J. Chem. Software, Vol. 8, No. 2, p. 61–68 (2002)
多面体学習支援システムの開発
丸山 有紀子*, 細矢 治夫
お茶の水女子大学大学院人間文化研究科, 〒 112-8610 東京都文京区大塚 2-1-1
*e-mail: [email protected]
(Received: October 22, 2001; Accepted for publication: November 14, 2001; Published on Web: March 6, 2002)
World Wide Webで利用できる多面体学習支援システムを開発した。本システムの特徴は、操作が
容易であり、化学や数学など 様々な分野での利用が可能なことである。本稿では、実際の学習におけ る実行例も示した。 キーワード : 学習支援システム, 多面体, WWW, Java
1
研究の背景と目的
多面体、特に高い対称性をもつ正多面体や準正多面 体は、古くから多くの人々の興味を引き付け研究の対 象となってきた [1–6]。自然を認識する際の最も基本 的な概念は、数、大きさ、形、時間である [7] と言わ れているように、正多面体や準正多面体は、分子や結 晶の立体構造、生物の形態など 自然界に多く見られ 、 自然界を理解するためには非常に有効な手段である。 また、建物、デザインなど 人工物にも正多面体、準正 多面体は多く見られ 、建築工学、美学などを学ぶため にも基礎となる重要な概念を含んでいる。 しかし 、小・中・高等学校の教育において多面体は ほとんど 取り上げられていない。多面体が取り上げら れていない理由としては、教科書に描かれた図だけで はイメージがつかみにくく、頭の中で立体図形を操作 することが困難であること。また、実際の模型を利用 した場合でも、構造が複雑な模型では、その組み立て や分解などに時間や手間がかかり充分な理解が得られ ないことがある。 一方、コンピュータグラフィックスの利点は、記憶、 再生、コマ送り、重ね合せ、拡大縮小や回転が容易に 行えることである。学習者は、多面体に対する操作を 段階的に追跡し 、繰り返すことにより図形の構造と図 形同士の関係を正しく認識し 、場合によっては新しい 発見をすることができる。こうして、実際の多面体の イメージを頭の中で精密に描くことができるようにな る。このように多面体の学習において、コンピュータ の利用は非常に有効である。 現在、コンピュータネットワークの発達により、イ ンターネットのさまざ まな技術が教育に利用されてい る [8]。なかでも、World Wide Web( WWW)は、教 材のマルチメディア化および管理・利用の容易さ、教 材に対するインタラクティブな操作など 教育利用に有 効な技術である。本研究では、WWW 上で小・中学生 や高校生だけでなく大学生や教師および研究者が利用 できる多面体の学習支援システムの開発を行った。2
空間図形の学習とコンピュータ
現在、学校教育の中で多面体は空間図形の学習でご くわずかしか扱われていない。そこで、空間図形の学 習とコンピュータの利用について概観する。 コンピュータ上で 3 次元関数や多面体を表示するソ フトとして数式処理ソフト Mathematica[9] があげられ る。Mathematica で多面体を表示するためには、種々 のコマンド の入力等のソフトウェア操作を学習しなけ ればならない。さらに、Mathematica で表示される多 面体は静的なものであり、教科書などに描かれた図を 利用するのと比較した場合、それほどの有効性は見ら れない。LiveGraphics3D[10]は、前述の Mathematica で作成 した図形を Web ページに表示し 、回転や拡大・縮小 が行えるようにするためのアプレットである。LiveG-raphics3Dを利用した授業の実践例も報告されている [11]。このなかで、LiveGraphics3D を利用することに より図形を様々な角度で眺められ座標感覚を養うのに 効果があったという報告があり、空間図形を学習する 際にコンピュータの利用が有効であることが示唆され ている。しかし 、LiveGraphics3D を利用する場合、座 標値の入力が必要となり、その際のコンピュータでの 入力操作の問題点が指摘されている。空間座標のとり 方にも問題があり、多面体や空間座標を理解していな い初学者には向いていない。 立体図形の学習支援を目的として開発されたシステ ムとして、Virtual Solid[12] がある。このソフトは、ス タンド アロンの MS-Windows マシンで稼動し 、主な 機能として、多面体の展開と切断機能が実装されてい る。同じく立体図形の切断を、Web ページ上で学習で きるシステムも研究されている [13]。また、数学の学 習全般を扱った楽能数学 [14] では、立体図形の切断お よび展開の機能に加え平面図形を動かし立体図形を作 成する機能が実装されている。これら立体図形の学習 支援を目的としたシステムは、数学教育での利用を前 提としており、機能が限定されている。 多面体は数学のみならず、他の多くの分野での学習 の基礎となる概念である。従って数学のみに限定せず 他の分野との関わりを考慮したシステムの開発が必要 である。また、システムが学校の授業だけでなく自宅 などさまざ まな環境で利用可能であれば 、学習の内容 も広がることが期待できる。
