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『オセロー』における物語

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Academic year: 2021

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(1)『オセロー』における物語 水. A. 落. Prayer. 朗. of Earnest. lcbiro. Heart. MIZUOCHI*. 『オセロー』は,その構成が緊密でサイプラス島における展開はまるで三一致の法則を. 適用したかのような錯覚を与えるはどであるo舞台における時間があたかも物語の時間に 対応しているかと思う捻どに進行して,息をつめて見守るうちに悲劇の大団円を迎えてい る.この間観客の体験している凝縮された時間は,あとで脚本を読みかえしたときに受け る印象とははなはだしく異なる。書斎の時間は,拡散していたるところで立ち止まり,疑 問の咳きをもらし,ついには苛立ちの声をあげ,脚本の非合理をなじりだす。そしてデズ. デモ-ナがオセローの放浪の物語を「切れ切れに少ししか聞いておらんから,全部まとめ (151)のと同じように,この悲劇物語 てていねいに話してくれるように熱心にねだった」 の一部始終をあまさずに知りたいと願う。その「熱心にねだる」くだりをオセローは次の ように報告する。 But. Wbicb. ever. Sbe'd. once. draw. Tbat. my. not. discourse. all my. a. parcels. a. wbicb. ;. hour,. pliant from her. by. with. and. of. pilgrimage she. bad. her. thence,. dispatch ear. greedy. l observing. found. and. prayer. draw baste. with. could. a. l would. Wbereof. affairs would. she. again,. up. Took. But. as. come. Devour. To. house. still the. good. earnest. means. heart. dilate. something. beard,. intentively.. (1.3. 146-154) しかしシェークスピアはオセロ-とは違って,この「むさぼるような耳」. (148)を持つ. 読者の願望にはつれない態度で「舞台でしめしたことがすべてであるからもう一度舞台を みてください」と答えるのみだ。そこで改めて舞台を見る。すると観客は,デズデモ-ナ と同じように,涙を流し滞息で息をつまらせながら「かわいそうで聞かなければよかっ た」 (161)と反応するだろう。こうして「舞台」と「書斎」の往復が繰返されてきたのが *英語教室.

(2) 72. 水. 落. 一. 朗. 『オセロー』の批評史であり,ある意味でほ演劇の批評としてはきわめて正統的な批評の 歴史である。他の円熟期の悲劇とは違っている点はいくつもあるが,. 『オセロー』の真骨. 頂はこの舞台での圧倒的な成功が批評研究に影響をあたえてきたことである。 舞台と書斎との反応の相違の最大のものは,物語の圧縮の度合についてである。非常に 極端な解釈をすれば,デズデモ-ナは新床にもふせたかふせないかのうちにキャシオーと. の逢う瀬を持ったことになるという滑梧な事態を想定しなければならない。このような辻 凄のあわない-合理的な解釈の風潮が忍び込んできたことによる見方-筋書きをなん とか解決しようと提案されたのが,. 「ダブル・タイム」という説である。この説によって. 合理的に説明できる部分があるとしても,それは舞台とは無関係であることが最大の弱点 であり,つまり書斎での机上の空論にしかすぎないことが判明してきた。それでは,この. 説はまったく無力かというと,そうでほなく,すくなくとも,脚本の構造に潜む問題点を 追及する視点を提供してきたという-点だけでもその功績を無に帰することはできない。. ここでは全面的にこの説の抱える諸問題を扱う余裕がないので,オセローとデズデモ-ナ <大きな物語> の悲劇物語を構成している<小さな物語>群をいくつか考察に対象して, との関連をさくoってみたいo シェークスピアの通常の劇作術でほ,メイン・プロットとサブ・プロットがあってこの. 両者はちょうど合せ鏡のように照応しつつ進行していくことにより物語の展開に必要な時 間の扱いを巧みに一合理的思考の持主をも納得させるように-処理されている。つま り,直線的な物語の統辞構造に並置的な範例の連合関係を割り込ませることで,時間の推. 移を自然に見せる。しかしこの場合でも,厳密に言えば程度の差異にしかすぎなくて,本 質的に論ずるとすれば,やはり「ダブル・タイム」を必要とする。してみれば,シェーク スピアにとって,物語の時間は主要な関心事でなかったのだという結論を導くことになろ うが,とりあえず深入りは避けておきたい。. 『オセロー』が通常のサブ・プロットを備え. ていないことが,結婚から死までの物語をあまりにも直線的に短時間のうちに展開してい るという印象を与えているのは否めないだろうo. だが,この印象はかならずしも正しくな. いのではないか.シェークスピアの工夫の跡はこのような印象にかきけされてしまいがち. である(逆に言えば,そのような印象を与えようと工夫してある).作者が用意周到にこ らした工夫のひとつである<小さな物語>の組合わせについて考察してみたい。 いま<小さい物語>とは,ブラバンショーとデズデモ-ナの親子の結婚をめく小る意見の 対立の経緯を例にすると,それだけでは独立した物語でほないけれどもそれ独自の起承転 結をもつ普通エピソードと呼ばれているものをここでほ指す。イア-ゴーの<物語>につ いての定義「どこで,どうして,何べんくらい,どのくらい前のいつごろに,またこの次 ほいつ」 (4.1.85)誰が何をしたか,あるいはするかを述べていることという定義を適用 「なぜ」 できる話をここでは<小さな物語>と呼ばうと思う。このイア-ゴーの定義にほ, が欠如していることはついでながら注意しておくべきであろう。この<小さい物語>をい くつか列挙してみると,次のようなものとなるであろう。 1. イア-ゴー,たくみにロダリ-ゴーを偏すこと. 2. ブラバンショー,傷心のあまり死にいたること.

