• 検索結果がありません。

理系学生による英語プレゼンテーションの実践

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "理系学生による英語プレゼンテーションの実践"

Copied!
10
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

理系学生による英語プレゼンテーションの実践

藤井浩美(FUJII Hiromi)

阿南工業高等専門学校 Abstract

In 2018, the KOSEN National Institute of Technology, Japan introduced the Model Core Curriculum (MCC) as a guideline specifying the technical, basic, and specialized knowledge that all students at KOSEN should aim to achieve. The MCC emphasizes the necessity for students to achieve a certain level of English skills to communicate in a global society. To help students attain that goal, presentations, debates, and discussions in English are conducted based on the level of English. This study focuses on an English class wherein each student was asked to make two presentations in English. Although all 31 of the students had little prior experience in giving English presentations, their progress was impressive. In particular, the results revealed that they learned effective presentation skills by observing the presentations of their peers. Based on the findings drawn using five evaluation points and feedback from students, we have made recommendations that could help improve their English communication skills.

キーワード:モデルコアカリキュラム(MCC),英語運用能力,英語プレゼンテーション 1.はじめに 東南アジア諸国をはじめとする開発途上国の急激な経済・工業発展を支える上で,科学技 術に関する専門的知識とスキルを 15 歳という早期から学び,身に付けてきた高等専門学校 (以下,高専)卒業生への期待は近年ますます高まっている。そのような流れのなか,全国 に 51 ある国立高専を統括する国立高等専門学校機構(高専機構)は,国立高専のすべての学 生に到達させることを目標とする最低限の能力水準・修得内容として,モデルコアカリキュ ラム(MCC)を導入した。これは全国に 51 ある高専キャンパスのどこで学んだ学生であっても 共通に身に付けるべき学習内容であり,平成 24 年度に試案が発表され,平成 30 年度からは 本格実施となった。 モデルコアカリキュラム・ガイドライン(2017)には,高専生の英語到達目標として, ・英語運用の基礎となる知識や技能を習得し,実際の場面での英語の使用に役立てることが − 31 −

(2)

できる。 ・相手と英語でコミュニケーションを図ろうとする態度や異文化を理解しようとする姿勢を 身に付け,実際の場面での英語の使用に役立てることができる。 ・日常生活や自分の身近なことについて,ある程度の的確さ,流暢さ,即応性をもって内容 を聴解,読解,伝達できる。 ・社会性のある話題や自分の専門に関する基本的な情報や考えについて,内容の聴解,読解, 伝達に加え,簡単な意見交換ができる。 (p.49 下線筆者) が掲げられており,単に英語を使ったコミュニケーション能力育成にとどまらず,実践的で より具体的な場面での英語使用,いわゆる英語運用能力の育成が強調されていることがわか る。さらに,このガイドラインには,英語運用能力を向上させるための具体的方策・手段と して,授業においては,英語でのプレゼンテーション,ディベート,ディスカッションなど を学生の発達レベルに応じて段階的に取り入れるように明記されている。 MCC の試案が発表されて以降,全国の高専では英語プレゼンテーションを授業に取り入れ る動きが活発になり,その実践は特色ある英語教育の取り組みと位置づけられるようにもな っている(奥崎他 2015,小林 2018)。特に,クラスサイズが小さく,英語によるプレゼンテ ーションができる程度の英語力を備えている専攻科学生を対象とした実践が多い。 しかしながら,英語運用能力向上の重要性や,その具体的手段として英語によるプレゼン テーション,ディベートなどの有効性は認識しつつも,実際の授業においては,様々な制約 から英語運用力を伸ばすための十分な実践ができていないことも事実である。制約の一つと しては,クラスサイズと評価の問題が挙げられる。例えば,高専本科(1 年生〜5 年生)のク ラスサイズは,平均 40 人程度である。プレゼン授業の最適サイズは 20 人程度が望ましい, という実践報告もあるように(重光他 2016),40 人というクラスサイズは,限られた授業 時間で英語プレゼンテーションを試みるには大きすぎる感がある。また,「誰が」「どのよ うに」など,効果的な評価法やフィードバックの仕方についても十分に検討する必要がある。 本稿では,高専生(専攻科 1 年生)による 2 回の英語プレゼンテーション実践の成果につ いて論じる。特に,実践を通じての受講生の変容や振り返りコメントに着目することで,英 語プレゼンテーション実践を行う際に,クラスサイズや評価の在り方など想定される問題点 にどのように対処すべきかについて考察する。さらに,MCC の観点から実践を振り返るとと もに,今後の課題について言及する。 2.英語プレゼンテーション実践 2.1 授業概要 本実践は高専専攻科 1 年生(31 名)対象の必修科目「工業英語」の授業において実施した。 授業の目標を,「自分の考えや意見を英語で的確に相手に伝える発信型英語能力を向上させ る。そのために必要となる英語によるプレゼンテーションの基本構造・表現の習得を目指す。」 と定め,授業では,実際に受講生に英語プレゼンテーションを 2 回行わせた。また,受講生 には,この英語プレゼンテーション実践は,単なる英語でのスピーチ活動の域を超えたもの, − 32 −