3
システムの設計
以上の問題点を解決するような多面体学習支援シス テムの開発指針を次のようにまとめた。 1.容易な操作 多面体の表示および表示された多面体に対する操 作が、特別なコマンドを用いることなくマウスを 用いて容易にできること。多面体に関する知識を ほとんど 持たないユーザにも利用可能なこと。 2.数学以外の分野での利用 数学教育のみならず、広く自然科学の基礎概念の 学習にも利用可能なシステムであること。 3. WWWでの利用 WWW上で動作することにより、学校の中だけに 限らず自宅からも同じシステムが利用可能なこと。 また、表示する多面体のデータおよびシステムの プログラムなどの教材管理が容易であること。 以上の開発指針をもとに本システムの仕様および開 発言語を決定した。3.1
仕様
まず、本システムで取り上げる多面体は基本的な図 形であること、自然界で多く見られること、他の多面 体の構成要素となることなどを条件に決定した。本シ ステムの機能としては、多面体の基本概念を学習でき ること、科学において重要な対称性の概念を把握でき ること、空間感覚が養えることを目指した。 3.1.1 表示する多面体の種類 1.正多面体 まず、基本的な空間図形である正多面体をとりあ げる。正多面体は、自然界でも多くみられ 、他の 分野の学習にも有効である。また、対称性も高く 対称性の概念の把握には有効である。 2.準正多面体 準正多面体は、正多面体と同様に空間図形の中で は基本的な図形であり、非常に重要な図形である。 正多面体との関係や多面体の対称性を正しく理解 するためにも、準正多面体は重要な役割を果たす。 3.菱形多面体 菱形多面体は、正多面体から生成することができ、 対称性の高い図形である。また、菱形六面体や菱 形十二面体はそれだけで空間を埋め尽くすことが できるので、空間の感覚を養うには有効な図形で ある。 4.ザルガラー多面体 [15] ザルガラ―多面体とは、すべての面が正多角形で ある凸多面体のことであり、整面凸多面体と称す ることもある [16]。正多面体、準正多面体もザル ガラー多面体に含まれ 、それ以外に 92 種類存在 する。ザルガラー多面体は、分解可能ザルガラー 多面体と分解不可能ザルガラー多面体に分類でき る。前者はすべて後者を組み合わせて作ることが でき、立体図形の基本構成要素と考えられる。分 解不可能ザルガラー多面体は 28 種類あり、そこから正多面体と準正多面体を除くと 17 種類となる。 上記の多面体を特別なコマンドを使用せず容易に表 示できること。また、表示する際には最低限のデータ のみで表示できるようにする。 3.1.2 機能 1.回転、移動、拡大・縮小 これらの機能は、多面体の形状を把握し基本性質 を理解するため、また空間感覚を養うために必須 である。 2.色の変更 多面体を構成する頂点、辺および面の数や関係な どの特徴をより際立たせるために、多面体の各部 分の色を変更し特徴付けることは有効である。 3.面を半透明にする 面を半透明にして多面体を見ることにより多面体 の面の位置関係を確認できる。また、任意の位置 で多面体を切断したときの切断面を表示すること もできる。 4.切断 現在の段階では、面による切断機能しか備えてい ないが 、それでも実際の切断面を表示することに よって他の図形との関係を理解するのに極めて有 効である。 5.複数の多面体の表示 双対や切り出し (角切り、辺心切り等) の関係など 多面体同士の関係を把握するために、また多面体 による空間充填等の空間感覚を養うために有効で ある。 6.多面体以外の幾何学的図形の表示 多面体以外の幾何学的図形としては、点、線分、 平面が必要になる。 3.1.3 多面体に関する情報の表示 多面体についての直感的な見方や考え方を確認し理 解を更に深めるために、各多面体の特徴を文章で表示 する。また、多面体の構造を理論的に考察する基礎を 培うだけでなく、発展的な考察や研究を行うことがで きるように、数値データとして座標値とグラフ理論的 特性量を表示できるようにする。
3.2
開発言語
システムの開発言語としては Java を利用する。Java アプレットは、ネットワーク上の様々なプラットフォー ムで動作し 、簡単で対話的な操作が行なえる。 また 、Java3D が利用できるので 3 次元イメージの 描画が容易であり、描画した 3 次元図形をマウスなど で操作できるなどの利点がある。4
