過疎地域(へき地)における地域資源の発掘と新たな地域振興策の展開 : 北海道・北東北各地における実践事例の現状とプログラムの開発
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(2) No.51. 1997.3. 過疎地域(へき地)における地域資源の発掘と. 新たな地域振興策の展開 一北海道・北東北各地における実践事例の現状とプログラムの開発−. DiscoveringreaglOnalresourcesandnew ● implementationsofreaglOnalpromotion ● policiesinruralsocieties −Casestudiesandtheirprogrammmakinginsomerural SOCietiesinHokkaidoandnorthenTohokuAreaM. 武田 泉(北海道教育大学岩見沢校) 遠藤 陳由(北海道札幌丘珠高校・非常勤講師) IzumiTAKEDA,NobuyoshiENDO. 1 はじめに. 白神山地の自然保護の経過や鉄道事業者の対応について. 都会と田舎の関係には,人口分布の歪みに起因する過. は主として武田が,白神山地の周辺市町村における新た. 疎過密問題などをはらみ,厳然とした経済的・政治的な. な地域振興と環境教育の展開については主として遠藤が. 支配・従属関係という厳しい現実が存在する。過疎化や. 分担し,本稿を構成している。. 老齢化からの脱却をすべく,過疎地域では地域振興策が. 2 北海道内における新たな「田舎」論の展開. 取られるものの,なかなか実効性があがっていない。さ らに「僻地」は,イメージのみならず実態においても,. 1)地域資源の概念と新たな「田舎」の価値. 都市とは明らかな落差が生じている。. ここで,地域資源の概念を明らかにしておこう。まず. 昨年の「僻地教育研究」では,本学岩見沢校で「へき. 資源とは,エネルギーや鉱物・木材など人間・社会に. 地・複式教育実習」が毎年実施される,道北の幌加内町. とって有用な自然物を指し,人間の労働を加えて生産さ. に関する事例として,深名線鉄道廃止の影響や宿泊体験. れた生産物の前段階のものを言う(岩淵,1996)。つま. 施設「ふれあいの家まどか」における各種プログラム,. り,地域資源とした場合,その地域に固有で地域社会に. 大学との交流などの課題について検討した。しかしなが. とって有益な自然的構成物ということになろう。過疎地. らこうした試みは,単発のイベントなどとしては…−−・定の. 域(田舎・僻地)では,自然物たる資源が単に存在する. 成果を遂げている。しかし,都会側に過疎化の課題を把. だけで,加工し有益な形態に変換させることが不足して. 握させ,過疎化に歯止めをかける方向性を示すまでには. いると考えられよう。. 次に,過疎地域・田舎・僻地の各々の概念の関連性は. 至っておらず,きわめて困難な状況下にあることを紹介 した(武田,1996)。. どうであろうか。都市と農山漁村という物理的形態に関. 今回の論稿では,こうした過疎地域(僻地)を一層掘. する対立概念に対して,都会と田舎の関係は感覚的・イ. り下げ,地域課題の実現のためには一体何が必要かを,. メージに基づく相対的な関係であり,明確に定義されな. 新たな戸一田舎観月や街おこし地域教育活動との関係から. い性格の概念と言えよう。こうした田舎も「▲僻地一」とと. 検討する。そして,自然環境などの地域資源の活用がど. らえられた場合,やはり消極的な感が強い。むしろ過疎. のようにされているかについて,学校教育や社会教育と. 地域の積極的な意味は,新たなる「田舎」という概念の. の関係から検討していく。なお,各用語の概念規定,道. 中,都会住民が抱く「田舎志向・自然志向」に表われて. 内の動向の他,近年世界自然通産に登録された北東北・. いるといった方が良いであろう。こうした中で,田舎で. ー109 −−.
(3) 武田. 泉・遠藤 陳由. 臨んだ。倍率の高い「一般事務」ではなく「学校事務」. ある過疎地域の人口定着・定住化を図る前の段階として, 都会住民が田舎の情報に目を向け,交流拡大を図る取組. で受験したため,念願叶って小学校事務職員へと転職が. みが近年盛んになってきている。. 実現した。東京では考えられないような短すぎるはどの 通勤時間,格安で保証された宿舎,身近でビッグなアウ トドアレジャーなど,北海道での「いい暮らし」を満喫. 2)近年の北海道志向と田舎生活. 次に近年,北海道に移り住みたいという,首都圏など. している様が描かれている。さらにこの筆者は,「教員. の大都会居住者が少なくないという。富良野人気の契機. 免許を持っているなら,北海道の教員採用試験は倍率か. となった倉本の「北の国から」は言うまでもなく,テレ ビドラマの題材として北海道が取り上げられることは少. ら考えても,おすすめです。」とも指摘しており,勤務 校において,東京での採用枠がなくて北海道に来た教員. なくない。また,写真家や若者による美瑛の丘人気など,. に関して言及されている点が印象的である(私設北海道. 全国的な「北海道人気」については枚挙の暇がない。今. 開拓使の会,1996)。. 日のこうした北海道への好奇心の背後には,「内地的で はない【」という北海道志向と北海道への移住希望者の存. 3)へき地教育をめぐる本学学生気質. 在がある。例えば,「北の大地に移り住む ト勝編」の. ここで,目を本学学生に転じてみよう。昨年本学岩見. 出版後,有志による私設の北海道開拓使の会では「十百年. 沢校に僻地教育研究施設が移転し,岩見沢校の】一大特色. 遅れの平成のとん田兵_」と銘打って,大都会出身の移住 希望者に助言を行なっている(私設北海道開拓使の会,. として入学案内書等に記載された。そうした事情に敏感 に反応して,岩見沢校への受験生の多くは口を揃えて「へ. 1996)。ただこの本では,札幌圏への移住も含まれてお. き地校への勤務希望」を唱えているという。初等教育を. り,若干割り引いて考えておく必要はあろう。. 中心にへき地校では,個々人にまで良く臼が行き届き,. こうした大都会脱出の考え方がさらに進み,「田舎暮. 特徴的かつ理想的な少人数教育が可能であり,まさに教. らしの本」(宝島社)なる雑誌も出版されるようになっ. 員生活の醍醐味を味わえ得るというのである。しかしな. た。i−田舎生活マニュアル」とでも言うべきこうした書. がら,いざ卒業し教員への就職の時期に達し,さらには. 物では,都会人の立場で発見した田舎(下川町)におけ る新鮮な価値について述べられている(はた,1995)。. 若手教員として教壇に立った時に,はたしてかって抱い ていたような情熱を忘れないでいるのであろうか。. とりわけ,町の潤沢な補助金に支えられた立派な公共施. とりわけ,本学学生の主体を占める札幌など道内都市. 設と少ない人口に伴う低料金・混雑なしといった恵まれ. 部出身者たちは,内心一体どのようなの意識を抱いてい. た利用環境が,「過疎地人(カソチスト)l(南富良野 町)の立場から,切々と述べられているのである(村野, 1992)。いわば,発想の転換による新たな田舎の意義付. るのであろうか。地理学を担当する東京出身の筆者から 場所的移動のチャンスに恵まれていないのではないかと. けである。そうした人達は他方,マイカー・RV車や情. 推察される。それは,こうした道内出身学生のこれまで. 報・通信機器を多用することよって,近隣都市への頻繁. の生活体験は,道内で完結しているケースが多く,道外. なアクセスによっで情報から立ち遅れないようにしよう. への旅行体験が少ないこととも関係しているのであろう。. とし,背後では都会居住者よりも際立った努力をしてい ることも指摘されよう。 