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レーザー逆コンプトン法を用いた長寿命放射性原子核の核変換

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(1)

レーザー逆コンプトン法を用いた長寿命放射性原子

核の核変換

著者

高井 静霞

学位授与機関

Tohoku University

(2)

修士論文

レーザー逆コンプトン法を用いた長寿命放射性原子核の核

変換

Nuclear Transmutation of long-lived nuclides with

Laser Compton Scattering

東北大学大学院 理学研究科

物理学専攻 原子核理論研究室

B1SM2046

高井静霞

(3)
(4)

i

目 次

1章 序章 1 1.1 レーザー逆コンプトン法を用いた核変換 . . . . 1 1.2 本研究の目的と論文の構成 . . . . 3 第2章 原子核の巨大双極子共鳴 5 2.1 電磁遷移 . . . . 5 2.2 巨大双極子共鳴 . . . . 7 2.2.1 巨大双極子共鳴の性質 . . . . 7 第3章 レーザー逆コンプトン散乱 114章 核変換断面積 15 4.1 複合核反応 . . . . 15 4.1.1 複合核反応の断面積 . . . . 16 4.1.2 透過係数. . . . 18 4.2 準位密度 . . . . 23 4.2.1 フェルミガス模型による準位密度 . . . . 24 4.2.2 Gilbert-Cameronの準位密度 . . . . 25 4.3 前平衡過程 . . . . 28 第5章 計算結果・考察 29 5.1 TALYSによる計算 . . . . 29 5.1.1 TALYSによる反応断面積の計算結果 . . . . 29 5.1.2 前平衡過程を考慮したときの計算結果 . . . . 30 5.1.3 異なる準位密度を用いたときの計算結果 . . . . 31 5.1.4 異なる光学ポテンシャルを用いたときの計算結果 . . . . 33 5.2 レーザー逆コンプトン法による核変換. . . . 34 5.2.1 セットアップ . . . . 34 5.2.2 レーザー逆コンプトン法による核変換 . . . . 35 5.2.3 レーザー逆コンプトン法による核変換の対象となる核種. . . . 36 5.2.4 137Csの核変換 . . . . 37 5.3 14MeV中性子による核変換との比較 . . . . 40

(5)

ii 第6章 まとめと今後の展望 43 付 録A 巨大双極子共鳴の断面積 47 A.1 電磁場の量子化 . . . . 47 A.2 巨大双極子共鳴の断面積 . . . . 48 付 録B レーザー逆コンプトン散乱 51 B.1 散乱光子のエネルギー . . . . 51 B.2 逆コンプトン散乱の散乱断面積 . . . . 52 付 録C 光学模型 57 付 録D 複合核反応 59 D.1 散乱の量子論 . . . . 59 D.1.1 ポテンシャルによる散乱 . . . . 59 D.1.2 部分波展開 . . . . 60 D.2 複合核 . . . . 63 D.2.1 S行列のゆらぎ . . . . 63 D.2.2 複合核過程による断面積 . . . . 63 D.2.3 Hauser-Feshbachの統計理論. . . . 64 D.2.4 詳細釣合の原理 . . . . 66 付 録E 準位密度 67 参考文献 70

(6)

1

1

章 序章

1.1

レーザー逆コンプトン法を用いた核変換

現在原子力において最も大きな問題の1つとして、高レベル放射性廃棄物の処理という問題が ある。この高レベル放射性廃棄物とは、原子力発電所の使用済み燃料から再利用できる235Uや 239Puを除いた廃棄物のことである。 現在、高レベル放射性廃棄物を処理する方法として、放射性廃棄物を地下深くに埋設する地層処分 というものが考えられている。しかし、高レベル放射性廃棄物の中には半減期が数百万年と長い核 種や、発熱量の大きい核種が含まれる。そのため、地層処分しても人類がそのような長い期間安 全に管理することは難しい。このような問題を解決するために、地層処分する前に長寿命の核種 や発熱量の大きい核種を分離し、短寿命の核種に核変換するということが考えられてきた[1–3]。 高レベル廃棄物は大きくマイナーアクチノイドと核分裂生成物という2つに分けられる。マイナー アクチノイドとはアクチノイド属のなかでウランより重いものでプルトニウムを除いた核種のこ とを指す。一方、核分裂生成物とは235Uや239Puなどの核分裂によって生じた核種のことである。

この2つのうち、マイナーアクチノイドは加速器駆動未臨界炉(Accelerator Driven System : ADS)

による核変換が考えられている [4]。これは、加速器で発生させた高エネルギーの陽子を重い原子

核(鉛・ビスマス)に当てて核破砕を起こすことによって、その際に生じた中性子を核変換した い原子核に吸収させて核分裂を起こし、核変換するという手法である。

本論文では、もう一方の高レベル放射性廃棄物である核分裂生成物の核変換について考察する。核

変換の対象となる代表的な核分裂生成物には、表(1.1)のようなものがある。

核種 半減期(年)(β−decay:100%) 熱中性子捕獲断面積(b) σGDRtot (b) Q(β−)(eV)

129I 1.6× 107 27 2.25 194 99Tc 2.1× 105 20 1.75 293.2 135Cs 2.3× 106 8.7 2.31 268.7 137Cs 30 0.25 2.37 1175.63 90Sr 29 0.014 1.58 546.0 表1.1: 代表的な核分裂生成物。σtot GDRは巨大双極子共鳴の全断面積を表し、Q(β−)はβ−崩壊に 対するQ値を表す。 これまでに、核分裂生成物に対する核変換の方法として、熱中性子を捕獲させて核分裂を起こ

(7)

2 第1章 序章 す方法が考えられてきた。しかし、表(1.1)のように熱中性子の捕獲断面積は個々の原子核に依っ て大きく異なる。そのため、熱中性子による核変換が有効な核種は熱中性子捕獲断面積及び核分 裂の分岐比が大きいものに限られてしまうという欠点がある。それに対し、近年レーザー逆コン プトン法を用いた核変換が提案されている[5, 6]。この方法は、図(1.1)のようにレーザーフォト ンと数GeVの電子を衝突させることで数十MeVのフォトンのビームを生成し、それを原子核に

当てて巨大双極子共鳴(Giant Dipole Resonance : GDR)という状態を励起し、中性子を放出さ

せ核変換するというものである。 巨大双極子共鳴 中性子 電子ビーム(数GeV) レーザーフォトン(数eV) 散乱されたフォトン(十数MeV) 標的核 図1.1: レーザー逆コンプトン法による核変換 レーザー逆コンプトン法による核変換を用いる理由として、次のような利点が挙げられる。 1. 巨大双極子共鳴を励起する程度の大きなエネルギーを持つγ線を生成することができる: 原子核にγ 線を入射したときの反応断面積は、核子を入射する場合に比べて小さい。その 理由は、電磁相互作用の結合定数が強い相互作用の結合定数よりも小さいためである。しか し、十数MeV程度のエネルギーを持つγ線が原子核に入射すると、巨大双極子共鳴と呼ば れる集団励起状態が起こりうる。この巨大双極子共鳴は大きな反応断面積を持つことが知ら れている。 2. 熱中性子捕獲による核変換が有効でない核種に対しても効果的である: 熱中性子捕獲断面積は表(1.1)のように個々の原子核の殻構造によって大きく異なり、核種 によってその反応断面積は小さくなる場合がある。これに対して、巨大双極子共鳴の反応断 面積は質量数Aの滑らかな関数で表されることが知られており、核種に依らずに効果的な核 変換が期待できる。 レーザー逆コンプトン法による核変換では、原子核にγ線を入射し、巨大双極子共鳴という状 態を励起することで核変換を起こす。励起された巨大双極子共鳴は、主に1個または2個の中性

(8)

1.2. 本研究の目的と論文の構成 3 子を放出して崩壊する。よって、原子核(Z,N)(Z:陽子数、N:中性子数)をレーザー逆コンプトン法 により核変換すると、生成されるのは主に(Z,N-1)または(Z,N-2)の原子核である。 しかし、原子核(Z,N)によっては(Z,N-2)の原子核を生成したくない場合がある。例えば、核変換 の対象として表(1.1)より発熱量の大きい137Csが挙げられるが、137Csをレーザー逆コンプトン 法により核変換する場合、寿命の長い135Csをできるだけ生成しないことが望ましい。