(3) 『オセロー』における物語. 73. 3. オセロ-,いかにしてデズデモ-ナの心をとらえたかを語ること. 4. イア-ゴー,理想の女を語ること. 5. イア-ゴー,キャシオーの夢を語ること. 6. イア-ゴー,キャシオーとビアソカの情話芝居を演出すること. 7. オセロー,. 8. デズデモ-ナ,召使バーバリの薄幸を思い出すこと. 9. オセロー,みずからの生涯を要約すること. -ソカチの由来を語ること. このような<小さい物語>は,さらに細分化することも追加することもできるが,当面は この程度で十分であろう。これらの<小さい物語>と<大きな物語>との関与の仕方ほ, さまざまであって一般的な定義をあたえることはできない。ここでは,まずイア-ゴーの. <大きな物語>に埋め込まれた<小さ. ロダl) -ゴーを偏す方法を概観することによって,. い物語>群の機能とその関与の度合を考察することから始めよう。 イ7-ゴー,ログリーゴを隔すこと. 工. イア-ゴーがひとを騒すことができるのは,オセローの言うように「非常に誠実な男だ (3.3.255-257)ように見えるからでもあ. し,世馴れていて,世態人情を知り尽している」. るが,同時にこの世の中になんら幻想を抱いていないからでもある。オセローが高く評価 (ついでながら, する「誠実さ」について,彼はロダリ-ゴーにこう語っていたのである。 このような劇的アイロニーがいたるところにさまざまな次元で認められるのが,. 『オセロ. ー』の特徴である。 <小さな物語>が限定された登場人物のあいだで語られて,その話題 が他の物語の中に浸透しないからである。情報の伝達が統御されていることが,この悲劇 を成立させている要因であるoそして最後の場面になって初めて,. -ミl)アの告白,ロダ. リ-ゴーの手紙などで事件の全容が関係者に判明するような仕掛けになっている.). Otbers Who. trimmed. Keep. yet. And. in. their. throwing. Do. well. Do. tbeⅡ1Selves. And. thrive. stlCb. a. one. forms. hearts. and. t也er. visages on. attending. of. shows. of service. on. by. them・,. and. they. homage do. these. fellows. l profess. myself.. :. duty,. themselves,. but. when. are. their lords,. have. have some. lined. their. coats,. soul,. (1. 1. 49-56). だから彼ほいつでも「誠実なお面」を相手かまわず被ってみせることができる。世態人情 についても,その知見は狭く限定されている。彼の視野にほ男女の愛という情熱を諾める ことができない。彼にいわせれば,オセローとデズデモ-ナの愛の誓いなど「家なしの野 蛮人とこすっ辛いヴェニス女の,殊勝ぶった危なっかしい約束事」 (1.3.350-351)であり, 「あの女が初めムーアにあんなに熱くなったのは,ただ夢みたいな嘘っぱちを吹きまくら.

(4) 74. 水. れたから」. 落. 朗. 一. (2.1.216-217)なので,すぐ別の若い男に気を移す筈である。なぜならばデズ. (2.1.244-5)を飲むにすぎないのだから. デモーナといえども「こちとらと同じ葡萄酒」 (2.1.229)にロダリ-ゴーは半信半疑ながらも,そのもっと この「明白かつ自然の筋道」 もらしさに屈伏して編されてしまう。. これが舞台の上で数度にわたって繰り返される。その都度彼のイアーゴー(′こ対する疑念 ほ増大していくにもかかわらず,心ならずも納得してしまう。最後には気がすすまないま ま「なに,人間一匹消えちまうだけのこった」. (5.1.10)と抜刀してキャシオーをめがけ. て突進するこの愚かしい男を偏すことほ,それほど難しいことでほないかもしれない。し. かしながら,この<デズデモ-ナを恋うるあまり顕され殺される男の物語>はいくつもの 次元で<大きな物語>と結びついている。まずなによりも,イア-ゴーが劇場の観客と直 接に内密な共犯関係を持つのに格好な口実を提供していることが指摘できる。イア-ゴー の騒しの手口を<大きな物語>とほ関係なくそっと打ち明けられた観客は,もっと大物を 顕すところを見たいという期待をかきたてらればかりでなく,ロダリ-ゴーを鼻面取って 曳きまわすときに彼が用いる「世態人情」に基づいた説得の話法がいささか強引であって ち,観客のシニカルな側面に訴えるところがあり,全く同意するのでほなくとももう一度 聞いてみたいという欲望を持つにいたるのだ。このような期待や欲望は公然と認められた ものでないだけに,いっそう強くイア-ゴーと観客を結びつけるだろう。隠れて読まなけ. ればならない悪漢物語の主人公兼作者の役割を彼はもっており観客はその物語に「むさぼ るような耳」を傾ける。. この結果,男女の結び付きなど性的欲望に支配されているにすぎないとする見方が<大 きな物語>のなかに浸透するのを容易にしているし,また理想主義の立場からの見方との 対比を鮮明にし,その脆弱さを強調するのにも役立っている。オセローが間男恐怖症にあ れほどたやすく罷るのを不自然に思わせないのもこの<小さな物語>の影響であるし,の ちに彼がデズデモ-ナを殺害するときに用いる理屈にも影を及ぼしていると考えられる。 もうひとつ最後に指摘しておかなければならない。. <大きな物語>がいわゆる誘惑の場面. に進行するまでに,その予行のように進展したこの物語ほ三幕および四幕-場でほ全く姿. を見せず,四幕二場の後半になってロダリ-ゴーが痔れをきらして登場することである。 一気に進行したかに見えるこの誘惑の場面において,実ほ横恋慕した男が平常心を回得す るのに必要なだけの時間が経過したことを示唆することで,同じだけの時間がやはり<大 きな物語>のこの部分においても経過したことを教えてくれていることだ。 Ⅱ. プラバンショー,傷心のあまり死にいたること. 彼が夢にも想像することのなかった出来事,娘のデズデモ-ナが彼も優れた軍事の専門 家として一目を置いたオセローと彼の許しも求めず結婚してしまうという出来事,しかも 愛娘の婿の候補が多数いたなかで,父親としてもっとも不適格と思って拒否した筈のロダ. リ-ゴーを通してこの事実を夜更けに知らされるという滑梧な事態の主人公が,ブラバン ショーである。続いて訴え出た大公にも相手にされないどころか,オセローはサイプラス. 島の防衛の指揮官に任命されてデズデモ-ナも同行することに急転回してしまう.その後.

(5) 『オセロー』における物語. 75. は舞台に登場することなく,彼の死が報告されるのみである。 ところで,ローマ喜劇の流れをうけてエリザべス朝喜劇における女主人公の父親の役割 は,娘が自分の結婚相手を選択するのを妨害しながらも,結局若い世代に渋々譲るという のが相場であった。この役割は喜劇の常套となってしまっていたので,. 『オセロー』の開. 幕もこの流れを汲む喜劇でほないかと思わせるところがある。しかし,娘に相手を断念さ せようとする古い世代の試みほ,すでに『-ムレット』においてボローニアスがオフィー. リアを説得しようとしながら(かれの言辞も喜劇的である)彼の意図に反して悲劇に至る ことを例証してみせた作者は,ここで再度開幕の緊衷をたかめるのに利用することにした のであろう。 この娘に裏切られる父親は,喜劇として扱う場合でも『ヴェニスの商人』におけるジェ シカとシャイクロのように,父親にとってほ悲劇的な様相をみせるところがある。シャイ クロの場合,民族,宗教,職業などの相違が娘のヴェニス人と結婚することに反対する理 由であった。このような反対理由はひろく人々の心の奥底で共有されていたために,オセ ローとデズデモ-ナの結嬉は,はじめから悲劇的な要因を学んだものとして物語られるこ とになる。この偏見を利用しようとまず考えたのが,イア-ゴーで,この偏見が最大限の 効果をあげるよう粗野な比聴を用いていることに注意を向けたい。. Zounds,. sir, you're. heart. your Even. now,. Is tupping. robbed. is burst, now,. your. you. for shame, put on have lost half yotlr ;. now,. very. old black. an. your. gown. ;. SOul.. ram,. ewe.. white. (1. 1. 87-90). 「盗難,傷心,魂の抜け殻」という表現ほ,このような事態に対処しなければならない父 親の反応を先き取りしており, 「真黒い牡羊と白い小芋」という悪意に満ちた比喰によっ て相手の周章狼狽を誘いだす。ブラバンショーは,このイア-ゴーの示唆した反応形式を なぞるかのように言動することになる.狙った相手を・L、理的に動揺させ,それに乗ずると いうのがイア-ゴーの常套手段であり,今後も繰り返される。偏見に冷静な時間的余裕を あたえてはならない。ブランショーといえどもこのような悪意に満ちた不意打ちを受けな ければ,娘の幸福を願ってあるいは次のような大公のとりなしを受入れたかもしれないの だから。. I think Good Men Tban. win. this tale would Brabantio,. do. up. take. their broken. their bare. my. daughter. this mangled. weapons. rather. too.. matter. at. the. best:. use. bands.. (1.3. 170-173).

