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巨大双極子共鳴の断面積

第 5 章 計算結果・考察 29

A.2 巨大双極子共鳴の断面積

電磁場の中にある原子核について考える。全系のハミルトニアンH

H =Hnucl+Hf ield+Hint (A.2.1)

Hnucl |Ψ=E |Ψ , Hnucl =∑

i

p2i 2m +∑

i<j

v(rirj) (A.2.2) Hf ield = 1

c

(E2+B2)dr (A.2.3)

Hint =1 c

λkIm

{ ˆ aλkIm

j·AλkImdreikct+c.c.

}

(A.2.4) と表される。ここで|Ψは原子核の波動関数であり、piは核子iの運動量ベクトル、v(rirj)は 核子ijの間に働く相互作用を表す。

A.2. 巨大双極子共鳴の断面積 47 Hintによって、原子核はフォトンを吸収・放出する。今初めフォトン(エネルギーE)が1つだけ あり、それが原子核によって吸収されることを考える。始状態|i⟩を、終状態|f⟩とすると、

|i⟩=|Ψ0⟩|1⟩ → |f⟩=|Ψf⟩|0 , |1=ak,λ|0 (A.2.5) と書ける。遷移確率Tf iは、量子化した電磁場の式(A.1.16)

A(r, t) =

k

λ=1,2

√ 2π~c2

V ωk

ϵ(λ)k [

ak,λei(k·rωkt)+ak,λei(k·rωkt) ]

(A.2.6) から、1次の摂動論を用いて

Tf i = 2π

~ |⟨f|Hint|i⟩|2δ(Ef−E0−E) (A.2.7)

= 2π

~

(2π~c2 V ωk

)1 c2|⟨Ψf|

j·ekzeik·rdr|Ψ0⟩|2δ(Ef −E0−E) (A.2.8) と計算される。また、吸収するフォトンのエネルギーEγが数十MeV程度では、長波長近似(eik·r 1)が成り立つ1。ここで、eik·r= 1とした場合の電磁遷移は、E1の電磁遷移に対応する。このと きekzeik·r(ekz ·reik·r)とできるので、

Tf i (2π)2 V ωk|⟨Ψf|

j·(ekz·reik·r)dr|Ψ0⟩|2δ(Ef −E0−E) (A.2.10)

(2π)2 V ωk|⟨Ψf|

(·j)ekz ·reik·rdr|Ψ0⟩|2δ(Ef −E0−E) (A.2.11)

= (2π)2

V ωk|⟨Ψf|∫ (

−∂ρ

∂t )

zeik·rdr|Ψ0⟩|2δ(Ef −E0−E) (A.2.12) となる。さらに、∂ρ/∂t= i1~[ρ, Hnucl]より

Tf i (2π)2 V ck |⟨Ψf|i

~

[Hnucl, ρ(r)]zeik·rdr|Ψ0⟩|2δ(Ef−E0−E) (A.2.13)

= (2π)2

V c~2k(Ef −Ei)2|⟨Ψf|e

Z i=1

zieik·r|Ψ0⟩|2δ(Ef −E0−E) (A.2.14) 原子核の波動関数|Ψが運動量の固有状態であるとき、ri riRと平行移動できる。入射フォ トンのフラックスはc/V なので、終状態で和をとったE1の遷移の全断面積は

σtotE1 = ∑

f

dE Tf i

c/V = 4π2e2

~c

f

(Ef −Ei)|⟨Ψf|Dˆz|Ψ0⟩|2 (A.2.15) Dˆz =

Z i=1

(riR)z = N Z A

(1 Z

Z p=1

zp 1 N

N n=1

zn )

(A.2.16)

1原子核の半径R0= 1.2A1/3(fm)に対して、フォトンのエネルギーEγが数十MeVでは

k·R0= (Eγ

~c

)·R0<<1 (A.2.9)

が成り立つ。よってこのときeik·r1と近似できる。

48 付 録A 巨大双極子共鳴の断面積 となる。ここで、pは陽子、nは中性子の添え字を表す。(A.2.15)式において、

S=∑

f

(Ef−E0)|⟨Ψf|Dˆz0⟩|2= 1

2⟨Ψ0|[ ˆDz,[Hnucl,Dˆz]]|Ψ0 (A.2.17) はEnergy-Weighted Sum Ruleとよばれるものである。これは(A.2.17)式からわかるように、原 子核の基底状態のみで決まる量である。ここで、原子核のハミルトニアン(A.2.2)式において、相 互作用vp,·τ),(σ·σ)によらないとする。このとき[Hnucl, zi] =2i~pz iより

