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子どもの言語学習に有効なインプット情報 ―情報の頻出性・妥当性・余剰性が学習に与える影響―

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1.序   論

1.1 はじめに 語の意味を学習するには,語とそれを表す対象 や事象をマッピングする必要がある (今井・針 生, 2007)。例えば,まだ名詞や動詞,形容詞な どの語を学習していない幼い子どもが,女の子が 男の子を押して男の子がびっくりして飛び上がり 倒れてしまったという一連の事象で, “pushing (押している)” という語を耳にしたとき,この “pushing(押している)”はどのように解釈され るのだろうか。女の子が男の子を押している動作 なのか,あるいは男の子がびっくりして飛び跳ね た動作なのか,それとも男の子が倒れた動作であ ると捉えられるのか。“pushing(押している)” のみではこれらのどの意味にも捉えられる可能性 がある。 しかし, “pushing(押している)” がそれのみで なく “The girl is pushing the boy(女の子が男の子 を押したよ)” という文で呈示された場合, “-ing” という形態的情報から, “pushing” が動詞である こと,また,項が二つあるという統語的情報から “pushing” が他動詞であることが分かり, “pushing (押している)”の意味の推測は一層容易になる。 ヒトは新しく耳にした語のカテゴリーや語の意 味を推測し学習するのに,学習対象の語が呈示さ れている文の項の数や語の位置などによって表さ れる「統語フレーム(syntactic frame)」や項が多 くの情報を含んでいる名詞なのか,それともさほ ど情報が含まれていない代名詞なのかという「項 の意味的な内容という情報(semantic content of argument labels)」,さらには,動詞に付く接尾辞 (e.g., -ing, -s,∼している)などの「形態的情報 (morphological information)」を利用している(e.g.,

子どもの言語学習に有効なインプット情報

―情報の頻出性・妥当性・余剰性が学習に与える影響―

趙     

広島大学

Input information usage by children learning language:

the impact of frequency, validity, and redundancy

Akiko Zhao CHOU Hiroshima University

Many studies show that, when children learn new content words, they can utilize the appropriate types and appropriate amount of linguistic information. However, no existing study has examined what factors influence children to select the appropriate types and appropriate amount of linguistic information. In this study, we reviewed previous research on how children learn content words that are appropriate for their linguistic context. Through our review of the literature, we found three factors—validity, frequency, and redundancy—that influence how children select linguistic information. Based on these three factors, we further introduced studies that highlight the effectiveness of linguistic information on function word learn-ing to understand how children learn function words, and how the factors affect function word learnlearn-ing in children. Existing studies also report that linguistic information is involved in function word learning. The three factors also affected the selection of their linguistic information. However, the extent that validity, frequency, and redundancy affected content words varied. In particular, linguistic information with a high validity is effective for learning content words, but not for learning function words.

Key words: input information, case marker, content word, function word, frequency, validity, redundancy キーワード:インプット情報,格助詞,内容語,機能語,妥当性,頻出性,余剰性

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Arunachalam & Waxman, 2009, 2010, 2011;Imai et al., 2006)。 統語フレームとは,文中の動詞の下位カテゴ リー―その動詞が自動詞なのか他動詞なのかと いうカテゴリーの下位分類―にもとづいた文の構 造であり,例えば,以下に示す英語の文では新 奇語である “gorp” “gorping” の学習の際,(1) で は“gorp”の文中での位置や文の構造により,そ れが名詞であると推測できる。また,(2) では “gorping” の形態的情報 (“-ing”) によりそれが動 詞で,さらに項の数より,それが他動詞であると 推測される。そして (3) では (2) と同様,形態的 情報(“-ing”) により “gorping” が動詞であり,項 の数により, それが自動詞であると認識できる。

(1)The rabbit is pushing the gorp. (2)The rabbit is gorping the cat. (3)The rabbit and the cat are gorping.

同様に,日本語においても新奇語(i.e., 「ゴ ピ」)の学習の際,「ゴピ」の文中での位置や文の 構造,および「ゴピ」に「∼ている」のような形 態素がついていないことから,それが名詞である こと (4),「ゴピ」の文中での位置や文の構造, そして形態的情報(「∼ている」) によりそれが動 詞であることが推測される (5) (6)。さらに格助 詞により,(5) の「ゴピっている」が他動詞であ り, (6) が自動詞であると認識することが可能で ある (e.g., Imai et al., 2006;Matsuo et al., 2012)。

(4)うさぎがゴピを押しているよ (5)うさぎがねこをゴピっているよ (6)うさぎとねこがゴピっているよ このように,学習者は統語フレームと形態的情 報を利用し,学習対象の語が名詞なのか,動詞な のかといったカテゴリー分けを行い,続いて,そ の語が動詞であった場合には,それが使役的な意 味を持つのか,それとも非使役的な意味を持つの かといった動詞の持つ使役性について大まかな意 味の絞り込みを行う。 その後,(7) (8) の例に示すように,項の意味 的な内容という情報を用い,語と語が指す対象を 結びつけて語を学習する。(7) (8) に示す英語の 文では新奇語である “gorping” の学習の際, (7) の他動詞文では,多くの具体的な情報を含む名詞 が,他動詞である “gorping” の意味を推測する手 がかりにとしてはたらき,他動詞とそれが表す動 作のマッピングをより容易にしている。一方, (8) の自動詞文では,抽象的で限定された情報のみを 含む代名詞が自動詞である “gorping” の意味を推 測する手がかりにとしてはたらき,自動詞とそれ が表す動作のマッピングをより容易にしている (e.g., Arunachalam & Waxman, 2009, 2010, 2011)1)

(7)The grandmother is gorping the cat. (8)She is gorping the cat.

これらのインプット情報について,本論では, インプット情報である統語フレーム,形態的情 報,項の意味的な内容を表 1 のように定義し,こ れらの情報がどのような語の学習に影響を与える のかについて,例文とともにまとめて示す。 インプット情報の有効性について,先行研究 (e.g., Fisher, Scott, & Yuan, 2010; Gertner, Fisher, &

Eisengart, 2006; Gertner & Fisher, 2012) では,生得 的な立場と経験的な立場の両観点から議論がなさ れている。具体的には,インプット情報の中で も,特に,動詞の使役性の推測におけるインプッ ト情報の利用の根底にあるメカニズムは,統語的 ブートストラッピング (Syntactic Bootstrapping) と呼ばれている (Gleitman, 1990)。これは,項が 一つしかない自動詞文が非使役事象を指し,項を 二つ持つ他動詞文が使役事象を指すという,項構 造と使役性との間にバイアスがあるという考えに 基づくもので,動詞が非使役事象を表す自動詞な のか,使役事象を表す他動詞なのかという意味の 絞り込みを助けると指摘されてきた (e.g., Naigles, 1990;Fisher, 1996)。例えば,英語では使役事象 を表す動詞は項を二つともなって使用され(“She broke the truck”),非使役事象を表す動詞は項を 一つのみともなって使用される(“She is coming/ 1) 名詞の方が項の意味的な内容が豊富で代名詞の場合は 項の意味的な内容が少ないということについて,例えば “s/he” “it” など前者は「女性/男性」「物」のような抽象的 で限定された情報のみを含むが, 例えば “grandmother” “banana” などの名詞は「女性, 年寄り, 孫がいる」「果物, 黄色」のように具体的な多くの情報を含んでいる。このよ うな点で,代名詞は項の意味的な内容が少なく,名詞は項 の意味的な内容が豊富であると考えられる。

