慢 性 喘 息 モデル に よる
喘 息 の難 治化 要 因 に関 す る研 究
第2編
肺 局 所 や 血 液 中 に お け る 出 現 細 胞 及 び 液 性 反 応 に 関 す る 検 討
岡山大学医学部第二内科学教室(指 導:木 村郁郎教授)
菅
野
尚
(平成6年2月18日 受稿)
Key words: chronic asthma, guinea pig, IgG subclass antibodies
leukotrienes, histamine
緒
言
成 人 の慢 性 呼 吸器 疾 患 の な か で 日常 診 療上 頻
度の 多い気 管 支 喘 息 は,時 に 喘 鳴 と軽 い 呼 吸 困
難の み の軽 症例 か ら,ほ とん ど毎 日呼 吸 困難 を
示 す慢 性 の重 症 喘 息 まで 多様 で あ る.そ の うち
通 年性 に症 状 が持 続 す る慢性 喘 息 の 日常 管理 は
重要 で あ るが,か か る症 例 は 中高 年 で 発 症 し,
小 児 喘 息 の よ うに ア トピー 素 因 が 明確 でな く,
木 村 の提 唱す る 「中高年 発 症 型 難 治性 喘 息 」1)の
疾 患 概 念 に 合 致 す る病 態 が 示 唆 され,さ
ら に
Candida抗
原 が重 症 化,難 治化 の重 要 な要 因 と
な って い る症例 の 多 い こ とも判 明 して い る2).
この よ うな重 症,難 治 性 喘 息 の発 症 機 序 を解
明す る研 究 の 一 環 と して,沖3)は遅 発 型 気 道 反 応
(Late asthmatic response:以
下LAR)を
呈
す る動 物 モデ ル を用 い,抗 原 の再 吸入 を行 い,
呼 気 の延 長 が遷 延 す るこ と及 びBALF中
の ロイ
コ ト リエ ンが 上昇 す るこ とを報告 して い る.そ
こで著 者 は,通 年性 の難 治 性 喘 息病 態 に類似 し
たモ デ ル を作 製 す る 目的 で,第1編
に お い て抗
原 の繰 り返 し吸 入 を行 っ た と ころ,即 時 型 気 道
反 応(Immediate
asthmatic response:以
下
IAR)し か 出 現 しないモ ルモ ッ トで も抗 原 吸 入 を
繰 り返 す に 従 い 次 第 に発 作 の 寛解 しな い慢性 喘
息 の モ デル を確 立す る こ とに 成功 した.そ こで
本 編 では ヒ トの慢 性 喘 息病 態 を解 明 す る 目的 で,
か か る 動 物 モ デ ル を 対 象 に,血 液 中 及 び 気 道 内 の 出 現 細 胞 や 化 学 伝 達 物 質 の 動 態 に つ い て 詳 細 な 検 討 を行 っ た. 対 象 と 方 法 1)実 験 動 物 実 験 に は 約200gの ハ ー ト レー 系 雄 性 モ ル モ ッ ト70匹 を 用 い た. 2)感 作 と 吸 入 誘 発 法 第1編 と同 様 に 飯 島4)らの 変 法 を用 い 感 作 を行っ た.す な わ ちAscaris suum抗 原(Greer
Laboratories社 製)0.1mlと 水 酸 化 ア ル ミニ ウ ム10mgに 生 理 食 塩 水 を 加 え て1.0mlと した抗 原 液 を作 製 し, 2週 間 間 隔 で3回 腹 腔 内 注 射 を す る こ と に よ り感 作 を行 っ た.最 後 の 感 作 か ら1週 間 後 にAscaris suum抗 原0.5mlを 生 理 食 塩 水 2.5mlで 希 釈 し た 抗 原 液 を加 圧 式 ネ ブ ラ イ ザ ー で 10分 間 吸 入 させ た.そ の 際 の 各 気 道 反 応 の 判 定 は,ま ず 抗 原 吸 入 前,抗 原 の 吸 入 直 後 及 び 吸 入 5時 間 後 に 小 動 物 呼 吸 ピ ッ ク ア ッ プ(日 本 光 電 社 製)を モ ル モ ッ トの 胸 壁 に 装 着 し,電 気 信 号 を ア ン プ で 増 幅 し て 呼 吸 曲 線 を 記 録 し,教 室 の 方 法5)に 準 じて 呼 気/吸 気 が2.0以 上 示 す 場 合 を陽 性 と し た,第1編 で 報 告 し た 如 く抗 原 を8日 間 連 続 吸 入 さ せ る こ と に よ り,第1日 目 にIARの み の モル モ ッ トが 次 第 に2相 性 の 気 道 反 応(Dual