1.2

本研究の目的と論文の構成

前節で述べた通り、近年核変換の方法の一つとしてレーザー逆コンプトン法による核変換が提案 されてきた。最近、Ejiriらはこの方法による核種変換率の簡単な定性的な議論を行っている [5]。 本論文の目的は、レーザー逆コンプトン法による核変換の有用性をHauser-Feshbachの統計模型 を用いて定量的に考察することである。また、本論文では137Csのような核種(Z,N)を核変換の 対象として、レーザー逆コンプトン法によって(Z,N)の原子核を(Z,N-1)の原子核に核変換し、か つ(Z,N-2)の原子核をできるだけ生成しないような核変換について考察する。さらに、レーザー 逆コンプトン法による核変換の他に考えられている、d(t, n)α反応で生じる14MeVの速い中性子 による核変換と比較し、レーザー逆コンプトン法による核変換の有用性を議論する。 本論文の構成は以下の通りである。第2章では、巨大共鳴について、第3章では、レーザー逆コ ンプトン散乱について簡単に紹介する。第4章では、統計模型に基づく断面積の計算方法につい て説明する。第5章では、レーザー逆コンプトン法による核変換の計算方法と結果を示してそれ らに対する考察を行い、第6章で結論と今後の課題について述べる。

(9)
(10)

5

2

章 原子核の巨大双極子共鳴

本章では原子核の巨大双極子共鳴について述べる。巨大双極子共鳴とは、原子核に10∼ 30MeV 程度のγ線が入射したときに起こる集団励起状態である。2.1節では、γ線が原子核に入射したと きに起こる電磁遷移の一般的性質について説明する。2.2節では巨大双極子共鳴とその性質につい て説明する。

2.1

電磁遷移

原子核にγ線が入射すると、原子核は図(2.1)のようにある確率でフォトンを吸収し、電磁遷移 をする。

r

d

A

j

c

H

int

=

µ µ

r

1

γ線 原子核 i f

I

I

I

r

r

r

=

i

Ψ

f

Ψ

図2.1: 原子核の電磁遷移 原子核と電磁場= (ϕ, A)の相互作用は次のように表される。 Hint= 1 cjµ· Aµdr = ∫ ( ρ(r)ϕ(r)1 cj(r)· A(r) ) dr (2.1.1) ここで、ρ(r)は原子核の電荷分布、j(r)は軌道を回る陽子と核子のスピンによって生じる原子核 の電流密度を表す。また、原子核の磁気モーメントµj(r) = c∇ × µ(r) (2.1.2)

(11)

6 第2章 原子核の巨大双極子共鳴 と表されるので、B =∇ × Aから相互作用は Hint= ∫ ρ(r)ϕ(r)drµ(r)· B(r)dr (2.1.3) と書ける。(2.1.3)式に見るように、原子核の電磁遷移は電気的(E)または磁気的(M)かに分かれ、 その第1項が電気的、第2項が磁気的遷移を起こす相互作用に対応する。また電磁遷移は、電磁場 が原子核に持ち込む角運動量の大きさ(I≥ 1)によっても分類される。このようなXI(X=E,M)の 電磁遷移は、反応の前後でフォトンを含めた全系のパリティ・角運動量が保存するときに起こる。 例として、フォトン1個の吸収による原子核の状態|Ψi⟩(スピンIi)から|Ψf⟩(スピンIf)への電磁 遷移XIを考える。このとき、一次の摂動論を用いて電磁遷移XIが起こる確率は次のように表さ れることが知られている[10]。 Tf i(X, I) = 8π(I + 1) ~I((2I + 1)!!)2 (Eγ ~c )2I+1 B(XI, Ii→ If) (2.1.4) B(EI, Ii→ If) = 1 2Ii+ 1|⟨Ψf|| ˆ QI||Ψi⟩|2 (2.1.5) B(M I, Ii→ If) = 1 2Ii+ 1|⟨Ψf|| ˆ MI||Ψi⟩|2 (2.1.6) ここで、は吸収されるフォトンのエネルギーである。また、QˆI, ˆMI は電磁遷移を起こすオペ レーターであり ˆ QIm = ∫ ρ(r)rIYIm(θ, ϕ)dr (2.1.7) ˆ MIm = ∫ µ(r)· ∇(rIYIm(θ, ϕ))dr (2.1.8) の換算行列要素として表される。 電磁遷移が起きる確率は、Iが小さいほど大きく、また磁気的な遷移より電気的な遷移のほうが大 きくなることが知られている。また、電磁遷移によるパリティの変化は、(2.1.7),(2.1.8)式からわ かるように1 πEIm= (−)I , πM Im = (−)I+1 (2.1.10) と表される。 最も遷移確率が大きいのは、E1(電気双極子遷移)である。このE1の電磁遷移では、原子核の角 運動量が1変わり、またパリティーの変化を伴う。このE1遷移が、次節で説明する巨大双極子共 鳴と呼ばれる励起状態を引き起こす。 1 空間反転に対し、球面調和関数YImYIm(π− θ, ϕ + π) = (−)IYIm(θ, ϕ) (2.1.9) と表せる。

(12)

2.2. 巨大双極子共鳴 7

2.2

巨大双極子共鳴

原子核にγ線が入射すると、原子核の光吸収断面積に図(2.2)のような幅の広い共鳴状態が見ら

れる2。この共鳴状態が、巨大双極子共鳴(Giant Dipole Resonance)と呼ばれる原子核の励起状

態である。 図2.2: 208Pbの光吸収断面積[9](実線は実験値を Breit-Wignerの分布でフィットしたものである) proton neutron 図2.3: 巨大双極子共鳴の古典的な描像 巨大双極子共鳴は図(2.2)のように、Breit-Wignerの分布 σ(Eγ) = σRΓ2REγ2 (E2 γ− E2R)2+ Γ2REγ2 (2.2.1) で表される。ここで、 は入射γ線のエネルギー、ER, ΓR, σは巨大双極子共鳴のエネルギー、 幅、断面積であり、σR= σ(ER)である。次節で、これらER, ΓR, σがどのような関数で表される か議論する。

2.2.1

巨大双極子共鳴の性質

巨大双極子共鳴は、2.1節で述べたようにE1の電磁遷移によって引き起こされる。このとき M1,E2などの他の電磁遷移によっても共鳴は生じているが、遷移確率がE1に対して著しく小さ いため、巨大双極子共鳴に比べるとほとんど無視できる程度の大きさしか起こらないことが知ら れている。以下に巨大双極子共鳴の性質について説明する。 (a) 巨大双極子共鳴の共鳴エネルギー及び共鳴幅 巨大双極子共鳴は古典的には図(2.3)のように、陽子と中性子が逆方向に振動している状態 として理解される。 2 ただし、原子核が変形している場合には2山構造になる場合がある。

(13)

8 第2章 原子核の巨大双極子共鳴

図2.4: 巨大双極子共鳴のエネルギーEGDR[9](実線は(2.2.2)式による値、各点はLivermore,

Saclay, General Atomic Laboratories, Illinoisにおいて行われた実験による値を表す)

質量数Aの原子核に対し、巨大双極子共鳴の共鳴エネルギーの実験データは次のような式

で表されることが知られている [13]。

EGDR = 31.2A−1/3+ 20.6A−1/6(MeV) (2.2.2)

(2.2.2)式の2つの項は、図(2.3)を基にした次の2つのモデルからくる項である。 ひとつはGoldhaberとTeller [11]によるモデルで、核内の陽子・中性子がそれぞれ非圧縮性 の固定された面をもつ流体であると仮定し、それが逆位相に振動すると考えるモデルである。 このとき共鳴エネルギーはA−1/6に比例する。もう一方はSteinwedelとJensen [12]による モデルで、原子核を一定の密度を持つ非圧縮性の固定された面を持つ流体とし、その中で中 性子と陽子の密度分布が変化するとして振動を表した。このとき共鳴エネルギーはA−1/3に 比例する。図(2.4)に巨大双極子共鳴の共鳴エネルギーEGDRを示す。 また、巨大双極子共鳴の幅は次のように表されることが知られている [13]。 ΓGDR = 0.026EGDR1.91 (MeV) (2.2.3) (2.2.2),(2.2.3)式より、A∼ 30 − 200の原子核に対し、巨大双極子共鳴の共鳴エネルギーは EGDR∼ 14 − 22MeV、共鳴幅はΓ∼ 4 − 5MeV程度であることがわかる。

(14)

