1 はじめに
道徳の教科化にあたり、学校教育現場で危惧 されている一つに評価の問題がある。道徳授業 の評価は数値によらないものとされ、個々の内 容項目や1
時間の学習活動の評価ではなく大く くりな評価としてすでに小学校では通知表への 記載などが始まっている。 数値によらない評価として活用できる代表的 なものに、ポートフォリオ評価やパフォーマン ス評価がある1。他にも自己評価や相互評価等 によって、学習活動の評価は可能である。しか し、道徳科の目的は、授業を通して生徒の道徳 性を育むことである。この道徳科の目的に適っ た評価はできないのだろうか。 そこで、本稿では、数値化せず、生徒を励ま し勇気付ける働きをもち、生徒の道徳性を育む 評価の在り方の一つとして、「エピソード評価」 (林・渡邉2017)に注目する。生徒が道徳性を 発達させていく過程での生徒自身のエピソード (挿話)を累積し、道徳科の評価に活用する方 法である。授業時間や生活の中での言動や記述 を「エピソード」として集積し、そこから所見 として記述したものを生徒にフィードバックす る。 このような形で道徳科において評価を児童生 徒にフィードバックするとなれば、指導と評価 の一体化が求められる。つまり、学習の様子が 同時に道徳性を表現する発言や行為のエピソー ドとして評価される必要がある。しかし、この道徳科におけるエピソード評価の可能性
―「資質・能力」のイメージとの関連において―
渡邉真魚
【要 旨】 特別の教科「道徳」の評価は、数値によらないものとされ、内容項目や1時間の学習活動の評価で はなく、おおくくりな評価としてすでに小学校から始まっている。学習指導要領では、資質・能力を育む ために、「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力等」「主体的に学習に取組む態度」の3つの柱を掲 げており、道徳科の学習活動に着目した捉え方として、資質・能力の三つの柱に分節することはできない ものの、可能な部分を重視するといった議論がなされた。では、道徳科において、実際に授業を行う教 員は、生徒の道徳性を育む「道徳の時間」に、学習活動を通してどのような資質・能力を育みたいと考 えているのだろうか。そこで、質問紙を作成し、生徒の道徳性に係るエピソードを持つ教員がどのような 資質・能力をイメージしているのかを調査をして、テキストマイニング(分析ソフト『KH Coder』」)で分 析したところ、3つのことが明らかになった。 (1) 授業者は、道徳の時間に目標を達成するために、身に付けさせたい力、育てたい力(資質・能力) をイメージしていること。 (2) 生徒の道徳性に係るエピソードを持つ群は、道徳的価値とともに、生徒に身に付けさせたい力や育 みたい力(資質・能力)をイメージもしくは実践していること。 (3) 年代別にみると、「20代~30代」群より「40代~50代」群に出現した語彙数が多く、授業者の経 験年数が多いほど、授業に対する目標を設定し、生徒の道徳性に係るエピソードを見取る力がある こと。 キーワード:学習活動 資質・能力 道徳性 エピソード評価 研 究 論 文点は「エピソード評価」に関する議論ではまだ 十分には論じられていない。こうした事態が生 じるのは、道徳性を育むことが目的である道徳 の時間において、道徳性に言及せずに学習活動 を評価させようとする評価方法の提案に問題が あるからだと考えられる2。 ところで、新学習指導要領では、各教科にお いて資質・能力を育むために、「知識及び技能」 「思考力・判断力・表現力等」「主体的に学習に 取組む態度」の
3
つの柱を掲げて、学習評価を 通じて学習指導の在り方を見直すことや個に応 じた指導の充実を図ること、学校における教育 活動を組織として改善することが重要であると 示された。 この資質・能力の三つの柱と道徳科との関係 については、道徳教育に係る評価等の在り方 に関する専門家会議(2016)によると、例えば、
