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教育機関における情報漏えい事故の傾向と対策(2014年版)

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は じ め に

筆者は,『教育機関における情報漏えい事故の傾向 と対策』1) において,情報セキュリティニュース専門 メディア Security Next 2) で 2010 年 4 月から 9 月の半 年間に報じられた個人情報漏えい事件・事故を分析し, 全産業および教育機関における事件・事故の特徴を調 査した。教育機関において優先して対策に取り組むべ き事件・事故を, 「発生頻度が高く報道されやすい事 案」 であると定義し,媒体としては USB メモリ,原 因としては紛失・盗難にあることを明らかにした。さ らに,業務への影響度や実現コストを勘案して,最初 に着手すべきセキュリティ対策はセキュア USB メモ リの導入であることを提案した。 翌年には,2011 年 4 月から 9 月の半年間の継続調 査を行い,教育機関の情報漏えいリスクが相対的に 高まっていること,教育機関の中でも高等教育機関の 情報漏えい事件・事故が増加傾向にあること,教育機 関における情報漏えい原因の約 9 割は紙や電子媒体の 紛失・盗難によるものであること,電子媒体の約 7 割 は USB メモリであることなどを明らかにした。これ らの結果から,教育機関においては USB メモリをは じめとする電子媒体の紛失・盗難対策が最も急務であ り,次いで紙媒体の紛失・盗難対策,操作ミス対策の 順に検討すれば,効率の良い対策が実現できることを 示した。さらに,それぞれの重点項目について考えら れる対策を,業務への影響度や実現コストを勘案しな がら述べた。最優先で進めるべき,USB メモリの紛失・ 盗難対策としては,オンラインストレージの普及に伴 い,PC やポータブルハードディスクを含めたあらゆ るストレージに対応できる汎用的な手法を検討するこ とを提案した3) その翌年には,2012 年 4 月から 9 月の半年間の継 続調査を行い,教育機関の情報漏えいリスクが高止ま りしていること,教育機関の中でも大学・短大の情報 漏えい事件・事故が増加傾向にあること,教育機関 における情報漏えい原因の約 6 割は紙や電子媒体の紛

教育機関における情報漏えい事故の傾向と対策 (2014 年版)

佐 伯   勇

The recent trends in the information leakage incidents and the countermeasures against

them at educational institutions (2014 edition).

SAEKI Isamu

Abstract : In this paper, I analyze the characteristics of personal information leakage incidents at educational institutions in the second and third quarters of 2014. As a result, I show that they should take countermeasures against the loss or the robbery of electronic devices such as USB memories and PCs to protect personal information at educational institutions. I also suggest that the management of servers, online storage services, and cloud services should be exactly and efficiently performed.

抄録:この論文では、2014 年第二および第三四半期の教育機関における個人情報漏洩事故の特徴を 分析する。結果として、教育機関においては USB メモリや PC などの電子機器の紛失・盗難対策を 行うべきであることを示す。サーバーやオンラインストレージサービス、クラウドサービスなどの管 理が正確かつ効果的に行われるべきであることも提案する。