(6) 水. 76. 練. 朗. 一. しかし彼は引くに引けないほど激昂しており,興奮を静めることもできないまま,ちょう どリア王がコ-デリアを絶縁するときと同じように,取返しのつかない捨て台詞を残して 舞台を出ていく。その押韻された対句は,内容そのものは娘に裏切られた父親の怒りにま かせた予言にしかすぎないが,後にオセローを打ちのめす決定打としてイア-ゴーによっ て引用されるだろう。 Look She. to. has. her,. Moor,. deceived. bast. if thou her. father,. eyes. to. may. and. see.. thee.. (1. 3. 289-90). そしてこのためだけに突然登場する彼女の叔父のグレイシャ-ノーがデズデモ-ナの死. 体を前にしてブラバンショーの死を告げるまで,舞台には登場しないものの<娘に裏切ら れた父親の話>の主人公として観客の意識の底にある種の共感をもちながら存在し続ける。 だからこそ,その哀れな慣死をたとえ唐突にみえても<大きな物語>におけるデズデモナの死と重ねるように報告しなければ,この<小さな物語>は完結できない。このことは, すでに劇的アイロニーについて述べたように,取返しのつかなくなる最後まで<小さな物 語>群は相互に干渉しないという規則が存在することを明らかにする.グレイシャ-ノー の悲痛な嘆きほ,大小二つの物語を閉じ完成するためのものである。引用してみる。 Poor. Desdemon,. I. am. thy. glad. fatber's. dead:. to him, was match mortal and pure grief his old thread in twain. Shore Did he live now,. Thy. Tbis. sight. Yea,. curse. And. fall. would. make. his better to. bin. do from. angel. a. desperate. turn,. his side,. reprobance.. (5. 2. 203-8). Ⅱ. オセロー,いかにしてデズデモ-ナの心をとらえたか語ること. 次ほオセローの語る<求愛の物語>である。この物語の特徴としては,物語というもの の特性,すなほち,物語というものは現実そのものを言葉をカメラのようqTL操作して忠実 に再現したものではなく,意識的にも,あるいは無意識のうちにも検閲機能が作動し,修. 正や補筆などで編集されたものであることを明らかにする点である。語り手の置かれた状 況次第で語り方ははかりしれないほどの影響を受ける。オセローは訴えられた立場にある (1. 「自身を弁護しようにも,言葉を飾るすべを知らない」 (90)どのようにデズデモ-ナの心をとらえたかを 3.81-82)ので「率直にありのままに」. ので,彼自身の言葉によれば, 語るより他にすべがない。. Yet,. by. your. gracious. patience,.

(7) 77. 『オセロー』における物語 I will Of. round. my. What For. I. a. won. whole. of love: what. course. conjuration such. tale deliver. unvarnished. and. what I. proceedings. drugs,. charged. charms,. magic-. mighty. am. what. withal-. his dangbter.. (i.3. 89-93) こうして語られた物語は,デズデモ-ナの証言を待つまでもなく大公を納得させる効果を 発揮する.言葉を飾るすべ,つまり,修辞術は,法廷における論争のための術であるとす れば,これに無知であることを宣言するのは,いかにも絡b無垢であるかの印象を与える のだが,.これもまた修辞術の常套手段であることに気付く観客もいたかもしれない。聴き. 手の側の態度にも注意が向けられるべきだ。大公や議官たちの関心ほ,大公につく小権勢を 誇るブラ/ミソショーの家庭問題よりも,ヴェニスの海外領土の安全に向けられているので あるから,事細かな詮議だてよりも-応納得のいく説明を聞桝まそれで十分であろう。こ の点に関して注意すべきことは,オセローが「この静まりかえった真夜中に,それもお供 といったら,ゴンドラの雇い船頭を一人つけたっきりで」. (1.1.124-127)デズデモ-ナを. 腕(,1抱きかかえて密かに駈け落ちすることを決意したときから自己弁護に用意していたの が,この裁く側における彼の功績の評価であったという点だ。彼ほイア-ゴーに次のよう に言う。 I fetch From May. As. men. speak,. of royal. this that. siege,. unbonneted, l have. and to. life and. my. as. my. being. demerits. prolユd. a. fortune. reached.. (1.2. 21-24) また,のちにイア-ゴーに聞かれて,キャシオーが二人の求愛の仲立ちを勤めたことを 認めるが,オセロはいまの「ありのまま」の説明ではそのようなことに言及していない。. ひとめぼれでないかぎり,相思相愛の間柄になるには時間が必要だ。まして,いかに「想 像もつかないはど珍しい話」を哀れに思い,感動したからといっても,父親の言うように. 「人情も,年柄も,国の違いも,外聞も,何もかも忘れて,見るのさえ怖がっておった男」 (96-8)と恋に落ちるには,時間も仲立ちも贈物も必要なほずであった。ロダリ-ゴーの求 愛は滑倍化されているとほいえ,どれほどこのために時間と金が必要かを例示している。 なるほど,この<求愛物語>は,デズデモ-ナが「オセローさまの其のお姿はお心の中に しは魂も運もお捧げしました」 あると思って,高いお名前と勇ましいお働きとにあたく (249-251)という台詞で見事な結末を得ている。それにもかかわらず,この物語は観客が 知りたいと思うことをいくつか省略しているのでないか。たとえば,彼女のオセローにた いする愛情の深さを疑うものではないが,. 「義理分別もきりょうも運も-切合財」. (1.1..