道徳科の学習活動に着目した捉え方として、資 質・能力の三つの柱に分節することはできない ものの、「何を理解しているか、何ができるか (知識・技能)」は、「道徳的諸価値についての 理解」を、「理解していること・できることを どう使うか(思考力・判断力・表現力等)」は、 「物事を(広い視野から)多面的・多角的に考 え、自己(人間として)の生き方についての考 えを深める」ということを、「どのように社会・ 世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに 向かう力、人間性等)」は、「よりよく生きるた めの基盤」、「自己を見つめ」ること、「自己(人 間として)の生き方についての考えを深める」 ことを重視するという整理がなされている。こ うした主張を受けて、道徳科の評価については、 実践の場で活用可能な多くの書籍が刊行されて いる3。 では、道徳科において、実際に授業を行う教 員は、生徒の道徳性を育む「道徳の時間」に、 学習活動を通してどのような資質・能力を育み たいと考えているのだろうか。そしてそのこと は、エピソード評価とどのように関係するのだ ろうか。 この点を明らかにするために、第2
項では、 エピソードを持つ教員がどのような資質・能力 をイメージしているのかを調査して量的に考察 する。第3
項では、生徒の道徳授業に係るエピ ソードを持つ授業者は、「道徳の時間」にどの ような資質・能力を育みたいと考えているのか をインタビューで調査し、明らかにする。第4
項では、こうした調査結果からの帰結を述べる こととする。2 質問紙調査について
(1)エピソード集積のための視点
道徳性を育むための道徳教育は、学校教育全 体を通して行われるものであるが、「特別の教 科 道徳」では、評価は授業時間に限定され、 しかも、その評価は、毎時間の内容項目ごとに 行うものではなく、大くくりなまとまりとする ことになっている。 そこで、授業中に起こる教室内の出来事を、 生徒一人一人の学びのプロセスとし、この1
時 間の前後も含め、生徒のエピソードを見取って いくためのシートを作成した。授業とその前後 を含め、時間帯を大きく3
つに区切るので、暫 定的に、授業前と授業後は生活エピソード、道 徳の時間は授業エピソードと命名した。また、 生徒が発言したり記述したりしたものを《事実》、 教師が観察したり助言したりしたものを《関与》 とし、1
シートに6
つの記入欄を準備し、エピ ソード集積のための視点とした。 授業者は、児童生徒についての授業や授業前 後のエピソードを持っていても、これまで、道 徳の時間は評価しないことになっているため、 その記録は、教育相談や通知票の生活の所見で、 その子のよさとして語られたり記載されたりするのみに留まっていた。そのエピソードを見取 る力こそが道徳科の「指導と評価の一体化」に つながるのではないかと考え、教科化がスター トする前に量的調査をすることにした。
(2)対象者と調査項目
K
市内の中学校教諭263
名(管理職を含む) の先生方に協力いただき、フェイスシート(勤 務校の校種・年代・校務分掌)と以下の3
つの 質問について回答(平成29
年6
月に実施)を得 た。記述された回答は、テキストマイニングで 分析することとした。 質問1
道徳科(道徳の時間)で「児童生徒 に身に付けさせたい力や育みたい力 (資質・能力)」とは、どんな力(資 質や能力)だとあなたは考えますか。 (複数回答・箇条書き可) 質問2
4 道徳的行為に必要な「児童生徒に身 に付けさせたい力や育みたい力(資 質・能力)」とは、どんな力(資質 や能力)だとあなたは考えますか。 (複数回答・箇条書き可) 質問3
児童生徒に身に付いた力・育まれた 力(資質・能力)を実感した経験や そのことにまつわるエピソードを教 えてください。(どんな場面で、どん な授業を行い、どんな関わり方をし たか等、生徒名はイニシャル可。)(3)分析方法
(分析ソフト「テキストマイニ ング『KHCoder』」について) テキストマイニングは、文章を処理してパタ ーンを発見しようとする手法である。調査した 記述文は、言語解析の方法を用いて文章を数量 化し、結果を可視化するためネットワーク図に して考察する。分析ソフトは、フリーソフト 「KH Coder
