国語教育における「想像力」と「イメージ」に関する一考察
川嶋 ひとみ 1.はじめに 平成 30 年に告示された高等学校学習指導要領は、PISA2015(平成 27 年実施) において読解力が有意に低下したことや、高等学校では教材への依存度が高く主体 的な言語活動が軽視されているといった課題を踏まえて改訂された。それに伴い、 「現代の国語」「言語文化」「論理国語」「文学国語」「国語表現」「古典探求」の6科 目編成となり、「現代の国語」と「言語文化」の2科目が共通必履修科目として置か れた。「現代の国語」は実社会における国語による諸活動に必要な資質・能力を育成 する科目として、「言語文化」は上代から近現代に受け継がれてきた我が国の言語文 化への理解を深める科目として設定されている。21 世紀は知識基盤社会の時代で あり、子どもたちは複雑で予測困難な社会を生きていかなくてはならない。人々の 知的活動や創造力が最大の資源である我が国において、国語で理解し表現する資 質・能力を身につけていくことは必要不可欠である。1 こうした教科の役割、性格に基づいて立てられた国語科の目標は以下の通りであ る。 (1)生涯にわたる社会生活に必要な国語について、その特質を理解し適切に使 うことができる。 (2)生涯にわたる社会生活における他者との関わりの中で伝え合う力を高め、 思考力や想像力を伸ばす。 (3)言葉のもつ価値への認識を深めるとともに、言語感覚を磨き、我が国の言 語文化の担い手としての自覚をもち、生涯にわたり国語を尊重してその能 力の向上を図る態度を養う。 このうち、(2)では「思考力や想像力」という言葉が出てくるが、これは現行の 学習指導要領の中にも登場する言葉であり、我が国の国語科で育成すべき能力とし て高い価値が置かれていることがわかる。 本論では、このうち「想像力」について現行の学習指導要領ではどのように扱わ れているのか、また、国語科において想像力を育成していくことを目指すのであれ ばそれがどのような働きをする力であるのか、想像力を働かせることで子どもにと って何がもたらされるのかを明らかにすることを目指す。 以上を踏まえて、本論では国語科における「想像(力)」や「イメージ」について の考察・検討を行う。 1 文部科学省(2019)高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説(p.21)2.学習指導要領に見られる「想像力」の整理 2004 年、文化審議会は「これからの時代に求められる国語力について」という答 申をした。これは当時の文部科学大臣の諮問に応えたものであったが、その諮問の 内容は、21 世紀を迎え国際化・情報化の進展や価値観の多様化などにより社会が急 速に変化する中で、各人が変化に対応し主体的に生きる力を持つために、論理的思 考力や創造力を身に付けたり、伝統的な文化を理解したりすることの重要性を強調 するものであった。2 それに対し答申は、「Ⅱこれからの時代に求められる国語力を身に付けるための 方策について」の「学校における国語教育」においてあらゆる知的活動の基盤とな る国語力の基礎を養うことの重要性を強調し、国語力の中核として「考える力」「感 じる力」「想像する力」「表す力」の四つをあげ、「聞く」「話す」「読む」「書く」は その具体的言語活動として発現した物であって、先の「考える力」などの四つの能 力を伸ばすことが必要だとしている。3 そして、それを受け改訂された現行の平成20、21 年学習指導要領において、小・ 中学校および高等学校の国語科の目標は以下の通りである。 小学校 国語を適切に表現し正確に理解する能力を育成し、伝え合う力を高めるととも に、思考力や想像力及び言語感覚を養い、国語に対する関心を深め国語を尊重す る態度を育てる。 中学校 国語を適切に表現し正確に理解する能力を育成し、伝え合う力を高めるととも に、思考力や想像力を養い言語感覚を豊かにし、国語に対する認識を深め国語を 尊重する態度を育てる。 