問題と目的 保育現場において気になる子どもの保育の進 め方に悩む保育者は多いだろう。気になる子ど もとは、定義は様々だが、発達障害等の診断を 受けて入所しているわけではないが、保育上何 らかの課題がある子どもを表現する際に用いら れることが多い。池田・郷間・川崎・山崎・武 藤・尾川・永井・牛尾(2007)は、2003年度か ら2005年度にかけ、保育所勤務5年以上の保育 者を対象に質問紙調査を行い、気になる子ども の数が増えていると実感している保育者が年々 増加していることを示している。このような傾 向に伴い、気になる子どもの保育に悩む保育者 も増えているだろう。郷間・圓尾・宮地・池 田・郷間(2008)は近畿地方の保育者と幼稚園 教諭計217名に質問紙調査を実施した結果、障 害児に対する保育上の問題よりも、気になる子 どもに対する保育上の問題を強く感じているこ とを明らかにした。木曽(2013)は発達障害を 含むクラス内の障害児の人数が保育者のバーン アウトに関係しているとはいえないが、診断を 受けていない発達障害傾向児のクラス内の人数 が保育者のバーンアウトの高さと関係している ことを示した。これは未診断であるがゆえの保 育の困難さが影響していると考えられる。たと えば加配がつかないことによる人員不足や、保 護者、専門機関との連携困難、対応方法の未確 立が課題となっている。気になる子どもの保育 を行う保育者に対する支援の一つに巡回相談が ある。しかし、巡回相談には、訪問回数や頻度 に関する問題、保育者の依存の問題などが指摘 されている。訪問回数や頻度の不足は、幼稚園 等における継続的な実践経過の把握を難しくし、 また、保育者の依存については、相談員の見立 てやアドバイスを一方的に受け取るために、巡 回相談に対しても能動的な参加とはならず、過 度な期待を抱く傾向があると考えられる。逆に 納得できない結果になれば深い不信感を抱くと いう、二律背反する利用者心理が故に、巡回相 談が保育者自身の自信の向上に繋がりにくい現 状があると指摘されている(三山,2011)。 そこで、本研究では臨床心理士などの資格を 持ったカウンセラーが幼稚園を訪れ、月に1回 以上、年間12回以上の頻度で様々な相談に対応 しているキンダーカウンセラー事業を実施され ている大阪府内の私立幼稚園にご協力をいただ き、事業の実施状況、及び今後の期待、気にな る子どもの保育に対する教師の効力感、キンダ ーカウンセラー事業を実施されての効果の実感 について調査、検討を行うことを目的とした。 方法 1.調査対象者 キンダーカウンセラー事業を実施している大 阪府内の幼稚園のうち、大阪府私立幼稚園連盟 が実施するキンダーカウンセラー事業のみを実 施している126園(平成28年7月現在)に勤務す る教師を対象とした。返送があったのは46園で
キンダーカウンセラー事業による継続的な支援についての効果の実感
─ 気になる子どもに対する保育効力感に着目して ─
日光 恵利
回収率は36.507%であった。回答をいただいた 教師126名分を分析の対象とした。 2.調査時期 2016年8月1日~2016年9月6日 3.調査の目的 定期的な巡回相談であるキンダーカウンセラ ー事業に関して調査、分析を実施し、今後のよ り良い保育者支援につなげていくこと。 4.アンケート項目 ①キンダーカウンセラー事業の実施状況、及 び今後の期待 ②キンダーカウンセラー事業を実施されての 効果の実感 ③気になる子どもの保育に対する教師の効力 感 結果と考察 1.回答者について 本調査に協力していただいた回答者について の内訳は、Table1の通りである。 2.キンダーカウンセラー事業の実施状況及び 今後期待する支援内容 キンダーカウンセラー事業の中で、小川 (2014)が明らかにしたキンダーカウンセラ ー事業の役割を参考に、以下の10項目の支援 内容について、昨年度受けられた支援の状況 を、「4.よく受けた」~「1.全く受けなかっ た」の中から当てはまるものに回答を求めた (Table2)。