の両方. この章では、授業を受けた生徒のうち4名に. で言及している「内容」について考えてみたい。. ついてそれぞれ授業を通しての変化とその理由. 「三. アンケートについて」でも述べたが、教. を考察し、今後の漢文教育のヒントを得たいと. 科書に掲載されている漢文や漢詩に詠まれてい. 思う。プリントⅢの問「今回の単元を終えた今、. る内容が身近でないため、生徒Aはこのように. 自分にとっての漢文の学習や漢文を読むことの. 考えたのかもしれない。. 意味は何だろう?」に対する記述(以下【授業. また、生徒Aは授業プリントにおいて「自分. プリント回答結果】と記す)のうちで、論者が. の考えに合った作者、漢文に出会えるといいな. 提示した考えではなく、自分で考えたと思われ. と思った」と述べている。これは、生徒Aが自. る生徒をピックアップした。なお、アンケート. 分の考えと、漢詩から読み取れる作者の考えを. 番号は「三. 比較したからこそ生じるものと言える。つまり、. アンケートについて」と呼応する. ものとする。. 生徒Aは漢詩の読解を通して、自分についてま で考えを広げているのである。このようにして、. ○生徒A. ただの句法理解に留まらずに、生徒が学習内容. 【アンケート①結果】. をもとに自分の考えを広げていけるような漢文. (回答)どちらともいえない. の授業は生徒の漢文への興味関心を喚起する手. (記述)まだ自力で全てを理解する所に至って. 段であるとも言えるだろう。. ないので、内容をつかめず、つまらない意識が あるから。. ○生徒B. 【アンケート②結果】. ※回答の理由を漢文の内容と漢文の句法のそれ. (回答)どちらかといえば難しい. ぞれ2つに関して記述してくれた。. (記述)内容がいまいちつかめてないから。. 【アンケート①結果】. 【アンケート③結果】. (回答)つまらない. (回答)楽しかった. (記述)楽しい学習はほとんどない. (記述)内容について深く掘り下げてくれて、. 【アンケート②結果】. 面白かった。. (回答). 【アンケート④結果】. (内容について)どちらかといえば難しい. (回答)どちらかといえば簡単だった. (句法について)どちらかといえば簡単だ. (記述)内容をつかめたので今までと違った。. (記述). 【授業プリント回答結果】. (内容について)深く理解するには知識量と時. (記述)一つ一つが哲学のようなもので、その. 間が足りない. 人の持っている考えがにじみ出ているようなも. (句法について)暗記はできる。. のであり、ときにはアドバイスにもなれるもの. 【アンケート③結果】 121.
(6) 横浜国大国語教育研究 No.43(2018) (回答)楽しかった. か。. (記述)新しい形式で新鮮だった。今まで知ら なかった面白さに気付けた。. ○生徒C. 【アンケート④結果】. 【アンケート①結果】. (回答)難しかった. (回答)どちらともいえない. (記述)今までよりも深く理解しようとしてい. (記述)読むのは楽しいけど理解ができないか. るので、難しくなるのは当然なので自分のため. ら。. になる難易度アップだと思います。. 【アンケート②結果】. 【授業プリント回答結果】. (回答)どちらかといえば難しい. (記述)大学に行くためということしか考えて. (記述)漢文を読むことはできるけど、内容の. なかったが、作者の考えについて深く触れてい. 理解ができないから。. くと、点数ではない学べる部分が多くあり、そ. 【アンケート③結果】. れが漢文、また国語の他教科と違う面白さだと. (回答)楽しかった. 感じた。. (記述)グループでの活どうなどもあったり、 先生のお話しが、とても面白かったのもあるし、. 【考察】. ただ漠然と漢文を学ぶだけだったのが意味を見. 生徒Bはアンケート①では漢文の学習に対し. つけれることになったのが楽しかった。. て「楽しい学習はほとんどない」と否定的なイ. 【アンケート④結果】. メージを持っていたが、アンケート③では「新. (回答)どちらかといえば難しかった. しい形式で新鮮だった。今まで知らなかった面. (記述)作者の人生観を考えたのが、初めてだ. 白さに気が付けた」と述べており、生徒A同様. ったというのもあったが、漢文として、かいて. にポジティブな変化が見られた。. あることが、作者の思っていることとイコール. 本単元では、漢詩の書き下し文と現代語訳に. ではないかもしれないと思ったのが難しかっ. ついて、生徒がグループで考えるという形式で. た。. 