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しかしながら,このような経験的な要素に一体ど のような要因が影響し,学習対象の語によって有 効となるインプット情報に違いが出ているのかに ついて,様々な言語の研究結果に基づいた議論は 充分になされていない。 本論の一つ目の目的として,インプット情報の 利用の経験的な要素に影響を与えているものとは 一体何なのかを明らかにする。そのために,どの ような特徴を持つ語の学習に,どのような種類の インプット情報,具体的には統語フレーム,形態 的情報,項の意味的な内容のどの情報が有効なの かについて,今井・針生(2007),Jiang and Haryu (2014),Lidz et al.(2009),Noble, Rowland, and

Pine (2011),姜 (2013) の研究でその影響が考 えられるインプット情報の妥当性と余剰性,そし てArunachalam, Leddon, & Song (2013), Imai et al. (2006), Lidz et al(2009), Snedeker and Gleitman (2004) の研究で議論がなされている頻出性の観 点から検討する。 ここまでは内容語である動詞の “push(押す)” に着眼してきたが,日本語の場合には,上述した 「女の子が男の子を押したよ」という文中の,機 能語である格助詞ガ,ヲも文を理解する際に欠か せないもので,内容語の理解を助けるものであ walking/swiming”)。そのため,学習者は項の数を 手がかりに,動詞が使役事象を表すのか,非使役 事象を表すのかを区別している。 母語学習では, このバイアスが生得的に子ども に備わっているものなのか (e.g., Fisher et al., 2010; Gleitman, 1990;Lidz, Gleitman, & Gleitman, 2003; Naigles, 1990), それとも学習によるものなのか (e.g., Brooks & Tomasello, 1999;Tomasello, 2000;

Tomasello & Brooks, 1998) をめぐり多くの議論が 繰り広げられてきた。 生得的な要素を重視している研究の観点から は,子どもが統語フレームとしての項の数や語の 位置の情報から動詞の意味を学習したり,文中の 主語と目的語を同定できることは生得的な能力 によるものであると主張されてきた(e.g., Fisher et al., 2010;Gleitman, 1990;Lidz et al., 2003; Naigles, 1990)。一方, 最近の研究では, 経験的な 要素,具体的には,学習対象の語や言語におい て,有効な情報がどれほどインプットに出現して 子どもがこれらのインプット情報をどれほど受け るのかが関係し,学習対象の語によって有効なイ ンプット情報の種類(e.g., 統語フレームか項の 意味的な内容か) や量(e.g., 多いか少ないか) が 異なることを指摘している (e.g., Lidz et al., 2009)。

表 1 インプット情報の定義と学習の対象 インプット情報 学習の対象 具体例 項の位置と数,文の構造 動詞の使役性 (自動詞・他動詞等) 使役性の同定 他動詞文:

The rabbit is gorping the cat. 自動詞文:

The rabbit and the cat are gorping. 統語カテゴリー

(名詞・動詞・形容詞・前置詞等)

名詞と動詞の区別 名詞フレーム:

The rabbit is pushing the gorp. 動詞フレーム:

The rabbit is gorping the cat. 形態的情報

(接尾辞など) (名詞・動詞・前置詞等)統語カテゴリー

名詞と動詞の区別 名詞:

The rabbit is pushing the gorp. 動詞:

The rabbit is gorping the cat. 項の意味的な内容

(名詞/代名詞の違い) (動詞と動作のマッピング)動詞の意味

動詞のマッピング

項の意味的な内容が豊富な文: The grandmother is gorping the cat. 項の意味的な内容が少ない文:

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プット情報のどのような要素が語の学習を助けて いるのかについて検討する。また,議論の的と なっている,インプット情報の利用が生得的か経 験的かについて,先行研究で明らかになった知見 をまとめる。続く第 4 節では,インプット情報が 少ない文の方が,語の学習に有効にはたらくとい う結果が出ている研究を概観する。ここまでの先 行研究を踏まえ,第 5 節では,どのような要素が インプット情報の有効性に影響を与えているのか について,①日常発話でのインプット情報の省略 によってそのインプット情報が頻繁に出現するか 否か(頻出性),②学習する項目にそのインプッ ト情報が妥当かどうか(妥当性),③対象の語に 妥当でないインプット情報が含まれることで情報 が余剰になり,子どもの情報処理に負荷を与えて しまわないか(余剰性)の 3 点から検討する。そ の後,第 6 節では,今までほとんど検討されてこ なかった機能語の学習においてもインプット情報 が何らかの影響を与えているのかについて検討す る。その際,インプット情報が何らかの影響を与 えている場合,内容語で見られた頻出性・妥当 性・余剰性が関係しているのかについて,英語の 前置詞,及び日本語の格助詞の学習におけるイン プット情報の役割に焦点を当てた研究を紹介す る。最終章では,本論のまとめとして,どのよう な種類のインプット情報が,どれほど出現すれば 言語の学習に有効なのかについて議論する。ま た,これらの議論を踏まえ,言語学習における言 語入力の役割について筆者の考えを述べる。これ らについて議論することで,言語学習における経 験的な要素に一体どのような要因が影響している のかについて検討ができる。

2.内容語の学習におけるインプット情報が

豊富に含まれた文の有効性

学習者は,事物の名称,容態,動作などを示す 語である内容語の学習において,統語フレーム, 項の意味的な内容,そして形態的情報を利用して おり,先行研究では,学習対象の語によって,有 効なインプット情報の種類(e.g., 統語フレーム か形態的情報か)と量が異なる(e.g., 情報が豊 富か少ないか)ことを報告している。第 2 節では, 内容語の学習において,どのような語にどのよう る。文中の語は,それが果たす機能によって内容 語と機能語に分類される。内容語とは,事物の名 称,容態,動作などを示す語であり,名詞,形容 詞,動詞などであり,一方,機能語とは,文中に おける語と語の文法関係を明示する役割を担い, 前置詞,冠詞,接続詞や格助詞がこれに含まれ る。上述の「女の子が男の子を押したよ」という 文に関しては格助詞の知識があれば,文中の名詞 「女の子」と「男の子」のどちらが動作をする方 でどちらが動作を受ける方なのかを同定でき,そ れが動詞の意味の絞り込みに役立っている。この ことから分かるように,機能語は内容語の学習を 助けるものである。近年では,機能語の学習に経 験的な要素が関係していることが指摘されてき ており (e.g., Fisher, Klingler, & Song, 2006;Landau & Stecker, 1990;Rubino & Pine, 1988;Tomasello, 2000, 2003),6.1 で詳しく述べるが,Landau and Stecker (1990) と Fisher et al. (2006) では,前置詞 の学習にインプット情報が多い文が有用であるこ とを明らかにしている。しかしながら,インプッ ト情報の有効性について機能語を対象とした研究 は,この二つの研究に限られていると言っても過 言ではなく,インプット情報が少ない文は本当に 有効ではないのか,また,内容語のように学習 対象の語によって有効となるインプット情報に違 いが出ているのかについての議論はなされてい ない。 本論の二つ目の目的として,このような機能語 の学習にもインプット情報が何らかの役割を果た しているのか,具体的には,内容語の学習におけ るインプット情報の有効性に加え,機能語の学習 においてインプット情報がどのような影響を与え るのかについて明らかにする。 1.2 本論の構成 上述の内容を踏まえた本稿の構成は次の通りで ある。 まず,先行研究で議論されてきたインプット情 報の有効性を論じるにあたって,第 2 節では,語 の学習においてインプット情報が,豊富に含まれ る文が有効にはたらくという結果が出ている研究 を概観する。続いて,第 3 節ではインプットが, 豊富に含まれた文が語の学習に有効にはたらかな いという結果が出ている先行研究を紹介し,イン

