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Title
N-アセチルシステインは,PMMA レジンによる口腔粘膜細
胞への為害性を軽減する
Author(s)
西宮, 紘子
Journal
歯科学報, 117(1): 38-41
URL
http://doi.org/10.15041/tdcgakuho.117.38
Right
Description
はじめに ポリメタクリル酸メチル(PMMA)を主成分とし た歯科用常温重合レジンは,補綴処置に欠かせない 材料である一方,患者および医療従事者に対し接触 性の口腔粘膜炎や皮膚炎が報告されおり,その生体 への影響が懸念されている1−4) 。これらを引き起こ す原因として,重合体から溶出する残留 MMA(メ タクリル酸メチル)やその分解産物であるホルムア ルデヒドによる酸化ストレスが関与することが明ら かとなっている5−9) 。抗酸化アミノ酸誘導体である, N-アセチルシステイン(NAC)は,様々なレジン材 料による細胞毒性を軽減する効果が報告されている が10−13) ,その機序は十分に解明されていない。それ ゆえ,この NAC をレジンに応用して為害作用を軽 減し,そのメカニズムが解明できれば,生体によ り優しい歯科用常温重合 PMMA レジンの改良につ ながると考えられる。本研究は,歯科用常温重合 PMMA レジンに NAC を添加することで,口腔粘 膜細胞に対する為害性を軽減できるかどうかをその 機序とともに検討したものである。 方 法 常温重合 PMMA レジン重合体もしくは,あらか じめモノマーに NAC を添加して重合した NAC 含 有 PMMA 重合体に細胞培養液を加え,37℃にて7
解説(学位論文 解説)
N-アセチルシステインは,PMMA レジンによる
口腔粘膜細胞への為害性を軽減する
N-acetyl cysteine alleviates inflammatory reaction of oral epithelial cells to poly(methyl methacrylate)extract 西宮 紘子 東京都 略歴 2009年東京歯科大学卒業,同大学千葉病院にて臨床研修修了後2010年より 東京歯科大学有床義歯補綴学講座(現老年歯科補綴学講座)所属。2014年大学院歯 学研究科(歯科補綴学専攻)修了。研究テーマ:抗酸化アミノ酸誘導体を用いた歯 科用レジン材料の細胞為害性の軽減とそのメカニズムの検討 Hiroko Nishimiya キーワード:常温重合レジン,粘膜炎,酸化ストレス,炎症性サイトカイン,補綴用材料 Key words:acrylic resin, mucositis, oxidative stress, pro-inflammatory cytokine, prosthesis
(2016年10月12日受付,2016年12月22日受理,歯科学報 117:38−41,2017.) http : //doi.org/10.15041/tdcgakuho.117.38 抄録:本研究では,抗酸化アミノ酸誘導体 N-アセチルシステイン(NAC)を用いて常温重合レジンの 口腔粘膜細胞への為害性を軽減できるかどうかをその機序とともに検討した。NAC 含有,非含有レ ジン重合体それぞれ培養液に浸漬させたものを溶出培養液とし,ラットおよびヒト口腔粘膜細胞を各 溶出培養液に1日曝露後,細胞評価を行った。評価項目は,細胞構成要素の破壊程度,炎症性サイト カイン定量,酸化ストレスレベル評価,細胞内ホルムアルデヒド定量に加え,溶出物質の評価を行っ た。その結果,レジン溶出培養液に曝露された細胞は通常培養したものより細胞構成要素の破壊,酸 化ストレスレベル,炎症性サイトカイン産生が増強し,細胞および溶出液中からはホルムアルデヒド が検出された。これらの為害作用は重合体への NAC 添加により軽減し,その機序として重合体から の NAC 溶出に伴う細胞の抗酸化能の向上とモノマー溶出の減少によることが示唆された。 38 ― 38 ―
日静置したのち取り出した培養液をそれぞれレジン 溶出培養液,NAC 含有レジン溶出培養液とした。 ラットもしくはヒト口腔粘膜上皮細胞を単層になる よう一定期間培養したのち,通常の培養液,レジン 溶出培養液,NAC 含有レジン溶出培養液に交換し, 24時間培養後,各種評価を行った。評価項目は,細 胞構成要素の破壊として接着細胞数の計測および細 胞傷害性の指標である乳酸脱水素酵素(LDH)活性を 測定し,溶出物質の細胞内侵入をみるため細胞内ホ ルムアルデヒド定量を行った。細胞内酸化ストレス については,細胞内の抗酸化物質であるグルタチオ ン濃度の比色定量および細胞内活性酸素種(ROS)レ ベルの蛍光定量を行い,炎症反応の評価として,炎 症性サイトカイ ン(IL-1β,IL-8,MCP-1,-3, M-CSF,GM-CSF)の多種同時定量を行った。加え て,細胞培養試験とは別に,重合体からの溶出物質 の化学的評価を行った。溶出物質の評価について は,レジン重合体もしくは NAC 含有レジン重合体 を蒸留水中に7日間浸漬し,各々取り出した溶出液 中のホルムアルデヒド量および NAC 溶出の有無を 評価した。コントロールは蒸留水とした。ホルムア ルデヒド量は吸光反応を用いた比色定量を行い, NAC 溶出の有無はフリーラジカル消去能試験によ る抗酸化能で評価した。 得られたデータは統計解析として一元配置分散分 析後,Bonferroni 検定を行い,有意水準は0.05とし た。 結果および考察 細胞構成要素の破壊について,レジン溶出培養液 に曝露された細胞は,通常培養したものに比べ,接 着細胞数は減少し,細胞膜の傷害程度を示す LDH (乳酸脱水素酵素)活性は上昇した。