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進行食道癌による嚥下障害に対して鹿野式声門閉鎖術を施行した 1 例

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Academic year: 2021

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(1)耳鼻. 66:68∼73,2020. 症例報告. 進行食道癌による嚥下障害に対して鹿野式声門閉鎖術を施行した 1 例 豊 田 貴 一*,**・ 鈴 木 元 彦*,**・. 佐 藤 慎太郎 ・ 岩 﨑 真 一* ・. 江 崎 村 上. 伸 一* 信 五*,**. 誤嚥防止手術は重度の嚥下障害に対する外科的治療として神経変性疾患や脳血管疾患 の患者に広く行われてきたが、根治を望めない担癌患者における報告は少ない。今回われ われは食道癌による通過障害に対して誤嚥防止術として鹿野式声門閉鎖術を行った。症 例は 62 歳、男性である。根治不能な食道癌 Stage Ⅳ症例による通過障害に対して食道バ イパス術を施行したが、術後に両側反回神経麻痺による誤嚥性肺炎が出現して経口摂取が 再開できない状態であった。本人の強い希望により誤嚥防止手術として声門閉鎖術を施 行し、食道癌担癌状態であるため食形態には制限はあるものの経口摂取が可能となった。 術後半年にて原病死されたため経口摂取可能期間は短期間ではあったが、末期患者におけ る quality of life(QOL)の改善に誤嚥防止術が寄与した症例であると考えられた。. キーワード:誤嚥防止手術、鹿野式声門閉鎖術、担癌、食道癌. はじめに 医療の進歩に伴い、重度心身障害児あるいは慢. 症. 例. 症例:62 歳、男性. 性の神経疾患症例でも以前に比較して長期間の生. 主訴:嚥下困難. 存を維持することが可能になってきている。しか. 現病歴:X − 6 カ月頃から嚥下困難を自覚する. し、それらの症例ではしばしば繰り返す誤嚥性肺. ようになり、X − 2 カ月に摂食・飲水ともに通過. 炎が生命予後に影響を及ぼすことがあり、そのコ. し辛さが増悪傾向となったため名古屋市立東部医. ントロールのために誤嚥防止手術が広く行われて. 療センター(以下、当院)耳鼻いんこう科(以下、. いる。術式も従来の喉頭摘出術、喉頭気管分離術. 当科)を受診した。. に加え、近年では鹿野らの報告した声門閉鎖術 (鹿 1),2). 野式声門閉鎖術). も普及してきている。一方. 生活歴:喫煙:20 − 40 歳 − 62 歳. 20 本/日、飲酒:20. ビール 2,000 mℓ/日. で頭頸部から上部消化管にかけての癌症例に対し. 既往歴・家族歴:特記なし. ては、癌そのものの治療として喉頭摘出術などが. 経過 1:鼻咽腔ファイバー所見も含め咽喉頭に. 施行されることはあるものの、根治性の望めない. 特記所見を認めなかった(図 1 ) 。頸胸造影 CT. 担癌症例において誤嚥防止のみを目的として手術. を撮影したところ、上部食道に全周性の腫瘍性病. が行われた報告は少数である。今回われわれは進. 変を認め、気管内浸潤を伴っていた。当院消化器. 行食道癌症例の嚥下障害に鹿野式声門閉鎖術を施. 内科および呼吸器内科にコンサルトし、以下の所. 行した患者を経験したので報告する。. 見が得られた。. * 名古屋市立大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室、** 名古屋市立東部医療センター耳鼻いんこう科 別刷請求:〒 467-8602 愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄 1 番地 名古屋市立大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室 豊田貴一.

