• 検索結果がありません。

スピンを伴う飛翔体に搭載可能なGPS受信機の開発

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "スピンを伴う飛翔体に搭載可能なGPS受信機の開発"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

スピンを伴う飛翔体に搭載可能な

GPS

受信機の開発

GPS Receiver Design for Spin-Stabilized Launch Vehicles

海 老 沼 拓 史2・楠 3・阿 4・齋 5

Takuji Ebinuma, Tomomichi Kusu, Toshio Abe and Hirobumi Saito Key Words : Global Positioning System, Launch Vehicle, Spin Stabilization

Abstract : This paper describes the design and development of a dedicated GPS receiver for spin stabilized launch

vehicles. The receiver is built around a commercially available low cost GPS chip set and operates an enhanced firmware specifically adapted for high dynamics applications. In order to keep tracking a sufficient number of GPS signals even during the spinning motion, we use multiple GPS patch antennas and space them equally apart each other around the cylindrical launcher body. A new signal combining scheme was developed to avoid deep fading in antenna gain pattern. This technique requires phase control to keep signals received on multiple antennas in phase with each other. A dual-antenna GPS receiver was developed to evaluate the proposed signal combining algorithm. The result showed that the proposed algorithm was capable of providing stable and continuous signal tracking under a high-rate spinning motion while simple RF combining through a power combiner was failed.

1. ま え が き ロケットへのGPS受信機の搭載には,飛翔安全や理学観 測,衛星軌道投入の精度向上など,さまざまなメリットが 挙げられる.しかし,ロケットの飛行中に測位を実施する には,ロケットの高ダイナミクスに対応した特殊なGPS受 信機が必要となる.そのため,高ダイナミクス対応のGPS 受信機は高価になり,低価格での打ち上げを想定している 小型ロケットや観測ロケットでは,GPS受信機搭載のハー ドルが高くなってしまっているのが現状である. そこで,本研究では,PC上で動作するオープンソース のGPS受信機ソフトウェアを市販のGPS受信機モジュー ルに移植することで,高ダイナミクス対応のGPS受信機を 開発した.この受信機では,高ダイナミクス環境で問題と なる信号追尾ループの設計など,下位レベルの処理もユー ザーがアクセスできるという利点を持つ.また,測位結果 の出力頻度やフォーマットなど,ユーザーインターフェイ スもミッションに応じて自由に設計できる. 今回開発した高ダイナミクス対応受信機は,JAXA宇宙 科学研究本部の観測ロケットや,小型衛星打ち上げ用の固 体ロケットへの搭載を検討している.これら固体ロケットで は,姿勢安定化のためにスピン飛行を行うことがある.し たがって,ロケット側面に設置されるアンテナは,その方 向を常に変化させることになり,それに伴い受信信号強度 1⃝ 2009 日本航空宇宙学会C 平成 21 年 6 月 9 日原稿受理 2東京海洋大学 3東京大学 4スペースリンク株式会社 5宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部 も短時間で大きく変化することになる.また,ロケットの 全側面をひとつのアンテナでカバーすることはできないた め,複数の受信アンテナを円周方向に設置することとなる. このように,スピンを伴う飛翔体に搭載するGPS受信機 は,高ダイナミクス対応に加えて,スピン中に複数のアン テナによって受信された信号の合成についても考慮する必 要がある. 複数のアンテナで受信された信号の利用において,最も 単純な方法はコンバイナによる合成である.しかし,この 手法ではフェージングにより受信強度が極端に低下する領 域が生じてしまう.その結果,スピン中に受信レベルが断 続的に弱まることになり,信号を連続して追尾できない可 能性がある.本研究では,フェージングによる受信強度の 低下を避けるために,GPS信号の受信にダイバーシティの ひとつである等利得合成方式の応用を試みた. これら信号処理に関係する課題に加えて,ロケット搭載 機器では,ハードウェアの耐環境性能も重要となる.本研 究では,低価格化のために,カーナビなどで利用される市 販のGPS受信機モジュールを利用している.そこで,本 来仮定されていない激しい衝撃と振動に市販品が耐えるこ とができるかどうか,環境試験を実施し確認した. 本稿では,今回開発したスピン対応のロケット用GPS受 信機アルゴリズムの設計に加えて,ターンテーブルやGPS 信号シミュレータを用いた信号追尾実験,および耐環境試 験の結果について報告する. 2. 高ダイナミクス対応受信機 本研究では,ロケットの高ダイナミクスに対応したGPS 受信機の開発に,オープンソースGPS のひとつである