行ったが、本単元を実施したクラスでは、グル. 【授業プリント回答結果】. ープで考えるということを、漢文の授業では経. (記述)作者の人生観などを通して作品の情景. 験したことがなかったため、生徒Bもグループ. や内容を理解し、それを自分の人生観に足して. での学習が新鮮だったという印象を受けたよう. いくいい機会が漢文なんだと感じた。内容が分. である。. からないから嫌いと答えたが内容を理解したい. また、アンケート③の「今まで知らなかった. と思ったし、好きになった。. 面白さに気が付けた」という記述に関しては、 具体的な内容については生徒Bが述べていない. 【考察】. ため分からないが、授業プリントの回答と照ら. アンケート①を見ると、 生徒Aと同じように、. し合わせるならば、「作者の考えに触れる」と. 漢文の内容が理解できないという理由から、抵. いうことであるかもしれない。この記述に続け. 抗を感じていたことが分かる。アンケート③で. て、さらに「点数ではない学べる部分が多くあ. は、そういった内容理解に対する不安がどのよ. り、それが漢文、また国語の他教科と違う面白. うに変わったのかを見ることはできないが、生. さだと感じた」と述べている。この記述からは、. 徒Bと同様にグループでの活動やそれに加えて. 生徒Bが国語という教科にまで考えを広げて、. 教師の説明に対してポジティブな印象を抱いた. 学習の面白さや意味を考えていることが分か. ことから、本単元については楽しいという感想. る。教師が現代文、古文、漢文をそれぞれ個別. を抱いたようである。. に捉えるのではなく、包括的な視点で授業を構. アンケート③では「ただ漠然と漢文を学ぶだ. 想することで、国語という教科への興味・関心. けだったのが意味を見つけれることになったの. や学習への意欲を喚起できるのでないだろう. が楽しかった」と述べているが、この「意味」 122.
(7) 横浜国大国語教育研究 No.43(2018) については、授業プリントの記述にあるように. アンケート①で、「書かれている内容はおも. 「作者の人生観などを通して作品の情景や内容. しろい」と述べているように、 元々漢文の内容. を理解し、それを自分の人生観に足していくい. に関しては興味のある生徒である。アンケート. い機会が漢文」ということになるのだろう。学. ③では、「詩の作者や、その背景にまで入り込. 習内容を自分の考えへとつなげている点に関し. んだ授業が新鮮だった」とあるように、教師が. ては生徒Aと同様であるが、これに続いて、 「内. 漢詩の作者について深く掘り下げたことが、生. 容が分からないから嫌いと答えたが内容を理解. 徒Dの興味・関心を促進させたようである。漢. したいと思ったし、好きになった」とあるよう. 文の内容について興味がある生徒については、. に、自身の考えの変化を自覚している点は生徒. 漢詩の作者は興味の対象となるのだろう。難易. Cの特徴と言えるだろう。このように生徒が単. 度については、アンケート②では句法・漢字の. 元の学習を通して、自分がどのように変化した. 用法に関して苦手意識があることから 「難しい」. か、ということについて考えることは、生徒が. と回答しているが、アンケート④では、漢詩で. 学習の意味を考えるきっかけになるのではない. あることと、内容の読み取りがしやすかったこ. だろうか。. とから、「どちらかといえば簡単だった」と回 答している。漢文の句法、また現代とは異なっ. ○生徒D. た漢字の用法に苦手意識がある生徒には、漢詩. 【アンケート①結果】. から学習をするのも有効な手段かもしれない。. (回答)単元による. また、今回のように作者の意図を捉えさせる場. (記述)書かれている内容はおもしろいことが. 合も、作者の意図が読み取りやすい漢詩を選ぶ. 多いが、その内容を理解するまでに文法を覚え. のが良いだろうと思われる。. たり、それを使ったりするのが大変だと思って. 授業プリントでは、漢文を「自分の在り方を. いるから. 考えるいい機会だ」と捉えており、漢文の内容. 【アンケート②結果】. をもとに、自分を見つめ直そうとする姿勢が窺. (回答)難しい. える。今回の単元に関してはそれが具体的に述. (記述)覚えるべき文法が多く、同じ字でも複. べられていないため、残念ではあるが、生徒D. 数の読み方があったりして、書き下し文や現代. が今回の単元を通じて自分の在り方、人生につ. 