(3)

つまり,一方的な考えや意見の伝達にとどまらず,高専生に将来にわたって必要とされる, 聞き手の立場を尊重した,より実践的な英語使用を想定したものであることを伝えた。 本授業では,「動画で学ぶ英語プレゼンテーション(成美堂)」をテキストとして使用し た。このテキストは 3 部構成となっている。パート 1 では,プレゼンテーションの目的や構 造,プレゼンテーションの基本的なスキル(アイコンタクトやジェスチャー)などが取り上 げられている。パート 2 およびパート 3 では,プレゼンテーションのタイプが 8 つに分類さ れ,それぞれの特徴や違いが具体的に把握しやすいように,タイプごとにモデルトピックが 示されている。 なお,テキストで取り上げられているプレゼンテーションのタイプおよびモデルトピック の例は表 1 に示す通りである。授業の評価は,定期試験 50%,課題 20%,発表(プレゼンテ ーション)30%とした。 表1. プレゼンテーションタイプとトピック例 タイプ トピック例 列挙型 新しい言語を学ぶ 3 つのコツ など 分類型 コンピューターの種類と特徴 など プロセス型 アプリのダウンロード方法 など 調査・報告型 学内調査報告 など 説得型 新キャンパスの利点 など 問題解決型 交通渋滞の問題点と解決策 など 原因・結果型 睡眠不足の原因と結果 など 比較対照型 日本語語彙学習に有効な 2 冊の本 など 2.2 授業計画と授業の流れ 表 2 は,本実践の授業計画である。ほとんどの受講生が英語によるプレゼンテーションの 経験を有していなかったことから,全 15 回の授業のうち,最初の数週間の授業では英語プレ ゼンテーションの基本的な構造,特に,プレゼンテーションの目的に合わせたプレゼンテー ションタイプの選択技術,効果的なジェスチャーやアイコンタクトの仕方,また視覚資料の 利用と引用文献の提示方法などを学習した。 3 週目から 6 週目の授業,および,中間試験後の 10 週目から 13 週目の授業では,列挙型, 分類型,プロセス型,調査型,説得型・問題解決型,原因・結果型,比較対照型のプレゼン テーションを,毎授業で 1 タイプずつ取り上げ,テキストに掲載されたモデルトピックをも とにそれぞれの特徴を学習した。特に,プレゼンテーションを行う目的によって,選択すべ きプレゼンテーションのタイプを適切に選択することの必要性や重要性に焦点をあてた。 授業の流れとしては,まずは,その週で取り上げたプレゼンテーションのタイプの特徴を, モデルトピックを用いてつかみとることから始めた。特に,Introduction-Body-Conclusion とい う論の展開,接続詞の使用などに着目させた。その後,モデルトピックを使ったプレゼンテ ーションの実践を DVD で視聴し,視聴後には,受講生自身がモデルトピックを使って実際に プレゼンテーションを行う練習時間を確保した。 − 33 −

