EU における 博政策と加盟国への影響
―「サービス提供の自由」と「設立の自由」を中心に―木 村 勇
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.は じ め に
EU1) (欧州連合)が EEC(欧州経済共同体)として,その形成期から目指した 欧州における域内市場は,ヒト,モノ,サービス,資本の自由な移動を可能に し,その結果経済活動を活発化し,雇用を創出して,EU における成長を生み 出すことを大きな目的とする。 本稿では,伝統的に一国内で規制されてきた 博2)が, 博事業者の国境を越 える活動の結果, 博をサービスの一環とする EU の政策にとりあげられるに 至った過程を検証する。次に国外 博事業者と,彼らの活動を制御しようとす る加盟国との係争により,先決裁定を求められた欧州司法裁判所(以下,欧州 裁判所)の判断をみる。特に後者は, 博政策の立案に必ずしも積極的ではな かった欧州委員会(以下,委員会)に,強い影響を与えたものと考えられる。 このような EU の政策が,一国内で規制された 博に対しいかなる影響を与 えたか,また与えつつあるか,特に連邦制をとり, 博規制が州へと収斂した ドイツの例で明らかにする。現在 EU 加盟国では,ドイツの 博市場はイタリ ア,英国に次いで大きく,国外事業者の進出に障害であった 博規制は大きな 変更を受けつつある。Insti-tut für Rechtsvergleichung(2009)が詳しく,日本では先駆的な研究である戸 田(2003)は,1970年のドイツ連邦憲法裁判所判決への言及がある。
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.第二次世界大戦後の欧州の 博
第二次世界大戦(以下,第二次大戦)後は,欧州各国でカジノ,宝くじを中心 に, 博の大衆化が始まった。競馬は,英国,フランスを中心に開催されてお り,パリ・ミュチュエル方式3)に加え,ブックメーカー方式4)も認可され,現在の スポーツ 博の起源となる。カジノ内外のゲーム機は,簡易なため各国で最大 のシェアを占める。これらの 博は,20世紀末までは場所が定められた定置型 が中心であった。しかし21世紀に入ると,インターネット,IP テレビなどを 利用したオンライン 博が規模を拡大し,従来の法規制では十分に対応できな くなった。委員会は,オンライン 博を情報化に対応したサービス産業として, 域内市場の原則を適用しつつ,依存症,資金洗浄などの問題に対処することと した。委員会では 博に特化した EU 規制はないと明言するが,EU 条約,二 次法,欧州裁判所の先決裁定などは EU 法として加盟国の 博政策に影響を与 えつつある5)。3
.EC 博政策の萌芽
3―1.「EC における加盟国の 博研究(1991年)」 博は伝統的に一国の規制下にあるが,サービス産業という面に着目すれば, EC 条約のサービス提供の自由と,国境を越えれば設立の自由とも関係する。 EC では12加盟国の 博収益が膨大な額になることに注目し,1991年,「EC に おける加盟国の 博研究」(以下, 第1次調査)を実施した6)。 その動機を,EC 加盟国の1989年の 博粗収入額は推定で465億エキュとなり,コンピュータ・ オフィス機器部門の生産高を凌駕する,と述べる。⑴ 博市場の特徴 EC 加盟国は従来から一国的政策で 博を規制しつつ,財源としても活用し, 国内市場では事業者の既得権が守られてきた。結果として市場は国内事業者の 独占であり,国外事業者が参入する余地はなかった。加盟国で実施されてきた 博は,主に財源を目的とする宝くじが多く,その他カジノに加え,競馬,サ ッカーなどのスポーツ 博がある。しかし EC 間の国境の「障壁」が低くなっ た結果,旅行などの移動を通じて加盟国国民が他国の 博に接する機会が増え た。また衛星テレビなどの通信手段を通じて,他国の事情が身近になり,他国 の 博への市民の関心も高まった。 産業としての 博の視点では,一国的政策はサービス提供の自由が保証され ていない状態であり,他の加盟国への進出を希望する国外事業者にとり,進出 国国民と同じ立場で活動をする権利は強く希求するところであった。この調査 結果は, 博市場でサービス提供の自由を保証する域内市場の原則が適用され ていないことを示すが,委員会は価値判断を示していない。当時の 博市場は 表1の通り。 加盟国国民の 博嗜好は異なるが,これは歴史,法制度と深く関わる。1991 年には英国で国営宝くじは開設されていないが,ドイツでは第二次大戦後,戦 表1 EC12 加盟国の推定収入額と構成比 種 類 億エキュ(構成比) 備 考 宝くじ・Lotto/Toto*1 167.8( 36%) 独,西,仏,伊 競馬・その他 事 145.7( 31%) 英,仏 カジノ 77.5( 17%) 独,英,仏 ゲーム機 52.0( 11%) 西,独,英 ビンゴ 22.5( 5%) 西,英 総 計 465.5(100%) 1エキュ=¥130 で約6.0兆円 *1 Lotto はナンバーくじ,Toto はスポーツ 博。収入額は委員会の推定額。 出典: Gambling in the Single Market-A study of the current legal and market