2.2. 巨大双極子共鳴 9 (b) 巨大双極子共鳴の断面積 巨大双極子共鳴の大きな特徴として和則(Sum Rule)をほぼ尽くすという点があり、このこ とから巨大双極子共鳴が集団的な励起状態であることがわかる。以下にこれについて説明す る(付録A.2参照)。 質量数A、原子番号Z、中性子数Nの原子核に対し、E1の遷移を起こすオペレーターDˆ は (2.1.7)式より ˆ D = e Zi=1 (ri− R) (2.2.4) と表される。ここで、R = A1 ∑Ai=1riは原子核の重心の座標である。E1の電磁遷移によっ て起こる、基底状態0⟩(エネルギーE0)から0⟩ → |Ψf⟩(エネルギーEf)への遷移につい てすべての終状態を考慮すると、全断面積は σtotE1= 2e2 ~cf (Ef − E0)|⟨Ψf| ˆD|Ψ0⟩|2 (2.2.5) と表される。(2.2.5)式において、 S =f (Ef − E0)|⟨Ψf| ˆD|Ψ0⟩|2 = 1 2⟨Ψ0|[ ˆD, [H, ˆD]]|Ψ0 (2.2.6)

は和則(Energy-weighted Sum Rule)と呼ばれる。(2.2.6)式からわかるように、和則は原子

核の基底状態と相互作用のみから決まる量である。ポテンシャルV 中のπ中間子の交換な

どの項を無視してこれを計算すると、E1の遷移の全断面積は

σT RK = 60

N Z

A (mb・MeV) (2.2.7)

と表される。(2.2.7)式はThomas-Reiche-Kuhn Sum Ruleと呼ばれる。さらにπ中間子の

交換などを考慮すると、全断面積は σtotE1= 60(1 + κ)N Z A (mb・MeV) (2.2.8) と表されることが知られている。ここでκは増幅因子と呼ばれる定数である。 巨大双極子共鳴の全断面積は、和則から計算される全断面積(2.2.8)の大部分を尽くすこと が知られている。一方、(2.2.8)式はE1の遷移によって原子核中の全ての核子が励起した場 合の全断面積である。したがって、巨大共鳴はほとんどすべての核子が関与する集団的な励 起状態である。図(2.5)にκ = σtotE1/σT RKのグラフを示す。 図(2.5)から、π中間子の交換などの寄与を表す増幅因子κは中重核においてκ ∼ 0.2であ ることがわかる。

(15)

10 第2章 原子核の巨大双極子共鳴

図2.5: 増幅因子κ = σE1tot/σT RKの値[9](各点はLivermore, Saclay, General Atomic

(16)

11

3

章 レーザー逆コンプトン散乱

本章では、レーザー逆コンプトン散乱について述べる。レーザー逆コンプトン散乱によって、巨 大双極子共鳴を励起するのに必要な10− 20MeV程度のγ線を得ることができる。 通常のコンプトン散乱は、静止した物質中の電子に光子を衝突させて弾性散乱を起こし、光子の エネルギーが減少するというものである。それに対して、レーザー逆コンプトン散乱とは、加速 器で加速された相対論的な速度を持つ電子とレーザー光子の衝突で、反跳光子のエネルギーが増 加するというものである [17]。 以下にレーザー逆コンプトン散乱の様子を表す。ここで入射してくる電子及びフォトンのエネルギー、 運動量を1, p1), (ω1, k1)、散乱した電子及びフォトンのエネルギー、運動量を2, p2), (ω2, k2)と する。また、フォトンの入射角をθ1、散乱角をθとする。 θ 図3.1: レーザー逆コンプトン散乱。実線は電子、波線はフォトンを表す。 光速に近い電子とレーザーフォトンが正面衝突したとき(θ1 = π)、レーザーフォトンは後方に 跳ね返される(θ≪ 1)。このとき、エネルギー・運動量保存則から散乱されたフォトンのエネル ギーは ω2 = 2ω1 1 + (γθ)2+1γ m (3.0.1) と表される(付録B.1参照)。(3.0.1)式でγ = 1/√1− β2, β = v 1 (v1:入射電子の速度),mは電 子の静止質量を表す。図(3.2)に散乱されたフォトンのエネルギーω2の角度分布を表す。ここ で、入射電子のエネルギーをϵ1 = 1.2GeV、入射フォトンのエネルギーをω1 = 0.7eVとした。

(17)

12 第3章 レーザー逆コンプトン散乱 0 2 4 6 8 10 12 14 16 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 ω2 (MeV) θ(deg) ω2 1/γ 図3.2: 散乱されたフォトンのエネルギーの角度分布。赤線は散乱されたフォトンのエネルギーω2、 点線は1/γを表す。 (3.0.1)式より、散乱されたフォトンのエネルギーは散乱角θに依存し、θ = 0のときに最大値 ωmax2 をとる。また、散乱されたフォトンのエネルギー幅∆Eは、散乱角θをコリメーターによっ て適当に決めることで調整できる。さらに、数GeVの電子と数eVのフォトンの散乱では、(3.0.1) 式の分母にある1γ/m1γ m = 1 m · ϵ1 m ≪ 1 (3.0.2) となるので、散乱されたフォトンのエネルギーの幅は図(3.2)のように1/γ程度となる。 また、このとき散乱断面積のエネルギー分布dσ/dω2は 2 = πr 2 0 2 m 2ω 1ϵ21 { m4 21ϵ21 ( ω 2 ϵ1− ω2 )2 m2 1ϵ1 ( ω 2 ϵ1− ω2 ) + ω2 ϵ1− ω2 +ϵ1− ω2 ω2 } (3.0.3) m2x1 = (p1+ k1)2− m2 = 2p1· k1 (3.0.4) m2x2 = (p1− k2)2− m2 = 2p1· k2 (3.0.5) と表される[14](付録B.2参照)。ここでr0= e2/4πmである。 散乱されたフォトンのフラックスを(/s)とすると、 = ∫ 2 2 × const. =2 dNγ 2 (3.0.6) と表すことができる。ここでconst.は定数である。(3.0.6)式より、散乱断面積dσ/dω2を積分し、 それを散乱されたフォトンのフラックスと比較してconst.を求めることで、散乱されたフォ トンの個数のエネルギー分布dNγ/dω2を求めることができる。

(18)

13 0 5e+09 1e+10 1.5e+10 2e+10 2.5e+10 3e+10 3.5e+10 4e+10 0 5 10 15 20 25 30 0 50 100 150 200 250 300 350 Number of photons(MeV -1 ) σGDR (mb) ω2(MeV) ω1=0.7eV ω1=1.0eV σGDR B(n) B(2n) 図3.3: 散乱されたフォトンの個数のエネルギー分布と137Csの巨大双極子共鳴の断面積。青線は入 射フォトンのエネルギーがω1= 0.7eVの場合、緑線はω1 = 1.0eVの場合の散乱されたフォトンのエ ネルギー分布を表す。赤線は137Csの巨大双極子共鳴の断面積、点線は137CsのB(n), B(2n)(B(xn) は137Csの中性子x個の束縛エネルギー)を表す。ここで、ω1 = 0.7eVのときω2max = B(2n)と なっている。 図(3.3)に散乱されたフォトンの個数のエネルギー分布を示す。ここで、散乱されたフォトンのフ ラックスを= 2× 1012/s、入射電子のエネルギーをϵ1 = 1.2GeVとした。 図(3.3)のω1 = 0.7eV及び1.0eVの場合で見るように、入射フォトンのエネルギーが変わると 散乱されたフォトンのエネルギー分布は変化する。中性子を1個だけ放出させるような核変換を 起こすには、図(3.3)のω1 = 0.7eVの場合のように、ωmax2 = B(2n)となるようにすればよい。こ れは次のような理由のためである。 ある原子核Xにエネルギーγ線が入射し、中性子が1個放出する反応は、B(n)≤ Eγ≤ B(2n) の範囲で起こる。一方図(3.3)で見るように、137Csなどの中重核では巨大双極子共鳴の共鳴エネル ギーはEGDR∼ B(2n)である。したがって、散乱されたフォトンのエネルギーの最大値をB(2n) にとるようにω1を決め、さらにB(n)≤ Eγ ≤ B(2n)のフォトンを標的核に入射することで、効 率よく中性子を1個だけ放出させるような核変換を起こすことができる。 レーザー逆コンプトン散乱を用いる利点には次のようなものがある。 レーザー逆コンプトン散乱によって生成するフォトンのビームの空間的広がりが小さい: 入射電子のエネルギーが1.2GeVのとき、(3.0.1)式より散乱されたフォトンの空間的広がり はθ∼ 1/γ ∼ 0.4mrad程度である。このとき数m離れたところにターゲットがあれば、ビー ムのあたる範囲は半径1mmの円程度なので、ターゲットを高い密度で核変換することがで きる。

