トロ ピ カ ル フ ル ー ツ に つ い て の 研 究
パパイヤ果実の追熟に関す る研究
高
野
三
郎
Study
on the Tropical
Fruit
—Part4 . Study on the Ripening of Papaya Fruit—
Saburo Takano
ま え が き 緒 言 ト ロ ピカル フル ー ツ の 一 つ で あ るパ パ イ ヤ は 、 大 部 分 がハ ワイ で 出産 され て い る 。 しか し 、 こ の パ パ イ ヤ は 他 の 果 実 と同 様 に地 中海 ミバ エ に よ る被 害 が 甚 大 で あ る 。 そ こで 、 こ の ミバ エ の殺 卵 を 目的 と して 燻 蒸 剤 のEDB(エ チ レン ブ ロマ イ ド)を 使 用 して い た が 、 発 癌 性 の 問 題 か ら使 用 禁 止 とな り、 そ れ に代 わ る殺 卵 方 法 の 開発 が 必 要 とな っ た 。 そ こ で新 た な 殺 卵 方 法 と して は蒸 熱 処 理(47.2℃ 、7時 間)と 呼 ば れ る処 理 方 法 が行 な わ れ て い る 。 しか し、 こ の 処 理 方 法 の 欠 点 は蒸 熱 処 理 に よ る ヒー トシ ョ ッ ク でパ パイ ヤ 果 実 に生 理 障 害 果 が 生 ず る こ と で あ る1∼3)。こ の 生 理 障 害 果 の 出 現 は 稀 で は あ るが 、 一 度 生 理 障 害 果 に な る と種 子 周 囲厚 さ1∼1.5cmに わた り軟 化 の進 ま な い 硬 い 組 織 が で き 、 そ の部 分 は 可食 状 態 に 到 らず に腐 敗 す る 現 象 が起 こ る。 さ らに 最 近 で は 炭 そ 病 な ど植 物 病 原 菌 に よ る腐 敗 防 止 の た め 、 蒸 熱 処 理 をす る 前 に48℃ 前 後 、20分 の温 熱 処 理 も行 な って い る 。 と こ ろ でハ ワイ か ら 日本 に 輸 入 され るパ パ イ ヤ は 未 熟 な 青 い もの で 、追 熟 して か ら市 販 され て い る。 そ の 為 に外 部 か らは 蒸 熱 処 理 に よ って ひ き 起 こ され た 障 害 果 の判 別 は 難 しい 。 そ こ で今 回 は従 来 よ り医療 の 分 野 で用 い られ て い て 、 現 在 食 品 の 分 野 で も用 い られ る よ うに な ったX線 の 吸 収(X線 一CT)お よび 核 磁 気 共 鳴(1H-NMR) に よ る画 像 解 析 を行 い 、 非 破 壊 的 に パ パ イ ヤ果 実 の 正 常 果 と障 害 果 の選 別 の 可 能 性 を 検 討 し た の で 報 告 す る 。 実 験 方 法 1.温 湯 な らび に蒸 熱 処 理 試 料 のパ パ イ ヤ 果 実 は ハ ワイ 産 の ソ ロ種 を用 い た 。 パ パ イ ヤ 果 実 は収 穫 後 、病 害 ・腐 敗 防 止 の た め48℃ 前 後 の 湯 中 に20分 間浸 漬 す る温 熱 処 理 を した 。 次 に パ パ イ ヤ果 実 の 中 心 の 温 度 が47.2℃ に な る ま で7時 間 か け て 温 度 を 上 げて い き 、47.2℃ に達 した と こ ろ で20分 間 処 理 し、 水 冷 した 。 今 回 のパ パ イ ヤ 果 実 の 非 破 壊 的選 別 に用 い た 試 料 は以 下 の4種 で あ る。 ① 未 熟 果(G:Green追 熟 度 合 い の 色 が1∼2の も の3)。) 果 皮 の 色 が緑 色 の もの を示 す 。 ② 成 熟 果 、 正 常 果(C:Control追 熟 度 合 い の 色 が5∼6の も の3)) 果 皮 の 色 が黄 色 の も の を示 す 。 ③ 障害 果 、 ラ ップ 処 理 果(W:Wrap)今 回 用 い た 障 害 果 は 蒸 熱 処 理 の 段 階 で ラ ッ プ 処 理 を 行 い 、 人 工 的 に 生 理 障 害 を 起 こ さ せ た も の で あ る 。 ④ 障 害 果 標 本(T:Thermallyinjuredfruit) ラ ッ プ 処 理 果 実 を 実 験 前 に 中 央 部 で 輪 切 りに し 、 障 害 の あ る こ と を 確 認 し て 、 テ ー プ で と め 障 害 果 の 標 本 と し た 。 こ れ らG、c、w、Tの4種4個 の 試 料 はFig.1の よ う に 配 置 し た 。 す な わ ち 、 写 真 の 左 上 に G、 左 下 にC、 右 上 にW、 右 下 にTを 置 き 、4個 の テ ー プ で 固 定 し 、 実 験 の 試 料 と し た 。