災復興を目的にいち早く発行された。競馬は英国,フランスで盛んであり,ド イツでは一般的でない。フランスではカジノ外でのゲーム機は不認可であるが, 英国,ドイツでは認可されているなどである。 ⑵ 法規制の特徴 EC 加盟国は 博を違法とするが, 博衝動を認め,例外的措置として 博 を認可する。しかし人は 博に れる傾向があるとし,公共の秩序を守るため 国は規制をする。規制方法は認可,課税,違法 博の取り締まりである。しか し宝くじなどを振興して国の財源としながら,公共の秩序を守るために 博を 規制するという矛盾を抱えることとなる。この点は欧州裁判所でも争点となる。 ⑶ 国境を越える 博 1990年代における国境を越える 博とは,国外にはみ出た 博活動で,加盟 国国民が他国の 博に参加し,一国の規制が及ばない領域である。その例とし て,EC は宝くじと競馬,衛星放送などを使い場外で営業をするブックメーカ ーの動きに注目した。場外の 博は,国際的銀行決済システム,通信,テレビ 放送の3者が一体となって可能となる新しい現象であった。このような現象に 対抗して,加盟国は国外の 博が無認可で侵入することを防ごうとした。シン ドラー事件(1994.3.24. C―275/92)は,国内法と国境を越える 博活動が衝突 した初期の事例である。インターネットの影響が 博に現れるには,まだ時間 が必要であった。 3―2.エジンバラ欧州理事会からリスボン欧州理事会へ 1992年12月のエジンバラ欧州理事会のテーマは,デンマークでのマーストリ ヒト条約批准に関する国民投票の結果をはじめ,補完性の原理を実行するガイ ドラインと意思決定の透明性,EFTA 諸国への EC 拡大などであった7)。 この 中で補完性の原理で未解決になっている提案と法に関して, 博は加盟国の主 権に任されることになった。1992年当時, 博は定置型が主流で,補完性から 判断したと考えられる。
また2000年のリスボン欧州理事会では,EU は知識社会に対応した新しい戦 略に合意をし,これに基づき EU を2010年までに最も競争力がある知識経済社 会にするとの視点から,2004年,委員会は国境を越えるサービス活動に対する 「障壁」を取り除くため,「サービス指令」案を欧州議会に提出した。委員会は 博もサービス指令の対象とし,第16条で母国法主義(country of origin
princi-ple)の適用を受けない,第40条で 博における調和策を提示する可能性を検 討するという規定をおいた。しかし欧州議会は, 博は公権力の執行と関わる という理由により適用除外とした8)。調和の前提として,委員会による報告と関 係者との協議が示されており,委員会は 博に関する第2回目の調査と緑書に 着手した。
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.EU 博政策の変化
4―1.「EU 域内市場における 博サービスの研究(2006年)」 第1次調査の後,欧州裁判所の画期的な判決があり,情報通信手段を使う 博の提供が始まった。そこで委員会は再度全加盟国の 博調査(以下,第2次 調査)を行った9)。第2次調査は当時の加盟25か国の 博の実態を調べ,詳細に 分析をしたものである。調査の目的はオンライン,オフラインの 博規制が, メディア,スポーツなどのスムースな移動に影響を与え,経済,雇用をいかに 制限しているか調べることであった。加盟国の法規制とその障壁,国境を越え る 博の発展という3点に注目をした。 ⑴ EU 博市場 表2のごとく,EU は 博市場を515.3億ユーロと推定した。最大の市場で ある米国は607.0億ユーロであった。 博の構成は米国ではカジノが約60%を 占めるなど,国により嗜好の差がある。さらに委員会は国境を越える 博の動 向を,事業者へのヒヤリングで調べた。これはインターネットなどを使った双 方向システムでの 博である。こうした 博事業者が母国の認可をとり,国内外で産業として発達しているのは,マルタ,英国,英領ジブラルタルなどであ る。彼らの 博収益は2004年には12億ユーロと推定され,年率40%の成長が見 込まれており,2009年には60億ユーロに達すると予想された。 ⑵ EC 条約第43条「設立の自由」と同第49条「サービス提供の自由」 第2次調査では, 博は EC 条約第43条(TFEU 第49条)と同第49条(TFEU 第56条)に対する障壁に影響されているとし,加盟国の 博規制はこれらの条 文への阻害要因となっていると判断した。これらの条文は欧州裁判所の先決裁 定で解釈が問題となり,加盟国の規制に対して事業者が EC 法違反として援用 した。なお欧州裁判所は(1963.2.5. C―26/62),EC 条約の目的とする域内市場 の形成はすべての EC 市民に影響を及ぼし,権利・義務を付与するとし,市民, 企業も EC 法違反を訴えることができた。 委員会の解釈は以下の通り。 第43条は,他の加盟国で代理店,支店,子会社を設立する加盟国の個人と企 業に適用される。設立は他の加盟国で経済活動と見なされる活動をする個人と 企業が行い,他の加盟国の領域内において継続する事業を前提とする。 第49条は,サービスの提供者,受給者ともに援用できる。援用するにはサー ビスの提供者,受給者,サービスが国境を越えることを要する。またヒト,モ 表2 EU 博市場と構成比 種 類 億ユーロ(構成比) 備 考 宝くじ 229.8( 46%) 独,仏,伊,英 ゲーム機 96.8( 19%) 独,西,英 スポーツ 博等 88.7( 18%) 仏,英 カジノ 75.1( 15%) 仏,独,英 ビンゴ 24.6( 5%) 英,西,葡 総 計*1 515.3(100%) 1ユーロ=¥130 で約6.7兆円 数字は 博総収入から賞金を払い出した残額である。 *1 総計は「その他35百万ユーロ」を含む。
出典: Study of gambling services in the Internal Market of the European Union. p. 1461―p. 1478 から著者作成。