(19)

14 第3章 レーザー逆コンプトン散乱 • γ線は核変換するための入射ビームとして適している: 荷電粒子の場合はターゲット中の電子と相互作用して大きく減衰するが、γ線はそれに比べ て減衰が小さいため、厚いターゲットにも有効である。また、中性子による核変換について は5.3節で考察する。 散乱されたフォトンを効率的に核変換に用いることができる: 高いエネルギーのγ線を生成する方法として、レーザー逆コンプトン散乱の他に制動放射に よる方法が考えられる。ここで制動放射とは、高エネルギーの電子が原子核の作る電場によ り曲がる際に、γ線が放出する現象のことである。 図(3.4)に137Csの巨大双極子共鳴の断面積と中性子の束縛エネルギーB(n)、レーザー逆コ ンプトン散乱及び制動放射によって散乱されたフォトンの数のエネルギー分布 [15]を示し た。図(3.4)より、散乱されたフォトンのエネルギーの最大値をB(2n)にとれば、散乱され たフォトンのうち約半分がB(n)≤ Eγ ≤ B(2n)のエネルギー範囲に入ることがわかる。一 方、制動放射では散乱されたフォトンのエネルギーが高いほど散乱されたフォトンの数が減 る。したがって、核変換に必要な高いエネルギーのフォトンを生成するには、制動放射より レーザー逆コンプトン散乱の方が適していると考えられる。 0 5e+09 1e+10 1.5e+10 2e+10 2.5e+10 3e+10 3.5e+10 4e+10 0 5 10 15 20 25 30 0 50 100 150 200 250 300 350 Number of photons(MeV -1 ) σGDR (mb) ω2(MeV) Emax=B(2n) Bremsstrahlung σGDR B(n) 図3.4: 137Csに対するレーザー逆コンプトン散乱及び制動放射の散乱断面積のエネルギー分 布。青線は散乱されたフォトンのエネルギーの最大値を137CsのB(2n)にとったときにレー ザー逆コンプトン散乱によって散乱されたフォトンの個数、緑線は制動放射によるフォトン の個数を表す。また、赤線は137Csの巨大双極子共鳴の断面積、点線は137CsのB(n)を表 す。ここで比較のため、 = 0でのレーザー逆コンプトン散乱及び制動放射によるフォト ンの個数を等しくとってある。

(20)

15

4

章 核変換断面積

入射粒子が標的核に入射すると様々な反応が起きる。それを反応時間によって大別すると、核 反応は次のように分類される。 直接反応 : 原子核内の少数の内部自由度が励起された段階で、比較的短時間で終わる反応。 複合核反応 : エネルギー的に許されるすべての内部自由度が励起された状態(複合核状態) を経過する反応。複合核は長い寿命をもつが、やがて崩壊する。 前平衡過程 : 直接反応から複合核状態へと進む過程で、複合核を形成する前に終わる反応。 原子核にγ線が入射して巨大双極子共鳴が励起されると、原子核中のある1つの核子が入射γ線 のエネルギーを得て核外に飛び出すこともあれば(前平衡過程)、さらに他の核内核子と相互作用 して、最終的に非常に多くの自由度に入射エネルギーが分配された熱平衡状態が実現することも ある(複合核)。ただし、巨大共鳴程度のエネルギーではほとんどが複合核を形成し、前平衡過程 はあまり起こらないことが実験的に知られている [19]。 本章では、原子核にγ線が入射したときの核変換断面積について述べる。4.1節では、複合核反応 及びHauser-Feshbachの公式と呼ばれる、複合核反応の断面積を統計的に求める方法について説 明する。4.2節ではHauser-Feshbachの公式を用いて複合核反応の断面積を計算する上で必要とな る、原子核の準位密度について述べる。また、4.3節では前平衡過程について述べる。なお、ここ で説明する断面積の計算には核理論計算コードTALYS [18]を用いる。

4.1

複合核反応

複合核反応では表(4.1)のような反応が起こる。ここで、aは入射粒子、Aは標的核、Cは複合 核、bは放出粒子、Bは残留核を表す。また、{A,a},{B,b}などの組をチャンネルという。 反応の前後で次の保存則が成り立つ: Ea+ EA= EC = Eb+ EB エネルギー保存 (4.1.1) pa+ pA= pb+ pB 運動量保存 (4.1.2) ja+ IA= JC = jb+ IB 角運動量保存 (4.1.3) (−1)laπ aπA= πC = (−1)lbπbπB パリティ保存 (4.1.4)

(21)

16 第4章 核変換断面積 チャンネル α β a + A → C∗ b + B エネルギー Ea EA EC Eb EB 運動量 pa pA pb pB 内部角運動量 Ia IA JC Ib IB パリティ πa πA πC πb πB 表4.1: 複合核反応。aは入射粒子、Aは標的核、Cは複合核、bは放出粒子、Bは残留核を表す。 ここで、la, lbはチャンネルα, βの相対運動の角運動量を表し、ja= la+ Ia, jb= lb+ Ibとした。 本章の序論に述べたように、複合核は入射粒子が標的核に吸収され、その励起エネルギーがあ らゆる種類の運動の自由度に分配された結果実現される、一種の熱平衡状態である。その状態が 長い寿命をもって崩壊することで、複合核反応が起こる。そのため、複合核形成後は入射粒子の 記憶が失われ、複合核の形成と崩壊は独立のプロセスであると仮定される。このような複雑な系 を厳密に解くのは現実的ではないので、統計的に複合核反応の断面積を求める。

4.1.1

複合核反応の断面積

複合核反応の断面積は、Hauser-Feshbachの公式と呼ばれる式で見積もることができる。この 式は、複合核の形成の過程と崩壊過程が独立のプロセスであるという複合核の仮定に基づき、統 計的に求められたものである。本節ではこのHauser-Feshbachの公式について説明する。 まず簡単のために、反応に関与する粒子のスピンを無視した場合について考える。チャンネルα から複合核を形成する断面積σαcnは、次のように表されることが知られている(付録D.2.2参照)。 σcnα = π k2 α (4.1.5) ここで、はチャンネルαでの相対運動の波数である。また、は透過係数と呼ばれ、(4.1.5)式 からわかるように複合核形成の断面積に比例する量である。 次に、(4.1.5)式から複合核反応の断面積を求める。複合核の仮定として、複合核の形成と崩壊は 独立のプロセスであるという考えがある。この仮定から、複合核を経由してチャンネルαからβ に崩壊する断面積σcnαβは、複合核形成の断面積σαにすべての崩壊しうるチャンネルのうちβに崩 壊する確率をかけて、 σcnαβ = σcnα (4.1.6) と表されると考えられる。は、チャンネルαからβの反応とその逆反応の関係式である詳細釣 合の原理(付録D.2.4参照) kα2σαβ = kβ2σβα (4.1.7)

(22)

4.1. 複合核反応 17 を用いて(4.1.5)式から計算すると、 = γTγ (4.1.8) と表される。これよりσcn αβσcnαβ = π k2 α TαTβγTγ (4.1.9) となる。これがスピンを考慮しない場合のHauser-Feshbachの公式である。 複合核を経由したチャンネルαからβへの反応の模式図は、図(4.1)のように表される。ここで 例として、チャンネルαγ +AX(基底状態)、チャンネルβn +A−1X(基底状態)とする。

g.s.