asthmatic response:以 下DAR)を 示 す よ う に
Table 1 抗 原 繰 り返 し吸 入 に よ る気 道 反 応 の様 式
○: immediate asthmatic response(IAR) 〓: late asthmatic response(LAR) ●: dual asthmatic response(DAR)
な っ た 。 従 っ て,か か る 気 道 反 応 態 度 の 変 化 す る過 程 に,成 人 喘 息 の 重 症,難 治 化 機 序 の 鍵 が あ る と考 え,対 象 に は 抗 原 吸 入1日 目にIARの み 陽 性 でLAR陰 性 の モ ル モ ッ トの み を選 び, 24時 間 間 隔 で 合 計8回 繰 り返 し吸 入 を 行 っ た (Table 1).次 に 感 作 の み の 群(コ ン トロー ル 群), 第1日 目 にIARの み 出 現 し た 群(1日 吸 入 群), 8日 間 連 続 吸 入 しLARも 出 現 す る よ う に な っ た 群(8日 間 吸 入 群)に つ い て,抗 原 吸 入5時 間 で 気 道 反 応 を 判 定 後 採 血 を 行 い,さ ら に 後 述 の 如 くBALを 施 行 し た. 3)静 脈 血 中 の 化 学 伝 達 物 質 等 の 測 定 ま ず 静 脈 血 中 の 白 血 球 算 定 と 塗 抹 標 本 を May-Giemsa染 色 し 白血 球 分 類 を行 っ た.次 い で 採 血 し た 静 脈 血2mlを 遮 光 遠 沈 管 に て 永 冷 し た エ タ ノー ル8mlと 混 和 し,遠 沈 し た 上 清 を 用 い, SEP-PACK C18カ ラ ム で 抽 出 後 , RIAキ ッ ト(Amersham社)に て ロ イ コ ト リ エ ンC4 (Leukotriene C4:以 下LTC4),ロ イ コ ト リエ ンB4(Leukotriene B4:以 下LTB4)を 測 定 し た.ヒ ス タ ミン は 採 血 し た 血 液5mlを あ らか じ め 冷 却 し たEDTA-2Naの 入 っ た チ ュ ー ブ に 加 え,直 ち に 氷 中 で 冷 却 し た後 遠 心 分 離 し, RIAキ ッ ト(栄 研)に て 測 定 し た.ま た 吸 入 前,第4 日 目,第8日 目 に 採 血 し た 血 液 を用 い て, ELISA
法 に て 抗 原 特 異 的IgG, IgG1, IgG2抗 体 の 測 定
を 行 っ た. 4) BALF中 化 学 伝 達 物 質 の 測 定 BALは モ ル モ ッ ト頚 部 よ り気 管 を 露 出 し,カ ニ ュ ー レ を 挿 入 後,注 射 器 に よ り生 理 食 塩 水10 mlで 計5回 繰 り返 し洗 浄 した.次 に,ま ず 得 ら れ た 回 収 液(BALF)の 回 収 率,回 収 総 細 胞 数 を 算 定 し,さ ら に オ ー トス メ ア で 塗 抹 標 本 を 作 製 しMay-Giemsa染 色 後 細 胞 分 類 を行 っ た.さ ら にBALF中 ロ イ コ ト リエ ン に つ い て は, BALF 2mlを 前 述 の 静 脈 血 と 同 様 に 処 理 し た 後 測 定 し た.ヒ ス タ ミ ン は 氷 冷 し た 遠 沈 管 にBALF 10ml を と り,遠 沈 後 静 脈 血 と 同 じ くRIAに て 測 定 し た.な おBALF中 ヒ ス タ ミ ン に つ い て は 第1日 の み 吸 入 したIAR時 の も の に つ い て も検 討 を 加 え た. 5)肺 組 織 中 浸 潤 細 胞 の 測 定 摘 出 し た 肺 組 織 を, 10%ホ ル マ リ ン 固 定 後 パ ラ フ ィ ン 包 埋 し, hematoxylin-eosin染 色 及 び toluidine blue染 色 を 施 し,各 種 炎 症 細 胞 の 変 化 を 中 心 に 観 察 を 行 っ た. 6)統 計 学 的 検 討 結 果 の デ ー タ は 全 てMean±SEMで 表 し,検
定 はstudent's t testを 用 い た が, IgG抗 体 に
つ い て は, paired t testを 用 い た . p valueは 0.05以 下 を 推 計 学 的 に 有 意 差 あ り と し た.