ノ,資本の自由移動の規定に支配されず,対価と交換に提供される。第50条 (TFEU 第57条)サービスの定義の第3パラグラフから,サービスの提供者は提 供先の加盟国において,当該国の国民に課されるのと同一の条件でその営業を 一時的に行うことができるため,国籍による差別を禁じる。 第43条と第49条への制限は差別的政策として禁止される。さらに欧州裁判所 の判例は,これらの規定はサービスを提供,受給する自由とともに,設立の自 由への制限も禁止する。加盟国の規制は客観的に正当化されなければならず, 必要な限度を越えてはならない。差別的な措置が正当化される場合として,第 46条に明記する理由,すなわち公共政策,公共の安全,公共の健康の理由によ り EC 条約で明確に与えられる例外に当てはまる場合だけとし,厳密に適用さ れる。第43条と第49条の基本的自由に対する差別的でない制限で,加盟国政府 の政策に起因し,国籍にかかわらず適用されるものは,公共の利益に関する最 重要な理由により正当化される。 ⑶ 欧州裁判所の規制基準 欧州裁判所は,規制の根拠として公共秩序の維持,道徳,伝統的文化の保護, 犯罪の予防を認める。具体的には 博衝動を自由に利用させない,個人が 博 へ多額の出費をし,社会への害悪を予防する,消費者を保護する。 博収入が 社会的活動の財源として利用されることは付随的であり,規制の正当化の理由 にはならない。特に国が財源とする 博で,「税収入の減少を防ぐために」を 理由に,その規制を正当化することはできない。 欧州裁判所の国の規制に対する判断は精緻になり,公共の利益という名目の みでは規制が認められなくなる。 4―2.欧州裁判所の先決裁定判決 EC では1992年を単一市場の完成の目標年としたが, 博に対しては明確な 方針はなかった。しかし既に, 博事業者が徐々に国境を越える活動を始めて おり,加盟国との間で係争が起こっていた。こうした事件の代表的な例として,
宝くじに関するシンドラー事件, スロットマシーンに関するレエレ事件 (1999.9.21. C―124/97),スポーツ 博に関し,ゼナッティ,ガンベリ,プラカ ニカ各事件がある。次にスポーツ 博に関する3件を検討する。 ⑴ ゼナッティ事件(1999.10.21. C―67/98) イタリア人ゼナッティが,法の禁止にもかかわらず,英国オンライン・ブッ クメーカー・スタンレー社(Stanley)の代理人として営業をし,国から無認可 行為として差止めをけた。根拠は,1931年の国王勅令で競馬,レガッタ,球技 などを例外として 博は不認可とし,認可は国内オリンピック委員会,馬繁殖 改良連盟のみに与えられた。その収益金はスポーツと馬術の振興,馬の繁殖に 充てられる。争点は EEC 条約第59条のサービス提供の自由が侵害されるかど うかであった。 先決裁定を求めたのはイタリア国家評議会(Council of State) であり,サービスに関する EEC 諸条約の規定は,社会政策的配慮,詐欺防止 の配慮に鑑みて,イタリアの 博規制を可能とするかであった。欧州裁判所は 以下のように解釈した。 前提として,シンドラー事件と同様, 博では加盟国の規制が持つ道徳的, 宗教的,文化的伝統を無視できない。スポーツ 博は宝くじと同様弊害がある ので,消費者を守るため,何が必要か決定する権限を持つ国が,規制をするこ とは正当化できる。 EEC 条約第59条に関して,イタリア法では他国の事業者が国内で け金を 受け取ること ができなくなるので,サービス提供の自由に対する障壁になる。しかし同第55 条(設立の自由の適用除外),同第56条(外国人への適用除外),同第66条(設立の自 由の条文でサービス提供の自由に適用)により,これらの規定がサービス提供の自 由にも適用されることから,公権力の行使,公共政策,公共の安全,公共の健 康の理由により,場合により制限が許される。 判決の主旨は,サービス提供の自由を規定する EEC 条約は,スポーツ 博 の有害な影響を制限する社会政策目的により,制限が目的とつり合いが取れて
いるならば, け金を受け取る権限を一定の団体に留保したイタリアの規制の ように,国の規制を妨げない。すなわち比例性を条件として,国による規制を 認めた。 ⑵ ガンベリ事件(2003.11.6. C―243/01) スタンレー社代理人ガンベリ他137人が,同社とインターネットで繋がった 組織に属し,共謀して違法 博を組織し,国に留保された け金収集行為をス タンレー社に行い,国に詐欺行為をしたとされた。争点は国王勅令と財政法が EC 条約第43条,同49条に違反するかどうかである。イタリア国内裁判所は, 国に留保された け金収集行為を禁止する法が,設立の自由とサービス提供の 自由と両立するかどうかの判断を,欧州裁判所の先決裁定に付託した。 欧州裁判所はゼナッティ事件を一歩進め,制限の基準を厳しく判断し,以下 のように EC 条約を解釈した。 他の加盟国で設立,上場され,政府機関により監査を受ける企業が,ある加 盟国で代理店を通じて け金を集める場合,代理店の活動制限は設立の自由の 侵害である。ある加盟国で開催されたスポーツ 博に,他国事業者が市民を けに参加させる行為もサービスである。インターネット 博もサービスであり, これの制限はサービス提供の自由への侵害となる。またサービス提供の自由は, 提供者,受給者にも適用される。 ガンベリ事件では違反行為に刑事罰を科することが,サービス提供の自由へ の制限となるかどうかが争点となった。欧州裁判所は,イタリア法では個人が インターネットを使って他国のブックメーカーに接続し,クレジットカードで け金の支払いをすることは刑事罰で禁止しており,これはサービス提供の自 由への制限である。代理人が他国の 博事業者のため,他国で主催されるスポ ーツ 博の提供の幇助を刑事罰で禁止することは,サービス提供の自由の制限 となると判断した。 またゼナッティ事件とは異なり,「重要な公共の利益のため」という制限を 科する条件を厳しく適用し,真に 博の機会を減殺すること,公共の利益を守