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失・盗難によるものであること,電子媒体の約 3 分の 2 は USB メモリであることなどを明らかにした。こ れらの結果から,教育機関においては USB メモリを はじめとする電子媒体の紛失・盗難対策が引き続き最 重要であることを示した。一方で,オンラインストレー ジの普及によって,将来的には電子媒体に特化したセ キュリティ対策だけでは不十分となることを指摘し, 汎用的な対策としてパスワードの作成と管理技術の啓 蒙が重要であることを述べた。さらに,利用者が忘れ ない文字列と独自のルールの組合せによって強固で忘 れにくいパスワードを作成する方法を,具体例を示し ながら説明した4) その翌年には,2013 年 4 月から 9 月の半年間の継 続調査を行い,教育機関においては,紙や電子媒体の 紛失・盗難による情報漏えいが約 4 分の 3 に,サーバー による漏えいが約 2 割に達していることなどを明らか にした。対策としては引き続き,USB メモリや PC な どの電子媒体の紛失・盗難対策,次いでオンラインス トレージやクラウドサービスの厳格な公開設定やサー バー管理が重要であることを示した5) それからさらに 1 年が経過したが,個人情報漏えい の事件・事故は相変わらず毎日のように報じられてい る。2014 年 7 月 9 日には,全国的に教育・生活事業 を展開するベネッセ・コーポレーションが,同社の顧 客情報が漏洩し,その情報が第三者によって用いられ た可能性があるとして緊急の発表を行った。その後, ベネッセグループ業務委託先社員が逮捕され,盗まれ た情報は名簿業者 11 社以上を経由して 50 社以上の別 企業に買われていたことが判明した。2013 年 7 月頃 から約 20 回に渡って,延べ件数 2 億 300 万件に及ぶ 情報が持ち出されたことも明らかになった。情報流出 の発覚後,進研ゼミと 「こどもちゃれんじ」 で入会勧 誘を停止し,今期は情報流出問題に伴う対策費など計 約 310 億円の特別損失を計上するため,1995 年の上 場以降初めて税引き後利益が赤字になる見通しを発表 した。教育機関においても,東京大学,九州大学,上 智大学など,日本を代表する大学において相次いで個 人情報漏えいの事件・事故が発生している。 いったん個人情報漏えい事件・事故を起こせば,被 害者に対する謝罪と補償,メディアへの対応などでダ メージを受ける上に,信用が失墜して組織の存続に影 響を及ぼしかねない。それぞれの組織の業務にとって 重要な箇所を見極め,継続的に対策を行っていく必要 がある。 この 1 年の間に,個人情報漏えい事件・事故の数, 教育機関における事件・事故の特徴,および重要度の 高い対策は変化したのか。変化したとすれば対策はど うあるべきなのか。 本稿では昨年に引き続き,Security Next で 2014 年 4 月から 9 月の半年間に報じられた個人情報漏えい事 件・事故を,過去 4 年間との比較を交えて分析する。 2014 年の教育機関における事件・事故の特徴を調べ ることによって,発生頻度が高く公になりやすい,つ まり重要度の高い媒体と原因を明らかにする。

1.情報漏えい事件・事故件数の業種別比率

セキュリティ関連ニュースサイト Security Next で 2014 年 4 月から 9 月の半年間に報じられた個人情報 漏えい事件・事故の総数は 162 件であり,1 年前,2 年前,3 年前および 4 年前の同時期には,それぞれ 188 件,190 件,208 件および 232 件であった。昨年 を除き,総数としては前年比で約 1 割ずつ減少してい るが,1 日当たり約 1 件の事件・事故が報じられてい る状況に変わりはない。 図 1 に,当該期間に報道された個人情報漏えい事件・ 事故件数の業種別比率を示す。図 1 から,幅広い業種 で事件・事故が発生しており,個人情報漏えいのリス クが普遍的に存在していることが分かる。 2014 年に着目すれば,事件・事故件数の多い業 種は上位から順に, 「公務」(26.5%), 「情報通信業」 (14.2%), 「教育,学習支援業」(12.3%) であり,上位 3 業種で半数以上を占めている。「教育,学習支援業」 と 「公務」 は 4 年間常に 1 位と 2 位を占めていたが, 2014 年には不正アクセスの増加した 「情報通信業」 が 22.4% 17.3% 16.8% 18.6% 公務, 26.5% 10.3% 10.6% 3.2% 17.0% 情報通信業,  14.2% 16.1% 18.3% 15.8% 19.1% 教育,学習支援業, 12.3% 12.1% 12.5% 13.7% 11.2% 金融業,保険業,  11.1% 1.8% 2.9% 6.8% 2.7% 医療,福祉, 7.4% 11.7% 8.2% 4.2% 10.1% 団体, 6.8% 6.3% 8.7% 7.9% 3.7% 製造業, 6.8% 19.3% 21.6% 31.6% 17.6% その他, 14.8% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 2010年 (N=223) (N=208)2011年 (N=190)2012年 (N=188)2013年 (N=162)2014年 図 1 情報漏えい事件・事故件数の業種別比率

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第 2 位となり, 「教育,学習支援業」 は第 3 位に後退 した。なお, 「公務」 は中央官庁と地方自治体を, 「教 育,学習支援業」 は,大学 (大学病院,大学院を含む), 短期大学,高等専門学校,専門学校,高等学校,中学校, 小学校,幼稚園,学習塾を, 「情報通信業」 は通信業, 放送業,情報サービス業,インターネット付随サービ ス業,映像・音声・文字情報制作業を分類した。 第 2 位の 「公務」 は,行政による監督・指導が効果 を発揮しやすい分野であり,個人情報漏えい対策が推 進されていると同時に,軽微な事件・事故であっても 報告が徹底される傾向にある。一方,行政指導が不十 分な 「教育,学習支援業」 は,報道の実数から推測さ れる以上に情報漏えいリスクが高い業種であると言わ ざるを得ない。

