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同性婚をめぐる諸外国の動向

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(1)〔研究ノート〕. 同性婚をめぐる諸外国の動向 Same Sex Marriage:Movements in various countries. 佐 久 間. 悠. 太. Yuta SAKUMA. Studies in Humanities and Cultures No.20. 名古屋市立大学大学院人間文化研究科『人間文化研究』抜刷. 20号. 2014年2月 GRADUATE SCHOOL OF HUMANITIES AND SOCIAL SCIENCES NAGOYA CITY UNIVERSITY NAGOYA JAPAN FEBRUARY 2014.

(2) 名古屋市立大学大学院人間文化研究科 人間文化研究 第20号 同性婚をめぐる諸外国の動向 (佐久間). 2014年2月. 〔研究ノート〕. 同性婚をめぐる諸外国の動向 Same Sex Marriage:Movements in various countries. 佐久間 悠 太1 Yuta SAKUMA. 要旨. 本稿の目的は,2013年9月1日までに同性婚を法認した15か国の動向を概説するこ. と,そして,日本における同性婚について,日本国憲法第24条の「両性」という文言に焦点 を当てて,その合憲性を検討することである。諸外国のなかでも,とりわけスペインは日本 と同様の婚姻規定を憲法に有しており,日本の同性婚を検討するにあたって重要な示唆を与 えるものである。スペイン憲法裁判所の憲法解釈に従えば,日本国憲法第24条で婚姻する権 利を有する者として「両性」と規定されていたとしても,日本で同性婚を承認することは憲 法で禁止されないと解することができる。. キーワード:同性カップル,婚姻,同性婚,憲法,民法,婚姻法,パートナーシップ法,ス ペイン憲法裁判所. はじめに 2000年12月にオランダが世界ではじめて同性婚を承認して以降,2013年9月1日までに15か国 で同性婚が承認されてきた 2 。また,2012年5月9日には,アメリカ合衆国のバラク・オバマ (Barack Hussein Obama, Jr.)大統領が同性婚を支持する表明を行い日本でも注目された3。 本稿の目的は,同性婚を承認している全ての国について概説することである。それらの国にお ける「同性婚を承認するまでの背景」,「婚姻に関する憲法規定」,「現行法上の同性婚と異性婚の 相違点」を中心に取り扱う。なお,その際はマカレーナ・サエズ(Macarena Sáez)4の論文である ────────────────── 1 名古屋市立大学大学院人間文化研究科博士前期課程 2 州レヴェルで同性婚を承認している国として,メキシコとアメリカ合衆国をあげることができる。これらに対する検討 は,他日を期すことにしたい。また,アジアでも同性婚に関する議論は生じており,2013年9月8日のチャイナ・ポスト の記事によると,台湾では53%の者が同性婚を承認するための立法を支持しているという(http://www.chinapost.com.tw/e ditorial/taiwan-issues/2013/09/08/388340/No-excuses.htm)2013年9月15日最終アクセス。 3 朝日新聞2012年5月10日夕刊記事,「オバマ米大統領が同性婚支持表明 歴代初,選挙の争点に」による。また,朝日新 聞2013年6月27日朝刊記事「同性婚の禁止は違憲 米最高裁,不平等と判断」によれば,同月26日に,連邦最高裁判所 は,婚姻を男女に限定した「婚姻防衛法」に対して違憲とする判断を行ったという。 4 マカレーナ・サエズは,アメリカン大学ワシントンカレッジの研究員であり,比較家族法を主な専門としている。. 135.

(3) 名古屋市立大学大学院人間文化研究科. 人間文化研究. 第20号. 2014年2月. 「同性婚(Same Sex Marriage)」5と,その基になった各国研究者による各国レポートを主な手が かりとする。 あわせて,本稿では日本における同性婚について若干の検討も行う。まず日本の同性婚に関す る先行研究を整理し,次いで日本国憲法第24条の婚姻規定を「両性」という文言に着目して,同 性婚を承認することが憲法で禁止されているのか明らかにしていく。日本の学説としては,憲法 に「両性」と規定されていることから,憲法は同性婚を禁止していると解する説(禁止説)が通 説であるように思われる。しかしながら,諸外国が同性婚を承認している事実に鑑みれば,「両 性」という文言のみから,憲法が同性婚を禁止していると解することに対して疑義が生じてこよ う。したがって,同性婚を承認する諸外国の例を参照することで,日本国憲法が同性婚を禁止し ているかどうか改めて検討していく意義はあると思われる。 以下では,まず同性婚を承認している諸外国を「憲法」という切り口から三つに区分し,日本 と同様に,婚姻する権利を有する者として,「男女」と憲法で規定するスペインを検討し(Ⅰ), 婚姻に関する憲法規定をもつが,「両性」や「男女」を婚姻要件として規定しない国として,ベ ルギーとポルトガルを取り上げ(Ⅱ),そもそも憲法で婚姻に関する規定をもたない国として残 りの12か国を紹介する(Ⅲ)。その後,民法学と憲法学の立場から日本の同性婚をめぐる学説に ついて整理し(Ⅳ),最後に私見を述べる(おわりに)。. Ⅰ. スペインにおける同性婚. スペインは2005年6月30日に同性婚を承認する法律(13/2005 Act)を制定(同年7月1日施 行)し,世界で3番目に同性婚を認める国となった6。 同性婚を承認する法律案が提出された背景には,同性婚の社会的要求に対する応答があったと 考えられている。スペイン政府は同性婚を認めることで,400万人の者が利益を得ることができ ると判断していた7。さらに,実際のところ,10万組の同性カップルが異性カップルと同様の権 利(婚姻する権利や家族形成権)を得ることを望んでいたという8。 スペイン憲法第32条第1項は, 「男女(el hombre y la mujer, man and woman)は,法律上完全に 平等に,婚姻(matrimonio, matrimony)する権利を有する」と規定し,同条第2項は「婚姻の形 ────────────────── 5 Macarena Sáez, ‘‘Same Sex Marriage’’, in Karen B. Brown and David V. Snyder eds., General Reports of the ⅩⅧth Congress of the International Academy of Comparative Law (2012), p.119. この論文は,2010年7月にワシントンD.C.で行われた,第18回国際 比較法学会のために執筆されたジェネラル・レポートである。 6 Carlos Martínez de Aguirre Aldaz and Pedro De Pablo Contreras, ‘‘National Report: Spain’’, in Journal of Gender, Social Policy & the Law [Vol.19:1] (2011), p. 289. マルティネス・デ・アギーレ・アルダス(Carlos Martínez de Aguirre Aldaz)はサラゴサ大学教 授(民法)であり,ペドロ・デ・パブロ・コントレラス(Pedro De Pablo Contreras)はリオハ大学教授(民法)である。 7 ABC.esの2004年9月30日付の記事,「政府は養子縁組を認めるために同性婚を可能にする民法を改正(El Gobierno modificará el Código Civil para que los matrimonies gays puedan adopter niños)」による(http://www.abc.es/hemeroteca/historico30-09-2004/Home/el-gobierno-modificara-elcodigo-civil-para-que-los-matrimonios-gays-puedanadoptarni%C3%B1os_9623907984924.html)2013年9月15日最終アクセス。 8 El Periódico de Aragónの2004年9月30日付の記事, 「10万人を超える同性カップルが結婚式を待つ(Más de 100.000 parejas esperan las bodas gays)」による(http://www.elperiodicodearagon.com/noticias/aragon/mas-de-100-000-parejas-esperan-las-bodasgays_141553.html)2013年9月15日最終アクセス。. 136.