(8) 78. 水. 落. 朗. 一. 36)を捧げてしまうような駈け落ちをなぜ選んだのかという疑問は残るであろう。その点 「俺がこ. についてもオセローは黙したままであるのは申開きとしては不十分ではないか。. の国の政府に尽くした功績の前にほ,あいつの訴えなど力はない」. (1.2.18-19)と言放つ. のは倣慢に過ぎようo しかし,オセローの弁明でほ,ブラバンショーの主張するように魔薬,魔術,妖術,吹 文などの「公明ならぬ手段」を用いず,議官の質問に答える形式で「申込みをして,堂々 と心と心を打明け話あった」. (111-114)結果であることに力点が置かれていることを忘れ. てほなるまい。さらにヴェニスの政府にゆっくり詮議だてしている時間の余裕ほないとい う作者の緊迫した状況設定の巧みさが,欠落を補うことを不要にしている。したがって,. <大きな物語>との関連からながめて,いくつかの重要と考えられる部分が表現されてい ないとしても,本来言語で表現されない部分を背後に多量に蔵しながら,その場の状況に 適合するように選択され配列されたものが物語であることを例証するた捌ここの<小さな 物語>は適切であろう。 オセロ-の語り方については再度-ソカチの由来のところで触れる予定であるが,求愛. にさいして彼が用いた話法は生れつきスト-リー・テラーのそれを思わせるものであった ろうことは推測できよう。現実主義者でエキゾチズムには無縁のイア-ゴーの言う「夢み たいな嘘っぱち」ばかりではなくとも,虚実いずれとも判定しがたいだれも聞いたことも ない<小さい物語>を即席に創作してみせなかったとは言えないと思う。たとえば次の目 録を見るとよい。. Wherein. l spake. Of. moving. Of. bai一-breadth. scapes. Of. being. by. And And. sold. by丑ood. accidents. taken to. portance. slavery in. my. disastrous. most. of. deadly. i'tb'imminent. the ;. and. chances, field,. of. breach,. iIISOlent foe, my. thence,. redemption. travels'bistory. :. (133-138) Ⅳ. イ7-ゴー,理想の女を語ること. サイプラス島には新婚のオセローとデズデモ-ナが都合で別々の船で向かうが,ここほ. 作者の工夫であったところで,ヴェニスという文明の欄熱した商業都市からほるかかなた の辺境の要塞の島にトルコ軍の艦隊が大挙攻めよせるとの情報に慌しい出航準備にとりか からせることで,二人を別々の船に乗せ,しかも嵐のために島-の到着をずらせるという 離れ業を設定したのである。その上,同じ嵐がトルコ艦隊を壊滅させたことからこの島に しばしの平和をもたらす。こうして先に到着したデズデモ-ナが,イア-ゴー夫妻とキャ. シオーと一緒にオセローの到着を待ちながら,緊菓をときほく小すため軽口を交わす場面が 生れることになる。この場面でのやりとりでイア-ゴーがどうしても誉めぎるをえない女. 性とはとデズデモ-ナに聞かれて<理想の女の物語>を披露する。女性を誉めるなどとは.

(9) 『オセロー』における物語 イア-ゴーにとってほ論外のことであり,. 79. (2.1.118). 「口を開桝ま悪口がでる方ですから」. と白状して,簡単にほ応じない。彼とほ対照的にキャシオーは女性を誉めることは礼儀正 しい男性の務めである心得ている。彼なら人から催促されずとも,次のようにデズデモナを褒めちぎることができる。 Most. fortunately. That. paragons. One. that. And. in. Does. be. :. achieved. descriptionand the. excels. a皿aid fame. wild. ;. of blazoning. quirks. tb'essential. tire. bath. vesture. pens,. of creation. ingener.. the. (2. 1. 61-65). 劇場の観客はこのようなロマンスの世界の女性賛歌を聞かされた直後だ桝こ,イア-ゴー の反応はことさらに注意を引く。誉められることには慣れているデズデモ-ナにとって,. 彼の態度は奇異なだ桝こ関心をひき,無理にも自分を賛美させてみたい気持になる。オセ ローの<わたしの物語>を聞こうと「熱心にねだった」姿を紡沸させるかのように,デズ デモ-ナはイア-ゴーの重い口を開かせるのに成功する。即席に詩題をあたえられて創作 する詩人でもあるかのような演技によって披露されるのが,彼の12行詩である。しかも最. 後の一行は,焦らされたデズデモ-ナが「どうするの?」と催促したのに答えるかのよう に,完成される。引用してみよう。 She. that. Had. tongue. wish. being. angered,. her. wrong. stay,. in. that change. Sbe. that. See. suitors. following. She. was. wigbt,. the. co111d think. a. and. cod's bead. To. if. loud;. went. never. gay;. said 'Now. her. never. wisdom. never. yet. and. and and ever. prolld,. was. yet. gold,and. her. never. yet. will, and. that. Bade Sbe. at. from. Fled. fair and. ever. lacked. Never. Sbe. was. being. revenge. her was. I may'; nigh,. displeasure且y. ;. frail. so. for the ne'er. not. such. tail; salmon's disclose her mind. look. behind. wigbt. :. :. were-. DESDEMONA To. do. what?. IAGO To. suckle. fools and. chronicle. small. beer.. (2.1. 145-157).

(10) 水. 80. 落. 朗. 一. 詩としてほ上出来とは言い難いけれども,デズデモ-ナの意識を混乱させるのに十分な風 刺効果をあげた筈である。特に最後の「乳を飲ましたり帳面つけたりして」と結ぶところ, つまりいかに美人で,才たけていようとも,所詮女ほ育児と家事にしかこの世の中に果た. す役割などないという風刺には苦い味が残る。これほどデズデモ-ナにとって意外なこと はない。. 「まあ何ておかしな下らない結びなの」と言うのも当然であろう。しかし,読み. 方によっては,この風刺詩はデズデモ-ナにとっての理想の結婚生活を暗示している.. この<小さな物語>の役割ほあまり重視されていないけれども,ヴェニスからサイプラ ス島という地理的移動は,ただ単に空間を移動したというだけでなく,女性にたいする扱 いにも違いのある文化間の移動をも意味する.デズデモ-ナには異文化に初めて接触した ときの衝撃にも等しいものであっただろう。戦争についてはオセローの語る耳を塞ぎたく なるような危険に満ちてはいるもののすでに完結した物語しか知らない女性が,戦闘集団. である男性のみが存在を主張できる要塞に釆たことは,このような形で衝撃を受けたとし ても不思議ではない。この事芙ほ,オセローがなぜ結婿をする気持ちになったかをイアゴーに次のように告白するとき,実感をもって知ることができようo know,. For But. l love. that. I would. not. Put. into. For. the. the. my. Desdemona,. gentle. free condition. unbous占d. circumscription. Iago,. and. con丘ne. seas'wortb.. (1. 2.. 24-28. こうして再会した二人がその愛についての理想が微妙にくいちがうことになるのは,デ ズデモ-ナが新しい生活に早くも適応し始めたのにたいして,オセローほまだその準備が できていないためであろう。その微妙な差異をもたらしたものが,あるいは,イア-ゴー. の説く<理想の女>の物語であったかも知れない。再会した二人の歓喜の声を採録してお く。. OTHELLO 'Twere. My. If it. 1. soul bath. Tbat. not. S11CCeeds. be. to. now. her. so. content. another. comfort in fate. unknown. Even. as. our our. loves days. and do. to. die7. absolute. like. to. this. heavens. The. that. now. happy;forlfear. most. DESDEMONA But. were. comforts. shotlld. forbid increase,. grow.. (2.1. 183-189).