その結果、教師が「よく受けた」 または、「少し受けた」と回答した支援は、 「保育観察」112名(88.889%)、「保育カンフ ァレンス」90名(71.428%)、「子どものアセ スメント」90名(71.428%)の順に高い割合で あった。 反対に「あまり受けなかった」または、「全 く受けなかった」と回答した支援は、「地域の 子育て家庭へのカウンセリング」97名(76.984 %)、「子育てに関する講演」84名(66.667 %)、「地域の専門機関の紹介、連携」80名 (63.492%)の順に高い割合であった。以上の 結果から、教師に対する直接的な支援が多く実 施され、それと比較して地域や専門機関との連 携など広い範囲に向けた支援の実施状況は少な い傾向にあると考えられる。 次に、キンダーカウンセラー事業のうち、今 後受けたいと思われる支援内容について「4: もっと増やしたい」~「1:少し減らしても よい」の中から、当てはまるものに回答を求 めた(Table3)。その結果、「もっと増やした い」または「少し増やしたい」という回答が 多かった支援は「保育観察」78名(61.905%)、 「個別の指導計画への助言」78名(61.905%)、 「子どものアセスメント」77名(61.111%)の 順に高い割合であった。反対に、「これまで通 りでよい」または「少し減らしてもよい」と回 答した支援は、「地域の子育て家庭へのカウン セリング」85名(67.460%)、「保護者面接」 76名(60.317%)、「子育てに関する講演」71 名(56.349%)の順で高い割合であったが、6 項目で「少し減らしてもよい」という回答数 は0であり、概ね現状の支援を継続させた上で、
実施率の高い「保育観察」や「個別の指導計画 への助言」、「子どものカンファレンス」など 必要とする支援についてはさらに増やしたいと 期待していると考えられる。 3.気になる子どもの保育に対する効力感 気になる子どもの保育に対する教師としての 効力感について下記の項目で質問し、「4:当 てはまる」~「1:当てはまらない」の中か ら、当てはまるものに回答を求め、得点化した (Table4)。 回答の結果、「気になる子どものできたこと、 良かったことについて気づくことができる」 という項目で、平均値が3.4を超え、最も高い 値となった。反対に最も低い値となったのは 「気になる子どもの発達段階に応じた活動が提 案できる」という項目で、平均値が2.8であっ た。また、全ての項目で、「当てはまる」また は、「まあまあ当てはまる」と回答した割合が 65%を超える結果であり、特に「指示が通りに くい子どもに対して、その理由や気持ちを理解 し、個別に対応することができる」、「気にな る子どものできたこと、良かったことについて 気づくことができる」、「気になる子どもにつ いて、職員間で共通理解を図りながら、対応す ることができる」、「気になる子どもの園での
様子について、保護者に伝えることができる」 の4項目では、90%を超える教師が「当てはま る」または、「まあまあ当てはまる」と回答し た。この結果は、キンダーカウンセラー事業に よる支援を継続的に受けてきたことで、ある程 度の効力感を保ちながら気になる子どもの保育 を行っているためと考えられる。 3-1.支援内容における気になる子どもの保育 効力感の差 気になる子どもの保育に対する教師としての 効力感について、10の支援内容別に保育の効力 感に差があるかについて検討するため、「4: よく受けた」と「3:少し受けた」を「支援を 受けた」、「2:あまり受けなかった」と「1: 全く受けなかった」を「支援を受けなかった」 として、t検定を行った。 その結果、「保育観察」を除く9つの支援内 容において、少なくとも1項目以上で支援を受 けている方が優位に高い効力感を示した。特 に、「地域の子育て家庭へのカウンセリング」、 「子育てに関する講演実施」の2つの支援では、 それぞれ8項目で支援を受けた方が有意に保育 効力を示した。これらはキンダーカウンセラー 事業の実施状況で最も少なく、今後期待する支 援としても回答数が少ない項目であったが、実 際に実施することで、家庭共通認識をもてるこ とや、教師も講演に参加し、新しい知識を獲得 したり、子育て家庭に対する認識を改めて学ん だりすることができるためであり、気になる子 どもに対する教師の効力感向上に期待できる支 援であると考えられる。 3-2.教師の経験年数における気になる子ども の保育に対する効力感 教師の経験年数によって、気になる子どもの 保育に対する効力感に差があるかを検討する ため、一元配置の分散分析を行い、下位検定