るために差し迫った要請があり,かつ目的の達成に適い,必要な限度を超えな いこと,差別なく適用されることなど厳しい条件を付加し,後にも援用される 原則である「首尾一貫し,システム的方法」が必要とした。 博の財源としての機能にも言及し,国は財源として国民に 博を薦めなが ら,規制の理由として, 博機会の削減の必要性を援用できない。さらに国内 裁判所の任務として,インターネットで,家庭から他の加盟国のブックメーカ ーに接続した人物に科せられた刑事罰が,認可団体が 博を主催しているなか, 判例に照らしてバランスを欠くかどうか,またブックメーカーのサービス提供 を容易にした代理人に刑事罰を科することが,目的と比例しているかどうか決 定する必要があるとし,比例性を判断するのは国内裁判所であるとした。 欧州裁判所の判決は次の通り。加盟国の認可や権限のない,スポーツ 博の け金の収集,受取り,予約,送金を,刑事罰により禁止する国内規制は,設 立の自由,サービス提供の自由の制限になる。この規制が,適用に当たってそ の目的に役立つか,制限がその目的に照らしつり合いが取れているかは国内裁 判所が判断する。国が権力の発動として刑事罰を科する場合であっても,設立 の自由,サービス提供の自由という EC 法は侵すことができないとした。 ⑶ プラカニカ事件(2007.3.6. C―338/04, C―359/04, C―360/04) イタリア人プラカニカ他2名の者は,スタンレー社との契約によりデータ取 次センターを運営したが,警察の許可なく け金を収受したかどで訴えられた。 またスタンレー社は,イタリアで 博主催の認可取得の入札を考えたが,全株 主の透明性を明らかにできず断念した。同社はイタリアで200のデータ取次セ ンターを設け,政府の認可,警察の許可なくプラカニカらの代理人を通じて, 英国のコンピュータに接続して 博事業を行った。この事件では3件の先決裁 定を求める裁判を1本にして大法廷が判決を下した。ガンベリ事件で国内裁判 所の判断に任された事例にも言及した。 イタリアでは け金の収受を含む 博の主催には,政府の認可に加え警察の 許可を必要とし,違反には3年までの投獄となる。主催権の入札資格は限定さ
れ,全ての個人株主の透明性を条件として,以前は参加できなかった株式公開 企業も入札参加が可能となった。警察の許可は落札者に与えられるが,違法行 為を行った個人を含む企業には与えられない。 イタリア破棄院の判決がプラカニカ事件の前提となった。2004年の判決でイ タリア 博法は EC 条約第43条と第49条に合致していると判断した。理由は, 博法は 博を制御可能な規制に導くためであり,犯罪への利用を防止する目 的を持つ。株主の素性を明確にできない株式公開企業を入札から排除すること は,認可保持者の透明性を確保するためであり,国外,国内企業ともに適用さ れるから,差別的ではない。 事件を審理した国内裁判所2か所は,欧州裁判所に先決裁定を求めた。国内 裁判所は,プラカニカへの罪状に適用されたイタリア法の解釈は,破棄院の判 断とは異なり,EC 法に合致しているかどうか疑問を呈した。他の国内裁判所 は,プラカニカ以外の2人の被告人は国の認可と警察の許可なく け金を収受 し,かつデータ取次センターの資産の没収を逃れたかどで起訴されたが,破棄 院の判断とは異なり,スタンレー社が入札に参加できない規定は,EC 法に反 するのではないかと疑問を呈した。 欧州裁判所の判決は以下の通りである。 国の認可あるいは警察の許可を得ないスポーツ 博に関する け金の収集, 予約,取次ぎを禁ずる加盟国の国内法は,設立の自由とサービス提供の自由に 違反する。国内法が 博の事業者数を制限している場合,それが 博に関わる 犯罪,詐欺行為の予防に役立っているかどうかの判断は,国内裁判所が行う。 EC 条約第43条と第49条は,株式公開企業を認可対象から除外する法の適用を 排除する。 博事業者に認可を与えない加盟国においては,規制が EC 条約に 違反しているため,認可なく け金を組織的に収集した理由で,個人に刑罰を 科する国内法の適用は排除される。 この3件の判例は,スタンレー社が関わっており,同社と代理店契約をした イタリアの事業者が被告となった。EU は母国法主義をとらないが,スタンレ
ー社が英国で株式上場され,公的機関が監査をしていることは欧州裁判所の判 断に影響を与えたと考えられる。その上でゼナッティ事件では比例性が求めら れ,ガンベリ事件では違反行為に対する刑事罰は,サービス提供の自由を侵す ことができないと判断された。また「首尾一貫し,システム的方法」が規制に は必要とした。さらにプラカニカ事件では EC 法に反した国内法の適用は排除 されるとし,これらの判断はドイツのスポーツ 博の州政府独占に対しても影 響を与えた。
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.委員会の 博政策
5―1.EC 条約第226条(TFEU 第258条)条約違反手続き 委員会は,EC 法の適用を監視する任務を負っており,第226条で加盟国が EC 法に基づく義務を履行していないと考える場合,調査を経て欧州裁判所へ 義務不履行訴訟を提起できる。委員会はイタリアの馬券取次所の増設に関して, 国が一部事業者の認可の継続手続きを入札なしに行ったことが,第43条と第49 条に反するとして,条約違反手続きをとった。委員会は2002年10月に2か月以 内に措置をするよう意見を出したが,イタリアは回答をしたものの措置を取ら なかったので,委員会は欧州裁判所に義務不履行訴訟を起こした(2007.9.13. C―260/04)。 そのほか委員会が2004年から2013年までの間,条約違反手続きを行ったのは 以下の国である。 2004年 デンマーク,ギリシャ 2006年 ベルギー,デンマーク,フィンランド,ドイツ 2007年 フランス 2008年 スウェーデン,ドイツ,オランダ,ギリシャ 2013年 ベルギー,キプロス,チェコ,リトアニア,ポーランド,ルーマ ニア2008年から2013年までは間隔がある。2012年, コミュニケーション(COM (2012)0496)で方針が出された結果,2013年に再開された。しかし委員会によ る義務不履行訴訟は,欧州裁判所の判断を得るのに時間がかかるため,2008年 に EU パイロット(EU Pilot)制度が導入された。