(2)

0 5 10 15 0 5 10 15 Thrust [G] 0 5 10 15 0 5 10 15 Time [min] Position Error [m] 第 1 図 シミュレータによる高ダイナミクス測位実験 GPL-GPSを使用している. オープンソースGPSは,ボーイング社の技術者である

Clifford Kelleyによって公開されているGPL(General Public License)のGPS受信機用組込みソフトウェアであ る1).オープンソースGPSは,信号追尾など下位レベルの 処理にもユーザーが自由にアクセスできることもあり,大 学での研究開発に広く利用されている. その中で,GPL-GPSはオープンソースGPSを市販の GPS受信機へ移植することを目的としたプロジェクトで あり,Zarlink社のGPSベースバンドプロセッサーである GP4020を移植のターゲットとしている2).さらに, GPL-GPSは海老沼らによって,ロケットの高ダイナミクスを考 慮した信号追尾アルゴリズムが追加された3) 高ダイナミクス環境での信号追尾に対応したGPS受信 機の動作を確認するために,Spirent社のGPS信号シミュ レータを用いて試験を行った.GPS信号シミュレータとは, 任意の信号ダイナミクスに対して,受信機のアンテナで受 信される測位信号を模擬したRF信号を生成する装置であ る.第1図に,シミュレータでの実験に用いた加速度プロ ファイルと,高ダイナミクス対応受信機による測位結果を 示す.シミュレーションは3段式固体ロケットであるM-V のダイナミクスを模擬しており,試験開始から5分後に発 射された後,各段の分離・点火に応じて急激に加速度が増 加している.GPS受信機もシミュレーションの開始と同時 に信号検索を始め,約3分後に測位を開始している. この動作試験により,最大加速度12 Gという高ダイナ ミスク環境下であっても,信号追尾を失うことなく,連続 した測位が可能であることが確認された.また,加速度の 急激な変化による測位精度の劣化も見られなかった. 3. 耐 環 境 試 験 本研究では,GP4020を搭載した受信機プラットフォー ムとして,NovAtel社から市販されているSuperStar-II (SSII)受信機を用いている.第2図にSSII受信機の外観 を示す.サイズは71×46 mm と名刺程度であり,重量は 22 gである. 第 2 図 GPS受信機の外観 0.01 0.1 1 100 200 1000 250 340 430 Intensity [G /H z] Frequency [Hz] 0.125 0.08 0.8 1.5 2 80 第 3 図 振動試験の QT レベル GPS受信機をロケットに搭載する際には,受信機ハード ウェアにかかる衝撃と振動を避けることはできない.民生 品であるSSII受信機を本来の仕様とは異なる環境で利用す るにあたり,これら衝撃および振動への耐性を確かめ,場 合によっては物理的な補修を行う必要がある.そこで,本 研究では,M-Vロケットで用いられたQuality Test(QT) レベルを目安に,SSII受信機の耐環境試験を実施した. 3.1 振動試験 振動試験は,JAXA宇宙科学研究本部 の試験設備にて実施した.本試験では,加振中の受信機動 作や測位精度を知るために,屋外に設置したGPSアンテナ のケーブルを施設内に引き込み,振動装置上の受信機に接 続することで振動中も測位を続けた.さらに,加振中の測 位精度を評価するために,GPSアンテナは分配器を通して 振動していない同形の受信機にも接続され,同じGPS信 号を受信している状態で2台同時に測位を実施している. 振動試験は,第3図に示すM-VロケットのQTレベル に合わせて,合計で25.3 Grmsのランダム振動で行った. 振動を与える方向は,受信機の面内2方向と面外1方向の 合計3軸である.加振した3軸のうち,測位結果に最も影 響が大きかったのは面外方向に対する振動であった.その ときの基準周波数の変動と,静止している受信機との測位 結果の差を第4図に示す.受信機基板の中では,水晶発振 器が最も大きく振動の影響を受けると予測されたが,3分 間の加振でも0.06 ppmの変化しか見られなかった.SSII