[Hnucl,Dˆz] =

A i=1

1 2m

[N A

Z p=1

[p2z p, zp] Z A

N n=1

[p2z i, zn] ]

(A.2.18)

= −i~ m

(N A

Z p=1

pz p−Z A

N n=1

pz n )

(A.2.19)

[ ˆDz,[Hnucl,Dˆz]] = −i~ m

(N A

)2Z p=1

[zp, pz p]−i~ m

(Z A

)2N n=1

[zn, pz n] (A.2.20)

= ~2 m

N Z

A (A.2.21)

と計算できるので、Energy-Weighted Sum Ruleは

S = ∑

f

(Ef −E0)|⟨Ψf|N A

Z p

zp Z A

N n

zn0⟩|2 (A.2.22)

= ~2 2m

N Z

A (A.2.23)

σtotE1 = 2π2e2~ mc

N Z

A (A.2.24)

と書ける。(A.2.24)式はThomas-Reiche-Kuhn Sum Ruleと呼ばれる。(A.2.24)式で無視したπ 中間子の交換などを考慮すると、

σtotE1 = 2π2e2~

mc (1 +κ)N Z

A (A.2.25)

となる。ここでκは定数であり、中重核ではκ∼0.2である。

49

付 録 B レーザー逆コンプトン散乱

通常のコンプトン散乱は静止した物質中の電子に光子衝突して弾性散乱を起こし、光子のエネ ルギーが減少するというものである。それに対して、レーザー逆コンプトン散乱とは、加速器で 加速した高エネルギーの電子とレーザーの衝突で、高エネルギーの電子による光子の反跳によっ て光子のエネルギーが増加するというものである。

B.1 散乱光子のエネルギー

入射してくる電子、フォトンのエネルギー・運動量を(ϵ1,p1),(ω1,k1)、散乱した電子・フォト ンのエネルギー・運動量を(ϵ2,p2),(ω2,k2)とする。また、フォトンの入射角をθ、散乱角をθ1と し、電子の静止質量をmとする。また以下では自然単位系(~=c= 1)で考える。

θ

図B.1: レーザー逆コンプトン散乱 散乱の前後でエネルギー・運動量が保存する。

ϵ1+ω1 =ϵ2+ω2 (B.1.1)

p1+k1 =p2+k2 (B.1.2)

ここで電子の質量をmと書くと、電子・フォトンのエネルギーはそれぞれ

ϵ21 =m2+p21 , ω1 =k1 (B.1.3) ϵ22 =m2+p22 , ω2 =k2 (B.1.4)

50 付 録B レーザー逆コンプトン散乱 と表される。これより

ϵ1+ω1 =

m2+p22+ω2 (B.1.5)

1+ω1−ω2)2 = m2+ (p1+k1k2)2 (B.1.6) (B.1.7) を計算すると、散乱されたフォトンのエネルギーは

ω2= −ϵ1ω1+p1ω1cosθ1

−ω1−ϵ1+p1cosθ+ω1cos(θ−θ1) (B.1.8) と書ける。ここで入射電子の速度をv1として、β, γを次のように定義する。

β =v1 , γ= 1

√1−β2 , ϵ1=mγ , p1=mv1γ (B.1.9)

このときβ =p11より、

ω2 = ω1(1−βcosθ1) (1−βcosθ) +ωϵ1

1(1−cos(θ−θ1) (B.1.10) となる。高いエネルギーを持った電子とフォトンが正面衝突すると、フォトンは後方に散乱され、

cosθ1=1 , θ <<1 , cosθ∼1−θ2

2 (B.1.11)

と近似できる。さらに、入射電子の速度が光速に近くβ 1のとき (1 +β)(1−β) = 1

γ2 , 1 +β∼2, 1−β 1

2 (B.1.12)

と書ける。これより、光速に近い電子とフォトンが衝突すると、散乱されたフォトンのエネルギーは ω2 = 4γ2ω1

1 + (γθ)2+ m1γ (B.1.13)

と表される。

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