緒 言
持続的腎機能代替療法(continuous renal replace-ment therapy:CRRT)は,急性腎障害(acute kid-ney injury:AKI)時のみならず,病態にかかわる物 質除去を目的として敗血症などに対する治療として 施行されている。敗血症が重症化し敗血症性ショッ クとなるにつれて,播種性血管内凝固症候群(dis-seminated intravascular coagulation:DIC)合併率 が上昇し,AKI 合併頻度が増加する1)。DIC の治療 薬として,2008 年より遺伝子組み換えヒトトロンボ モ ジ ュ リ ン 製 剤(recombinant thrombomodulin: rTM)が使用可能となり,rTM が有する抗凝固作用 や抗炎症作用により,rTM を投与した CRRT におい て持続血液浄化回路凝固を延長できる可能性がある と報告されている2)。しかし,rTM 投与下の CRRT (rTM-CRRT)においても回路内凝固が生じ,開始か ら 24 時間以内に回路交換を必要とする症例をしばし ば経験する。そこで,rTM-CRRT における回路凝固 症例と非凝固症例を比較し,回路内凝固の予測因子 について検討した。
原 著
遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモジュリン製剤投与下の
持続的腎機能代替療法施行時における回路内凝固予測因子の検討
Ⅰ.対象および方法 1.対象 2015 年 5 月から 2019 年 5 月の期間中に rTM-CRRT を施行した症例のうち,維持透析患者および明らか な脱血不良による回路内凝固症例を除外した 43 例 を対象とした。また,rTM-CRRT 施行期間中,開 始から 24 時間以内に静脈圧や入口圧上昇のため回 路交換を実施した症例を回路内凝固と定義した。 2.方法 43 例を後ろ向きに検討し,早期の回路内凝固に より回路交換を必要とした 10 例(凝固群)と定期 回路交換にて施行した 33 例(非凝固群)に分類した。 検討項目は患者背景(年齢,性差,acute physiology and chronic health evaluation(APACHE)Ⅱ score, rTM 投与日数,rTM 投与量,rTM-CRRT 開始前の sequential organ failure assessment(SOFA)score, 急性期 DIC 診断基準(DIC)score),血液検査デー タ(血算,生化学,凝固系),乳酸値(Lac),rTM-CRRT 開始時脱血側活性化凝固時間(activated clot-浜松医科大学医学部附属病院医療機器管理部1),同血液浄化療法部2) 木村竜希1),江間信吾2),水口智明1),中島芳樹1),加藤明彦2) 論文受付 2020 年 1 月 31 日 同 受理 2020 年 8 月 23 日 連絡先 木村竜希 〒 431-3192 静岡県浜松市東区半田山 1-20-1 キーワード 持続的腎機能代替療法,遺伝子組み換えヒトトロンボモジュリン製剤,回路内凝固,可溶性フィブリン 要旨:遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモジュリン製剤(recombinant thrombomodulin:rTM)を投与した持続的 腎機能代替療法(continuous renal replacement therapy:CRRT)施行時における,CRRT 回路内凝固の予測因子に ついて検討した。2015 年 5 月から 2019 年 5 月までに,当院で rTM 投与下の CRRT(rTM-CRRT)を施行した 43 例 を対象とした。早期の回路内凝固により回路交換を必要とした 10 例(凝固群)と定期回路交換にて施行した 33 例(非 凝固群)に分類し,検討項目は APACHEⅡ score,CRRT 開始前の SOFA score,DIC score,血液検査データ(血算, 生化学,凝固系),CRRT 開始時脱血側 ACT とした。多変量解析の結果,凝固系の可溶性フィブリン(SF)のみ有意 差を認めた。CRRT 開始前の SF は,rTM-CRRT における回路内凝固を予測し得る可能性がある。ting time:ACT)とし,凝固群と非凝固群で比較 を行った。血液検査データは,集中治療室入室後に 採血を行い,CRRT 開始前の採血結果を採用した。 CRRT の施行条件は,ACH-Σ(旭化成メディカ ル社製)を使用し,治療モードは持続的血液濾過透 析(continuous hemodiafiltration:CHDF),血液流 量 100mL/min,透析液流量 500mL/h,置換液流量 500mL/h,抗凝固薬にはメシル酸ナファモスタッ トを使用し 30 〜 40mg/h とした(表 1)。 なお,結果は平均値±標準偏差もしくは中央値 (四分位範囲)で表記した。統計学的検定には,
Mann-Whitney U test ,Fisher の直接確率検定を使 用し,p < 0.05 を統計学的有意差ありと判定した。 解析ソフトは SPSS を使用し,単変量にて有意であっ た項目について多変量解析を行った。
Ⅱ.結 果