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結果として,新奇語が,動詞のインプット情報 が豊富に含まれた文で呈示されたのを聞いた 5 歳 児は新奇語を動詞として学習でき,新奇語が,名 詞のインプット情報が豊富に含まれた文で呈示さ れたのを聞いた 5 歳児は新奇語を名詞として学習 できていた。この研究結果から,英語を母語とす る 5 歳児は統語フレーム及び形態的情報を利用し て動詞と名詞のカテゴリーを学習していることが 示唆され,これらのインプット情報が言語の学習 に重要な役割を果たしていることがうかがえた。 また,動詞の学習は 3 歳から徐々に進み,5 歳頃 にはかなり進んだ段階となることもこの研究から 示唆された。 動詞のほかに形容詞の学習においても,子ども は統語フレームをインプット情報として有効に利 用している。形容詞は,名詞の前に出現して名詞 を修飾したり,副詞の後に出現して修飾されたり する特徴を持つ。先行研究では,新奇語が名詞の 前に現れたり,副詞の後に現れたりするという統 語フレームで用いられた場合(“Look at this stoof horsie! This horsie is very stoof”),英語を母語とす る 3 歳児がその新奇語を形容詞として学習でき ていたことが報告されている(Mintz & Gleitman, 2002)。 以上の先行研究から,インプット情報は形容詞 の学習にも有効な役割を果たしており,子どもは インプット情報を利用して語のカテゴリーを推測 していることが分かる。 2.1.2 動詞が持つ使役性の学習 カテゴリー分けが行われた後,その語が動詞で あった場合,次の段階としてそれが使役事象を表 す動詞なのか,それとも非使役事象を表す動詞な のかといった使役性について区別する必要が ある。使役性とはある活動が何らかの事態を引き 起こしてその活動を受ける人や物に状態の変化 や場所の移動が起こることを指す(『日本語文法 事典』:246)が,インプット情報はこの動詞の使 役性の区別にも重要な役割を果たしている (e.g., Matsuo et al., 2012;Naigles, 1990;Scott & Fisher, 2009;Yuan & Fisher, 2009)。

Naigles (1990) では,動詞の使役性, すなわち, 動詞が使役事象を表すのか,非使役事象を表すの かの区別において,項の数が手がかりになってい ることを報告している。具体的には,英語母語 2 なインプット情報がどれだけあれば良いのかに関 する先行研究の知見をまとめ,インプット情報が 豊富な文が語の学習に与える影響について検討 する。 2.1 統語的情報が豊富な文が果たす役割 2.1.1 語のカテゴリーの同定 未知の語の学習において,まず,その語のカ テゴリーの推測,すなわちその語が名詞なのか形 容詞なのか,それとも動詞なのかを見極める必要 がある。その際,形態的情報と統語フレームが手 がかりとして有効である (Arunachalam & Waxman, 2009, 2010, 2011;Imai et al., 2006)。 Imai et al. (2006) では,インプット情報である 形態的情報と統語フレームの役割について,複数 の言語(英語・日本語・中国語) を比較検討し, 英語母語児の動詞学習においてそれが重要である ことを報告している2)。実験では,英語を母語と して学習する 3 歳児と 5 歳児を対象に,これらの インプット情報が動詞の学習にどのような役割を 果たすのかについて,新奇語を用いた実験を行 なっている。手続きとしては,それぞれの年齢の 子どもを 2 つのグループに分け,一方のグループ には新奇語を,それが名詞であることを示す統語 フレーム及び形態的情報を含む,インプット情報 が豊富な文(e.g., “This is an X”) で,もう一方の グループには新奇語を,それが動詞であることを 示す統語フレーム及び形態的情報を含むインプッ ト情報が豊富な文(e.g., “She is X-ing it”)でそれ ぞれ音声呈示した。これらの音声刺激と同時にそ の文に合う動画,すなわち女性が新奇的なもので 何か新奇的な動作をしている動画を視覚呈示し, 子どもは動画を見ながら呈示された文を聴いて新 奇語を学習した。もし,子どもがこれらの統語フ レーム及び形態的情報がインプット情報として語 のカテゴリー分けに有効に利用しているとした ら,名詞であることを示す情報が豊富な文で呈示 された新奇語は名詞として,動詞であることを示 す情報が豊富な文で呈示された新奇語は動詞とし て,それぞれ認識され,学習されていくと考えら れる。 2) ここでは英語母語児の結果について紹介し,4.1 で日本 語母語児の結果について紹介する。

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Yuan and Fisher(2009) では,視覚的情報がなく とも,音声情報の中の項の数を利用して使役・非 使役事象を区別できるかどうかについて調査して いる。実験では,2 歳半の英語母語の子どもたち を対象に,新奇動詞を一連の会話で音声呈示し, 子どもが統語フレームを利用して自動詞と他動詞 を区別しているか否かについて調べた。結果とし て,新奇動詞を呈示する際,視覚的な情報がなく とも,子どもたちは,統語フレームを利用し,自 動詞と他動詞の区別ができていたことが示唆され た(Scott & Fisher, 2009 も参照)。

上述の研究は,統語フレームの情報を利用でき る英語を対象としたものであるが,統語フレーム に加え,形態的情報も利用できる言語である日本 語を対象とした研究もなされている。 Matsuo et al. (2012) では,格標識としての日本 語の格助詞が存在し,統語フレーム,つまり主語 項と目的語項が揃い,さらに形態的情報,つまり 格助詞のガ (主語標示) とヲ (目的語標示) も揃っ たインプット情報が豊富な文が,動詞の使役性の 区別を行う際に有効な役割を果たしていることが 報告されている。格標識とは,名詞句が文などに おいて他の語とどのような関係を持つかを示す標 識である(『日本語文法事典』:95)。Matsuo らの 実験では,新奇動詞を 2 歳 4 ヶ月の日本語母語児 に学習させ,Naigles の実験と同様,使役動作と 非使役動作の動画の注視時間を測定した。その 際,格助詞が含まれる自動詞文(「アヒルさんト うさぎさんガねけってるよ」)と他動詞文(「アヒ ルさんガうさぎさんヲねけってるよ」),それから 格助詞が含まれない他動詞文(「アヒルさんうさ ぎさんねけってるよ」) をそれぞれ子どもに音声 呈示し,これらの新奇動詞が非使役事象を表す自 動詞なのか使役事象を表す他動詞なのかを子ども に区別させた。その結果,格助詞が含まれた他動 詞文を聞いた子どもたちは使役事象の動画を長く 注視していたが,格助詞が含まれない他動詞文を 聞いた子どもたちは使役事象の動画を長く注視す ることはなかった。また,自動詞文を聞いた子ど もたちについては非使役事象の動画を長く注視す ることはなかったことも明らかになった。この結 果からは,日本語の動詞の使役性の区別は統語フ レームというのみでは不充分であり,それに形態 的情報としての格助詞が加わることで,他動詞と 歳児が上述の統語フレームをインプット情報とし