複合核 A

X

離散状態 連続状態 A-1

X

J

T

α A

X

B(n)

J

T

β

γ

γ線の 放出 中性子 の放出 図4.1: 複合核を経由した反応(B(n)AXの中性子の束縛エネルギー) 図(4.1)のように、入射エネルギーが高い場合は、終状態として連続状態への遷移も起こりうる。 さらに(4.1.9)式で無視した、反応に関わる各粒子のスピンや反応前後のパリティの保存を考慮す る必要がある。これらを考慮すると、表(4.1)の反応におけるσαβcn は、次のように表される。 σαβcn = π k2 αlalbjajbJ gJδ(α, πC)δ(β, πC) TαjJala(Ea)⟨TβjJblb(Eb)γjγlγ⟨T J γjγlγ(Eg) (4.1.10) これをHauser-Feshbachの公式という。Ea, Ebは入射粒子及び放出粒子のエネルギーを表す。ま た、δ(α, πC), δ(β, πC)は反応の前後でパリティが保存することを表している。gJ は(4.1.11)式で 与えられる統計因子である。 gJ = 2J + 1 (2IA+ 1)(2Ia+ 1) (4.1.11) また、⟨TβjJ blb(Eb)⟨TJ βjblb(Eb)⟩ =EB+12∆E∗B EB∗−1 2∆EB∗ ρB(E∗B)TβjJblb(Eb)dE B (4.1.12)

(23)

18 第4章 核変換断面積 で書け、ρB(EB∗)は残留核Bの励起エネルギーEB∗ における準位密度、∆EB∗ は考慮するエネルギー 間隔を表す。また、∑γj γlγ⟨T J γjγlγ(Eg)はすべての終状態について(4.1.12)式の和をとった項であ る。このように、連続状態が関与する場合は残留核の励起エネルギーEに対して準位の数がρ(E) だけあるため、準位密度を考慮する必要がある。 複合核の反応断面積は本節で見たようにHauser-Feshbachの公式(4.1.10)によって見積もること ができるが、そのためには透過係数Tを計算する必要がある。次節でこの透過係数について説明 する。

4.1.2

透過係数

前節で述べたように、透過係数T はあるチャンネルから複合核を形成する確率を表す。一方 (4.1.8)式で見たように、透過係数Tはあるチャンネルへ崩壊する確率にも比例する。 本論文で考えるレーザー逆コンプトン法による核変換では、原子核の巨大双極子共鳴を励起させ る程度のEγ≤ 20MeVγ線を標的核に入射する。このとき、標的核から放出されるのは主に中 性子やγ線で、陽子などはクーロン力のために出て来にくい。よって考慮する反応は、原子核にγ 線が入射して複合核を形成し、それが中性子またはγ線を放出して崩壊する反応である。以下に、 中性子及びフォトンの透過係数について述べる。 中性子の透過係数 標的核に粒子が入射したとき、入射粒子の吸収は光学ポテンシャルを用いて表される(付録 C参照)。光学ポテンシャルとは、入射粒子と標的核の相互作用を複素一体ポテンシャルで 近似したものである。光学ポテンシャルの実部は入射粒子に対する標的核の平均ポテンシャ ルであり、弾性散乱を表す。一方虚部は、入射フラックスの一部が標的核による吸収によっ て失われることを表す。 透過係数Tは光学ポテンシャルを用いて、 T = 1− |Sopt|2 (4.1.13) と表される(付録D.2.2参照)。ここで、Soptは光学ポテンシャルを考えたときのS行列を表 す。このS行列とは、標的核に単位フラックスの内向き波が入射したときの外向き波の散乱振 幅のことである。入射粒子の吸収が起こらなければ、フラックスは保存するので|Sopt|2 = 1と なる。一方吸収が起こりうるときは|Sopt|2≤ 1となる。したがって、透過係数Tは0≤ T ≤ 1 を満たす。 (4.1.13)式より、光学ポテンシャルを考えSoptを求めることで、透過係数を計算することが できる。以下にSoptを求める方法について述べる。

(24)

4.1. 複合核反応 19 中性子が標的核に入射するときを考える。この系の相対運動について、ハミルトニアンH の固有値、固有関数をE, ψ、換算質量をµとすると Hψ = Eψ , H =−~ 2 2+ U (r) (4.1.14) と表される。ここでU (r)は光学ポテンシャルで、以下のような項の和で表される(付録C 参照)。 U (r) = Uvol(r) + UD(r) + USO(r)l· s (4.1.15) (4.1.15)において、Uvolは体積項、UDは表面項、USOはスピン-軌道相互作用の項を表す。 このとき波動関数は ψEljm(r) = ulj(r) r Yljm(θ, ϕ) (4.1.16) Yljm(θ, ϕ) = ∑ mlsz < lml 1 2sz|jm > Ylml(θ, ϕ)| 1 2sz > (4.1.17) と表される。ここで、kは相対運動の波数、|l| = l, mlは相対運動の角運動量とそのz方向 の値、szは中性子のスピンs(|s| = 1/2)z方向の値を表す。またj = l + sとし、そのz 方向の値をmとする。 uljは次の式を満たす。 [ ~2 d2 dr2 + l(l + 1)~2 2µr2 + Uvol(r) + UD(r) + Ulj(r)− E ] ulj(k, r) = 0 (4.1.18) ここで、Ulj(r)Ulj(r) = USO(r) { j(j + 1)− l(l + 1) − 3 4 } (4.1.19) という形で表される、スピン-軌道相互作用のポテンシャルである。 このとき、uljの漸近形は ulj(kr) = i 2[e −i(kr−lπ/2)− S ljei(kr−lπ/2)] (r→ ∞) (4.1.20) ulj(kr) = rl+1 (r→ 0) (4.1.21) と書ける。この漸近形を用いて、数値的に透過係数を求めることができる。

本論文では、光学ポテンシャルとしてGlobal Optical Potential(GOP)を用いる[29]。標的

核の質量数、中性子数、電荷をA, N, Zとすると、中性子に対するGlobal Optical Potential

は以下のように表される。

U(r, E) = −VV(r, E)− iWV(r, E)− iWD(r, E)

(25)

20 第4章 核変換断面積 ここでσ = 2sである。VV,WV,WD,VSO,WSOは次のように表される。 VV(r, E) = VV(E)f (r, RV, aV) (4.1.23) WV(r, E) = WV(E)f (r, RV, aV) (4.1.24) WD(r, E) = −4aDWD(E) d drf (r, RD, aD) (4.1.25) VSO(r, E) = VSO(E)( ~ mπc )21 r d drf (r, RSO, aSO) (4.1.26) WSO(r, E) = WSO(E)( ~ mπc )21 r d drf (r, RSO, aSO) (4.1.27) ここでf (r, Ri, ai)はWoods-Saxon型である。 f (r, Ri, ai) = 1 1 + exp[(r− Ri)/ai] , Ri = riA1/3 (4.1.28) VV, WV, WD, VSO, WSO,及び他のWoods-Saxonのパラメーターは次のように与えられる。 VV(E) = v1[1− v2(E− Ef) + v3(E− Ef)2− v4(E− Ef)3] (4.1.29) WV(E) = w1 (E− Ef)2 (E− Ef)2+ (w2)2 (4.1.30) rv = 1.3039− 0.4054A−1/3 (4.1.31) av = 0.6778− 1.487.10−4A (4.1.32) WD(E) = d1 (E− Ef)2 (E− Ef)2+ (d3)2 exp[−d2(E− Ef)] (4.1.33) rD = 1.3424− 0.01585A1/3 (4.1.34) aD = 0.5446− 1.656.10−4 (4.1.35)

VSO(E) = vso1exp[−vso2(E− Ef)] (4.1.36)

WSO(E) = wso1 (E− Ef)2 (E− Ef)2+ (wso2)2 (4.1.37) rSO = 1.1854− 0.647A−1/3 (4.1.38) aso = 0.59 (4.1.39) ここでEf は標的核の中性子に対するフェルミエネルギーである。光学ポテンシャルのパラ メーターは表(4.2)のように与えられる。

Global Optical Potential を用いて求めた、n+138Ba(基底状態(Jπ = 0+))の系における光

学ポテンシャルを図(4.2)に表す。また、この系におけるl = 0, j = 1/2の場合の透過係数を

(26)

4.1. 複合核反応 21

v1 = 59.30− 21.0(N − Z)/A − 0.024A MeV

v2 = 0.007228− 1.48.10−6A MeV−1 v3 = 1.994.10−5− 2.0.10−8A MeV−2 v4 = 7.10−9 MeV−3 w1 = 12.195 + 0.0167A MeV w2 = 73.55 + 0.0795A MeV d1 = 16.0− 16.0(N − Z)/A MeV d2 = 0.0180 + 0.003802/(1 + exp[(A− 156.)/8.]) MeV−1 d3 = 11.5 MeV

vso1 = 5.922 + 0.0030A MeV

vso2 = 0.0040 MeV−1 wso1 =−3.1 MeVV wso2 = 160. MeV Ef =−11.2814 + 0.02646A MeV 表4.2: 中性子に対する光学ポテンシャルのパラメーター [29] -60 -50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 0 2 4 6 8 10 12 14 U(r)(MeV) r(fm) Re(U(r)) Im(U(r)) 図4.2: n+138Ba(基底状態0+)における光学ポテ ンシャル。赤線は光学ポテンシャルの実部、緑線 は虚部を表す。 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 20 40 60 80 100 transmission coefficient En(MeV) n+138Ba(g.s.) 図4.4: n+138Ba(基底状態 0+)の系におけるl = 0, j = 1/2の場合の透過係数