(4)

表 2. 授業計画 週 内容 週 内容 1 プレゼンテーションの構造 10 説得型プレゼンテーション 2 プレゼンテーションのスキル 11 問題解決型プレゼンテーション 3 列挙型プレゼンテーション 12 原因・調査型プレゼンテーション 4 分類型プレゼンテーション 13 比較対象型プレゼンテーション 5 プロセス型プレゼンテーション 14 プレゼンテーションの準備 6 調査・報告型プレゼンテーション, 評価について 15 プレゼンテーションの実践 2 7 プレゼンテーションの準備 8 プレゼンテーションの実践1 9 中間試験 授業のまとめとしては,その週の授業で取り上げたプレゼンテーションタイプの英文原稿 の作成を課題として与えた。例えば,「良い友達の特徴」(列挙型プレゼンテーション)が モデルトピックとして取り上げられた週には「週末に楽しむ3つのこと」というトピックで の英文原稿作成を行わせた。

[Characteristics of good friendship]

Today, I’m going to talk about three characteristics of good friendship. First of all, good friends should be able to communicate with honesty. Next, good friends support each other during difficult times. Moreover, good friends respect each other’s strengths and weaknesses. In conclusion, honesty, supportiveness, and respect are the three characteristics of good friendship.

列挙型プレゼンテーションのモデルトピック:テキスト掲載(p.34) [Three things that I enjoy doing on the weekend]

Today, I’m going to discuss three things that I enjoy doing on the weekend. Firstly, playing badminton. I have been playing badminton since I was small. Nowadays, I receive many certificates of merit. Secondly, watching movies. I am partial to “horror movies”. Thirdly, climbing mountains. I climbed Mt.Ishizuchi, Mt.Kenzan and Mt. Miune. Scenery from top of the mountain is breathtaking beauty. In conclusion, playing badminton, watching movies and climbing mountains are three words that describe me well.

列挙型プレゼンテーション原稿(原文まま):受講生作成 2.3 プレゼンテーションの評価 本実践では,プレゼンテーションの評価項目として「アイデア・内容」「構成」「姿勢・ ジェスチャー・アイコンタクト」「デリバリー(声量・流暢さ)」「全体的な印象」の 5 つ の観点を設けた。これら評価項目は,1,2 週目の授業で学習したプレゼンテーションを行う 上での基本的スキル,および先行事例を参考にして定めたものである。また 6 週目の授業で は,プレゼンテーションの準備をするにあたり,よいプレゼンテーションとはどのようなも − 34 −

(5)

のかを受講生たちに具体的に意識させるために,これらの評価項目を受講生たちに説明する 時間を確保した。なお,プレゼンテーション本番での評価は,各項目 5 点(合計 25 点満点) として,ピアレビュー方式で行った。 2.4 第1回プレゼンテーション 第1回プレゼンテーションは,列挙型,分類型,プロセス型,調査・報告型プレゼンテー ションの中から選択させた。トピックについては,オリジナルのものが望ましいとしたが, テキストに収められたモデルトピックの使用も認めた。ただし,この場合は評価項目の「ア イデア・内容」「構成」については,最低点(1点)しか入らないことを周知した。結果的 には,すべての受講生がオリジナル原稿を作成して本番のプレゼンテーションに臨んだ。受 講生が作成したプレゼンテーション原稿は,それぞれ列挙型 18 件,分類型 8 件,プロセス型 5 件であった。

[Reasons why I want to study English]

In this presentation, I’m going to talk about 3 advantages you can get if you are good at English. First, you can get more information. There are so many articles only written in English on the Internet. If you want to know something deeply, studying English is one of the best way. Second, English skills make your hobbies more enjoyable. If you understand the meanings of English lines of movies, or lyrics of the songs, or names of videogame characters, you can empathize with them more. And last, if you are good at English, your score of English exam will be better. This is the most important part of studying English for us the students. English skills give us a wide perspective. Making clear the what advantage you want to get by studying English, your English skills will easily grow.