て用い“The bunny and the bear is gorping” のよう な非使役事象を表す自動詞文と “The bunny is gorping the bear” のような使役事象を表す他動詞 文を区別し,新奇動詞である “gorping” が自動詞 なのか他動詞なのかを区別していることを明らか にした。実験では,対象児たちを,新奇動詞が自 動詞文(“The bunny and the bear is gorping”)で出 現するのを聴くグループと,新奇動詞が他動詞文 (“The bunny is gorping the bear”) で出現するのを 聴くグループに分け,両グループにウサギとアヒ ルが使役動作(アヒルがウサギを押している動 作)と非使役動作(アヒルとウサギが腕を回して いる動作)の両方を同時に行なっている一つの動 画を呈示し,同時にその動作を描写する文を 2 つ 音声呈示した。その後,テストフェーズでは,使 役動作(アヒルがウサギを押している)の動画と 非使役動作(アヒルとウサギが腕を回している) の動画の計 2 つの動画が同時に呈示され,実験者 は “Where is gorping now? Find gorping” と子ども たちに問いかけ,それぞれの動画の注視時間を測 定した3)。結果として,自動詞文で新奇動詞を聞 いたグループは非使役動作を,他動詞文で新奇動 詞を聞いたグループは使役動作をそれぞれ長く注 視し,子どもは,自動詞文についてはそれが非使 役動作を表すもので,他動詞文についてはそれが 使役動作を表すものであるということを学習でき ていたことが分かった。ここから,動詞の使役性 の推測において,統語フレームはインプット情報 として有効にはたらいていることが示唆された。 また,この実験から,統語フレームを利用する能 力は 2 歳という年齢から発達していくということ も明らかになった。 Naigles の研究では動画が用いられていたが, 3) 注視時間を指標に,認知・言語能力を測る方法が選好 注視法と呼ばれているが,これは乳児が興味のあるもの を長く見つめるという特性を利用したものである (e.g., Golinkoff et al., 1987)。主に,まだ充分に話すことのできな い幼い子どもを対象に用いられる方法で,具体的には,音 声刺激と二つの画像(動画の場合もある) といった視覚刺 激を子どもに呈示し,そのうちの一つの視覚が,音声刺激 に合うものである。もし,子どもが音声刺激の内容を理解 しているのであれば,彼・彼女らは,その内容にあった 方の視覚的刺激を,内容と一致しない方の刺激よりも長く 注視するという仮説のもとで用いられている (Hirsh-Pasek, Golinkoff, & Hollich, 1999)。

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豊富な文で学習したグループの方が動詞の意味を 学習できており,項の意味的な内容が少ない代名 詞文で学習したグループは動詞の意味の学習が困 難であった。ここから,他動詞の意味の学習に項 の意味的な内容が豊富な文が有効な役割を果たし ていることが示唆された。 このように他動詞の意味の学習が項の意味的 な内容を必要とする理由として Lidz et al. (2009) は,他動詞は動作をする動作主と動作を受ける被 動者を取る動詞であるため,それを理解するのに は「誰が誰にした事か」を,まずは理解する必要 があるためであると考えている。つまり,項の意 味的な内容の豊富な,項が名詞である文は,その 学習対象の動詞とともに現れた名詞が果たす意味 役割(動作主か被動者か) を同定するのに役立 ち,それゆえ,名詞の意味役割を理解することで 文中の動詞の意味とその動詞が表す動作をマッピ ングできる可能性が示唆されている。

3.インプット情報が豊富な文が

必ずしも役に立つとは限らない言語項目

インプット情報が豊富な文が言語学習に有効で あることを明らかにした研究を上で見てきたが, それではいったい,インプット情報のどのような 要素が,その情報の有効性に影響を与えているの だろうか。本節では,どのような語にインプット 情報が豊富な文が有効でないのか,について検討 した研究を概観することで,インプット情報の有 効性に影響を与えていると考えられる要素につい て議論を行う。 3.1 自動詞文と非使役事象の結びつけを検討し た研究 近年の研究により,自動詞の学習について,イ ンプット情報が豊富な文は有効とは限らないこと が明らかになってきている。Naigles (1990) をは じめとした自動詞・他動詞と非使役・使役事象の 結びつけを調査した研究からは,項が一つしかな い自動詞文についてはそれが非使役動作を表すも ので,項が二つある他動詞文についてはそれが使 役動作を表すものであるということを学習できて いたことから,動詞が自動詞なのか他動詞なのか を見極める際に統語フレーム(項の数)が有用で 使役事象の結びつけに有効な役割を果たすという ことが示された。一方,自動詞の学習について は,これら統語フレームや形態的情報といったイ ンプット情報は有効な役割を果たしているとは言 えないことが示唆され,この点は第 3 節で詳しく 検討する。 2.2 動詞と動作のマッピング 動詞の意味を学習するためには,その動詞の使 役性を区別した後,動詞とそれを表す動作をマッ ピングし,動詞を般用できるようになる必要が ある。その際にも,子どもたちはインプット情報 (項の意味的な内容:semantic content of argument

labels) を利用している (Arunachalam & Waxman, 2009, 2010, 2011)。

Arunachalam and Waxman(2009) では 24 ヶ月の 英語母語児を対象に,子どもたちが他動詞の意味 の学習,すなわち他動的な動作とそれを表す動詞 をマッピングする際,その動詞ととともに使用さ れている項の意味的な内容がどのような役割を 果たすのかを調査し,項の意味的な内容の豊富 な文が他動詞の意味の学習を促進することを報 告している。項の意味的な内容とは,項が名詞な のか代名詞なのかという情報であり,先行研究 (Arunachalam & Waxman, 2009, 2010, 2011) では,

名詞の場合,名詞は多くの具体的な情報を含むこ とから,項の意味的な内容が豊富で,代名詞の場 合,代名詞は抽象的で限定された情報のみを含む ため,項の意味的な内容が少ないと指摘している (Arunachalam & Waxman, 2011)。以下で詳しく述 べるが,項の意味的な内容が豊富な文,すなわち 項が名詞である文は,子どもが,名詞の意味役割 を捉えることがたやすいため,それを利用して文 中の動詞の意味とその動詞が表す動作をマッピン グできるのではないかと考えられている。 実験では,項の意味的な内容が豊富な,名詞が 含まれる文 (“The boy is pilking the ballon”) と,項 の意味的な内容が少ない,代名詞が含まれる文 (“He is pilking it”)の二種類の文がそれぞれ音声 呈示され,同時にその文を表す動画も視覚呈示さ れることで新奇動詞(“pilking”)の学習を促した。 学習後,どちらの文で動詞を学習したグループが 動詞の意味をよく学習できているかについてテス トを実施した。結果として,項の意味的な内容が

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役事象と対応づけることができていた。一方,自 動詞文で学習した子どもたちは 2 歳の頃は動詞を 自動詞として認識し,それを非使役事象と対応づ けることができていたが,3 歳以降になると自動 詞文を非使役事象に対応づけられなくなるという 結果が得られていたのである。同様に項が頻繁に 省略される中国語を母語とする子どもを対象とし た Jiang and Haryu (2014) も, 子どもたちが 2 歳か ら,統語フレームを用いて使役事象と他動文を結 びつけることを確認した。一方,自動詞について は 5 歳児でもそれを非使役事象と対応づけするこ とはできず,さらに中国語母語の大人も同様の 結果が観察された。このことについて Jiang らは, 中国語も日本語と同様,項の省略が可能な言語で あり,子どもが耳にする SV 文は必ずしも非使役 事象を示す自動詞文であるとは限らず,目的語が 省略されている他動詞文であるとしている。その ため,中国語母語の子ども・大人ともに自動詞を 非使役事象に結びつけようとしなかった可能性が あると述べている。 以上の自動詞と非使役事象の結びつけについ て,他動詞と比較すると 1∼2 年ほど遅い自動詞 は 3∼4 歳からそれができるようになるという研 究結果 (e.g., Noble et al., 2011) は,自動詞を非使 役事象に結びつける際,他動詞を使役事象に結び つける際とは異なり,統語フレームを手がかりと して利用することが難しいことを示唆している。 加えて,日本語母語児が 3 歳以降自動詞と非使 役事象を結びつけることができなくなること (e.g.,今井・針生, 2007), さらに中国母語児はそ の結びつけが 5 歳になってもできず,大人でもで きなかったことが,SV 文が必ずしも非使役事象 を表すとは限らないことによるという理由(e.g., Jiang & Haryu, 2014;姜, 2013) から,自動詞の学 習は他動詞のそれと比較した際,統語フレームの 有効性は低い可能性が推測される。 3.2 自動詞文と非使役事象の結びつけにおける インプット情報の有効性 統語フレームの情報は他動詞と使役事象の結び つけには有効であるのに,なぜ自動詞と非使役事 象の結びつけには有効でないのか。これについて 今井らは,「∼が∼を∼する」 という他動詞文 (e.g.,「クマがウサギを X ている」)は基本的に あり,現に子どもはその情報を利用して動詞の意 味の絞り込みをしていることが報告されてきた。 しかし,この分野における最近の研究で二者択一 法(force-choice pointing paradigm)4)を用いたもの