2 群間において,エンドトキシン吸着療法(direct hemoperfusion with Polymyxin B immobilized fi-ber:PMX-DHP)併用率に有意差は認められなかっ た。患者背景の比較について表 2 に示した。年齢, 性差,rTM 投与日数,rTM-CRRT 開始時の SOFA score に有意差は認められなかったが,CRRT 施行 時間は非凝固群 31 時間 48 分±8 時間 35 分に対し, 凝固群は 20 時間 32 分±6 時間 28 分と有意に短く (p=0.003),rTM 投与量は凝固群 142 単位 /kg/day, 非凝固群 255 単位 /kg/day と凝固群で有意に少な かった(p=0.016)。APACHEⅡ score は凝固群 38, 非凝固群で 29 と凝固群で有意に高く(p=0.034), DIC score は凝固群 6,非凝固群 4 と凝固群で有意に 表 1 CRRT 開始時施行条件 凝固群 (n=10) (n=33)非凝固群 p 値 hemofilter AN69ST 膜 10 25 n.s PS 膜 0 8 血液流量(mL/min) 100 100 透析液流量(mL/h) 500 500 補液流量(mL/h) 500 500 メシル酸ナファモスタット投与量(mg/h) 30 〜 40 30 〜 40 バスキュラーアクセス留置部位 内頸静脈 9 21 n.s 大腿静脈 1 12 PMX-DHP 併用(人 /%) 5/50 12/36.4 n.s 表 2 患者背景と基礎疾患 凝固群(n=10) 非凝固群(n=33) p 値 年齢(歳) 75.5[55 〜 76] 70[66 〜 78] n.s 性別(男性:女性) 8:2 25:8 n.s 肺炎(人 /%) 3/30 5/15.2 n.s 皮膚軟部組織感染症(人 /%) 2/20 1/3 n.s 腹腔内感染症(人 /%) 3/30 17/51.5 n.s その他(人 /%) 2/20 10/30.3 n.s CRRT 施行時間 20 時間 32 分±6 時間 28 分 31 時間 48 分±8 時間 35 分 p=0.003 rTM 投与日数(日) 7[4 〜 13] 5[3 〜 7] n.s rTM 投与量(単位 /kg/ 日) 142[132 〜 186] 253[146 〜 357] p=0.016 APACHEⅡ score 38[28 〜 40] 29[24 〜 33] p=0.034 SOFA score 14[12 〜 16] 12[9 〜 15] n.s 急性期 DIC score 6[5 〜 7] 4[3 〜 5] p=0.003 平均値±標準偏差,中央値[四分位範囲]
高かった(p=0.003)。rTM-CRRT 開始前の血液検 査データの比較について表 3 に示した。血算および 生化学の項目に有意差は認められなかった。凝固系 では,プロトロンビン時間(PT),活性化部分トロン ボプラスチン時間(APTT),フィブリノゲン(FBG), プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)に有意差 は認められなかったが,フィブリン・フィブリノゲン 分解産物(FDP)-D dimer は凝固群 24.5μg/mL,非 凝固群 8.1μg/mL と凝固群で有意に高く(p=0.005), 可溶性フィブリン(SF)は凝固群 115.6μg/mL,非 凝固群 17.0μg/mL と凝固群で有意に高値であった (p=0.004)。また,rTM-CRRT 開始時の脱血側 ACT に有意差は認められなかった。 単変量解析にて有意差が認められた 5 項目につい て多変量解析を行った結果(表 4),SF のみ有意差 を認めた(p=0.04)。また,SF の ROC 曲線を作成 したところ,カットオフ値を SF>40μg/mL とする と,area under the curve(AUC)0.821,感度 0.889, 特異度 0.750 であった。 Ⅲ.考 察 rTM は,トロンビン直接阻害作用や,トロンビ ンと複合体を形成しプロテイン C の活性化を促進 させ,活性化プロテイン C が凝固促進因子である 表 3 血液検査データ 凝固群(n=10) 非凝固群(n=33) p 値 WBC(/μL) 10,500[4,020 〜 18,598] 11,850[7,330 〜23,180] n.s Hb(g/dL) 9.8[8.2 〜 10.6] 10.4[9.2 〜 11.9] n.s Hct(%) 29.7[23.9 〜 34.5] 30.6[28.3 〜 34.9] n.s Plt(×104/μL) 7.2[3.9 〜 10.0] 7.6[5.6 〜 15.5] n.s Na(mEq/L) 136[134 〜 139] 137[133 〜 142] n.s K(mEq/L) 4.2[3.8 〜 4.8] 4.5[3.9 〜 5.0] n.s Cl(mEq/L) 103[100 〜 106] 102[97 〜 106] n.s Ca(mg/dL) 7.4[7.3 〜 8.0] 7.9[7.2 〜 8.4] n.s Mg(mg/dL) 2.0[1.7 〜 2.4] 1.9[1.7 〜 2.4] n.s AST(U/L) 76[51 〜 189] 61[32 〜 201] n.s ALT(U/L) 26[19 〜 122] 34[17 〜 88] n.s LD(U/L) 258[205 〜 380] 369[237 〜 825] n.s T-Bill(mg/dL) 0.8[0.5 〜 1.8] 1.3[0.6 〜 2.6] n.s TP(g/dL) 5.0[4.5 〜 5.2] 4.8[4.1 〜 5.2] n.s Alb(g/dL) 2.2[1.7 〜 2.6] 2.5[2.1 〜 2.9] n.s BUN(mg/dL) 44.8[39.6 〜 59.5] 45.6[37.8 