(2) 豊田他=進行食道癌による嚥下障害に対して鹿野式声門閉鎖術を施行した 1 例. 図1. 初診時の喉頭ファイバー所見 腫瘍等は認めず声帯固定も認めなかった。. 図3. 図2. 69. 治療前の上部消化管内視鏡所見 切歯から 20 − 30 cm の胸部上部食 道において全周性腫瘍(矢頭に囲ま れた領域)により狭窄している。. 治療前の気管支内視鏡所見 気管分岐部から口側 2 cm の膜様部に腫瘍浸 潤を認める(矢頭に囲まれた領域)。. 上部消化管内視鏡:切歯から 20 − 30 cm の食. 放射線療法(5FU + CDDP[FP]併用、放射線量. 道内に全周性の 2 型腫瘍病変を認めた。同部位か. 60 Gy 根治照射予定)を開始した。この段階では. ら施行された組織生検にて高分化型扁平上皮癌の. 照射の感受性が良好であれば照射終了後に根治手. 病理診断を得た(図 2 ) 。. 術の施行も検討されていた。X + 1 月には食道狭. 上部消化管造影:胸部上部食道に 76 ㎜の全周 性狭窄像を認めた。 気管支内視鏡:切歯から 24 cm の気管内およ. 窄で経口摂取が不十分となり、経管栄養のみの状 態となった。また、同時期に腫瘍浸潤による左反 回神経麻痺と思われる左声帯固定が出現し、誤嚥. び、気管分岐部から 2 cm で腫瘍の浸潤像を認め. 性肺炎を繰り返すようになった。X + 2 月初旬、. た(図 3 ) 。. 40 Gy 照射時点で治療効果判定が行われ、根治手. 経過 2:当院消化器内科入院の上 X 月より化学. 術の適応はなしと判断された。しかしながら、こ.

(3) 70. 耳. 図4. 図5. 鼻. と. 臨. 床. 術後の嚥下造影検査所見 声門の縫合部瘻孔形成なく(矢頭) 、造影剤の通過もスムーズであった。. 鹿野式声門閉鎖術の概要 a .皮膚切開線を示す。 b .甲状軟骨および輪状軟骨を斜線の範囲で鉗除する。 c .甲状軟骨内軟骨膜および輪状甲状膜を明視下に置く。 d .第 1 気管輪直上を水平方向に切開し、同部に気管内挿管チューブを留置する。 e .甲状軟骨内軟骨膜および輪状甲状膜を正中で切開する。 f .喉頭粘膜を正中より声帯下面に沿って後方へ切開する。 g .切開線上に現れる披裂軟骨は上下に離断する。 h .披裂軟骨、両声帯粘膜を縫合することで声門を閉鎖する。 i .声門閉鎖部下方と気管孔との間の死腔を一側の胸骨舌骨筋弁で充填する。 j .斜線部で示した範囲で粘膜上皮を剥離し除去する。 k .軟骨膜弁を皮弁の裏へ(矢印方向)移動し固定する。 l .皮弁を輪状後部の粘膜に連続して縫合することで気管孔の側方を作成する。. 66 巻. 3号.