列挙型プレゼンテ―ション原稿(原文まま):受講生作成 [How do I commute to school?]

Today I’m going to talk about why I commute to school by bicycle. Firstly because bike riding keeps me fit. Since I do not otherwise exercise much, I ride a bike to school to keep myself healthy.

Secondly, biking makes me smarter; research has proven that moderate daily exercise can sharpen memory and learning. This means I can concentrate more at school while learning. And finally, the distance from my home to my is school is 4 kilometers. It is not so far as to necessitate the use of a car, and besides, riding a bicycle is friendlier towards the environment than driving. To sum up, while I’m commuting to school, I’m not just commuting, but keeping myself fit, becoming cleverer and being kind to the environment.

プロセス型プレゼンテ―ション原稿(原文まま):受講生作成 なお,プレゼンテーションの時間は 1 人 2 分以内と定めた。プレゼンテーションの原稿は 本番の 3 日前までに,授業者にメールで送るように指示した。 2.5 第 2 回プレゼンテーション 第 2 回プレゼンテーションは 15 週目に実施した。プレゼンテーションは,説得型・問題解 決型,原因・結果型,比較対照型の中から選択することし,トピックについては,1 回目の − 35 −

(6)

プレゼンテーション同様に,オリジナルのものが望ましいが,テキスト掲載のモデルトピッ クの使用も認めた。また,今回の発表スタイルは,1 人で行うシングルスタイルか,最大 3 人で構成するチームで行うグループスタイルかを受講生に選択させた。プレゼンテーション の時間は,シングルプレゼンテーションの場合は 1 分 30 秒〜3 分,グループプレゼンテーシ ョンの場合は 2 分〜5 分までとし,設定時間枠に収まらない場合は,2 ポイントの減点とした。 さらに,今回のプレゼンテーションは,パワーポイント(PPT)を使用すること,および,表や グラフを含めることを条件とした。第 2 回のプレゼンテーションのプログムの一部は,表 3 に示すとおりである。 表 3. 第 2 回プレゼンテーションのプログラム(一部抜粋) プレゼンテ―ションタイプ トピック 発表スタイル

比較対照型 Worker and Company シングル

説得型 The Future of Smart Mobile Device グループ

問題解決型 Why Do You Think Students Come to School? グループ

プレゼンテーションの原稿は本番の 3 日前までに,授業者にメールで送ることを指示した。 結果的には,1 回目同様に,受講者全員がオリジナル原稿を作成して発表に臨んだ。プレゼ ンテーションの評価は,今回もピアレビュー方式を採用した。図 1 は,第 2 回プレゼンテー ションの様子である。 図 1. 第 2 回プレゼンテーションの様子 3. 結果と考察 第 1 回プレゼンテーション終了後に,受講生にプレゼンテーションを終えての感想,他の 受講生のプレゼンテーションから学んだこと,次回に向けての自身の課題などを,自由に振 り返り・まとめとして書いてもらった。 多く見られた記述は,「実際に人前に立つと練習してきたことさえ,忘れてしまう」とい うコメントに代表されるようなプレゼンテーション実践の経験不足に起因すると考えられる コメントである。 − 36 −

(7)