高等学校 国語を適切に表現し的確に理解する能力を育成し、伝え合う力を高めるととも に、思考力や想像力を伸ばし、心情を豊かにし、言語感覚を磨き、言語文化に対 する関心を深め、国語を尊重してその向上を図る態度を育てる。 【表1 平成 20・21 年度版の国語科の目標(下線部は論者による。)】 「高等学校学習指導要領解説 国語編(平成 22 年)」によると、「思考力」とは 「言語を手掛かりとしながら物事を筋道立てて考える能力」(p.10)のことであり、 思考力を伸ばすとは高等学校においては「物事の筋道が分かるという段階からさら に進んで、問題を解決しようとする創造的かつ論理的な思考力を身に付けることで ある。」(p.10)また、「想像力」とは「物事を心に思い浮かべたり、推し量ったり、 2 文化審議会答申(2004)「これからの時代に求められる国語力について」 3 2 に同じ。 (p.15)
予測したりする能力」(p.10)のことであり、「想像力を伸ばす」とは「実際には見 たり経験したりしていない事柄などを頭の中に思い描く段階から更に進んで、様々 な資料を基に、これから起こるであろうことやどのように行動すればよいのかとい うことを思い描くなど、将来の状況やあるべき姿を予測したり、見通しをもって行 動したりすることの能力」(p.10)の育成も含むとしている。 現行の学習指導要領の目標を見る限り、小学校から高等学校まで、一貫して思考 力や想像力を育成することに高い価値を置いていることがわかる。それでは、それ らの育成はどのように捉えられているのか、学習指導要領中に見られる「想像」「想 像力」という語に着目することにする。 現行の小学校学習指導要領の想像することに関わる指導事項と言語活動例は、以 下のようになっている。 「B 書くこと」の指導事項 「B 書くこと」の言語活動例 第 1 学年 及 び 第 2 学年 ア)経験したことや想像したことなど から書くことを決め、書こうとする題 材に必要な事柄を集めること。 ア)想像したことなどを文章に書くこと。 第 3 学年 及 び 第 4 学年 ア)身近なこと、想像したことなどを基に、 詩をつくったり、物語を書いたりすること。 第 5 学年 及 び 第 6 学年 ア)経験したこと、想像したことなどを基に、 詩や短歌、俳句をつくったり、物語や随筆な どを書いたりすること。 【表2 平成 20 年小学校学習指導要領国語「B 書くこと」から抜粋(下線部は論 者による。)】 「C 読むこと」の指導事項 「C 読むこと」の言語活動例 第 1 学年 及 び 第 2 学年 ウ)場面の様子について、登場人物の 行動を中心に想像を広げながら読む こと。 ア)本や文章を楽しんだり、想像を広げたり しながら読むこと。 第 3 学年 及 び 第 4 学年 ウ)場面の移り変わりに注意しなが ら、登場人物の性格や気持ちの変化、 情景などについて、叙述を基に想像し て読むこと。
第 5 学年 及 び 第 6 学年 【表3 平成 20 年小学校学習指導要領国語「C 読むこと」から抜粋(下線部は論 者による。)】 表2,表 3 に表したように、小学校においては想像したことを書いたり、想像し て読んだりする指導が求められていることがわかる。 これらを受けて,秦(2014)は小学校学習指導要領における「想像(力)」の特徴 を、次のようにまとめている。 ① 主として文学教材の内容を対象としている。 ② 視覚的な物だけでなく,心情や性格などの不可視なものも対象としている。 ③ 教育観が欠落している。 ④ 段階的な発達観が曖昧である。(p.58) それぞれについて、①については,想像の対象のほとんどが文学教材の内容のう ち場面の様子や情景、登場人物の性格や気持ちとなっており、説明的文章はその対 象となっていない。②については,場面や人物の行動といった視覚化できるものに 限らず、人物の心情や性格など不可視なものも含まれる。③については、現行の学 習指導要領のように、「想像力」を育成すべきものと掲げても、「話すこと、聞くこ と」「書くこと」「読むこと」といった顕在レベルの言語活動に付随する形でしか捉 えられず、「想像」の力そのものを育てることは度外視されている。