これは委員会と参加希望の 加盟国で構成され,オンラインで加盟国の国内法が EU 法に合致しているかど うか,事実と法の基本的背景を情報交換し,問題を明確にするものである。こ の作業を第1段階として,委員会は質問を送り加盟国は10週間で回答し,委員 会は次の10週間で回答の評価をするのである。この手続きは,加盟国が EU 法 に合わせ,自主的に条約違反を修正するものである。 5―2.「オンライン 博緑書」 第2次調査以後,2008年に EU の 博粗収入が759億ユーロに増え,その内 オンライン 博は62億ユーロ(8%)へと上昇した。委員会では,加盟国と 博事業者との係争,違法オンライン 博の殷賑があり,オンライン 博と加盟 国の規制との共存は難しいと考えた。そこで委員会はオンライン 博の社会的 危険性について情報を収集し,消費者保護,公共秩序の維持を目的に,加盟国 が活用できる行政的,技術的方策について議論を喚起するため,「オンライン 博緑書」を提出した10)。 ⑴ オンライン 博の現状と将来予測 委員会では,2003年と2008年の数字から2012年への伸び率の予測をした。表 3でこれを示す。 また主要国のオンライン 博の市場規模は,英国が19億ユーロ,ドイツが7 億ユーロ,イタリア,フランスが6億ユーロとなる。英国以外は無認可であっ た。 ⑵ 加盟国による 博制限の理由 消費者の保護,犯罪の防止,具体的には詐欺行為,資金洗浄防止は主なもの であり,慈善的,公益的活動等への財源としての機能は副次的な要素である。
⑶ 規制策 規制機関による認可の授与,停止,剥奪が直接的手段であり,税制度を通じ て活動を抑える,違法 博の取締りをする,消費者,事業者へのアドバイスも ある。オンライン 博のサイト規制として,違法サイトの削除あるいはブロッ クをする。 委員会は「オンライン 博緑書」で情報を提供し,関係者の意見を求め,次 に具体策として2012年にコミュニケーション「オンライン 博の包括的欧州体 制に向けて」を提出した11)。 5―3.「オンライン 博の包括的欧州体制に向けて」 委員会はコミュニケーションとともに,作業報告を提出し,EU 市民が適法, 違法のオンライン 博に曝されているが,加盟国の規制は多様であること, 博では母国法主義はとらず,加盟国の権限は留保されていることを指摘した。 こうした前提で,補完性と比例性を考慮して,取り組むべき対策を示した。 委員会は加盟国の 博法が EU 法と適合することを第一に示した。しかし設立 の自由,サービス提供の自由の原則のみで,加盟国と 博事業者との係争を処 理するのは困難であるので,欧州裁判所の 博に関するシンドラー事件以後の 判例を基礎とすることになる。 またオンライン 博は,EU,EFTA の国境をも超えるものであるから,両 表3 オンライン 博の予測増加率と予測値 (単位:億ユーロ) 手 段 2003年 2008年 2012年 増加率(2012/2003) インターネット 48 ― 73 153% モバイル 8 ― 35 450% IP テレビ 3 ― 14 416% 計 59 62 122 1ユーロ=¥130 で約1.6兆円 2008年の数字は頁により一致しないので,総数のみを計上した。 出典:「オンライン 博緑書」p. 8
組織間の協力と強制措置を実施すると述べる。 次に消費者の保護を訴える。消費者が違法サイトで詐欺にあう,カード情報 が詐取される,依存症に罹患するなどが例である。そのためには違法サイトの 摘発,ブロックが必要となるが,これは加盟国の責任であり,委員会は支援を する。さらに 博施設の EU 標準化も記されているが,遠い目標である。 2012年にはオンライン 博の市場規模の拡大とともに,オンライン 博を利 用したスポーツ大会の公正性を疑わせる事件が発生しつつあった。スポーツで は試合の公正性は必須であるが,八百長試合で試合結果を左右すればスポーツ 博で膨大な利得を獲得でき,テロリストへの資金流入が懸念される資金洗浄 の可能性を拡大する。
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.ドイツにおける第二次大戦後の 博政策
ドイツでは第二次大戦後,1933年に制定されたカジノ法に従い,州を認可権 者として戦災復興を目的に各地にカジノが設置された。また宝くじは1945年に 連邦から州の権限となり,財源として発行された。連邦経済省管轄の営業用ゲ ーム機は市民の嗜好に合い,依存症の危険性が高いが,ゲームセンター,バー を中心に多く設置された。さらにスポーツの復興を目的に,サッカー 博が南 ドイツの州から始まった。これら多彩な 博は,主に州政府による規制を受け つつ,現在の姿へと発展した。 20世紀末から21世紀にかけて情報通信手段が飛躍的に発達すると,ドイツの 博市場を目指して国外事業者が進出し,州政府との間に裁判となる事例が生 じた。原因は EU の域内市場の原則と,ドイツの 博制度への考え方の違いで ある。次にドイツ 博制度の基礎となった1933年のカジノ法と1970年の連邦憲 法裁判所の判決を検討し,州政府が宝くじとスポーツ 博を独占的規制に取り 込む過程をみる。6―1.カジノ法,連邦憲法裁判所判決 18,19世紀にライン川沿いの温泉に起源をもつ公的カジノは,1872年,ドイ ツ帝国で閉鎖されたが,1933年,カジノ法により再開された。この法では,帝 国内務相は温泉の訪問客数とその内外国人の比率を定めて,基準に合う都市を 決定した。他国のカジノが隣接することを条件とし,外貨獲得も目的とした。 収益はカジノ企業の必要経費を控除した後,カジノ税として政府に納入するこ と,未成年者,地域住民の入場禁止,閉鎖日,個人的チップを禁止しトロン (Tronc,全体へのチップ)を受け取ること,違反行為への罰則なども定めた。 第二次大戦後もこの法律は適用されたが,トロンの政府と従業員との配分を 巡って1970年,連邦憲法裁判所はカジノ法が,「公的な安全と秩序維持の法で あり,カジノは営業によっておこなう事業ではない」と判断した12)。