〈経験不足〉 ・練習していたつもりだが,英語を人前で喋ることがないので緊張した ・短いプレゼンだから,大丈夫かと思ったけど,前に立つと頭から飛んでいく ・英語で話す経験のなさを痛感,ある程度暗記して臨んだのに緊張に勝てなかった ・前に出て喋ろうとするとクネクネいらない動きをしてしまう ・紙を見て話したから流暢に話せなかった ・カンペを読んだだけで終わってしまった ・1回カンペをみるとそこから抜け出せなくなった また,プレゼンテーション実践を通して,オーディエンスを引きつけることの大切さを実 感すると同時に,その具体的な手法としてオーディエンスに質問を投げかける,ジェスチャ ーを取り入れるなど,他の人の発表から学んだスキルを挙げていた。さらには,プレゼンテ ーションは内容の伝達が大切であり,オーディエンスに聞いてもらう,あるいはオーディエ ンスを引きつけるためには,原稿を暗記することよりも,アドリブで話すことや,簡単な英 語構文を用いて話すことが大切だ,という記述も目立った。 〈オーディエンス・内容伝達の重要さ〉 ・聴衆をひきつけるのはむずかしい ・観客を巻き込む(最初に質問する) ・声のトーンや強弱をつけて,オーディエンスを引きつける ・発表する内容を覚えようとするより,原稿を見ながらでも聴き手の興味を引く方が良い ・聞いている人を引き込む,例えば,質問を投げかけてみたり,笑顔をみせる ・文章を考えて,覚えるよりもその場のアドリブで話す方が楽しい ・カンペを見過ぎてしまった。内容が少しくらい異なってもその場で思ったこと,考えたこ とを言った方がよかった ・プレゼンの際には文を丸暗記するのではなく,『流れ』を頭に入れておくことが大事 ・自分のわかる構文で文を作っていないと英文が飛んだ時に何もいえない 次回に向けての自身の課題として多く挙がったのは,やはり「オーディエンスを引きつけ ること」であった。そして,強弱をつける,テンポよく喋る,簡単な構文で文を作る,ジェ スチャーを用いる,堂々と振る舞う,などが,そのための具体的スキル・手法として記述さ れていた。また,面白いプレゼンテーションをしたいという感想も多く寄せられており,受 講生はプレゼンテーションの実践を楽しんでいたのではないかということも推察される。 〈プレゼンテーションスキル〉 ・ジェスチャーは意外と大切 ・スピード,声量がちゃんとしていると聞きやすい ・早く喋れば英語がうまそうに聞こえるが,プレゼンではゆっくり喋った方がわかりやすい ・キーワードは強弱をつける − 37 −

(8)

・内容だけでなく,ジェスチャーや間,聞き手に質問など,独りよがりにならない ・ユーモアを入れる,強調するところをつくる,顔の表情(笑顔だと聞いていて気持ちよか った) ・笑顔やジェスチャーなどは自信があるように思えた ・堂々と振る舞う ・早過ぎず,遅過ぎず,テンポよく ・簡単な単語や構文を使って,相手に伝える ・内容に面白みをつける,内容が面白い人は内容もジェスチャーも良かった ・面白い内容,みんなに伝わる英文 ・興味を引く内容で笑いを誘う 次に,プレゼンテーションの評価項目の結果に着目する。プレゼンテーションの評価は「ア イデア・内容」「構成」「姿勢・ジェスチャー・アイコンタクト」「デリバリー(声量・流 暢さ)」「全体的な印象」の 5 つの評価項目を設け,それぞれ 5 点満点(合計 25 点)で,ピ アレビューにより採点を行った。 1 回目のプレゼンテーションと 2 回目のプレゼンテーション,それぞれの評価の全受講生 (31 名)の平均値を表 4 に示す。今回は統計的な分析は行わないが,1 回目より 2 回目の結 果がすべての項目で上回っていた。特に,全体的な印象の項目の増加が一番大きいことがわ かる。プレゼンテーション実践の経験が受講生の自信へとつながりこのような結果を招いた とすれば,本実践の成果であるといえるだろう。 また,「姿勢・ジェスチャー等」の数値が低いこと,および 1 回目と 2 回目の差もほとん どないことは,自由記述にもあるように,学生たちが効果的なアイコンタクトやジェスチャ ーの使用に困難さを感じていることの表れであると考えられる。一方で,「オーディエンス を引き込む手段としてジェスチャーは意外と大事だと思った」という受講生の自由記述にも あるように,プレゼンテーションにおいて「姿勢・ジェスチャー等」は決してないがしろに できるものではない。これらは,授業中に知識として与えるというよりも,実践の積み重ね で次第に身に付けていくスキルである。 表 4. 評価項目別平均値(n=31) アイデア・ 内容 構成 姿勢・ ジェスチャー等 デリバリー 全体的な印象 合計 1 回目 3.77 3.74 3.59 3.63 3.63 18.36 2回目 3.86 3.82 3.63 3.75 3.81 18.86 4. まとめ 平成 30 年度より本格導入された高専モデルコアカリキュラムでは,高専生の英語運用能力 の向上を図る具体的指導法として,英語授業においては英語によるプレゼンテーションやデ ィスカッションを取り入れることが求められている。しかしながら,英語プレゼンテーショ ンの有効性や必要性は認識しつつも 40 人一斉授業の限られた授業時間内でどのように取り − 38 −