(3)

-0.81 -0. 8 -0.79 -0.78 -0.77 -0.76 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 Cloc k Dr ift [ppm ] P osition Error [m ] Time [sec] 0 50 100 150 200 250 300 Clock Drift X Y Z Vibration Span 第 4 図 基準周波数の変動と測位誤差 受信機に搭載されている水晶発振器のG sensitivityは,カ タログスペックで2 ppb/Gである.したがって,25.3 G の加振に対して約0.05 ppmの周波数変動が生じることに なり,観測された変動もほぼ仕様通りであると言える. さらに,基準周波数の変化に伴う受信機時刻のオフセッ トは測位演算で補正されるため,静止している受信機との 測位結果の差は1 m程度に納まっている.また,振動試験 中は常に10機程度の衛星を捕捉し続けており,振動を与え ている最中に追尾が外れてしまった衛星は,最大でも1機 だけであった.しかし,この衛星は低仰角で観測されてお り,追尾が外れた原因は振動そのものではなく,信号強度 の低下のためと考えられる. 3.2 衝撃試験 衝撃実験では,叩き台としてステンレ ス製の平板を用い,その上にSSII受信機を固定した.衝撃 を加えるのには杭を打つ大型ハンマーを使用している.ま た,衝撃試験においても,振動試験と同様に屋外に設置し たアンテナに受信機を接続し,試験中も測位を続けている. 第5図にM-VロケットのQTレベルを太線で示す.実験 の結果,QTレベル以下の衝撃であれば信号追尾や測位に 影響がないことが確認された. しかし,試験的に第5図の細線で示されるような過剰な 衝撃を加えた際に,追尾中の信号が失われる現象が観測さ れた.この現象は,1000Hz以上の高周波数領域において 衝撃がQTレベル以上であるときに顕著に観測され,衝撃 に対して5機から10機の衛星信号を一度に失う状況が見 られた. 水晶発振器に機械的な衝撃を与えることで,急激な周波 数ドリフトが発生することが知られている4).本実験による 現象も,衝撃によって水晶発振器の周波数が信号追尾ルー プによる再補足可能な範囲を超えて瞬時に変動したためと 考えられる.衝撃に対して複数の衛星信号を同時に失って いることからも,この現象は各追尾ループに共通である基 準信号源の問題であると推測される. そこで,このような過剰な衝撃への対策として,緩和用 のブラケットを受信機と固定面の間に挿入することにした. ブラケットを挿入した状態で過剰な衝撃試験を実施した際 10 100 1000 100 1000 Frequency [Hz] exceeding QT level Controlled impact with dumping bracket G M-V QT Level 第 5 図 衝撃試験の QT レベル に,受信機筐体において観測された衝撃を第5図の破線で 示す.この結果より,ブラケットを挿入することで,問題 とされていた1000 Hz以上の衝撃が効果的に緩和されてい ることが確認された.また,ブラケットを装備した状態で は,高周波数領域においてQTレベルを越える衝撃を加え ても,追尾中の衛星を失うことは一切なかった. 4. スピン安定飛行への対応 飛翔体へのGPS受信機搭載において,高ダイナミスク への対応に加えて問題となるのが,機軸まわりのスピンで ある.固体ロケットや小型ロケットでは,数Hz程度で機 軸まわりに回転するスピン安定飛行を行う場合がある. GPS衛星からの測位信号を受信するアンテナは天頂方向 を向いていることが望ましい.しかし,ロケットの天頂方 向,つまり先端部にはペイロードが搭載されており,途中 フェアリングが開頭するなどアンテナの設置は難しい.ま た,大気摩擦により高温となるため,アンテナを設置する のに適した環境とは言えない.海外での研究5, 6)では,小 型ロケットの先端部にアンテナを設置した例が見られるが, 本研究ではアンテナをロケット側面に設置することを想定 している. スピン安定飛行では,ロケットが機軸まわりに回転する ため,ロケット側面のアンテナは,そのビーム方向を常に 変化させることとなる.そのため,受信信号強度も短時間 で大きく変化することになり,場合によっては追尾信号を 失うこともある.さらに,ロケット側面にアンテナを設置 した場合,1個のアンテナでは全天をカバーできず,充分 な可視衛星数を確保できない.そのため,2個以上のアン テナを搭載し,それらで受信した信号を何らかの形で合成 する必要がある. このように,スピンを伴う飛しょう体に搭載するGPS受 信機は,高ダイナミクス対応に加えて,スピン中に複数の アンテナによって受信された信号の合成についても考慮す る必要がある.最も簡単な複数信号の合成方法として,コ ンバイナによるRF(Radio Frequency)信号の合成が挙 げられる.しかし,コンバイナによる合成は,その実施が