そして、④につ いては③に連動しており、「想像力」の発達段階についての言及が学習指導要領中に ほぼ見られないことを挙げ、六年間を通した「想像力」の発達をどのように捉えら れているのか見いだすことが難しいとしている。(p.59)また、秦は高学年になると 「想像」の文字が消え、「思い描く」「味わう」「とらえる」といった言葉に替えられ ていることから、「平成20 年度版『学習指導要領解説国語編』に、低学年の児童の 特性として「自由に空想や想像の世界を膨らますことができる」とあったことを併 せて考えると、「想像(力)」は高学年に向かうに従って弱まっていくもの、あるい は別の力に変容を遂げるものという見方を、そこに窺うことができるのではないだ ろうか。」(p.59)と指摘する。 こうした秦の指摘にもあるように、現行の学習指導要領においては小・中学校お よび高等学校の国語科の目標において、想像力の育成が掲げられているにもかかわ らず、想像力そのものの育成を図る指導や、想像力の発達については明記されてい ないという現状がある。
次に、現行の高等学校学習指導要領の「国語総合」と「現代文B」の指導事項と 言語活動について整理する。 文部科学省の調査によると、普通科における科目の開設状況は以下の通りとなっ ている。 1年次 2年次 3年次 単位制 国語総合 94.9% 3.0% 2.2% 5.6% 現代文 A 0.0% 4.6% 5.2% 1.2% 現代文 B 0.0% 89.1% 90.8% 5.6% 【表 4 文部科学省「平成 27 年度公立高等学校における教育課程の編成・実施状 況調査の結果について」から抜粋】 この結果に基づいて、高等学校では「国語総合」「現代文 B」の授業において文学 作品を扱っていることが最も多いことを想定して、先に挙げた表 2 および表 3 と、 高等学校における指導事項及び言語活動例を比較する。 国語総合「B 書くこと」における指導事項 国語総合「B 書くこと」における言語活動例 ア)相手や目的に応じて題材を選び、文章の形 態や文体、語句などを工夫して書くこと。 ア)情景や心情の描写を取り入れて、詩歌をつ くったり随筆などを書いたりすること。 イ)論理の構成や展開を工夫し、論拠に基づい て自分の考えを文章にまとめること。 イ)出典を明示して文章や図表などを引用し、 説明や意見などを書くこと。 ウ)対象を的確に説明したり描写したりするな ど、適切な表現の仕方を考えて書くこと。 ウ)相手や目的に応じた語句を用い、手紙や通 知など書くこと。 エ)優れた表現に接してその条件を考えたり、 書いた文章について自己評価や相互評価を行 ったりして、自分の表現に役立てるとともに、 ものの見方、感じ方、考え方を豊かにすること。 【表 5 平成 21 年版高等学校学習指導要領国語「国語総合 B 書くこと」(下線 部は筆者による。)】 国語総合「C 読むこと」における指導事項 国語総合「C 読むこと」における言語活動例 ア)文章の内容や形態に応じた表現の特色に注 意して読むこと。 ア)文章を読んで脚本にしたり、古典を現代の 物語に置き換えたりすること。 イ)文章の内容を叙述に即して的確に読み取っ イ)文字、音声、画像などのメディアによって
たり、必要に応じて要約や詳述をしたりするこ と。 表現された情報を、課題に応じて読み取り、取 捨選択してまとめること。 ウ)文章に描かれた人物、情景、心情などを表 現に即して読み味わうこと。 ウ)現代の社会生活で必要とされている実用的 な文章を読んで内容を理解し、自分の考えをも って話し合うこと。 エ)文章の構成や展開を確かめ、内容や表現の 仕方について評価したり、書き手の意図をとら えたりすること。 エ)様々な文章を読み比べ、内容や表現の仕方 について、感想を述べたり批評する文章を書い たりすること。 オ)幅広く本や文章を読み、情報を得て用いた り、ものの見方、感じ方、考え方を豊かにした りすること。 