また,炎症性サ イトカイン IL-1β,IL-8,MCP-1,-3,M-CSF, GM-CSF の産生量が増加した。NAC 含有レジン溶 出培養液に曝露された細胞では,レジン溶出培養液 に曝露されたものに比べ,細胞構成要素の破壊程度 は低く,炎症性サイトカイン産生量も減少した。細 胞内酸化ストレスを表す細胞内 ROS レベルの結果 を1例として図に示す。酸化ストレスの評価におい ては,レジン溶出培養液に曝露されたものでは通常 培養に比べ,細胞内抗酸化物質である総グルタチオ ン濃度は低くなり,細胞内 ROS レベルは高かった。 NAC 含有レジン溶出培養液に曝露されたものでは, 通常培養より総グルタチオン濃度は高く,細胞内 ROS レベルは低かった。レジン溶出培養液に曝露 された細胞からは比較的高濃度のホルムアルデヒド が検出されたが,NAC 添加レジン溶出培養液にお いては低濃度であった。各レジン溶出液の化学的評 価を行ったところ,レジン溶出液からはホルムアル デヒドが検出され,NAC 含有レジン溶出液中のホ ルムアルデヒド量はレジン溶出液の4分の1程度に 抑えられた。また,NAC 含有レジン溶出液のみ抗 酸化能を示した。 PMMA レジンから溶出する残留モノマーは接触 性皮膚炎や粘膜炎を引き起こすことが報告されてお り1−3),溶出したポリメタクリル酸メチル(MMA)の 分解副生成物のホルムアルデヒドは生体にとって有 害物質であることが広く知られている。さらにホル ムアルデヒドは細胞膜を破壊し,直接的な細胞毒性 を示すだけでなく,酸化ストレスを介して細胞にダ メージを与えることが明らかとなっている14,15) 。実 験結果より,PMMA レジン溶出液は接着細胞数の 減少,細胞膜の破壊および炎症性サイトカイン産生 量の増加を示し,溶出液中からはホルムアルデヒド が検出された。このことから,レジン重合体中から MMA が溶出し,上皮細胞に対し細胞構成要素の破 壊および炎症反応を引き起こしたと考えられる。ま た細胞内からホルムアルデヒドが検出されたこと, 細胞内抗酸化物質であるグルタチオン濃度が減少し 酸化ストレスレベルが増加したことから,重合体か ら溶出した MMA やその分解服生成物であるホル ムアルデヒドが細胞内に侵入し,酸化ストレス状態 図 細胞内酸化ストレス(ROS)レベル 歯科学報 Vol.117,No.1(2017) 39 ― 39 ―
を引き起こすことで間接的にも細胞へダメージを与 えた可能性がある。PMMA レジンの細胞毒性につ いては,残留モノマーである MMA の分子構造中の 二重結合部がタンパクやリン脂質と反応することが 明らかにされており16) ,酸化ストレスの観点からし ても,細胞内の酸化還元バランスの崩壊すなわち酸 化ストレス状態の悪化がアポトーシスを引き起こす ことが報告されている12) 。このことから,PMMA レジン溶出液中の残留 MMA による直接的な細胞 の破壊および,溶出成分による細胞への酸化ストレ スが細 胞 死 を 引 き 起 こ し た と 考 え ら れ る。一 方 NAC 含有 PMMA 溶出液で培養した細胞では,細 胞構成要素の破壊や炎症性サイトカイン産生といっ た細胞 為 害 性 が 軽 減 さ れ た。抗 酸 化 作 用 を も つ NAC は細胞内外で強力な抗酸化能を発揮するだけ でなく,前述した MMA 分子構造中の細胞毒性を 引き起こす部分を不活化させることが過去の文献で 示されている5,17) 。NAC 含有 PMMA 溶出液による 為害作用のメカニズムはいくつか考えられるが,今 回の結果では NAC 含有 PMMA 溶出液で培養した 細胞の活性酸素種レベルは減少し,抗酸化物質であ るグルタチオン濃度の増加を認め,溶出液抗酸化 能を示した。このことから,重合体から溶出した NAC が細胞に取り込まれ,細胞自体の酸化ストレ ス耐性が上がったといえる。さらに,PMMA 溶出 液と比べて,NAC 含有 PMMA 溶出液中および細 胞にとりこまれたホルムアルデヒド量が低い値を示 したことから,NAC を PMMA 重合体へあらかじ め添加することで,重合体からのホルムアルデヒド および残留モノマーである MMA の溶出を減少さ せ,細胞に加わる酸化ストレスを防ぐことが示され た。 まとめ 歯科用常温重合 PMMA レジンの溶出成分は,酸 化ストレスを介した口腔粘膜上皮細胞の細胞構成要 素の破壊および炎症性サイトカイン産生の増加を引 き起こした。これらの為害性は,PMMA レジンへ NAC をあらかじめ添加することで,ほぼ消失した。 また,そのメカニズムは重合体からの NAC 溶出に 伴う細胞の抗酸化能の向上と,有害物質であるホル ムアルデヒドの溶出が減少したことが示唆された。 文 献
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Jewett A, Ogawa T : N-acetyl cysteine(NAC)-assisted detoxification of PMMA resin. J Dent Res, 87:372−377, 2008.
本論文は,下記学位論文の内容を解説した。
N-acetyl cysteine alleviates inflammatory reaction of oral epithelial cells to poly(methyl methacrylate)extract, Nishimiya H, Yamada M, Ueda T, Sakurai K, Acta Odontol Scand, 73⑻;616−625:2015.
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