では,自動詞の学習において,統語フレームは必 ずしもその学習にはたらいていなかったことか ら,他動詞文は,その動詞が使役事象を示す他動 詞であることを推測するのには有効であるが,自 動詞文の構造については,その動詞が非使役事象 を表す自動詞であるということを推測するのに 必ずしも有効ではないということを指摘している (今井・針生, 2007;Jiang & Haryu, 2014;Noble et al.,

2011)。 Noble et al. (2011) は,英語を母語とする 2 歳, 2 歳半,3 歳及び 4 歳の子どもたちを対象に,子 どもたちが自動詞文と他動詞文を利用して動詞の 使役性,具体的には,新奇動詞が非使役事象を表 す自動詞なのか使役事象を表す他動詞なのかを推 測できるか否かについて調査した。結果として, 他動詞文と使役事象については 2 歳という年齢か ら,統語フレームを用いて両者を結びつけること ができていたが,自動詞については 3 歳から 4 歳 にならないと,それを非使役事象に結びつけるこ とはできなかった。このように,動詞が自動詞な のか他動詞なのかで,それを非使役事象あるいは 使役事象に結びつけることができるようになる年 齢に違いがあることが示されている。なお,以上 の現象は英語以外の言語でも確認されており,以 下,それらの研究について概観する。 今井・針生(2007)では,項省略が頻繁に行わ れる日本語でも統語フレームが動詞の学習に有 効な役割を果たすのかについて調査がなされ,自 動詞の学習には,統語フレームは有効な役割を果 たさないことが分かっている。そこでは日本語を 母語とする 2 歳児,3 歳児,5 歳児を対象に,新 奇動詞を自動詞文(「ウサギさんとクマさんがね けってる」)と他動詞文(「ウサギさんがクマさん をねけってる」)で呈示して子どもに学習させて いる。その結果,他動詞文で学習した子どもたち は 2 歳から動詞を他動詞として認識し,それを使 4) この方法自体は古くから伝統的に行われてきたもので あるが,インプット情報の有効性を探る研究では最近の研 究で使われ始めてきた。

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わち,子どもは生得的に,項の数と事象の使役性 との対応関係,つまり自動詞文が非使役事象を表 し,他動詞文が使役事象を表すという知識を持っ ているが,その後,インプットを受けているうち に,自動詞文が必ずしも非使役事象を表すとは限 らないことに気づき,本来持っている自動詞文に 関する知識を修正し,最終的に自分の母語の特徴 に合った統語フレーム6)の知識を学習する,とい うことである。 以上から,語の学習においてインプット情報 が豊富にあるということは,その語を学習する際 にいつも有効であるとは限らず,そのインプット 情報が対象語を学習するのに妥当な情報である場 合,すなわち妥当性が高い情報である場合にの み,対象の語の学習に役立つのではないかと推察 できる。さらに,統語フレームの情報の有効性 は,インプットという経験的なものの影響を受 け,それがこのインプット情報の有効性を左右し ていることもうかがわれる。このことから,イン プット情報の有効性については,普段耳にする インプットが重要な役割を果たしているといえ よう。

4.インプット情報の少ない文が果たす役割

本節では,インプット情報が少ない文の方が, インプット情報が豊富な文よりも語の学習に有効 であることを明らかにした研究 (e.g., Arunachalam & Waxman, 2013;Imai et al., 2006;Lidz et al., 2009;Snedeker & Gleitman, 2004) を概観した上 で,インプット情報のどのような要素が言語の学 習に有効な役割を果たしているのかについて検討 を行う。 4.1 統語フレームという情報が少ない文が学習 に有効な言語項目 英語と異なり,日本語や韓国語では文中の項が 頻繁に省略され,他動詞文であっても主語+動詞 (「女の子が押した」)や目的語+動詞(「男の子を 押した」)の文が日常会話で頻繁に使用される。 は使役事象を表す一方で5),自動詞文(e.g., 「ク マとウサギが X ている」) は非使役事象に加え, 使役事象を表しているとも捉えることができるこ とが原因なのではないかと考察している。つま り,自動詞文は必ずしも使役事象を意味するので はないため,発達にしたがい,子どもはこのよう な自動詞文の曖昧さをも理解できるようになって いたからではないかということである。これに加 え,Noble らは,文中の最初の名詞が動作主であ るという認識を子どもがしてしまうというバイ アスも関係しているのではないかという点を指 摘した。すなわち,幼い子どもは文中の最初の名 詞を動作主であると解釈する傾向があり,実際 21 ヶ月の英語母語児が自動詞文(“The duck and the bunny are blicking”) を理解する際に,最初の 名詞“duck” を動作主,二つ目の名詞“bunny” を 被動者として解釈し,この自動詞文が使役事象を 表しているものであると誤って理解してしまうこ とが指摘されている(Gertner & Fisher, 2012)。

このように,自動詞と非使役事象の結びつけに は,統語フレームが必ずしも有効な役割を果たす わけではないことが言える。その理由としては, 自動詞文が必ずしも非使役事象のみを表すわけで はないこと (e.g., 今井・針生, 2007)が挙げられ る。また,Noble et al. (2011) や Gertner and Fisher (2012)が指摘したように,子どもは文中の最初 の名詞を動作主であると解釈する傾向があり,自 動詞文を使役事象として誤って理解してしまうこ とも考えられる。 これらを踏まえると,統語フレームは学習対象 の動詞が他動詞の場合,その動詞と使役事象を結 びつけるのには妥当な情報となりうるが,学習対 象の動詞が自動詞の場合には,その動詞と非使役 事象を結びつけるのに妥当な情報とは言えないこ とが示唆される。 このような統語フレームに関する知識が生得的 なものかそれとも経験的なものなのかについて議 論を行った姜(2013)では,統語フレームに関す る研究を展望し,次のように考察している。すな 5) 使役事象以外を表す他動詞 (「見る」 など) も存在し, 動 詞の自他と使役性の対応は絶対的なものではない。しかし, ここで問題とされているのは,項を 2 つ取る文は基本的に は使役事象を指すのに対し,項が 1 つの文は非使役事象の みでなく使役事象をも表すことがあるということである。 6) 姜 (2013) では項構造知識という用語が用いられている が,これは本稿が指す統語フレームにあたるため,ここで は統語フレームという用語を使用している。