(4) 同性婚をめぐる諸外国の動向 (佐久間). 式,婚姻の年齢および能力,夫婦(los cónyuges, the spouses)の権利および義務,別居および離 婚の事由,ならびにその効果については,法律でこれを定める」と規定する。 そして,具体的な婚姻要件などは,憲法第32条を受けて民法で規定されている。2005年より以 前には,民法第44条第1項で,「男女(el hombre y la mujer, man and woman)は,この法律の規定 にしたがって婚姻する権利を有する」と規定されていたが,2005年の法改正にともなって,第2 項として「婚姻の資格および効果は,将来の配偶者が同性,両性(del mismo o de diferente sexo, the same or different genders)にかかわらず,同等である」を新設し,婚姻が「性別によらない二 者間の結合」であると定義した9。 民法第44条第2項を根拠とする同性婚に対し,マルティネス・デ・アギーレ・アルダス (Martínez de Aguirre Aldaz)とペドロ・デ・パブロ・コントレラス(Pedro De Pablo Contreras) は,違憲の可能性があることを指摘し,スペイン憲法第32条の忠実な解釈から同性婚の承認を導 くべきではないと主張している10。すなわち,憲法第32条における「婚姻」とは,スペイン・ロ イヤル・アカデミー辞書の定義にあるように,「一人の男性と一人の女性の間における長期間の 結合」であって,「男女」の存在を前提にしたものであると主張する11。そして,婚姻の社会的 重要性は新しい国民を再生産することと結び付いており,同性カップルは生物学的に生殖不可能 であることから,同様の社会的意義をもつことができないと述べる12。 そもそも,スペイン憲法第32条が規定する「男女」という文言には,どのような意味を認める ことができるだろうか。カルメン・ガルシマルタン(Carmen Garcimartín)は,第32条における 「男女(el hombre y la mujer, man and woman)」という文言と,他の憲法規定における「全ての人 (todas las personas, all persons)」,「国民(los ciudadanos, citizens)」などといった文言とを比較し て,とりわけ第32条はジェンダー的な区別を強調したものであると指摘する13。 さらに,憲法第32条の立法目的は,スペインの現行憲法が制定されるまで,妻が何らかの法律 行為を行うためには夫の許可を必要とするなど,夫婦間で不平等が生じていた事実に対して,夫 婦間における男女平等を実現することであったと解するのが通説であるという14。 しかしながら,ガルシマルタンは,男女平等については,既に憲法第14条で規定されており, 男女平等の根拠規定としては,第32条よりもむしろ第14条の方がより強力な保護を受けることか ら,「男女」という観念から離れて,憲法第32条における婚姻について解釈しなければならない ────────────────── 9 Carlos Martínez de Aguirre Aldaz and Pedro De Pablo Contreras, op.cit., p.291. 10 Ibid, p.292. 11 Ibid, p.294.なお,同頁の注によると,2006年に編集された時点でも,スペイン・ロイヤル・アカデミー辞書における婚姻 の定義は「男女」によると記述されているという。 12 Ibid, p. 295. 13 Carmen Garcimartín, ‘‘The Spanish Law on Same-Sex Marriage: Constitutional Arguments’’, in BYU JOURNAL OF PUBLIC LAW [Vol.27] (2013), p. 447. カルメン・ガルシマルタンはコルーニャ大学の准教授であり専門は婚姻法である。「全ての人 (todas las personas, all persons)」という文言は憲法第24条第1項に存し,「国民(los ciudadanos, citizens)」という文言は第 9条第1項,第18条,第23条に存する。 14 Ibid.. 137.

(5) 名古屋市立大学大学院人間文化研究科. 人間文化研究. 第20号. 2014年2月. と主張する15。 1994年7月11日に,スペインの憲法裁判所は,男女間における婚姻は憲法第32条に基づく権利 であるが,同性カップルの「結合」は同条に基づく権利ではないと判断する一方で,同性カップ ルに対して,男女のカップルが家族を形成することで得られる利益と同様の利益を付与すること は許されるとし,さらには具体的な立法を通じて,婚姻カップルの配偶者が享受できる権利を同 性カップルのパートナーに対して保障することも許されると判断した16。 このように,同性カップルに対して,一定程度の法的保護を認めつつも,憲法第32条に基づく 婚姻は「男女」に限られると厳格に解されていた。ガルシマルタンによれば,同性婚を禁止する 根 拠 と し て 考 え ら れ て い た の は , 婚 姻 の 「 制 度 的 保 障 ( garantía institucional, institutional guarantee)」であったという17。婚姻の制度的保障とは,婚姻の本質的な要素は,婚姻それ自体の 目的や機能に関する一般的理解や社会通念によらなければ変更できないというものである18。 しかしながら2012年11月6日に,スペイン憲法裁判所は,同性婚を認める民法第44条は憲法第 32条に違反しないと判断した19。憲法裁判所は,同性カップルが憲法第32条を根拠に婚姻する権 利を要求することは認められないが,法律で同性婚を承認することは許されるとして,「許容 説」に立つ判断がなされたと考えられる20。制度的保障によって否定されてきた同性婚を承認す るための根拠として,憲法裁判所は,スペインと同様の法システムを有する他の国において同性 婚が承認されてきているという事実と,スペインの社会において,大部分の者が同性婚を支持し ているというスペイン社会学研究センター(the Centro de Investigaciones Sociológicas)の調査事 実を提示した21。 前者の点について,憲法裁判所は,諸外国の法およびヨーロッパ人権法において,婚姻が当事 者の性的指向にかかわらず,二人のパートナーシップとして規定されていることを考慮すれば, 婚姻が新しい「イメージ(imagen)」として徐々に変化しているということができ,西欧諸国の 比較法的見地から,婚姻に同性婚も含まれると解釈することは認められると判断した。 そして,後者の点については,2004年の調査でスペインの56%の者が同性婚を支持している事 実に照らせば,婚姻の制度的保障の観点から,違憲という形で立法府を非難することはできず, たとえ全会一致で法案が成立しなかったとしても,スペイン社会や国際社会によって次第に拡大 ────────────────── 15 Ibid. なお,憲法第14条は「スペイン人は,法律の前に平等であり,出生,人種,性別(sexo, sex) ,宗教,信条,その他 いかなる個人的または社会的状況によっても差別されない」と規定する。 16 Ibid, p.448. なお,判決文全文は次からアクセスできる(http://hj.tribunalconstitucional.es/en/Resolucion/Show/16344)2013年 9月15日最終アクセス。 17 Ibid, p.455. 18 Ibid. 19 ロイター通信の2012年11月6日付の記事,「同性婚はスペインの最高裁判所によって支持される(Same-sex marriage upheld by Spain’s highest court)」による(http://uk.reuters.com/article/2012/11/06/uk-spain-gaymarriage-idUKBRE8A51IT2012 1106)2013年9月15日最終アクセス。同記事によれば,11名の裁判官中,8名が合憲と判断したという。なお,判決文全 文は次からアクセスできる(http://www.tribunalconstitucional.es/es/jurisprudencia/restrad/Paginas/JCC1982012en.aspx)2013年 9月15日最終アクセス。 20 Carmen Garcimartín, op.cit., p.455. 21 Ibid, p. 457.. 138.

(6) 同性婚をめぐる諸外国の動向 (佐久間). しつつある婚姻概念にしたがって解釈することは,憲法第32条における解釈の範囲内であると判 断した。 さらに,憲法裁判所は,憲法制定当時において同性カップルの存在を考慮した上で婚姻が定義 されたのではないことを認め,異性愛ということは婚姻の重要な要素ではなく,むしろその様な 考え方は,婚姻の「伝統的な考え方」に過ぎないと述べた22。 スペインは,同性婚カップルに対して,異性婚カップルと同様の養子縁組を認めている23。し たがって,同性婚カップルは継子養子縁組だけでなく共同養子縁組を行うことも可能である。し かしながら,民法における嫡出推定規定(民法第116~118条)は異性婚カップルのみに適用され ており,同性カップルが親になるための方法は,あくまでも養子縁組に限られていることが現行 法上の相違点であるといえる24。なお,生殖補助医療技術は異性カップルと女性の同性カップル だけに認められており,男性の同性カップルは認められていない25。. Ⅱ 1. 憲法に婚姻規定をもつが要件規定ではない国 ベルギー. ベルギーは2003年1月13日に民法の一部を改正するための法律を制定(同年6月1日施行)し, 世界で2番目に同性婚を認める国となった26。ベルギーが同性婚を承認する以前は,1998年11月 28日に同性カップルの「法定同棲(legal cohabitation)」を認める法律を制定(2000年1月1日施 行)することによって,同性カップルに対して財産関係に関する諸権利を付与していた27。 ベルギーは婚姻に関する憲法規定を有している。たとえば,憲法第21条第2項は,「民事婚 (civil wedding)は,必要に応じて法律をもって設けられる例外を除き,教会での婚姻に常に先 立つものでなければならない」28と規定する。もっとも,当該規定は婚姻の要件を規定したもの ではなく,それらは民法で規定されている。2003年6月1日以降,ベルギーは民法第143条第1 項で,「異性(different sex)または同性(same sex)の二人は婚姻の契約を締結できる」29と規定 している。 渡邊泰彦によれば,同性カップルに対する法的承認の選択として,同性婚ではなく同性登録パ ────────────────── 22 Ibid, p. 456. 23 Carlos Martínez de Aguirre Aldaz and Pedro De Pablo Contreras, op.cit., p.295. 24 Ibid. 25 Ibid, pp.306-307. 26 Frederik Swennen and Yves-Henri Leleu, National Report: Belgium, in Journal of Gender, Social Policy & the Law [Vol.19:1] (2011), p.57. フレデリック・スウェンネン(Frederik Swennen)はアントワープ大学の教授(家族法)であり,イヴ=アンリ・ル ルー(Yves-Henri Leleu)はリエージュ大学教授である。 27 法定同棲が成立するまでの状況や法定同棲における権利義務については,渡邉泰彦「ヨーロッパにおける同性カップルの 法的保護」『東北学院大学論集』63号(2004年)68~72頁で述べられている。 28 邦訳は武居一正による(阿部照哉・畑博行編『世界の憲法集〔第4版〕 』 〔有信堂,2009年〕425頁) 。 29 邦訳は筆者自身による。参考にした英訳は,Kees Waaldijk, Others May Follow: The Introduction of Marriage, Quasi-Marriage, and Semi-Marriage for Same-Sex Couples in European Countries, in Judicial Studies Institute Journal [5:1] (2005), p.116 (http://www.jsijournal.ie/html/volume%205%20no.%201/5%5B1%5D_waaldijk_others%20may%20follow.pdf)2013年9月15日 最終アクセス。. 139.