(27)

22 第4章 核変換断面積 フォトンの透過係数 フォトンの透過係数としていろいろなモデルが考えられているが、ここではBrink-Axelのモ デル[20,21]について述べる。これは、基底状態にある原子核の光吸収断面積がBreit-Wigner の分布で表せることを、励起状態にある原子核の場合にも拡張できるという仮定をおいて、 求められたものである。以下に、Brink-Axelのモデルよるフォトンの透過係数の導出を示 す。 表(4.3)のような、原子核A−1Xが中性子を吸収し複合核AXを形成し(チャンネルα)、そ の複合核がγ線を放出してAXの基底状態になる(チャンネルβ)反応を考える。 α β n + A−1X AX∗ → γ +AX(g.s.) 内部角運動量 Ia IA J Ib IB 表4.3: チャンネルαからβへの反応 このときの反応断面積は、Hauser-Feshbachの公式(4.1.10)より σcnαβ = π k2 αlαlβIαIβJ 2J + 1 (2IA+ 1)(2Ia+ 1) TαJTβJγTγJ (4.1.40) と表される。ここでlα, lβはチャンネルα, βでの相対運動の角運動量、Iα, Iβα, βでの内 部角運動量の和を表す。詳細釣合の原理(D.2.27) σαβcn = k 2 β k2 α (2IB+ 1)(2Ib+ 1) (2IA+ 1)(2Ia+ 1) σβαcn (4.1.41) より、左辺に(4.1.40)を代入し両辺をαで和をとると、 π 2 ∑ lβIβJ (2J + 1)TβJ = kβ2(2IB+ 1) ∑ α σcnβα (4.1.42) となる。ここで∑ασcnβαは基底状態にある原子核の光吸収断面積σabsに等しい。 Brink-Axelのモデルでは次のような仮定をする。2.2節で述べたように、基底状態にある原 子核の光吸収断面積はBreit-Wignerの分布で σabs(Eγ) = ∑ XI σabsXI(Eγ) = ∑ XI σXIR ΓXIR 2Eγ2 (E2 γ− ERXI 2 )2− ΓXI R 2 E2 γ (4.1.43) と表されるが、励起状態にある原子核の光吸収断面積も同様に(4.1.43)式で表せると仮定す る。ここでXIは電磁遷移の種類を表す。 透過係数がJによらないとし、T =XITXIとすると、γ線の透過係数は TXI(Eγ) = (E γ π~c )2 σXI abs 2I + 1 (4.1.44)

(28)

4.2. 準位密度 23 と書ける。ここで透過係数のチャンネルβの添え字を省略した。 強度関数fXITXI(Eγ) = 2πfXI(Eγ)E2I+1γ (4.1.45) と定義すると、強度関数はBrink-Axelのモデルで次のように表される。 fXI(Eγ) = 1 (2I + 1)π2~2c2 σXIEγΓ2XI (E2 γ− EXI2 )2+ Eγ2Γ2XI (4.1.46) (4.1.45),(4.1.46)が、Brink-Axelのモデルでのフォトンの透過係数である。 本論文では、原子核にγ線が当たったときに起こる電磁遷移として、E1,M1,E2,M2までを 考慮する。これらの電磁遷移に対して(4.1.46)の中で用いるパラメーターは、それぞれ次の ようなものを使用する [13]。 – E1

σE1 = 1.2× 120NZ/(AπΓE1) mb, EE1 = 31.2A−1/3 + 20.6A−1/6 MeV, ΓE1 =

0.026EE11.91 MeV – E2

σE2 = 0.00014Z2EE2/(A1/3ΓE2) mb, EE2= 63.A−1/3MeV, ΓE2= 6.11−0.012A MeV – M1

fM 1= 1.58A0.47 at 7 MeV, EM 1 = 41.A−1/3 MeV, ΓM 1= 4 MeV – M2 σM 2= 8.10−4σM 1, EM 2 = EM 1, ΓM 2 = ΓM 1 ここでAは原子核の質量数を表す。 E1,M1,E2,M2のそれぞれに対するフォトンの透過係数は図(4.5)のように表される。図(4.5) より、E1の透過係数に対して他の電磁遷移は無視できる程度の大きさであることがわかる。

4.2

準位密度

複合核反応の断面積はHauser-Feshbachの公式(4.1.10)によって求められるが、入射粒子のエ ネルギーが高く連続状態への遷移が起こる場合は、原子核の準位密度を考慮する必要がある。原子 核の準位は、厳密にハミルトニアンの固有状態をすべて求めれば決まるが、フェルミエネルギー 近傍以外の励起エネルギーが高い領域では、この方法は現実的ではない。よって、原子核の準位 密度は統計的なモデルを用いて計算し、それに実験値を再現するように殻補正をすることで求め られる。 本節ではまず、4.2.1節でフェルミガスモデルによる準位密度について説明する。さらに、4.2.2節 で本論文で用いるGilbert-Cameronの準位密度について述べる。

(29)

24 第4章 核変換断面積 0 0.005 0.01 0.015 0.02 0.025 0.03 0.035 0.04 0.045 0 20 40 60 80 100 TXI Eγ(MeV) E1 M1(*100) E2(*1000) M2(*10000) 図 4.5: Brink-Axelモデルによる137Csに対するγ 線の透過係数。赤線はE1,緑線はM1, 青線はE2,紫線はM2の遷移に対する透過係数を表し、M1,E2,M2に対してはそれぞれ100 倍,1000倍,10000倍した値を示す。

4.2.1

フェルミガス模型による準位密度

原子核の簡単な模型としてフェルミガス模型がある。これは核内核子が独立に運動するとした 模型である。原子核の高い励起エネルギーにおける準位密度は、フェルミガス模型を用いて統計 的に計算される。本節では、フェルミガス模型による原子核の準位密度について説明する。また、 具体的な計算については付録Eを参照されたい。 まず簡単のために、原子核のスピン・パリティや陽子・中性子の区別を無視して考える。準位間 隔をgf とすると、原子核の準位密度は ρA(U ) = 1 48Uexp(2 aU ) (4.2.1) と表される。ここで、a = π2gf/6は準位密度パラメーターと呼ばれるもので、U は励起エネル ギーを表す。陽子・中性子を区別すると、準位密度は ρZ,N(U ) = 1 2πσ π 12 exp[2√aU ] a1/4U5/4 (4.2.2) となる。さらに原子核のスピン・パリティを考慮すると、準位密度は ρZ,N(U, J, Π) = 1 2Rσ(J )ρZ,N(U ) (4.2.3) Rσ(J ) = 2J + 1 2 exp [ −(J + 1 2) 2 2 ] (4.2.4)

(30)

4.2. 準位密度 25 と表されることが知られている。1/2はパリティを、Rσ(J )はスピンを考慮したことにより生じた 項である。また、σはスピンカットオフパラメーターと呼ばれ、 σ2 =Jrigt/~2 (4.2.5) で定義される。ここでJrig は原子核を剛体としたときの慣性モーメントである。また、tは核温 度と呼ばれるもので、U = at2− tの関係にある。

4.2.2

Gilbert-Cameron

の準位密度

原子核の準位密度はいろいろなモデルが考えられているが、本論文ではGilbert-Cameronの準 位密度を用いる [22]。Gilbert-Cameronの準位密度は、高エネルギー側ではフェルミガス模型に

よる準位密度[23]、低エネルギー側では実験的に知られているconstant temperature lawと呼ば

れる法則を適用し、両者が滑らかにつながるように核種ごとに定数を決めたものである。 励起エネルギーExにおける準位密度は ρtot(Ex) = ρtotT (Ex) (Ex ≤ EM) (4.2.6) = ρtotF (Ex) (Ex ≥ EM) (4.2.7) ρtotT (Ex) = 1 Texp (E x− E0 T ) (4.2.8) ρtotF (Ex) = ρZ,N(Ex) (4.2.9) と表される。原子核のスピン・パリティを考慮したときの準位密度は、 ρ(Ex, J, Π) = 1 2Rσ(J )ρ tot T (Ex) (Ex≤ EM) (4.2.10) = ρZ,N(Ex, J, Π) (Ex≥ EM) (4.2.11) と表される。ここで、E0, T, EME = EMで準位密度が連続であることと、実験でわかってい る離散的な準位を再現するように決められる定数である。 上式における各パラメーターには、原子核の殻構造を考慮するために次のような殻補正がなされ てる。 励起エネルギーEX 励起エネルギーに対相関の効果を取り入れるために、U = Ex− ∆として∆を次のように定 義する。 ∆ = χ√12 A (4.2.12) χ = 0 f or odd− odd (4.2.13) = 1 f or odd− even (4.2.14) = 2 f or even− even (4.2.15)