(paired t test) Fig. 1 抗 原 吸 入 日数 別 に み た 抗 原 特 異 的IgG抗
(paired t test) Fig. 2 抗 原 吸 入 日数 別 に み た 抗 原 特 異 的IgG1及 びIgG2抗 体 の 変 化 率
(A)抗 原 特 異 的IgG1抗 体 (B)抗 原 特 異 的IgG2抗 体
結 果
1)抗 原 吸 入 日数 別 に み た 抗 原 特 異 的IgGサ ブ
ク ラ ス 抗 体 の 変 化
気 道 反 応 の 変 化 に 対 し てIgG系 が い か に 関 与
して い る か を検 討 す る 目的 で,抗 原 吸 入 日数 別
に み た 抗 原 特 異 的IgG, IgG1, IgG2抗 体 の 比 較
を 行 っ た.ま ず 抗 原 特 異 的IgG抗 体 は, Fig. 1
に 示 す 如 く抗 原 吸 入 を 繰 り返 す に 従 っ て 漸 次 増
加 し, 8日 目 に は7.88±2.54%と 吸 入 前 に 比 し
有 意 に 増 加 し た(P<0.05).
さ ら にIgG抗 体 サ ブ ク ラ ス別 に 検 討 した と こ
ろFig. 2Aの 如 く抗 原 特 異 的IgG1抗 体 は,抗
原 吸 入 後 増 加 す る傾 向 が 認 め ら れ た が,吸 入 前 に 比 して 有 意 差 は なか っ た.一 方 抗 原 特 異 的IgG2 抗 体 に つ い て は, Fig. 2Bの 如 く抗 原 吸 入4日 目 に 増 加 が み ら れ た が, 8日 目 に は 吸 入 前 よ り 高 値 で は あ るが4日 目 に 比 し有 意 な 減 少 が 認 め られ た(P<0.05). ま たIgG1/IgG2の 推 移 は, Fig. 3の 如 く抗 原 吸 入4日 目 に は 低 下 し た が8日 目 に は 再 度 有 意 (palred t test) Fig. 3 抗 原 吸 入 日数 別 に み たIgG1/IgG2の 変 化率 に 増 加 し た(P<0.05). 2) BALF及 び 血 液 中 の 細 胞 組 成 の 変 化 抗 原 吸 入5時 間 後 のBALF中 細 胞 組 成 につ い
Fig. 4 (A)抗 原 吸 入5時 間 後 のBALF所 見 (B)抗 原 吸 入5時 間 後 の末 梢 血 中 の 好 酸 球 数
Fig. 5 (A)8日 間 吸 入 群 の肺 組 織
コ ン トロー ル群 や1日 吸 入群 に 比 し気 管 支 粘 膜 の 浮 腫 や 上 皮 の 増 高,増 生 さ ら に変 性 や 剥 離,粘 膜 下 層 へ の 単核 球,好 酸 球 浸 潤 が み られ た.