連邦制下, 公的な安全と秩序維持は州政府の管轄であり,州政府はカジノ権を持つと判断 された。連邦憲法裁判所の判決後,州政府は独自の 博法を制定したが,法の 目的として依存症対策,違法 博の防遏などを各州で統一するため,宝くじ州 間協定案を約定することとし,2004年7月同協定と州宝くじ法が発効した。第 1条で依存症対策などの規定を入れた。実施法である州宝くじ法により,宝く じとスポーツ 博を公認機関が独占した。しかしこの協定に基づくバイエルン 州宝くじ法は,事業者から訴訟を提起された。2006年,連邦憲法裁判所は, 「スポーツ 博の州政府独占は,依存症との戦いという目的が筋の通った方法 で達成される場合に限って,基本法第12条の職業選択の自由に反しない」とし, 州政府独占による依存症対策の有効性が示されていないこと,独占は財政的関 心が主とされ,現行法に代えて2007年末までに,新たな法を制定する義務があ ると判断した13)。 6―2. 博州間協定と連邦政府の見解 連邦憲法裁判所判決に従い,2007年に 博州間協定案が各州に示された。協 定案は全29条,宝くじ州間協定の内容を改め,弊害対策,カジノ,宝くじ,ス
ポーツ 博,認可条件などを詳細に決めた。第1条で依存症対策,違法 博の 防遏,若者等の保護,犯罪防止を挙げた。第4条で 博は各州の認可がある時 のみ認められるとした。オンライン 博は禁止された。連邦経済省はこの協定 を批判し,2007年の連邦議会での質問に答えて,文書で回答をした14)。連邦経済 省は経済的視点で 博を見ており,委員会と共通する。それゆえ州政府の 博 独占には批判的であるが,連邦参議院は州政府の代表で構成され,かつ州法と しての 博州間協定,州 博法が成立しつつあり,批判はするが否定はできな い立場であった。 しかし州政府がガンベリ,プラカニカ判決を無視した点, 博独占が基本法, EU 法に適合しないのではないかとの疑問,オンライン事業者に関する知見が 不十分である点を指摘しており,以後州政府は欧州裁判所の先決裁定に従い, 博州間協定の改定を迫られる。 6―3. 欧州裁判所大法廷判決(2010.9.8. C―316/07,C―358/07,C―360/07, C-409/07,C-410/07) 2008年1月に 博州間協定は発効するが,宝くじ州間協定のもとで,国外ス ポーツ 博の国内取次事業者と州政府との間で係争が起こっており,行政裁判 所から欧州裁判所に先決裁定が付託されていた。事件は国外の認可事業者が, ドイツで無認可のまま仲介人を介して営業をし,仲介人は罰金を伴う禁止措置 を受けた。問題はスポーツ 博の州政府独占が EU 法に違反するかどうかであ った。2010年9月の欧州裁判所の判決の論点は,以下の通りである。 ドイツのスポーツ 博規制は,サービス提供の自由と設立の自由を侵してい るが,判例から公益目的のためであれば制限は許される。しかしこの制限は目 的に適い,必要な限度に限る。加盟国は 博を法規制に導く目的で,公的独占 制度を設定できる。ただし 博の弊害を防ぐために,規制下で民間企業に 博 を任せるよりも,政府独占の方が弊害を克服できるという条件がいる。 行政裁判所の見解,「ドイツの規制は首尾一貫したシステム的な方法で,
博を制限していない」は正当であり,公的機関が宝くじへ市民の参加を推奨し ながら,スポーツ 博独占は正当化できない,と欧州裁判所は述べる。しかし シンドラー判決で,欧州裁判所は加盟国の 博政策を形成するものではない, という発言とは矛盾すると感じるものである。 さらに欧州裁判所は,ガンベリ,プラカニカ判決を踏襲し, 博の州政府独 占は EU 法に反しており,EU 法に適合させるのに必要な期間,法を適用でき ない。また EU には 博調和策がないので,加盟国は 博を規制する自由裁量 を持ち,母国法主義はとらないとした。この判決により, 博州間協定は改定 に迫られた。 6―4.改定 博州間協定とスポーツ 博の試行 欧州裁判所の判決により,16の州政府は首尾一貫したシステム的方法で, 博を規制する法制度が求められ,それが制定されるまでスポーツ 博規制がで きなくなった。また EU 法に則った制度化を主張するシュレスヴィッヒ・ホル シュタイン州(以下,SH 州)は,協定に不参加を決め,15州で2012年7月1日 に改定 博州間協定(以下,改定協定)を結ぶことになった。主な改正点は,ス ポーツ 博の限定認可が追加され,20事業者を試験的に認め,選考をヘッセン 州が担当することになった。さらに一貫性のある,システム的規制を実現する ため,営業用ゲーム機,競馬も改定協定に盛り込み,全ての 博に対し州政府 の規制が及ぶことになった。 改定協定締結後,2012年11月の州経済相会議で「一貫性のある,システム的 規制」を示す報告が出された15)。州政府は改定協定の一貫性を守る義務があると し,消費者の保護,依存症の防止,若者の保護という目的の実現を,一貫性を 持ってシステム的に行い,全ての 博分野において適用されるべき,とした。 6―5.改定協定と第2次改定協定案の批准 改定協定により20社の選考が行われたが,落選者からの訴えでヴィースバー
デン行政裁判所は,2015年6月,20社のスポーツ 博事業者選定は法的に疑義 があるとして,予定される20社の認可は主審理が終了するまで延期する,と判 断した(5L 1433/14. WI)。同年10月,上級審のヘッセン州行政裁判所の最終判 断は次の通り(Az. 8 B 1028/15)。20社の限定認可は,職業選択の自由を侵す。 16州で構成される組織に拘束的な認可の決定権限を与えるのは,連邦制に反し 基本法違反である。 こうしてスポーツ 博事業者20社の限定認可は実施不可能になり,協定に復 帰した SH 州を含む16州は2016年10月,20社限定の廃止などにより再改定を目 指すことを決めた。現在第2次改定協定案が提示され,2018年年初からの実施 を目途に,各州議会で批准が進められている。再改定の理由として, 博制度 の混乱と,違法なスポーツ 博の提供が続いており効果的な規制をする,をあ げた。ヘッセン州は2次選考に残った35社に認可を与えた。 著者が2015年9月,バイエルン州で改定協定について質問をした際,担当官 はドイツの州 博法と EU 法とは考え方が異なり,ドイツのスポーツ 博規制 は継続すると述べた16)。しかし行政裁判所も州政府のスポーツ 博独占を EU 法 違反と判断し,州政府独占は継続が困難となった。