(11) 『オセロー』における物語. 81. イ7-ゴー,キャシオーの夢を語ること. Ⅴ. イア-ゴーがなんの根拠もなく語る<キャシオーの夢の物語>は,. <大きな物語>にと. って重大な転楼をもたらす物語である。しかしここでの関心からすると,物語というもの は無からいかにも有りそうなことを創作するものであること,および仮に現実に起ったこ とであっても,その出来事を語ったり演ずるという行為は,繰り返し強調してきたように 現実そのものの再現でほなく,語り手の意図や聞き手の関心によって無から創作すると同. じ過程を辿るものだという事情を,語り手の側からでなく聞き手の側から証明しているこ とに注意を向けることであろう。オセローの嫉妬心を煽りながら,証拠らしきものを控造 すれば聞き手はその物語の真偽を確かめようともせずに満足することをイア-ゴーは見抜 いている.この場合,語ることほ偏ることでもあるという規則を設ける必要があるo. もう. ひとつ大切なことは,このように埋めこまれた物語は,時間の進行を中断させるだけでな. く,一見滑らかに進行しているかに見える物語の時間が実際は膨大な時間を圧縮している qこすぎず,舞台の時間の効率性のために連続しているように思えるだけなのだというはな. ほだ当り前のことを再確認する機会を提供していることだ。 カメラあるいほヴィデオによる隠し撮りが存在する現代からみれば,イア-ゴーの企み. はそれの先取りであることほ明白であろう。彼の言葉にしたがってオセローはまるでデズ デモ-ナとキャシオーの情事の一場面を掩えた映像を見たかのように反応する。オセロー に「おれの女房が淫売だとたしかに証明してみせろ,証拠を見せろ.目に見える証拠をみ せろ」. (3.3.356-7)と要求されて,しばらく即答せずにしおらしく<誠実の男>を演じな. がらオセローをいたぶり,理性的判断力を失うように追詰め,このような場合「目に見え. (404)に間違いなく辿りつぐ情況証. る証拠」を目撃することは不可能だが「真実の戸口」 拠で満足するなら,それを提出することほできると答える。. (406)と,. あいつが不貞だという」. 「生きた証拠を俺に見せろ,. 「日に見える」から「生きた」証拠にオセローが譲歩. したところで,おもむろに予て用意しておいた二つの情況証拠を呈示することになる。そ のひとつほ,創作したキャ、シオーめ夢,もうひとつほ,盗みださせた-ソカチである。最 近キャシオーと宿直当番で同室に寝たことがあるが,歯痛のため眠れないでいると,次の ようなことがあったと述べる。 I heard. In sleep Let. be. us. And. then,. Cry. `O. As. if be. him let. wary,. sir, would. sweet. 'sweet. say. bide. us. be. That. grew. Over. my. Cried. `curs占d. up. upon. my. tbigb,. and. loves';. our. gripe. and then. creature!'and. plucked. Desdemona,. my. wring. kiss. bard,. me. kissesもy. the. lips;then. laid his leg. sighed. fate that. gave. roots,. kissed,. and thee. band,. to. the. and. then. Moor!'. (3.3. 416-423).

(12) 落. 水. 82. 朗. 一. 語り手が実際に体験したことを語るという設定から,直接話法で引用される台詞はキャシ オーの音声を模して発せられ,その動作を表現する動詞群は,すべて単音節の具体的動き を明確に表現するものが選択されていて,まるで「目に見える」ように視覚的な語り口と. なっている。この窃視者のような描写は,すでに引用した「黒い牡羊と白い小羊」の比聴 を始めとして,イア-ゴーのもっとも得意とする話法であり,この夢を語りだす直前にも 繰り返し用いられて,オセロ-に心理的動揺を与えているoたとえば,. Would. you,. Bebold. her. tile Supervisor,. grossly. on?. gape. topped?. (392-3). It To lf. bring. More. to. them mortal. ever. di#iculty,. tedious. a. were. than. that. their. Damn. prospect・. do. eyes. I think, then. bolster. them. see. them. !. own. (394-7). このような真に迫る「生き生きとした」描写のもつ魔力は,聴き手がなんの根拠もないの にその信潰性を認めるだけではなく,その修辞術を自分でも使用することに見い出せようo. 少なくとも,オセローは,相手の語法を反復することでその術中にはまってしまっている。 たとえば,その典型としてつぎのような会話をみるとよい。 IAGO or. to. be. hour. An. with. naked or. more,. her. not. in. friend. any. meaning. bed barn?. OTHELLO Naked It. in. bed,. Iago,. is hypocrisy. not. and. the. against. harm?. mean. devil・. (4. 1. 3-6). だから,オセロ-がいとも易々とイア-ゴ-の嘘に編されるのも,イア-ゴーの語り口 に潜む窃視老に特有な語法を通して本来は秘匿すべき事柄を共有してしまった者の弱みか らでもあるのだ(妻の不貞に気付いたら秘密裡に復讐しなくてはならないという暗黙の揺 があった).それを如実に示すのが,次のようなオセローの反応であるo l bad. pioners So. happy. been. l bad. and. if the. all, had. nothing. general. tasted. known.. her. camp, sweet. body,.

(13) 『オセロー』における物語. 83. (3. 3. 342-344). オセローは自ら知ってしまったと思ったときより,理性による判断力を放棄してしまう のである。このような状態にあるオセローの視野をいっそう狭める働きをこの<夢物語> 「あんな女め,八ツ裂きにしてくれる」 ほ果たす。 (428)と激昂して叫ぶとき,オセロー はすでに本来の自分を喪失している。そしてついにこの窃視という滑穣で愚かな行為(4. 1)に誘い出されてしまうだろう。こうして十分すぎるはどに効果をあげたうえでイアゴーが切り出すのが-ソカチの件である。. オセEZ-,ハンカチの由来を語るこに. Ⅵ. イア-ゴーの修辞術によって聞き手の心理状態をも操作できる言葉の魔力が恐ろしい効 果をあげる例をみた。翻って考えてみれば,オセローがデズモーナに語った彼の身の上話 にも言葉の魔力が宿っていなかったであろうか。これを演劇という視点から見れば,観客 とは演技をともなった言葉の魔力に身を委ねようと集った人々のことであると定義できよ. う.良家の子女がどれはど航海記の内容にもられたエキゾチズムに夢中になったとしても, それを実際に体験した着から直接聞く機会はめったになかったであろうoたとえばオセロ ーがつぎのように語るとき,デズデモ-ナはその言葉の伝える事どもになにか想像を絶す る不可思議なものを感じ取ったばかりでなく,その言葉そのものに魅了される思いを味わ ったに違いない。 Wherein. of. antres. Rough. quarries,. It. my. was. vast. rocks,. hint. to. And. of the. Tbe. Antbropopbagi,. Do. grow. that. their. each. heads. the. was. speak-such. and. idle,. hills whose. and. Cannibals. beneath. deserts. and. heaven,. process:. eat,. other. beads. whose. men. touch. shoulders.. (1. 3. 139-144) このときはあれほど妖術や魔術とほ無縁であることを強調していたにもかかわらず,オセ ローが人知を超越したもの,つまり魔術を信じていたことを明らかにするのが,この-ソ. カチの由来を語るときだ。ジプシーの魔法使から母親が貰ったもので,それを彼女が死ぬ ときオセローにくれたのを母親の遺言どうりデズデモ-ナにやったのだと説明しながら, 次のようにその効験を語る.. Sbe 'Twotlld. make. Entirely. to. Or. made. a. her. her. amiable. love;but,. gift of it, my. told her, while and if she. subdue lost it. fatもer's. eye. she my. kept father. it,.