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揃った文はかえって動詞の理解を妨げてしまう可 能性があるということである。一方,日本語の動 詞には形態的情報としてはたらく接尾辞(e.g., 「走っている」「走った」「走らない」)が必ず付く ため,動詞を耳にする限り接尾辞を耳にすること になり,それを形態的情報として有効に利用でき たのではないかということである。 Arunachalam et al. (2013) では日本語と同様, 項 が頻繁に省略される韓国語の動詞を対象に,子ど もがその動詞の意味を学習する際,インプット情 報としての統語フレームの情報が有効にはたらく かどうかについて調査し,それが有効にはたらか ないことを明らかにしている。具体的には,イン プット情報としての統語フレームの情報が豊富な 文“여자 아이가 멍멍이를 라피고 있어(girl-NOM dog-ACC larp-prog be-decl)”:“The girl is larping a dog!”:女の子が犬をラープしているよ)で新奇 動詞が呈示された場合と,インプット情報として の統語フレームの情報が少ない文“라피고 있어: larp-prog be-decl)”:“Larping!”:ラ ー プ し て い る よ)7)で新奇動詞が呈示された場合のどちらが動 詞の意味の学習に有効にはたらくのかについて 調査しており,結果として,後者の,動詞のみで の呈示の方が有効であることを明らかにした。こ こから Arunachalam らは,韓国語母語児は項が省 略されていない文で動詞を耳にすることが少ない ため,動詞学習に統語フレームがインプット情報 として利用されないのではないかと結論づけて いる。 インプット情報の量(豊富か少ないか)が動詞 の学習に影響を与える,具体的には英語の場合は インプット情報が豊富な方が効果的で,日本語・ 韓国語では少ない方が良いということは,言語間 のみならずひとつの言語内でも観察されている。 Snedeker and Gleitman (2004) は,英語の成人母語 話者を対象に,新奇動詞の意味の学習でどのよう なタイプの動詞がどのようなインプット情報と ともに出現すればその意味を推測しやすのか,ま た,動詞のタイプによって意味推測に必要なイン プット情報が異なるのかについて調査をしてい る。結果として,動作動詞 (fall, stand, turn, play, wait, hammer, push, throw, pop) か,心的動詞 (know, 日本語に関しては,養育者と子どもの親子間会話

における親が使用する他動詞文のうちで格助詞が 使われている文は,項が主語,目的語ともに揃っ ている文はわずか 1.3%,主語+動詞の文は 1.5%, 目的語+動詞の文は 5% の出現率である (Matsuo et al., 2012)。2.1.1 で概観した Imai et al. (2006) で は,このような項が頻繁に省略される言語でも, 新奇語が名詞なのか動詞なのかといった語のカテ ゴリーの学習に統語フレームがインプット情報と して有効にはたらくのかどうかについて,項の省 略が許されない英語を母語として学習する英語母 語児と,項の省略が許される日本語を母語として 学習する日本語母語児を対象に実験を行い,日本 語の動詞の学習には,統語フレームが有効にはた かないことを報告している。Imai らの実験では, 英語母語児と日本語母語児を,それぞれ 2 つのグ ループに分け,一方のグループには新奇語を,そ れが名詞であることを示す統語フレーム及び形態 的情報を含む, インプット情報が豊富な文(e.g., 英語:“This is an X”,日本語:「X があるよ」)で, もう一方のグループには新奇語を,それが動詞で あることを示す統語フレーム及び形態的情報を含 むインプット情報が豊富な文(e.g., 英語:“She is X-ing it”, 日本語:「X している」) でそれぞれ音 声呈示した。この実験で明らかになったこととし ては 2.1.1 でも述べたように,英語母語児はイン プット情報が豊富な文(“She is X-ing it”)で動詞 を学習した子どもたちの方が,学習が良くできて いた。一方,日本語母語児に関しては,むしろ動 詞が単体で出現した「X している」という統語フ レームの情報は少ないが,形態的情報としての 「∼している」という情報がある文の方が動詞の 学習に有効にはたらいていた。Imai らはこの結 果について,有効なインプット情報には,普段子 どもが耳にしているインプットが関係しているの ではないかと考察しており,子どもは不必要な情 報,この場合はすなわち,項の情報を耳にすると それに「じゃま」されてしまい,動詞の学習にも 影響が出てしまう可能性があると述べている (Imai, Haryu, & Okada, 2005: 469)。このことはつ まり,項が日常的に省略される日本語の場合,項 は頻繁に省略されるため,子どもは,項が揃った 文(e.g., 主語と目的語が含まれている文) で動詞

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動詞文あるいはシンプルな他動詞文と共に使用さ れる傾向があり,インプット情報の量による有効 性の違いには,学習対象の語が普段どのような文 で出現するのか,出現する文にインプット情報が 豊富にあるのか否かといった,インプット中の情 報の頻出性の高さが関係していることが推察さ れる。 4.2 項の意味的な内容が少ない場合 他動詞とそれが表す使役事象の結びつけ,動詞 の意味を学習するためには動詞とそれを表す動作 をマッピングし,その動詞を般用できるようにな る必要があるが,2.2 で述べたように,他動詞の 意味の学習の際に,子どもはインプット情報とし て,項の意味的な内容が豊富な文を利用している (e.g., Arunachalam & Waxman, 2009, 2010, 2011)。

自動詞の学習も他動詞と同様,項の意味的な内容 が豊富な文が,自動詞とそれが表す非使役事象の 結びつけ,そしてその動詞の意味の学習を助ける のだろうか。 自動詞とそれが表す動作をマッピングし,その 動詞の意味を学習する際,インプット情報が豊富 な文と少ない文のどちらが有効なのかを調べた Lidz et al. (2009) は,自動詞の意味の学習にお いてはインプット情報が豊富な文よりむしろイ ンプット情報が少ない文の方が,学習に有効な 役割を果たすことを報告している。Lidz らは Arunachalam and Waxman (2010) の実験と同様の 手法で,二つの群に分けた対象児にそれぞれ,新 奇動詞“blick” を,項の意味的な内容が豊富な文 (“The flower is blicking”)と項の意味的な内容が 少ない文 (“It is blicking”) で学習させた。結果と して,後者の,項の意味的な内容が少ない文の方 が学習に効果的であった。Lidz et al. (2009) はこ の点について,他動詞の学習には,文中に現れる 動作主と被動者を特定し,誰が誰にしている動作 なのかを同定することで,学習対象の動詞がどの 動作を意味しているのかを判断して学習する必要 があるが,自動詞については,動作主は一つしか ないため学習対象の動詞を表す動作はあらかじめ 絞られており,その動詞とともに現れる名詞が主 語なのか目的語なのかといった項の意味的な内容 は特に必要なものではないと考察している。その ため,対象の語の学習に必要でない情報は,情報 like, see, say, think, love, look, want) か,軽動詞8)

(come, do, get, go, have, make, put) か,という動詞 のタイプの違いによって意味を推測するのに有効 なインプット情報が異なることを明らかにし,具 体的には,心的動詞には統語フレームという情報 を豊富に含む文が有効であることが分かった。 一方,動作動詞には統語フレームという情報が豊 富に含まれる文は有効ではなく,視覚的情報 (scenes)が含まれる文が有効であることが分かっ た。Snedeker らはこの結果について,動詞のタイ プによってその動詞が使用される文構造に違いが あることが関係しているのではないかと考察し た。例えば,動作動詞は自動詞文あるいはシンプ ルな他動詞文と共に使用される傾向があり,イン プット情報をそれほど含んでいない。そのため, このような動詞の意味を推測するのにも統語フ レームという情報はあまり役に立たず,言語外の 視覚的情報が有効になってくることが考えられ る。一方,心的動詞は前置詞を伴った句(pre-positional phrases) や about, away, along などの小 詞 (particles9)), 文の補部 (sentence complement) で