」(樋口耕一氏開発)を使用し以下 の手順でネットワーク図等を作成した。 ① 収集したテキストデータを分析し、コー ド化を図る。 ② データを最小の意味単位である単語に分 解し、単語の出現頻度と同時に出現しやす い共起性を見る。 ③ 可視化された図は、ピンク>白>水色 (印刷では、黒>白>灰色)の順に、中心 性(多くの単語とリンク)が高く、描画数 (リンクの線の数)が増えると各まとまり の意味が解釈しやすくなる。 そこで、今回は、ネットワーク上に見て取る ことのできる大きな単語のまとまりを取り出し、 授業者が「『道徳の時間』に生徒に身に付けさ せたい力や育みたい力(資質・能力)」を、ど のようにとらえているのかを考察する。(4)結果と考察
質問1
「道徳科(道徳の時間)で児童生徒に 身に付けさせたい力や育みたい力(資質・能 力)」で回答した記述の中で、語彙の出現頻度3
回以上の単語をネットワーク図(図1)にし
表1 エピソード累積表 氏 名 生徒発言・記述《事実》 教師観察・助言《関与》 長期エピソード生活(P) 短期エピソード 授業(D) 長期エピソード 生活(CA)たところ、
6
つのブロックが出現した。ブロッ ク面積の大きなものから順にローマ数字で並べ、 出現頻度の高い単語順を書き出したのが(表2)
である。 ネットワークに出現した単語は、3
つに分類 することができた。波線が「内容項目及び価値 に相当する表現」、下線が「道徳的諸様相及び4
つの視点(『主として』以下に出てくる表現)」、 残ったものが「その他」である。そこで、授業 者の記述の中で、「その他」(道徳教育に関する 単語、例えば、内容項目、価値、道徳的諸様相 や4
つの視点等以外)の単語に注目したい。道 徳の時間の目標を達成するために、必要な資 質・能力が「その他」に出現すると考えたから である。その結果、文脈が読み取れるもの(網 掛けで表示)として、「考え、受け入れる」、「考 える力」、「自己、他者、理解」、「人間関係」、「実 践、身、付ける」、「コミュニケーション、能力」 が浮かび上がった。 次に、質問3
に記載した教師の生徒のエピソ ード欄に「記載があるグループ(「エピソード 有」群)」と「記載のないグループ(「エピソー ド無」群)」に分けて、ネットワーク図を作成 したところ、語彙の出現頻度2
回以上で下記の ようなネットワーク図(図2-1
、図2-2
)が出 現した。ここでは、中心性(多くの単語とリン ク)が高い「ピンク>白>水色(印刷では、黒 >白>灰色)」を含むブロックを取り上げて考 察する。 ブロックから洗い出した単語(表3)も同様
に、波線が「内容項目及び価値に相当する表現」、 下線が「道徳的諸様相及び4
つの視点『主とし て』以下に出てくる表現)」、「その他」の3つに 分類した。 その結果、「道徳の時間で、児童生徒に身に 付けさせたい力や育みたい力(資質・能力)」 の記述の中で、道徳教育に関する単語、例えば、 内容項目、価値、道徳的諸様相、4
つの視点等 以外の単語に注目してみると、文脈が読み取れ るもの(網掛けで表示)として、「エピソード有」 群は「自己、他者、理解、相手、立場、考える」、 「コミュニケーション、能力」、「自他、大切」等、 「エピソード無」群は「ルール、守る」、「規範、 意識」、「自己、肯定」、「行動、力」、「考え、判断、 考える」等が浮かび上がった。 併せて、「エピソード有」群が道徳的価値と ともに「児童生徒に身に付けさせたい力や育み たい力(資質・能力)」に言及しているのに対 して、「エピソード無」群は、広い意味で社会 生活上に必要な資質・能力をイメージしていたⅠ
Ⅱ
Ⅳ
Ⅵ
Ⅴ
Ⅲ
図1 道徳の時間で児童生徒に身に付けさせたい力 や育みたい力(資質・能力) 表2 「道徳の時間で身に付けさせたい力や育みた い力(資質・能力)」ブロック別単語 ブロック ブロック別単語 Ⅰ 自分、他、判断、大切、他人、考え、受 け入れる、心、感謝、思いやり、命、思 いやる、相手、立場、気持ち、行動、善悪、 正しい、持つ、考える、力、集団、人、社会、 生活、関わり Ⅱ 自己、他者、理解、規範、意識、守る、人間、 関係 Ⅲ 道徳的、価値、実践、身、付ける Ⅳ 自他、生命、尊重 Ⅴ 強い、意志 Ⅵ コミュニケーション、能力ことが見て取れた。 さらに、年代別にネットワーク図を作成した ところ、語彙の出現頻度