2.教育機関の内訳

図 2 に,事件・事故が報道された 「教育,学習支援 業」 の内訳を示す。2014 年において事件・事故報道 数の多い区分は上位から順に, 「大学,短大」(45%), 「高校」(20%), 「小学校」(15%), 「中学校」(10%) で あり,上位 4 区分で約 9 割を占める。文部科学省の平 成 26 年度学校基本調査 (速報)6) によれば,教員数 (本 務者) は,大学,短大が約 19 万人,高等学校が約 24 万人,中学校が約 25 万人,小学校が約 42 万人である。 よって,教員数 (本務者) 10 万人あたりの事件・事故 件報道数は,大学,短大が約 4.8 件,高校が約 1.7 件, 中学校が約 0.8 件,小学校が約 0.7 件となり,上位 4 区分の中では,大学,短大における事件・事故の報道 可能性が際立って高いという傾向が見られる。サンプ ル数が少なく,統計的な結論を得ることは難しいが, 大学,短大における情報漏えい事件・事故報道数は高 止まりしており,個人情報漏えい対策が難しく,事件・ 事故の報道数の増加に歯止めをかけることができない 状況がうかがえる。

3.教育機関における情報漏えい原因の特徴

図 3 に,全業種と教育機関における情報漏えい原因 の比率を示す。左から順に,教育機関の 2010 年から 2014 年,全体の 2010 年から 2014 年のデータを表し ている。ここで, 「紛失」 は帳票類,PC,USB メモリ, 携帯電話などの盗難や紛失を, 「操作ミス」 は機器操 作の間違いや郵便物の封入間違いなどを, 「設定ミス」 はアクセス権の設定間違いやプログラムミスなどを, 「その他」 はファイル共有ソフトによる流出や故意に 情報を漏えいさせた事件を分類した。 図 3 から全業種では,2014 年には個人情報漏えい 事件・事故の約半数が 「紛失」,2 割強が 「操作ミス」, 2 割弱が 「設定ミス」 によるものであり, 「その他」 の 原因による漏えいはわずかであることが分かる。第 1 位の 「紛失」 は減少傾向にあるが,昨年減少した 「操 作ミス」 が増加して第 2 位となった。紛失対策が進む 一方で,メールの送信時の宛先指定,ファイルの添付 間違いなど人為的ミスの対策が後手に回っている様子 がうかがえる。「その他」 に分類しているが,2013 年 に 7 件だった 「故意」 による情報漏えい事件は 4 件に 減少しているものの,自社や委託業者の従業員の管理 体制を一層充実させることが求められている。 教育機関に限れば,紛失による事件・事故の割合は 80.6% 88.9% 75.9% 75.0% 80.0% 65.9% 63.9% 64.7% 53.7% 54.9%紛失 2.8% 11.1% 10.3% 5.6% 10.0% 19.4% 21.6% 17.4% 13.8% 操作ミス 23.5% 8.3% 0.0% 13.8% 19.4% 10.0% 11.2% 12.5% 14.2% 27.7% 設定ミス 19.1% 8.3% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 3.4% 1.9% 3.7% 4.8% その他 2.5% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 2010年 (N=36) 2011年(N=36) 2012年(N=30) 2013年(N=36) 2014年(N=20) (N=232)2010年(N=208)2011年(N=190)2012年(N=188)2013年(N=162)2014年 教育機関 全体 38.9% 50.0% 56.7% 52.8% 大学・短大,  45.0% 2.8% 5.6% 3.3% 5.6% 高専, 5.0% 2.8% 2.8% 3.3% 2.8% 専門, 0.0% 22.2% 13.9% 16.7% 8.3% 高校, 20.0% 13.9% 8.3% 10.0% 8.3% 中学校, 10.0% 16.7% 16.7% 10.0% 16.7% 小学校, 15.0% 2.8% 2.8% 0.0% 5.6% その他, 5.0% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 2010年 (N=36) 2011年(N=36) 2012年(N=30) 2013年(N=36) 2014年(N=20) 図 3 情報漏えい原因の比率 図 2 「教育,学習支援業」の内訳