(4) 豊田他=進行食道癌による嚥下障害に対して鹿野式声門閉鎖術を施行した 1 例. の時点で本人から経口摂取に対する強い希望が. 71. 5 )1),2)。. あったため、X + 2 月中旬当院外科にて姑息的な. 一方で誤嚥防止手術の適応については、誤嚥を. 胃管による頸部食道胃バイパス術を前胸骨法で施. 防止することで生命予後の改善が期待される重度. 行された。術翌日に元々あった左声帯固定に加え. 心身障害児あるいは慢性の神経疾患症例が想定さ. て右声帯固定も出現したため、気管切開が施行さ. れることがほとんどである6)。生命予後の期待で. れた。頸部食道胃バイパス自体は問題なく経過し. きない担癌患者の場合、残された時間の中で手術. たが、その後も誤嚥性肺炎を繰り返すため経口摂. という侵襲による quality of life(QOL)の低下も. 取再開には至らず、当科に誤嚥防止手術を依頼さ. 想定し得るため積極的な適応とは言い難く、過去. れた。そのため、X + 2 月末に当科にて鹿野式声. の報告もいくつか散見される程度である6)-8)。し. 門閉鎖術を施行した。. かし、残された時間において誤嚥性肺炎の防止や. 術中所見:定型どおり喉頭截開し声門下レベル. 経口摂取を可能とすることもまた QOL の改善・. で粘膜を全周性に横切開して上方を縫合して盲端. 維持であり、症例によっては誤嚥防止手術の一つ. とした。輪状軟骨の弓部を鉗除し、既存の下位気. となり得ると考えられる。今回われわれは予後の. 管切開まで繋げ永久気管口とした。気管口作成の. 限られた根治不能な進行食道癌症例に対し、患者. 途中、気管より左外側にバイパスの胃管の大網の. 自身の経口摂取への強い希望により誤嚥防止手術. 一部を確認し、これを損傷しないよう永久気管口. へ踏み切った。術式としては喉頭気管分離術、声. を正中よりやや右側に形成した(図 4:術後嚥下. 門閉鎖術を検討した。声門閉鎖術と喉頭気管分離. 造影検査、図 5:術式図解) 。. 術の長所短所について比較した報告は少ないが、. 術後経過:術後 1 カ月から 2 カ月の間は卵豆腐. 岩橋らは喉頭気管分離術、特に Lindeman の原法. や少量の飲水が可能となり、いったん療養型病院. において縫合不全が起きた際の感染リスクを考え. へ転院となった。その後は気管浸潤が増悪し術後. て声門閉鎖術を選択したと報告している9)。また. 半年で気管ステント留置のため入院となり、2 カ. 長井らは、声門閉鎖術については禁忌として声門. 月後に呼吸状態が悪化して永眠された。. 癌を挙げており、喉頭気管分離術については禁忌. 考. にまでは至らないものの適応困難として気管の変. 察. 形もしくは硬化がある例や上位気管切開例を挙げ. 誤嚥防止手術には、19 世紀に喉頭腫瘍に対する. ている10)。本症例は胃管バイパス術後で胃管が. 手術として開発された喉頭摘出術、1975 年に相次. 頸部下方で気管前面に位置する状態となっている. 3). いで発表された Lindeman の喉頭気管分離術 、. ことから、長井らの挙げている気管の変形に類似. Montgomery の声門閉鎖術4)などいくつかの術式. した状態であったと考えられる。また、胃管と気. が臨床の場で施行されている。このうち Mont-. 管の交差する部位の周囲を操作することで感染の. gomery の声門閉鎖術では、Lindeman の喉頭気. リスクの上昇も考えられ、既に置かれていた気管. 管分離術に比較すると盲端となる部位の閉鎖不全. 切開部より頭側の甲状軟骨・輪状軟骨レベルの操. の頻度が若干高くなることから、従来は喉頭気管. 作のみで可能な声門閉鎖術を選択した。声門閉鎖. 5). 分離術を選択する施設が多く報告されていた 。. 術は前述の Montgomery の報告以来原法の弱点. しかし、これまで声門閉鎖術における閉鎖不全を. を補うべく術式が改良されてきており、中でも鹿. 克服するため術式の改良が重ねられてきており、. 野式声門閉鎖術では後方の縫合不全を防ぐ工夫が. 本邦では鹿野の報告した術式による声門閉鎖術が. なされている。また、鹿野式声門閉鎖術は局所麻. これまでの声門閉鎖の欠点を克服し閉鎖部の離開. 酔でも可能な方法であり侵襲が比較的少ないこと. が 起 き に く い 術 式 と し て 普 及 し つ つ あ る(図. も大きな長所である。石永らは本症例と同様に、.