2
回以上で下記のよう なネットワーク図(図3-1
、図3-2)が出現した。
ここでは、中心性(多くの単語とリンク)が高 い「ピンク>白>水色(印刷では、黒>白>灰 色)」を含むブロックを取り上げて考察する。 ブロックから洗い出した単語(表4)を同様
に、波線が「内容項目及び価値に相当する表 現」、下線が「道徳的諸様相及び4
つの視点(『主 として』以下に出てくる表現)」、「その他」の3
つに分類したところ、「道徳の時間で、児童生 徒に身に付けさせたい力や育みたい力(資質・ 能力)」の記述の中で、道徳教育に関する単語、 例えば、内容項目、価値、道徳的諸様相、4
つ の視点等以外の単語に注目してみると、文脈が 読み取れるもの(網掛けで表示)として、「20
代~30
代」群は「判断、力」、「正しい、考え、 受け入れる」、「考え方、知る」、「行動、考える」 等、「40
代~50
代」群は「言葉、表現」、「コミ ュニケーション、必要」、「違い、認める」、「道 徳的、実践」、「周り、見る」、「課題、問題、解決」、 「自己、見つめる」、「役割、協力、大切」、「向上 心、持つ」、「規範、意識」等が浮かびあがった。 併せて、中心性が高く描画数が多く出現した 語彙数が「40
代~50
代」群に多かったことが 見て取れた。 今回の調査では、生徒の道徳性に係るエピソ ードを持つ経験年数の多い教師は、道徳の時間 で育てたい、身に付けさせたい力(資質・能力) について、「『言葉、表現』、『コミュニケーション、 必要』、『違い、認める』、『道徳的、実践』、『周り、 見る』、『課題、問題、解決』、『自己、見つめる』、 『役割、協力、大切』、『向上心、持つ』、『規範、 意識』等」をイメージしたことから、授業者の 経験年数が多いほど、授業に対する目標を設定 し、生徒の道徳性に係るエピソードを見取る力 があると考えられる。Ⅰ
Ⅰ
Ⅱ
図2-1 「エピソード有」群 図2-2 「エピソード無」群 表3 エピソードの有無によるブロック別単語 エピソード別 ブロック別単語 エピソード有 【ブロック1】 個性、尊重、生命、自己、他者、理解、立場、相手、考える、思いやる、協調、 心、思いやり、力、自分、人、見つめる、コミュニケーション、能力、思 考、常識、寛容、協力、自然、自他、命、大切、希望、勇気、強い、意志 エピソード無 【ブロック1】 ルール、肯定、自己、高める、規範、意識、守る 【ブロック2】 力、自分、行動、考え、考える、判断以上のことから、本調査では
3
つのことが明 らかになった。 ① 授業者は、道徳の時間に目標を達成する ために、身に付けさせたい力、育てたい力 (資質・能力)をイメージしていること。 ② 生徒の道徳性に関わるエピソードを持つ 授業者は、道徳的価値とともに、身に付 けさせたい力や育みたい力(資質・能力) をイメージもしくは実践していること。 ③ 年代別にみると、「20
代~30
代」群より 「40
代~50
代」群の方が出現した語彙数が 多く、授業者の経験年数が多いほど、授業 に対する目標を設定し、生徒の道徳性に係 るエピソードを見取る力があること。3 授業者へのインタビューに
ついて
(1)生徒エピソードを持つ授業者への
質問項目
次に、前述の「エピソード累積表」を用いて、 授業者は、どのように生徒に関わり(教師観察・ 助言《関与》)、授業中にエピソード(生徒発言・ 記述《事実》)を収集しているのか、その視点 を明らかにするためにインタビュー調査を行っ た。対象者として、出現した語彙数が多く、授 業者の経験年数が多いほど、授業に対する目標 を設定し、生徒の道徳性に係るエピソードを見 取る力があることが明らかになった40
代から50
代の授業者4
名を抽出し、インタビューを行 った。質問項目は以下の2