(7) 名古屋市立大学大学院人間文化研究科. 人間文化研究. 第20号. 2014年2月. ートナーシップも可能であったという。しかしながら,緑の党がイニシアティブをとった同性婚 導入のための法律草案が,野党フレミッシュキリスト教民主党の賛同も得ることができたことで, 圧倒的多数で可決されることになった30。実際のところ,ベルギーの下院では,議員122名中91 名の賛成を得ることができたという31。 ベルギーでは,同性婚と異性婚において,子どもをもつ権利に関して民法上異なった取扱いを 受ける。たとえば,民法第143条第3項は,同性婚カップルに対して同法第315条の嫡出推定規定 が適用されないことを明示している32。なお,同性婚が認められた当初は,養子縁組に関する規 定も同性カップルに適用されることはなかった。しかしながら,2006年5月18日に民法を改正し たことにより,同性カップルの養子縁組も認められるようになった33。. 2. ポルトガル. ポルトガルは2010年5月17日に同性婚を認めるために民法等の改正法(Law 9 of 2010)を制定 (同年6月5日施行)し,世界で8番目に同性婚を認める国となった34。 ポルトガルも婚姻に関する憲法規定を有している。たとえば,憲法第36条第1項は,「何人 (Todos, Everyone)も,家族を形成し,完全に同等(plena igualdade, full equality)の立場で婚姻 する権利を有する」と規定し,同条第2項は,「法律は,婚姻の形式にかかわらず,婚姻の要件 および効果ならびに死亡または離婚による解消について定める」と規定している35。 同性婚を認める際には,民法第1577条を改正し,婚姻を「生活共同体を通して家族を形成する 意思のある二者間の契約」36と再定義した。 同性婚を承認するきっかけとなったのは,2007年に婚姻資格が否定された二人の女性によって 提起された訴訟である。原告らは,民法第1577条で「婚姻は異性の二人によって締結される契約 である」と規定することは,憲法第13条第1項の「すべて国民(cidadãos, citizen)は,法の下に 平等であり,同等の社会的地位を有する」および第36条に反すると主張した。これに対し,2009 年7月9日に憲法裁判所は,憲法第36条が同性婚を禁止するものではないと判断したものの,原 告らの婚姻する権利を承認することは立法府の権限であるとして,原告らの主張を退けた37。 ────────────────── 30 渡邉・前掲論文,72頁。 31 UPI通信の2003年1月31日記事,「ベルギーは同性婚を合法化(Belgium legalizes gay marriage)」による(http://www.upi.c om/Business_News/Security-Industry/2003/01/31/Belgium-legalizes-gay-marriage/UPI-46741044012415/#ixzz2bx21KgIN)2013年 9月15日最終アクセス。 32 Frederik Swennen and Yves-Henri Leleu, op.cit, pp.70-71. 33 Ibid, p.78. 34 Macarena Sáez, op.cit., p.119. 35 邦訳は筆者自身によるものであり,ポルトガル議会の英訳を参考にした。ポルトガル憲法は次から参照できる(http://ww w.parlamento.pt/Legislacao/Paginas/ConstituicaoRepublicaPortuguesa.aspx)2013年9月15日最終アクセス。 36 ポルトガルの民法は次から参照できる(http://www.verbojuridico.com/download/codigocivil2010.pdf)2013年9月15日最終ア クセス。 37 判決の概要は,International Commission of Jurists, Sexual Orientation, Gender Identity and Justice: A comparative Law Casebook (2012), p.363. より参照できる。また,判決文の原文は以下から入手できる。Acórdão No. 359/2009, Tribunal Constitucional Court(http://www.tribunalconstitucional.pt/tc/acordaos/20090359.htm)2013年9月15日最終アクセス。. 140.

(8) 同性婚をめぐる諸外国の動向 (佐久間). ポルトガルでは,2010年の改正法制定時には同性婚カップルの養子縁組は認められていなかっ た38。その後,2013年5月17日に同性婚カップルの継子養子縁組を認める改正法が制定された39。 これにより,同性カップルの一方は,そのパートナーの子どもの親になることができる。. Ⅲ 1. 婚姻に関する憲法規定をもたない国 オランダ. オランダは,2000年12月21日に民法を改正する法律(Act on the Opening Up of Marriage)を制 定(2001年4月1日施行)し,世界ではじめて同性婚を認める国となった40。 オランダの場合,憲法として位置づけられている「オランダ王国基本法(Grondwet voor het Koninkrijk der Nederlanden)」には,婚姻に関する規定を有していない。 2000年12月の民法改正では,第30条第1項として, 「婚姻は,異性(different gender (sex))ま たは同性(same gender (sex))の二人による契約によって成立する」41が新設された。同条を改正 する以前は,現在の第2項である「法律は,法的市民関係(legal civil relationships)における婚 姻のみを婚姻とみなす」42という規定のみであった。 渡邉泰彦によると,「1990年10月19日オランダ最高裁判決は,婚姻が男女間で行われることを 理由に同性間の婚姻を否定し,政府は登録パートナーシップ法の審議の過程で同性婚の導入には 否定的な見解を示していた」43という。さらに,「当初,Kok〔コック〕内閣は,同性カップルに よる共同縁組を認める養子法改正には積極的であったが,同性婚の導入には否定的であった。 ……〔しかし〕,1998年の総選挙後に,第2次Kok〔コック〕連立内閣が成立するにあたり,政 権合意の中で,同性カップルがオランダ人の子と共同で縁組する法案と同性婚導入の法案が提出 された」44という。 オランダで同性婚が承認された当初は,同性婚と異性婚の間に相違点が存在していた。第一の 相違点は,同性婚カップルは国際的な養子縁組を行なう権利を有していなかったことである45。 しかしながら,オランダは2005年に法律を改正して,同性カップルが国内,国外を問わず養子縁 組を行うことを認めている46。 第二の相違点は,同性婚カップルに対して,嫡出推定規定が適用されなかったことである(民 ────────────────── 38 Macarena Sáez, op.cit., p.119. 39 ポルトガル・アメリカン・ジャーナル2013年5月17日の記事,「ポルトガル議会が養子縁組する権利を承認-ポルトガル (LGBT: Portuguese parliament approves right to adoption - Portugal)」によれば,法案は与党の社会民主党(PSD)と進歩社 会党(PSP)によって進められたものであり,賛成99票,反対94票,棄権9票で承認されたという(http://portugueseamerican-journal.com/lgbt-portuguese-parliament-approves-right-to-adoption-portugal/)2013年9月15日最終アクセス。 40 Macarena Sáez, op.cit., p.115. 41 邦訳は筆者自身による。参考にした英訳は,Kees Waaldijk, op.cit., p.117. 42 Ibid. 43 渡邉・前掲論文,60頁。 44 渡邉・同上論文,60頁。 45 Macarena Sáez, op.cit., p.115. 46 Ibid.. 141.