(9)

入れるか,評価はどのように行うべきかなど,検討すべき課題・問題点も残されている。本 実践は,クラスサイズは 30 人程度,英語プレゼンテーションを行うための英語力も備えてい ると考えられる専攻科生対象ならば実施可能ではないか,という思いで始めた経緯がある。 本実践を通しての一番の気づきは,始めは不安に感じていた受講生たちが,実際には英語プ レゼンテーションを楽しんでいたということである。また,他の受講生の英語プレゼンテー ションを見ることを通じて,いいプレゼンテーションとはどのようなものなのかを感じ取り, 自身のプレゼンテーションに積極的に生かそうとしていた姿も印象的であった。 訪日外国人や在留外国人の数が増加しているとはいえ,日本では日常生活で英語を使って コミュニケーションをとる機会は多くはない。とりわけ,自分の意見や考えを英語で表現す る機会は稀である。日本人学習者の多くは,学ぶべき対象として「英語」と出会う。英語に 苦手意識を持つ者の多くは,学習対象としての英語に苦手意識を持っているのではないだろ うか。教育現場においては,英語は「目的」ではなく,コミュニケーションのための「手段」 であるという意識づけを行うことが重要である。その点において,英語の正確さよりも,伝 えたい内容やメッセージのやりとりに重きが置かれる英語プレゼンテーションやディスカッ ションの果たす役割は大きい。 しかしながら,英語初級者にとって,自分の意見や考えを英語で表現するということは当 然ながらハードルが高い。英語運用能力を身に付けさせるには,まずは英語で話すという経 験を積ませることで心的負担を軽減し,不安を取り除くことが重要である。そのためには, 英語授業においては,低学年から英語を口に出すことを当たり前にする環境を整えることが 求められる。高専 1 年生の授業において,今回のような英語プレゼンテーションをさせるこ とは難しくとも,教科書の内容を要約してリテリングさせる。その際,2〜3 文程度自身の意 見を付け加えさせる,などの活動を段階的に導入すれば,高学年では抵抗感なく英語でのメ ッセージのやり取りをすることができるであろう。そして何よりも,このような実践は 40 人 一斉授業の環境においても導入することが可能である。 また,自由記述方式の実践の振り返りからは,受講生は自身の経験からに加え,他の受講 生のプレゼンテーションからたくさんのことを学んでいたことがわかった。全てのプレゼン テーション評価項目において,1 回目より 2 回目の平均数値が上回っていたことはこのこと を表れともいえる。つまり,観察眼を養うことで,自分のパフォーマンスにもプラスの影響 を与えうるということである。よい聞き手は,よいプレゼンターであるということを学習者 にも意識させ,たとえば,TED の視聴などを通して,よい英語プレゼンテーションとはどの ようなものか,などを学習者自身に考えさせる機会を与えることも必要だろう。特に,ジェ スチャーについては,多くの受講生が英語プレゼンテーションにおいて大事な要素であると 認識しつつも,その効果的な使用については課題であると感じていた。ジェスチャーやアイ コンタクトは授業者から知識として与えられるよりも,よい英語プレゼンテーションをみる ことで学習者自身が身に付けられるスキルであると考える。 さらには,他の人のプレゼンテーションを見ることを通して,しっかりとした評価視点を 養い,学習者であると同時に評価者としての立場を確立できれば,プレゼンテーションの評 価を,必ずしも「授業者」が行う必要はなくなり,英語プレゼンテーション実施のハードル が一段下がることにつながる。今回の実践はその可能性を十分に感じられるものであった。 英語運用能力を向上させることが求められる英語教育においては,学習者同士が学び合い・ − 39 −