Fig. 6 抗 原 吸 入5時 間後 に お け る血 液 中の ロ イ コ ト リエ ンC4濃 度 Fig. 7 抗 原吸 入5時 間 後 に お け るBALF中 の ロ イ コ トリエ ンB4濃 度 Fig. 8 抗 原 吸 入5時 間 後 にお け る血 液 中 の ロイ コ ト リエ ンB4濃 度 て 検 討 し た と こ ろ, Fig. 4Aに 示 す 如 く総 細 胞 数 は, 8日 間 吸 入 群 で は コ ン ト ロー ル 群 及 び1日 吸 入 群 に 比 し有 意 に 増 加 して い た(P<0.01, P< 0.05).マ ク ロ フ ァ ー ジ も8日 間 吸 入 群 で は,コ ン ト ロー ル 群 と1日 吸 入 群 に 比 し有 意 に 増 加 し て い た が(P<0.05, P<0.01),リ ン パ 球 は 各 群 間 に 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た.好 中 球 は コ ン ト ロー ル 群 に 比 し1日 吸 入 群 で 有 意 に 増 加 が 認 め ら れ(P<0.05),好 酸 球 は コ ン ト ロ ー ル 群 や 1日 吸 入 群 に 比 し, 8日 間 吸 入 群 で 有 意 に 増 加 が 認 め ら れ た(P<0.05).さ らに,抗 原 吸 入5 時 間 後 の 末 梢 血 中 の 細 胞 分 類 に つ い て は, Fig. 4 Bの 如 く好 酸 球 に つ い て は コ ン トロ ー ル 群 や8 日 間 吸 入 群 に 比 し て, 1日 吸 入 群 が 有 意 に 増 加 し て い た(P<0.01). 3)出 現 細 胞 に つ い て の 組 織 学 的 検 討 気 管 支 領 域 の 組 織 学 的 検 討 で は, Fig. 5Aの 如 く8日 間 吸 入 群 は,コ ン トロ ー ル 群 や1日 吸 入 群 に 比 し 気 管 支 粘 膜 の 浮 腫 や 上 皮 の 増 高,増 生 さ ら に 変 性 や 剥 離,粘 膜 下 層 へ の 単 核 球,好 酸 球 浸 潤 が 著 明 で あ っ た.そ の う ち最 も特 徴 的 な 組 織 所 見 と し て,気 管 支 平 滑 筋 周 囲 の 浸 潤 好 酸 球 を 算 定 し気 管 支 一 個 相 当 の 平 均 値 で 比 較 し た と こ ろ, Fig. 5Bの 如 く8日 間 吸 入 群 は コ ン トロ ー ル 群 や1日 吸 入 群 に 比 し,有 意 に 高 値 で あ っ た(P<0.01, P<0.05).ま た, 1日 吸 入 群 も コ ン トロ ー ル 群 に 比 し,有 意 に 増 加 し て い た
Fig. 9 抗 原 吸 入 に よ るBALF中 の ヒス タ ミン濃 度 Fig. 10 抗 原 吸 入5時 間後 に お け る血 漿 中 の ヒス タ ミン濃 度 (P<0.01). 4) BALF及 び 末 梢 血 中 の ロ イ コ ト リエ ン 濃 度 に つ い て BALF中LTC4濃 度 は,検 出 不 能 の も の が 多 く,今 回 は 検 討 で き な か っ た.抗 原 吸 入5時 間 後 に お け る血 液 中LTC4濃 度 に つ い て は, 8日 間 吸 入 群 は1日 吸 入 群 に 比 し,有 意 に 減 少 が 認 め られ た(P<0.01)(Fig. 6).抗 原 吸 入5時 間 後 に お け るBALF中 のLTB4濃 度 は, Fig. 7に 示 す 如 く8日 間 吸 入 群 で は1日 吸 入 群 に 比 し, 有 意 に 減 少 が 認 め ら れ た(P<0.05).一 方,抗 原 吸 入5時 間 後 の 血 液 中 のLTB4濃 度 は, Fig. 8 の 如 く各 群 間 に 有 意 差 は 認 め られ な か っ た. 5) BALF及 び 血 漿 中 の ヒ ス タ ミン濃 度 に つ い て 抗 原 吸 入5時 間 後 のBALF中 ヒ ス タ ミン 濃 度 はFig. 9に 示 す 如 く8日 間 吸 入 群(吸 入5時 間 後)で は コ ン トロ ー ル 群 や1日 吸 入 群(吸 入5 時 間 後)に 比 し有 意 に 増 加 が 認 め ら れ た(P< 0.05).ま た, 1日 吸 入 のIAR時 で も コ ン トロ ー ル 群 や1日 吸 入 群(吸 入5時 間 後)に 比 し, 有 意 に 増 加 が 認 め ら れ た(P<0.05).な お1日 吸 入 のIAR時 と8日 間 吸 入 群 の 吸 入5時 間 後 で は 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た. 一 方 血 漿 中 の ヒ ス タ ミン 濃 度 は, Fig. 10の 如 く各 群 間 に 有 意 差 は 認 め られ な か っ た.