【表 6 平成 21 年版高等学校学習指導要領国語「国語総合 C 読むこと」(下線 部は筆者による。)】 「現代文 B」における指導事項 「現代文 B」における言語活動例 ア)文章を読んで、構成、展開、要旨などを的 確にとらえ、その論理性を評価すること。 ア)文学的な文章を読んで、人物の生き方やそ の表現の仕方などについて話し合うこと。 イ)文章を読んで、書き手の意図や、人物、情 景、心情の描写などを的確にとらえ、表現を味 わうこと。 イ)論理的な文章を読んで、書き手の考えやそ の展開の仕方などについて意見を書くこと。 ウ)文章を読んで批評することを通して、人間、 社会、自然などについて自分の考えを深めたり 発展させたりすること。 ウ)伝えたい情報を表現するためのメディアと しての文字、音声、画像などの特色をとらえて、 目的に応じた表現の仕方を考えたり創作的な 活動を行ったりすること。 エ)目的や課題に応じて、収集した様々な情報 を分析、整理して資料を作成し、自分の考えを 効果的に表現すること。 エ)文章を読んで関心をもった事柄などについ て課題を設定し、様々な資料を調べ、その成果 をまとめて発表したり報告書や論文集などに 編集したりすること。 オ)語句の意味、用法を的確に理解し、語彙を 豊かにするとともに、文体や修辞などの表現上 の特色をとらえ、自分の表現や推敲に役立てる こと。 【表 7 平成 21 年版高等学校学習指導要領国語「現代文 B」(下線部は筆者によ る。)】
以上の表5から表7に示されるように、高等学校においても創作的な活動を行う 言語活動例はあるものの、いずれの指導事項も、小学校学習指導要領にはあった「想 像(力)」の語は消え、文章を読み「表現を味わう」や「自分の考えを深める」など といった表現になっている。このことから、秦が小学校学習指導要領において、想 像力そのものの育成を図る指導や,想像力の発達については明記されていないとい う指摘は高等学校においても同様のことが言えると考えられる。 3.ヴィゴツキーの創造的な想像力 2 章において、現行の学習指導要領では想像力の育成が求められているものの、 それをいかに育成していくのかが明記されていないということが指摘された。想像 力を育成することの重要性について、3 章ではヴィゴツキーの視点から考えたい。 ヴィゴツキー(2002)は、人間の創造活動について二つあるといい、一つは記憶 と結びついて行われる再現的あるいは再生的な活動、もう一つは見たことの無いよ うな新しいイメージや行動を算出する、複合化あるいは創造する活動の二つがある としている。(p.8-10)ヴィゴツキーのいう想像力とは、「あらゆる創造活動の基礎 として文化活動のありとあらゆる面にいつも姿を現わし、芸術的な創造、科学的な 創造、技術的な創造を可能にしているもの」(p.12)である。また、彼によると、想 像は虚構ではなく、むしろ現実認識に不可欠であるという。現実世界の現象は無条 件にその本質が存在するのではないし、科学とは現象の背後にある隠された本質を 見抜く活動であり、その中心となるのが想像であるのだと論じている。 そして、想像と現実の結びつきについて、以下の4 つの形態があると述べる。 1 想像のつくったものは、全て過去経験の要素から組み立てられている。 想像はいつも現実から与えられた素材によって成り立っている。そのため、子ど もたちの創造活動のためにしっかりした基礎を作りたければ、子どもの経験を広げ る必要がある。 2 空想の既成の産物と現実の何かの複雑な現象との間の結びつきがある。 全く見たことのない景色も、自らの過去の経験をもとにして新しい組み合わせを つくりだし、想像することができる。他人の経験や社会的な経験により可能となる この結合は、自分自身の経験を拡大する手段となる。このことは、「人間のほとんど すべての知的活動において完全に不可欠の条件」(p.25)であるとする。 3 想像の活動と現実性との間には情動的な結びつきがある。 感情は身体的な表現だけではなく、考えやイメージや新的印象の選択に関係する 内的な表現を持っている。空想で作られたイメージによっても、人間は現実におい