項目である。 質問① 「道徳科(道徳の時間)に身に付け 図3-1 「20代から30代」 図3-2 「40代から50代」 表4 エピソードの有無によるブロック別単語 エピソード有 ブロック別単語 20代~30代 【ブロック1】 力、判断、人、関わり、善悪、正しい、自分、考え、受け入れる、考え方、 知る、考える、生活、集団、行動、持つ、自身、自律、自主 40代~50代 【ブロック1】 言葉、表現、コミュニケーション、必要、伸長、個性、自主、自律、規律、 生命、尊重、道徳的、違い、認める、実践、様々、周り、問題、見る、多 面、弱い、強い、勇気、解決、状況、課題、見つめる、自己、何事、役割、 時、応じる、向上心、持つ、規範、意識、命、大切、協力させたい力、あるいは育てたい力 (資質や能力)」について(資質・能 力に係る部分を下線で表記) 質問② 「その力が身に付いた、あるいはそ れ(資質や能力)にまつわる生徒の エピソード」について なお、以下に記載するのは、音声録音から質 問項目に該当する部分の抜粋であり、( )は 筆者が補った部分である。 (ア)事例1 H教諭(40代女性、研修主任) ① 「道徳の時間における身に付けさせたい・ 育てたい力(資質・能力)」 ○自分の考えを持つことができる力、深く考 えることができる力、考える力 ○自分とは 異なる考えを否定したりしないで、共感的に 聞いて受け止める力、短く言うと、心の広さ、 人間の器というか ○相手がどんな言葉を 発するのかというのは、全然予測が付かな いので、それに対する対応力というか、柔 軟性みたいな、というのが道徳の授業の中で、 学力的な感じで言うと、スキルアップできた らいいなと ○自分も周りも、物も人も、大 切にする力、どの内容項目にしても、基本は 自分も周りも人も物も大切にする力、スポー ツ選手は道具を大切にするという資料もあ るので ○実践力を伴った道徳的判断力の もとに志の高い生き方を求める力 ② 「生徒エピソード」 ○
A
さん(中2
男子) 「先生聞いて。」学習旅行で地下鉄に乗った とき「すぐ降りるのでどうぞ。」と高齢者に 声をかけたことを報告する男子 ○B
さん(中2
男子) 国語の読み取りの際にも道徳の授業で学ん だことを思い出して、適切に表現、的確に考 えていた。(「それって毒にも薬にもなる…。」 節度、節制の授業を想起した場面) ○C
さん(中2
男子) 自分の考えを話すときに自信がなかった生 徒、周囲が聴く姿勢をとり続けたことにより、 彼の吃音が減った (イ)事例2 M教諭(40代女性、道徳教育推 進教師) ① 「道徳の時間における身に付けさせたい・ 育てたい力(資質・能力)」 ○対話を受け入れるような力… ○自分の考 えに固執しないけれど、自分の考えは持って いる、受け入れる力とか、なんだろうな、複 合的というか、難しいよね… ○自分の考え を書き換える力 ○多面的・多角的(にとら える力)って大事かな ② 「生徒エピソード」 〇A
さん(中1
男子)授業中に立場で悩む 友だちの立場だったらこれっていうのはあ るけど、ロレンゾの立場だったら、どういう ふうにして欲しいかなって思うと、友だちの 立場として考えるのと、ロレンゾの立場とし て考えることが一致しない、一致しないから どっちの立場で選んだらいいか、僕はわから ないって、すごく悩んで… ○B
さん(中1
女子)授業中に価値で悩む 友情として、情けって言うと、この考え(ア ンドレ)なんだけど、それこそ、お金持たせ て逃がさせて、だけど、法律っていうか、ル ールっていう面から考えると、絶対許されな いことだから、それは、警察に言うというこ とを選ぶべきだと…どっちの、友だちとして なのか、法律を守るという立場で見た方がい いのか、自分の軸をどこにおいていいのか決 められなくて、わからない、決められない… (ウ)事例3 O校長(50代男性、管理職) ① 「道徳の時間における身に付けさせたい・ 育てたい力(資質・能力)」○結局、社会に出て、集団と折り合いをつけ たり、自己決定しながら進める人を創るのが 中学校でそれって、どこにベースがあるかと 言うと、やっぱり道徳だったり、学活だった り、ということになる ○仲間の考えを聞い て、仲間の考えが明らかになったよ、今、俺 は周りよりも考え方がちょっとはずなんだ よね。とか、そういうことが自覚できたぞっ ていうのが… ○非常に感受性豊かだったり、 疑似体験、もしくは、体験自体が豊富だった りする子は、たぶん、キャパも広くて、受け 止めも… ○経験の差、思考の差って明らか になっていく ② 「生徒エピソード」 ○