システムの実装
4.1
構成
本システムは、多面体のデータファイルとプログラ ムからなる。 4.1.1 データファイル 本システムでは、データファイルとして各多面体に 3種類のファイル、即ち頂点座標ファイル、特性量ファ イル、特徴ファイルを使用している。頂点座標ファイ ルがあれば 、多面体の イメージを表示することが可 能である。頂点座標ファイルには、頂点の数、各頂点 の次数、隣接する頂点の番号、座標値が入力されてい る。隣接する頂点の番号は、それぞれの頂点に隣接す る頂点のうちいちばん小さな番号の頂点から始めて、 多面体の外側から見て反時計回りになるように並べて ある。特性量ファイルには、非隣接数とトポロジカル インデックス (Z)[17] が入力されている。また、特徴 ファイルには、多面体に関する説明の文が入力されて いる。 ÂP &ÂP14 ÞNÂP1ß 3¡o Figure 1.正四面体の頂点座標ファイルFigure 2.システムの実行画面 Table 1.表 操作ボタンによる機能操作ボタンによる機能 ボタン 表示される説明 機能 図形を追加する 現在表示されている図形をそのまま残して、新しく他 の図形を追加して表示する。 図形を重ねて追加する 現在表示されている図形と重ねて、新しく他の図形を 追加して表示する。 色を塗る 多面体の面および頂点に色を塗る。 半透明にする 多面体の各面を半透明にする。 切る 多面体を指定した 3 つの点を通る面で切る。3 点は面 の中心、辺の中心、任意の点を選択できる。 点と点を結ぶ 表示されている 2 個の点を結んで新しい辺を作る。 面を作る 表示されている複数の点を結んで新しい面を作る。 頂点を表示する 多面体の各頂点上に点を表示する。 面心に点を表示する 多面体の各面の中心に点を表示する。 辺心に点を表示する 多面体の各辺の中心に点を表示する。 図形の重心に点を表示する 多面体の重心に点を表示する。 回転軸を表示する 回転軸を表示する。 対称面を表示する 対称面を表示する。 切断面を表示する 切断面を表示するとともに、多面体の各面を半透明に する。 切断面で図形を分割する 表示されている切断面の位置で多面体を分割する。
4.2
ユーザインタフェース
Figure 2にシステムの実行画面を示す。操作は全て マウスで行える。システムのインタフェースは、ユー ザの入力を制御する操作パネル部と表示部に分かれて いる。表示部のタブをクリックすることにより、表示 内容を変更することができる。表示内容は、多面体の イメージ 、表示されている多面体の座標値、グラフ理 論的特性量と多面体の特徴、多面体に関する説明であ る。操作パネル部には、表示する多面体を選択するボ タンと多面体を操作するためのボタンが表示されてい る。マウスのポインタを操作ボタンに重ねると、それ ぞれの機能の簡単な説明が表示される。各ボタンの説 明を Table 1 に示す。4.3
機能
1.多面体の表示 操作パネルのボタンをクリックし表示されるリス トより多面体の名前を選択するだけで多面体を表 示できる。現在表示できる多面体は、正多面体 5 種類、準正多面体 14 種類、菱形多面体 2 種類、分 解不可能ザルガラ―多面体 17 種類、合計 38 種類 である。また、複数の多面体を同一画面上に表示 することが可能である。 2.多面体に対する操作 表示された多面体は、マウスのド ラッグ操作によ り、回転・移動・拡大・縮小が行える。その他の 操作は、操作パネルのボタンをクリックしおこな う。機能によって、多面体の頂点、辺および面を 選択する必要がある場合は、各部分をマウスでク リックし選択する。操作ボタンによる機能は Table 1に示す通りである。5
実行例
本システムの実行例を以下に示す。5.1
多面体の理解
Figure 3は 、面を色分けした切頭二十面体である。 最初、切頭二十面体は全ての面が黄色で表示されてい る。その後、正五角形の面を一つずつマウスでクリッ クし選択し 、面の色を赤く変更した。その際、選択し た面を数え上げていくことにより、正確に面を数える ことができる。また、正五角形の周りに 5 枚の正六角 形が並んでいる様子もわかり易く表示されており、各 面の配置を確認することもできる。さらに、Figure 4 に 示すように多面体の各面を半透明で表示することによ り、切頭二十面体の一つの正五角形と反対側にある正 五角形の関係を認識することができる。また、容易に 元の状態に戻すことができ、同じ操作を繰り返し行う ことも可能である。多面体の面の数および配置は、そ の多面体を特徴づける重要な性質であるが 、図や模型 では、隠れた面を数え落としたり関係を把握するのは 困難である。しかし 、このようなコンピュータの利用 により同じ操作を容易に繰り返すことが可能となる。 Figure 5では 、立方体に断面を追加して表示した。 