にはTukey法を用いた(Table5)。分析の結果、 「集団活動に参加しにくい子どもに対して、参 加を可能にするための具体的な方法を考えるこ とができる」、「パニック、乱暴、興奮、こだ わり等に対し、何らかの対応を冷静に行うこと ができる」、「行事、日課の変化がある場合、 気になる子どもが直面しうる困難を予測して、 具体的な対策をとることができる」、「気にな る子どもを含むクラス全体に目を向けて、集団 での保育を行うことができる」という4項目で 保育経験年数が20年~30年の教師は5年以下の 教師に比べ、有意に効力感が高いことが分かっ た。また、「気になる子どもをもつ保護者の子 育ての悩みを共感的に聞き、助言ができる」と いう項目では、保育経験年数が10年~20年と、 20年~30年の教師は、5年以下の教師に比べて、 有意に効力感が高いことが分かった。 4.キンダーカウンセラー事業を実施されての 効果の実感 キンダーカウンセラー事業の効果について、 教師を対象に下記の項目で質問し、「4:当て はまる」~「1:当てはまらない」の中から、 当てはまるものに回答を求めた(Table6)。 回答の結果、「キンダーカウンセラー事業は、 自分の保育の改善に有効である」、「キンダー
カウンセラー事業を通して、クラスの子どもに 対する援助や環境構成が改善した」、「キンダ ーカウンセラー事業を通して、気になる子ども について理解が進んだ」の3項目で、90%以上 の教師が「当てはまる」または、「まあまあ当 てはまる」と回答した。また、「キンダーカウ ンセラー事業は、自分にとって負担が大きい」 という項目では、80%以上の教師が「あまり当 てはまらない」または、「当てはまらない」と 回答した。 以上の結果から、キンダーカウンセラー事業 による支援は教師にとって負担感が少なく、支 援の効果を実感することができるものであると と考えられる。 4-1.教師の経験年数におけるキンダーカウン セラー事業実施の効果の実感 教師の経験年数によって、キンダーカウンセ ラー事業を実施されての効果の実感に差がある かを検討するため、一元配置の分散分析を行 い、下位検定にはTukey法を用いた。分析の結 果、「自分の保育の改善に有効である」という 項目において、5年以下の経験年数の教師は5~ 10年、10~20年の経験年数の教師に比べて優位 に効果を実感していることが分かった。3-1で の結果と併せると、効力感や経験年数に関係な く、効果を実感している。これは、経験年数に 応じて気になる子どもの保育に対する課題が変 化し、それに応じて支援を受け、効力感を高め
ることにつながっていると推察される。 総合考察 キンダーカウンセラー事業の実施状況につい ては、「保育観察」、「保育カンファレンス」、 「子どものアセスメント」の順によく実施され ていることが分かった。反対に、あまり実施さ れていなかった支援は「地域の子育て家庭へ のカウンセリング」、「子育てに関する講演」、 「地域の専門機関の紹介、連携」の順であった。 よく実施されている支援は、教師や在園する子 どもにとって直接的な支援が多く、あまり実施 されていない支援は教師や在園する子どもにと って間接的な支援であると言える。今後期待す る支援について、「保育観察」、「個別の指導 計画への助言」、「子どものアセスメント」の 順に、今後も実施を増やしていきたいという結 果であった。先のアンケートで明らかとなった、 実施回数の少なかった3つの支援について見て みると、特に「地域の子育て家庭へのカウンセ リング」、「子育てに関する講演」では今後の 期待も低いことが分かった。