て喜び、悲しみを経験する。ヴィゴツキーはこのことについて、「ほかでもないこの 心理的法則性こそ、作家たちの空想が生み出した芸術作品がなぜ私たちに強烈な影 響をもたらすのかを説明してくれる」(p.30)のだと論じる。 4 経験にはない、また、実在の事物にもない具体化した想像力の「結晶化」である 事物が現実のものとなる。 技術的な装置、機械や道具は人間の複合化した想像によってつくりだされ、今ま で存在しないものであったにも関わらず現実との確実な結びつきを示している。 ヴィゴツキーはこれを想像力の創造的活動の完全の循環と呼び、この循環は自然に 実際に働きかける領域だけではなく、主観的な想像の領域においても可能であると している。そして、これには知的要因と情動的要因が等しく必要であり、思考と同 様に感情は人間の創造によってつき動かされている。文学作品をはじめ芸術作品は、 人間の思考と感情に対して技術的な道具と同じような影響力を持っており、それが、 人間が芸術作品を必要とする理由であるとしている。また、彼は想像力を育成する ことについて、以下のように論じている。 結論にあたって、学齢期に創造性を培うことの重要性を指摘しなければなり ません。人間は未来のことはみな創造的な想像力の助けをかりて理解します。す なわち未来を見定め、その未来に依拠し、そして未来から発する行動は、想像力 の最も重要な機能です。ですから、教育者の指導の基本的な教育姿勢が、児童生 徒を未来に向かって準備する路線で彼らの行動を方向づけることであるかぎり、 この想像力を発達させ、練習することは、その目的の実現過程にとって基本的な 力の一つなのです。 未来を志向する創造的な人格は、今、具象化される創造的な想像力によってつ くられるのです。(ヴィゴツキー 2002:153) 以上のように、ヴィゴツキーは想像力がどのように現実に影響しているのかとい う側面から、想像力を育成することの重要性を主張する。 4.イーザーのイメージについての見解 次に、文学テクストの持つ、読み手に想像力を働かせる作用とはどのようなもの であるのか、イーザーの視点によって考えたい。イーザー(1982)は、まとまりを もったテクストは「読者の創造行為に指針を与える構造を持った下絵(パターン)」 (p.13)であり、「テクストからえられるイメージとしての意味は、テクストの記号
と読者の理解行為との相互作用の産物」(p.14)であるため、「意味ももはや規定の 対象ではなく、作用としてしか経験し得ない」(p.15)と主張する。 また、文学テクストは、現実世界の単なる反映や模写では無く作者の独自の世界 観を表現したもので、作者の遠近法が現れているものであり、それに対し読者は、 イメージによって遠近法を統合する視点をとらえるのだと論じる。読書過程におい て、イメージ形成は繰り返されていき、視点の修正も行われるが、そうした表象行 為によってテクストの意味が構成されていくのである。 イーザーは、「想像力によるイメージ作用は、(中略)まさにそれそのものとして は見ることのできないものを意識にとらえる活動である」(p.238)と論じる。知覚 は実在の対象を必要とするが、イメージは、非在ないし欠如を対象とし、個々の知 識やデータをどのように結合するかというところから生じる。たとえば、小説の映 画化に対してイメージと違うと感じても、自分の持つイメージは実は視覚的要素は 乏しいことに気付くということがある。この逆説的状態についてイーザーは、「イメ ージには、テクストが意味していても明確な形は与えていないものを想像し、理解 しやすくする性質がある」(p.243)ためであると論じている。 また、イメージと読書は、主体が自分で作り出したイメージによって感情を動か されるという点で切り離せない関係にある。そして、読書中に起こる非現実化の過 程が終わると、現実世界が観察可能な姿として目に映る。イーザーは、読書中に起 こる非現実化から立ち戻り、現実世界と向かい合うとき〈覚醒〉の経験が生じ、自 己の現実の場を対象化して見ることができるという。 