考
察
抗 原 を繰 り返 し吸 入 させ た際 の気 道 反 応 態度
の変 化 を第1編 で検 討 し,発 作 的 な比 較 的 軽度
で短 時 間 に 回復 す るIARの
み の モ ルモ ッ トも,
抗 原 吸 入 を重 ね るに従 い次 第にDARを
呈 す る
の み な らず,発 作 が遷 延 す るこ とを見 い 出 し,
慢 性 喘 息 モ デ ル と命 名 した.こ の よ うに8日 間
連 続 して 吸 入 させ た モ ルモ ッ トで は,末 梢 血 中
で抗 原 特 異 的IgG及
びIgG1抗 体 の増 加 が 認 め
られ た.ま た, BALF出
現 細 胞 や 肺 組織 の検 討
か ら,肺 局 所 で は好 酸球 が 次 第 に増 加 す るが 末
梢 血 で は1日 吸 入群 で増加 が認 め られ る もの の
8日 目に は 減少 して お り,抗 原 吸 入 に よ り一 旦
は 血液 中に 増加 した好 酸 球 が 抗 原 吸 入 を重 ね る
こ とに よ り次 第 に肺 局 所 に集 積 す る もの と考 え
られ た.化 学 伝 達 物 質 につ い ての 検 討 で は末 梢
血 中のLTC4濃
度やBALF中
のLTB4濃
度 は,
1日 吸 入群 に 比 し8日 間 吸 入群 で減 少 して いた
が, BALF中
の ヒス タ ミン濃 度 は1日 吸 入群 の
IAR及
び8日 間吸 入群 のDARの
いず れ で も増
加 が 認 め られ た.
中 高 年発 症 型難 治 性 喘 息 で は, IgE抗 体 の関
与 は きわ め て 少 な い こ とが 教 室 の 一 連 の研 究 で
明 らか に され て い る.す な わ ち皮 膚 反 応,抗 原
特 異 的IgG抗
体,吸 入誘 発 試 験 な どの 結 果6)
7)か
ら, Candida抗 原 に よ るIgG抗 体,特 にIgG1 抗 体 の 関 与 が 強 く示 唆 さ れ て い る8).そ こ で 今 回 の 実 験 モ デ ル に つ い て も か か る観 点 か らIgGサ ブ ク ラ ス の 変 化 に つ い て 検 討 し た と こ ろ, 8日 間 吸 入 群 で は,吸 入 前 に 比 し抗 原 特 異 的IgG抗 体 は 有 意 に 増 加 し て い た.さ ら に 抗 原 特 異 的IgG1 抗 体 に つ い て は,有 意 差 は 認 め ら れ な い も の の 1例 を 除 い て 吸 入 前 に 比 し4日 目, 8日 目 と 次 第 に 増 加 し て お り, IARの み し か 出 現 し な い モ ル モ ッ トにDARが 出 現 す る 過 程 に 抗 原 特 異 的 IgG1抗 体 が 関 与 し て い る 可 能 性 が 示 唆 され た. 今 後 さ ら にLARと の 関 連 に つ い てIgG1a・IgG1b やIgEの 変 化 も あ わ せ て 検 討 す る 必 要 が あ る と 思 わ れ た.一 方,抗 原 特 異 的IgG2抗 体 は 吸 入 前 に 比 し,全 例 で4日 目 に 一 旦 増 加 し, 8日 目 に は 減 少 し て い た が,こ れ は 抗 原 吸 入 開 始 当 初 anaphylactic IARを 呈 す る モ ル モ ッ トが,抗 原 吸 入 を重 ね る に 従 い4日 目頃 よ り次 第 に 症 状 が 軽 くな り, IARが 軽 快 す る こ と と一 致 し て お り,
抗 原 特 異 的IgG2抗 体 がblocking antibodyと