語訳がうまくいかない時があるから. いてどのように考えたのかは興味深い点であ. 【アンケート③結果】. る。また、クラスの状況によっては、生徒が自. (回答)どちらかといえば楽しかった. 分の考えを深める過程において、他の生徒と考. (記述)普段の授業とは違って、詩の作者や、. えを交流させることでそれぞれの考えを深めさ. その背景にまで入り込んだ授業が新鮮だった. せるのも有効な手段であろう。. 【アンケート④結果】 (回答)どちらかといえば簡単だった (記述)漢詩で、内容も文字通りのものが多か. 五. ったから. おわりに 今回、生徒には作者の人生を踏まえて漢詩を. 【授業プリント回答結果】. 読むことで、漢詩だけを読んだ場合とは読みが. (記述)自分の人生の在り方を考えるいい機会. 異なるという経験をさせた。初読の読みから変. だと思いました。今までは、ただの学習内容と. 化するため、生徒が混乱することも考えられた. いう認識しかしていませんでしたが、過去から. が、アンケートの結果から考えても作者の人生. 学べることは多くあるのだと思いました。これ. を踏まえて再度漢詩を読むことで、より理解が. からも、内容をより深く、何を伝えようとして. 促進されたと言えよう。そうした理解のもとだ. いるのか考えて読んでいきたいです。. からこそ、「香炉峰下」から読み取ることので きる、白居易が人生を多角的に捉え価値を見い. 【考察】. だそうとする姿勢を自分の考えと比較すること 123.
(8) 横浜国大国語教育研究 No.43(2018) ができ、そこから漢文を読む意味を生徒なりに. 参考文献一覧. 考えられたのではないだろうか。例えば、生徒. 中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部. Dは「自分の人生の在り方を考えるいい機会」. 会「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審. だと漢文を捉えているが、この記述から「香炉. 議のまとめ」(2016). 峰下」から読み取った白居易の考えを、自分の. 稲賀敬二、竹森天雄、森野重雄監修『新版二訂. 生き方に活かそうとする生徒Dの姿を見ること. 新訂総合国語便覧』(第一学習社、2010). ができる。このように、漢詩・漢文を通して作. 川合康三『白居易―官と隠のはざまで』(20. 者と出会うことは、生徒自身の考えの形成を促. 10、岩波書店). すのである。. 宮利政「高等学校において漢文を学ぶことの意. 今回論者がお世話になった沼田高校の I 先生. 味―環境から見た「今」と「これから」―」『日. によれば、「普段あまり便覧を開いて、漢詩の. 本語学』vo.36-7(2017). 作者についてじっくり読むことはなく、名前く. 岡村繁『新釈漢文大系. らいしかおさえない」という。このような現状. 治書院、1989). 白紙文集(三)』(明. は沼田高校に限らず、他の学校でもあてはまる かもしれない。もちろん、授業時数の関係で、. (横浜国立大学大学院教育学研究科). 丁寧に漢詩の作者について学ぶことは難しい側 面があるかもしれないが、生徒が自分の考えを 形成するためには、漢詩の作者を含めた、生徒 の教材への深い理解が必要不可欠となるだろ う。しかし、生徒が自分の考えを書く、という ような活動は 1 回で完結するものではない。実 際、本実践でも、論者(授業者)が授業中に述 べたこと以上のことを考えられた生徒は少なか った。やはり、1 年間の学習を通して、計画的 に生徒に活動させることが大切であろう。 科目としての漢文には、今回扱った漢詩だけ でなく、歴史、文言小説、故事成語といった多 岐にわたる題材がある。それらには現代におい てもなお、生きる知恵や考えが多分に含まれて いる。豊饒な漢文の教材をどのように教師が生 かして生徒に提示し、生徒に考えさせられるの か。このことが、これからの主体的・対話的で 深い学びにおいてはますます必要となってくる だろう。今後のより一層の漢文教育の充実を期 待するとともに、論者も研鑽を積んでいきたい と思う次第である。最後に本実践に協力してく れた、沼田高校の先生方と生徒の皆さんの多大 なるご協力に感謝を述べて、この実践報告を終 わりたいと思う。. 124.
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