(4)

−30 −20 −10 0 10 30 210 60 240 90 270 120 300 150 330 180 0 第 6 図 パッチアンテナ単体のゲインパターン −30 −20 −10 0 10 30 210 60 240 90 270 120 300 150 330 180 0 50 cm dia 200 cm dia 第 7 図 直径の異なるロケットでの 2 アンテナ合成 簡単な反面,各アンテナからの信号の位相が180度反転し ていた場合,お互いに打ち消しあって信号強度が著しく低 下するフェージングが発生してしまう. 本研究では,RF信号の合成によって得られるアンテナ ゲインパターンを検討するため,Ansoft HFSSによって数 値解析を実施した.今回の解析に用いたパッチアンテナ単 体のゲインパターンを第6図に示す.ここで,アンテナの グランドは12 cm×12 cmの平板を仮定している.このよ うなパッチアンテナを円周方向に180度離して設置し,コ ンバイナによって合成した場合のアンテナゲインパターン を第7図に示す.ここでは,アンテナを設置するロケット を直径50 cmおよび200 cmのアルミ円柱で模擬している. 図中,±90度付近でフェージングが発生し,信号強度が低 下していることが見てとれる. さらに,ロケットがスピンすることで,アンテナを設置 している円周方向に定期的にフェージングによる信号強度 の低下が生じることになる.そのため,受信信号が定期的 に瞬断することになり,GPS信号の連続した追尾が困難に なると考えられる.特にロケットの直径が200 cmのケー スでは,信号強度の低下する頻度が増加しており,信号追 第 8 図 ターンテーブルによるスピン実験 尾に失敗する可能性も増大することになる. 一方,ロケットの外径が小さい50 cmのケースでは,信 号強度が急激に低下するのは±90度の1カ所のみである. 信号追尾ループであるFLL内部には,搬送波のダイナミク スが保持されているため,受信信号の瞬断の頻度が少なけ れば,信号の再補足が短時間で可能である.その結果,ス ピン中であっても,あたかも連続して信号を追尾している 状態が維持されると予想される. そこで,ターゲットとしているロケットのうち,小型で あるS-520観測ロケット(外径520 mm)を模擬したアル ミパイプをターンテーブル上に設置し,RF合成によるス ピン中の信号追尾を試みた.その様子を第8図に示す.こ の実験では,GPS受信機用のパッチアンテナを180度離し て2個設置し,その信号をコンバイナで合成した後,SSII 受信機に入力している. 実験結果の一例を第9図に示す.観測ロケットのモデル は,まず発射台に固定されている状態を仮定し,静止状態 で測位を開始する.その後,約2 Hzの回転を与え,スピン による測位結果への影響を観測した.図中,上図がロケッ トの回転数であり,下図が測位誤差である.実験中,受信機 は5 Hzの更新レートで測位演算を維持しており,一度も測 位結果が失われることはなかった.また,回転数による顕 著な測位精度の変動も見られなかった.これにより,S-520 観測ロケットのような小径のロケットであれば,スピン中 であっても,コンバイナによるRF信号の合成だけで測位 を維持できることが確認できた. 5. 等利得合成方式の応用 現在開発を検討している小型衛星打ち上げ用の固体ロケッ トはその直径が2 m以上となり,2個のアンテナだけでは 全方位を充分にカバーできなくなる.さらに,第7図に示 されるように,フェージングが発生する頻度も増大するこ とになり,コンバイナを用いたRF信号の合成ではスピン 安定飛行中の連続測位に対応できないと考えられる. 複数のアンテナで受信したRF信号について,電波状況