しかしながら,移住の際の最大のネックは,その人に. つまり,岳風土性_」という観点からは,歴史の浅い北海 道内ほどこでも大差はなくほとんど等質的であり,生活. 合った職場の確保である。一般企業に関しては,経済活. 次に新任教員の人事は,へき地校配属となるのが通例. 動が都会に集中している関係で,移住はきわめて困難な ものである。農業・酪農にあこがれて入植・新規就農す. である。近年は,道内出身者を中心に僻地配属を嫌い都 会転勤を強く望む傾向が強く,3年ほどの期間が経過す. る場合は別として,田舎や地方にも存在するのは公的な. るとできるだけ人口の多い都市圏へ異動を希望すること. 行政機関となろう。中でも,広くあまねく存在する「学 校」は,田舎暮らし志望者にとって大変魅力的な存在で. が多いという。こうした意識は,rへき地へ飛ばされる一j. あることが指摘されている。例えば,東京都武蔵野市か ら十勝の広尾町に移住した公務員の場合,学生時代の北. さらには,本学学生が過疎地域の実態を知ることには,. 海道旅行において現在の夫人の出会いの場となったrr桃 岩荘ユースホステル」(礼文島)などでの感激が忘れら. る。現行の「へき地・複式教育実習」は,教壇実習など 学校内での活動が主体であり,大変貴重な体験である。. れなかった。旅行体験を移住に直結させるのは危険でも. だが,その他に地域社会との有形無形の関わりについて. あるが,チャンスを果たすべく道内の地方公務員試験に. は,地域教育活動の調査が行なわれた創早期と比べても,. 見た場合,首都圏の同世代の学生と比較しても地理的・. 体験としての変化に乏しいのであろう。. という表現に端的に示されているという(玉井,1996)。. 十分とは言えない側面もあるのではないかとも推察され. −110.
(4) No.51. 過疎地域(へき地)における地域資源の発掘と新たな地域振興策の展開. 父兄の一部など地元の人から歓待を受けることに限られ. めた内容である。さらに後者のエコツーリズムでは,自. るのではないだろうか。結局のところ,実習生にとって. 然保護地域の荒廃や観光客による損傷の防止が重要な要. は過疎地域のごく表面を垣間見るに過ぎないのかもしれな. 素となっており,自然保護活動自体をプログラムとする. い。. ことも散見されるようになってきた。. 1997.3. さらに近年,前述した北海道における教員採用試験も 従来とは様変りし,採用数の減少から名簿登録への難易. 5)道内における特徴的事例の紹介. 度が「本土並み」に達するようになった。このため,本 学でも全学的な就職対策・改組が課題として浮上するさ. 例えば道内では,自然自体の価値を再発見し保護活動 の拠点とした,道東音別町の直別キナシベツ湿原でのネ. 中,道教委担当者からは次のような発言も耳にするよう. イチャーキャンプ活動などの事例も存在している。この. になった。つまり,むしろ「内地_jの都会育ちの他都府. 音別町は,太平洋に面する釧路・十勝の境界部にあり,. 県出身者の方が,へき地校教員として短期間のうちに転 勤せずに過疎地域に溶け込むケースが散見されるように. 炭鉱や農林業(酪農・道有林)の衰微で,新たな失地回 復策として企業誘致を行なっていた。大塚製薬「オロナ. なってきたとされる。このことは,北海道内をはじめと. ミンC工場」などが進出したが,それは開発は進んでい. する過疎地域における,新たに形成された価値や資源へ. なかったことから,良質の水源が存在したことが大きく. の興味・関心が,中央の都会出身者の方がたけていて,. 作用したという。キナシベツ湿原は,国道・鉄道から海. 道内居住者の方が気付かないという「 ̄燈台元晒し¶」の状. 岸よりのため農地開発の対象にならず,放置されていた. 況にあるのではないだろうか。. ため自然が残っていたが,柵がなくオフロード車などが 侵入していたという。釧路ラムサール会議でのNGOつ. 4)「 ̄グリーンツーリズム▼」と「エコツーリズムJの. どいを契機に湿原のw−−一部を所有する酪農家榊原さんの努. 力によって,日本ナショナルトラストの登録地となった。. 概念. また,ネイチャーワークキャンプや活動拠点(宿泊棟). これまで述べてきたように,北海道など田舎への移住 の前段階として,田舎への都会との交流が挙げられる。. の建設により,本州の学生なども参加して保全活動ワー. 単なる物見遊山の短期間の観光ではなく,長期滞在の形. クキャンプがなされるようになった。こうしたエコツー. 態である。このうちグリーンツーリズムは,我が国では. リズム活動に対して,地元住民は当初批判の声もあった. すでに二十年来の歴史を持つが,今日バブル期の大規模. が,最近は次第に理角牢・認知されるようになってきたと. リゾート開発の反省に立ったオルタナティブとして,再. される(日本ナショナルトラスト,1995)。 一方,道南地方では農家民宿のネットワークづくりが. び脚光を浴るに至っている(依光他,1996)。. 手掛けられている。登別温泉にはど近い新登別地区で,. グリーンツーリズムとエコツツーリズムは,両者とも 農山村における「草の根型」の取組みである点は共通し. 民宿「風の谷」を営む小林直子さんは,ファームインと. ているが,想定している内容は微妙に食い違っており, 両者の概念を混同した書物も出版されている(脇田他,. して農業体験を通した都会住民との交流を模索している。 小林さんが主婦から転じて農業に挑戦したのが,12年前。. 1996)。このうちグリーンツーリズムは,「都会の居住. 室蘭地区の鉄道員だった夫が,分割民営化を前にした国. 者が農山村の民宿・ペンションなどに宿泊・滞在して,. 鉄の広域配置転換で東京のJR東日本社員となり,単身. 農村生活や農林業の体験をしつつ,田園風景やふるさと. 赴任・別居生活を余儀なくされた。このことが,小林さ. 的生活に親しむ余暇活動を行なうことで,地域の人々と. んが新たな道へと歩ませた。当初は養鶏を行なっていた. の交流にも資するようにしようとするもの_」である(依. が,限界を感じて中止。−−一一家でネパール旅行に出掛ける. 光他,1996)。そして,比較的安価に自然と文化の融合. など行動力がある小林さんは,壮瞥町に確保してあった. した内容を楽しめることが】・般的である。他方エコツー リズムは,「自然環境へ人間活動のインパクトを極力押. 畑を体験農場「てスパラ畑」とし,新登別の母屋を農家 民宿とすることを思い付いた。都会と交わる場,ドイツ. え,自然保護と観光の共存を目指そうとする自然に優し. のようなファームインを実現しようとしたのである。民. い観光形態であり,自然の理解と観光収人の地元地域振. 宿は,道内としては比較的温暖な登別をアニメ「風の谷. 興へ活用や雇用促進が期待されるもの▼」である(日本自. 然保護協会,1995)。こちらは,主として欧米で自然保. ナウシカ」に見立て,r風の谷」と名付けた。夏を中心 に全国各地から若者など宿泊者がやって来て,搾乳・草. 護運動家などによって行なわれてきた「エコツアー_」が. 木染め・芋掘・アイスクリームづくりなど,農業にちな. その中心にあり,プログラムの企画・開発や実践につい. んだ田舎生活を満喫して帰っていく。 小林さんの次なる目標は,道内農家民宿のネットワー. て大きな関心が払われてきた。エコツーリズムの拡大 バージョンが,. 地元での自然のみならず文化的要素も含. クづくりである。手始めに「道南ファームイン研究会準. ー111【.