SM
さん(中2
女子) この子、「少しの我慢」って言ったんだよね。 素敵な言葉だと思って。それは、集団の中で 自分が寄り添うために、自分の我が儘だけ言 っていたのでは、なりたたないことを自覚し た瞬間だと思っていて。これってすごく道徳 的な言葉だと思うのね…身に付いたひと言 じゃないかと思っていて ○MS
さん(中3
男子) 男の子なんですけど、問題を起こすんです よ。だけど、授業中ものすごく乗ってきて、 (授業中)「クラスがこんな冷たい考えをして いるとは思わなかった」そういう発言をした、 要するに自分は熱い思いを持っていたんで しょうね、ところが、みんないろんなことを 考えて、状況鑑みた方向に発言した後で彼が 言った、(中略)、彼はそれを表出した、これ も集団でなければ気づかないんですよ… (エ)事例4 A指導主事(50代男性、管理職) ① 「道徳の時間における身に付けさせたい・ 育てたい力(資質・能力)」 ○自分が次、どうできるかは置いといたにし てもとにかくしっかり考えることができる ということが大事… ○振り返ることがで きるということは、振り返ったとき、思い 起こせること ○振り返りをする前に、子 どもたちは自発的に考えることを始めている、 その積み重ねの中に、観点や評価に該当す る視点を持ち合わせていくのではないか… 振り返ることは、自ら顧みるってことだから、 自己評価力というのは… ② 「生徒エピソード」 ○A
さん(中3
男子:教室にて) 何に重きを置くのかは、人によって違った りするので、A
くんにとっては、公共心だっ たり… ○H
さん(中3
女子:保健室にて) 彼女の場合、家の中も複雑で、そういうの もわかっていたので、「あんまり心配してい るときには、言わなくてはいけないけれど、 あんまり気にしないで。本当につらいときに は、出していいから。」と(保健室で声をか けたとき)彼女はやればできるから(中略) 「あなたが何かやりたいという…それを感じ たときに、あとはそれをやればいいのだから、 まずは、自分の身体のこととか、自分の家の 中で、つらくならないように…していればい い(中略)と話したんです。そしたら急にね、 ずっと話を聞いていたんだけれど、「私、す ごく気持ちが楽になりました」という言葉を 言って(中略)、タイミングと話の中身がマ ッチングしたと…(2)
「質問項目①」における考察
はじめに、質問項目①「道徳科(道徳の時間) に身に付けさせたい力、あるいは育てたい力 (資質や能力)」を新学習指導要領で目指す資 質・能力の3
つの柱に即して分類した。分類の 仕方は、インタビュー記録から資質・能力に係 る部分のみ(下線で表記)にラベルを貼り、「思考力・表現力・判断力」・「学びに向かう力、人 間性等」と判断し、それ以外は暫定的に「知識・ 技能」に振り分けた。なお、一文の中に複数の 資質や能力が入っていると判断したものについ ては、再掲して該当部分を下線で表示した。
(3)
「質問項目②」における考察
次に、質問項目②「その力が身に付いた、あ るいはそれ(資質や能力)にまつわる生徒のエ ピソード」について分類した結果、4
人のエピ ソードから生徒の道徳性に係る場面にどのよう に関わったか(下線で表記)が見て取れた。(表6) 以上のことから、「『道徳の時間』に身に付け させたい力、あるいは育てたい力(資質や能 力)」を語ることができる授業者は、生徒の道 徳性に係るエピソードを持っていることが見て 取れた。 表5 エピソード評価持つ授業者が想起する「道徳の時間における資質・能力」 資質・能力等 インタビュー記録から 【知識・技能】 ○実践力を伴った道徳的判断力のもとに志の高い生き方を求める力 ○多面的・多角的 (にとらえる力) ○仲間の考えを聞いて、考えが明らかになった ○自分の考えを書き 換える力 ○自発的に考える、自己評価力 ○振り返ることのできる ○集団と折り合 いをつけたり、自己決定しながら ○対応力、柔軟性 ○自分の考えは持っている、受 け入れる力、複合的 ○自分も周りも、物も人も、大切にする力 ○疑似体験 【思考力・表現 力・判断力】 ○自分の考えを持つことができる力、深く考えることができる力、考える力 ○対話を 受け入れるような力 ○自分の考えは持っている、受け入れる力、複合的 ○自発的に 考える、自己評価力 ○共感的に聞いて受け止める力、心の広さ、人間の器… ○考え ることができる ○集団と折り合いをつけたり、自己決定しながら ○自分の考えを書 き換える力 ○仲間の考えを聞いて、考えが明らかになった ○経験、思考 ○実践力 を伴った道徳的判断力のもとに志の高い生き方を求める力 【学びに向かう 力、人間性等】 ○共感的に聞いて受け止める力、心の広さ、人間の器… ○自分の考えは持っている、 受け入れる力、複合的 ○対応力、柔軟性 ○実践力を伴った道徳的判断力のもとに志 の高い生き方を求める力 表6 道徳の時間における資質・能力を想起した後の生徒エピソード 事例1 H教諭(40代 女性、研修主 任) ○Aさん(中2男子) 「先生聞いて。」学習旅行で地下鉄に乗ったとき「すぐ降りるのでどうぞ。」と高齢者 に声をかけたことを報告する男子 ○Bさん(中2男子) 国語の読み取りの際にも道徳の授業で学んだことを思い出して、適切に表現、的確に 考えていた(「それって毒にも薬にもなることでしょ。」節度、節制の授業を想起した 場面) ○Cさん(中2男子) 自分の考えを話すときに自信がなかった生徒、周囲が聴く姿勢をとり続けたことによ り、彼の吃音が減った 事例2 M教諭(40代 女性、道徳教 育推進教師) ○Aさん(中1男子)授業中に立場で悩む 友だちの立場として考えるのと、ロレンゾの立場として考えることが一致しない、一 致しないからどっちの立場で選んだらいいか、僕はわからないって、すごく悩んで… ○Bさん(中1女子)授業中に価値で悩む 友だちとしてなのか、法律を守るという立場で見た方がいいのか、自分の軸をどこに おいていいのか決められなくて、わからない、決められない…4 おわりに
エピソード評価によって、生徒の学びの姿を 評価しようとした場合に、道徳に関わるエピソ ードを拾い上げることができるかどうかは、教 員の能力次第である。その能力とは、生徒に身 に付けさせたい力や育みたい力(資質・能力) をイメージできる能力である。 また、経験年数が多いほどそうした能力が高 いということも本研究から導くことができた。 こうした結果は、今後、道徳教育に関する教 員の職能開発において生かすことができるとと もに、道徳科の授業の質的改善にもつながるも のと考えている。 註 1 たとえば、ダイアン・ハート(2012)田中耕治監 訳『パフォーマンス評価入門―「真性の評価」論 からの提案』ミネルヴァ書房を参照。 2 このような提案は、道徳教育に係る評価等の在り 方に関する専門家会議(2016)に見ることができる。 3 たとえば、田沼茂紀(2016)『「特別の教科道徳」 授業&評価完全ガイド』明治図書出版、永田繁雄 『「道徳科」評価の考え方・進め方(教職研修総合 特集)』教育開発研究所、加藤宣行(2017)『指導 と見取りのポイントが分かる! 子どもに寄り添う道 徳の評価』光文書院、赤堀博行(2018)『道徳の評 価で大切なこと』東洋館出版社など、優れた指南 書がある。 4 紙幅の都合上、本論文では質問2は割愛する。 引用・参考文献 ・道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会 議(2016)「『特別の教科 道徳』の指導方法・評 価等について」(報告) ・林泰成、渡邊真魚(2017)「道徳科の評価方法とし てのエピソード評価」『上越教育大学研究紀要』、第 36巻2号 ・樋口耕一(2014)『社会調査のための計量テキスト 分析』ナカニシヤ出版 (福島県二本松市立渋川小学校) 事例3 O校長(50代 男性、管理職) ○SMさん(中2女子) この子、「少しの我慢」って言ったんだよね。素敵な言葉だと思って。