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約 8 割に達しており,全体と比較して紛失の割合が大 きいという特徴が見られる。教育機関では一般的に情 報の管理や持ち出しに関する規定や運用が甘く,個人 情報保護に関する教育も不十分である。学校内,自宅, 通勤途中での USB メモリ,PC,ハードディスク,書 類などの紛失,盗難,置き忘れが多いため,教育機関 としては,まず紛失対策を最優先に考え,安全性を高 めるための業務手順の確立や教育を急ぐ必要がある。 教育機関における 「操作ミス」 および 「設定ミス」 を原因とする情報漏えい事件・事故も,それぞれ約 1 割ずつ発生しており,他業種と同様に教職員に対する 情報セキュリティおよび情報モラル教育の徹底と運用 管理体制の確立が重要である。

4.教育機関における情報漏えい媒体の特徴

図 4 に,全業種と教育機関における情報漏えい媒体 の比率を示す。図 3 と同様,左から順に,教育機関の 2010 年から 2014 年,全体の 2010 年から 2014 年のデー タを表している。ここで, 「紙」 は書類,帳票類,名 簿,手帳などを, 「サーバー」 は Web やデータベース のサーバーを, 「電子媒体」 は PC,USB メモリ,ハー ドディスク,CD,DVD,携帯端末などを, 「メール」 は電子メールを, 「その他」 は Winny や Share などの ファイル共有ソフトウェア,FAX,郵便物などを分類 した。 図 4 から全業種では,2014 年には約 3 割の情報漏 えい事件・事故が紙媒体を,3 割弱が電子媒体を,そ れぞれ約 2 割がサーバーおよびメールを介したもので あることが分かる。紙はどのような業種や職種であっ ても多用される媒体であるため,必然的に漏えいの可 能性も高くなる。紙媒体によって漏えいした原因は, 紛失,盗難,誤廃棄,誤送付といった 「紛失」 や 「操 作ミス」 によるものが多い。ただし,大量の書類を持 ち運ぶ頻度は低いため,電子媒体に比べると被害者数 は少ないという傾向がある。 漏えい媒体比率第 2 位の電子媒体の多くは,USB メモリとPCである。2014年はこれまで減少傾向にあっ た電子媒体による事件・事故の比率が増加している。 USB メモリは,高速化・大容量化・低価格化しており, 非常に小型で紛失しやすい媒体であるが,最近は小型 軽量の PC や各種の端末も持ち運んで業務に使用され るようになってきた。USB メモリや PC による漏えい が発生した業種は,教育,学習支援業,公務,医療, 福祉,卸売業,小売業,運輸業,金融業,保険業,情 報通信業など広範囲に及ぶが,特に教育,学習支援業, 医療,福祉と公務が多い。USB メモリをはじめとして, 電子媒体は大量のデータを容易に持ち運べるという特 徴があり,大規模な情報漏えいを招きやすいため,使 用を制限したり禁じたりする組織が多い。にもかかわ らず,電子媒体による個人情報漏えい事件・事故が後 を絶たないという事実は,利便性の高い機器の使用を 制限することがいかに難しいかを物語っている。今後 はより重点的な対策が必要な分野であろう。 漏えい媒体比率第 3 位のサーバーによる漏えいは, ほぼ全てがサーバーの設定ミス,プログラムミス,管 理不足によるものである。報道では 「不正アクセスに よる」 とされている場合でも,多くの場合は,サーバー を運営する側の設定ミスや管理ミスが不正アクセスを 誘発している。業種としては,情報通信業が多く,イ ンターネットを利用して顧客に直接サービスや商品を 提供する組織では,サーバーを介した漏えいのリスク が高いと考えられる。 同率第 3 位のメールによる漏えいは,ほぼ全てが担 当者の操作ミスによるものである。本来送信すべきア ドレスとは異なるアドレスに送信した場合や,お互い に知り合いでない人々をメールの宛先欄または Cc 欄 に列挙して送信したため,受信者間で宛先アドレスが 閲覧可能になってしまった場合が多い。いずれの場合 も流出先が特定可能であるため,それほど大きな問題 にまで発展しないことが多く,特に後者の場合は漏え い情報がメールアドレスのみであるため,影響は軽微 であるとも考えらえる。 全業種の 2010 年から 2014 年の情報漏えい媒体の比 率を比較すると,情報漏えい事件・事故の媒体は,紙 11.1% 27.8% 16.7% 27.8% 25.0% 39.7% 34.1% 39.5% 30.9% 紙 30.9% 69.4% 66.7% 60.0% 47.2% 55.0% 26.7% 30.3% 27.4% 24.5% 電子媒体 28.4% 8.3% 2.8% 10.0% 19.4% 10.0% 10.8% 13.0% 13.7% 26.6%サーバー 19.8% 2.8% 2.8% 3.3% 5.6% 10.0% 11.6% 14.9% 13.2% 11.7% メール 19.8% 8.3% 0.0% 10.0% 0.0% 0.0% 11.2% 7.7% 6.3% 6.4% その他 1.2% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 2010年 (N=36) 2011年(N=36) 2012年(N=30) 2013年(N=36) 2014年(N=20) (N=232)2010年(N=208)2011年(N=190)2012年(N=188)2013年(N=162)2014年 教育機関 全体 図 4 情報漏えい媒体の比率