(5) 武田 泉・遠藤 陳由. 図1本稿で扱う道内の事例の分布(全道のファームインの分布を含む)《1996.8 現在》 (道庁農村計画課資料を一部改変). 備会」が結成され,「ふるさと探し農村滞在マップ」と. 民宿とは,ユースホステルの男女別相部屋の形態である. 題した黒松内や赤井川など道南7軒の施設紹介のパンフ. が規則はそれほど厳しくなく,安宿情報誌「とほ_」に掲. レットを作成した。現在,農家民宿が比較的集積した地 域は十勝の新得町付近や網走管内などであり,他の美唄 ・深川・江丹別(旭川市)などは散在しており,今後は 情報発信機能を高め,とかく散在しがちな農家民宿をよ りポピュラーな存在にしたいと小林さんは語る。 こうした取組みを支援する北海道庁農政部では,農業. 載された宿を指す(武田,1991)。これらは,かつて旅. 経営多角化の一環として「 ̄農村滞在型余暇活動に資する. も指摘する。この点で農家民宿は,地域との関わりを持. ための機能の整備に関する基本方針〟」を策定して,ファー ムインの事業化のために積極的に支援している。道庁の. ち自らの土地・経済を次世代に受け継ぐところに意義が. あるとしている。北海道各地に立地する多様な宿泊施設. 農村計画課が主体となった農村ホリデー推進協議会では,. での滞在の中から,新たな時代にふさわしい新たな価値. 行者として北海道に魅せられた人で,ユースホステルで. のヘルパー(アルバイト)では飽き足らず,自ら宿屋を 開業してしまったものである。小林さんからすれば,こ うした宿屋は,個性的なオーナーがアーティスト気取り で自らの人生を措くべく運営しているのではないか,と. 「つアームイン通信」の発行や,「農村ホリデーフォー. を汲み取っていく必要があるのであろう。. ラム▲_」の開催で,開業のための手続き・諸制度,経営指 標,都市住民のニーズなどの情報提供や情報交換を行な. 3 地域資源の発掘と環境教育への展開一世界遺産登. い,ネットワークづくりが推進されている。. 録を契機とした白神山地山麓・秋田県八森町の場合. 農家民宿とは異なるが類似したものとして,若者向け で安価なライダーハウス,ユース民宿(「とは」宿)な. 1)白神山地と世界通産登録までの経過. 自神山地は,青森・秋田両県境の標高1,000m∼1,200. m程度の山地で,高山帯や火山を有さないことから,山. どが北海道特有の宿泊施設が存在する。このうちユース. ー112 −【.
(6) No.51. 過疎地域(へき地)における地域資源の発掘と新たな地域振興策の展開. 鯵ヶ沢町′. ′ −111、■l−−. 至岩崎 津軽国定公園. 1997.3. l日弘西林道. ′J・■1.t一t︰−. 世界自然遺産 登録地域は林 野庁が設定し た森林生態系 保護地域を基 に、同じ地域 が設定されて. \●− tl−. 西目屋村. 赤石渓流 県立自然公. い る。. 1−−. 凡 例 ノ・γぺ●r. 秋林道計. 画綴 ▲尾太岳ヽ. 毒 ′一一一 ̄ ̄●. 主な林道 森林生態系保革地域 コアエけ(複心地域). 地温「森禁芝警書 みまち坂藤里峡 県立自然公園. /\. 8 ′ 5. ′′\、兼汝里ダム t. 10 Km. 至藤里. 図2 白神山地位置図 (各種資料より執筆者作成) 岳景観としては変化に乏しく,従来自然公園法に基づく. ナなどの広葉樹天然林は,保水力など水源滴養能力には. 国立・国定公園に指定されず,観光客に注目されること. 優れているものの,木の成長が遅く,木材生産の立場か. はほとんどなかった。自神山地に隣接して,津軽国定公. らは効率の悪い樹種であった。独立採算の国有林特別会. 園(深浦海岸,十二湖など),赤石渓流暗門の滝県立自. 計の悪化により,青森・秋田両営林局当局は,白神山地. 然公園(青森県),きみまち坂藤里峡県立自然公園,八 森岩館県立自然公園(秋田県)などが指定され,素波里. の奥地に大規模な林道を建設して天然林を大規模に伐採. すばり. し,スギ・ヒノキなどの人工林に樹種転換しようとした。. 湖畔にビジターセンターを有していた。しかし,観光地. このように当時,自神山地におけるブナ原生林や生息す. としては県内客を集める程度であり,全国的な知名度を. る貴重動植物などが有する貴重な価値は,山中で生計を. 有するものではなかった(図2)。. たててきたマタギや∴部の登山愛好者など,ごく一部の. また,県境に位置する本地域は,両県庁所在地から隔. 人々に認識されているに過ぎなかったのである。. 絶しており,県境を越えた交流にも恵まれていなかった。. この地域で最初に建設された大規模な林道は,弘前市. 方面から内陸を鯵ヶ沢に至る,旧弘西林道である(現在. 社会・経済的にも「辺境地域」的性格を有するなど,行 政施策的にも恵まれていなかった。白神山地関連自治体. おつぷ は県道に昇格)。次に,青森県西目屋村の尾太鉱山から. として,秋田県側では山本地域の八森町,峰浜村,能代. つるべおとしたいら 県境の釣瓶落峠を越え秋田県藤里町太良鉱山に抜ける林. 市,藤里町,ニッ井町等が(前3者が日本海に面する),. 道(奥地産業開発道路)の建設が計画され,現在は完成. 青森県側では日本海側の西津軽郡岩崎村,深浦町,鯵ヶ. し両町村は袋小路から,通り抜け可能な状況へと移行し. 沢町,内陸の西目屋村があり,その東に中心都市・弘前. ようとしている。そして白神山地の核心部を横断する大. 市が立地している(図3)。. 規模な林道が肯秋林道である。白神山地の世界自然通産. 白神Lll地は,江戸時代には津軽・秋田両藩の藩有休と. 登録までには,林道建設が地域に及ばす短期的な経済性. して厳しく管理され,明治以降は国有林に編人された。. の追求か,長期にわたる自然破壊かをめぐって,各方面. 第二次世界大戦後は拡大人l二造林政策の▲環として,奥. から多様な議論がくり広げられた。この議論は従来見ら. 地に位置する自神山地は自然公園法による規制もなく,. れたような,主として都市居住者(環境保護団体)と地. 景観上も価値を認められずに,伐採の対象とされた。ブ. 元行政・有力者といった単純な対立構図にとどまらず,. ー113 一.