7
.お わ り に
7―1.ドイツの課題 ドイツ州政府はなお以下の課題を抱えている。 ドイツの 博は基本的に改定協定で規制されるが,加盟国が規制権限を持つ 博で,EU 法により一部の規定がスポーツ 博に適用不可となることは,市 民にとり適法,違法が不明確になり,法制度の安定性を阻害する17)。第2次改定 協定が成立すると,表4の状態が表5へと変化し,国内の 博法制は安定する と考えられる。しかし州政府,事業者の理解の違いから,第2次改定協定のス ポーツ 博規定が,欧州裁判所への先決裁定に付託される,あるいは委員会による条約違反手続きの結果,EU 法違反にならない保証はない。 ドイツの 博法制はかつて連邦と州との二元体制であったが,基本法改正で ゲームセンターの管轄を連邦から州に移し,改定協定へと収斂させてきた。し かし現在,改定協定と EU 法との二元体制が発生している。州政府は第2次改 定協定でこの状態を解消しようとする。一方国内事情として,SH 州では他州 と同調する社会民主党(SPD)が,2017年の選挙で政権を降り,与党の CDU, FDP,同盟90/ 緑の党は連立協定18)で,第2次改定協定には同意しない,スポー ツ 博を EU 法に従って解決すると主張しており,制度は不安定化する。 この原因として,州政府を基礎としたドイツ 博制度の成り立ちと,州政府 の EU 法への理解が不十分であったこと19),EU の課題として, 博規制には調 和策がないため, 博事業者による訴えが欧州裁判所の先決裁定に付託され, 域内市場の原則に基づく判断が与えられ,加盟国の 博制度に変更を加えた, 表4 2017年末までの 博法制 宝くじ カジノ 競 馬 スポーツ 博 ゲーム機 改定協定 ○ ○ △ × △ 各州 博法 ○ ○ △ × △ 連邦営業法 △ 連邦競馬・宝くじ法 ▲ ○ ▲ 欧州裁判所判決 ○ (注) ○は適用される事項,△は共管,▲は税制として適用,×は不適用。 表5 2018年年初からの 博法制 宝くじ カジノ 競 馬 スポーツ 博 ゲーム機 第2次改定協定 ○ ○ △ ○ △ 各州 博法 ○ ○ △ ○ △ 連邦営業法 △ 連邦競馬・宝くじ法 ▲ ○ ▲ (注) ○は適用される事項,△は共管,▲は税制として適用。
また加えつつある。補完性は権限の重層性を前提とするが,個別法に適用され る範囲は必ずしも明確ではなく,政府は限定的に,事業者は拡大して理解しよ うとする。 7―2.EU の課題 欧州裁判所は 博に関する判例を明確にしたが,域内市場の原則に基づく判 断であるため,往々スポーツ 博の自由化と同じ結論となる。現在スポーツ 博の依存症,資金洗浄が問題となっているが,対策と執行は加盟国の責任であ るため,委員会は政策形成をするが執行の強制力はない。欧州裁判所は司法的 な判断をし,加盟国を拘束する。 博に特化した EU 規制はなく,中心的な政 策推進機関が存在しない状態である。 かつて欧州議会は,2011年の「オンライン 博緑書」,2012年の「オンライ ン 博の包括的欧州体制に向けて」に対し,2011年と2013年,「域内市場にお けるオンライン 博に関する決議(2011/2084(INI)),(2012/2322(INI))」を通 した。2011年の決議では, 博は一般的経済活動ではなく,各種の弊害を持つ。 補完性の原理の適用において, 博に特化した EU 規制はない。欧州裁判所は 博に関する懸案を明確にしたが,政治的決定がいる事項が残されており,こ れが原因で違法 博が増加している。オンライン 博は適切に規制しないと, アクセスが容易で抑制が効かないため,依存症の危険性が高い。また 博制度 は加盟国で多様である故,補完性の原理に従うとする。これは「積極的な補完 性」とし,規制機関間の協力,欧州裁判所の判断,域内市場の原則を要件とす るが,特に規制機関間の協力は従来の補完性に付加する事項である。 2013年決議では, 博は各種の弊害を持つため,設立の自由,サービス提供 の自由,相互承認の原則は,加盟国の消費者を守る政策を排除しない。さらに オンライン 博の危険性を掲げ,EU 基本権憲章第35条で EU は人の健康を守 る義務があるとし,TFEU 第169条の高いレベルの消費者保護が義務であるこ とも言及した。注目すべきは補完性の原理について,加盟国は EU 法を守りつ
つ自国の判断と公共の利益に合致する,オンライン 博の提供と規制方法を決 定する権限を持つとし,一歩踏み込んだ主張をした。 また EU を含む欧州評議会(Council of Europe)では,2014年,スポーツ競 技の規律に関する協約を採択する際,違法スポーツ 博の定義が問題となった。 47加盟国でスポーツ 博により経済成長を図るマルタのみがこの定義に反対し た20)。理由は各国法が EU 法よりも優先されることであった。委員会はこの協約 を全会一致ならば承認するとしたが, 博に関してはこの点に曖昧性が残り, EU 法を優先するマルタは反対を唱えるのである。
