セルフマネジメントにおける
行動変容を支援する EASE プログラム
岡
美 智 代
は じ め に 厚生労働省は「 康日本 21」に基づき生活習慣病の改 善に努めているものの, 際だった改善はみられていない. 実際,平成 14年度の糖尿病実態調査報告では「糖尿病が 強く疑われる人」と「糖尿病の可能性を否定できない人」 を合わせると約 1620万人であり, 5年前より約 940万人 も増加している. このような問題を改善するためには生 活習慣の見直しが必要であり, 食生活や運動などのセル フマネジメントについての行動を変えること, つまり行 動変容が求められている. わたしはセルフマネジメントに関する行動変容の研究 と実践を重ね, その研究成果を元に, 現在わたしは EASE (イーズ) プログラムと名付けた, 慢性疾患患者の 行動変容を支援するプログラムの開発と活用促進を行っ ている. EASEプログラムとはEASE プログラムの EASE とは, Encourage autono-mous self-enrichmentの略で,EASE プログラムを日本語 にすると「自主的な自己涵養促進プログラム」であり,患 者が自 を豊かにすることを促進するプログラムのこと である.また,EASE とは日本語では「気軽」という意味 があるため, 患者が気軽にセルフマネジメントができる ように医療者が手助けするプログラムという意味もあ る. EASE プログラムの目的は, その人らしい生活を送 るため, 疾病の予防, 治療や 康に関する, セルフマネジ メントの え方と行動を, 修正・維持することをねらい としている. EASEプログラムの手順と技法 EASE プログラムの手順は次の 6つのステップから成 り立っている. ステップ 1: 医療内容の妥当性を含めたアセスメント, ステップ 2: 困難事の明確化と解決意義の確認, ステッ プ 3: 行動目標の設定と自己効力の確認, ステップ 4: 技法の選択, ステップ 5: 実施, ステップ 6: 評価・ 察. 特に, ステップ 4で活用する技法は表に示すようなも のがあり, 認知行動療法を応用している. これらの技法 の中でも,ステップ・バイ・ステップ法やセルフ・モニタ リング法が臨床的に活用しやすいため多く われてい る. EASEプログラムの効果 EASE プログラムに関する論文は口頭発表も含むと, 2006年 12月現在で 63文献有り, 透析看護領域を中心に 積極的に活用されている. 代表的なものとして, 透析患者 10人に対して EASE プログラムを行った結果, 65％の患者の水 摂取行動が 改善し, 他の介入方法よりも効果がみられた報告があ る. また, EASE プログラムと従来の教育プログラムと 比較し効果を検証した研究もある. 各群透析患者 11人 を対象として行った結果, 一日塩 摂取量と一日体重増 323 Kitakanto Med J 2007；57：323∼324 １ 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学医学部保 学科看護学専攻臨床看護学講座成人看護学慢性期 野 平成19年10月２日 受付 論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学医学部保 学科看護学専攻臨床看護学講座成人看護学慢性期 野 岡美智代
加率において, 従来の教育プログラム群では持続期間は 8週間であったが EASE 群では 12週間持 続 し, EASE プログラムの方がリバウンドが少ないことが証明されて いる. 今 後 の 課 題 EASE プログラムは臨床で広く活用されているもの の, 一部でプログラムの実施方法に誤りがあったり, 効 果がみられないといった事例もある. そのため, 今後は 1. プログラムの質の確保 : 看護職に対する教育キット の開発, ユビキタス教育など, 2. プログラムのバージョ ンアップ, 3. プログラムの対象者の拡大, 4. プログラム の経済的評価について取り組みたいと えている. 文 献 1. 岡美智代. 透析患者の自己効力感を高める行動変容プロ グラムとアクションプラン. 看護学雑誌 2005; 6: 558-562. 2. 佐名木宏美, 牧野月子, 山名栄子ら. EASE プログラムに 関する研究−文献研究より. 日本透析医学会雑誌 2007; 40Suppl. 1: 473.
3. Sagawa M,Oka M,Chaboyer W. The utility of cognitive behavioural therapy on chronic haemodialysis patients fluid intake: a preliminary examination. International Journal of Nursing Studies 2003; 4: 367-373.
4. Nozaki C, Oka M, Chaboyer W. The effects of a cognitive behavioural therapy program for self-care on haemodalysis patients. International Journal of Nursing Practice 2005; 5: 228-236. セルフマネジメントにおける行動変容を支援する EASE プログラム 表 EASE プログラムの技法と特徴 方 法 特 徴 生きがい連結法 生きがいを明確にし, それを目標とす る行動と関連づける方法. 目標行動の 達成のための目的を明らかにする効果 がある. セルフ・モニタリ ング法 目標に向かっている途中の, 自 の変 化を観察記述する方法. 自 の変化を 客観的に理解し, 行動変容による効果 を自覚できる. 行動強化法 目標行動の遂行により, 強化因子を与 える方法. 行動の直後に自 にとって 好ましいことが起きると, 同じ行動を 繰り返し行うよう条件づけられるとい う え (オペラント条件づけ) に基づ いている. ステップ・バイ・ ステップ法 小目標をたて, 段階を追って実施して いく方法.有効性の根拠は,①実現可能 感を高めること, ②無力感の増強を防 ぐことにある. ピア・ラーニング 法 同輩同士で, 問題解決や目標達成のた めに取り組む方法. 仲間から学ぶため, 学ぶ側が受け入れやすいという えに 基づいている. 効果は, ①方法論を学 ぶ, ②自 の可能性への予測が高まる こと, ③競争意欲を喚起することであ る. 324