Fig. I .—Cross sections of different samples papaya fruit. G:unripe fruit; C:control (ripe or normal fruit); W:wrapped treated fruit; and T:thermally injured fruit. 2.X線 の 吸 収(X線 一CT)測 定 X線 の 吸 収 は 医 療 用 のX線CT、 東 芝TCT-60A型 を 用 い て 果 実 の 中 央 部10mm幅 の 断 層 画 像 を 観 察 し た 。 ま た 果 肉 種 子 側(内 側)、 果 皮 側(外 側)お よ び そ れ らの 中 間(中 側)の3箇 所 の X線 の 吸 収 値 を3mm半 径 で 測 定 し た 。 3.核 磁 気 共 鳴('H-NMR]NMR)測 定 核 磁 気 共 鳴(lH-NMR)は 医 療 用PhilipsGyroscanS-15に よ る63.75MHZの5mm幅 で'H(プ ロ ト ン)画 像 お よ び2mm2範 囲 で の'H-NMRSignalIntesity、'H-NMRT1値 、T2値 を 内 側 、 中 側 、 外 側 の5箇 所 に つ い て 測 定 し た 。 実 験 結 果 お よ び 考 察 1.実 験 に用 い た 試 料 の外 観 試 料 の外 観 の 写 真 はFig.1に 示 した 。 こ の 写 真 で解 る よ うに 外 観 か らで は パ パ イ ヤ 果 実 に 障害 が 起 こ っ て い るか ど うか の 有 無 は 判 断 で きな か っ た 。 実 際 障 害 果 のTは 実験 に 先 立 ち 切 断 して 障 害 が起 こ って い る の を確 認 し、障 害 果 の 標 本 と して用 い た もの で あ る。 2.X線 一CTに よ るCT画 像 Fig.2は 東 芝 医 療 用X線CTス キ ャナ ー を 用 い た 時 のX線 の 吸収 画像 で あ る。CTイ メ ー ジ ン グ(画 像)に よ る観 察 で は 、X線 を透 過 す る 部 分 が 黒 く 、透 過 しに くい 部 分 は 逆 に 白 く画 像 上 で は写 る。 未 熟果 ・正 常 果 とも果 肉 部 分 で は均 一 な 吸 収 を示 して い る の に 対 し、 果 実 標 本Tは 吸 収 の 高 い 部 分 と低 い 部 分 が局 在 して お り、未 熟果 、 正 常 果 と異 な っ た 画像 を示 して い た 。 一 方 、 果 実Wも 果 実標 本Tと 同 じ く吸収 の 高 い 部 分 と低 い 部 分 が局 在 す る 同 じ画 像 の 挙 動 を示 して い る こ とよ り、 こ の 果 実 は 果 実 標 本Tと 同 じ障害 果 実 で あ る と判 断 した 。
Fig.2—X-ray CT images of different samples of papaya fruit: G:unripe fruit; C:control (ripe or nomal fruit); W:wrapped treated fruit; and T:thermally injured fruit.
3.X線 一 吸収 値 X線 一 吸収 値 を測 定 した 結果 、 相 対 的 に未 熟 果 は低 く、 正 常果 は 比 較 的 高 い 吸収 値 を示 した 。 一 方 、障害果W、 障害果標 本Tは 正常果 よ りもさ らに高 い吸収値 を示 していた 。 これ に よ る と、 未 熟 果 く 正 常 果 く障 害 果 の順 に 吸 収 値 が 高 い こ とが わか り、 さ らに 障 害 部 分 で は+の 部 分 が 見 られ た 。 パ パ イ ヤ果 実 で は追 熟 軟 化 す る こ とに よ り、X線 吸収 値 が 次 第 に 高 くな る こ とが わ か った 。 し か し、 障 害 部 分 の 吸 収 値 は 水 の 吸 収 値0よ り、 異 常 に高 い値 を示 した 。 この こ とか ら、 蒸 熱 処 理 で生 じた 障 害 果 の 障害 は 、 追 熟 お よび 軟 化 が停 止 して い るば か りで な く 、組 織 的 に もな ん らか の 変 化 が起 こ った も の と推 察 され た 。
Table 1—Histogram of X-ray CT numbers-III of different samples of pa-paya fruit 一 〇 k M a 20 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 -100 -80 -60 -40 -20 0 20 40 60 CT numbers Mean —92.5±5.3 —45.0±4.2 +34.0±6.2 +61.1±4.3 highest —80.8 —37.0 +49.0 +71.0 lowest —102.0 —54.0 +23.0 +53.0 G C W T [ThomAS • 120KV]. CT numbers 4.1H-NMRに よ る プ ロ ト ン画 像 Fig.3が1H-NMRに よ る 共 鳴 シ グ ナ ル の 断 層 画 像 で あ る 。 正 常 果 と 未 熟 果 の プ ロ ト ン分 布 は
ほ ぼ 均 一 で あ る の に 対 し、 障 害果W、 障害 果 標 本Tと も局 在 して い るの が 知 られ た 。 さ らにNM Rを 用 い て 試 料 中央 付 近 の 厚 さ1cmの 断層 画 像 を得 、1H(プ ロ トン)に よ る緩 和 時 間 を測 定 した と こ ろ、 正 常 果 の緩 和 時 間 に 比 べ 、 障 害 果 の緩 和 時 間 の方 が長 い 値 を 得 た 。 この 緩 和 時 間 を測 定 す る こ と に よ っ て も、 正 常 果 と障 害 果 の 違 い を 区別 す る こ と が可 能 で あ る と示 唆 され た 。
Fig.3.-H-NMR images of different samples of papaya fruit:
G:unripe fruit; C:control (ripe or normal fruit); W:wrapped treated fruit; and T:thermally in-jured fruit.