(7) 武田 泉・遠藤 陳由. 図3 白神山地広域圏図 (各種資料より執筆者作成) 地元住民各層を巻き込んだ広範な議論となった。ここで,. 対し反対を表明し,翌1983年1月には,「白神Lh地のブ. 議論の経緯を概観しておく。. ナ原生林を守る会▲【も設立されている。一一方青森県側で. 1982年3月,広域林業圏開発を目指し,この地域のほ. も,「青森県自然保護の会」と「日本野鳥の会弘前支部J. の2団体が,1982年7月青森県に反対の意見書を提出し,. ぼ中央を縦断する県境峰越しの広域基幹林道「青秋線」. (森林開発公団施工)建設計画が発表された。起点の青. 翌1983年4月にはぎ青秋林道に反対する連絡協議会_」も. 森県西目屋村(旧弘西林道大川出口)から,秋田県八森. 発足している。こうした地元の迅速な反応に,中央の自. 町(旧淘川林道終点)に至る総延長29.6km計画で,当初. 然保護団体(日本自然保護協会)も反対を表明した。こ. は地元経済の活性化,林業の振興,津軽圏との交流を意. の背景には,高度経済成長による環境破壊に伴う天然林. 図したものである。この計画は,1982年から10年間で完. 伐採への反省という時代的要請も影響している(1996:. 成させる予定で,国有林を管理する林野庁は,同年4月. 井上)。1980年代後半になると,「白神問題」は議論が. 事業計画を承認した。この計画に対し,「林道建設に着. さらに展開し,秋田県は独自に実施した自然環境調査報. 工すれば,周辺のブナ林の伐採に及び,貴重な原生林は. 告書の公表に踏みきった。すでに自然環境保全地域の第. 喪失する。伐採により白神山地のブナ等の広葉樹を中心. 5次指定候補地として,秋田・青森両県と協議の最中で. とした森林の水源商養・保水能力は低下し,周辺町村の. あった。1986年4月,青森県議会は自称1」地を自然環境. 利用する飲料水や農業用水の枯渇,豪雨時に水害の影響. 保全地域指定を要請する請願を採択する。同時に秋田県. が出る。」と地元の自然保護団体はただちに行動を起こ. 側でも,1自神L1」地のブナ原生林を守る会†が,県知事. した。. に同様の働きかけをしている。こうしたさ中,青森県側. 反対運動は当初秋田県側が先行し,「秋田自然を守る. では保安林指定解除申請に青森営林局(林野庁)が同意. 友の会」と「秋田県野鳥の会jは1982年5月,秋田県に. した。その後,自然保護団体を中心に保安林指定解除ベ. ー114 、.
(8) No.51. 過疎地域(へき地)における地域資源の発掘と新たな地域振興策の展開. の異議を申し立てた意見書13,202人分が提出されるに. に接続したミニツアーを企画し,深浦に長時間停車中の. 至った。. 同列車に追い着くプランも提示されている。しかしなが. これらの林道建設反対派の活動の結果,1989年1月,. 1997.3. らこの列車の秋田発は10時で,東京発の秋田ミニ新幹線. 育秋林道建設はついに凍結される。その後1991年10月,. 「こまち」には接続せず,宿泊や夜行列車の利用を強い. 林野庁は自神]」地など全国7か所に,知床伐採問題を契. られるダイヤであるなど,課題も少なくない。八森町内. 機に設置されたぎ¶■林業と自然保護に関する検討委員会」. でも後述のハタハタ館前に五能線の新駅を設け(滝ノ間. により打ち出された森林生態系保護地域(通達)を設定. ∼岩館間;1997年10月1日開業予定),新駅近くにプチ. し,ユネスコMAB(Manand Biosphere)計画に基づ. ホテル「つォルクロール」を建設し,JR東日本の新た. き,コアエリア(核心地域)とバッファーエリア(緩衝. な観光開発拠点とする構想が企画されている。現に八森. 地域)に地域区分を行った。このゾーニ. 町役場にJR東日本出向職員を受け入れていることも,. ングを基本に,. 環境庁も1992年7月,自然環境保全法に基づき,自然環. JR東日本と地元自治体との新たな協調関係の模索の−¶一. 境保全地域を公示した。そして10月,世界過度条約批准. 環と考えられよう。しかしながら採算を追求する特殊会. を受け,白神山地が世界通産へ登録申請され,翌1993年. 社・JRの事業活動が,どこまで白神の自然や地元地域. 12月にユネスコ世界通産委員会が】白神山地】」を自然通. を理解したものであるかに関しては未知数であり,今後. 産として世界遺産リストへ登録が実現した(図2)。つ. の展開が注目されるところである。しかしながら,五能. まり,ブナ天然林の伐採を進捗させる青秋林道建設計画. 線の乗客減少は現在も進行しており,さらには自神山地. に対する自然保護団体等による反対運動の結果,規制強. への人気と十分にリンクするには至らず,どこまでl一エ. 化策として自然環境保全地域,森林生態系保護地域が指. コツーリズム」を追求しているかも不透明であり,厳し. 定された。当初案では,登録地域はより広い地域の指定. い現実にあることには変わりない。. を目指したものの,種々の調査の結果,既に自然公園に. 従来,基幹産業が漁協と林業であった八森町では,総. 指定されている箇所の除外など,かなり限定的な指定に. 