(9) 名古屋市立大学大学院人間文化研究科. 人間文化研究. 第20号. 2014年2月. 法第199条)47。たとえば女性間の同性カップルの場合,カップルの一方が子どもを出産したとし ても,同性カップル間で子どもを懐胎することは生物学的に不可能であるため,その配偶者が子 どもの生物学的な親であるという推定は働かないことになる48。しかしながら,2001年に養子縁 組に関する規定を改正したことによって,子どもを出産したパートナーである女性の配偶者も, 共同養子縁組によってその子どもの親になることができるようになった。もっとも,男性カップ ルの場合は,嫡出推定規定は適用されない。. 2. カナダ. カナダは2005年7月20日に市民婚姻法(Civil Marriage Act)を制定し,世界で4番目に同性婚 を認める国となった49。 カナダの憲法は婚姻に関する規定を有しておらず,婚姻は市民婚姻法で規定されている。たと えば,市民婚姻法第2条は「民事目的(civil purposes)の婚姻は,二人(two persons)の合法的 な結合(lawful union)であって,それ以外は全て排除される」 50 と規定する。また,第4条は 「婚姻は,配偶者が同性であることのみをもって無効であったり,有効とされたりしない」と規 定する。 同性婚が承認されるまでの背景として,1995年最高裁判所判決(Egan and Nesbit v. Canada事 件)と1999年最高裁判所判決(M v. H事件)は重要であると思われる。 まず,Egan and Nesbit v. Canada事件は,イーガン(Egan)が老齢保障年金法(Old Age Security Act)に基づく年金を受給しており,その同性パートナーであるネズビット(Nesbit)がコモン ・ロー上の「配偶者」でないことから,配偶者手当(spousal allowance)を受給することが拒否 されたという事案である51。ここでの争点は,同性カップルのパートナーがコモン・ロー上の配 偶者の定義から排除されていることは,カナダ憲章第15条第1項の平等権に違反するか否かであ った52。これに対し最高裁判所は,同条の平等権には「性的指向」も含まると判示した53。 次に,M v. H事件は,女性間の同性カップルの一方で専業主婦をしていた M が,家を所有し 仕事をしていた H に対して,10年間の共同生活関係の破綻に伴って,配偶者としての扶養請求 を行ったという事案である54。ここで最高裁判所は,オンタリオ州の家族法における「配偶者」 ────────────────── 47 Kees Waaldijk, op.cit., p.117. 48 Macarena Sáez, op.cit., p. 116. 49 Marie-France Bureau, ‘‘National Report: Canada’’, in Journal of Gender, Social Policy & the Law [Vol.19:1] (2011), p. 85. 50 邦訳は筆者自身によるものであり,第3条および第4条も同様である。 51 事件の概要は,International Commission of Jurists, op.cit., pp.317-320, Marie-France Bureau, op.cit., p.92. なお,判決文の原文 は以下から参照できる(http://www.canlii.org/en/ca/scc/doc/1995/1995canlii98/1995canlii98.html)2013年9月15日最終アクセ ス。 52 カナダ憲章第15条第1項は「すべての個人は,法の前および法の下において平等であり,差別,とりわけ,人種,出身 国,または民族的背景,肌の色,宗教,性別,年齢,もしくは精神的または肉体的障害に基づく差別を受けることなく, 法の平等な保護および利益を受ける権利を有する」と規定する。なお,邦訳は畑博行による(阿部・畑編・前掲書,138 頁)。 53 International Commission of Jurists, op.cit., pp.317-320, Marie-France Bureau, op.cit., p.92. 54 事件の概要は,Marie-France Bureau, op.cit., p.93. 鳥澤孝之「諸外国の同性パートナーシップ制度」『レファレンス』711 号(2010年)41~42頁。なお判決文は次から参照できる(http://www.canlii.org/en/ca/scc/doc/1999/1999canlii686/1999canlii68 6.html)2013年9月15日最終アクセス。. 142.

(10) 同性婚をめぐる諸外国の動向 (佐久間). が異性カップルに限られていることは違憲であり,「配偶者」という文言には同性のパートナー も含まれると判示した55。ここで,事実上の(de facto)の結合として,同性カップルに対して法 的な承認を行ったことは,同性婚を承認するための具体的な立法を実現するにあたって,大きな 前進になったと思われる。 マリー=フランス・ビューロー(Marie-France Bureau)によれば,今日のカナダでは子どもを もつ権利に関して,同性婚カップルと異性婚カップルの取扱いに現行法上の相違点は存しないと いう56。実際に,同性婚カップルは異性婚カップルと同等に養子縁組を行うことができる。また, 同性婚カップルに対して嫡出推定規定が適用されるか否かは州によって様々であるものの,たと えばケベック州のように,父親だけでなく出産する女性のパートナーに対しても,嫡出推定規定 を適用する州もあり,その意味で異性婚カップルと同性婚カップルの間に相違点は存しないとい える57。 他方で,カナダでは婚姻の挙式を宗教団体が行なっていることから,信教の自由との関係で同 性婚に適用され得る制限が一つ存する。すなわち,市民婚姻法第3条は「宗教団体に属する宗教 者は,自らの宗教上の信条に合致しない婚姻の挙行を拒否する自由を有する」と規定しており, 宗教者の信条の自由に反する婚姻の挙行を強制されないことを明らかにしている。この点は,カ ナダにおける同性婚を紹介するにあたって,特筆すべき点であると思われる。. 3. 南アフリカ. 南アフリカは2006年11月14日にシビル・ユニオン法(Civil Union Act 17 of 2006)を制定(同月 30日施行)し,世界で5番目に同性婚を認める国となった58。 まず,南アフリカの婚姻制度に関して特筆すべきことは,二つの婚姻制度が並行して存在して いることである。婚姻を「一人の男性と一人の女性の間の結合」と定義するコモン・ロー系の 1961年婚姻法(the Marriage Act 25 of 1961)に基づくものと,アフリカ系の歴史的な婚姻(一夫 多妻制)を承認した1998年慣習婚姻承認法(the Recognition of Customary Marriages Act 120 of 1998)に基づくものがある59。 こうしたなか,2005年に同性カップルから2件の訴訟(「フーリエ事件」と「レズビアン=ゲ イ平等プロジェクト事件」)が南アフリカ憲法裁判所に提起された60。 まず,「フーリエ事件」とは,女性の同性カップルが,コモン・ロー上は婚姻を「一人の男性 ────────────────── 55 Ibid. 56 Marie-France Bureau, op.cit., p.90. 57 Ibid. 58 François du Toit, ‘‘National Report: South Africa’’, in Journal of Gender, Social Policy & the Law [Vol.19:1] (2011), p.277. フラン ソワ・デュ・トワ(François du Toit)は西ケープ大学法学部の教授。 59 鳥澤・前掲論文,44頁。 60 François du Toit, op.cit., pp.278-280. 鳥澤・同上論文,44頁,榎澤幸広「同性婚を禁ずる婚姻法の定義を違憲とした判決 ──フーリエ事件・レズビアン=ゲイ平等プロジェクト事件」(谷口洋幸ほか編『性的マイノリティ判例解説』〔信山社, 2011年〕190~193頁)。. 143.