(5)

0 2 4 6 8 0 1 2 Spin Rate [Hz] 0 2 4 6 8 0 5 10 15 Time [min] Position Error [m] 第 9 図 RF信号合成によるスピン中の測位 F r o n t e n d C o d e R e p l i c a R e p l i c aC a r r i e r C o r r e l a t i o n V e c t o r D i g i t i z e d I F S i g n a l 第 10 図 GPS信号処理の概要 の優れた信号を優先的に選択する技術,または受信した信 号を合成し信号強度を改善する技術を,一般にダイバーシ ティと呼ぶ.ダイバーシティには多くの方式が存在するが, フェージングの軽減を目的とした方式のひとつとして等利 得合成方式が挙げられる.これは,複数のアンテナで受信 された信号の位相を揃えて合成する方式であり,フェージ ングの軽減だけではなく受信強度を改善することもできる. ダイバーシティは,携帯電話などフェージングによる影 響を受けやすい移動体通信で広く利用されているが,飛翔 体など高ダイナミクスな移動体における衛星測位への応用 例は見られない.本研究では,等利得合成方式を複数アン テナによるGPS信号の受信に応用することで,スピン安 定飛行中のロケットにおける安定した信号追尾を実現する. 5.1 GPS信号の等利得合成 第10図に,GPS受信 機における信号処理の概要を示す.アンテナで受信された GPS信号は,フロントエンドにより中間周波数(IF: In-termediate Frequency)までダウンコンバートされた後, デジタル化される.GPS信号は,CDMA(Code Division Multiple Access)方式による多重放送のため,スペクトラ ム拡散されている7).そのため,まずデジタル化されたIF 信号は,拡散コードと搬送波のレプリカ信号との相関処理 により逆拡散しなければならない. 相関処理後の信号は,複素ベクトルとして次式で表される. S =√P exp (jϕ) R (∆τ, ∆f ) ( 1 ) ここで,P は信号強度,ϕは受信信号とレプリカ信号との 搬送波位相差である.また,Rは信号間の相関値を示すス カラー関数であり,∆τはコード位相差,∆fは搬送波周波 F r o n t e n d C o d e R e p l i c a R e p l i c aC a r r i e r F r o n t e n d A n t e n n a 2 S 2 第 11 図 デュアルアンテナ GPS 受信機の構成 数の差である.Rの値は∆τ∆fが共にゼロであるとき 最大値となる.GPS受信機における信号追尾では,Rの値 が常に最大となるよう,DLL(Delay Lock Loop)によっ