人口が5,304人(1992年現在)と漸減している。しかし. とどまる結果となっている。その結果,登録地域の外側. ながら,世帯数においては,過去10年間て㌣一担減少しな. では今だに天然林の伐採も行われている。またコアエリ. がら,1989年を底に増加している。町の総面積は119.6. アへの立入・入山に対し,青森県側と秋田県側では地元. k戒で,うち83.4%を山林が占め,山林のうち67,4%を民. 関係者を含め対応に異なりが認められるなど,解決され. 有林(日本生命社有林など)が占めている。また,町域. るべき課題は少なくない。. での民有林が国有林の約2倍の面積であるが,安価な輸 入材に押されて伸び悩んでいる。また同町は,かつては. 2)自神山地と八森町など地元自治体やJRとの関係. ハタハタ漁など沿岸・沖合漁業の基地であり,秋田音頭に. 八森町は秋田県の日本海側北端にあり,北に青森県西. も歌われるほどの活況を呈した。しかし,漁獲量は,200カ. 津軽郡岩崎村と接する(図3)。国定公園である景観の優 れた断崖の海岸線と平行に,五能線(鉄道)と国道101. イリ問題や資源収奪型漁法により,年々減少している。. 号が南北に貫いている。. みという,典型的な過疎の町の様相を呈している。八森. 本地域を南北に縦貫するJR五能線は,今日では採算 性の乏しい典型的な赤字ローカル線である。1989年以降. 町にとってこうした状況の打開策として,多額の補助金. このように八森町は,人口の減少と基幹産業の伸び悩. に依存した大型公共事業(土木工事)に町の活路を求め. この路線では,日本海の波打ち際も走る風光明媚な車窓. ようとし,肯秋林道建設計画を誘置しようとした。結果. を都会からの乗客に見せるべく,JR東日本秋田支社の. 的に,八森町は自ら登録地域は有さないものの,新たな. 肝入りで眺望列車「ノスタルジックビュートレイン−」を. 「世界的価値」に隣接する関係で,【一躍†▼全国区」となっ. 運行していた(図4w−1・2・3)。しかし,乗客減少. たのである。. 1993年12月の世界自然遺産登録を契機に,地元の各自. が進み,さらには車両・運行形態の効率化の要請から, この車両は1996年限りで引退した。これに代えて1997年. 治体は自神山地に対して新たな価値を見出すことになっ. からは,秋田ミニ新幹線の開業と同時に気動車を改造し. た。林業・木材生産としては価値の乏しいブナの天然林. トトレインしらかみ号→」(図4…4)の運行. も,森林生態系としてはきわめて高い価値を有する。さ. が予定されている。この列車の運行に際し,JR東日本. らにそうした高い価値を,地元地域は「世界的」な知名. 秋田支社は,五能線の活性化には地元の協力が不可欠と,. 度を看板として来訪者・観光客の増加という経済的利益. て「 ̄リゾー. 様々な対策を求めてきた。沿線自治体では,この列車に. として活用しようとした。地元自治体は地域振興を目的. 津軽三味線演奏家を乗せてライブコンサートを開いたり,. に,施設建設など様々な事業が活発化している。. 各自治体においては,登録地域の有無,市街地から登. 十二湖を抱える岩崎村が村のマイクロバスを出して列車. −【115 ¶.
(9) 武田 泉・遠藤 陳由. q図4−1 「ノスタルジックビュートレイン」. の初日出発式の模様 (弘前駅1990年4月28日;武田撮影). 図4−2▽ 「ノスタルジックビュートレイン」 の深浦駅での交換風景 (1990年8月2日;写真中央が武田). 午前九時卜一分発の一番列. マニアや観光客が乗り込ん. 車には県内をはじめ、全国の. ︵人○︶は. でいたが、横浜市から来たと. 息子に教えられて友達と弘. 「. いう武田てるさん. 釆ました。西海岸は景観が素. す.と話していた。. 晴らしいというので楽しみで. 前さくらまつり観光を兼ねて. 眺望列車出発進行」. 「JR. 図4−3 陸奥薪報の報道(1990年4月22日付,一部). 」R東日本では,平成9年4月一日からスタートする「秋田デステ ィネーションキャンペーン」にあわせて五能線にリゾート列車「リゾ ートしらかみ」の運転することを決定.このほど使用車両の完成予. 室内はい4号辛が2人掛回転リクライニングシートを装備する一. 想イラストを発表された.気動車4両から改遺されることになって. 般座席車.横車構遁を清かした↑通式運筆云台をもつ2・3号辛が簡. いるこの「リゾートしらかみ」は,クルージングトレインとされたコ. 易個室車とされている.この「リゾートしらかみ」は平成4月=ヨか. ンセプトどおり日本う毎の眺望が楽しめるよう全車ハイデッカー構造. ら.秋田一弘前間を五能線経由で】日l往復廻云されることになっ. となっており,大形前面窓をもつ先演車にはラウンジも言受けられる.. ている.. (半群斗・イラスト捷供:」R東日本). l号事(指定席睾/宏1仙名). 2号書(相克簡易佃王手/尭■32名). 3号斗(指定簡易佃董1/走Å32名). 4号+(讐通稚走/走1ヰ0名). 図4−41997年4月より運行が開始された「リゾートトレイン しらかみ」号 (出所:鉄道ファン Vol.432). 116 一−.