して 働 く可 能 性 を示 唆 す る も の と思 わ れ た9). 今 回 作 製 した 慢 性 喘 息 モ デ ル の 肺 局 所 で 著 明 な 増 加 を 示 し た 好 酸 球 と喘 息 病 態 の 係 わ りに 関 して は,中 高 年 発 症 型 難 治 性 喘 息 の 病 態 と 類 似 点 の 多 いLARで のBALF中 に 好 中 球,好 塩 基 球 ・肥 満 細 胞 系 と と も に 好 酸 球 が 多 数 出 現 し て お り10),ま たLAR動 物 モ デ ル3)-5) 31)でも 肺 局 所 に 好 酸 球 が 増 加 し,抗 原 の 再 吸 入 を 行 う こ と に よ りそ の 傾 向 は さ ら に 顕 著 と な っ た.こ の よ うに 好 酸 球 はLARや 重 症 難 治 性 喘 息 と係 わ り を も つ こ と は 明 白 で あ ろ う.従 来 か ら知 ら れ て い る好 酸 球 の 機 能 は 寄 生 虫 感 染 に 対 す る 防 御 で あ る が,ア レ ル ギー 性 疾 患 で の 役 割 に つ い て は 長 い 間 一 定 の 見 解 は な か っ た.従 来 好 酸 球 は, 肥 満 細 胞 か ら放 出 さ れ る 炎 症 惹 起 物 質 を 不 活 化 す る 酵 素 群 を 有 し,ア レ ル ギ ー 反 応 を 抑 制 す る もの と考 え ら れ て い た が,そ の 後 の 研 究 で こ れ ら の 酵 素 群 に は 必 ず し も そ の よ う な 活 性 の な い こ と が 明 ら か と な り,好 酸 球 に よ る ア レ ル ギ ー 反 応 修 復 説 に 疑 問 が も た れ る よ う に な っ た.さ ら に 近 年 で は,好 酸 球 由 来 のMBP(major basic
protein)12), ECP(eosinophil cationic
protein)13), EPO(eosinophil peroxidase)14)な
ど の 塩 基 性 蛋 白が 気 管 支 上 皮 細 胞 に 対 し傷 害 作 用 を も た ら す こ とや,強 力 な 炎 症 性 メ デ ィ エ ー ター で あ るLTC415)やPAF16)の 産 生 細 胞 で あ る こ と も判 明 し,現 在 で は ア レ ル ギ ー 反 応 に お け る重 要 なeffector cellと 考 え ら れ る に 至 っ て い る17) 18).今 回 の モ デ ル に お い て も,肺 局 所 に 好 酸 球 の 著 明 な 増 加 が 認 め ち れ,気 道 上 皮 細 胞 傷 害, Irritant receptorの 露 出 等,発 作 の 慢 性 化 に 強 く関 与 し て い る こ とが 示 唆 さ れ る結 果 で あ っ た. 今 回得 ら れ た 著 明 な 肺 局 所 へ の 好 酸 球 浸 潤 の 機 序 に つ い て は, Frew19)ら は 卵 白 ア ル ブ ミ ン で 感 作 した モ ル モ ッ トの 気 管 支 粘 膜 に 抗 原 吸 入 後 17∼48時 間 に 好 酸 球 の 上 昇 ピ ー ク を 認 め て お り, そ の 際 同 時 にCD3(+)CD8(-)Tリ ン パ 球 が 増 加 して い る こ と を 報 告 し,気 道 で のT cellの 集 積 はLARの 特 徴 で あ る と し て い る.今 回 は リン パ 球 の 検 討 は で き て お らず,リ ン パ 球 由 来 のECFと も あ わ せ て 今 後 検 討 す る必 要 が あ る と考 え ら れ た.
教 室 の 動物 モデ ル を用 い た研 究3)
5)では, LAR
に お いて は抗 原吸 入 に よ り気 道 に 遊 出 した好 中
球 か らLTB4が
放 出 され 更 に好 酸球 が気 道 に集
積 し,両 細 胞 か らLTC4が
産 生 され 強 い気 道収
縮 が お こ る もの と考 え られ る.今 回得 られ た8
日間吸 入 群 でのBALF中
好 酸球 集 積 の所見 に加
え,好 中球 も増加 傾 向 が 認 め られ たが,な か に
は全 く好 中球 増加 を示 さな い もの もあ った.木
村20)は重症,難 治 性 喘 息 患 者の肺 局所 に好 中球の
増加 す る こ と を報 告 して い るが,今 回 の実 験 結
果 と異 な る理 由 と して,動 物 の種 差 や 抗 原 の違