イーザーによると、読者はこのようにテクストから様々なイメージを展開するこ とで得た表象をテクストの意味へと結合しているのである。 5.キーンにおける「深い理解」 キーン(2014)は理解することについて、次のように論じている。 感情的な関連づけが行われると、理解は豊かなものとなる。私たちは美しい と感じることを再度体験したくなり、学習に喜びが含まれているとよりよく理 解できる。創造的な活動をするなかで、私たちは光り輝くもの、記憶に残るも の、他の人たちに意味のあるものをつくろうとする。最終的に、私たちが発見 したことは強力で、長持ちするものとなる。こうして、記憶に残る。(キーン 2014:339) 文学を読み、書かれたことにもとづいた質問に答えたり、文章の中の新しい単
語を学んだりといったことが理解するということなのではなく、感動を得たとき に理解し記憶に残るのだという。 さらに、優れた読者は深い理解のために次の 7 つの方法を用いると主張する。 すなわち、①関連付ける②質問する③イメージを描く④推測する⑤何が大切かを 見極める⑥解釈する⑦修正しながら意味を捉える、の7 つである。(p.347)この ような方法を用いることで、登場人物や作者への共感や思考の修正がもたらされ るとし、それによってよい学び手や読み手になることを論じている。 6.結論 以上のことから、文学テクストを読んで想像するということについて以下のよう にまとめたい。 まず、学習指導要領における想像力とは、社会の変化に対する国の要請に応える ものとして重要視されていると見ることができるが、想像力をどのように育成して いくのかということについては明確になっていないということが指摘できた。想像 とはヴィゴツキーが論じるように、自らの経験や知識との結びつきによって起こる、 現実に実際に作用する現象である。経験は成長に伴って積み重なっていくため、子 どもよりも大人の方がより想像力があると言えるし、子どもには最初から豊かな想 像力が備わっているわけではないから、教育によって育成されなければならない。 また、イメージすることが深い理解の一助となることや、文学テクストを読む際 想像力が働くことは、ここまでで述べた通りである。今後はより多くの実践例にも あたり、さらに課題を明らかにして研究を進めたい。 参考文献 小学校学習指導要領解説(平成20 年告示)文部科学省 中学校学習指導要領解説 国語編(平成20 年告示)文部科学省 高等学校学習指導要領解説 国語編(平成21 年度告示)文部科学省 高等学校学習指導要領解説 国語編(平成30 年告示)文部科学省 C.ファデル他(2016)『21 世紀の学習者と教育の 4 つの次元』北大路書房 文部科学省「平成 27 年度公立高等学校における教育課程の編成・実施状況調査の 結果について」 www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/__icsFiles/afieldfile/2019/02/12/1413569_002_1.pdf
(2019 年 11 月 9 日確認) エリ・エス・ヴィゴツキー著 広瀬信雄訳(2002)『新訳版 子どもの想像力と創 造』新読書社 W.イーザー著 轡田収訳(1982)『行為としての読書 美的作用の理論』岩波書店 深川明子(1987)『イメージを育てる読み』明治図書 エリン・オリヴァー・キーン著 山元隆春・吉田新一郎訳(2014)『理解するって どういうこと? 『わかる』ための方法と『わかる』ことで得られる宝物』新曜社 小島康次(2014)「物語理解に含まれる一般的言語的コミュニケーションの原型に ついて」北海学園大学学園論集(150) 秦 恭子(2014)「国語教育におけるイメージ観についての一考察―有定稔雄と深 川明子の論を中心に―」国語教育思想研究会 全国大学国語教育学会(2013)『国語科教育学研究の成果と展望Ⅱ』学芸図書株式 会社 (かわしま・ひとみ 東京学芸大学教職大学院・院生)