使用されることが多く,これらの要素を含む文は 多くの情報を備えている。そのため,Snedeker ら は,このような動詞の意味を推測するのにも統語 フレームという情報を含む文が有効であったとい う結果が得られたのではないかと結論づけた。 以上のように,項が頻繁に省略される日本語や 韓国語の動詞の学習について調査した研究(e.g., Imai et al., 2005;Arunachalam et al., 2013) におい て,そのようなインプットを日頃から受けている 子どもには,インプット情報の量が少ない方が, 言語の学習に有効なことが明らかになった。ま た,動詞のタイプによって共に使用される文構造 が異なる英語の動詞の学習について検討した研究 (e.g., Snedeker & Gleitman, 2004) において, ある 動詞が特定の構造で頻繁に使用されている場合, その動詞の意味を推測する際,頻繁に共に使用さ れている構造の情報が役に立つということが示唆 された。これらの研究結果から,動作動詞は自

8) 英語では “John made an offer of money to Mary” の “made” のように,意味内容が “offer” 目的語に与えられ,動詞であ る “made” の意味自体はかなり希薄になっている。このよ うな意味の軽い動詞を軽動詞と呼ぶ。

9) 副詞の一部・冠詞・前置詞・接続詞・間投詞など語尾 変化のない品詞を指す。

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き出された。また,ある語の学習に不必要な情報 がインプットに含まれていた場合,その情報は 学習には有効にはたらかず,有効な情報のみがそ の語の学習にはたらくことから,対象の語を学習 するのに妥当な情報なのか否か (妥当性) もイン プット情報の有効性に関係していることが推測さ れた(e.g., 今井・針生, 2007;姜, 2013;Jiang & Haryu, 2013;Noble et al., 2011)。さらに,余剰な 情報で言語処理に負荷がかかってしまわないか (余剰性)が関係していることも考えられた。こ れは,不必要な情報がインプットに含まれていた 場合,対象の語の学習に必要でない情報は,情報 処理容量が限られた子どもの情報処理に負担をか けてしまうという先行研究(e.g., Lidz et al., 2009) から導き出された。そのため,本節では,イン プット情報の有効性に影響を及ぼしていると考え られるこの三つの経験的要素についてまとめる。 まず,日本語の動詞のカテゴリーの学習を調査 した Imai et al.(2006),そして韓国語の動詞の意 味 の 学 習 に つ い て 調 査 し た Arunachalam et al. (2013)から,子どもの普段のインプット情報と なるものが頻繁に出現するかどうかが,その情報 が学習に役に立つか否かを決める重要な要素にな ることが示唆された。Imai et al. (2006) は, イン プット情報となる項が省略されない英語の場合, その動詞のカテゴリーを学習する英語母語児は統 語フレームとしてのインプット情報が豊富な文を 有効に利用するが,項が頻繁に省略される日本語 の場合,その動詞のカテゴリーを学習する日本語 母語児は統語フレームというインプット情報が少 ない文を有効に利用していたことを明らかにし た。また, 他動詞の意味の学習には, Arunachalam and Waxman (2010) で見たように “The boy is pilikng the ballon” のようなインプット情報が豊富な文の 方が,“He is pilking it” のようなインプット情報 が少ない文よりも有効であることが英語を対象に した研究で示されている。それにもかかわらず, 韓国語の他動詞の意味の学習におけるインプット 情報について調査した Arunachalam et al. (2013) は,インプット情報が少ない動詞のみの文の方 が,主語と目的語が揃った,インプット情報が豊 富な文よりも新奇動詞の意味の学習に有効であっ たことを報告している。この理由として,これら の言語では項が頻繁に省略され,項が普段のイン 処理容量が限られた子どもにとっては余剰な情報 となってしまい,対象の語の学習に負荷を与えて しまうと述べている。このことから,項の意味的 な内容が豊富な名詞の文よりも,その情報が少な い代名詞の文の方が,余剰な情報が少なく,動詞 そのものに注目しやすいのではないかと結論づけ られている。 以上の研究から,言語の学習にはインプット情 報が余剰かどうかも関係し,情報が多く,加え て,その情報が対象の語を学習するのに特に必要 不可欠なものではない場合,それは余剰な情報と なり,子どもの言語処理の負荷となってしまう。 その結果,対象項目の学習を阻害する可能性があ ると推測される。ここから,インプット情報の量 の有効性には余剰性も関連し,余剰性が低いイン プット情報が有効な役割を果たすことが推察され る。ただし,ここで重要となるのは,情報が多い ことが言語の学習において言語処理の負荷になっ てしまうということではなく,情報が多くとも, それらの情報がその対象の言語項目を学習する際 に必要不可欠な情報であれば,それは依然として 言語学習を促進する。しかし,ここでいう余剰性 が高いというのは,必要不可欠な情報のことでは なく,特に必要ではない情報のことである。この ような必要でない情報が多い場合,それは子ども の言語処理に負担を与え,結果として対象の言語 項目の学習を妨げてしまう可能性が考えられる。

5.学習項目に合った

インプット情報量の有効性

言語学習においてインプット情報の量が豊富な 文が役に立つ語と,それが必ずしも役に立たない 語,そして,インプット情報の少ない文がむしろ その学習に役に立つ語があることが示唆された。 どのような語の学習にどれほどのインプット情報 の量が有効にはたらくのかについて,子どもが普 段耳にするインプットに頻出するかどうか(頻出 性)が関係していることが推察された。これは, 上で概観した先行研究から,日常のインプットに おいて,言語対象の語が頻繁にあるインプット情 報をともなって出現する場合,その情報はその語 の学習に有効であったことを示す先行研究(e.g., Arunachalam et al., 2013;Imai et al., 2005) から導