(14) 水. 84. should. hold. After. bid. To. She,. me,. give. fate wonld. my. when it her.. 朗. 一. and his spirits dying, gave it. loathbd,. fancies.. new. And. her. 落. hunt. should me,. have. me. wive,. (3. 4. 58-63). この効験ほまさに愛の守護符そのものである。オセローはこの-ソカチ-守護符でデズデ モ-ナが彼の妖妬の病を癒そうとしたことを忘れている.かれの説明にたいして,ほあ, そんなこと」とデズデモ-ナが不信の言葉を発すると,オセロ-は「あの織りものには魔 力がある」と続ける。. A. sibyl, that. The In. to. sun. her. had course. fury. were. the work: sewed hallowed that did breed. dyed. in. prophetic. Tbe. worms. And. it. was. Conserved. in the world numbered two hundred compasses,. mummy,. the. the. wbicb. silk,. skilful. of maidens'bearts.. (70-75) このときのデズデモ-ナの当惑は「じゃいっそ見なければよかった」. (77)にもっとも. よく表現されているのだが,後にこの仮定法が次のように哀切きぁまりなく使用されてい るのと比較してみるとよい。. EMILIA I would. had. you. never. bin.. seen. DESDEMONA So. Tbat. would even. Prithee,. not. love. I:my. doth. his stubbornness,. so. unpin. me-have. his checks, grace. bin. approve. and. his frowns-. favour. in. them.. (4.8. 17-20) この二つの場面を比較しながら,愛という感情がいかに魔力を秘めたものであるか,あ るいほ道に,愛とはいかに脆弱なものかというあらためて認めることになろう。ついでに 言えば,デズデモーナはオセローの物語を聞いたときの反応も同じく仮定法であったこと を思い出しておくべきだろう。. wished she bad not heaven bad made That She. beard her. it, yet. such. a. man.. she. wished.

(15) 85. 『オセロー』における物語. (1.3.■161-162) もしオセローとデズモーナの愛の物語が永続するとすれば,愛の魔力にすがる以外に他 に何か方途が可能であったろうか。こうしてオセロ-の-ソカチにたいする思い込みは, 彼にとってデズモーナ-を信ずる最後の砦であるとともv-i,彼の文明人としての薄板を剥 ぎとってしまう両刃の剣であった.不幸なことにデズモーナ一にとっては愛の守護符より は「オセローさまの真のお姿はお心の中に」あると信じきっていたため,一時逃れに嘘を ついてしまったことである。こうしてオセローをいっそう追詰める結果になる。ハンカチ. の行方に全てを賭けざるをえなくなり,しかも物に化してしまった<-ソカチ>には魔力 など潜んでいないことを確認するのに,デズモーナの命ばかりか自らの命までも犠牲にし なければならないとは,このときの錯乱したオセローの意識には思いも及ばぬことであっ ただろう。けだし,. -ソカチの愛の守護符としての魔力を信ずることは,永遠に愛をも信 じそこに働く愛の魔力をを信じることでなければならない。しかし,彼は何かを誤解して (5.2・215-216)で「わ いたのだo後にこの-ソカチは「父が母に贈った古いかたみの品」 (213-214)であるとのみ証言していることに注意. たしが最初にやった愛のしるしの贈物」 しよう。. イアーゴー,キャシオーとビアンカの情話芝居を演出すること. Ⅶ. イア-ゴーはすでにさまざまな役割で登場してきたが,ここで新しく幕間狂言の演出家. 兼解説者としても成功を納める。この狂言ほまことに風変わりなものであって,登場人物 には演技をしているとは思わせずvこ,演出家の苦心は専ら観客にたいして払われている。 舞台の唯一人の観客であるオセローに狙いどうりの反応を引き起こすことが何より重要で, (70)と誓えて観客の苦悩を倍加しておき,おもむろ. まず間男の苦悩を「地紋の苦しみ」 に見どころと観劇の方法を伝授し始める。. For. i will. Where, He. bow,. bath,. I say,. bin. make bow. his. mark. Or. l shall say. And. nothing. oft, bow. is again,. and. but. tell the. gestures.. you're. of. a. to. tale. long cope. anew,. ago, your. Marry,. and. when. wife. patience. 7.. all in all in spleen. man.. (4.1. 84-89) すでに指摘したようにこの見物方法は滑梧で愚かしい。しかしながら,それは<小さい物 「嫉妬といういやな目の色をした怪物」 (3.8.164)に 語>の視点からそう言えるだけで, 心を蝕まれ,弄ばれるオセローの痛ましい姿を印象づける機能を<大きな物語>では担っ ている。言葉を変えて言えば,イア-ゴーに指示されるまま窃視老という卑しい立場に身 を置くに至ったこの観客は<オセロー>であるが,オセローではない。イア-ゴーの予想.

(16) 86. 水. 落. 朗. 一. したように「キャシオーのにやつき方から身振りから浮いた調子,すべて悪いほうに解 釈」 (101-108)して逆上してしまうだろう。. デズデモーナ,召使いバーバリの薄幸を思い出すこと. Ⅶ. デズデモ-ナがオセローの逆上した姿をどのように受止めていたかを最もよく表現する 『オセロー』を悲劇たらしめている憐偶の情を惹起しかつ運命の苛酷さの. ばかりでなく,. 持つ恐ろしさを観客のJbに刻印するのが,彼女と-ミリアが物語りする場面であろう。こ のような事態を迎えるためには,時間がどれほど必要であったかもそれと明示せずとも示 唆する働きを認められよう。つまりこの場面の二人の物語ほ,日毎繰り返されたであろう 二人の会話の中の一つにすぎないのだが,しかし一番大切な会話として選択され,この場 所に埋め込まれている。. すでに4幕2場のまるで売春宿であるかのようにオセローが振舞ったあとで,. -ミリア. ほオセローの変化について的を射た指摘をしている。 I will be. banged. Some. busy. Some. cogging,. Have. if. and. cozening. devised. not. some. eternal. insinuating. villain,. rogue,. slave,. this slander;. to. get. some. Ⅰ'11be. o丘ce,. banged. else.. (4.2. 129-132) そして夫イア-ゴーの「分別をひっくり返して,■ゎたしがムーア様と怪しいなんて思わし た」. (144-146)のもその悪い奴だと言う。ここでの-ミリアの推測は,夫が張本人である. ことを見抜けなかったことを除桝も. 正しかった。この場にイア-ゴーが同席しているこ. とは,たしかに不自然であるが,デスデモ-ナが思い余って相談する相手がイア-ゴーし. かいないという彼女の孤立した環境--ミリアの次の台詞はこの事実に注意を向けてい る。. 「あんなにたくさんのりっばなご縁談も,お父さまも,生れた国もお友だちも,みんな. 棄てて釆ていらっしゃるんじゃないか。それを女郎だなんていわれりゃ,だれだって泣い (124-146) -を強調するのに役立つ。それにイア-ゴーの正体を最後まで 見抜けないもどかしさを観客にあじあわせてもいる。このもどかしさは,シェークスピア ちまうわね」. の計算のうちに入っていた筈である。それほ同時にイア-ゴーの人を偏す巧みさ-の感嘆 と表裏をなしている。観客ほ常にこの二つの矛盾したもどかしさと期待を持たされている。 ・こうして迎えた夜の一時をデズデモ-ナは-ミリアともにあれこれと話題を変えながら 過ごすうちに,母親の召使バーバリのことを思い出す。. My She And An. bad. mother was. did. in. a. maid. old thing. 'twas. Barbary:. he. love:and. forsake. called. she loved proved mad her. She had a song of willow; ;. but. it. expressed. her. fortune,.