(10) 過疎地域(へき地)における地域資源の発掘と新たな地域振興策の展開. No.51. 表1 八森町の観光入込客数 年 次. 表2 八森町の観光施設. 入込客数(人). 名. 365,697 387,876 362,727 633,084 628,662 658,938. 1991. 1992 1993 1994. 1995 1996. 1997.3. 開館年月. 称. 1.八森ぶなっこランド 2.ハタハタ館 3.八森湯っこランド 4.お殿水(道の駅) 5.観光市(毎週土曜日開催) 6.鹿の浦観光案内所. (八森町資料による). 1990.2. 1994.3 1991.1 1994.8. (八森町資料による). 録地域へのアクセス,道の有無などの地理的交通条件,. 所の台),湯っこランドは,遺産地域登録の前後に着工. さらには,従来からの観光資源の有無,登録後の施策の積 極性などの相違が影響し,対応に違いが生じている。まず. は八森ぶなっこランド(正式名称:森林科学館)で,国. 秋田県内では,唯一の登録地域を抱える藤里町が,施設面. 道101号から真瀬川に沿って上流に約2.8km上った三十釜. では「ゆとりあ藤里」などを建設している。しかし,それ. に立地し,1992年9月にオープンした。. ・オープンしたものである。このうち白神山地関連施設 さんじゆつかま. らはスパハウスなどハードの施設であり,雇用面での一定. この館は,森林の有する機能と役割について広く普及. の効果はあるものの,来訪者に自神の自然を普及させるに. 活動を行い,併せて地域森林の総合的利用の促進を図る. は不十分である。青森県側でも,世界自然遺産登録を契機 に観光施設が建設され,西目屋村ではオートキャンプ場. 層を対象として,体系的な学習,実物との触れ合い,生. 「アクアグリーンビレッジANMON巨や温泉宿泊施設「ブ. 産活動等の体験などができることを想定した「体験活動. ナの里 白神館」,ヘリコプクー遊覧飛行などが行われて. 学習の場」として町は期待している(図5)。秋田県農. いる。岩崎村,深浦町,鯵ヶ沢町では従来からの観光施策. 政部林政課が整備した森林科学館の展示内容は,自神山. があり,新たに白神山地に直接関係する施設を建設する事 例は少なく,わずかにブナ館(鯵ヶ沢町;建設予定)があ. 地の模型や自神山地の四季など,ブナに関する資料が主. るのみである。. バーベキューハウスは町が建設・運営している(図6)。. ことを目的に設置された。幼児から高齢者と幅広い年齢. 体である。その他の周辺施設一木工体験館,渓流観察館,. このように、立地条件によって各自治体の対応はまち まちである。八森町のように、世界自然通産の指定地域. 4)八森町における環境教育の取り組みと課題. を全く有さない自治体でも,アクセスの良さから登録の 経済効果を受容できた自治体がある−一方,アクセスの良. 触れたい。先述の観光施設などハード面の施設整備に対. くない深浦町,鯵ヶ沢町のような登録の効果を十分受け. して,自然・地域解説,環境教育(学校教育,社会教育). ここで,八森町における環境教育の取り組みについて. 入れられない自治体も存在し,地元にとっての「白神効. 等は,ソフト面での対応と言える。. 果」の不平等が生じている。. ① ぶなっこ自然環境指導員 八森町では,自神山地の解説者として「ぶなっこ自然. 3)八森町における自神関係施設の動向. 前述のとおり登録地域に隣接する八森町は,経由地と して市街地から登録地域方面へのアプローチがしやすく, 来訪者を最も集めやすいため(表1),自神山地の来訪 者が立ち寄る頻度が高い。慢性的な過疎に悩む八森町に とって,この登録は自らのPRを含め自神山地に関連す る施設を建設する絶好の機会となった。しかし,このこ とは,逆に来訪者の八森町での滞在時問を短くし,通過 型観光地となるとも考えられる。自動車での来訪であれ ば,事実上半日コースであり,宿泊は近隣の市町村へと 流出するケースが少なくない。このため,来訪者の滞在 時間の延良化・長期化と宿泊施設の整備が同町の施策に. 求められる。 ここで八森町における観光目的の主要施設を示す(表. 図5 八森ぶなっこランドにおける主催行事(木工教室). 2)。このうち,八森ぶなっこランド,ハタハタ館(御. (北羽新報97.1/16による). 117.
(11) 武田 泉・遠藤 陳由. 図6 八森ぶなっこランド施設配置図 (八森町資料による). 図7 八森町の学校・社会教育施設位置図 (各種資料より執筆者作成). 【118 −−【−.
(12) No.51. 過疎地域(へき地)における地域資源の発掘と新たな地域振興策の展開. 環境指導員」を委嘱している。町独自の環境指導員(任. 1997.3. 表3 居住地別 ぶなっこクラブ登録金具数(1996). 意)であり,1997年1月現在,町民23名が登録しており,. 個人会員(人). 登【Ll者は料金5,000円程度(1名につき)でガイドを依. ファミリー会員(組). 居扇. 居住地. 頼できる。環境指導員の職業では,その活動が日中に集. 登録数. 秋八森町. 中するため自営業者が多く,職種も様々である。この制. 些八森町以外. 田. 県 八森町以外. 度は,藤里町とともに肯森県に先駆けた制度である。. 青森 そ. ② ぶなっこクラブ ュ. ぶなっこクラブとは,八森ぶなっこランド(森林科学. の. 他 群馬. 担. 館)が主体となって会員を募集している団体である。設. ロ. 】. 1. 県. 立の趣旨は,1993年に自神山地が世界自然遺産に登録さ. 一. 登録数. れたのがきっかけで,同年12月,森林の持っ多様な機能. 田. 3 秋 八森町. H. 7. 田. 四 招賢十. ロ [ニ. ロ. 神奈川. ロ. 合計数. 臣 1 他 愛知 王 1 宗芸嘉要. 3 の 【. u 兵庫. 合計数. 27. を理解するとともに,自然とのふれあいを深めるために. 22. (八森町資料による). 設立された。会員の募集にあたって,まず森林科学館の. 入館者名簿を基に,入会案内を発送している。加入期間. しては,次のようなイベントがある(表4)。小学生を. は単年度(翌年の3月31日まで)であり,個人会員3,00. 対象にした「ぶなっこ自然教室」では,隔月の第二土曜. 0円,家族会員5,000円である。会員の特典としては,入. 日に,学校から離れた校外学習としても意義深い。この. 館料無料,各種イベントの参加,情報の提供,情報誌『ネ. うち,小学3年生から6年生までを対象とした行事では,. イチャーFUREAI』の発行などである。しかしなが. 4∼5月にかけてはシイタケのコマ打ち,12月のクリス. ら1996年度は,会員加入数は個人会員27名,家族会員22. マス用リース制作,11月の炭焼き体験が行われている (表4)。なお,小学生低学年では,生活科の一環とし. 組と,いまだ多数には達していない。会員の分布は秋田. 県内が中心で,都会居住者は余り見られない(表3)。. て町のバスを利用した町内見学が行われ,この時は環境. このことは,こうした地元発信のソフト事業は必ずしも. 指導員が同行する。. 全国的広がりを持つには至っておらず,地方の過疎地域. −一一方,八森町教育委員会の取り組みとして,1994年文 部省の環境教育推進モデル町の指定を受け,1年間取り. における情報発信の困難さを浮き彫りにしている。 また,1996年度における八森ぶなっこランドの行事と. 組んだ実績を有する。町内には小学校が3つ,中学校が. 表4 八森ぶなっこランド主催の年間行事 実施月 日. 行 事 名 称. H8.4.7. きのこコマ打ち体験. H8.5.26. 自神山地自然観察会. H8.6.8. ぶなっこ自然教室. H8.6.16. 木工教室. H8.8.4. リバーウォッチング. 行 事 内 容. (八森町資料による) 対. 象 参加予定者 50. きのこホダ木にタネコマ打ちを体験する 一般 白神山地のブナの新緑を観察. ニッ森の山頂に咲くミネザクラを鑑賞. 【・・一般. 30. 小学4∼6年生. 20. 小学生又は親子. 真瀬川の水生昆虫及び川辺の植物観察 一般. 30 30. H8.8.16. 木工教室. 小学生又は親子. 30. H8.9.14. ぶなっこ自然教室. 小学4∼6年生. 20. H8.10.12. ぶなっこ自然教室. 小学4∼6年生. 20. H8.10.13. 自神山地自然観察会. ¶一般. 30. H8.10.12∼13. ぶなっこフェスティバル 自然観察会,ぬいぐるみバンドと遊ぶ, デイキャンプ大会,開所記念と紅葉鑑賞. H8.11.10. 炭焼体験. H8.12.1 H8.12.8. リース創作 リース創作. 自神山地のブナの紅葉を観察. 一般. 500. 炭焼体験,木の葉の観察会. 80. ツルを利用したオリジナルリース創作 一般. 30. ツルを利用したオリジナルリース創作 【一般. 30. H9.1.15. 木工教室. 小学生又は親子∃. 20. H9.2.8. ぶなっこ自然教室. 小学4∼6年生. 20. H9.2.9. かまくらを作る. 雪と遊ぶことをテーマにかまくらを作る 小学生又i. 30. H9.3.8. ぶなっこ自然教室. カンジキの履き方,冬芽の観察. 20. −119 一−.