(31)

26 第4章 核変換断面積 準位密度パラメーター a 準位密度パラメーターaに対しては、Ignatyukらによって液滴模型に殻補正をした形でエ ネルギー依存性を持つものが考えられている [24]。 a(Ex) = ˜a ( 1 + δW1− exp[−γU] U ) (4.2.16) ここで質量数Aの原子核に対して、各定数は次のように定義される。 ˜ a = αA + βA2/3 (4.2.17) α = 0.0692559 (4.2.18) β = 0.282769 (4.2.19) γ = γ1 A1/3 (4.2.20) γ1 = 0.433090 (4.2.21) δW は液滴模型での原子核の質量と実験から求められた質量の差である[25]。 δW = Mexp− MLDM (4.2.22)

MLDM = MnN + MpZ + Evol+ Esur+ Ecoul+ δ (4.2.23)

Mn = 8.07144MeV (4.2.24) Mp = 7.28899MeV (4.2.25) Evol = −c1A (4.2.26) Esur = c2A2/3 (4.2.27) Ecoul = c3 Z2 A1/3 − c4 Z2 A (4.2.28) ci = ai [ 1− κ (N− Z A )2] , i = 1, 2 (4.2.29) a1 = 15.677MeV (4.2.30) a2 = 18.56MeV (4.2.31) κ = 1.79 (4.2.32) c3 = 0.717MeV (4.2.33) c4 = 1.21129MeV (4.2.34) δ = −√11 A f or even− even (4.2.35) = 0 f or odd− even (4.2.36) = 11 A f or odd− odd (4.2.37) スピンカットオフパラメーター σ [26] Gilbert-Cameronのモデルにおいてスピンカットオフパラメーターは、実験で知られている

(32)

4.2. 準位密度 27 離散的な準位を用いて以下のように求められることが知られている。離散的な準位として は、i = [NL, NU]番目の準位を考慮する。ここで、NL,NU番目の準位に対応する励起エネ ルギーをEL, EU とする。 σ2(Ex) = σd2 f or 0≥ Ex≥ Ed (4.2.38) = σd2+Ex− Ed Sn− Ed 2F(Ex)− σd2) f or Ed≤ Ex ≤ Sn (4.2.39) = σF2(Ex) f or Ex≥ Sn (4.2.40) Ed = 1 2(EL+ EU) (4.2.41) σ2d = 1 3∑NU i=NL(2Ji+ 1) NUi=NL Ji(Ji+ 1)(2Ji+ 1) (4.2.42) σF2(Ex) = 0.01389 A5/3 ˜ a aU (4.2.43)

(33)

28 第4章 核変換断面積

4.3

前平衡過程

原子核と軽い粒子の反応において、入射粒子のエネルギー損失、反応の持続時間、衝突回数な どが直接過程と複合核過程の中間にあるものを、前平衡過程という。TALYSによる前平衡過程の 計算では、エキシトン模型と呼ばれるモデルを用いる。 エキシトン模型は、1966年にGriffin [27, 28]によって提案されたモデルである。この模型では独 立粒子状態を考え、さらに核子に働く相互作用として、1体平均場ポテンシャルによるものと2 体の弱い残留相互作用を考える。1体平均場によって、独立粒子状態は粒子-空孔状態へと次々に 励起され、その励起状態は弱い2体の残留相互作用によってさらに複雑な粒子-空孔状態へ遷移し、 平衡状態へ進む。平衡状態へ遷移する過程で、前平衡過程では2体の残留相互作用によって軽い 粒子が放出される。Griffinはエキシトン数(粒子数+空孔数)と呼ばれる量を導入し、このよう な考えに基づいて解く模型を提案した。これがエキシトン模型である。

(34)

29

5

章 計算結果・考察

本章では、レーザー逆コンプトン法による核変換の計算結果と考察を述べる。5.1節では、4章 で説明したTALYSによる反応断面積の計算結果を示す。5.2節では、レーザー逆コンプトン法に よる核変換の方法と結果について述べ、結果に対し考察をする。さらに5.3節では、レーザー逆コ ンプトン法による核変換と14MeV中性子による核変換との比較を行う。

5.1

TALYS

による計算

本節では、γ+137Csの複合核反応の断面積をTALYSを用いて計算した結果を示す。5.1.1節で は、TALYSによる反応断面積の計算結果を示す。また、5.1.2節では前平衡過程を考慮したとき の影響について議論し、5.1.3節及び5.1.4節では、異なる準位密度・光学ポテンシャルのモデルを 用いた場合の計算結果を示す。

5.1.1

TALYS

による反応断面積の計算結果

図(5.1)に、TALYSを用いて得られたγ+137Cs反応の断面積を示す。 0 50 100 150 200 250 300 350 0 5 10 15 20 0 5e+09 1e+10 1.5e+10 2e+10 2.5e+10 3e+10 3.5e+10 4e+10 σ (mb) Number of photons(MeV -1) Eγ(MeV) 137 Cs 136 Cs 135 Cs total photon beam B(n) B(2n) 図5.1: TALYSによるγ+137Csの反応断面積及びレーザー逆コンプトン散乱によって散乱された フォトンのエネルギー分布

(35)

30 第5章 計算結果・考察 図(5.1)において、赤線は137Cs(γ, γ)137Csの断面積、緑線は137Cs(γ, n)136Cs、青線は137Cs(γ, 2n) 135Cs、紫線の点線は全断面積(光吸収断面積)を表す。また、橙線は散乱されたフォトンのエネ ルギー分布、点線のB(xn)は137Csの中性子x個の束縛エネルギーを表す。 135Csを出さないように137Csを核変換するには、E γ = [B(n), B(2n)] = [8.3, 15.1](MeV)のエネ ルギーを持ったγ線を137Csに照射すればよい。このとき図(5.1)のように、レーザー逆コンプト ン散乱によって生成されるフォトンの最大のエネルギーをB(2n)にとるのが効率が良い。

5.1.2

前平衡過程を考慮したときの計算結果

前節の計算結果は複合核過程のみを考慮し、前平衡過程を無視したものである。4章で述べたよ うに、巨大双極子共鳴のエネルギー程度では前平衡過程はほぼ無視してよい。本節では、4.3節で 述べたエキシトン模型を用いてTALYSで前平衡過程を考慮したときの計算結果を示し、この近 似がもっともらしいことを示す。 0 50 100 150 200 250 300 350 0 5 10 15 20 σ (mb) Eγ(MeV) 137 Cs 136 Cs 135 Cs 137 Cs(nonpreeq) 136 Cs(nonpreeq) 135 Cs(nonpreeq) B(n) B(2n) 図5.2: TALYSによる前平衡過程を考慮した場合(実線)及び考慮しない場合(破線)のγ+137Cs の反応断面積。赤線は137Cs(γ, γ)137Cs、緑線は137Cs(γ, n)136Cs、青線は137Cs(γ, 2n)135Csの反 応の断面積を表す。点線のB(xn)は137Csの中性子x個の束縛エネルギーを表す。 上の図から、入射γ 線のエネルギーが15MeVより大きいところで前平衡過程の効果が現れて いることがわかる。ただし前節で述べたとおり、今は原子核に照射するγ線のエネルギーとして B(n)≤ Eγ ≤ B(2n)の範囲をとるので、前平衡過程の寄与は無視してもよいことがわかる。

(36)