て拡散コードレプリカ,FLLによって搬送波レプリカの生 成を行う. 第10図はアンテナがひとつの場合であるが,ロケットへ の応用のために2アンテナに拡張したケースを第11図に 示す.アンテナの増加に応じてフロントエンドが新たに追 加されているが,IF信号とミキシングされるレプリカ信号 は,アンテナ間で共通である.この構成は,アンテナの数 が2つ以上になっても同様であるため,ここでは2アンテ ナでの信号合成について説明する. (1)式において,Rがその最大値で正規化されているもの とする.このとき,GPS信号が追尾されている状態,つま り∆τ∆fが共にゼロであるとき,アンテナ1およびア ンテナ2で受信された信号の相関ベクトルS1,S2は,そ れぞれ次式で表される. Si= √ Piexp (jϕi) , i = 1, 2 ( 2 ) これらベクトルの和を取ることは,コンバイナによるRF 信号の合成と等価である.等利得合成では,フェージング の発生を低減するために,それぞれの相関ベクトルを回転 させ位相を揃えてから合成を行う.各ベクトルの位相回転 量は,信号強度のより大きな相関ベクトルの位相に近くな るように,重み付けして決定される.本手法において,合 成後の相関ベクトルS˜は,次式で表される. ˜ S =(√P1+ √ P2 ) exp ( j ˜ϕ ) ( 3 ) ここで,ϕ˜は合成後の位相であり,次式で示す重み付け演 算から求められる. ˜ ϕ = P1ϕ1+ P2ϕ2 P1+ P2 ( 4 ) 本手法は,アンテナの数が2個以上であっても同様に適 応することができる.N個のアンテナで観測された信号を 合成して得られる相関ベクトルは,次式で表される. ˜ S = ( Ni=1Pi ) exp ( j ˜ϕ ) ( 5 )

(6)

A N T 1 A N T 2 A N T 1 A N T 2 G P S S i g n a l G P S S i g n a l 第 12 図 シミュレーションシナリオの概要 ここで,合成後の位相ϕ˜は,次式から求められる. ˜ ϕ = Ni=1 Piϕi Ni=1 Pi ( 6 ) ロケット用のアンテナとして,胴体に巻きつけるラップ アラウンド型のマイクロストリップアンテナも広く利用さ れているが,搭載するロケットの外径に合わせた専用のア ンテナとなるため高価である.本手法による信号合成では, 専用のアンテナを製作することなく,汎用のパッチアンテ ナを利用することが可能である.また,複数のアンテナを 等間隔に設置する必要もないため,円筒形状に限らず様々 な形状のプラットフォームに応用可能である. 5.2 動作試験 本研究で提案する等利得合成による GPS信号追尾の性能を確認するために,2アンテナ出力 を持つGPS信号シミュレータであるSpirent GSS7700を 使用して動作試験を実施した.シミュレーションでは,直 径2 mのロケットに120度間隔で3つのアンテナを設置 することを想定し,それを軸周りに3 Hzの周期で±60度 振動させている.シミュレーションシナリオの概要を第12 図に示す.これにより,両方のアンテナで信号が観測され る場合と,どちらか一方で観測される場合が,スピンによ り高速に切り替わる状況を模擬している. 第7図と同様に,3つのアンテナを直径200 cmのアル ミ円筒に120度間隔で設置した際のRF合成によるアンテ ナゲインパターンを,HFSSによって解析した結果を第13 図に示す.これより,フェージングによって信号強度が急 激に低下する箇所がさらに増大していることが確認できる. さらに,それ以外の領域であってもアンテナゲインにリッ プルが生じて,常に信号強度が変化している.このように, 3アンテナによるRF信号の合成では,安定した信号追尾 は困難であると予測される. 信号追尾の動作を確認するためには,受信機内部での相 関処理を可視化し,モニタする必要がある.また,信号追尾 ループのパラメータ設定や,信号合成手法の比較など,同 じ信号を異なる設定で繰り返し処理できることが好ましい. そこで,今回の動作試験では,2つのフロントエンドで同 時にサンプリングされたIF信号を高速デジタルインター フェイスを用いてPCに取り込み,保存されたデータを著 −30 −20 −10 0 10 30 210 60 240 90 270 120 300 150 330 180 0 第 13 図 3アンテナ合成のゲインパターン 0 1 2 3 4 5 0 5 10 15 20 25 30 Time [sec] SNR [dB] ANT1 ANT2 ADD EGC 第 14 図 GPS信号シミュレータを用いた信号合成実験 者らが作成したソフトウェアGPS受信機8)により後処理 することで,受信機内部での信号処理を確認している. 第14図に,動作試験を結果を示す.ここでは,信号を追 尾できているかどうかを,信号強度を観測することで判断 している.(1)式より,受信信号の搬送波周波数とコード 位相が正常に追尾できていれば,信号強度は最大値となる. しかし,どちらか一方の追尾が失われると,相関値はほぼ ゼロになり,信号強度はノイズフロア以下となる. 第14図において,GPS信号シミュレータによって生成さ れたアンテナ1およびアンテナ2の信号強度を,それぞれ ANT1,ANT2で示している.信号強度は3 Hzで周期的に 変動しており,ANT1の信号強度が最大のときにはANT2 の信号強度が最小に,ANT2の信号強度が最大のときには ANT1の信号強度が最小になっている. これら2つの信号から得られる相関ベクトルを単純に加 えることで,コンバイナによるRF信号の合成を模擬した 結果をADDで示す.フェージングによる信号強度の急激 な低下が2カ所確認できるが,いずれのケースも信号が瞬 断しただけであり,信号を再補足し信号強度が正常な値に 戻っている.しかし,約2秒の時点で再び信号強度が低下