(17) 87. 『オセロー』における物語 And. died. she. will. not. But. to. And. from. go. bang. go. it・ That. singing my. mind‥I head. my. it like poor. sing. all. song. tonight. have. much. one. at. to. do. side, dispatch・. Barbary-prithee,. (4.3. 25-32). このような場合,記憶の再現がどのくらい事実に忠実かなどは問題にならないだろう。彼 女がここでバ-バリと自分を重ね合わせていることが大切で,それは男の不実を語る唄を 歌うことによって,男の身勝手に弄ばれる女の運命の物語の主人公に自らを一体化するこ とを意味する.メ-メ.). -柳の唄の主人公-デズモーナの行先は死よりほかにないのだと. いうことを,実際の死に先立って覚悟していることを示しているoこれはバーバリの薄幸 の物語の誤読であろうか。たしかにデズデモ-ナは不実の男に棄てられたわけではないo それどころか夫が思いもよらぬ彼女の不貞という妄想にかられて殺意を感じさせるほど激 怒していること,これしか彼女には分らない○彼女はあらためて彼女の乏しい経験の世罪 から自らの立場に最もふさわしい情況を過去に求めたとき,かろうじてゆきったのがバー. バリの歌う<柳の唄>であった。それほどに世間しらずの「およそ気弱な娘oやさしいお だやかなJbの持ち主で,自分の気持ちに自分で顔を赤らめるはどの娘」. (1・3・94-96)とし. て父親に深窓で養育された一人娘であったことを如実に示す事態であろう。この純愛一筋 でありさえすれば結掛まうまくいく筈というデズデモ-ナの気持を一層はっきりした形で 表現するのが,彼女の次の質問であろうo O, Dost That ln. in. thou there. such. gross. be. conscience women. these. these. men,. think-tell do. abuse. me,. men. !. Emilia-. their bnsbands. kind?. (57-60) これにたいする-ミ.)アの返答ほど,デズデモ-ナを当惑させるものはなかったと思われ. るoそれでも彼女のオセローにたいする愛情は深く揺るがない。. <柳の唄>の主人公とし. て戸惑いながら-この唄を二度ほど中断して歌詞も間違えたことに注意せよ-死を受 容し夫の罪を庇いながらその運命を忠実に辿る。. Ⅸ. オセローみずからの生涯を要約すること. オセローがすべてを知ったとき彼にほ生きて裁判を受けるよりも自らの手で命を断つ以. 外に選択の余地はないと判断するoその直前彼はヴェニスに報告してもらいたいと願う自 画像を措くが, <わたしの物語>としては二度目であり,それほ最初の<わたしの物語> と同じ裁きの場での弁明という形式において対応するものだ。行数までもぴったり同じで ある。オセローの語り方についてさまざまな議論が行われてきたが,ここでは彼の語り方.

(18) 88. 水、落. 一. 朗. について考えてみようoひとつには,オセローの描出する自画像はそれまで観客が構成し てきたオセロー像と合致するかしないかの問題であり,さらたほ彼の語法が彼の内面で感 じていることを適確に表現しているかいないかの問題であろう。このように問題を提起す ると,直ちにそれほ観客のもつ感受性とそれに多大な影響をあたえているそのときどきの. 時代の精神とも呼ぶべきもののありようと不可分に結びついていることが明らかになる. 語りだしからオセローの声がどのように聞こえてくるか,まず数行を引用してみよう。. Soft. you;a. I have No. done. or. the. state. Wben. you. Speak. of set. before. two some. of tbat・ I pray. more. Nor. word. service you. in. shall tlleSe unlucky me. as. down. l am:nothing. at唱bt. in. go.. you. they. and. your. deeds. know,t:. letters relate. extenuate,. malice.. (5. 2. 334-339) オセローほ,. 「名誉も何も失った身今更,武勇を誇ってみてなにになる」. (243)と分っ. ており,地獄の劫火に燃えつくされるおのれの姿を想像できる。あらためてデズデモ-ナ の死体を見て「ああ!ああ!ああ!」と言葉にならない叫びを発することができるだけだo それにもかかわらず,彼は, <わたしの物語>を完成しなければならない。彼にほ,彼に 代ってそれを完成させるホレ-ショのような忠実な友人がいなかったのだ.イア-ゴーが その役を勤めるものと信じて疑わなかったのに,そのイア-ゴ-が裏切ったのであるから, 誰が彼の正しい伝記を後世に残すことができようか。名誉や名声が自己の存在理由である 社会にあって,自己を証明してくれる全てを失ってしまったと悟ったオセローになにが残 されていよう。. 「なんでこれほどまでにわたしの身も心もわなにかけおったか」. (299)と. 問い糾したくとも,当のイア-ゴーが「知るだけのことはあんたが知っているはずだ」. (300)とうそぶくだけである以上,まったく孤立しかつ自殺をしようとしている本人のみ が「ありのままに,何事もかばったりせず,かといって悪意をまじえたりせずに」<わた しの物語>を語ることができるだけだ。 ここで注意しなくてほならないことほ,オセp-はすで¢こ一度辞世の台詞をすでに述べ ていることであろう。そしてまさに自害しようとしたとき,ロードヴィ-コーとモンクノーが,捕えたイア-ゴーをひきたて,さらに負傷したキャシオーを寵に乗せて,登場し たためにはたせなかった.そして残酷にもオセローは彼がどのように顕されていたか一連 の事件の全容を知ることになった.この二つの辞世の関連を見逃してはなるまい。. の旅路の終りだ,おしまいだ,わたしの航路の最後の船着き場に釆たのだ」 憤り,デズデモ-ナと最後の審判に会うとしたらと想像しつつ,オセローはすでに次のよ うに自己を裁いていたのである。. 0. curs6d,. curs占d slave ! Whip. me,. ye. devils,. 「一生. (265-266)と.