〜 63.0] n.s Cr(mg/dL) 3.89[2.41 〜 5.87] 2.63[2.01 〜 3.81] n.s eGFR(mL/min/1.73m2) 13[7 〜 22] 18[13 〜 26] n.s CRP(mg/dL) 17.55[10.83 〜 22.72] 13.86[4.60 〜 19.25] n.s PT(sec) 17.2[14.8 〜 19.2] 16.6[14.7 〜 21.4] n.s APTT(sec) 62.0[48.9 〜 80.9] 52.4[44.4 〜 115.7] n.s FBG(mg/dL) 410[320 〜 478] 326[208 〜 579] n.s FDP-D dimer(μg/mL) 24.5[13.5 〜 41.0] 8.1[4.3 〜 15.0] p=0.005 PT-INR 1.43[1.24 〜 1.69] 1.37[1.24 〜 1.78] n.s SF(μg/mL) 115.6[66.5 〜 123.4] 17[9 〜 37] p=0.004 Lac(mmol/L) 2.9[1.2 〜 3.4] 2.8[1.8 〜 3.9] n.s 脱血側 ACT(sec) 186[181 〜 190] 200[178 〜 222] n.s 中央値[四分位範囲]
第 Va 因子や第Ⅷa 因子を不活化することによる,
トロンビン生成阻害作用を有している3)。また,炎
症を惹起する因子である pathogen-associated molec-ular patterns(PAMPs) や damage-associated mo-lecular patterns(DAMPs)を中和し不活化する働 きも報告されており4),抗凝固作用以外に抗炎症作 用も有しているとされている。竹内らは,DIC を合 併した CHDF 施行症例を対象に,短時間凝固群と非 凝固群の rTM 投与の有無による短時間凝固症例数 を比較検討し,rTM 投与患者は短時間凝固群の割合 が有意に少なかったと報告している2)。しかし,抗 凝固・抗炎症作用を有する rTM 投与下においても, 24 時間以内に CRRT 回路内凝固が発生し,早期の 回路交換を余儀なくされる症例を経験する。 今回,全症例 rTM が投与された CRRT における 凝固群と非凝固群を比較し,rTM 投与量,APACHE Ⅱ score,CRRT 開始時の DIC score,FDP-D dimer, SF で有意差を認めたが,多変量解析の結果では SF のみ有意差が認められた。SF は,凝固亢進時に生成 されるトロンビンにより FBG が分解され,フィブリ ンモノマーとなり FBG 2 分子と結合し生成される物 質であり,血液中を還流する。トロンビンが直接 FBG に作用し合成される SF は,血管内の凝固亢進 状態を反映している鋭敏なマーカーと考えられてい る5)。したがって,血管内が凝固亢進状態であれば, その血液が流入する CRRT 回路の回路内凝固を助長 することが予想され,本研究の結果からも,SF が高 値(SF > 40μg/mL)であれば回路内凝固のリスク は高いと考えられる。増田らは,SF が 40μg/mL を 超えると時間経過で DIC を発症するリスクが高く, DIC の早期診断に SF が有用であることを報告して いる6)。さらに本間らは,SF 33μg/mL 以上が CRRT における回路内凝固危険因子であることを報告して おり,われわれの結果とほぼ同等であった7)。また, 本間らはその後にトロンビンアンチトロンビン複合 体とプロトロンビンフラグメント 1+2 が回路内凝固 の予測因子となり得ることや,比較している凝固群 と非凝固群との間で SF に有意差は認められなかっ たことを報告している8)。本研究とは採血のタイミ ングが異なっており,われわれは CRRT 開始前の 採血であることに対し,本間らは開始から 30 分後 に脱血ポートから採血を行っている。そのため本研 究結果は,体外循環による血管内および回路内への 影響は受けていない。以上より,CRRT 開始前の SF 値を測定し活用することは,CRRT 開始前から 回路内凝固を予測できる可能性があるため,抗凝固 療法を工夫するなどの CRRT 施行方法を考える際 や,DIC 治療戦略においても有用であると考えら れる。 CRRT と回路内凝固に関する報告は散見される が2,7 〜 11),それらの中で SF を検討している報告は 少ない。Hoshino らは,体外式膜型人工肺(extra-corporeal membrane oxygenation:ECMO)回路交 換の予測因子について検討しており,SF が ECMO 回路交換の独立した予測因子であったことを報告し ている12)。CRRT と ECMO は施行条件など異なる 点は多いが,血液が体外循環する点では同様であり, SF は体外循環における回路内凝固評価のマーカー として有用である可能性がある。 今回対象とした患者の 76.7%は敗血症および敗血 症性ショックであり,凝固群では 90%,非凝固群 で 72.7%であった。全症例において rTM が投与さ れ CRRT を 導 入 し て い ることから,DIC および AKI を合併しており,比較的患者の重症度は高い症 例での検討を行い,rTM-CRRT 開始時の SF が回路 内凝固の独立した予測因子として示唆された。多変 量解析では,急性期 DIC score や rTM 投与量に有 意差は認められなかった。