(7)

は,プラットフォームの振動周期に応じて信号強度に±1 dB 程度の変動が生じるものの,その平均値はほぼ25 dBで安 定して信号追尾を続けており,フェージングによる信号強 度の低下は見られない.また,等利得合成はフェージング の軽減だけではなく受信強度も改善しており,コンバイナ による合成より高いSNRを示している. 本実験結果より,コンバイナを用いた単純なRF信号の 合成では追尾できないGPS信号であっても,等利得合成 を応用した提案手法であれば安定した信号追尾を維持でき ることが確認できた. 6. む す び 本研究では,市販のGPS受信機モジュールにオープン ソースGPSを移植することで,安価なロケット用GPS受 信機を実現した.このGPS受信機は,JAXA宇宙科学研 究本部の観測ロケットや現在開発が検討されている小型衛 星打ち上げ用の固体ロケットなど,小型から中型のロケッ トへ搭載することを目的としている.これらロケットが飛 翔する際の高ダイナミスクな環境においても,連続した測 位結果が得られるよう,信号追尾ループなどの最適化が図 られている.GPS信号シミュレータを用いた実験では,最 大加速度が12 GにもなるM-Vロケットの加速度プロファ イルに対して,信号追尾を維持し,急激な加速にかかわり なく安定した測位結果が得られることが確認できた. 受信機ハードウェアの耐環境試験では,ターゲットとし ているNovAtel社製SSII受信機基板の振動および衝撃に 対する物理的性能を調査した.振動試験では,加振中に受 信機に搭載されている水晶発振器の周波数に変動が見られ たが,測位結果には影響なく,静止状態と同等の測位精度 が得られた.衝撃試験では,受信機基板の固有振動数付近 の衝撃に対して,追尾中の衛星信号を失うなどの脆弱性が 見られた.しかし,この問題は,衝撃緩和のためのブラケッ トの挿入により解決された.これら耐環境試験結果より,当 該受信機がロケットへの搭載に充分な性能を持つことを確 認した. さらに,スピン安定飛行を行う小型ロケットに対し,ロ ケット側面に配置された複数アンテナによる受信信号の合 成について検討した.比較的小径な観測ロケットを模擬した 実験では,コンバイナを用いたRF信号の合成であっても, フェージングの影響は少なく,2 Hz程度のスピン中であっ ても測位を持続できることが確認された.これは,フェー ジングによる瞬間的な信号強度の低下の頻度が少なければ, 短時間で信号が再補足され,あたかも連続して信号を追尾 している状態が維持されると考えられる.しかし,これは そこで,本研究では,アンテナダイバーシティのひとつ である等利得合成手法をGPS受信機に応用することで,複 数アンテナによる信号受信におけるフェージングの低減を 試みた.GPS信号シミュレータによる動作試験では,単純 なRF信号の合成ではフェージングにより信号追尾を失っ てしまう場合であっても,等利得合成を応用した提案手法 であれば安定した信号追尾を維持できることが確認できた. 本手法は,信号の合成をすべてデジタル信号処理で実現 しているため,高ダイナミクス対応のため開発した受信機 ファームウェアへの追加が容易である.また,フロントエ ンド部に特殊なRF回路は不要であり,市販のGPS受信 機用フロントエンドICを使用することができる.現在,高 ダイナミクスとスピン安定飛行に対応したロケット用GPS 受信機として,最大4アンテナによる信号合成を行うマル チアンテナ受信機を製作中である. なお,本研究はJAXA宇宙オープンラボにおける技術 提案型案件「オープンソースGPSRの開発」の助成を受け たものである.また,本研究を進めるにあたり信号合成法 について有益な助言と議論をいただきました富田秀穂氏と, アンテナゲインパターンの解析にご協力いただいた千葉大 学マイクロ波リモートセンシング研究室に感謝いたします. 参 考 文 献