(11) 名古屋市立大学大学院人間文化研究科. 人間文化研究. 第20号. 2014年2月. と一人の女性の結合」と定義していることから,公的に自らの愛を祝福されることや婚姻によっ て相互に関わり合うことから排除されることは違憲であると争ったものである61。 次に,「レズビアン=ゲイ平等プロジェクト事件」は,婚姻法第30条第1項は,婚姻主宰者 (marriage officers)がカップルに対して婚姻の誓約をさせるにあたって,「汝は○○を法的な妻 (または夫)とすることを,ここにいるすべての者を承認として誓いますか」62と規定している ことから,当該規定は同性カップルを排除し違憲であると争ったものである63。 南アフリカの憲法裁判所は,この訴訟において,同性カップルが従来の婚姻の定義から排除さ れてきたことに関して,憲法第9条に定める「平等権」と第10条に定める「人間の尊厳」に対し て違憲であると判示した64。 南アフリカ憲法第9条第1項は「何人(Everyone)も,法の下に平等であり,等しく法の保護 および利益を享受する権利を有する」と規定し,第3項は「国家は,いかなる人に対して,次の 事由をもとに,直接的または間接的を問わず,不当に差別してはならない。人種,ジェンダー (gender),セックス(sex),妊娠,婚姻状態(marital status),民族的または社会的血縁,肌の色, 性的指向(sexual orientation),年齢,障害の有無,宗教,良心,信条,文化,言語,門地」65と規定する。 さらに,第10条は「何人(Everyone)も,固有の尊厳(inherent dignity)を有しており,その 尊厳が尊重および保護される権利を有する」と規定する。 この判決を受け,南アフリカは同性婚を承認するために,シビル・ユニオン法を制定するに至 った。 シビル・ユニオン法第1条は「『シビル・ユニオン(civil union)』とは,シビル・ユニオン法 の手続にしたがって,婚姻(marriage)またはシビル・パートナーシップ(civil partnership)の 方法により挙式し,かつ登録を受けた,18歳以上の2人よる自発的な結合であり,その関係が続 く限りこれら以外の全ての者は排除される。『シビル・ユニオンのパートナー』とは,婚姻の配 偶者またはシビル・パートナーシップのパートナーである」と規定する66。 シビル・ユニオン法によって,同性婚カップルは異性婚カップルと同等の法的な取扱いを受け ることができる。たとえば,2005年子ども法(the Children’s Act 38 of 2005)によれば,同性カッ プルは異性カップルと同等に親権の義務を負う67。 なお,南アフリカでは,前述したカナダと同様に,宗教団体の宗教者は同性カップルのシビル ────────────────── 61 鳥澤・同上論文,44頁,榎澤・同上論文,190頁。 62 榎澤・同上論文,190頁。 63 鳥澤・前掲論文,44頁,榎澤・同上論文,190頁。 64 鳥澤・同上論文,44頁,榎澤・同上論文,191頁。 65 邦訳は筆者自身によるものであり,憲法第10条も同様である。南アフリカ憲法は次から参照できる(http://www.info.gov.z a/documents/constitution/1996/a108-96.pdf)2013年9月15日最終アクセス。 66 邦訳は筆者自身によるものである。なお,シビル・ユニオン法は次から参照できる(http://www.info.gov.za/view/Download FileAction?id=67843)2013年9月15日最終アクセス。 67 François du Toit, op.cit., p.285. なお,2005年子ども法は以下のURLから参照できる(http://www.info.gov.za/view/Download FileAction?Ibid=67892)2013年9月15日最終アクセス。. 144.

(12) 同性婚をめぐる諸外国の動向 (佐久間). ・パートナーシップ登録を信教上の理由から拒否することが認められている(シビル・ユニオン 法第8条第5項)。. 4. ノルウェー. ノルウェーは2008年6月17日に婚姻法を改正(2009年1月1日施行)し,世界で6番目に同性 婚を認める国となった68。 ノルウェーの憲法には婚姻に関する規定は存在しておらず,婚姻は婚姻法によって規定されて いる。ノルウェー婚姻法第1条は,「異性(opposite sex)または同性(same sex)の二人は婚姻 契約を結ぶことができる」69と規定する。 婚姻を性的に中立な制度にすることに対して,2008年6月11日にノルウェーの下院では賛成84, 反対41で可決され,また同年6月17日にノルウェーの上院でも賛成23,反対17で可決されたとい う70。 もともとノルウェーでは1993年から登録パートナーシップ法が制定されており,同性カップル に対して一定の法的保護を付与していた。しかしながら,登録パートナーシップ法の下では,同 性カップルの養子縁組は制限されており,教会でパートナーシップを結ぶ権利などは認められて いなかった71。 実際に,登録パートナーシップ下の同性カップルは共同養子縁組を行なうことはできず,継子 養子縁組に限られていたが,婚姻法の改正によって,同性婚カップルは異性婚カップルと同等に 共同養子縁組を行なう権利を有するようになった72。さらに,女性の同性婚カップルの場合は, 異性婚カップルと同様に生殖補助医療技術を利用することもできる73。 他方で,同性カップルが教会などで婚姻の挙式を行なう場合には,異性婚の場合と異なり,宗 教者は婚姻当事者が同性カップルであるという理由から挙式の挙行を拒否することができる(婚 姻法第13条)74。これは,前述したカナダや南アフリカと同様に,宗教者の信教の自由に配慮し た規定であると思われ,この点が異性婚と同性婚における婚姻法上の相違点となっている。. 5. スウェーデン. スウェーデンは,2009年4月1日に同性婚を認める法律を制定(同年5月1日に施行)し,世 ────────────────── 68 Torstein Frantzen, ‘‘National Report: Norway’’, in Journal of Gender, Social Policy & the Law [Vol.19:1] (2011), p.273. 69 邦 訳 は 筆 者 自 身 に よ る も の で あ る 。 Equal Jus Database の 英 訳 を 参 考 に し た ( http://archive.equaljus.eu/681/5/Template_Database-1_norway.pdf)2013年9月15日最終アクセス。 70 ロサンゼルス・タイムズの2008年6月17日記事,「ノルウェー同性婚法案通過(Norway passes law approving gay marriage)」による(http://www.latimes.com/news/local/la-on-norwaymarriage18-2008jun18,0,402614.story)2013年9月15日最 終アクセス。 71 Torstein Frantzen, op.cit., p. 274. 72 Ibid. 73 Ibid, p. 275. 74 Ibid.. 145.

(13) 名古屋市立大学大学院人間文化研究科. 人間文化研究. 第20号. 2014年2月. 界で7番目に同性婚を認める国となった75。スウェーデンには婚姻に関する憲法規定は存在して いない。 もともとスウェーデンでは,同性カップルに法的権利を付与するものとして,登録パートナー シップ制度があり,その制度の下で同性カップルは異性婚カップルとほぼ同等の権利を得ること ができた76。 こうしたなか,2007年に立法関係等調査委員会報告書(SOU)で,婚姻を性的に中立な制度に 変更することについて検討がなされた。この点について,井樋三枝子によれば,「〔SOUが〕異性 間による生殖が婚姻の役割であり,同性婚は認めないという意見は今日的ではなく,婚姻に生殖 や子の養育が要求されないとした。その結果,婚姻において性別が決定的に重要な問題とならな いと結論付けた」77という。しかしながら,2008年の政府提出法案はSOUの結論と異なっており, 婚姻は異性間の関係を前提にしていると判断した。最終的には,政府提出法案は否決され,その 後SOUの調査結果を反映した法案が圧倒的多数で可決されるに至ったという78。 今日の婚姻法において,婚姻と登録パートナーシップの間にある相違点は,「カップルの関係 に法的効力を与える手段として『結婚式』,とりわけ『宗教団体の執り行う結婚式』を認めるか どうか」79であるという。2009年に改正された婚姻法では,公的機関の挙式執行者による市民婚 や宗教団体の挙式執行者による挙式によって,法的な婚姻が性と関係なく認められるようになっ た。しかしながら,宗教団体の挙式執行者に対して,同性カップルの挙式を行うことは義務とさ れていない80。. 6. アイスランド. アイスランドは2010年6月11日に婚姻法等の改正法を制定(同月27日施行)し,世界で9番目 に同性婚を認める国となった81。また,同性婚を承認する改正法が施行されることに伴って,登 録パートナーシップ法は廃止された。 同性婚が導入されるにあたって,アイスランド議会では,賛成49,反対0で法案が成立し,従 来の「男性と女性」という婚姻概念に「男性と男性」,「女性と女性」という概念が加えられた82。 ────────────────── 75 Fact Sheet, Gender Neutral Marriage and Marriage Ceremonies, MINISTRY OF JUSTICE,(May2009). またスウェーデンの家族 法に関しては次のURL参照(http://www.government.se/content/1/c6/13/83/44/12624b3b.pdf)2013年9月15日最終アクセス。 76 Macarena Sáez, op.cit., p. 119. たとえば,養子縁組も異性カップルと同等に認められていたという。 77 井樋三枝子「立法情報 スウェーデン 同性婚及び挙式に関する改正法」『外国の立法 月刊版』(2009年)14~15頁。 URLは(http:// www.ndl.go.jp/jp/dp.a/publicp.ion/legis/23902/02390207.pdf)2013年9月15日最終アクセス。 78 井樋・同上論文,14~15頁。 79 井樋・同上論文,14~15頁。 80 井樋・同上論文,14~15頁。 81 アドボケイト (ADVOCATE) の2010年6月11日付の記事, 「アイスランド同性婚合法化(Iceland Legalizes Gay Marriage)」 による(http://www.advocate.com/news/daily-news/2010/06/11/iceland-legalizes-gay-marriage)2013年9月15日最終アクセス。 また,ロイター通信の2010年6月11日付の記事, 「アイスランド全会一致で同性婚法通過(Iceland passes gay marriage law in unanimous vote)」による(http://www.reuters.com/article/2010/06/11/us-iceland-gaymarriage-idUSTRE65A3V020100611) 2013年 9月15日最終アクセス。 82 Ibid.. 146.