Table 2-Signal Intensity, T1 and T2 with, 1H-NMR in different samples of papaya fruit
Sample Endocarp Mesocarp Exocarp
1H-NMR T1 T2 G C w T G C w T G C w Signal Intensity 443.2±44.9 534.4±31.5 753.3±82.5 852.7±55.7 T1 (msec) 1000.3±70.3 1009.0±53.2 884.1 ±31.3 982.4±36.4 12 (msec) 49.3± 7.0 55.9± 5.2 75.5± 8.0 82.7 ±11.4 477.8±33.5 482.8±34.1 805.3± 59.5 1279.5 ± 52.6 1099.8 ± 58.8 999.6±57.2 907.3±40.6 959.0±50.1 49.3± 5.8 45.9± 5.2 63.4± 6.9 51.4 ± 12.3 393.6± 30.0 462.1± 40.4 753.5 106.7 876.2± 47.4 1153.5± 1005.3± 1083.9± 1145.0± 43.6± 47.4± 61.2± 78.5± 88.2 81.2 45.5 40.3 4.8 6.6 16.3 11.4 SCTIME: 20:30 (4:21) TR SE : 760 (500) TE : 20 0/4 (20 1/1) TR IR : 2240 PHILIPS GYROSCAN S15 TI: 360 FOU: 200 (200) THK: 5. 0 (5. 0) ANT: 10. 0 (10. 0) ( さ らに反 転 反 復 法 に よ るT値(ス ピ ンー格 子 緩 和)画 像 を得 た 。 ま た 同 時 にT2値(ス ピン ース ピ ン緩 和)画 像 も用 い 、T1値 、T2値 を内 、 中 、外 の 三 層 に つ い て 測 定 した 。 Tl値 は 四者 とも外 部 で は 同 一 の 値 を示 し、未 熟 果 で は 内 部 に 向か って や や 低 い 値 とな っ た 。 正 常 果 で は い ず れ の部 分 で も差 が 認 め られ な か っ た 。 障 害 果 で は 外 部 に比 べ 、 中 、 内 部 の 方 が低 い 値 とな っ た 。 T2値 はT、 値 よ り低 く、 正 常 果 、 未 熟 果 は ほ とん ど各 部 分 で均 一 な値 であ るが 、 や や 内 部 が高 い
傾 向 で あ った 。 これ に 対 して 障害 果W、 障害 果 標 本Tで は他 の正 常果 、 未 熟 果 に比 べ 明 らか にT2 値 が 高 くな って い た 。 NMRイ メ ー ジ ン グ(画 像)に よ る 観 察 で は水 の 密 度 の 高 い 部 分 が 白 く、低 い 部 分 が 黒 く見 え る。従 って 、正 常 果 で は果 肉 全体 が 白 く見 え 、水 の 密 度 が 高 く正 常 な追 熟 が 行 な わ れ て い る こ と が 示 唆 され た 。 一 方、 障害 の あ る果 実 の果 肉の 障害 部 分 が黒 く 見 え る 。 これ は 、 こ の 障 害 部 分 に お い て は 水 の 密 度 低 い た め 、 正 常 な追 熟 が 行 な わ れ て い な い の で は な い か と考 え られ る。 以 上 の こ と を総 合 す る と、X線 断 層 画 像 お よ び1H-MNR画 像 を 単独 ま た は 併 用 す る こ とに よ りパ パ イ ヤ果 実 で生 じ る障 害 果 を 非破 壊 的 に選 別 す る可能 性 が示 唆 され た 。 参 考 文 献 1)高 野 三 郎 トロ ピカ ル フル ー ツ に つ い て の 研 究 、 生 活 科 学 研 究 、 文教 大 学 生 活 科 学 研 究 所 、 第13集39∼431991 2)高 野 三 郎:ト ロ ピカ ル フ ル ー ツ につ い て の 研 究 、 生 活 科 学 研 究 、 文 教 大 学 生 活 科 学 研 究 所 、 第14集41∼451992 3)高 野 三 郎 トロ ピカ ル フ ル ー ツ につ い て の研 究 、 生 活 科 学 研 究 、 文 教 大 学 生 活 科 学 研 究 所 、 第15集51∼571993