断面が六角形になる様子が表示されている。さらに、 操作パネルの分割ボタンをクリックすると多面体が分 割され、その面で実際に切断したときに多面体がどの ような形になるのかを確認することも可能である。 Figure 6では、正十二面体の対称面を表示している。 対称面はマウスの操作により移動および回転が可能で ある。対称面を任意の位置に移動した後、「 対称面の 固定」ボタンをクリックすると、多面体の頂点の位置 に点が表示される。各点をクリックすると、選択され た点より対称面に対して垂直な直線が現れ 、選択され た頂点と対称な位置にある点が表示される。Figure 7 は、正四面体を回転軸の周りに回転させている様子を 示している。回転軸の中心は原点に固定されており、 マウスの操作により原点を中心に回転させることがで きる。任意の位置に回転した後「回転軸の固定」ボタ ンをクリックすると回転軸の色が変化し固定されたこ とを示す。軸を固定した後、マウスの右ボタンを押し て表示された多面体をド ラッグすると、Figure 7 に示 すように重なった多面体のうち一つの多面体のみが回 転軸の周りを回転する。ある角度回転した後 2 つの多 面体が再び重なる様子を観察できる。このように、実 際の操作を通して対称性を調べることにより多面体を より深く理解することが可能である。5.2
空間と多面体
Figure 8では、複数の多面体を同一画面に表示し空 間充填を行っている。黄色で表示された正八面体の周 りに正四面体を追加しマウスで移動させ、実際に自分 で空間を充填することができる。このような操作によ り、空間感覚を取得したり、他の多面体との関係を確 認することが可能である。Figure 3.正五角形に色を塗った切頭二十面体 Figure 5.正六面体の断面図 Figure 7.回転軸の表示 Figure 4.面を半透明にした切頭二十面体 Figure 6.対称面の表示 Figure 8.二種類の多面体による空間充填
Figure 9.立方格子上の種々の点 Figure 10. 立方体と正八面体の関係
5.3
結晶構造の学習への応用
Figure 9は、立方体の頂点と辺の中心および面の中 心に点を表示したものである。頂点の点を赤、面の中 心の点を青、辺の中心の点を白で表示している。この ように、それぞれの点を色分けして表示することによ り、格子上の各点の間の関係が理解しやすくなる。ま た、Figure 10 のように内部に図形を追加することに よりさらに理解が容易になる。化学において、結晶の 構造を学習する際に有効である。6
まとめと今後の課題
本稿では、Web ページ上で利用できる多面体学習支 援システムについて述べた。本システムの特徴は、多 面体を学習する上で基本となる図形を特別なコマンド を必要とせず表示および操作できることである。学習 者は、マウスで多面体をインタラクティブに操作する ことが可能である。さらに 、さまざ まな機能により、 多面体に慣れ親しみ、それらの数学的性質を理解する ことができるであろう。今後は、実際にシステムを利 用し 、システムの有効性の評価および改善を行うこと を考えている。また、様々な分野での学習の際の具体 的な利用も検討、提案していく予定である。参考文献
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Development of a Computer-Aided-Education System of
Polyhedra
Yukiko MARUYAMA* and Haruo HOSOYA
Graduate School of Humanities and Sciences, Ochanomizu University2-1-1, Otsuka,Bunkyo-ku,Tokyo 112-8610, Japan *e-mail: [email protected]
A computer-aided-education system available on the World Wide Web (WWW) for studying polyhedra was developed. The system has the following characteristics: easy operation by the use of a mouse and ample menu icons, and potential transferability for extension and development in various fields, such as mathematics, chemistry, architecture, and industrial design. Suggested examples of the usage of this system are given.