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るのに有効な役割を果たさないものになってしま う。ここから,あるインプット情報が有効かどう かを決める二つ目の重要な要素としては,それが 対象の語を学習するのに妥当性の高いインプット 情報である必要があることが示唆された。 自動詞の意味の学習について検討した研究から はさらに,インプット情報が妥当でない情報だっ た場合,その情報は余剰なものとなってしまい, それが子どもの情報処理に負荷を与え,結果とし て対象の語の学習を阻害してしまうことも示唆さ れた(Lidz et al., 2009)。ここから,インプット 情報の有効性に関しての三つ目の重要な要素とし ては余剰性の高さが挙げられ,インプット情報の 余剰性が低い方が,対象の語の学習に有効である と考えられる。以上のインプット情報の有効性, それが有効にはたらく語,またその有効性に影響 していると考えられる要素(頻出性・妥当性・余 剰性)を表 2 にまとめる。 例えば,表の左側から見ていくと,まず,言語 情報が豊富な文が有効にはたらく学習対象の語に は,英語の形容詞,英語の他動詞があり,統語的 情報と意味的情報が豊富に言語情報に含まれてい る場合,その学習が促進される。この場合,豊富 なインプット情報に含まれた統語的情報と意味的 情報は,頻繁に出現し,対象の語を学習するのに 妥当な情報である一方,余剰な必要でない情報は 含んでいないため,頻出性と妥当性が高く,余剰 性が低いと言える(e.g., Arunachalam & Waxman, プットに現れないため,子どもがそれを利用でき なかったと考察された。このことから,あるイン プット情報が有効かどうかは,学習対象の語とと もにインプット情報が頻繁に出現するかどうか, といった頻出性が重要な要素であり,頻出性の高 いインプット情報が語の学習に有効にはたらくと いうことが示唆された(e.g., Snedeker & Gleitman, 2004)。 次に,自動詞の意味の学習について調査した研 究からは,インプット情報が学習対象の語を学習 するのに適切で妥当な情報であるのか否か,すな わちその情報を利用することで効率よく正確に対 象の語を学習できるかどうかが,そのインプット 情報が学習に役に立つかを決める重要な要素にな ることが明らかになった。Noble et al. (2011) で は英語の自動詞と他動詞,今井・針生(2007)は 日本語の自動詞,Jiang and Haryu (2014) では中 国語の自動詞の学習における統語フレームとして のインプット情報の役割をそれぞれ調査し,自動 詞の学習に統語フレームの情報は有効な役割を果 たしていないことを報告した。その原因として, 自動詞が出現する文は必ずしも非使役事象のみを 表すわけではなく,統語フレームの情報を利用し ても正確に自動詞を学習できるわけではないこと が指摘されている。そのため,統語フレームとし てのインプット情報は学習対象の動詞が自動詞な のか他動詞なのかを区別するのに妥当性が低いも のとなってしまい,情報として対象の語を学習す 表 2 インプット情報の有効性に関する先行研究のまとめ インプット 情報の量 有効性 学習対象の語 インプット情報の詳細 言語情報の 頻出性・妥当性・ 余剰性 代表的な研究 インプット 情報豊富な文 有効 - 英語の動詞, 形容詞等: 語のカテゴリー - 英語の他動詞:語のカテゴ リー・使役性・語の意味 統語フレーム, 形態的情報, 項の 意味的な内容

例: Noun-Verb-Noun: “The boy is pilking a ballon” 頻出性↑ 妥当性↑ 余剰性↓ Naigles (1990), Imai et al. (2006), Yuan & Fisher (2009), Arunachalam & Waxman (2009, 2010) 等 有効で ない - 英語, 日本語, 中国語の 自動詞:使役性 - 日本語の動詞: 語のカテゴリー - 英語の自動詞:語の意味 形態的情報, 統語フレーム 例: Noun-Noun-Verb “The duck and

the bunny are blicking”,「クマ とウサギがねけっている」 項の意味的な内容

例: Noun-Verb: “The boy is pilking”

頻出性↑ 妥当性↓ 余剰性↑

Nobel et al. (2011), 今井・針生 (2007), Jiang & Haryu (2014), Lidz et al. (2009) 等 インプット 情報少ない文 有効 - 日本語の動詞:語のカテゴ リー - 韓国語の他動詞:語の意味 - 英語の動作動詞:語の意味 統語フレーム 例: Verbs:「ねけっている」, “라피고 있어”, “push” 等 頻出性↓ 妥当性↓ 余剰性↑ Imai et al. (2006), Arunachalam et al. (2013), Snedeker & Gleitman (2004) 等

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スに大別でき,内容語の学習のメカニズムについ ては上で見てきたように様々な研究がなされてき たが,機能語の学習も非常に重要なものである。 特に,Imai et al. (2006) で検討がなされた日本語 母語児の動詞のカテゴリーの学習において,機能 語である接尾辞の「∼している」が形態的情報と なってその動詞のカテゴリーの学習を助けていた こと,また,Matsuo et al. (2012) でも日本語の他 動詞の学習には統語フレームに形態的情報として の格助詞が加わることで他動詞の学習に有効な役 割を果していたことから,機能語はそれ自体が内 容語の学習を助けるインプット情報としてはたら いているといえる (e.g., Matsuo et al., 2012)。

このように機能語が内容語の学習の助けになる ことが報告されている一方で,機能語そのものは どのように学習されるのか,何らかの情報を頼り に学習がなされているのかについては充分な調査 がなされていない。言語の学習に妥当性・頻出 性・余剰性が関連しているということは内容語に 限ったことでなく機能語にも見られるのだろう か。もし機能語の学習においてもインプット情報 となるものが存在し,それが有効にはたらくので あれば,それはどのような機能語に有効で,内容 語の学習に見られたように,学習対象の機能語や 言語によって有効となる情報の量も異なってくる のだろうか。 6.1 インプット情報が豊富な文が果たす役割 機能語の学習にも,子どもは何らかのインプッ ト情報を有効に利用しているのか, という点を 調査した数少ない研究として Landau and Stecker (1990) と Fisher et al. (2006) がある。これらの研 究では英語の前置詞が対象になっており,統語フ レームが前置詞と名詞の区別に有効か否かについ て検討がなされている。その際,子どもが文中の 新奇語の位置という統語フレームの情報,形態素 との共起という形態的情報を含めた統語的コンテ クスト (syntactic context)10)を利用するかどうかに

2009, 2010;Naigles, 1990;Imai et al., 2006;Yuan & Fisher, 2009)。同様に,例えば,言語情報が豊 富な文が有効でない学習対象の語には,英語・日 本語・中国語の自動詞があり,そのインプット情 報に含まれる統語的情報は学習を促進しない。こ の場合,統語的情報は,省略などはないため頻出 性は高いものの,対象の語の学習を学習するのに 妥当ではない情報であるため妥当性は低く,妥当 な情報ではない不必要な余剰な情報が含まれてい るため,余剰性が高いと言える (e.g., 今井・針 生, 2007;Jiang & Haryu, 2014;Noble et al., 2011)。 このように,表 2 にはインプット情報の有効性と 頻出性・妥当性・余剰性をまとめている。 先行研究から,あるインプット情報が有効な場 合,その情報は省略されず頻繁にインプットに出 現する必要があり (頻出性高い),その情報を利 用することで効率よく正確に対象の語を学習でき る情報である必要(妥当性高い)がある。また, そのインプット情報は情報として余剰性が低いこ とも重要であり,頻出性と妥当性が高く,余剰性 は低いという三つの条件が内容語を学習する際の インプット情報の有効性に関係していると考えら れる。 以上で得られた,インプット情報が豊富な文 が,どの言語,そして言語項目の学習においても いつも有効であるとは限らないという結論(e.g., Arunachalam et al., 2013;Imai et al., 2005)からは さらに,言語学習には言語入力,すなわちイン プットが重要であることが推察される。このこと はつまり,学習対象の言語や言語項目によって 有効なインプット情報が異なるということは,子 どもは自分たちが学習する言語や言語項目の入力 から,適切なインプット情報を見極め,それを有 効に利用しているということである。ここから, 学習対象の言語のインプットの重要性が示唆さ れる。

6.機能語の学習における

インプット情報の役割

語には上述した動詞や名詞などの内容語のみで なく,文中の,あるいは文どうしの間の文法的関 係を示す語である,前置詞・後置詞,接尾辞,冠 詞などの機能語が存在する。語はこの二つのクラ

10) Fisher et al.(2006)では syntactic context という語を使っ ており,新奇語の位置,すなわち本論文でいう統語フレー ム,また,新奇語が名詞であった場合,その名詞としての 新奇語の前に置かれた冠詞 “a” (形態的情報) を指す。これ らの情報を合わせて syntactic context という用語が使われて おり,本稿ではこれを日本語訳した「統語的コンテクスト」 という用語を用いる。

表 1 インプット情報の定義と学習の対象 インプット情報 学習の対象 具体例 項の位置と数,文の構造 動詞の使役性 (自動詞・他動詞等) 使役性の同定他動詞文:

参照

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