美術教育におけるコンピュータ・インターネット利用の可能性
大学院修士課程芸術系美術笠井修
インターネットといえば、以前から電子メールやネットニュースなどの文字 のやりとりに使われていたが、今、最も注目されているのは間(ワ-ル ド・ワイド・ウェッブ)である. この仕組みを使えば世界中から絵や写真や音 やビデオ映像を集めてくることができるし、それらを自分で発信することもで きる。そして何よりもすごいのはその使い方が簡単であるということだ。 もと もと、大学や研究所などで、発展してきたインターネットだが、今日では、会 社や図書館や各学校、そして、家庭までもインターネットで結ばれるようにな り始めている。 では、このような状況の中で、インターネットを使った美術教育では、どの ようなことができるかを提案してみたいと思う。 インターネットの性格上から、1,WWWホームページを使った教育2, ネットワークによるデータ通信を使った教育3,電子メールを使った教育の 3つがあるが、1を中心に記述する。 wwwホームペ-ジを見るためのブラウザーがより多くの機能を含むよう になり、ホームページの表現方法も文字だけでなく画像を取り込み凝ったもの が増えてきた。 インターネットを利用する人の多くが自分のホームページを作 り、また、作りたいと思うようになってきている。 それまでの日常生活で絵を 描いたりデザインしたりという表現活動をしなかった人までもが、自分の素敵 なホームページを作ることに力を注ぐようになったのだ。 今や、ホームページ 作りという表現活動では世界中の人がアーティストと呼べるだろう。 様々なホームページの中で美術教育に使えるものとして、世界中の美術作品 のデータベースがあげられる。 有名なものはルーブル美術館・メトロポリタン 美術館をはじめとする美術館・博物館の作品群である。 これらは、表現活動に 入る前に参考作品として提示することができる0 しかし、これではこれまでに もあった美術作品集やスライドを見せることと大きくかわりはない。 ところが、-117-ブラウザー技術の進歩により有効な作品提示の仕方もできるようになってき た。それが、現在開発中の東京大学総合研究博物館のデジタルミュージアムで ある。ガラスケースの中に保管されている多くの作品はこれまで、遠くからし か見ることができなかったが、このデジタルミュ-ジアムでは、触りたい、長 さを測りたい、音を鳴らしたいという気持ちを重視しアプローチできるように したのもである。 3次元映像により、多方向からの観察や部分拡大などが可能 になった. また、修復アトリエというホームページでは古い作品は色がはがれ たり、立体作品は壊れたりしているが、それを完成時の作品としてコンピュー タ上で編集加工したものを見ることができる。 その他に、児童の作品を展示し たギャラリーも増えてきている。 デジタルミュージアムのように技術の進歩によりホームページは文字や画像 を一方的に見るという受け身の立場から、見るものが働きかける双方向のホー ムページ-と発展しつつあるVRML・Java・Javascript・Shockwave・ActiveX など、その技術は現在も急速に進んでいる。 この技術を教育に使い、今までの、 教材ソフトをインターネットのホームページで使用することができると考えれ ば、大きな効果を得られと考える。 では、図画工作・美術の授業ではどのような教材ソフトを使うべきなのだろ うか。現在の多くのコンビュ-タを使った美術教育では一般にお絵かきソフト と呼ばれるペイント・ドローソフトが使われている。 それらは、(印表現技術の 未熱さから解放されたり、やり直しができることで、より深い追求ができる。 伯)コンビュ-タを使うということで興味関心が増す。 などの長所がある。 しか し、それが本当に教育にとって必要なことなのであろうか。 現代のように本物 を扱う体験を欠いている時こそ、直接素材に触れながら造形活動に取り組むこ とが必要になってくると思う。 コンピュータの中での疑似体験は時にはマイナ スにもなることを考慮に入れておかねばならない。 そこで、コンビュ-タ・インターネットだからこそできる美術教育とは何か を提案してみたいと思う。 創造活動をするためには、活動にはいる前に頭の中にイメージが沸き、作り たい描きたいという気持ちが生まれる。 そして、それが実際に表現につながる ためには手を中心とした身体を使った技術や表現のための知識が必要になって
-118-くるであろう。 そのなかで、イメージ(発想や連想を喚起する能力)に着目し てみたいと思う。 子どもたちが、造形活動をする場合、子どもたちのイメージや意欲は素材や テーマとの出会いによるところが大きい. 特に素材やテーマとの出会いで感性 や感覚をとぎすますことによって、より豊かなイメージや強い表現意欲が沸い てくると考えられる。 そこで、コンピュータを使うことで素材-の出会わせ方 を操作するのである。 素材はいろいろな属性をもっている。 たとえば、ガラス の属性では固い・冷たい・つるつるしているなどがあげられる。 そして、それ らの属性はある行為に対して、割れる・粉々になる・ひびが入る・ガチャーン と音がするなどの2次属性を持っている。 ところが近年子どもたちの体験・経 験不足により、素材の属性に気づかないこともある。 コンピュータではそれら の属性を分解し再統合して表示することが可能なため、子どもたちが何気なく 見ている素材をこのように提示することで、改めてその素材の持つ要素や性質 を認識させることができる。 さらに、この再統合によって、日常では体験する ことのできない感覚を味わうことができ、これが新たな表現-のイメージ作り に役立つと考えられる。 脳の中では「外界からの入力」である視知覚と、「内からの出力」である記 憶や経験・想像などが、同一ゐスクリーン上でイメージとして形成される。 そ こで、コンピュータ・インターネットを使うことで外界からの入力を操作し、 イメージをより膨らませることを可能にするのである。 外界からの入力である 視知覚は、現実の世界をコンピュータの中に作り出した物(仮想現実)ではな く、現実の世界ではあり得ないことをコンピュータの世界で作り上げて見せる こと(仮想非現実)がイメージを沸かせるには効果的だと考えられる。 コンピュータの進歩に伴って美術の世界もかわりつつある。 美術館に飾ってあ る作品の鑑賞者に向けての一方向的な性格を脱し、鑑賞者が作品に対して働き かけをすることで変化するものから、コンピュータの中で、自ら生命を持ち時 事刻々と変化する作品まで現れるようになった今日、学校教育の美術領域でも、 今までの絵画・デザイン・彫刻・工芸・造形遊びという表現に新たなコンピュ ータア-トという表現方法が生まれてくると考えられる. そして、それらはイ ンターネットを使って公表しより多くの人に見てもらうことが可能になるであ
-119-ろう。 さらに、その表現活動として共同製作も可能となる。 インターネットのデー タ通信機能を使い、一つのサーバー機に個々のパーツを制作した物を送り、そ こで、統合するのである。 インターネットは場所を選ばない。 構成の仕方から 出来上がりまで世界中の誰とでも、制作者が意見を出し合いながら一つの物を 作ることが可能である。 また、メール機能を使い、多くの人と意見交換ができ る。芸術家とも話ができるし、鑑賞教育にも生かせる。 指導者の立場から言う と、美術教育に関する情報交換の場であるメ-リングリストなどの活用も有効 だと思う。 美術教育はコンピュータによって今、大きくかわろうとしている。 そして、 インターネットを使うことで表現という領域がより多くの人に広がるのも確か だ。メディアや視覚造形が拡張している現代、今までの枠にとらわれない表現 方法について、これからさらに探っていくことが必要である。