(10)

教え合う環境を作り出すことが何よりも重要であるということであろう。 最後に,MCC の観点から本実践の成果と今後の課題について述べる。MCC では,高専の 英語到達目標は,具体的で実践的な場面での英語使用を促すなど,英語運用能力育成に置か れている。その能力育成には,単なる英語に関する知識の獲得だけでなく,プレゼンテーシ ョン力(論理的な文章構成力や効果的なコミュニケーション方略など)を高めることそして, 何よりも英語運用の機会が学習者に与えられることが必要である。本実践では,受講生たち は英語運用の機会が実際に与えられ,それを通じて,プレゼンテーション力の重要性に自ら 気づくことができたと考えられ,その点は本実践の成果といえる。今後の課題としては,英 語でのディスカッションやディベートなど,よりレベルの高い英語運用能力をどのように育 成すべきかにある。MCC ガイドラインにおいても,これらは非常に高い能力が要求されるも のであり,英語でのディスカッションやディベートができる素地を養うことまでが目標とし て設定されている。今回の専攻科対象の実践でも,プレゼンテーション内容の理解に留まっ ており,意見交換の段階には到達できていない。また,そもそもディスカッションやディベ ート自体が日本人学習者には馴染みのない活動でもある。様々な課題はあるがそれでもやは り,積極的にディスカッションやディベートの機会を作り出すしか手段はない。発表原稿や スライドなどからの情報は,プレゼンテーションの内容理解を促進するのに,役立つツール であり,それらを事前に配布することで,予め意見交換のための準備をさせるなどの方策を とることが,まず第一歩となるかもしれない。 引用文献 独立行政法人国立高等専門学校機構 (2017)「モデルコアカリキュラムガイドライン」 https://www.kosen-k.go.jp/Portals/0/MCC/mcc2017all.pdf 小林貢 (2018)「「グローバル人材養成」のための一考察」『秋田工業高等専門学校研究紀要』, 第 53 号, 9-14. 奥崎真理子・藤原孝洋・鹿野弘二・ラリークリンゲンバーグ・ルアンバッサン (2015)「英語 プレゼンテーションのシラバスデザイン : 函館高専専攻科における変遷と改善」『日 本高専学会誌』 Vol. 20, 3, 1-6. 重光由加・鈴木幸・星野芳恵・小澤雅 (2016)「東京工芸大学工学部における英語プレゼンテ ーション必修化−アクティブ・ラーニングの導入と合同発表会の効果−」『東京工芸大 学工学部紀要』Vol. 39, 2, 18-31. − 40 −

表 2. 授業計画  週  内容  週  内容  1  プレゼンテーションの構造  10  説得型プレゼンテーション  2  プレゼンテーションのスキル  11  問題解決型プレゼンテーション  3  列挙型プレゼンテーション  12  原因・調査型プレゼンテーション  4  分類型プレゼンテーション  13  比較対象型プレゼンテーション  5  プロセス型プレゼンテーション  14  プレゼンテーションの準備  6  調査・報告型プレゼンテーション,  評価について  15  プレゼンテーションの実践

参照

関連したドキュメント

目標を、子どもと教師のオリエンテーションでいくつかの文節に分け」、学習課題としている。例

脱型時期などの違いが強度発現に大きな差を及ぼすと

つまり、p 型の語が p 型の語を修飾するという関係になっている。しかし、p 型の語同士の Merge

 英語の関学の伝統を継承するのが「子どもと英 語」です。初等教育における英語教育に対応でき

・コナギやキクモなどの植物、トンボ類 やカエル類、ホトケドジョウなどの生 息地、鳥類の餌場になる可能性があ

自然言語というのは、生得 な文法 があるということです。 生まれつき に、人 に わっている 力を って乳幼児が獲得できる言語だという え です。 語の それ自 も、 から

本研究科は、本学の基本理念のもとに高度な言語コミュニケーション能力を備え、建学

「学部・学年を超えた参加型ディスカッションアクティビティ」の事例として、With café