いが考 え られ た. BALF中LTB4が8日
間 吸入
群 で は1日 吸 入群 に比 しむ しろ減 少 して い るの
も,繰 り返 す 発作 の ため,ま た 吸 入抗 原 量 の過
剰 投 与 の ため に 反 応が 強 す ぎて, LTB4産
生 細 胞
であ る好 中球 が枯 渇 して い る可能 性 が 考 え られ
た.ま たLTC4はBALF中
で は今 回検 出 され
なか った が, BAL施
行 時 注 入 す る生 理 食塩 水 が
多す ぎ るため か,ま た阻 害物 質 の 存 在, LTC4が
非 常 に不 安 定 な物質 で あ る ためBAL施
行 中代
謝 され た可能 性 等 が考 え られ た.血 液 中のLTC4
も8日 間 吸入 群 で は1日 吸 入 群 に 比 し減 少 して
い たが,肺 局 所 へ のLTC4産
生 細 胞 の 集積,ま
たBALF中LTB4の
場 合 と同様,化 学伝 達 物
質 が 枯 渇 し た 可 能 性 が 考 え ら れ た. ヒ ス タ ミン の 変 動 に 関 して,今 回 の 動 物 実 験 で は 血 中 で は 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た が, Okayama21)ら は ヒ ツ ジ に ア ス カ リス抗 原 の 吸 入 を行 い, IARで はBALF中 の ヒ ス タ ミ ン が 上 昇 し た がLARで は 認 め ら れ な か っ た と し て い る.一 方Durham22)ら は,喘 息 患 者 のIAR及 びLAR双 方 で 血 中 の ヒ ス タ ミン が 上 昇 す る と 報 告 し て お り,ま たDiaz23)は 喘 息 患 者 をIAR の み 呈 す る 群 とIARとLARの 両 者(DAR) が 出 現 す る2群 に 分 け,抗 原 吸 入6時 間 後 の BALF中 の ヒ ス タ ミ ン を 比 較 し た と こ ろ, IAR の み の 群 で は コ ン ト ロー ル に 比 し上 昇 は 認 め ら れ な か っ た が, DAR 7例 中5例 は コ ン トロ ー ル に 比 し上 昇 傾 向 に あ っ た と報 告 し て い る.以 上 の 如 く,ヒ トに お い て もIARの み ば か りで は な くDARで も ヒ ス タ ミ ン 上 昇 の 可 能 性 が 示 唆 さ
れ て い る.こ の 点 に関 して 難波10)は,気管支 喘 息
患 者 にhouse
dustに よ る抗 原吸 入 試 験 を行 う
と, LAR時
に好 塩 基球 ・
肥満 細 胞 系 の 増加 が認
め られ る として お り,従 って今 回8日 間 吸 入群
のDARモ
ル モ ッ トBALF中
に ヒス タ ミン の
上昇 が認 め られ た こ とは,抗 原吸 入 を重 ね るに
従 い好 塩 基 球 ・肥満 細 胞 系 が局 所 で増加,活 性
化 され た可 能性 が推 測 され る.ヒ ス タ ミン含 有
細 胞 に は好塩 基球 ・肥 満 細胞 系 が あ り, IgEに
強 い親 和 性 の あ るレ セプ ター と,メ タ クロマ ジ
ー を示 す 顆粒 を有 す る骨 髄 由来 の 細 胞 とい う点
で共 通 して い る.肥 満 細 胞が 未 分 化 細 胞 の まま
骨髄 か ら遊 出 し組 織 に 固 着 した後,組 織 で分 化,
増 殖 を示 す の に対 し,好 塩 基 球 は 骨 髄 で 完全 に
分 化,成 熟 した後,血 液 中 に 出現 す る.以 前 は
機 能 的 に ほ ぼ 同 じ と考 え られ て い たが,好 塩 基
球 が トリプ ター ゼ染 色 に対 して 陰性 であ るこ と,
PGD2が
肥満 細 胞 で は放 出 され るが好塩 基球 では
放 出 され な い等,機 能 的 に も何 らか の 異 な っ た
役 割 を担 っ て い る こ とが判 明 して きた.