また、今後「少し 減らしてもよい」と回答された支援はほとん どなかったが、もともと実施の少ない3つの支 援では回答があったことにも注目したい。キン ダーカウンセラー事業は園外である、地域の子 育て家庭まで広く対象としている事業であるが、 多忙を極める保育現場においては、直接的な支 援に期待する傾向が強くなることは理解できる だろう。 気になる子どもの保育に対する効力感につい て、「気になる子どものできたこと、良かった ことについて気づくことができる」、「気にな る子どもの園での様子について、保護者に伝え ることができる」、「気になる子どもについて、 職員間で共通理解を図りながら、対応すること ができる」の順に高い効力感を持っていること が分かった。以上の結果を10の支援内容別に見 てみると、「保育観察」では、支援実施の有無 によって効力感に差が見られなかった。反対 に、実施の少なかった「地域の子育て家庭への カウンセリング」、「子育てに関する講演」で は、多くの項目で支援を受けた方が優位に効力 感は高かった。今後期待する支援の結果と合わ せて考察すると、安易に支援を限定していくこ とはできないだろう。また、教師の経験年数に おける気になる子どもの保育に対する効力感に ついて、6項目で、保育経験年数5年以下の教師 と比べて20~30年の経験年数の教師の方が優位 に効力感が高く、加えて、「気になる子どもの 発達段階に応じた活動が提案できる」という項 目では、経験年数20~30年の教師は、5~10年 の教師に比べて有意に効力感が高く、「気にな る子どもをもつ保護者の子育ての悩みを共感的 に聞き、助言ができる」という項目では、経験 年数10~20年の教師は、5年以下の教師と比べ て有意に効力感が高かった。守・酒井・前田・ 小笠原(2016)は、気になる子どもへの対応に は、教師の保育経験年数によって差があり、保 育経験年数の短い教師が日常的に困り感を抱い ていること、その対応に悩みながら保育してい ることを明らかにした。保育経験年数の短い教 師が、長い教師に比べて効力感が低い傾向にあ るという結果は、先行研究と一致している。 キンダーカウンセラー事業を実施されての効 果の実感については、負担感を感じる教師は少 なくその中で自身の保育の改善や、気になる子 どもについての理解など、効果を実感している ことが分かった。このように、教師自身が効果 を実感することで多忙な保育業務の中でも、定 期的で継続的な支援を可能にしていると考えら れ、さらに能動的な参加に繋がるものと考えら
れる。 以上のことから、現在キンダーカウンセラー 事業による支援に対し、教師はその効果を実感 し、特に気になる子どもの保育については、経 験年数によって変化する課題に対し、期待に応 える支援を受けることで高い効力感をもって保 育を実践していると考えられる。しかし、本研 究ではこうした課題の変化については調査でき ていないため、今後の課題とする。 引用文献 郷間英世・圓尾奈津美・宮地知美・池田友美・ 郷間安美子(2008)幼稚園・保育園における 「気になる子」に対する保育上の困難さにつ いての調査研究 京都教育大学紀要 113 81-89 池田友美・郷間英世・川崎友絵・山崎千裕・武 藤葉子・尾川瑞季・永井利三郎・牛尾禮子 (2007)保育所における気になる子どもの特 徴と保育上の問題点に関する調査研究 小児 保健研究 66(6) 815-820 木曽陽子(2013)発達障害の傾向がある子ども と保育士のバーンアウトの関係−質問紙調査 より− 保育学研究 51(2) 51-61 三山岳(2011)保育者はいかにして相談員の意 見を受け止めるのか−巡回相談における保育 者の概念変容プロセス− 教育心理学研究 59,231-243 守 巧 ・ 酒 井 幸 子 ・ 前 田 泰 弘 ・ 小 笠 原 明 子 (2016)幼稚園における気になる子に対する 新任教諭による援助の実態 東京家政大学研 究紀要 第56集 115-121 小川恭子(2014)キンダーカウンセラー活動の 現状−研究動向と今後の課題について 花園 大学心理カウンセリングセンター研究紀要 第8号 41-49