1) Kelley, C.: OpenSource GPS Open Source Software for Learning about GPS, Proceedings of ION GNSS 2005, pp. 2800–2810.

2) Greenberg, A. and Ebinuma, T.: Open Source Software for Commercial Off-the-Shelf GPS Receivers, Proceedings of ION GNSS 2005, pp. 2820–2829. 3) 海老沼拓史,中須賀真一:オープンソース GPS を用いた小型宇宙 機用 GPS 受信機の開発,日本航空宇宙学会論文集,54 (2006), pp. 542–548. 4) 守屋朝子,森崎浩武,田中直浩,高橋吉郎,中澤光男:水晶発振 器の耐衝撃特性について,電子情報通信学会技術研究報告,電子 部品・材料,101, 395 (2001),pp. 17–19.

5) Markgraf, M., Montenbruck, O., Hassenpflug, F., Turner, P. and Bull, B.: A Low Cost GPS System for Real-Time Track-ing of SoundTrack-ing Rockets, 15th ESA Symposium on European Rocket and Balloon Programmes and Related Research, ESA SP-471, 2001, pp. 495–502.

6) Enderle, W., Arbinger, C., Junqueira, C. and Milani, P. G.: A Simple and Low Cost Two-Antennas Concept for the Tracking of a Sounding Rocket Trajectory Using GPS, Pro-ceeding of ION GPS 2000, pp. 376–383.

7) Misra, P. and Enge, P.: Global Positioning System – Signals, Measurements, and Performance, Ganga-Jamuna Press, MA, 2001.

8) 海 老 沼 拓 史, 近 藤 俊 一 郎, 張 岩, 安 田 明 生: ソ フ ト ウェア GPS/Galileo受信機の製作と評価, 日本航海学会論文集, 118 (2008), pp. 213–220.

参照

関連したドキュメント

Cycle premodules are roughly said functors on elds which have transfer, are modules over Milnor's K -theory, are equipped with residue maps for discrete valuations and satisfy

Simulation results show that errors related to GPS measurement are the main error sources for the spatial baseline determination, and carrier phase noise of GPS observation and

The objectives of this paper are organized primarily as follows: (1) a literature review of the relevant learning curves is discussed because they have been used extensively in the

Zaslavski, Generic existence of solutions of minimization problems with an increas- ing cost function, to appear in Nonlinear

In [10, 12], it was established the generic existence of solutions of problem (1.2) for certain classes of increasing lower semicontinuous functions f.. Note that the

The dimension d will allow us in the next sections to consider two different solutions of an ordinary differential equation as a function on R 2 with a combined expansion.. The

In Section 3 using the method of level sets, we show integral inequalities comparing some weighted Sobolev norm of a function with a corresponding norm of its symmetric

システムの許容範囲を超えた気海象 許容範囲内外の判定システム システムの不具合による自動運航の継続不可 システムの予備の搭載 船陸間通信の信頼性低下