Jarjour24)は喘 息 患者 にBALを
行 い,ヒ ス タ
ミンの上 昇 と気 道 閉塞 に相 関 を認 め た が,ト
リ
プ ター ゼ は上昇 して い なか っ た こ とか ら好 塩 基
球 の関 与 を示 唆 して い る.一 方Liu25)ら は軽 症
の 喘 息患 者 にBALを
行 い, PGD2と
ヒス タ ミン
の上 昇 を報 告 し,肥 満 細 胞 の 関 与 を想定 して い
る.さ らにSchleimer26)ら は,ア
レル ギー 性 鼻
炎 患 者 の 抗原 誘 発 後 に み られ る即 時 型 及 び遅 発
型 反 応 の 際 に,鼻 洗 浄 を行 い,そ の液 中の 化 学
伝 達 物質 を測 定 し,抗 原誘 発 直後 に はPGD2が
含 まれ て い るが 遅 発 型 反 応 時 に は含 まれ て い な
い こ と よ り,遅 発 型 反 応 で は肥 満 細 胞 よ りむ し
ろ好塩 基球 が 関 与 す る こ と を示 唆 してい る.今
回の 実験 で,抗 原 吸 入1日
目のIAR時
に お け る
ヒ ス タ ミン の上 昇 と8日 間吸 入 群 のDAR時
に
お け るそ れ とでは,ヒ ス タ ミン の由 来 す る細胞
が 異 な る可 能 性 もあ る と考 え られ た.ま たDAR
で は 好酸 球,好 中球,単 球 な ど浸 潤 細 胞 由来 の
化 学伝 達 物 質 を介 す る非特 異 的 刺 激 で の肥 満 細
胞脱 顆 粒 の可 能 性 もあ り,
DARで
の ヒス タ ミン
の上 昇 は, IARと
は そ の 由来 細 胞 の み な らず 脱
顆粒 機 序 が 異 な る可能 性 も考 え られ た.近 年,
喘 息病 態 はア レル ギー 性 炎症 として と らえられ,
まず 肥満 細 胞 が 引 き金 をひ き,さ らに複 雑 な細
胞 反 応が 誘 導 され た結 果,連 鎖 反 応 に よ り好塩
基球 も誘 導 され,複 雑 で よ り重 篤 なLARの
場
で ヒス タ ミン等 の化 学 伝 達 物 質 を放 出す る こ と
に よっ て複 雑 な細 胞 反応 連 鎖 を誘 導 す る重 要 な
役 割 を担 って い る もの と考 え られ る.現 時 点 で
はLARに
お け る好 塩 基 球 ・肥 満 細 胞 の役 割 は
なお 不 明 な点 も多いが,今 後CTMC(connective
tissue mast cell), MMC(mucosal
mast cell)
の 区別 も含 め て さ らに検 討 す べ き課題 と考 え ら
れ た.
結
論
重 症,難 治性 喘 息の機 序 を解 明す るため, LAR
動 物 モ デ ル を用 い て抗 原吸 入 を繰 り返 す こ とに
よ り慢 性 喘 息 モデ ル を作 製 し,そ の 末梢 血 及 び
BALF中
の化 学伝 達 物 質 やIgG,細
胞 反応 並 び
に肺 の組 織 学 的検 討 を行 っ た.
1)吸
入 前 に 比 し8日 間吸 入群 で は 末梢 血 中
の抗 原特 異 的IgG(P<0.05)及
びIgG1抗 体 の
増加 が認 め られ た.
2)末
梢 血 好 酸 球数 は, 1日 吸 入 群 に 比 し8
日間 吸入 群 で減 少 を示 し(P<0.01),
BAL及
び
肺組 織 の好 酸 球 は 逆 に 増加 した(P<0.05).
3)末
梢 血 中のLTC4濃
度 は, 1日 吸 入群 に
比 し8日 間 吸 入 群 で 有 意 に減 少 が 認 め ら れ た
(P<0.01).
4) BALF中 のLTB4濃 度 は, 1日 吸 入 群
に 比 し8日 間 吸 入 群 で 有 意 に 減 少 が 認 め ら れ た
(P<0.05).
5) BALF中 の ヒ ス タ ミン 濃 度 はIAR, DAR
の い ず れ で も増 加 が 認 め ら れ た. 以 上,成 人 喘 息 病 態 に 類 似 し た 慢 性 喘 息 動 物 モ デ ル を 用 い て,そ の 肺 局 所 で の 化 学 伝 達 物 質 や 細 胞 反 応 の 複 雑 な 相 互 関 連 の 一 端 を 明 らか に し た. 稿 を終 え るに あ た り御 指 導,御 校 閲 を賜 りま した恩 師 木 村 郁 郎 教 授 に 深 謝 す る と と もに,終 始 懇 切 な御 指 導 と助 言 を頂 き ま した 高橋 清講 師 に 深 謝 いた し ま す. 尚,本 論 文 の要 旨は,第33回 日本胸 部 疾 患 学 会 総 会(平 成5年4月8日)に お い て発 表 した.
文
献
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