(5) 72. 耳. 鼻. 食道癌根治術後再発の担癌患者の嚥下障害に対し 鹿野式声門閉鎖術を選択した症例を報告してい 7). と. 臨. 床. 66 巻. 3号. 謝辞 本論文作成にあたり、鹿野式声門閉鎖術をご指. る 。その症例も本症例と同様に声門閉鎖術後 4. 導いただき、また、手術術式シェーマを貸与いた. カ月の生存期間中、1 カ月間は少量の経口摂取を. だいた鹿野真人先生(大原綜合病院耳鼻咽喉科頭. できたとされている。本症例と石永らの 2 例を踏. 頸部・顔面外科)に深謝申し上げます。. まえると、予後が限られる末期担癌症例であって. 文. も誤嚥性肺炎を繰り返す症例では、本人の希望も 考慮しつつ誤嚥防止手術を検討しても良いのでは ないかと考える。 62 歳の進行食道癌担癌患者に対し、誤嚥性肺炎 の防止と経口摂取の再開を目的として鹿野式声門. 1) 2) 3). 閉鎖術を施行した。限られた予後の間ではあった が経口摂取を再開することが可能となった。誤嚥 防止手術の適応は重度心身障害児あるいは慢性の 神経疾患症例が想定されることが多いが、生命予 後の期待できない担癌患者において誤嚥性肺炎の. 4) 5) 6). 防止や経口摂取を可能とすることで QOL の改 善・維持に寄与する場合もあり、症例によっては 誤嚥防止手術の適応となる場合があると考えられ た。 本論文について申告すべき利益相反を有しな い。 本論文の要旨は第 39 回口腔・咽頭科学会総会 (2018 年 9 月 13 日、名古屋)で口演した。. 7) 8). 9) 10). 献. 鹿野真人 他:長期臥床例に対する輪状軟骨鉗除を併 用する声門閉鎖術.喉頭 20:5-12,2008. 平位知久 他:喉頭気管手術における輪状軟骨鉗除の 意義.日耳鼻 118:1233-1240,2015. Lindeman RC: Diverting the paralyzed larynx − A reversible procedure for intractable aspiration −. Laryngoscope 85:157-180, 1975. Montgomery WW:Surgery to prevent aspiration. Arch Otolaryngol 101:679-682, 1975. 後藤理恵子:誤嚥防止手術−気道食道分離術−.口 咽科 18:337 − 340,2006. 長井美樹:根治不能な中咽頭癌症例の重度嚥下障害 に対する声門閉鎖術の有用性.頭頸部癌 39:229, 2013. 石永 一他:担癌患者に行った誤嚥防止手術の検討. 嚥下医学 1:61-67,2012. Sasaki CT et al:Surgical Closure of the larynx for intractable aspiration. Arch Otolaryngol 106: 422-423, 1980. 岩橋由佳 他:誤嚥に対する声門閉鎖術の検討.日気 食会報 51:17-21,2000. 長井美樹 他:当センターにおける誤嚥防止術として の声門閉鎖術の検討.大阪府総医医誌 35:29-32, 2012. (受付. 2020 年 1 月 16 日、受理. 2020 年 1 月 23 日).

(6) 豊田他=進行食道癌による嚥下障害に対して鹿野式声門閉鎖術を施行した 1 例. Preventive surgery against aspiration for a patient with uncurable esophagus cancer Kiichi TOYOTA*,**, Shintaro SATO, Shin-ichi ESAKI*, Motohiko SUZUKI*,**, Shin-ichi IWASAKI* and Shingo MURAKAMI*,** * Department of Otolaryngology, Head and Neck Surgery, Nagoya City University, Medical School, Nagoya 467-8602, Japan **Department of Otolaryngology, Nagoya City East Medical Center, Nagoya 464-8547, Japan Aspiration pneumonia occurs in patients with severe neurodegenerative disease and neurovascular disease, as well as occurs in patients with head and neck cancer, esophagus cancer, and lung cancer. Preventive surgery against aspiration is usually performed for patients with severe neurological disease, but is rarely done for patients with untreatable cancer. We herein report a case of preventive surgery against aspiration for a patient with unresectable cancer. A 62-year-old man with stage IV esophagus cancer underwent esophageal-gastric bypass surgery to allow him to eat while avoiding obstruction due to the tumor mass. However, since the cancer had already induced bilateral recurrent laryngeal nerve palsy, he always suffered from aspiration pneumonia. His repetitive pneumonia stopped after surgery with subglottic laryngeal closure. He was then able to eat food without any concerns regarding aspiration pneumonia. He ultimately died of esophageal cancer six months after undergoing preventive surgery. However, the patient's quality of life clearly improved after undergoing preventive surgery.. 73.

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図 4 術後の嚥下造影検査所見 声門の縫合部瘻孔形成なく(矢頭)、造影剤の通過もスムーズであった。 図 5 鹿野式声門閉鎖術の概要 a .皮膚切開線を示す。 b .甲状軟骨および輪状軟骨を斜線の範囲で鉗除する。 c .甲状軟骨内軟骨膜および輪状甲状膜を明視下に置く。 d .第 1 気管輪直上を水平方向に切開し、同部に気管内挿管チューブを留置する。 e .甲状軟骨内軟骨膜および輪状甲状膜を正中で切開する。 f .喉頭粘膜を正中より声帯下面に沿って後方へ切開する。 g .切開線上に現れる披裂軟骨は上下に離断する

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