(19) 『オセロー』におけを物語 From. the. Blow. Roast. aもout in winds!. me. Wash. Of this heavenly. possession. in. me. steep-down. sight ! in. me. sulpbnr!. of liquid. gulfs. 89. are !. (275-278) 「ああばかだった,ばかだった,ばかだった」. (319)と言う以外に彼にほ言葉はない筈と. 『オセロー』の結末はここでついたことになるであろう。. きめつける批評家にとっては,. 最後の<わたしの物語>などない方がよいであろう。はたしてそうであろうか。自己劇化 という言葉を軽蔑的に定義することによって,あるいは謙遜の美徳は身につきがたいもの だと言い放つことで,オセローを断罪できるものではあるまい。そもそも自己劇化は否定. すべきものであろうか。すでにみてきたように物語る行為は,語る者も聞く者も同時に納 得させるものであって,そのた捌こは語り方に一定の範例がなければならない。そのよう な範例として棟能するのが,その時代に流布している馴染みの物語形式である。その形式 に則りながら,自らを物語の主人公の役割に擬して語ること,つまり自己劇化することが. 普通である筈だ。問題なのは,オセローがどのような物語形式を選択しているかである。 彼が選んだのほ,すでに形式として古風になっていたアレゴリーの物語詩であったoそれ ほ現実という附随的なもの,時間の作用をたえず受けるものを超越した本質そのもの,時 間の推移には関係のない永遠を志向する精神の生み出す詩の形式である。ヴェニスのよう. なl)アリズムの商業都市には異質の文体と語法を備えた形式であろうo この事実が明らかになるのは,上の引用に続いて彼がつぎのように語るときである。 Tben Of. one. that. Of. one,. not. Perplexed Like Richer Albeit Drop Their. loved. not. easily. jealous but,. in. the. base. the. extreme. lndian. ;. unus占d as. to. the. fast. med'cinable. as. ;. a. of. melting the. too. wrought,. a. whose. ・. band. whose. pearl one. speak. well;. being one. of. threw. you. but. wisely,. all his tribe. than. tears. mnst. way. sdbdued. eyes,. mood,. Arabian. trees. gum.. (339-347) 「思慮は足りなかったがじつに深く妻を愛した男」と過去形を用いているところに注目し てみるべきだ.オセローほ<求愛の物語>でもそうであったように,すでに起きた出来事 をアレゴリカルな修辞術に則って物語ることに長じているが,未来を想像しその未来から の命令に従って描写することは苦手なのである。過去は意味を与えられて物語のなかqこ永 遠に固定される。意味は語る主体の解釈にまかされている。そして微妙なニュアンスの違 いを現実に照らして描写するよりも,簡潔さを尊び,絶対的なものを求める。自らの愚か.

(20) 水. 90. 落. 朗. 一. しい行為を誓えるのにも「インド人」を,悔恨の涙の比職に「アラビアのゴムの樹」を選 択するエキゾチズムを好む(これほ「お互いを食いあう食人種のアンスロポファジャイ 族」や「肩の下に首のある人種」に対応している)。この比倫によって自己を美化しよう. としているのではない。愚かしさの極みを,悔恨の深さを彼の使用可能な語法にしたがっ て適確に表現しようとつとめた結果であるにすぎない。次の「ターバンを巻いたトルコ人 -異教の犬」に自らを擬しているところにも同じことが言いうる。 And. besides,. say,. Where. a. Beat. a. I took And. malignant. th'throat. smote. bin. traduced. and. the. once. Turk. turbaned. a. and. Venetian by. Aleppo. in. that. the. state,. circumcis占d. dog. thus.. (349-352). (281)と最愛の妻を絞殺した現在のオセローが. ここにほ「かつてオセローと呼ばれた男」. 共存している.この刀を持っていることでほ同一人物が,彼にとって過去において意味を 持っていた判断と殺害を現在の自分に下さなければならない状況を想像してみることが肝 要であろう。これを自分を偏し鼓舞しているとのみ解釈することはできないだろうo強い て言えば,物語る行為にはなにはどかの事実を隠す本性がつきまとうという規則を認める ことに尽きるであろう。さらにオセローの語法は現代の感受性に向かないことを承知する ことだ。. 参照文献 引用にさいして使用したテキストは, K. Muir編のペンギン版(1968)で,翻訳は木下順二訳の 講談社文庫版(1972)を借用した。参照した文献はいちいち注記しなかったが下記のとうりである。 1. Editions. Othello,. R. Ridley, ed. M.. Othello,. ed. Norman. Othello,. ed. Julie Hankey,. 2. Critical. Adamson,. (Cambridge UP). (Bristol Classical Press).. 1984. 1987. Othello. as. tragedy:. problems. some. of judgment. feeling.. and. 1980. (Cam-. UP). John. Shakespeare and Heroic James C. The. Bayley, Bulman, Delaware Dash,. Sanders,. Sources Jane.. bridge. (Methuen).. 1958. Tragedy. Idiom. of. &. (Routledge. 1981. Kegan. Tragedy.. Shakespearean. Paul). (The. 1985. University. of. Press). G.. Dauber,. Irene.. Wooing,. Antoinette,. Greenblatt,. Stephen.. B.. Wedding,. &. "Allegory. and. Renaissance. and. Power.. Irony. 1981 in. (Columbia. UP).. Othello.''shakesPeare. Self-Fashioning.. 1980. Survey. (The. University. (1988). of. Chicago. Press). Goldman, Holland,. Michael. Peter.. "The. Acting. and Resources. Action of. in. Tragedy.. ShakesPearean. Characterization. in. 1985. Othello.''shakespeare. (Princeton Survey. UP).. (1989)..

(21) 91. 『オセロー』におけを物語 Honingmann,. E, A. J. Shakes. Jones, Emrys. King, speare Neely, Palmer, David Parker, speare. tbuen). Scenic "Then. Rosalind. Survey Carol. Tragedies-.. Peare-Seven Zn. Shakespeare. out. murder's. of. tune. 1971 :. The. 1976. (Oxford Music. (Macmillan).. UP). Structure. and. of. Othello.". Shake・. (1987). Thomas.. D.P.. "The. Palmer.. ike. Broken. Nuptials. Self-Awareness. 1984. Patricia. and. Form. (Edward. "shakespeare. Question. of. of. in. the. ShakesPeare's Tragic. Plays.. Hero.''. In. 1985. (Yale UP).. Shakespearian. Tragedy,. ed・. Arnold) and Theory.. 'del ation'in rhetoric : 'dilation'and Geoffrey ed. Patricia Parker and. Othello." Hartman,. In. 1985. Shake-. (Me-.

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えて リア 会を設 したのです そして、 リア で 会を開 して、そこに 者を 込 ような仕 けをしました そして 会を必 開 して、オブザーバーにも必 の けをし ます

話者の発表態度 がプレゼンテー ションの内容を 説得的にしてお り、聴衆の反応 を見ながら自信 をもって伝えて