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や電子媒体からサーバーやメールに移行しつつある様 子が分かる。ただし,情報通信技術が発達してデジタ ルデータの情報セキュリティに注目が集まる中,紙媒 体による情報漏えいが 3 割を維持していることには, 十分な注意を要する。 次に,教育機関における情報漏えい媒体比率の特徴 を述べたい。教育機関では,漏えい媒体の比率が全体 とは異なっている。紙媒体による漏えいは約 4 分の 1 で全体平均よりやや少ないのに対し,電子媒体による 漏えいが半数以上を占めている。サーバーやメールに よる漏えいは,上位 2 つの漏えい媒体と比較すると少 ないことが分かる。 教育機関において紙媒体による漏えいが比較的少な い理由は,紙媒体を持ち運ぶ機会が少ないからだろう。 教職員が紙媒体を携えて学生・生徒・児童の自宅や他 校に訪問する場面は稀であり,成績処理などの業務を 自宅に持ち帰る際には電子媒体を利用することが多い と考えられる。 一方で,教育機関における漏えい媒体の半数以上を 占める電子媒体は,その約 6 割が USB メモリで,残 りが PC とポータブルハードディスクである。USB メ モリを介した漏えい事件・事故の約 3 分の 1 は教育機 関で発生しており,小学校から大学まで比較的緩やか な情報管理体制のもとに,日常的に個人情報を持ち歩 いて漏えいのリスクに晒している様子がうかがえる。 データの持ち出しを一切禁止すると,夜遅くまでの残 業や休日出勤を強いることになるため,データを持ち 運ばなくても業務が円滑に遂行できる組織的・技術的 支援を検討する必要がある。 教育機関におけるサーバーを介した漏えい事件・事 故は,全て大学で発生している。高等教育機関ほどイ ンターネットに接続したサーバーを利用して学務や教 育を行っているため,件数は少ないものの,漏えいの 危険性を認識しておく必要がある。 2014 年も,教育機関におけるファイル共有ソフト を介した個人情報漏えい事件・事故の報道は見られな い。多くの教育機関では,ファイアウォールによって 不要な通信を制限しているため,基本的には学校内で ファイル共有ソフトを使用することはできない。しか しネットエージェントによれば,ファイル共有ソフト の定期的な利用者は現在でも 20 万人程度いる7) と言 われ,決して楽観はできない。 教育機関では,メールを介した情報漏えいの割合が 平均と比較して小さい。学生・生徒・児童が日々学校 に通い,教室の中で直接コミュニケーションを取るこ とが主たる業務であるため,他業種よりメールの使用 頻度が低くなることが要因であると考えられる。 教育機関の 2010 年から 2014 年の情報漏えい媒体の 比率を比較すると,比率としては電子媒体による漏え いが増加している様子がうかがえる。件数が少ないた め統計的に傾向があるとは言えないが,教育機関にお いては未だに業務データを USB メモリなどの電子媒 体に保存して移動しており,最も重点的に対策を進め る必要がある。

5.教育機関における

情報漏えい対策の重点項目

以上の議論から,教育機関における個人情報漏えい 対策の重点項目をまとめたい。高等教育機関において は,USB メモリや PC などの電子媒体の紛失・盗難対 策が急務である。初中等教育機関では,紙媒体の個人 情報を持ち歩くケースも多く,電子媒体に加えて紙媒 体の管理にも十分な注意を要する。さらに全ての教育 機関において,メールの誤送信などの操作ミスを防ぐ ための教育・管理体制の整備が求められる。 今後は,USB メモリなどの電子媒体は徐々に使わ れなくなり,オンラインストレージのようなインター ネット上のサービスが主流となる可能性が高い。電子 媒体を紛失しても,実際に保存していた個人情報の流 出が発覚するケースは稀だが,オンラインストレージ から個人情報が漏洩すれば,実被害が発生する可能性 が高い。しかし,大学など高等教育機関では,従来か ら USB メモリや PC によるデータの持ち出しについ ても厳しい制限を課してこなかったため,オンライン ストレージサービスの利用を禁止することは簡単では ない。そこで,これからの情報漏えい対策を検討する 上では,USB メモリという個別の媒体に特化したも のではなく,オンラインストレージサービスなどにも 対応した汎用的な対策を考える必要がある。 オンラインストレージに保存するファイルの機密性 は 2 つのパスワードによって守られる。1 つはサービ ス認証のためのパスワード,もう 1 つはファイル自 体にかけられるパスワードである。USB メモリを使 用する場合でも,セキュリティ対応型の USB メモリ にパスワードを設定し,ファイルにもパスワードを かけておくことが望ましい。PC を持ち運ぶ場合でも, BIOS,OS,ファイルなど多段のパスワードを設定す ることがセキュリティの向上につながる。このような 例から,汎用的なセキュリティ対策の要はパスワード