敗血症性 DIC は線溶抑制 型(凝固優位型)の DIC であり13),その病態の程度 や急性期 DIC score と CRRT 回路内凝固への影響, また rTM 投与量と CRRT 回路内凝固への影響につ いては不明であり,これらの要因が混在する中での 後ろ向き観察研究であるため今後検討の余地があ る。また,rTM-CRRT 開始時に使用した hemofilter は,凝固群は全症例 AN69ST 膜(10 例)であったが, 非凝固群では AN69ST 膜(25 例)と PS 膜(8 例) 表 4 二項ロジスティック回帰分析の結果 オッズ比 95% CI p 値 rTM 投与量(単位 /kg/ 日) 0.985 0.968-1.002 n.s APACHEⅡ score 1.107 0.877-1.397 n.s 急性期 DIC score 2.84 0.886-9.100 n.s FDP-D dimer(μg/mL) 1.012 0.942-1.086 n.s SF(μg/mL) 1.033 1.001-1.066 p=0.04
文 献
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であった。AN69ST 膜は PS 膜と比較してメシル酸 ナファモスタットを有意に吸着し,メシル酸ナファ モスタットを用いた CRRT での膜寿命に影響を及 ぼす可能性が示唆されており14),CRRT 膜素材の 違いも回路内凝固に関与すると考えられるため,今 後の検討課題である。 なお,本院では SF の測定試薬にナノピア SF(積 水メディカル株式会社)を用いているが,同試薬を 採用している施設は全国で 100 施設未満と限られて おり,院内検査として一般的ではないため今後の普 及が期待される。また,本研究は単独施設による後 方視的解析のため,CRRT 開始前の SF > 40μg/mL の妥当性については更なる検証が必要である。 結 語 rTM 投与下の CRRT における回路凝固症例と非 凝固症例を比較し,回路内凝固の予測因子を検討し た。CRRT 開始前の SF は回路内凝固の独立した危 険因子であり,rTM-CRRT 回路内凝固を予測し得 る可能性が示唆された。 本論文において,開示すべき利益相反はない。
Ryuki Kimura1), Shingo Ema2), Toshiaki Mizuguchi1), Yoshiki Nakajima1), Akihiko Kato2)
Predictive factors of circuit coagulation during continuous renal replacement therapy using recombinant human soluble thrombomodulin
Department of Medical Engineering, Hamamatsu University Hospital1)
Department of Blood Purification Unit, Hamamatsu University Hospital2)
We investigated the predictive factors of circuit coagulation during continuous renal replacement therapy(CRRT) using recombinant human soluble thrombomodulin(rTM). 43 patients who underwent CRRT with rTM(rTM-CRRT) at our hospital between May 2015 and May 2019 were divided into two groups. The coagulation group(n=10)in-cluded patients who required circuit replacement owing to early coagulation and non-coagulation group(n=33)in-cluded patients who underwent periodic circuit replacement. The examination items were APACHEⅡ score, SOFA score before CRRT was started, DIC score, blood test(blood cell count, serum chemistry, and coagulation system), and activated clotting time(ACT)on the blood effusion side at the start of CRRT. As a result of multivariant analy-sis, a significant difference was observed in soluble fibrin(SF)of the coagulation system only. Therefore, SF value before the initiation of CRRT may be possibly predict the occurrence of circuit coagulation during rTM-CRRT. key words continuous renal replacement therapy, recombinant human soluble thrombomodulin, circuit coagulation,