(14) 同性婚をめぐる諸外国の動向 (佐久間). また,改正法では,牧師が同性婚の挙式を挙行することは義務ではなく,挙式を挙行するかどう かは常に自由であると規定されているという83。 同性愛者であることを公表し,登録パートナーシップ制度を利用していたヨハンナ・シグルザ ルドッティル(Johanna Sigurdardottir)首相は,同性婚の施行に伴って,パートナーである女性 作家と婚姻した84。 なお,アイスランド憲法には婚姻に関する規定は存在していない85。. 7. アルゼンチン. アルゼンチンは2010年7月21日に民法を改正するための法律を制定し,世界で10番目に同性婚 を認める国となった86。 同性婚の導入は,クリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル(Cristina Fernández de Kirchner)大統領の中道左派政権が推進したものであり,2010年7月15日に上院で賛成33,反対 27,棄権3で法案が可決,成立したという87。アルゼンチンは国民の90%がカトリック教徒であ り,カトリック教会は同性婚を承認する法案の是非を国民投票で問うよう政府に要求し,野党議 員からも賛同を得ることはできたのだが,最終的に国民投票は実現しなかった88。 アルゼンチンでは,2009年11月10日に同性婚を認める行政裁判(Freyre Alejandro v. GCBA事 件)の判決が出された89。この事件は,原告である男性同性カップルが婚姻登録を拒否されたこ とから婚姻資格を要求したものであり,ここでの争点は,婚姻資格を「一人の男性と一人の女 性」と規定するブエノス・アイレス民法第172条,第188条が差別的であり憲法に違反するか否か であった90。裁判所は,同性カップルが性的指向に基づいて婚姻する権利を否定されることは, アルゼンチン憲法第16条およびブエノス・アイレス憲法第11条における「法の下の平等」などに 違反すると判示した91。. ────────────────── 83 注81のロイター通信の記事による。 84 AFEBBニュースの2010年6月29日の記事,「アイスランド首相,同性愛パートナーと正式に入籍」による(http://www.afp bb.com/article/life-culture/life/2738197/5923845)2013年9月15日最終アクセス。 85 憲法規定は,アイスランド政府webページから参照できる(http://www.government.is/constitution/)2013年9月15日最終ア クセス。 86 ワシントン・ポストの2010年7月16日付の記事,「同性愛者の権利活動家 同性婚のためのアルゼンチンの投票を祝福 (Gay rights activists celebrate Argentine vote for same-sex marriage)」(http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/articl e/2010/07/15/AR2010071501119.html)2013年9月15日最終アクセス)と,ハフィントン・ポストの2010年7月15日付の記 事, 「アルゼンチン同性婚法:ラテンアメリカで初めて同性婚を承認(Argentina Gay Marriage Law: First Country In Latin America To Approve Same Sex Marriage)」による(http://www.huffingtonpost.com/2010/07/15/argentina-gay-marriage-la_n_64 7129.html)2013年9月15日最終アクセス。 87 Ibid. 88 Ibid. 89 International Commission of Jurists, op.cit., p.365. ハフィントン・ポストの2009年11月16日付の記事,「ブエノス・アイレ ス 同性愛者に初めての婚姻資格を付与(Buenos Aires Grants First Marriage License To Gays)」による(http://www.huff ingtonpost.com/2009/11/16/buenos-aires-grants-first_n_359960.html)2013年9月15日最終アクセス。 90 Ibid. 91 International Commission of Jurists, op.cit., p.369. なお,アルゼンチン憲法は以下参照(http://www.biblioteca.jus.gov.ar/Arg entina-Constitution.pdf)2013年9月15日最終アクセス。. 147.

(15) 名古屋市立大学大学院人間文化研究科. 8. 人間文化研究. 第20号. 2014年2月. デンマーク. デンマークは2012年6月7日に婚姻法を改正するための法律を制定(同月15日施行)し,世界 で11番目に同性婚を認める国となった92。コペンハーゲン・ポストの記事によれば,デンマーク の議会において,同法案は賛成85,反対24,棄権2で成立したという。 もともとデンマークでは,1989年から登録パートナーシップ法が制定されており,世界で初め て同性カップルを法的に承認した国となっていた93。同法制定当初は,養子縁組などに関する規 定は同性カップルに対して適用されることはなかったが,2009年には同性カップルの一方は登録 パートナーの子どもと養子縁組することが認められた94。また,2006年から全ての女性は性的指 向や婚姻関係の有無にかかわらず,生殖補助医療技術にアクセスすることができる95。 デンマークにおいて,婚姻と登録パートナーシップにおける相違点は,婚姻が宗教的なもので あるのに対して,登録パートナーシップは世俗的なものであるということである。したがって, 婚姻カップルは宗教的ないし世俗的な挙式のいずれかを選択することができるが,登録パートナ ーシップカップルは世俗的な挙式しか選択できなかった96。 コペンハーゲン・ポストの記事によれば,同性婚が承認されたことにより,同性カップルはデ ンマークの教会で婚姻の挙式を行えるようになったという。しかしながら,同法は宗教者が同性 カップルの婚姻の挙式を拒否する権利も認めている。. 9. ウルグアイ. ウルグアイは2013年4月10日に同性婚を認めるための民法改正等の改正法案(A marriage equality bill)を下院で可決し,同年8月1日から施行したことにより,世界で12番目に同性婚を 認める国となった97。 本改正法案は,ウルグアイの上院では賛成23,反対8の賛成多数で可決され,下院では92名の 議員のうち71名が賛成票を投じたという98。一方で,ウルグアイの教会は,同性婚が認められる ことにより従来の婚姻や家族制度が大きな打撃を受けるとして法案に反対してきた99。 同性婚が導入されたことにより,婚姻契約における「夫婦(husband and wife)」という文言は, 「契約当事者(contracting parties)」という性的に中立な文言に変更された100。 ────────────────── 92 コペンハーゲン・ポスト2013年6月7日付の記事「同性婚合法化(Gay marriage legalised)」による(http://cphpost.dk/new s/national/gay-marriage-legalised)2013年9月15日最終アクセス。 93 Annette Kronborg and Christina Jeppesen, ‘‘National Report: Denmark’’, in Journal of Gender, Social Policy & the Law [Vol.19:1] (2011), p.113. アネット・クロンボー(Annette Kronborg)はユトレヒト大学の講師であり,クリスティーナ・ジェプセン (Christina Jeppesen) はコペンハーゲン大学の准教授。 94 Ibid. 95 Ibid, pp.118-119. 96 Ibid, p.120. 97 AFBPPニュース2013年4月11日付の記事,「ウルグアイ議会,同性婚法案を可決 中南米で2国目」による(http://www.a fpbb.com/article/politics/2938185/10566067)2013年9月15日最終アクセス。 98 CNNニュース2013年4月11日付の記事, 「同性婚認める法案が通過,大統領署名で成立へ ウルグアイ」による(http://w ww.cnn.co.jp/world/35030730.html)2013年9月15日最終アクセス。 99 注98の同記事による。 100 CBNニュースの2013年4月12日付の記事, 「ウルグアイ同性婚合法化(Uruguay Legalizes Gay Marriage)」による(http:// www.cbn.com/cbnnews/world/2013/April/Uruguay-Legalizes-Gay-Marriage/)2013年9月15日最終アクセス。. 148.