(13) 武田. 泉・遠藤 陳由. 1つ存在し(図5),その全てが実践協力校となり体験 的な環境教育を行っている(八森町,1994)。さらに,. 域的取組みの事例を基に検討した。この中で,イメージ. 単年度で終わらせないため,1995,6年度は,町から資金. 係として,北海道人気と道内への移住,道内の農家民宿, グリーンツー リズムの動向,道内や北東北の自神山地に. としての新たな「田舎観」や,都会と田舎との新たな関. 援助を受け,引き続いての取り組みを見せている。環境 庁の「エコクラブ」には,八森町から4団体が加入して. あける地域振興策が新たな環境教育やエコツーリズムの. いる。しかしもともと同町は,以前から環境教育に比較. 展開につながり得るかについて,検討を行なった。. 的熱心であり,環境教育が叫ばれる前から,様々な取り. 道内におけるグリーンツーリズム等の事例では,北海. 組みがなされてきた。手引き書として「八森の自然」が. 道という新開地が持つ新たな価値観に基づいて,奇想天. 作成され,同書を利用したふるさと教育を1974年から実. 外なアイディアなど発想の転換に起因して,地域におい. 施している実績を持ち,ニッ森(1,086m)への親子登. て新たな振興策の展開がなされていることを指摘した。. 山会も毎年実施している。しかしながら,同書が理科的. つまり過疎地域においては,自然環境や地域文化などこ. な自然解説を主眼としており,社会的責務を含めた今日. れまで誰もが見向きもしなかったような新たな地域資源. 的な環境問題の解決への方向性についての記述は必ずし. も明確ではないことや,従来から環境教育の具体的な活. の発掘は,まさしく価値観の転換であり,新たな地域振 興策として展開が可能なのである。地域や施設が,交流. 動とされてきた海岸や登山」道の清掃作業よりも,白神や. により注目された次の段階としては,地域独自の魅力の. 地域の自然とは関係のない天体の観察会を行っている。. 確保と情報発信での工夫により,入り込みの安定化や,. このように,子どもの期待する内容と教育委員会が意図. 移住者を受け入れる素地を作ることが必要となろう。 白神山地山麓自治体に関してでは,「世界自然遺産へ. した内容との問にギャップが少なからず存在している。. の登録_j という全く新たな事態が,地域にいかなる影響. をもたらしているのかについて検討を試みた。直接的な. 5)八森町における白神登録後の人的交流とその課題. ここで,「▼自神効果」の八森町への影響について,人 的交流などソフト面における最近の動向について,若干. 「白神効果」としては,登Lh者や自然探勝者など県外客 を中心とした来訪者の急増と,周辺自治体による地域振. 触れておきたい。まず,地元産品の都会への販売活動と. 興を主目的にしたハード施設建設を中心とした観光開発. して,「ふるさと宅急便」(町産業課)や「海鮮紀行」. がまず取り組まれた。しかしながら過疎地域が従来,こ. (漁協による海産物セット)があり,主として東京方面. うした降って湧いたような新たな自体に対して,地元が. で地元出身者で構成された「秋田八森会」(会員数約50. 明確なビジョンを持って対処したケースは,あまり例が. 名)を通じて発送されているという。しかしその販路は,. なかったのではないだろうか。自然環境などの限られた. 現在のところ会員とその知人に口コミで広がっている程. 地域資源は,長期的に有効かつl ̄賢明な川一利用をする必. 度であり,不特定多数の都会住民にまで達してはいない。. 要がある。この場合,「エコツーリズム」の理念の導入. またエコツアーとしては,「白神探検隊」(町企画振. により,人的交流を契機とした地元住民の意識改革と,. 興課)が年4回ほど企画され(1996年度),そのプログ. 地元への利益確保の方策などが必要となってこよう(井. ラムとしてニッ森登山(1,086m,バッファーエリア). 上,1996;鬼頭,1996)。とりわけ,宿泊施設などハー. などが実施された。このツアーには東京方面からのナ. ド面の整備は,自然発生的なものを除くと,個々の自治. チュラリストを主体とした参加者があり,1パーティを. 体が競って施設建設に邁進している光景ばかりが目立ち,. 15名程度に限定し,ガイドとして前述した地元居住者の. 地道な人的交流や圏域内での交流は後回しにされている. 感がする。むしろ,地域全体が協力して自治体ごとに必. 「ぶなっこ自然環境指導員_!が同行している。こちらの. 企画はリピーターも見られるなど,今後の地元との新た. 要なものは何かを真剣に考える必要がある。. さらに学校教育や社会教育を想定した場合,今後の環. な人的交流の契機ともなり得るものである。しかしなが. ら,八森町への都会からの移住者受け入れまでには,現. 境教育のあり方として,従来の経済効率追及の姿勢から. 在のところ至っていない。地域活性化の究極目標である 人口増への道程は,やはり厳しいのが現状である。. の転換を迫るものであり,自然との共存や人間らしさの 回復にあると言えよう。環境教育は,今日的トレンドと. 4 考察一過疎地域における今後の自然環境資源. 打ち出すまでには至っていない。子どもサイドのニ…ズ. して様々な試みがなされているが,いまだ明確な理念を. の把捉や指導者の育成,さらにはプログラムの開発が不. と地域振興策一. 過疎地域(僻地・田舎)における地域振興策の目的と. 十分であって,ブームが先行し実態が伴っていないケー. しては,従来からの過疎化や老齢化からの脱却が指摘さ れてきたが,本稿では新たな展開事例を各地における地. スも散見される。つまり,個々の自治体が競って行なう べきはハード面ではなく,むしろ人的交流や環境教育な. M−120 −−.