5.1. TALYSによる計算 31

5.1.3

異なる準位密度を用いたときの計算結果

準位密度のモデルには様々なものがあるが、ここでは準位密度のモデルによって計算結果がど う変わるかを示す。準位密度として、 • Gilbert-Cameron [22] フェルミガス模型[30] • Hartree-Fock Model [31] のモデルを用いて計算を行った。Gilbert-Cameronの準位密度及びフェルミガス模型による準位 密度は、4.2章で述べたものである。また、Hartree-Fockモデルは準位密度をHartree-Fock法に よって微視的に計算したものである。 図(5.3)にこれらのモデルによる137Csの準位密度を、図(5.5)にTALYSによるこれらのモデル を用いた場合のγ+137Cs反応の断面積を示す。 0.01 1 100 10000 1e+06 1e+08 1e+10 1e+12 0 5 10 15 20 25 ρ (E x ) Ex(MeV) Gilbert-Cameron Back-shifted Fermi Gas Hartree-Fock 図5.3: 137Csの準位密度。横軸は137Csの励起エ ネルギーを表し、赤線はGilbert-Cameron、緑線 はフェルミガス模型、青線はHartree-Fock法に よる準位密度を表す。 0 50 100 150 200 250 300 350 0 5 10 15 20 σ (mb) Eγ(MeV) Gilbert-Cameron Back-shifted Fermi gas Hartree-Fock B(n) B(2n) 図 5.5: TALYS による異なる準位密度に対 する γ+137Cs の反応断面積。赤線は Gilbert-Cameron、緑 線 は フェル ミ ガ ス 模 型 、青 線 は Hartree-Fock法による準位密度から求めた断面 積を表す。点線のB(xn)は137Csの中性子x個 の束縛エネルギーを表す。 図(5.5)から、B(n)≤ Eγ ≤ B(2n)では準位密度のモデルによる反応断面積の差はほとんど見 られないことがわかる。したがって、レーザー逆コンプトン法による核変換の計算結果は、反応 断面積を求めるのに使用する準位密度のモデルによらないと言える。これは、複合核反応の断面 積が(4.1.10)式からわかるように、準位密度そのものに比例するのではないためである。

(37)

32 第5章 計算結果・考察

5.1.4

異なる光学ポテンシャルを用いたときの計算結果

光学ポテンシャルのモデルとして、6.1.1節で紹介したGlobal Optical Potential(GOP)の他に、

Semi-microscopicな光学ポテンシャル(JLM [32])が挙げられる。Global Optical Potentialが現

象論的なポテンシャルであるのに対して、JLMは核子間の有効相互作用から求めた、微視的光学 ポテンシャルである。 これらを用いてγ+137Cs反応の断面積を求めたグラフを図(5.6)に示す。ここで、赤線はGlobal Optical Potential、青線はJLMによって求めた断面積を表す。 0 50 100 150 200 250 300 350 0 5 10 15 20 σ (mb) Eγ(MeV) global OMP JLM OMP B(n) B(2n) 図 5.6: TALYSによる異なる光学ポテンシャルに対するγ+137Cs反応の断面積。赤線はGlobal Optical Potential、青線はJLMによって求めた断面積を表す。点線のB(xn)は137Csの中性子x 個の束縛エネルギーを表す。 図(5.6)から、B(n)≤ Eγ ≤ B(2n)では光学ポテンシャルのモデルによる反応断面積の差はほ とんど見られないことがわかる。したがって、レーザー逆コンプトン法による核変換の計算結果 は、反応断面積を求めるのに使用する光学ポテンシャルのモデルによらないと言える。

(38)

5.2. レーザー逆コンプトン法による核変換 33

5.2

レーザー逆コンプトン法による核変換

本節では、レーザー逆コンプトン法による核変換の計算結果について述べる。5.2.1節では、レー ザー逆コンプトン法による核変換のセットアップについて述べ、5.2.2節に核変換の計算方法を示 す。さらに、5.2.3節でレーザー逆コンプトン法による核変換がどのような核種に対して有効であ るかについて考察し、その中で本研究で対象とする137Csのレーザー逆コンプトン法による核変 換の計算結果を5.2.4節に示す。

5.2.1

セットアップ

以下では、図(5.7)のようなセットアップで実験したと仮定して計算を行う。 2m ターゲット(1g) γ線 (Eγ=[B(n),B(2n)]) レーザーフォトン(ω1~eV) 電子ビーム(ε1~GeV) θ 図5.7: レーザー逆コンプトン法による核変換のためのセットアップ ある標的核のみから成る1gのターゲットを考える。ターゲットに対して、レーザー逆コンプト ン散乱によって発生させたEγ=[B(n), B(2n)](B(xn)は標的核の中性子x個の束縛エネルギー)の エネルギーを持つフォトンを入射させ、(γ, n)の核変換を起こす。このとき入射電子のエネルギー を1.2GeV、レーザーフォトンのフラックスを2.0× 1012/s、散乱されたフォトンがターゲットに入 射するまでの距離を2mとする。また、レーザーフォトンのエネルギーω1は、散乱されたフォト ンの最大値がB(2n)に等しくなるように設定する。さらに、散乱されたフォトンの最小値がB(n) となるようにθを選び、θから求められるビームのあたる面積を計算することで、ターゲットが1g となるように厚さx(g/cm2)を定める。

(39)

34 第5章 計算結果・考察

5.2.2

レーザー逆コンプトン法による核変換

原子核Xにエネルギーγ線が入射して複合核を形成し、中性子を1個放出して同位体X になるとする。このとき、時刻tに生成するXの数は次のように表される。 r(X′; t) =B(2n) B(n) dEγ dNγ dEγ σXX′(Eγ)n(X; t)a (5.2.1) ここでr(X′; t)は時刻tに核変換で生成するXの数(/s)、 はレーザー逆コンプトン散乱で散 乱されたフォトンの数(/s)、σXX′X(γ, n)X′ の反応断面積、n(X; t)は時刻tでのターゲット の個数(/面積)を表す。また、attenuation factor aγ線のフラックスがターゲット中の電子と 相互作用することで減衰する効果を表している。ターゲットの厚さをx(g/cm2)、質量吸収係数を µ(Eγ)(cm2/g)、ターゲットに入射する前のフラックスをΨ0とすると、厚さxでのγ線のフラッ クスは

Ψ(Eγ; x) = Ψ0exp(−µ(Eγ)x) (5.2.2)

と書ける。ターゲットの厚さがLのとき、attenuation factorは a(Eγ) = 1 Ψ0 ∫ L 0 Ψ(Eγ; x)dx (5.2.3) で定義される。本論文では、質量吸収係数µとして文献[33]の値を使用する。 γ線照射中及び照射後の原子核の個数は次のように計算できる。例として、137Csのみから成る ターゲットを考える。γ線を当て核変換するにつれて136Csや135Csなどの同位体が生成され、そ れらにγ線が当たり核変換することも考える必要がある。今137Cs、136Cs、135Cs、134Csまでを 考慮するとして、それぞれの時刻tでの個数をn1(t), n2(t), n3(t),n4(t)、崩壊定数をλ1, λ2, λ3, λ4 で表す。137Csの巨大双極子共鳴を励起する程度のエネルギーのγ 線が入射すると、主に表(5.1) のような反応が起きると考えられる。また、この反応によって時刻tに生成する同位体の個数を表 (5.1)のように定義する。 r1(t) : 137Cs (γ, γ) 137Cs r4(t) : 136Cs (γ, γ) 136Cs r7(t) : 135Cs (γ, γ) 135Cs r2(t) : 137Cs (γ, n)136Cs r5(t) : 136Cs (γ, n)135Cs r8(t) : 135Cs (γ, n) 134Cs r3(t) : 137Cs (γ, 2n)135Cs r6(t) : 136Cs (γ, 2n) 134Cs 表5.1: γ+137Csに対して本論文で考慮する反応 このとき時刻t + ∆tni(i = 1∼ 4)が満たす関係式は次のようになる。 n1(t + ∆t) = n1(t)e−λ1∆t− r2(t)∆t− r3(t)∆t (5.2.4) n2(t + ∆t) = n2(t)e−λ2∆t+ r2(t)∆t− r5(t)∆t− r6(t)∆t (5.2.5) n3(t + ∆t) = n3(t)e−λ3∆t+ r3(t)∆t− r8(t)∆ (5.2.6) n4(t + ∆t) = n4(t)e−λ4∆t+ r6(t)∆t + r8(t)∆t (5.2.7)

図 2.4: 巨大双極子共鳴のエネルギー E GDR [9]( 実線は (2.2.2) 式による値、各点は Livermore, Saclay, General Atomic Laboratories, Illinois において行われた実験による値を表す)
図 2.5: 増幅因子 κ = σ E1 tot /σ T RK の値 [9]( 各点は Livermore, Saclay, General Atomic Labo- Labo-ratories, Illinois において行われた実験による値を表す )

参照

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