(16) 同性婚をめぐる諸外国の動向 (佐久間). 10. ニュージーランド. ニュージーランドは2013年4月19日に婚姻法を改正するための法律(Marriage (Definition of Marriage) Amendment Act 2013)を制定(同年8月19日施行)し,世界で13番目に同性婚を認め る国となった101。今回の婚姻法改正案は,賛成77,反対44で成立したという102。 もともとニュージーランドでは,2004年シビル・ユニオン法(the Civil Union Act 2004)が制 定されており,同性カップルはシビル・ユニオンとして法的に承認されていた103。ただし,シビ ル・ユニオンは,子どもの権利に関して,婚姻とは異なる取扱いを受けていた。 たとえば,養子縁組法(Adoption Act 1955)第3条第2項において,養子縁組は「配偶者」の みが認められると規定されているため,シビル・ユニオンに登録されたカップルは養子縁組を利 用するこができなかった104。また,子ども身分法(Status of Children Act 1969)第5条において, 嫡出推定規定は婚姻している女性のみに適用されることから,シビル・ユニオンカップルに適用 されることもなかった105。 しかしながら,婚姻法の改正で同性婚が認められたことにより,同性カップルも異性カップル と同様に養子縁組などの権利を享受できるようになった。 ちなみに,ニュージーランドの憲法には婚姻に関する規定は存在していない。同性婚を検討す る上で重要な規定は,1993年人権法(the Human Rights Act 1993)の第21条第1項であり,そこ では「性的指向(sexual orientation)」に基づく差別を禁止している106。. 11. フランス. フランスは2013年5月17日に民法等の改正法を制定(同年5月18日施行)し,世界で14番目に 同性婚を認める国となった107。同性婚の導入は,フランソワ・オランド(François Hollande)大 統領の選挙公約の一つであったが,本法案は4月23日にフランスの下院おいて,賛成331,反対 225で成立した108。また,その後の5月17日には,フランスの憲法院が同性婚を承認する法律は 合憲であると判断した109。なお,フランスの第五共和制憲法は婚姻に関する規定を有していない。 ────────────────── 101 ABCニュースの2013年4月18日付の記事,「ニュージーランド同性婚合法化(NZ legalises same-sex marriage)」による (http://www.abc.net.au/news/2013-04-17/nz-legalises-same-sex-marriage/4635086) 2013年9月15日最終アクセス)。また, Marriage (Definition of Marriage) Amendment Act 2013は,次のURLから参照できる(http://www.legislation.govt.nz/act/publ ic/2013/0020/latest/whole.html#DLM4505003)2013年9月15日最終アクセス。 102 Ibid. 103 Kenneth Norrie, ‘‘National Report: New Zealand’’, in Journal of Gender, Social Policy & the Law [Vol.19:1] (2011), p. 265. ケネス ・ノリエはストラスクライド大学の教授であり,専門は家族法。 104 Ibid, p.267. しかしながら,「配偶者」の解釈問題として,「配偶者」のなかに「事実上のカップル」である未婚のパート ナーも含むかどうかについて,矛盾する下級審決定も存在しているという(Ibid, pp.267-268.)。 105 Ibid, p.267 106 1993年人権法(the Human Rights Act 1993)は次のURLから参照できる(http://www.legislation.govt.nz/act/public/1993/008 2/latest/DLM304212.htm)2013年9月15日最終アクセス。 107 服部有希「【フランス】同性婚の成立」 『外国の立法』256巻1号(2013年)12~13頁。以下のURLから参照できる(http:// dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8233299_po_02560105.pdf?contentNo=1)2013年9月15日最終アクセス。 108 CNNニュース2013年4月24日付の記事,「フランス議会は同性婚法案を承認(French lawmakers approve same-sex marriage bill)」による(http://edition.cnn.com/2013/04/23/world/europe/france-same-sex-vote)2013年9月15日最終アクセス。 109 フランス憲法院の判決文は以下から参照できる(http://www.conseil-constitutionnel.fr/conseil-constitutionnel/english/case-law/d ecision/decision-no-2013-669-dc-of-17-may-2013.137411.html)2013年9月15日最終アクセス。. 149.

(17) 名古屋市立大学大学院人間文化研究科. 人間文化研究. 第20号. 2014年2月. もともとフランスでは1999年10月13日に成立したPACS法(Pacte Civil de Solidarité)によって, 同性カップルの共同生活は法的に保護されていた110。しかしながら,PACS法は当事者に対して 養子縁組を行う権利,生殖補助医療への権利,婚姻への権利,相続といった家族関係に関する権 利を認めたわけではなく,当事者の契約によって財産関係を処理し,共同生活関係を維持するた めの最低限の社会的保護を与えるに過ぎなかった111。したがってPACS当事者間に生まれた子ど もは非嫡出子として扱われ112,またPACSカップルは養子縁組や生殖補助医療を用いることを禁 止されていた113。さらに,子どもに関する権利の他に,PACS当事者間に親族関係は生まれない ことから,相続に関して何ら効果を生むことはなく,遺贈や贈与については相続人の遺留分によ って制限を受けるとされていた114。 しかしながら,今回の民法改正により,第143条で「婚姻は,異性または同性の両当事者間で 締結される」と新たに定義されたことに付随して,同性カップルは養子縁組を行えるようになり, 配偶者の相続人になることができるなどの権利を有するようになったという115。なお,同性カッ プルの生殖補助医療の利用に関しては,今回の民法改正では規定されていない。. 12. イギリス. イギリス(EnglandおよびWales)は2013年7月17日に婚姻(同性カップル)法(the Marriage 〔Same Sex Couples〕Act)を制定し,世界で15番目に同性婚を認める国となった116。なお,同法 は2014年以降に施行される予定である。法案成立に至るまでの間には,キャメロン首相が支持を 表明する一方で,与党の保守党内では反対の声が多く,英国の国教会をはじめとする宗教団体も 反発していたという117。 イギリスでは,シビル・パートナーシップ法(Civil Partnership Act 2004)が2005年12月5日か ら施行されたことにより,同性カップルは婚姻に相当する権利を付与されていた118。そのため, 2002年養子及び子ども法(Adoption and Children Act)第144条において,養子縁組できる者とし て「互いにシビルパートナーである二人」と規定されていることから,シビル・パートナーシッ プ登録している同性カップルは,異性カップルと同様に子どもをもつこともできた119。 ────────────────── 110 林瑞枝「フランスのカップル法制の行方『連帯の民事契約(パックス)』法案の波紋」 『時の法令』1595号(1999年)68~ 70頁,丸山茂『家族のメタファー』(早稲田大学出版部,2005年)58~59頁,大村敦志『20世紀フランス民法学から』(東 京大学出版会,2009年)277~280頁。 111 丸山・同上書,68頁。このPACS法は,民法,租税法,社会保障法,労働法,外国人の入国滞在に関する政令,国家公 務,領土保安公務,医療公務の規約に関する法律,賃貸借関係の改善に関する法律の改正から成り立っているという。 112 丸山・上同書,63頁,大島梨沙「フランスにおける非婚カップルの法的保護(2・完):パックスとコンキュビナージュ の研究」『北大法学論集』58巻1号(2007年)186頁。 113 丸山・同上書,63頁。 114 林・前掲論文,72頁,丸山・同上書,64頁。 115 服部・前掲論文,12頁。 116 BBCニュースの2013年7月17日付の記事,「イングランドとウェールズで同性婚合法化(Same-sex marriage becomes law in England and Wales) 」による(http://www.bbc.co.uk/news/uk-politics-23338279)2013年9月15日最終アクセス。 117 CNNニュースの2013年7月18日付の記事,「英国で同性婚認める法案が成立,来年夏にも施行」による(http://www.cnn.c o.jp/world/35034812.html)2013年9月15日最終アクセス。 118 Kenneth Norrie, ‘‘National Report: United Kingdom’’, in Journal of Gender, Social Policy & the Law [Vol.19:1] (2011), p.333. 119 Ibid, pp.341-342.. 150.

(18) 同性婚をめぐる諸外国の動向 (佐久間). 他方で,婚姻が性的であり宗教的な制度であるのに対し,シビル・パートナーシップ登録は, 非性的であり世俗的な制度であるという相違点が存在していた120。そのため,婚姻が不貞行為を 解消原因にしているのに対し,シビル・パートナーシップは解消原因としてパートナーの不貞行 為は規定されていないという違いも生じていた。さらに,仮に当事者が二人の結合を祝福する熱 心な宗教者であったとしても,宗教的儀式によって成立を可能とする規定は設けられていなかっ たため,婚姻が相互の宗教的な承認によって権限を与えられた公務員ないし宗教者によって成立 するのに対し,パートナーシップの登録は,パートナーシップ登録官と二人の承認の立ち会いの 下で成立するという違いも存在していた121。 CNNの記事によれば,婚姻(同性カップル)法が制定されたことにより,同性カップルが宗 教施設において婚姻の挙式を行うことができるようになったが,そのためには宗教者が挙式の挙 行に同意する必要などがあるという122。. Ⅳ 1. 日本における同性婚の議論 同性婚に関する学説状況. 日本における婚姻については,憲法第24条第1項で,「婚姻は,両性(both sexes)の合意のみ に基いて成立し,夫婦(husband and wife)が同等の権利を有することを基本として,相互の協 力により,維持されなければならない」と規定され,同条第2項で,「配偶者の選択,財産権, 相続,住居の選定,離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては,法律は,個人の 尊厳と両性(the sexes)の本質的平等に立脚して,制定されなければならない」と規定されてい る。 この憲法規定のうち,「両性」という文言をめぐって学説は対立しているといえる。以下では, 民法学と憲法学においてどのような議論がなされてきたのか区別して検討していく。 まず民法学においては,管見の限り,1950年代から同性婚について議論がなされてきたといえ る。山中康雄は,婚姻とは,社会的に夫婦と考えられる一男一女の終生に渡る精神的肉体的結合 であると定義し,このことから,「同性婚は,社会観念上,婚姻的共同生活関係とはみとめられ ず,かかるものを意思としても,婚姻意思ありとはいえないから,無効である」123とし,同性婚 の可能性を否定した。 また1960年代には,中川善之助が,「同性間の婚姻というようなものも婚姻的法律要件として は否認されなければならない」124と述べた。 ────────────────── 120 Ibid, p.333. 121 ジリアン・ダグラス「2004年シビルパートナーシップ法──同性のパートナーは婚姻と同等かそれとも劣る身分か?」小 野幸二教授古稀記念論集刊行委員会編『21世紀の家族と法──小野幸二教授古稀記念論集』(法学書院,2007年)695頁。 122 注117のCNNニュース記事。 123 中川善之助編『註釈親族法(上)』 (有斐閣,1950年)162頁〔山中康雄執筆〕。 124 中川善之助『新訂親族法』(青林書院新社,1965年)160~161頁。もっとも,中川は同書169頁の注1)において,同性婚 が認められない理由として,婚姻意思の不存在を挙げている。. 151.