EU 基本権憲章第35条,TFEU 第169条は,EU が 博の弊害を除去する義 務があるとの欧州議会の論理は合理性があると考える。経済原則のもとで発展 したスポーツ 博の弊害を除去するのは,人間の健康,消費者の尊重であろう。 リスボン条約でより多くの権限を与えられた欧州議会であるが,政策形成は 委員会が独占する。しかし EU 市民に選出される欧州議会の見解は,委員会の 政策,欧州裁判所判決とともに EU の政策に反映されることにより,依存症, 消費者への犯罪,資金洗浄,スポーツ競技の不正という多くの弊害を伴うオン ライン 博の規制に,調整役としての機能を持たせることが必要である。欧州 議会内での議論,動向,EU の 博政策への具体的影響力については,今後の 研究課題としたい。 【付記】 本稿は日本 EU 学会第38回研究大会提出論文に加筆修正をしたものである。司会の 岩田健治先生(九州大学)を始め,出席者の方から貴重な質問をいただいた。特に査 読者の2名の先生には,未熟な論文に対して有益なご意見をいただき,心から感謝い たします。 1) 本稿では時期に合わせ EC と EU を使い分ける。 2) 博は結果が偶然に依存すること,対価を払うことを要件とする。
3) 金額をプールし,運営経費などを差し引いた額を当選者に払い戻す方式。 4) 事業者が独自に決めた掛け率を公示して ける方式。
5) ec.europa.eu//growth/sectors/gambling, 2017年8月2日. 6) Commission of the European Communities (1991).
: Executive summary and pan-Euro-pean Community market review-June 1991. 調査は内部用であり,委員会の公式的な立場を 示さないと注記されている。(http://aei.pitt.edu/id/eprint/38845, 2017年5月3日) 7) European Council in Edinburgh 11―12 December, 1992,
European Commission.
8) Commission of the European Communities, Amended proposal for a COM (2006) 160 final, 4.4.2006.
9) European Commission (2006),
調査は Schweizerisches Institut für Rechtsvergleichung が委員会から受託したものであり,EU の公的見解を代表しない,と記され EU の公式文書 ではない。 10) European Commission (2011). COM (2011) 0128. 11) European Commission (2012). COM (2012) 0496. 12) 2Bv01/65(www.servat.unibe.ch/dfr/bv028119.html, 2017年8月1日)。 13) 1BvR1054/01(www.bundesverfassungsgericht.de/SharedDocs/Entscheidungen/ DE/2006/03/rs20060328_1bvr105401.html. 2017年9月5日)
14) Antwort der Bundesregierung, Drucksache 16/6551
15) Bericht der Wirtschaftsministerkonferenz zum Vollzug des Ersten Glücks-spieländerungsstaatsvertrags : November 2012
16) 2015年9月24日10∼12時, バイエルン州内務省でヒヤリングをした。 担当官は Wolfgang Ertl。
17) 「Schwäbisches Tagblatt」は2015年9月16日「 博を巡る10の Q and A」という記事をオ ンライン版で掲載し,市民の疑問に答えた。ネット事業者の見分け方,賞金は課税されるか, ネット 博は許されるか, 博州間協定とは,EU の 博州間協定の評価は,無認可サイトの 博は罰せられるか,なぜ不認可 博事業者の罰則が問題なのか,ユーザー情報は漏洩しない かなどである。 博州間協定,EU 法は市民を対象にしてないが,この記事は市民にオンライ ン 博に対する不安があることを示す。原因はドイツ州政府と EU との論理の違いによる法の 不安定性である。この記事は削除されているが,複写を著者が保存する。
18) CDU, Bündnis 90/ Die Grünen, Freie Demokraten (2017).
( ― ): (https://sh-gruene.de/
日) Die Grünen は 博による財源で環境対策を主張する。 19) 2014年10月10日,ドイツの経済誌「Wirtschaft Woche」は「ドイツ州政府はオンライン 博の EU 規制に反対をした」との記事を掲載した。 20) マルタ・インディペンデント紙2016年10月30日は「マルタのみ自国以外の EU 加盟国に反対 する」との見出しで,欧州評議会での協約に反対したことを報じた。(www.independent.com. mt/article/European-Union-6736163926. 2017年1月8日) 参考文献 戸田典子(2003)「カジノ法―温泉湯治場からオンラインまで」『外国の立法 2003.2』国立国会 図書館調査及び立法調査局
Schweizerisches Institut für Rechtsvergleichung (2009)
Lausanne : 31 June 2009 (https://gluecksspiel.uni-hohenheim.de/ fileadmin/einrichtungen/gluecksspiel/Regulierung/International_vergleichende_Analyse_ des_Gluecksspielwesens_Schweiz.pdf#search=%27International+vergleichende++++++++ ++Analyse+des+Gl%C3%BCcksspielwesens%27. 2017年11月5日)