(14) No.51. 過疎地域(へき地)における地域資源の発掘と新たな地域振興策の展開. どソフト面でのプログラムの開発や有為な人材の育成が. 1997.3. 地区調査報告書」64p。. 肝要である。こうした点で,農家民宿の草の根レベルか. 日本自然保護協会(1995):「NACSMJエコツーリ. らのネットワーク化や,自然保護ワークキャンプの実施,. ズム ガイドライン¶」93p。. 八森町や藤里町におけるエコツアーの実施や環境指導員. 武田 泉(1991):富良野大雪地域におけるリゾー. の養成等は,今後の展開を考える上でも興味深い事例と 指摘されよう。. 武田 泉(1996):過疎地域(僻地)における地域課題と. の動向と地域的対応。札幌大学教養部紀要39,68∼89。. さらには,白神山地におけるこうした山麓部の急激な. して地域振興第一一幌加内町における鉄道廃止問題と大. 社会変化の中で,肝心の自神内部におけるウィルダネス. 学との交流を手掛かりに−。僻地教育研究50,193∼198。. である「】コアエリア」の入山問題については先述したが,. 武田 泉(1996):リゾー. ト開発論議と合意形成一北海道. これは単に自然環境の保全のみに帰するだけではなく,. 内山間地域の場合−−。脇田他「観光開発と地域振興…−. 地域における基層文化にも踏み込んで考えられるべきだ. エコツーリズム 解説と事例柵」(古今書院)所収,. とする主張も提起されている(鬼頭,1996)。すなわち、. 19∼26p。. 自然保護と住民生活のどちらの擁護を中心に考えるかと. 武田 泉(1996):どう変わったか,自神山地が世界通. いう論点である(池谷,1989)。この点については、稿. 産に登録されて(1)(2)。しゃりばり(北海道開発問題研. を改めて検討していきたい。. 究会),169・170。 小松光一・小笠原寛(1995):「山間地山村の産直革命一. 山形相と大地を守る会の出会い」農文協,219p。. 謝辞. 本稿の執筆に当たり,各方面から数々の御協力を頂い た。まず,道内のグリーンツー. ト開発. 脇田武光他(1996):「観光開発と地域振興−エコツーリ. ズム 解説と事例【」古今書院,165p。. リズム・エコシーリズム. 関係では,民宿「風の谷」の小林直子氏をはじめ,北海. 井上孝夫(1996):⊆【自神山地と青秋林道】地域開発と環. 道農政部農村計画課の清野氏,㈲日本ナショナルトラス. 境保全の社会学≠−」東信望,223p。. トの志田氏,音別町役場の紅林氏,らをはじめとする各. 野添憲治(1995):「水と森が地球を守る一白神山地に学. 位に大変お世話になった。また,白神関係では,秋田県. ぶ¶」同友館,p。. 八森町役場の堀内・小林両氏,八森町教育委員会の工藤 氏等の皆様に格別の御協力を頂いた。ここに記して,御 礼申し上げる。さらに,秋田桂城短大の後藤忠講師から. 野添憲治・北川智彦(1995):「世界遺産自神山地からの. 発信」同友館,258p。 牧田 肇(1995):「白神山地世界通産地域及周辺の保全. も資料の提供を得ていることも付け加えておく。. と管理運営に関する私案」21p。. 日本勤労者山岳連盟(1995):「自神集会(資料集)」37p。 村田健一(1995):自然環境の保護管理と地域振興【白神. 参考文献. 山地周辺地域の現状と課題−。弘前大学人文学部社会. 玉井康之(1996):北海道のへき地教育の現状と学校・教. 師の課題。北海道大学教育学部紀要71,169∼179。. 学科卒業論文。. 岩淵 孝(1995):「現代世界の資源問題入門」大月書店,. 後藤忠志・村田隆一(1995):白神山地周辺地域における. 202 p,.. 地域振興策の新たな展開一世界遺産登録を契機とする. 自然保護との調和を念頭に−。秋田経済法科大学地域. 十勝毎日新聞(1995):「北の大地に移り住む 十勝編」. 総合研究所研究所報1,15∼30。. TBSブリタニカ,151p。 はた万次郎(1995):「アブラコの朝一北海道田舎暮らし. 鬼頭秀一(1996):「自然保護を問いなおす一環境倫理. 日記」集英社,266p。. とネットワーク_」筑摩書房,254p。. 村野まさよし(1992):「過疎地人(カソチスト)たちの. 山を考えるジャーナリストの全編(1996):「ルポ・東. 優雅な生活」ダイヤモンド社,200p。. 北の山と森一自然破壊の現場から」緑風出版,318p。 根深 誠編(1992):「森を考える一白神ブナ原生森か. 私設北海道開拓使の会(1996):「北海道に移り住む−. 平成の屯田兵からの手紙】1。北海道新聞社,207p。. らの報告」立風書房, p。. 依光良三他(1996):「 ̄グリーンツーリズムの可能性」日. 掛谷 誠編(1990):「自神山地ブナ帯域における基層. 文化の生態史的研究」弘前大学人文学部, p。. 本経済評論社,212p。. 池谷和信(1989):東北地方の山村を対象にした研究の. 北海道農政部(1996):「 ̄北海道のファームインの姿_」81p。. 北海道農政部(1996):「ファームイン・マニュアル」125p。. 動向と東北山村史。山村研究年報(五箇山山村研究セ. 北海道農政部(1996):「【農村ホリデーフォーラムーファー. ンター)10,12∼33。. ムイン開業のために【JlO8p。. 北海学園(1989):「北海道の再発見者 倉本聴研究」. 日本ナショナルトラスト(1995):「 ̄キナシベツ自然観光. 北海道から6。. 【−121−−【.
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