(19) 名古屋市立大学大学院人間文化研究科. 人間文化研究. 第20号. 2014年2月. さらに1990年代には,星野英一が,婚姻の定義にかかわる明文の規定はないが,婚姻の生理的 要件からみて婚姻は男女の結合でなければならず,同性の結合は婚姻障害事由の一つとして無効 であると述べた125。 棚村政行は,これらの見解が通説的な見解であるとし,「このような通説の立場からは男同士 や女同士の同性カップル間の婚姻は法的には認められないことになる」126と指摘している。 2000年以降の民法学の学説においても,たとえば,内田貴は,「民法には婚姻の当事者が異性 でなければならないという要件はない。しかし,子を出産することなど,民法が想定している夫 婦の観念からして,現時点で,解釈上同性カップルに婚姻としての法的地位を認めるのは困難で ある」127とし,また,大村敦志は,憲法第24条の「両性の合意」という表現,あるいは民法第731 条の「男は……,女は……」という表現や民法第750条以下の「夫婦」という文言から,婚姻の 当事者は性別を異にしていると指摘している128。 しかし他方で,こういった通説的な見解に対して,異論を唱える少数説も散見される。 たとえば,既に1980年代後半には,上野雅和が,「生殖および子の養育は婚姻内で許容される ということもできない。……婚姻外生殖を法的に差別して,不利益な取扱をすることさえ,個人 の自由権に対する制限であり,不当であると考えられるようになっている。……伝統的な婚姻統 制の必要のために法定された婚姻の実質的要件は,婚姻当事者の利益の観点から再検討されざる をえなくなる。個人の利益を否定するに足る合理的根拠ある強力な国家的ないし社会的利益が存 在しない限り,個人の婚姻の自由を制約することは許されなくなる。伝統的婚姻観および法が当 然の前提としてきた婚姻は男女の結合でなければならないという命題も,必ずしも当然に合理的 根拠があるとは言えなくなる……男女の結合であれば生殖や性関係の可能性がなくても,さらに 臨終婚のように,共同生活の可能性すらなくても,婚姻法的利益を付与しながら,同性間の結合 であれば,生殖能力の点を除けば夫婦の実質を伴っていても,婚姻法的利益の付与を拒否する合 理的根拠があるのか」129と述べている。 また,1990年代には,星野茂が,「婚姻に求められる目的は,経済生活の問題及び愛情の対象 としての人生のパートナーの選択(「家族集団の形成と存続維持」 )」であり,「婚姻が異性間のカ ップルにおいてのみ認められるべきであるというこれまでの伝統的な婚姻観とは異なり,同性カ ップルについても婚姻制度に則った保護を与えることも決して不自然なことでもない」とし,婚 姻意思説が,「同性カップルの場合には,当事者が同性であるというだけで『婚姻意思』はない ────────────────── 125 星野英一『家族法』 (放送大学教育振興会,1994年)59頁。 126 棚村政行「同性愛者間の婚姻は法的に可能か」婚姻法改正を考える会編『ゼミナール婚姻改正』(日本評論社,1995年) 50頁。日本でも同性婚を承認するか否かという点につき,棚村政行は,「アメリカや北欧諸国のように,同性カップル, 異性カップル問わず法律婚とは別の第三のカテゴリーの事実婚保護制度を立法的に実現すべきだろう」と述べている(52 頁)。 127 内田貴『民法Ⅳ〔補訂版〕親族・相続』(東京大学出版会,2004年)75頁。 128 大村敦志『家族法〔第3版〕 』(有斐閣,2010年)133~134頁。 129 青山道夫・有地亨編『新版注釈民法(21)』(有斐閣,1989年)178~179頁〔上野雅和執筆〕 。. 152.

(20) 同性婚をめぐる諸外国の動向 (佐久間). と断じていることが果たして今日でもいえるのか疑問であると言わざるを得ない」130と述べてい る。 さらに最近では,二宮周平が,「〔個人が基本となる社会では,家族を個人の幸福追求の場,自 己実現を支援する場として捉えなおすことを意味しており,〕婚姻の意義について,人格的要素 以外の何かを持ち込むことは妥当ではないことになる。人々が婚姻を生殖と保育のために利用す ることを妨げる必要はないのはもちろんだが,婚姻の意義はパートナーとの人格的結びつきの安 定化に求めるべきである」131とし,同性カップルの婚姻を法的に承認することについて積極的な 見解も存する。 次に憲法学ではどうだろうか。憲法学の概説書において同性婚について言及する者はほとんど いない132。たとえば,芦部信喜は「子どもを持つかどうかなど家族のあり方を決める自由(断種, 避妊,妊娠中絶などの問題)」が,日本国憲法第13条に基づく「自己決定権」に含まれると解し てはいるものの,そこから派生して同性婚に対する言及はなされていない133。 また,辻村みよ子は,家族形成権やリプロダクションの自由などに対して,憲法理論上,憲法 第24条と第13条の関係が明確にされていないことと,現行法上の問題として同性カップルの権利 について十分に論じられていないことを指摘するにとどまっている134。 佐藤幸治は,憲法第13条に基づく「自己決定権」に「家族の形成・維持にかかわる事項」を挙 げているが,憲法が一組の男女とその間に生まれた子どもを法律上の家族として保護する目的を 有する立場を前提とするならば,同性カップルが同居する家族はそれ以外の結合形態として,憲 法第13条の問題として捉えることになると述べる135。 しかし他方で,概説書レヴェルではほとんど議論がみられないものの,憲法学における同性婚 に関する研究それ自体は,近時,見受けられるようになった。たとえば,羽渕雅裕は,憲法第24 条第2項に着目し,家族に関する事項について法律によると規定していることから,同性婚を否 定する理由は乏しく,むしろ同性婚を保護することで同性カップルの子どもの保護につながるの であれば,ドメスティック・パートナーシップのような制度によって同性カップルを保護するこ とは,単に憲法に違反しないというだけでなく,ある程度積極的に要請されると解すことができ ると指摘する136。 さらに,大野友也は,同性婚について「憲法第24条第2項や第13条による同性婚容認(ないし 要請)論については肯定的に捉えている」と述べると同時に,とりわけ憲法第14条の「平等原 ────────────────── 130 星野茂「わが国における同性愛者をめぐる家族法上の諸問題」『法律論叢』69巻3・4・5合併号(1997年)245頁。 131 二宮周平「家族単位から個人単位へ──自己決定権からのドメスティック・パートナー法」赤杉康伸ほか編『同性パート ナー──同性婚・DP法を知るために』(社会批評社,2004年)77~79頁。 132 例外的に,樋口陽一『憲法〔第3版〕 』(創文社,2007年)278頁では,憲法第24条が「『両性』の本質的平等とのべている かぎりで,同性の結合による『家族』を憲法上想定するほどには徹底していない」と指摘されている。 133 芦部信喜『憲法〔第5版〕』 (岩波書店,2011年)125頁。 134 辻村みよ子『憲法〔第4版〕 』(日本評論社,2012年)166頁。 135 佐藤幸治『日本国憲法論』(成文堂,2011年)188~191頁。 136 羽渕雅裕「同性婚に関する憲法学的考察」 『帝塚山法学』10号(2003年)57頁。. 153.

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