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管理であると考えられる。 2014 年は,何らかの原因で漏えいした ID とパスワー ドを用いて他のインターネットサービスのログインを 試みるという不正アクセスが多発した。ID としては メールアドレスが用いられることが多く,パスワード を使いまわしていると容易に他のサービスへのログイ ンを許してしまうことになる。このため,インターネッ トサービスごとに異なるパスワードを設定し,定期的 に変更するというパスワード管理手法が求められるこ とになる。

ま   と   め

本稿では,2014 年 4 月から 9 月の半年間に報じら れた個人情報漏えい事件・事故の特徴について,2010 年から毎年の同期間との比較を行いながら,教育機関 を中心に分析した。その結果,個人情報事件・事故の 報道件数は減少傾向にあること,教育機関の情報漏え いリスクが高止まりしていること,教育機関の中でも 大学・短大の情報漏えい事件・事故の報道数が約半数 であること,教育機関における情報漏えい原因の約 8 割は紙や電子媒体の紛失・盗難によるものであること, 電子媒体の約 6 割は USB メモリであることなどを明 らかにした。 これらの結果から,高等教育機関においては USB メモリや PC などの電子媒体の紛失・盗難対策,初中 等教育機関では電子媒体に加えて紙媒体の管理,さら に全ての教育機関においてメールの誤送信などの操作 ミスを防ぐための教育・管理体制の整備が求められる ことを示した。 一方で,オンラインストレージの普及によって,将 来的には電子媒体に特化したセキュリティ対策だけで は不十分となることを指摘し,汎用的な対策としてパ スワードの作成と管理技術の啓蒙が重要であることを 述べた。 本学においても,ストレージ環境の変化に先んじて 実質的な情報セキュリティ水準を高めるため,教職員 に対するパスワード作成・管理技術を始めとした実践 的な講習会を定期的に開催し,啓もう活動を推進して いきたい。 参 考 文 献 1) 佐伯勇,2011,『教育機関における情報漏えい事故の傾 向と対策』,甲南女子大学研究紀要人間科学編,Vol.47, pp.89-94. 2) Security NEXT,http://www.security-next.com/. 3) 佐伯勇,2012,『教育機関における情報漏えい事故の傾 向と対策 (2011 年版) 』,甲南女子大学研究紀要人間科 学編,Vol.48, pp.97-102. 4) 佐伯勇,2013,『教育機関における情報漏えい事故の傾 向と対策 (2012 年版) 』,甲南女子大学研究紀要人間科 学編,Vol.49, pp.145-151. 5) 佐伯勇,2014,『教育機関における情報漏えい事故の傾 向と対策 (2013 年版) 』,甲南女子大学研究紀要人間科 学編,Vol.50, pp.83-88. 6) 文 部 科 学 省,2014,『 学 校 基 本 調 査 - 平 成 26 年 度 ( 速 報 ) 結 果 の 概 要 - 』, http://www.mext.go.jp/b_menu/ houdou/26/08/attach/1350731.htm,(2014 年 11 月 2 日アク セス). 7) ネットエージェント,2014,『2014 年最新 P2P ファイ ル共有ソフト利用状況調査結果』,http://www.netagent. co.jp/product/p2p/report/201401/01.html,(2014 年 11 月 2 日アクセス). 8) 土居範久監修,独立行政法人情報処理推進機構,2009, 『情報セキュリティ教本 改訂版 組織の情報セキュリ ティ対策実践の手引き』,実教出版 . 9) 独立行政法人情報処理推進機構,2009,『情報セキュリ ティ読本 三訂版 IT 時代の危機管理入門』,実教出版 .

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