それは、集団 の中で自分が寄り添うために、自分の我が儘だけ言っていたのでは、なりたたないこ とを自覚した瞬間だと思っていて ○MSさん(中3男子) だけど、授業中ものすごく乗ってきて、(授業中)「クラスがこんな冷たい考えをして いるとは思わなかった」そういう発言をした、(中略)、彼はそれを表出した、これも 集団でなければ気づかないんですよ… 事例4 A指導主事 (50代男性、 管理職) ○Hさん(中3女子:保健室にて) (保健室で声をかけたとき)彼女はやればできるから(中略)「あなたが何かやりたい という…それを感じたときに、あとはそれをやればいいのだから、まずは、自分の身 体のこととか、自分の家の中で、つらくならないように…していればいい(中略)と 話したんです。そしたら急にね、ずっと話を聞いていたんだけれど、「私、すごく気 持ちが楽になりました」という言葉を言って(中略)、タイミングと話の中身がマッ チングしたと…A Possibility of the Episode Assessment in Moral Lesson:
In Relation to the Image of “Competency”
WATANABE Mao
【Abstract】
A special subject, “moral lesson,” is considered unsuitable for numerical evaluation. It is not an evaluation of content items (i.e. moral values) nor is an evaluation of learning activities for one-hour lesson. Rather, it is explained as assessment from a broad perspective and the assessment has been started in elementary school. The Course of Study stipulates three pillars in order to foster students’ competency: “knowledge and skills,” “the ability to think, judge, express, etc.,” and “active learning attitude.” These do not apply to moral lesson as a whole, but it is asserted they should be adapted as much as possible. What kind of competency do teachers intend to develop through learning activities in moral lesson? We made a questionnaire for teachers with moral episodes of students and analyzed the data by text mining (an analysis software,“KH Coder”), to clarify these three points.
(1) Teachers have an image of competency they want to cultivate in students, in order to meet the target of moral lesson.
(2) Teachers who have moral episodes of students, image or practice moral values and competency they are planning to foster in students.
(3) Compared among different age groups, the vocabulary of teachers in the 40s to the 50s is larger than that in the 20s to the 30s. The longer they teach, the more likely teachers set goals in class and the more competent they are in finding moral episodes of their students.